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POCKET MONSTER RUBY



第82話 『タッグバトル本戦・一回戦 前編』




『4月13日 時刻10:00 ポケモンセンター・待合室』


ハルカ 「……」

ノリカ 「…こ、これは」

サヤ 「………」

私たち3人は、今日の対戦の組み合わせを見ていた。
生き残った8ペアがトーナメントでぶつかる今大会。
ある程度の苦難は予想できたけど…想像以上の苦難が考えられた。


第一試合:ユウキ・キヨハ VS キッヴァ・オトメ
第二試合:ミツル・ゴウスケ VS ヤエコ・ミヅチ
第三試合:ハルカ・ミカゲ VS ジェット・リベル
第四試合:サヤ・ノリカ VS エマ・カレン


ハルカ (まさか、こんな面子が出てくるとはね…)

まず、予想してなかった出場ペア…キッヴァちゃんとオトメさん。
ふたりとも、実力は確実にあるペアだ、キヨハさんとユウキがどう戦うのか参考になるだろう。
ヤエコのペアもちゃんと勝ち残っている…だけど、『ミヅチ』と言う選手は聞いたことが無かった。
ヤエコも知らないトレーナーのようで、何とも言えない存在ね。

ハルカ (そして、当面の問題は…)

私たちの最初の相手、ジェットさんとリベルちゃんのペア。
互いに、こだわったポケモンでの参戦だけに、苦戦は免れないだろう。
本来なら、一種のポケモンのみで戦うことになれているはずだけど、ふたりは慣れ親しんだかのように完璧なコンビネーションを見せる。
正直、あのふたりは、タッグバトルでこそ真価を発揮するトレーナーなのかもしれない。
しょっぱなから…きつい相手に当たったわね。

ハルカ (まぁ、誰が相手でも強敵には違いない…か)

サヤ 「………」

ノリカ 「…う〜ん」

ハルカ (そして、正体不明のトレーナーふたりか…)

サヤちゃんとノリカが相手をするのは、あまり聞いたことの無い名前のトレーナー。
リーグにでていたのかどうかもわからない。
しかしながら、予選を勝ち抜いてくる以上、そんなに酷いペアではないだろう。
大番狂わせも…十分考えられる。

ハルカ (エマに、カレン…か)

ジェット 「…おっ、このエマって娘。確か、リーグに出てた娘だよな」

リベル 「えっと、そうでしたっけ?」

サヤ 「…出場者ですか」

ノリカ 「へ〜っ、だったらちょっと強そうだね。これは本気でやらないと!」

サヤちゃんは、何を考えているのか相変わらず良くわからない。
ノリカの方はやる気満々で、いつでも来い!みたいな感じだわ。

ジェット 「…でも、予選敗退だしな、そこまでマークの必要は無いかもな」

リベル 「そうですね…むしろ、カレンって言うトレーナーが怖いかもしれません」

私もリベルちゃんに同感だ。
少なくとも、予選敗退のレベルだけで、本戦出場は難しいでしょうね。
もちろん、運もあるだろうけど…この大会は思った以上に苦しい。
ただでさえ、タッグバトルなんて私は初めてだし、特別慣れている…というわけでもなければ、絶対に苦戦はするだろう。
とはいえ、それは相手も同じことだし、そうなると今度はペアの相性が出てくる。
互いに、信頼しあえて背中を許せるパートナーなら、それこそ脅威となるだろう。

ハルカ (カレンってトレーナーが実力者と踏むべきか、それともふたり合わせてパワーアップとか…?)

頭で考えても、いい案は相変わらず出そうに無い。
どっちにしろ、サヤちゃんとノリカがそう簡単に負けるとは思えない。
私は、当面の相手のことを考えないと、ね。

サヤ 「……」

カツカツカツ…

ノリカ 「あっ、サヤ待ってよ!」

アムカ 「……?」

サヤちゃんは、無言で去っていく。
ノリカはそれを慌てて追いかけ、アムカはぼ〜っとしていた。
特に追いかける様子は無いようだ。

ジェット 「さって! 先に腹ごしらえでもするかな!! 何せ次の相手はある意味最強タッグだからな」

リベル 「確かに! 負けるつもりはありませんけど!」

ハルカ 「あ、あはは…お手柔らかに〜」

ジェット 「バトル、楽しみにしてるぜ!」

リベル 「ミカゲさんにもよろしく言っておいてください!」

ハルカ 「うん…多分、聞きやしないと思うけど」

ふたりは、そう言って外に出て行く。
私はふたりの笑顔に向かって軽く苦笑して手を振った。
太いわねぇ…緊張している様子は微塵も無い。
私は、違うってことか…

ハルカ (とはいえ、バトルが始まれば開き直るだけだしねぇ〜)

今大会、見るべき所は実の所多い。
ユウキやキヨハさんのバトルは特に注目だ…先のことも見据えないといけない。

ハルカ (…まぁ、見てもあんまり参考にはならないかもね)

私はそう結論付ける。
あのキヨハさんが、わざわざ手の内を明かしてくれるとは到底思えない。
だけど、相手のレベルが高ければ…?
そんな淡い期待を抱きながら、私は一言呟く。

ハルカ 「…ふぅ、苦しい戦いになりそうね」

ミカゲ 「…あらぁ? 随分と弱気なのね」

ハルカ 「…お生憎様、誰かさんと違って図太くないもんで」

私は苦笑しながら後ろを振り向く。
そこには微笑したミカゲがいた。
この娘はむしろいつも通りか…。

ハルカ 「…組み合わせは見た?」

ミカゲ 「必要ないわ…どうせ勝つもの」

ハルカ 「…本当に、そのビッグマウスが羨ましいわ」

ミカゲは本当にいつも通り。
負けることなんて考えてない、か…

ハルカ 「…ちなみに、何しに来たの? どうせ外にいたならそのまま会場に向かったらいいんじゃ?」

まぁ、試合開始は11時だから…まだ時間が早いけど。

ミカゲ 「…ポケモンの受け取りに来ただけよ」

ハルカ 「…あ、っそ」

あまりにも普通の理由。
まぁ、ポケモンセンターなんだから、ねぇ…

ハルカ 「まぁ、いいわ…折角だし先に食事でもどう?」

ミカゲ 「…私を誘っているの?」

ミカゲは何を言っているのか、一瞬わからなかった。
この娘…よっぽど友達いないんでしょうね。
私は思わず哀れみの目で見そうになるが、可哀想なのでスルーすることにした。

ハルカ 「…今あんた以外に知り合いはいないわよ。で、来るの?」

ミカゲ 「……」

ミカゲは、不思議そうな顔で私を見る。
余程誘われることに慣れていないのだろうか?
だけど、別に嫌そうな表情ではないようだった。

ハルカ 「…わかった! なら来なさい!!」

ガシッ!

ミカゲ 「ちょっ!」

私は勝手に解釈してミカゲの右手を掴んで歩き出す。
目指すは、ポケモンセンターの地下食堂だ。



………。
……。
…。



『時刻10:15 ポケモンセンター・地下食堂』


ミカゲ 「………」

ハルカ 「ほいっ、今回はオゴッてあげる!」

トンッ

私はトレイに乗せた『焼きソバ』をミカゲの前に置く。
ミカゲはキョトンとしていたが、やがてソースの匂いに反応したのか、手を動かす。

ズルル…!

ミカゲ 「………」

ハルカ 「…いただきます位、言ったら?」

ミカゲ 「うるさいわね…別にいいじゃない」

ズルルルルッ!

ミカゲはそんなことを言いながらも、二口目からは一気に口に入れ始める。
よしよし…味は気に入ったみたいね♪
ちなみに、この『焼きソバ』は私が作った。
厨房を借りて軽く作ったのだ。
材料は、厨房で交渉して買った。
私が作って食べるということで、今回の代金は何と一皿100円。
ここの厨房のチーフは意外に気さくで、快く厨房を使わせてくれた。

ハルカ 「ん〜♪ 我ながら美味」

私も焼きそばを食べながら、自画自賛する。
サイユウのソースと麺は本当に美味しい。
ただの焼きソバだけど、まるで別の味に感じるほどだ。

ハルカ 「う〜ん、今度はパスタでも作ろうかな」

ミカゲ 「…あなた、何でも自分で作るの?」

ミカゲは、いつの間にやら一皿山盛りを食べ終えかけていた。
2玉使ったはずだけど、この娘も相当な量食べるわね…

ハルカ 「…ん、まぁ大概はね。洋・中・和・独・伊・仏・印…etcetc」
ハルカ 「有名所なら大抵いけると思うわよ」

ミカゲ 「…そう」

ズルルルルッ!!

ミカゲは特に気にした風も無いのか、残りを一気に食べ尽くす。
これだけ食べてもらえれば作り甲斐はある。





………………………。





『時刻10:57 第0スタジアム・選手控え室』


ハルカ (…いよいよ、ね)

ミカゲ 「………」

私とミカゲは、控え室で待っていた。
もうすぐ、戦いが始まる。
今回は、全試合が同じ会場で行われるため、全て観戦はできる。
まずは…見せてもらいましょうかね!



………。
……。
…。



『時刻11:10 第0スタジアム・バトルフィールド』


ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!


コトウ 「さぁ、とうとう『ポケモンタッグトーナメント・サイユウ大会』の本戦が始まろうとしています!」
コトウ 「予選を勝ち抜き、選び抜かれた16人からなる8ペア!」
コトウ 「果たして、どのペアが優勝へとたどり着くのか! 間もなく第一試合が開幕です!!」



………。



ユウキ 「……」
キヨハ 「………」

キッヴァ 「……」
オトメ 「………」



ノリカ 「…な、何かいきなり空気が」

ハルカ 「戦闘態勢はできてる、ってことよ…どうなるかは、私にはわかりかねるわね」

サヤ 「…ところで」

ミカゲ 「………」

サヤちゃんが、ミカゲを一瞥する。
そして、恐らくほぼ全員が思っているであろう疑問をミカゲに投げかけた。

サヤ 「何故、ミカゲさんがここに?」

ハルカ 「私が連れてきた、見ることも重要だし」

ミカゲ 「…私は必要ないと言ったのよ」

ゴウスケ 「まぁ、まぁ…パートナー同士、少しでも一緒にいた方がええで」
ゴウスケ 「必要なくても、意識合わせるだけでええんやから」

ゴウスケさんが、鬱陶しそうな顔のミカゲをなだめる。
う〜ん、さすがにベテランの方は言いことを言うわ。

ミツル 「…始まるようですね」

アムカ 「………」

ヤエコ 「……」

ジェット 「さて…」

リベル (一体、どんなバトルになるんだろう?)



審判 「それでは、戦うポケモンを!」

ユウキ 「行くぜ、『サメハダー』!」
キヨハ 「『バクーダ』」

キッヴァ 「行くぞ『メタグロス』!」

オトメ 「…出なはれ『ラプラス』」

ボンッ!×4

サメハダー 「サメハッ!」
バクーダ 「バック!」

メタグロス 「グロッ!」
ラプラス 「ラプ〜」



ハルカ (あれ…あのサメハダーってもしかして)

私は、ユウキの繰り出したサメハダーにどことなく覚えを感じた。
そして、それはすぐに記憶から引っ張り出される。

ハルカ (ああ…交換した奴)


コトウ 「さぁ、これで互いのポケモンが出揃いました〜」
コトウ 「今大会は、全てのバトルが草地のフィールドとなっており、水棲ポケモンはやや動きづらいと言えるでしょう」
コトウ 「しかし、それを踏まえた上で、規格外の大きさをした巨大サメハダーを出したユウキ選手、対してやや小振りなラプラスを繰り出した『オトメ』選手」
コトウ 「一体どのような作戦があるのか!? 間もなく試合開始です!」



ハルカ (あの、オトメって選手…ラプラスも使うんだ、何かランマさんと使うポケモンが一緒ね)
ハルカ (って言うか…あの仕草とか、すっごい似てるんだけど?)

私は心の中で、とてつもない疑問に襲われる。
しかしながら確証は無く、私はとりあえず忘れることにした。

ゴウスケ 「………」

ノリカ 「ん? ゴウスケさん、どうかしたんですか?」

ゴウスケ 「ん…いや、別に」

ノリカ 「?」

ノリカは、ゴウスケさんの表情に何かを思ったのか、問いかける。
しかし、ゴウスケさんは何も無い様で、簡素に答えた。
ノリカも、別に興味は薄かったのか、すぐにフィールドを見る。

サヤ (草地のフィールドでわざわざサメハダーを出しますか)
サヤ (ラプラスと違って、泳がなければまともな移動はできない…作戦でしょうが)

アムカ 「……」

ジェット (仮にもここまで勝ち上がってきたトレーナーだ、互いにどんなポケモンを出しても有効な戦術を持っているだろうな)

リベル (だけど、タイプ相性で言えばほぼ互角…どちらか1体を先に倒した方が、ダブルバトルでは一気に優位に立てる)

ミカゲ 「……」



審判 「それでは! 試合、開始!!」

オトメ 「先手は譲りますえ…」

キヨハ 「!!」

ユウキ 「……」

キッヴァ 「…オトメさん!?」


コトウ 「お〜っとぉ! いきなりオトメ選手が挑発か!?」
コトウ 「予想外だったのか、キヨハ、ユウキペアは動くタイミングをズラされたようだ!」


ユウキ (…誘われてるな、確実に)
ユウキ (油断させてガブリ!と、行くつもりだったが、さすがに虫が良すぎたらしい)
ユウキ (だけど、動かなきゃバトルにならないからな!)
ユウキ 「サメハダー! 『ハイドロポンプ』!!」

サメハダー 「サメハーーー!!」

ギュゥゥゥ…!

サメハダーは口に水を大量に集め、『ハイドロポンプ』の態勢に入る。
威力はあるが、命中は少し悪い…外れてもいいからまずはこれで動きを作る!

オトメ 「ラプラス『あまごい』」

ラプラス 「ラプ〜!」

ユウキ (嘘だろ!? 『ハイドロポンプ』を仕掛けてるんだぞ!?)

キヨハ 「!! ユウキ君、サメハダーを右に向けて!」

ポツポツポツ…ザアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!

ユウキ 「!! サメハダー、右に…」

キッヴァ 「『バレットパンチ』!」

メタグロス 「グロッ!!」

ドッギュンッ!! ドガッ!!

サメハダー 「サメハ〜ッ!!」

俺の指示に合わせてメタグロスが『バレットパンチ』でサメハダーに突っ込んで来る。
『ハイドロポンプ』の溜めが放たれる瞬間だっただけに、サメハダーはあらぬ方向に撃ち出してしまった。

ギュバアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!


コトウ 「おっとー! サメハダー、メタグロスの攻撃で態勢を崩し! 『ハイドロポンプ』は上空に消えた!!」
コトウ 「フィールドは大雨に転じ、土砂降りとなっております!!」

キヨハ (やられたわね…これでメタグロスへの攻撃がしにくくなった)

オトメ (展開は読めとるよ…誰が先に攻撃するかいな)

ユウキ (ここまでが、ひとつのシナリオか…! ブランクってのは恐ろしいねぇ…!)

キッヴァ (まずは先手! メタグロスは炎と地面が弱点だ…! これで炎の弱点は半減した)

開幕から、読み合いの攻防。
だが、あの『ハイドロポンプ』が、ああも簡単に計算されるとはな…
キヨハさんは、右にと言った…つまりあのままじゃ外れることをわかってたってことだ。
サメハダーの僅かな挙動で、軌道を読まれた…相手も半端じゃねぇな。

ユウキ (だが、まだこっちの行動は終わってない!)

キヨハ 「バクーダ『だいちのちから』!」

バクーダ 「バク〜!!」

キッヴァ 「間に合え…! 『でんじふゆう』!!」

メタグロス 「グロッ!!」

キュゥゥゥ……ドッギャァァァァァァンッ!!

メタグロス 「メターー!!」

バクーダは力を地面に集め、メタグロスを攻撃する。
メタグロスは素早い反応で『でんじふゆう』をするが、完全に浮ききる前にダメージを受けた。
効果は抜群だが、浅い…あれじゃ致命傷にはならない。
そして…これ以降、地面タイプの技は効かない。


コトウ 「バクーダの『だいちのちから』! メタグロスを上空に吹き飛ばすも、メタグロス『でんじふゆう』ですぐ態勢を戻します!」
コトウ 「思ったほどのダメージを与えられなかったのか、メタグロスはまだまだ元気です!!」



ハルカ 「…あんな技もあるんだ」

ゴウスケ 「…メタグロスの弱点は炎と地面のみ」
ゴウスケ 「大雨で炎を半減させ、『でんじふゆう』で地面を無効化…予想以上に苦戦しそうやなキヨハは」

ジェット 「相性の良さを覆された…これでタイプ相性の均衡が崩れる」

リベル 「雨でバクーダも辛そう…これで水技を食らったら」

サヤ 「間違いなく倒れますね…バクーダは」

アムカ 「……」

ミツル 「でしたら、次に両者が取る行動は…」

ヤエコ 「倒すか守るか…どちらかに集中するべきでしょうね」

ミカゲ 「くだらないわね…雨を利用しない手はないわ」
ミカゲ 「私なら、攻撃と防御を同時に行う」

ハルカ 「って…簡単に言うけど、そんな都合のいい作戦は…」



ランマ 「ほな、いきまっせ…『なみのり』!」

キッヴァ 「『まもる』だ!」

ラプラス 「ラプーーーー!!」

ドズズズズアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!

ラプラスは大量の大波を作り出し、フィールドを波で埋め尽くす。
メタグロスは『まもる』で防御し、ダメージは受けない。
当然、バクーダを庇うなんてこともできない。
バクーダはすぐに動けるスピードはない、だったら…!

ユウキ 「サメハダー『れいとうビーム』! 右上に撃て!!」

サメハダー 「サメハーーーー!!」

コオオオオオオオオオオオォォォキィィィンッ!!! ザッパアアアァァァァァァァンッ!!!

バクーダ 「!!」

サメハダー 「サメハーーー!!」

大波がサメハダーを流す。
サメハダーは勢い良く後ろの壁に叩きつけられた。
だが、『れいとうビーム』でバクーダの周りの水は凍り、バクーダはダメージを回避した。

オトメ (ええ判断や…! あれで回避は無理とすぐに判断したな)
オトメ (あの坊ちゃん…思うたより頭が切れるようや。楽には勝てそうにあらへんな)

キッヴァ (『まもる』の連続使用はできない…ここは攻撃で!)
キッヴァ 「メタグロス『バクーダ』に『しねんのずつき』!」

キヨハ 「『まもる』!」

バクーダ 「バクッ!!」

ゴオッ!! ピッキィィィンッ!!

メタグロス 「メタッ!?」

バクーダ 「バク〜」

メタグロスはすぐに攻撃に転じるが、すでに行動態勢に入っていたバクーダは容易くいなす。
サメハダーもすぐに動ける、後はあのラプラスを…!

オトメ (あの位置はマズイ! キッヴァはん、迂闊やで!)
オトメ 「ラプラス…『うた」

ユウキ 「ラプラスに『ちょうはつ』だ!!」

サメハダー 「サメハーーーーーーーー!!!」

ドシンドシンッ!!

ラプラス 「ラ、ラップ〜!!」

バンバンッ!!

サメハダーは壁際から大声叫び、その場で跳ね回ってラプラスを『ちょうはつ』する。
ラプラスはそれを受けて怒り出し、地面をペチペチとヒレで叩いた。

オトメ (やられた! 読まれるとはな!!)

ユウキ (当たるかどうかは賭けだったが、今度は俺の読み勝ちだ!!)

あのタイミングと位置なら、1:ラプラスは味方を犠牲にして攻撃、2:相打ちでサメハダーを狙う、3:補助技を使う、の3択だ。
オトメさんの性格をこの時点で判断して、1はまず無いと予想。
だったら2か3の2択に絞られる…五分五分の賭けだったが、当たってよかったぜ。

キヨハ 「ありがとうユウキ君、このカバーには答えるわ…」
キヨハ 「バクーダ『オーバーヒート』!!」

バクーダ 「バク〜…!! ダーーーーーーーーーーー!!!」

ドゴォォォォンッ!! ドッバアアアアアアアアァァァァァァァァァンッ!!!

至近距離での『オーバーヒート』がメタグロスに炸裂する。
雨で体が冷えていながらも、バクーダは熱量を一気に上げ、目の前のメタグロスに向けて、口から放熱した。

メタグロス 「メ、メターーー!!」

ドッギャァッ! ゴガンッ! ゴガンッ!!

メタグロスは至近距離でまともに受け、宙を舞って地面へと落下する。
メタグロスの重量がモロに地面へと伝わり、若干地面が揺れたように感じた。
起き上がることは…ない。

審判 「…メタグロス戦闘不能!!」


コトウ 「決まったー!! バクーダの『オーバーヒート』!! 雨で威力は半減なれども、メタグロスを一撃で持っていったー!!」
コトウ 「近距離からの放射型『オーバーヒート』! メタグロスはたまらずダウンです!!」

キッヴァ 「く…まさか一撃でとは」

シュボンッ!

キッヴァさんは、苦虫を潰したような表情でメタグロスを戻す。
これで、状況は一気に有利、ラプラスには補助技を使う余裕はない…詰みだ。

オトメ 「……あかんわ、降参や」

審判 「え? あ、し、試合終了!! 勝者ユウキ・キヨハ、ペア!!」

キッヴァ 「オトメさん!? どうして…」

オトメ 「…計算されとります、余計な傷は互いに受けることありまへん」

キッヴァ 「計算?」

カツカツカツ…

オトメ 「…相変わらず、やな」

キヨハ 「…そうね、あなたも」

オトメさんがキヨハさんに歩み寄り、ふたりは一言だけ放って微笑んだ。
あの一言にどれだけの意味が込められていたのか…

ユウキ 「って言うか、知り合いだったんですか?」

キヨハ 「ええ…そうね、互いの手を知り尽くしている間柄…って所かしら」

なるほど、それは浅からぬ関係だ。
あそこで降参したのは、ただ諦めたから…ってわけじゃない、か。



ハルカ 「…何で降参したんだろ、あのタイミングならバクーダは倒せたかもしれないのに」

ノリカ 「そうですよね、1体1ならサメハダーよりもラプラスの方が有利かもしれないのに…」

ミカゲ 「…多分無理ね、あの時点で勝敗はほぼ決まっているわ」

サヤ 「……」

アムカ 「…?」

ミカゲの言葉に、全員が黙って注目する。
ミカゲはこう言う状況での説明が苦手なのか、鬱陶しそうな表情で喋ったのを後悔しているようだった。

ゴウスケ 「…問題1:ラプラスが『なみのり』、アンサーは?」

ゴウスケさんが、全員に対してそんな問題を出す。
私は、必死にシュミレーションするが、答えはひとつしか出なかった。

ハルカ 「…『まもる』?」

ミカゲ 「外れよ…ここまで何を見てたのよ? 『れいとうビーム』でバクーダを守ればいいのよ…」
ミカゲ 「『なみのり』では、サメハダーはまだ倒れない、タッグバトルでなら、体力はどれだけ低くても数が多い方が有利」
ミカゲ 「ダメージは覚悟でも、生き残らせるのがセオリーね」

ゴウスケ 「ミカゲちゃんが正解や、その後は集中攻撃でもなんでもラプラスは一気に押し切られるやろ」
ゴウスケ 「『ちょうはつ』の効果も残っとるからな…小細工はでけへん」

ハルカ 「それなら『なみのり』を連発すれば…?」

サヤ 「二回目を撃つ前にバクーダは攻撃できますよ…そうなったら同じことの繰り返しです」
サヤ 「もっとも、さすがに3回目ともなればサメハダーも苦しいでしょうから、その場合は自分を守った方がいいですが」

今度はサヤちゃんがダメ出しする。
うう…どうせ私は高度な戦術なんてわからないわよ!

ゴウスケ 「サヤちゃんが正解。ラプラスの耐久力でも攻撃を受けたら少しは怯む」
ゴウスケ 「ダブルバトルで集中攻撃はセオリーや、『ちょうはつ』で『まもる』も使えへんし、そうなったらボコやろな」

アムカ 「う…それは可哀想」

アムカは想像してしまったのか、ボコられる光景に嫌気がさしたようだ。

ハルカ (どちらにしても…堂々の勝利、か)

私はふたりの去っていく背中を見て思う。
あれに勝たなければならないのかと思うと、気が遠くなる。

ハルカ (せめて…もうちょっと上手く噛み合ったらなぁ〜)

ミカゲ 「……」

私はミカゲの横顔を覗きながらそう思う。
この娘のおかげで、実力差はほぼ帳消し。
だけど、どう考えても私たちの方が不利。
理由は言わずもがな…コンビネーション。

ハルカ (ユウキとキヨハさんは、恐ろしいほど息が合ってる)
ハルカ (昨日今日で完成したタッグとはとても思えない)

ここでユウキの台詞がフィードバックする。

『単にポケモンやトレーナーの強さだけで、タッグバトルは勝てるもんじゃない』

ハルカ (まさしくその通りだ…ただ強いだけなら、あのバトルには勝てなかっただろう)
ハルカ (私は…勝てるんだろうか? あれに…)



………。
……。
…。



コトウ 「さて! それでは第二試合のバトルが始まります!」
コトウ 「次なる組み合わせも注目度は高い!!」
コトウ 「まず、あのシンオウ地方で、今年グランドフェスティバルでトップコーディネイターとなったゴウスケ選手!!」


キャアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!

ゴウスケ 「……」

ミツル 「……」

ゴウスケさんがフィールドに現れると、女性の声援が飛び交う。
トップコーディネイターって…やっぱり有名なのかな?
でも、実力は実際にある人だ…バトルでも十分レベルが高い。


コトウ 「ゴウスケ選手は、今年シンオウリーグにも挑戦しており、惜しくも準優勝と言う折り紙つきのトレーナー!!」
コトウ 「その凄腕トレーナーとタッグを組む少年は、今年のホウエンリーグにて惜しくも敗退となった実力者、ミツル選手!!」

ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!

ミツル 「…!」

僕に対しても、多くの声援が集まる。
そんな大したことは、してないと思うんだけどなぁ…

ゴウスケ 「…自分も人気はあるやん♪ 自信持ってええで」

ミツル 「あ…はい」

ゴウスケさんは、僕の肩をぽんと叩いて激励する。
ゴウスケさん、顔は笑ってるけど、僕の肩に置かれた手から熱を感じた。
今回のバトル、相手は強い…何と言っても、ハルカさんを苦しめたヤエコさんだ。
一度はハルカさんに勝っているほどの実力者…そして。

ヤエコ 「………」

ミヅチ 「……」

ミツル (あの、ミヅチと言う女性…)

ヤエコさんの隣に立っているトレーナーは大人の女性だった。
身長は165cm位かな? 髪は灰色がかった薄い黒髪だ。
左目が前髪で隠れており、右半分の表情しかこちらからは見えない。
目は釣り目で、微笑している。
髪型は後頭部の上辺りで、団子状にまとめている。
服装は、チャイナドレスだ…しかも黒の。
何だか、妖美的な雰囲気をかもし出している…豊満な胸の下で腕を組む姿は、まさに『妖しい』

ゴウスケ 「…坊ちゃん、飲まれんようにな」

ミツル 「…! は、はい!」

ゴウスケさんは、僕の心境を察したのか、また激励してくれる。
何故だかはわからない。
だけど、あのミヅチと言う女性を見ると、冷や汗が出てくる。
緊張感が体の中を駆け巡る。
あの女性は、危険だと全身が警告する。

ミツル (は、初めてだ…こんな攻撃的なプレッシャー!)

ゴウスケ (あかんな…こら敵わん)
ゴウスケ (バトル用のポケモンならいざ知らず…あれ相手に今のコンテスト用ポケモンでは、ち〜っときついわ)

審判 「それでは、ポケモンを!!」

ヤエコ 「行くわよ! 『オニゴーリ』!」

ボンッ!

オニゴーリ 「オニゴー!!」



ハルカ 「おっ…あのポケモンは?」

ユウキ 「…オニゴーリ、氷タイプのポケモンだな」

いつの間にやらこっちに戻ってきていたユウキがそう説明する。
キヨハさんや、キッヴァさんも、こちらに来たようだ。

ハルカ 「なるほど…氷タイプか。ヤエコはあんなポケモンも使うんだ」

ユウキ 「オニゴーリは、とてもバランスのいい能力を持ったポケモンだ」
ユウキ 「それゆえに、ある意味育てる人間によってまるで違う戦い方のできるポケモンとも言える」
ユウキ 「見た目でどんな育てられ方をしているかは、わかりにくいポケモンだな」



………。



ミヅチ 「…『ヌケニン』」

ボンッ!

ヌケニン 「………」



ハルカ 「わっ、何かおかしなのが出てきた…」

ユウキ 「…『ヌケニン』かよ、嫌なポケモンだな」

ハルカ 「へ? 何で?」

ミカゲ 「…要するにあなたの様なトレーナーには倒せないポケモンってことよ」

ミカゲは、軽くそう言い放つ。
嫌な言い方だけど、この娘が適当なこと言うとは思えない。
つまり…あのポケモンには何か秘密がある?
それも、私には絶対わからないような…?



………。



ミツル (どっちも、見たこと無いポケモンだ…どんな戦い方をするんだろう?)
ミツル 「よしっ、頼むよ『エネコロロ』!」

ボンッ!

エネコロロ 「エネッ!」

ゴウスケ (ノーマルかいな…まぁ、悪い選択やあらへんか)
ゴウスケ 「行くでっ『トゲキッス』!」

ボンッ!

トゲキッス 「キッス〜♪」



アムカ 「可愛いのが2体も〜♪」

ノリカ 「むぅ…さすがはゴウスケ殿〜見た目からして可愛い…」

サヤ 「しっかりコンディションも高められてる、調子も良さそうね」

さすがに、コーディネイターにはコーディネイターの見方があるようだ。
私には全然わからないけど、凄いんだろう。

ユウキ (さて…ミツル君はともかく、ゴウスケさんは完璧にヌケニン対策として出したな)
ユウキ (トゲキッスなら、ヌケニン相手でも十分戦える)
ユウキ (とはいえ…タッグバトルと言う舞台でヌケニンを出したほどだ。一体…どんな作戦を用意している?)

ハルカ 「……」

私の隣で、ユウキが難しい顔をしていた。
あのミヅチと言う女性を真っ直ぐ見ている。
私でもわかる…あのトレーナーは強い。
体中から、殺気にも似た気を発散している。
冷たく突き刺さる様な気だ…。

ハルカ (この感覚…あの時と似ている?)



………。



コトウ 「さぁ、両者ポケモンは準備完了! いよいよバトルスタートです!!」



審判 「バトル・スタートォ!!」

ミツル 「よしっ! まずは先手だ! エネコロロ、オニゴーリに『だいもんじ』!!」

エネコロロ 「エネ〜!!」

ゴォォッ!!

まずは僕のエネコロロが先手を取る。
オニゴーリと戦うのは初めてだけど、確か氷タイプだ。
当たれば一気に大ダメージを与えられる!

ゴウスケ (炎技が使えるか…せやけど嫌な予感するわ〜)

エネコロロ 「コローー!!」

ゴバアァァッ!!

ヤエコ 「『みずのはどう』!!」

オニゴーリ 「オニゴー!!」

ギュッバァッ!! バッシャーーーーーァァァンッ!!

ミツル (水タイプの技!?)

エネコロロの『だいもんじ』はオニゴーリの『みずのはどう』でたやすく消されてしまう。
威力ならこっちの方が高いと思ったけど、タイプ相性で五分にされてしまったのか…。


コトウ 「いきなり、大技を狙ったミツル選手! しかしヤエコ選手それを止めてみせる!!」
コトウ 「受ければ大ダメージの状況、それを冷静に相殺するヤエコ選手! 素晴らしい気迫だーー!!」


ヤエコ (気迫ねぇ…柄じゃないのだけれど、影響受けたのかしら…不愉快ね)

ミヅチ 「『うらみ』」

ヌケニン 「ヌケ〜…」

ボォォォ…

エネコロロ 「エ、エネッ!?」

ボゥゥゥ…

ミツル 「エネコロロ!?」

ゴウスケ (やっぱりそう来るんか! やばいでこれは!!)


コトウ 「ここで『うらみ』がエネコロロを襲う! 『だいもんじ』のPPが減らされてしまったー!」
コトウ 「今回のバトルで、効果の高い炎タイプの技を失うとなると、一気に窮地へと追い込まれてしまうのか!?」


ヤエコ (このミヅチと言うトレーナー…凄腕なのは間違いない)
ヤエコ (だけど、こうやって隣で戦っている私にまで、恐怖に似た感情を覚える)
ヤエコ (一体…何者なの?)

ゴウスケ 「トゲキッス! ヌケニンに『エアスラッシュ』や!」

トゲキッス 「キーッス!」

ビュォォッ!!

ヤエコ 「『こおりのつぶて』!」

オニゴーリ 「ゴッ!」

ヒュヒュヒュッ!! ドガガガッ!!

トゲキッス 「キーッ!!」

ミヅチ 「かわしなさい…」

バビュゥゥッ!!!

ヌケニン 「………」


コトウ 「一撃を狙ったトゲキッス! オニゴーリの絶妙なカットにバランスを崩され、惜しくも不発ーー!!」


ゴウスケ (あかん! やっぱふたりを同時にいなすのは無理や! 坊ちゃんが、もう少し速く動ければ…)

ミヅチ (ククク…随分、歯がゆそうな表情をしているわね)

ミツル 「! エネコロロ、ヌケニンに『だいもんじ』!」

エネコロロ 「エネーーー!!」

ゴゥッ!! ゴバァァァァッ!!

僕は、冷たい笑いを浮かべるミヅチさんの表情に恐怖を覚える。
だけど、その恐怖を振り払うかのように、僕は技を指示した。

ミヅチ 「…『まもる』」

ヌケニン 「ニンッ!」

ピキィィィンッ! ドグォォゥッ!!!

ミツル 「しまった!?」


コトウ 「『だいもんじ』不発ー!! ヌケニン、咄嗟に身を守ったーー!!」

ゴウスケ (今ので、『だいもんじ』は恐らく弾切れやろ…と、なると)

ヤエコ 「オニゴーリ『ふぶき』!!」

オニゴーリ 「ゴーーーーーー!!」

ビュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!!!

エネコロロ 「エネーーー!!!」
トゲキッス 「キーーーッ!!」

全体攻撃の『ふぶき』が襲い掛かってくる。
エネコロロとトゲキッスは直撃を受け、動きを完全に止められてしまった。

ゴウスケ 「このままやらせるかいな! オニゴーリに『はどうだん』!!」

トゲキッス 「キッス!! キーーッス!」

ドギュゥゥンッ! ドバアアアァァァァンッ!!!

オニゴーリ 「!? ゴーーーー!!」

ヤエコ 「しまった!?」


トゲキッスは『ふぶき』の中口を開き、そこから強烈な『はどうだん』を繰り出した。
高速で繰り出された球弾はオニゴーリへと一直線。
かわすことができるわけも無く、オニゴーリは起死回生の一撃を受けてしまった。

オニゴーリ 「……」

ゴドンッ!!

審判 「…オニゴーリ戦闘不能!!」

ワアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!


コトウ 「決まったー!! トゲキッスの『はどうだん』! 死に物狂いで撃った一撃が見事実を結びましたーーー!!」


ゴウスケ (後は、ヌケニンだけや! 覚悟しぃ!)

ミツル 「よし、エネコロロ…っ!?」

エネコロロ 「コ…コロ」

ドサッ!

何と、エネコロロは突然ダウンしてしまう。
一体、何が起こったのか、僕にはわからかった。
審判も、戸惑ったように状況を確認し、宣言する。

審判 「エ、エネコロロ戦闘不能!!」


コトウ 「な、何とーー!? いつの間にかエネコロロもダウン!? ヌケニンの攻撃が決まっていたのかーー!?」
コトウ 「指示を出す声は聞こえなかった! 一体何が起こったのか!?」


ハルカ 「…?」

ユウキ 「見えたか?」

ハルカ 「……」

私は首を横に振る。
何が起こったかなんてわからなかった。
あの『ふぶき』の状況で…一体何が?

ミカゲ 「…『むしのさざめき』」

サヤ 「…ですね、それしか考えられませんし。一応、聞こえました」

ユウキ 「…あれで、『聞こえた』か…そりゃ大したもんだ」
ユウキ 「俺には聞こえなかった…状況から考えて、そうじゃないか、とは思ったけどな」
ユウキ 「問題は、どうやって指示をしたか…いや、多分してないな」

ミカゲ 「…ポケモンが自分で判断したんでしょうね、あの状況で何が最良の技か」
ミカゲ 「鬱陶しそうね」

あのミカゲが『鬱陶しそう』とまで言った。
つまり、あのトレーナーはやっぱり普通じゃない。
このプレッシャー…凄み、気質。
私はやっぱり…あのトレーナーを知っている。

ハルカ (まさか…あのトレーナーは……)



………。



ゴウスケ (ちっ、変わらんな…エグイ戦い方は!)
ゴウスケ (何のためにこの大会出たかは知らんが、これも縁言うんかのぉ…)
ゴウスケ (せやろ! カイーナ!!)

ミヅチ (フッ…さすがに、気づいていたか)
ミヅチ (たまには…私も娯楽に付き合おうと思っただけだが)
ミヅチ (予想以上に楽しめた…お前の負け様を見れるだけでも収穫だ)

ミツル 「…?」
ヤエコ 「……」

シュボンッ!

僕とヤエコさんはほぼ同時にポケモンをボールに戻す。
そして、無言のまま僕たちは互いのパートナーを見た。

ミツル (ゴウスケさん…こんな険しい顔をするなんて)

ヤエコ (絶対的不利のこの状況で笑っていられる…勝利への確信があると言うの?)


コトウ 「さぁ、ついにこのバトルも大詰め! 勝利を手にするのはどちらか!?」


ゴウスケ 「………」
ミヅチ 「……」

審判 「…?」

観客 「………?」



しぃぃぃ…ん



ハルカ (な、何よこのプレッシャー? 音が…消えた)

ミカゲ (…鬱陶しいわね)

ユウキ (おい…ポケモンバトルだよな、これ?)

キヨハ (あのゴウスケが…本気になっている? 珍しいわね…)

サヤ (なるほど…確信に変わりました。あの女性はやはり、カイーナさんですね)

ノリカ (ま、まるで…殺し合いでも始まるかのような空気…戦場、みたいだ)

アムカ 「……う、何だか気持ち悪い」

ジェット 「…すげぇな」

リベル 「押し潰されそう…です」

キッヴァ (…これが、一線を越えた人間のポケモンバトルなのか?)

この場にいる全員が同じ気持ちだろう。
これはもはや…ポケモンバトルの空気ではない。
だけど、ポケモンバトルなんだ…。
それだけはわかる…。

ハルカ (私の知らないポケモンバトルなんだ…これは)
ハルカ (戦わせて、強さを競うバトルじゃない…生き残るための、命を賭けたバトル)

大げさかもしれないが、この場にいればそう思う。
沈黙した会場の中、次第に冷たさを増す空気。
そして、その中で…一際熱を放つトレーナーがいた。



ゴウスケ 「トゲキッス! 『かえんほうしゃ』や!」

ミヅチ 「『まもる』」

トゲキッス 「キーーーッス!」

ゴオオオオオオォォォォッ!!

ヌケニン 「……」

ピキィィィンッ!!

トゲキッスは口から『かえんほうしゃ』を放つ。
だけど、ミヅチさんは冷静に『まもる』でそれを防いだ。



ハルカ 「また防いだ…あのヌケニンってポケモン、やけにダメージを受けるのを避けるわね」

ユウキ 「…やれやれ」

ミカゲ 「無知ね…」

ステレオで私のことをけなしてくれる。
知らない物はしょうがないじゃない…

キヨハ 「…そろそろ教えてあげたら?」

そう言ってキヨハさんが微笑する。
もしかしなくても、遊ばれてた?

ユウキ 「…ヌケニンの特性は『ふしぎなまもり』」
ユウキ 「この特性は、弱点のタイプ以外の攻撃技を全て無効化してしまうと言う特性だ」

ハルカ 「弱点のタイプ以外を無効化……無効化〜!?」

私は恥ずかしげも無く、大声で叫ぶ。
周りから奇異の視線を向けられたが、気にしなかった。

ハルカ 「…そんなの反則じゃないの?」
ハルカ 「都合よく弱点のタイプを使えるとは限らないし…」

ユウキ 「…まぁ、一部のルールでは禁止されている所もある」
ユウキ 「だけど、今の所公式に使用は認められているポケモンだ」
ユウキ 「倒すのは…そんなに苦労しないからな」

ユウキは事も無げにそう言う。
つまり、弱点は意外に多い…ってことか。

キヨハ 「ヌケニンは、『むし・ゴースト』のタイプ…弱点のタイプは」

ジェット 「飛行、炎、岩…」

リベル 「ゴースト、悪…ですね」

ハルカ 「…結構多いのね、それならよっぽどのことがないと対策無し…ってことはないのか」

ユウキ 「…あくまでそれは、フルバトル前提での話だ」
ユウキ 「制限のかけられたルールでは、ヌケニンほど怖いポケモンはいない」
ユウキ 「1体1のバトルで使われたら…と思うと洒落にならない」

言われてみれば、確かに。
そんな定められた状況じゃ、対策のしようが無い時もあるってことか…

キヨハ 「とはいえ、倒すだけならレベルの差が100あっても倒すことはできるわ」

ハルカ 「へ? 何で…」

ミカゲ 「…ヌケニンの体力は0も同然だからよ」

ハルカ 「…0?」

言っている意味が一瞬理解できない。
そんな私を哀れむかのような目でミカゲは見る。
うう…手っ取り早く答えを言いなさいよ。

キッヴァ 「ヌケニンは、効果抜群の技を食らったらそれで終わりです」
キッヴァ 「ですから、威力に関係なく、効果抜群の技さえ当てられれば…」

ハルカ 「……」

なるほど…攻撃を無効化できる代わりに、一発でダウンってわけか。
だから、攻撃を食らわないことが重要…ってことね。



コトウ 「トゲキッス! 『かえんほうしゃ』を放つも、『まもる』に阻まれる!」
コトウ 「一撃食らえばダウンのヌケニン! 相性の悪い相手に勝てるのかぁ!?」


ヤエコ (無理よ…いくらダメージが大きいとはいえ、ヌケニンの攻撃じゃトゲキッスにはロクなダメージが与えられない)
ヤエコ (体力の回復手段まであるトゲキッスに勝つのは…どう考えても難しいわ)

ゴウスケ (さて…予想通り『まもる』を使ってきよったな)
ゴウスケ (連発で押し切るのも手やけど、それ位は読んできよるやろ…無駄な動きはせぇへんからな)

ミヅチ (力押しはセオリー通りだが…上手く行くかな?)

ゴウスケ 「休ませる暇はあらへん! ここは得意の『コンビネーション』で行くで!」
ゴウスケ 「トゲキッス『かえんほうしゃ』や!」

トゲキッス 「!? キーッス!」

ゴォォォッ!

ミヅチ 「かわせヌケニン!」

ゴオオオオオオオォォォッ!! ドバァァッ!!

ヌケニン 「!?」

ミヅチ 「!? 地面に…!」


コトウ 「おーーっとぉ! トゲキッス、地面に『かえんほうしゃ』!! ヌケニン、足元に炎が巻き起こり、戸惑っています!」
コトウ 「ただの火の粉でもヌケニンには致命傷! ヌケニン動きを封じられました!!」

ミヅチ 「『むしのさざめき』!」

ヌケニン 「ニンッ…!」

シャシャシャシャシャシャ!!

トゲキッス 「キスッ!!」

ヌケニンは体をブルブルと震わせ、奇妙な音を作り出して攻撃する。
ヌケニンは攻撃のモーションが非常にわかりにくく、動作から攻撃を予測するのは非常に難しい。

ミツル (だけど、虫タイプの技は飛行タイプには効きにくいはず)

一発当てて倒せるのなら、ゴウスケさんの方が有利だ。
全ての攻撃をかわして倒すなんて、僕には方法自体が思いつかない。

ゴウスケ (…蓄積ダメージは思うたより大きい。かと言って回復する暇はない)
ゴウスケ (根競べか…望むとこやで!)
ゴウスケ 「トゲキッス『エアスラッシュ』や!」

トゲキッス 「キッス!」

ビュゥッ!

ミヅチ 「『あなをほる』」

ヌケニン 「……!」

ドゴォッ!!

『エアスラッシュ』が切り裂くよりも速く、ヌケニンは真下の地面に穴を開けて地下へと潜る。
確かに、それなら攻撃をかわすことはできる…でも。

ゴウスケ (わざわざ無効技か…せやけど『はねやすめ』はでけへんな)
ゴウスケ 「トゲキッス! 上昇や!」

トゲキッス 「キッス!」

バサッ!!

トゲキッスは力強く羽ばたき、高度を上げる。
距離はかなり離れた、これなら『あなをほる』はまるで意味を持たない。

ドゴアッ!!

ヌケニン 「!!」


コトウ 「ヌケニン、攻撃はミス! トゲキッスははるか上空だーー!!」

ゴウスケ 「トゲキッス『はどうだん』!」

ヤエコ (無効技!?)

ミヅチ 「…『まもる』」

ミツル (『まもる』!?)

トゲキッス 「キ〜ッス!!」

ヌケニン 「…!」

バビュゥッ!! ピキィィィンッ! ドッガァァァァ!!

ヌケニン 「…!!」

ヌケニンは『まもる』で『はどうだん』を防ぐ。
だけど、理解できなかった。
ヌケニンに格闘タイプの技は通用しない、それなのに…



ユウキ (今の攻防の意味を理解できたトレーナーが…ここに何人にいるかねぇ)
ハルカ (全っ然わからない)
ミカゲ (当然の指示ね)
キヨハ (予想通り…と言う所かしら)
ジェット (………)
リベル (???)
サヤ (なるほど…そう言うわけですか)
ノリカ (理解不能理解不能)
アムカ (…?)
キッヴァ (そんな考え方…私には到底思いつかない)



ゴウスケ (ちっ…そう簡単にはいかへんか)

ミヅチ (姑息な手ね…)

ヤエコ (『はどうだん』で地面を撃ち、爆風を使ってヌケニンを止めようとした…って所しかしら?)
ヤエコ (だけど、普通のトレーナーが考え付くような戦術じゃない…それを読んだ方も)
ヤエコ (ゴウスケ選手はともかく…このミヅチと言う選手、何者なの?)

ミツル (何故だろう? 相性では圧倒的に有利なのに…ゴウスケさんの方が精神的に押されているように感じる)
ミツル (わからない…一体、どっちが勝つんだ?)

トゲキッス、ヌケニン…両者を見比べてまず一目でわかるのが、ダメージの蓄積量。
トゲキッスは確実に疲労している…そう長くは持たない。
対してヌケニン…まだ一撃ももらってない以上、ダメージは皆無。
だけど、ここまでのバトルで見ても、ヌケニンは脆いと見た…多分弱点攻撃を耐えることはできない。

ゴウスケ (…くそったれ。長引けば長引くほど不利とわかってるんや…)
ゴウスケ (せやけど、どうにもならへん…さすがに、常に最前線で戦ってきただけあるわ)
ゴウスケ (レベルも…一回りは違うな、技術で誤魔化せるレベルや無い)

トゲキッス 「…キ、キッス」

ヌケニン 「………」

ミヅチ (来ないか…なら……!?)

ゴウスケ 「……」

ブンブン…!

ミツル 「え…っ!?」

ヤエコ 「……」

審判 「あ…ゴ、ゴウスケ選手ギブアップ! よって勝者! ヤエコ・ミヅチ、ペア!!」

ワアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!!


コトウ 「な、何ということでしょう!? ゴウスケ選手、ここでギブアップ!!」
コトウ 「疲労の大きい、トゲキッスの身を案じたか…ゴウスケ選手無念!!」
コトウ 「観客席からは、ファンの嘆きが聞こえてまいります!」


ゴウスケ 「……」

シュボンッ!

ミツル 「…ゴウスケさん、どうして?」

まるで、覚悟していたかのような表情のゴウスケさん。
僕は、未だにこの結果が信じられなく、ゴウスケさんに声をかけた。
すると、ゴウスケさんは苦笑する。

ゴウスケ 「…今回のポケモンは本来コンテスト用や」
ゴウスケ 「せやから、無理して怪我されても適わん」
ゴウスケ 「…まぁ、今回のバトルは魅せる余裕もあらへんかった…それ位、あっちさんは強かったんや」

ぽんぽん…

ゴウスケさんは、そう言って僕の頭を軽く叩く。
その手からは、悔しさが伝わってきた。
ゴウスケさんは笑ってたけど、心の中では相当悔しかったに違いない。
だけど、相手の実力を認めているから、こらえてる…そう感じた。

ミツル (…結局、決勝でハルカさんと戦うのは、無理になっちゃったか)

密かに抱いていた希望だったけど…またダメ、か。
何だか、僕とハルカさんって…縁が無いんだろうか?
ふと…そう思ってしまった。



…To be continued




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