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POCKET MONSTER RUBY



第78話 『闘う漢』




『4月11日 時刻6:30 サイユウシティ・とある山』


ヒビキ 「む…朝か」

チュンチュン…チチチッ!

俺は、小鳥のさえずりに頭を揺らされ、起床する。
とはいえ、今俺がいるのは山だ。
特訓のため、しばらくは山にこもっている。
昨日は、いちいち食事会に呼び出されたが、俺は終わってからすぐに山に戻った。
幸い、ここでは木の実が多くあり、自給自足は不可能ではない。
最近は雨も降らないし、比較的過ごしやすい環境だな。

ヒビキ 「気温も次第に高くなるな…そろそろこの服では暑いか」

俺は黒の長袖シャツを脱いで、半袖のTシャツ姿になる。
まだ早朝と言うこともあり、少々肌寒いが、すぐに温まるだろう。



………。



ヒビキ 「ふっ! ふっ!!」

ブォンッ! ブォゥンッ!!

俺は150cm程ある木の枝を振り下ろす。
枝の先端には、石の重りを着けてあり、重量で言うなら20kgはある。
俺はそれを素振りで、剣道の面を打つ様に振り下ろし続けた。
最近の日課だ、ホウエンに来てからはおろそかにしていたからな。
ポケモンを鍛えるのも重要だが、己の肉体を鍛えるのも重要だ。
特に、次の俺の相手は、実力No.1と予想される、ザラキさんだ。
正直、今の俺では勝てないかもしれない…あれから、いくつもの特訓を繰り返したが、俺にはまだ勝てると言う自信が備わらなかった。

ブォンッ! ブンッ!!

ヒビキ (迷いがあるな…それを断ち切れぬ限り、俺に勝利はない!)

ビュォゥンッ!!

俺は100回目の素振りを終え、休憩を挟んだ。
この時点で時刻は7時前、やや腹が減ってくる。

ヒビキ 「む…そう言えば、ハルカが弁当をくれたのだったな」

昨日の騒ぎの合間、ハルカはどうせ余るから、と言って包みを俺に渡してくれた。
中身は聞いていないが、あのハルカのことだ、マトモな食事だろう。
俺は包みを解いて、まず中身を確認した。

ヒビキ 「………」

俺は絶句する。
いや、別に問題はないのだが…

パク…

ヒビキ 「…うむ、見事なあんまんだ」

そう、入っていたのは『あんまん』だった。
大きさはやや小ぶりで、一口サイズ。
しかしながら、驚くのはその量。
包みのサイズから、てっきり弁当箱の様な物を想像したのだが、甘かった。
包みを解くと、プラスチックのタッパーに山盛りあんまんがぎっしりと詰まっている…
量にすると1kg位か? とても朝食で終わる量ではないな。

ヒビキ 「…しかし、糖分は疲れにいい。ハルカはわかって作ったのだろうな」

もっとも、恐らくだが… あんは粒あんで、カロリーは高い気がするのだが、甘さは控えられている。
朝食と言うよりかは、間食用だろうな…
酸味系の木の実を一緒に食べれば合うかもしれん。

エアームド 「エアーー!!」

ヒビキ 「む…? 戻ったか」

エアームド 「エアッ!」

ドササッ!

俺はここの所、毎朝エアームドに木の実を探させている。
この山の木の実は大抵食べられるものばかりなので、ありがたい。
しかし…今日のはまた、随分大きな木の実を拾ってきたな。
俺は、紫で野菜を髣髴とさせる木の実を手に取った。

ヒビキ 「…この木の実は、酸味系か?」

少なくとも、匂いではそんな感じがする。
大きさは30cmほどあり、かなりでかい。
表面はつるつるとして、見た目は美味そうだ。
俺は、とりあえずかぶりついてみることにした。

ガブッ!

ヒビキ 「!? っ…こ、これは!!」

一口噛んだ瞬間、意識が飛びそうな酸っぱさが口に来る。
いわゆるあれだ…これはそのまま食える代物ではないと言う奴だ。
確かにあんの甘さはすっ飛ぶ…しかし。

ヒビキ 「く…レモン以上だな」

まさか、これほど効くとは思わなかった。
しかし、一気に眠気は覚める。
予想外の出来事に、俺は少々戸惑っていた。

エアームド 「エア〜?」

エアームドが心配そうに鳴く。
俺は無言で大丈夫だとジェスチャーする。

ヒビキ 「く…せめてポロックにすればよかったか」
ヒビキ 「…しても俺には食えるかわからんが」

それ位、酸っぱい。
元々、俺はあまり木の実の知識はない。
ポロックもただ作れる程度で、ミロカロスの進化の時位しか本気で作ろうと思ったことはない。
やれやれ…君子危うきに近寄らずとはよく言ったものだ。

ヒビキ 「…ふぅ、水がないのが痛いな」

オレンのみはあるが、オレンジの様にはいかんだろう。
俺は、少しだけ山を登り、水源に向かうことにした。



………。



サァァァァァァッ!

ヒビキ 「んぐっんぐっ!」

俺は湧き水を汲み、200mL程飲み干す。
まだ酸っぱさは残るが、いくらかマシになった。
この辺りは野生のポケモンも多くいるため、トレーニングだけでなく、精神修行にもいい。
自然と直接触れ合いながらの瞑想は、心を研ぎ澄ます。

ヒビキ 「…ん? あれは」

俺は、人の気配を感じ取り、近くの木に身を潜める。
別に隠れる必要はないが、念のために気配は消しておいた。
俺は木の陰から、現れる人影を確認する。

少年 「あれ、おっかしぃな〜…確か、ここにいたはずなんだけどなぁ」

現れたのは少年だった。
黒いジャージ(?)に白い帽子。
背中には茶色のリュックを背負い、何やら探している様だった。

少年 「…う〜ん、見間違いだったのか?」
少年 「確かに、このまえミロカロスを見たんだがなぁ」
少年 「この辺りで、野生のミロカロスが出るわけないんだけど、もし出るとわかれば大発見だからな、せめてもう一度見れるといいんだが」
少年 「この山は、基本的に関係者以外、立ち入り禁止だし、トレーナーのポケモンって可能性は低いはずだ」

ヒビキ (………)

俺は聞いてて絶句する。
間違いなく、俺のミロカロスのことだ。
そうか、立ち入り禁止だったのか。
休日になってから、ずっとこの山にいたが、誰も来ないのはそのためか。
しかし…となると、あの少年は関係者ということか。

ヒビキ (出るべきか、やり過ごすべきか…)

俺は迷う。
正直に出て行った方が、あの少年のためとも言える。
しかし、それではここで修行を続けられなくなってしまう…それはそれで問題だ。

ヒビキ (むぅ…やはりやり過ごした方がいいだろう)
ヒビキ (俺がミロカロスを出さなければ、諦めて帰るだろうしな)

少年 「…しゃあねぇ、出て来い『ラグラージ』!」

ボンッ!

ラグラージ 「ラグッ!」

ヒビキ (ほぅ…よく育てられているな)

俺は少年のラグラージを見て、感心する。
一般的なラグラージと違い、体が引き締まっているように感じる。
動きが軽快そうだ…バトル向きではなさそうだが。

ヒビキ (あの少年…ウォッチャーか? しかし、その割にはカメラと言った類は持っていないようだが)

少年 「ラグラージ、水を探ってくれ! ミロカロスがいるなら、他にも水源があるのかもしれない」

ヒビキ (いい所に気が着く…だが、見つかることはないだろうな)

ラグラージ 「……」

ラグラージは頭と尻尾を震わせながら、何かを感知する。

ラグラージ 「…! ラグッ!」

少年 「見つけたか!?」

ヒビキ (む…こっちに来るか)

俺は近づいてくる少年とラグラージに見つからない様、死角を移動しながらやり過ごした。
少年は俺がいる場所から山を降るように駆け抜けていった。

ヒビキ 「…行ったか」
ヒビキ 「ラグラージが何か見つけたようだが…一応、気にした方がいいかもしれんな」

俺は、少年に見つからないよう、後をつけることにした。
特に問題ないとは思うのだが、万が一のこともあるからな。



………。



ラグラージ 「ラググッ!」

少年 「おっ、何か落ちてるぞ…これは、『ベリブのみ』じゃないか! しかもかじった後がある、人の歯形だ」

ヒビキ 「………」

しまったと、俺は思うが遅い。
そう言えば、あの木の実だけはほったらかしだった…。
ちぃ…俺としたことが、痕跡を残すとは。

少年 「…状況から察するに、腹が減ってかじったはいいが、酸っぱ過ぎて捨てちまったってとこだな」
少年 「馬鹿な奴もいたもんだ…ベリブの実は酸っぱくて有名なのに」
少年 「そもそも、大きさだけで判断するから、後で後悔するんだ…『マトマのみ』に比べれば、マシだろうけどね」

見事に当てられる。
しかし、見つけたのは俺じゃなくて、エアームドだがな…

少年 「あ〜あ、もったいない…この木の実は貴重で、ポロックにしたらコンディションも大きく上がるのに」
少年 「よっと…かじられた部分はナイフで切り落として…残りは回収だ!」
少年 「しっかし…この辺りに人がいるのか? これでミロカロスがトレーナーの物だってことが、予想できるようになったな」

鋭いな…この時点でそう言う発想をするとは、勘がいい。
加えて洞察力もある、観察力もかなりの物だ。
どうやら、俺が思っている以上に、あの少年はやり手のようだな。

ヒビキ (下手をしたら、面倒ごとになるかもしれんな…)

少年 「うっし! 路線変更だ! ラグラージ、戻れ!」

シュボンッ!

少年は何かを考え、ラグラージをボールに戻す。
そして、今度は別のボールを手にした。

ボンッ!

ジュカイン 「ジュッカー!」

ヒビキ (ジュカインも使うのか…しかも、今度のはかなりのモノだ)

見るだけでも、相当なレベルを感じる。
少なくとも、ポケモンリーグクラスの実力だろう…参加者に、あんな少年はいなかったはずだが。

少年 「ジュカイン、気配を探ってくれ! この辺りに人がいるはずだ」

ジュカイン 「ジュッカ!」

ヒビキ (!? まずい…!)

ジュカインは密林ポケモン。
森や林の中では、あれほど怖いポケモンはいない。
ましてや、訓練されていようものなら、人の気配を見分ける事くらいは簡単。
そろそろ…限界か。

ジュカイン 「!? ジュッカ!」

少年 「見つけたな…やっぱり近くにいたか」

ヒビキ 「…よく近くにいることがわかったな」

俺は、観念して姿を見せる。
すると、少年は呆れた顔で。

少年 「匂いだよ…ベリブの匂いがぷんぷんする」
少年 「それも、何故か見当違いの方向からね」
少年 「あんた、『ベリブのみ』をかじっただろ? 匂いが染み付いてるんだよ…」

ヒビキ 「………」

なるほど、言われてみれば納得する。
自分から発せられる匂いには鈍感になると、聞いたことがあるが、まさにそう言うことか。

少年 「…マヌケにも程があるね、ここはポケモンリーグが定めた鳥獣保護区だぜ?」
少年 「一般の立ち入りは禁止されている、これがどういうことかわかってるのかい?」

ヒビキ 「それは知らなかった…あいにく、この地方の人間じゃないんでな」

俺は軽くそう言って、済ませる。
実際知らなかったからな、どうこう言われるつもりもない。

少年 「あっそ…じゃあさっさと出て行った方がいいぜ?」

ヒビキ 「そんな決定権がお前にあるのか?」

少年 「あのな…俺はちゃんと許可もらってここに来てんの! 何なら許可証見せてやろうか?」

少年は、やや言葉を荒げてそう言う。
どうやら、怒りを買ったらしい。

ヒビキ 「…悪いが、放っておいてもらえないか? 俺はもうしばらくここにいたい」

少年 「ふざけんなよ! ここは保護区だって言ってんだろ!? 野生ポケモンが安心して住める様に保護されてるんだ!」
少年 「それを、何も知らないような部外者が勝手に踏み荒らしてもらったら、迷惑なんだよ!!」

ヒビキ 「だったらどうする? 力づくで来るか、少年?」

俺はあえて、挑発した。
ここでの修行は、残念ながらこれで終わりだ。
だが、収穫なしでは帰らん。
俺は、最後の期待を込め、あえて少年をバトルに仕向ける様、挑発した。

少年 「…ちなみに、あんたのことは知ってる」
少年 「決勝進出のヒビキ選手だ、黒いから目立つ」

ヒビキ 「それは、どうも…」

少年 「挑発してるのは見え見えだね…何を期待しているのかは知らないけどな、このことをRMUに言ったらどうなるかな?」
少年 「少なくとも、出場停止じゃ済まなくなるぜ? ブラックリストに乗る可能性もある」
少年 「わかってるか? あんたのやってるのは『犯罪』だ」

少年は冷静にそう言う。
確かに、その通りだな。
だが、益々期待は高まる。
この少年は、力がある。
今の俺に足りない物を補うには必要だ。

ヒビキ 「ふっ、悪いが告げ口などさせん…出ろ『ミロカロス』!」

ボンッ!

ミロカロス 「ミロ〜!」

少年 「ちっ…実力行使かよ、しゃあねぇな」
少年 「ジュカイン、踏ん張れよ! 久し振りだからって手を抜くな!」

ジュカイン 「ジュッカ!!」

少年はやる気になったのか、ジュカインを前に出す。
面白い…相性は悪いが、それに打ち勝ってこそ意味がある。
俺は最初から全力で倒しに行く。

ヒビキ 「ミロカロス、『れいとうビーム』だ!!」

ミロカロス 「ミロ〜…!!」

コォォキィィンッ!!

少年 「『みきり』!」

ジュカイン 「ジュッカ!」

ヒュンッ!

ジュカインはギリギリの所で回避し、技をかわす。
さすがに、いきなりはもらってくれんか。
だが、今の動きでジュカインのスピードは図れた。
次からは外さん!

少年 (ちっ、今の一撃で、虫タイプや草タイプが悲鳴をあげた! まずいな…こいつは短期決戦だ!)
少年 「ジュカイン! 『リーフストーム』だ!!」

ヒビキ (『リーフストーム』だと!? 聞いた事はある! 確か草タイプの技では必殺とも言える威力を持った技だ!)

ジュカイン 「ジュッカ〜!!」

ジュカインは身の回りに大量の葉っぱを集め、竜巻の様に自分の周りへと張り巡らす。
そして、それを両腕に集中させ、一気にミロカロスヘ向かって放ってきた。

ドギュオオオオォォォゥゥッ!!

ヒビキ 「ミロカロス耐えろ! そして『ミラーコート』だ!!」

少年 (やべぇ! 耐え切る気かよ!?)
少年 (返されたら、間違いなく倒される! どうする!?)

ミロカロス 「ミロ〜〜〜!!」

ドギュアアアァァァァァァァァァッ!!

ミロカロスは『リーフストーム』に苦しむ。
だが、耐えられないほどではない。
あれならば、反撃のチャンスはある! 対してジュカインは大技の反動で動きが止まる!

ミロカロス 「ミ〜ローーーーーー!!」

ミロカロスから、透明の膜が浮き上がり、受けた特殊攻撃を倍返しする態勢に入る。
ダメージから見ても、ミロカロスはダウン寸前、確実だな!

少年 「ちっ! 間にあわねぇか! しゃあねぇ!!」

ギュッ!!

ジュカイン 「ジュッカ!?」

ヒビキ (何だ!?)

少年は、突然バッグから何かを取り出し、ジュカインに巻きつけた。
白い…襷?

ドギュウウウウウウウウゥゥゥンッ!!!

『ミラーコート』が発動し、ジュカインへ向かって一直線に光が襲う。
そして、ジュカインは光に包まれ、ミロカロスが受けた倍のダメージを受ける。
終わりだな…何をしたかは知らんが、耐えられるはずが…

バァァァンッ!!

ヒビキ 「!?」

突然、破裂音に似た音がなり、ジュカインの体に巻かれた『襷』が千切れる。
そして、同時に。

少年 「『リーフブレード』!!」

ジュカイン 「ジュッカッ!!」

ヒュンッ! ザシュゥッ!!

ミロカロス 「ミ、ミロ〜〜〜…」

ドッズゥゥゥンッ!!

少年の指示と共に、ジュカインは目にも留まらぬ速度でミロカロスを斬りつけた。
ジュカインの体は淡い緑色に輝き、『しんりょく』の特性が発動していることを告げていた。

ヒビキ 「な、何故だ…!?」

少年 「…さてね、一発ネタだよ。結果を見ればどうなったかはわかるだろ?」
少年 「あ〜あ…もったいねぇ、貴重な道具だったのに」
少年 「わりぃけど、これは正式なバトルじゃない、私闘だ」
少年 「だから、こっちは何でも有りのつもりでやらせてもらった」
少年 「負けは負けだね…さっさと帰りな」
少年 「これ以上は、本気で見逃さねぇぜ?」

少年はそう言って、凄む。
俺は、ミロカロスをボールに戻し、少年に背を向けた。

ヒビキ 「ふふ…いい経験をさせてもらった、貴重な体験だ」
ヒビキ 「少年、名は?」

少年 「あんたに名乗る名はないね…さっさと行ってくれ、それで今回の件は終わりだ」
少年 「あんた…こんな所で潰れるのは不本意だろ?」

少年は、まるで全てを見越したかのような言い方でそう言った。
ふ…どうやら、全部バレていたのか。

ヒビキ 「お前のことは忘れん」

少年 「忘れてくれ、俺は思い出したくない」
少年 「せいぜい、ポケモンリーグで頑張ってくれ、まっ…多分優勝は無理だろうけど」

少年ははっきりとそう言う。
何かしら確信があってのことなのか、あの少年が言うと本当にそう思えてしまう。

ヒビキ 「あいにく、負けるつもりでフィールドに上がる気はない」
ヒビキ 「俺は、絶対に勝つ…」

それは、俺自身への決意と覚悟だ。
否が応でも、俺の相手は強豪揃い。
まずはザラキさん、そして…次はミカゲかマリアか。
最後は…誰になるのだろうな。



………。



少年 「…行ったか、ごくろうさんジュカイン」

シュボンッ!

俺はジュカインをボールに戻し、辺りを見る。
短期決戦の甲斐があってか、どうにか被害は最小限で抑えられたな。
俺は最後の後始末をすることにした。

少年 「出て来い『バクーダ』」

ボンッ!

バクーダ 「バク〜」

少年 「よし、しばらくこの辺りを暖めてくれ」

バクーダ 「バク〜」

俺は凍っている木々の辺りにバクーダを配置する。
俺のバクーダは『マグマのよろい』と言う特性を持っている。
バクーダから絶えず発せられている熱で、周りの温度を上昇させる効果があるんだ。
この効果は、ポケモンの卵にも深く関係しているらしく、何でも孵化を早める効果があるらしい。

男 「お〜! 何か騒がしかったようだけど、大丈夫だったかい?」

俺が、少し休んでいると、長袖の白いシャツに、茶色の短パンと、いかにも怪しい髭面のオッサンが近づいてきた。
もしかしなくても、俺の血縁者だ。

少年 「父さん、来るのが遅ぇ」

父 「あっはっはー! ごめんごめん! ついね!」
父 「いやぁ…久し振りに来たけど、やっぱりここはいいよ!」
父 「希少な野生ポケモンが、自由気ままに過ごしている…ユウキもそう思うだろ?」

父さんは、本当に嬉しそうな顔で、空を見上げてそう言った。
俺は、少し俯きながら微笑し。

ユウキ 「ああ…そうだね」

そう呟いた。
すると、その時ポケモンの鳴き声が聞こえた気がした。

ギャオオオオオオオオォォォッス!!

ユウキ 「!? い、今のって…!!」

オダマキ 「この辺りのポケモンの鳴き声じゃないな!?」
オダマキ 「ギャラドスの様にも思えなかった…」
オダマキ 「まさか…!」

ユウキ 「レックウザ…『てんくうポケモン』」

俺は、一瞬空に見えた影を思い出してそう言った。
ほんの一瞬だった。
鳴き声に驚いて空を見た…その一瞬。

オダマキ 「まさか…レックウザがこの辺りまで降りてくるとは」

ユウキ 「ああ、俺もそう思う…ただの見間違いさ」

俺はそう思うことにした。
実際にはどうだかわからない。
だけど、追求するつもりはなかった。
伝説のポケモンならなおさら…伝説は伝説のままの方がいいはずだしな。

ユウキ 「よし、もういいだろう…戻れバクーダ」

シュボンッ!

オダマキ 「何だ、この辺り気温がちょっと下がってたみたいだけど、何かあったのかい?」

父さんは、さすがに研究者らしく、すぐに気温の変化に気づいたようだ。
だけど、俺ははぐらかすことにした。

ユウキ 「いや、気のせいだろ…この辺りはちょっと寒かった位だから、ちょっと暖まってたんだ。

オダマキ 「…うん? そうか」

父さんは、特に追求はせず、すぐにフィールドワークに戻った。
俺も、父さんと一緒に歩き回り、ポケモンたちと触れ合うことにした。





………………………。





『同日 時刻9:00 サイユウシティ・ポケモンセンター』


店員 「はい、あなたのポケモンは皆元気になりましたよ♪」
ヒビキ 「………」

俺は、ポケモンの回復を終え、これからのことを考える。
次の相手と戦う上で、やらなければならないことがひとつある。

ヒビキ (それは、戦うことだ)

今まで、ひとりで特訓を続けてきたが、ひとりではバトルの経験を積むことはできない。
ましてや、次の相手はあのザラキさん…百戦錬磨のトレーナー相手に、今の俺では経験で勝負にはならない。

ヒビキ (あの少年…恐らく俺よりも経験が高かったのだろうな)

俺は山で戦った少年を思い出す。
あの少年が見せた、状況の観察力、対応力、そして判断力。
生半可なトレーナーが身に着けられる能力ではない。
確実に、長い時間をかけてポケモンと接してきた者が身に着けられる能力だ。

ヒビキ (俺はトレーナーになって3年か…長いようで短いな)

俺は、トレーナーとしては遅い年齢でデビューした。
16歳と言う年齢で、フスベシティからデビューし、そこで俺はひたすらジムで特訓に励んだ。
先輩のイブキさんや、師のワタルさん…俺にドラゴンタイプの使い方を教えてくれた、偉大なトレーナーだ。
フスベシティでの1年目、俺はワタルさんに鍛えられた。
ポケモンの基礎から、育成、そして戦闘指南。
ワタルさんは、カントーの四天王と言うこともあり、長くフスベには滞在しないため、わずか1ヶ月の間だったが俺はワタルさんを師として指南を受けた。
ワタルさんがカントーに戻ってからは、フスベのジムリーダー・イブキさんに鍛えられた。
ワタルさん譲りの力強いバトルは、俺を圧倒し、そして壁となった。
いつか、この人をも俺は超えたいと願った。

ヒビキ (だが、あの時の俺はジムリーダーと言う立場がわかっていなかった)

トレーナーになって2年目…俺はジョウトリーグに挑戦する意志を固めた。
そして、7つのジムバッジを先に集め、最後に俺はイブキさんに挑戦した。
結果は…俺の圧勝。
あまりにもあっけないと言えるほどの差で、俺はイブキさんに勝利した。
それもそのはず…イブキさんは、俺よりもはるかにレベルの低いポケモンでバトルをしたのだから。

ヒビキ (だが、イブキさんは笑って俺を送り出してくれた)
ヒビキ (あの時、俺は知らなかった…イブキさんが、何故弱いポケモンで戦ったのか)
ヒビキ (ジムリーダーの立場として、イブキさんは『本気』で俺と戦った…それがわかったのは、ポケモンリーグで俺が敗北してからだったな)

全てのバッジを集め、負けるはずがないと思って参加したジョウトリーグ。
だが、その壁は俺の想像を絶する物だった。
キヨミ、キヨハがいなくなってからと言うもの、レベルが低いと言われ続けていたジョウトリーグ。
そんなレベルの中でさえ、俺は1回戦敗退という醜態をさらしたのだ。
この時、俺は自分に力が足りないと思った。
負けたのは、俺が弱いからだと…

ヒビキ (…フスベシティに戻って、俺はワタルさんに再会した)

カントーリーグが終わり、故郷であるフスベに帰郷していたワタルさん。
俺はワタルさんに会い、バトルを挑んだ。
相手は、カントー四天王で、最強のドラゴン使いと言われているワタルさん。
勝ち目がないのはわかっている…だが、俺は知りたかった。
上に立つ物の、本当の力を。

ヒビキ (結果は、散々たるものだった…)

俺は、ワタルさんが繰り出したハクリュー1体を倒すことさえできなかった。
リーグまでに活躍した、エアームド、リザードン、カイリューの3体は、成す術もなかった…
4体目以降は、繰り出すことさえできなかった…勝ち目がない、その状況に俺の心が折れたからだ。
…バトルの後、ワタルさんは俺に言った。



ワタル 「強くなりたければ、戦え」
ワタル 「負けたくなければ、強くなれ」
ワタル 「だが、忘れるな…独りよがりのバトルなど何の意味も持たない」
ワタル 「お前が本当にポケモンを理解した時、お前は本当の強さを手に入れるだろう…」



ヒビキ (思えば、今になっても俺は理解していないのかもしれない)

ポケモンを理解する。
言葉にするのは簡単だが、この深さは尋常ではない。
俺は、この答えをまだ見つけられずにいた…。
だから、俺は未だに戦い続ける。
『本当の強さ』を手に入れるため。
そのために…俺は、今回『羅刹』となることに決めた。

ヒビキ 「…鬼を喰らう『羅刹』に」

俺は気を入れなおす。
そして、次の目的を見据えて俺はサイユウシティを歩き回った。



………。
……。
…。



『時刻10:00 サイユウシティ・自由公園』


ハルカ 「…うっし、今日はどうしよっかなぁ〜」

ミク 「ハルカちゃん…先日はどうも」

私が、公園でウォーミングアップをしていると、ミクさんが話しかけてくる。
先日と言えば、あの大宴会…あれはきつかった。
予想外に皆食べるものだから、私は結局休めなかったし…。

ハルカ 「あはは…まぁ、皆喜んでくれたし」

正直な気持ちだ。
作り手にとって、それほど嬉しいことはない。
やっぱり、喜ばれるのは嬉しいものだ。

ミク 「そうね…ザラキさんも喜んでいたわ」

ハルカ 「そうですか…」

あの厳格そうなザラキさんが、喜ぶと言うのがどうにも想像できなかったんだけど…。
しかしながら、予想に反して普通に喜んでたみたい…人は見かけによらないわね。

ミク 「ところで、今日も特訓かしら? よければ、また手伝わせてもらうけれど」

ハルカ 「そうですね、それじゃ…」

ヒビキ 「割り込むようで悪いが…俺の相手をしてもらえるか?」

ハルカ 「!?」

私とミクさんの話に突然割り込むヒビキさん。
私は突然のことに驚きを隠せなかった。
ヒビキさんの表情は真剣そのもので、冗談が入り込む隙はない。
まさに『本気』モード…マジと読んで本気よ。

ミク 「…あなた、確か」

ヒビキ 「第3試合でザラキさんと戦うことになったヒビキだ…」

ハルカ 「……」

ヒビキさんは、明らかに殺気づいていた。
ミクさんを一直線に見据え、気を発している。
かつて、これほど闘気を見せたヒビキさんは見たことがなかった。

ミク 「…なるほど、ザラキさんを相手に恐怖したと言うところかしら?」

ヒビキ 「! わかっているなら話は早い…俺と、バトルをしてもらおうか!」

チャッ

ヒビキさんはモンスターボールを手に取り、構える。
ミクさんは、少し考えているようだ。

ミク 「…これも、ザラキさんの宿命か」

チャッ

ミクさんも意識を戦闘モードに切り替える。
気の発し方が尋常じゃないのが私にはわかった。
コンテストの時といい、ミクさんが尋常じゃないトレーナーなのは予想できていた。
あのザラキさんと一緒に行動しているのだから、並々ならぬ実力とは思っていたけど…。

ハルカ (…これは参考になりそうね。ヒビキさんには悪いけれど、観察させてもらいましょうか)

私は後ろにさがり、ふたりのバトルを見守る。
互いの気がぶつかり合って、妙な空気を感じる。
まるで、殺し合いでも始めそうな空気だった。
だが、ふたりの顔はまさに死合い…全力で相手を倒すことのみに集中している、戦う者の顔だった。

ユウキ 「面白そうなことしてるな…」

ハルカ 「!? ユウキ…あんたいつの間に」

気が着くと、隣にユウキが立っていた。
ただならぬ気配を感じてここに来た…ってところかしら。

ユウキ 「何…暇になったもんでね、ぶらりとしていたら…ここに来たってわけさ」

ユウキはそう言って、前を見る。
ヒビキさんとミクさん。
ふたりはすでに臨戦態勢…いつでもバトルは展開できると言った表情だ。

ミク 「…ルールは?」

ヒビキ 「バトルは3回に分けて行う! まず、シングル2体戦!」
ヒビキ 「その後はダブル2体戦! 最後にシングル1体戦だ!」
ヒビキ 「使用ポケモンは5体! 3回のバトルの内、2勝した方が勝ちだ」

ミク 「…随分、面倒なルールを持ち込むわね」

確かに、ヒビキさんの提示したルールは面倒その物。
シングルとダブルを交互にやるだけならまだしも、シングルバトルを2度に分けてやるなんて…。

ユウキ 「…本戦を意識したってことだな、本戦ではこう言ったルールも有り得るからな」

ハルカ 「そ、そうなの? 面倒ね…」

ユウキ 「ありとあらゆる状況に対応できなきゃ、ポケモンリーグの本戦は勝ち残れない」
ユウキ 「ルールは毎試合ランダムだ…下手すりゃポケモンが一体戦うごとにルールが変わる可能性もある」
ユウキ 「リーグの本戦は千変万化だ…甘く見てたら、いきなりコケるぞ?」

ハルカ 「…まるで、自分が経験したかのよう言い方ね」

ユウキ 「さて、ね…俺は未経験だが」

そう言ったユウキは微笑んで見せた。
タヌキね…何考えてるのかまるで読めない。
でも、ユウキの知識が並じゃないのは知ってる。
今は、ユウキのことは置いておこう。
ふたりのバトルは…すぐにでも始まる。



………。



ミク 「まずはシングルバトルか…出なさい『デンリュウ』!」

ボンッ!

デンリュウ 「デン〜♪」

ヒビキ 「ならば、こっちはこいつだ! 『フライゴン』!!」

ボンッ!

フライゴン 「フラッ!」

ミクさんはデンリュウ、ヒビキさんはフライゴン…相性で言うなら、断然ヒビキさん有利ね。

ハルカ 「まずはセオリー通りか…2体戦だから、交換で有利になるとは限らない」

ユウキ 「…俺なら交換するね、手持ちに有利なポケモンがいるなら」

ユウキは私の言葉に反して、そう言う。
根拠があってのことだろうけど、私には理解できなかった。

ハルカ 「…でも、相手にいきなり隙を見せるのは」

ユウキ 「最初が肝心だからな…いきなりやられたら話にならない」
ユウキ 「この場合、フライゴンの方が圧倒的に素早い…先に攻撃されたら致命傷だね」
ユウキ 「逆に相手の地面技を予測して、飛行タイプとかに交換すれば…それほど隙は無いね」

ハルカ 「…でも、デンリュウにフライゴンを倒す方法が無いとは言い切れない」
ハルカ 「あるなら、私は迷わず使う」

私はミクさんのデンリュウが何かしらの対策を持っていると踏み、そう言った。
ユウキは特に反応はしなかった、これから起こることを見ればわかる…そんな表情だ。
私も固唾を呑んで見守る…そして、先に動いたのは。


ヒビキ (相手の交代は無いと踏む! まずは先手だ!)
ヒビキ 「フライゴン『じしん』だ!!」

フライゴン 「フラッ!!」

ヒビキさんのフライゴンは先に動き、両足で地面を強く叩く。
それと同時に、フィールドを大きく巻き込んだ『じしん』が発生して、デンリュウにダメージを与える。

ドッギャアアアアアアアアアアァァァンッ!!

デンリュウ 「〜〜!!」

ミク 「…『カウンター』!」

ヒビキ 「!?」

デンリュウ 「リューー!!」

ギュアアアァァッ!!

フライゴン 「!?」

ドッギャァンッ!!

デンリュウは『じしん』に耐え切り、即座にミクさんの指示で『カウンター』を行う。
フライゴンは自らの攻撃を倍返しにされ、かわす間もなく吹き飛ばされてしまった。

ユウキ 「…フライゴン戦闘不能、確認するまでもないだろうね」

ハルカ 「…いきなり、か」

当のヒビキさんはおろか、観客のユウキまで苦い顔をしている。
予想外…と言ってしまえばそれまでだけど、私からすれば何となく予感があった。
ただ、『カウンター』が飛んでくるとはわからなかったけど。

ユウキ (ハルカの言ったことを、サラリと実行しやがった…一番相手にしたくないタイプだね)

ハルカ (ザラキさんのポケモンも、こんな戦法をする可能性は高いでしょうね…)

シュボンッ!

ヒビキ 「………」

フライゴンをボールに戻し、しばらく考えるヒビキさん。
対して、確実に大ダメージでフラフラのデンリュウとそれを冷静に見ているミクさん。
ふたりの戦いはまだ始まったばかり…ヒビキさんは、次のポケモンを手に取る。

ヒビキ 「…行くぞ『アブソル』!」

ボンッ!

アブソル 「…ソルッ」

ヒビキさんの後続はアブソル。
ミクさんはそのままデンリュウで続行、果たして今度はどうなるのか…?

ヒビキ (…俺は、考えが甘かったな)
ヒビキ (正攻法のみで、戦う…それに間違いはないのだが、押し切れなければ即敗北に繋がる)
ヒビキ (迷う必要はない…持てる最大の攻撃を持って押し切るしかない!)

ミク 「…デンリュウ『きあいだま』!」

ヒビキ 「! アブソル『つるぎのまい』だ!!」

デンリュウ 「リュ〜!!」

ドギュアァッ!!

アブソル 「ソルルッ!!」

バッ! チュドォォンッ!! バババッ!!

アブソルは、デンリュウの大技を軽くかわし、『つるぎのまい』によって攻撃力を増加させる。
これで、場は一気にヒビキさんが有利となった。
だが、一歩遅れているのは変わらない。

ユウキ (さて…攻撃力を増加させたのはいいが、デンリュウを押し切れるかどうか)
ユウキ (アブソルは駆け引きが重要な技をいくつも持っている、普通に考えればここはいなす戦法を選ぶが)

ハルカ (余計な駆け引きは必要ない…ミクさんはザラキさんと同様、真っ向勝負しかしない)

ミク 「デンリュウ『10まん…」
ヒビキ 「『ふいうち』!」

アブソル 「ソルゥッ!!」

ドッガッ!!

鈍い音と共に、デンリュウの首が後ろにしなる。
アブソルは、先制攻撃でいきなりデンリュウをダウンさせた。

シュボンッ!

ミク 「……」

ミクさんは表情ひとつ変えず、デンリュウをボールに戻す。
まるで動じていない、ミクさんはただ相手を見据えて鋭い視線を送っていた。

ユウキ (小細工無しか…読みきられた結果だが、ちょっと馬鹿正直すぎるかな)

ハルカ (やっぱり…こうなるか、私でもこの結果は予想できたけど)

ミク 「『フローゼル』!」

ボンッ!

フローゼル 「フッ!」

出てきたのは、アブソルよりやや小さいポケモン。
2本の足で立っており、鋭い目つきでアブソルを睨んでいた。

ユウキ 「…フローゼルか、ホウエン地方にはいないポケモンだな」
ユウキ 「スピードが速い水ポケモンだ…さぁどうなるかな?」

ハルカ 「……」

ミク 「フローゼル! 『アクアジェット』」
ヒビキ 「アブソル『ふいうち』!!」

アブソル 「ソ…」
フローゼル 「フッ!!」

ドギュンッ! バッシャァッ!!

アブソル 「ソルーー!!」

アブソルはまたしても『ふいうち』で先制攻撃を狙った。
だけど、それを遥かに上回るスピードでフローゼルはアブソルに水をまとって飛び掛った。
まさに一瞬の出来事、間合いが詰まり、互いのポケモンはすぐに次の行動に入る。

ヒビキ (ちぃ! スピードで上回られては、『ふいうち』は通用せんか!!)
ヒビキ 「『つじぎり』だ!」

ミク 「『かわらわり』!」

アブソル 「ソルッ!」

ヒュンッ!

フローゼル 「! フッ!!」

ドッガァァァンッ!!

アブソルは前足で『つじぎり』を放つも、フローゼルは容易くかわし、背後から『かわらわり』を放つ。
上から腕を叩きつけられ、アブソルは地面に叩き伏せられた。

ユウキ (速い…接近戦では、フローゼルの方が断然上手だ)

ハルカ (確かに速い…だけど攻撃力はそれほどじゃない)

見た感じ、スピードは確かにかなりの物を感じる。
だけど、攻撃力はそこまで高そうには感じない、当てることさえ出来れば…。

ヒビキ 「『つばめがえし』だ!」

ミク 「『スピードスター』!」

アブソル 「!!」

フローゼル 「フロッ!」

ヒュンッ! ヒュヒュヒュッ!!

接近戦で、アブソルはフローゼルの視界から消える。
それに何ら動じることなく、フローゼルは素早くバックステップして『スピードスター』を放つ。
互いに回避不能の技、どっちが勝つ!?

アブソル 「ソルッ!!」

ザシュゥゥッ!!

フローゼル 「フローー!!」

ドババババババッ!!

アブソル 「ソ、ソルーーー!!」

まずはアブソルの『つばめがえし』がフローゼルにヒット。
その後、『スピードスター』が不規則な軌道を描いてアブソルを捉えた。
相討ち…だけど、どちらもまだ倒れない。

ミク 「『アクアジェット』!!」

フローゼル 「!!」

ズバッシャァァンッ!!

アブソル 「〜〜!!」

ヒビキ 「!!」

ミクさんはヒビキさんよりも速く指示を出す。
それに、全力で応えるフローゼルの攻撃に、アブソルは反応できなかった。

ユウキ 「終わったな…アブソルは立てない」

ハルカ 「……」

ミク 「…シングルバトルは、私の勝ちね」

シュボンッ!

ヒビキ 「…次は、2対2のダブルバトルだ」

ふたりは自分のポケモンを戻し、次のポケモンが入っているボールふたつを同時に構える。
そして、ほぼ同時に2体のポケモンを繰り出す。

ボボンッ! ボボンッ!!

リザードン 「リザッ!」
エアームド 「エアッ!」

ダイノーズ 「ノーズ!!」
ユキメノコ 「ユッキ!」

ハルカ 「…ヒビキさんは、リザードンとエアームド、ミクさんのは…?」

ユウキ 「あれは、ダイノーズとユキメノコ…ダイノーズはノズパスの進化系だよ」

ハルカ 「ノズパスの…へぇ〜」

見た感じ、ダイノーズというポケモンは…モアイにヒゲが生えた感じ。
ノズパスよりもかなり大きく、足がなくなって浮遊している感じだ。
感覚的には、ジバコイルに似ている。

ユウキ 「シンオウ地方の『テンガンざん』という場所でのみ、ノズパスが進化すると言われている」
ユウキ 「まぁ、例外もあるだろうけど、ね」
ユウキ 「もう片方は、ユキメノコ…ユキワラシの進化系で、♀に『めざめいし』と言う道具を使うことで進化する」
ユウキ 「ゴーストタイプだから、氷タイプの弱点である格闘が効かないのがミソだな」

ハルカ 「ユキメノコ…ゴーストタイプか」

まるで、ちっちゃな雪女。
氷タイプと言われるだけあり、なんだかそれっぽい顔をしている。
しかし、ゴーストタイプとは…。

ユウキ 「相性では、5分5分だろうな…持ってる技で決まるだろうけど、面白くなりそうだ」

ハルカ 「……」

私は、ふたりの行動を見守る。
どちらに転んでも、私にとってはいい経験になる。
今は、ふたりのポケモンの一挙手一投足を見逃さないよう、私は集中した。

ユウキ (さて…面白くなってきた所で、今日はここまでだな)
ユウキ (次回をお楽しみ…ってか)



…To be continued




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