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POCKET MONSTER RUBY



第90話 『Heart of Maria』




『4月15日 時刻11:30 第0スタジアム・医務室』


ヒビキ 「………」

バタンッ!

やや慌しさを残していた病室に大きな音が鳴り響く。
そこから現れるのは3人の少女だった。

ハルカ 「ヒビキさんは!?」

看護婦 「な、何です!? ここは病室ですよ!!」

サヤ 「申し訳ありません、急を要していましたので…」
サヤ 「それより、ヒビキさんの容態は?」

アムカ 「……はみゅ」

私たちは看護婦に注意されるも、サヤちゃんがすぐに対処する。
サヤちゃんの顔を不思議そうに眺めながら、看護婦はため息を吐いた。

看護婦 「…命に別状はありません! ですが、意識が戻るかどうかはわからない状態です」
看護婦 「あなたたち、知り合いだからと言って下手をことをしないように! いいですね?」

サヤ 「はい、ありがとうございます」

そう言ってサヤちゃんはペコリと礼をした。
私も習って同じ様にする、アムカは…よくわかっていなかった。
それを見て、看護婦はやや不機嫌そうに部屋を出て行った。

パタン…

ヒビキ 「……」

今度は急に静けさが増す。
病室にはヒビキさんがひとりで寝ている、その脇に私たちは立ち尽くしていた。

サヤ 「………」

アムカ 「…どうなの?」

サヤちゃんはその場で少し屈んでヒビキさんの状態を窺っているようだった。
だが、思ったよりも厳しい状態なのか、難しい顔をする。
アムカはそんなサヤちゃんの様子を窺ったが、サヤちゃんは特に答えなかった。
しばらく、その状態が続くと、サヤちゃんは背筋を伸ばして深呼吸をする。

サヤ 「…ふぅ…」

アムカ 「…やるの?」

サヤ 「止むを得ませんね、ザラキさんの『気』を持ってしても、完全には払えていない」
サヤ 「予想以上にヒビキさんを巣食っていた『邪気』は根深かったようです」

ハルカ 「…あの、何がなんだかわからないんだけど?」

私はふたりに説明を求めるが、ふたりは答えない。
私も自然にその場の雰囲気に飲まれ、それ以上は言葉を失ってしまった。
一体…サヤちゃんは何をしようと言うのか?

サヤ 「……ヒビキさん、失礼致します」

キラッ!

ハルカ 「ちょっ!? こんな時に刀!?」

アムカ 「黙って見てて…サヤが何とかするから、集中力を乱させない方がいいよ」

アムカに言われ、私はまた黙る。
サヤちゃんはいつも携えていた刀を抜き、妙な気を放ち始める。
不思議な雰囲気だ…いつものサヤちゃんとはまるで違う…

キィィ…

サヤ 「退魔神剣『光剣』(みつるぎ)よ…真の姿を現せ」

カァァァッ!!

サヤちゃんが今まで一度も開かなかった瞳を開き、刀に命ずると、刀は『逆刃刀』へと変化した。
その輝きは白色光を輝きを放ち、見ている物の心を何故か穏やかにする。
一体、サヤちゃんって…?

サヤ 「…人の心に巣食う愚かな邪気よ。大人しく、冥府へと逝け…『聖光魔渇』(せいこうまかつ)!」

ドスゥッ!!

サヤちゃんは普段のイメージからかけ離れた雰囲気のまま、刀をヒビキさんの腹部に突き刺した。
ちょっ!! それってマズイんじゃ!?

ヒビキ 「!! かはあっ!!」

サヤちゃんが刀を突き刺すと、ヒビキさんはショックで体を動かした。
意識不明で回復するかどうかわからないヒビキさんが…?

サヤ 「……終わりです」

チャキンッ!

サヤちゃんは突き刺した刀を鞘に納める。
両目も再び閉じ、まるで今の姿を封印するかのように静かな佇まいに戻った。

ハルカ (サヤちゃん…まだまだ私の知らない姿が隠れていそうね)

アムカ 「…大丈夫、サヤ?」

サヤ 「…ええ、これ位なら」

そう言ってサヤちゃんは深めに息を吐く。
たったあれだけの作業でも相当な力を使っているのだろうか?
だけど私にはそれを推し量ることはできない…

ヒビキ 「…こ、ここは?」

サヤ 「…目が覚めて何よりです、が…もう少しご自分の力量を測るべきでしたね」

ヒビキさんは状況を理解できないまま、サヤちゃんの言葉に反応して体を起こす。
そして、何が起こったのかわからないまま、ヒビキさんは自分の姿を見て驚いていた。

ヒビキ 「…何だ? 俺はどうしてこんな…」

ハルカ 「ザラキさんとのバトルで気を失ったんですよ」
ハルカ 「結果は…自分でわかっているんじゃないですか?」

私は簡単に説明する、そしてヒビキさんはそれを受けて自分の状態を理解した。

ヒビキ 「っぅ…そうか」
ヒビキ 「俺は……負けたのか、あの人にも、自分にも……」

サヤ 「自分を責めるな…と、普通の友人とかならそう言うのでしょうが…私は生憎そんな普通の言葉を与える気はありません」
サヤ 「邪気に飲み込まれたのは他ならぬあなた自身の心の弱さ」
サヤ 「分不相応な力を使おうとした者の末路は哀れな物ですよ…」
サヤ 「今回は特別です…ザラキさんの意思を汲みたかったので」

サヤちゃんは冷たくそう言ってその場を離れた。
アムカはそれを見て、少し戸惑う。

ハルカ 「行っていいわよ…私が残るから」

アムカ 「あ…うん」

アムカはそう返事してサヤの後を追った。
これで病室には私とヒビキさんだけが残った。
私は近くにあった椅子に腰かけ少し落ち着く。
ヒビキさんはさっきの言葉が響いていたのか、頭を抱えていた。

ハルカ 「…サヤちゃんの言ったこと、あまり気にしない方がいいですよ」
ハルカ 「悪気があって言うわけ無いですし、こうやってヒビキさんが無事だっただけでも、多分運が良かったんです」

ヒビキ 「運…か、いっそ死んだ方が良かったんだろうがな…こうやって醜態を晒している」
ヒビキ 「俺はまだまだだ…ちょっとした心の隙がおかしな力に取り込まれた」
ヒビキ 「強くなろうと…強くなろうと思っていたことが、俺は勘違いしていたのかもしれない」

ヒビキさんは顔を伏せながらそう言い放つ。
それはとても弱弱しく、そして悲しかった。
打ち砕かれた…信じていた力に裏切られ、全てを失った。

ハルカ 「私にはわかりません…私だって、勝者だから」
ハルカ 「ヒビキさんに比べれば、トレーナー歴も浅いし、私じゃ同じ気持ちにはなれない」
ハルカ 「でも…こうやって生きているなら、また…歩き出せますよね」
ハルカ 「私、甘いことばっかり言っているかもしれませんけど…それでも諦めるとか大っ嫌いですから」

ヒビキ 「………」

ヒビキさんは体を震わせていた…言葉に出さず泣いているのかもしれない。
私はこれ以上この場に居ないほうがいいと思った。
私は何も告げず、その場を後にした…



………。



パタン…

ハルカ 「………」

病室の扉を閉め、私は廊下で少し立ち尽くした。
今回のバトルを見て、私は力の怖さを改めて感じた。
ヒビキさんは勝利に執着するあまり、自分の心の隙間から邪悪な者に支配された。
私の体にも同じことは言えるのかもしれない…私の中に住んでいるかもしれない『パンデュラ』
それがいつ牙を向いて人類を滅びに向かわせるのか、見当もつかない。
ひょっとしたら…私の存在って、人類の存亡を左右しているんじゃないだろうか?

ミク 「…ハルカちゃん、ここにいたのね」

ハルカ 「あ…ミク、さん?」

突然の登場に、少し私は驚く。
私はさっきまであった不安を振り払うように、頭を手で押さえて首を振った。
そんな私の行動を不思議に思ったのか、ミクさんは妙な顔をする。

ミク 「? ハルカちゃん、何かあったの?」

ハルカ 「…いえ、大丈夫です」
ハルカ 「それより…ザラキさんは?」

ミク 「…そのことで、話があるの」
ミク 「ザラキさんに、会って…くれない?」

ハルカ 「……?」

この時、私はまだ分かっていなかった。
あの戦いで命を落としかけていたのは、ヒビキさんだけではなかったことを…



………。
……。
…。



『時刻11:50 ザラキさんの病室』


カチャ…パタン

ミク 「…ザラキさん、ハルカさんですよ」

ハルカ 「…ザ、ザラキさん」

私の目の前に映ったのは、まるで見る影も無い老人の姿だった。
生気を無くし、頭髪すら白く霞んでいる。
瞳からは溢れていたはずの闘志が微塵も無くなり、とても勝者の姿とは思えなかった。

ザラキ 「…ハ…ル、カ……殿……」

ハルカ 「ザラキさん…何て姿に!」

もはや、ザラキさんの体からは生気が消えかけていた。
こうやって手を動かすことさえもままならない様子。
そんなザラキさんがプルプルと震える手を私の顔に向けて近づけてくる。
私は、その手を黙って握った。

ぎゅ……

ザラキさんの手は冷たかった。
今にも消えてしまいそうな体温…だけど、ザラキさんは満足そうだった。
最後に、望みが叶った…まるでそう言いたげな、そんな幸せな顔をしていた。

ザラキ 「…叶、う…なら、ば……ハル、カ殿、と……戦い…たか、った………」

ハルカ 「…!!」

それだけだった。
ザラキさんは、それを最後に力を失った。
私は感じた…ザラキさんの無念を。
そして、受け取った…ザラキさんの想いを。
戦え、と言うんですね…私に。
ザラキさんは、私の内にある何かを知っていたのかもしれない。
そして、その中で不安を常に抱いている私の心も…

ミク 「…お父さん……」

ハルカ 「…やっぱり、ザラキさんはミクさんの家族だったんですね」

ミク 「……ごめんなさい、お父さんには隠しておきたかったから」
ミク 「…でも、そんな必要は無かった」
ミク 「お父さんは、初めからわかっていて…それでも私のために騙された振りを」
ミク 「…私は、そんな父の姿に何も気づいてあげられなかった」

ミクさんは泣いた。
顔を抑え、体を震わせ…亡くなった父を憂いた。
ザラキさんの死に顔は笑顔だった。
本当の望みは叶わなかったけれど…満足そうだった。

ハルカ 「ザラキさんは…ザラキさんの本当の望みは」

ミク 「……?」

ハルカ 「ミクさんを救うことだったのかもしれません…」
ハルカ 「自分の正体を隠しながら戦うミクさんを…本当の姿に戻してあげたかったのかも」
ハルカ 「私には事情はわかりません…けど、何となく…そう思いました」

ザラキさんの流れてくる想いの中、ミクさんへの愛情を私は感じていた。
確信ではなかったけれど、ザラキさんの本当の望みはそうだったのかもしれない。

ミク 「…ハルカちゃん、ありがとう」
ミク 「父の最期を、看取ってくれて」

ハルカ 「…最期まで一緒にいるのは、あなただと思います」
ハルカ 「私は、まだ戦わないとならないから…行きます」

私はゆっくりと首を振り、そう言い残した。
勇気をもらった…踏み出す勇気を。
私はずっと踏み出せなかった…最初の一歩を。
これから私がどうすればいいのか…わかるはずがなかった。
まだ、一歩も踏み出せていなかったんだから……





………………………。





『時刻13:00 第0スタジアム』


ワアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!


コトウ 「さぁ、先ほどの戦いで非常に残念な知らせをすることになりました!!」
コトウ 「先ほどのバトル勝者である、ザラキ選手が、何と亡くなられたとの報告が入りました!!」

ザワザワ…

場の雰囲気が突然変わる。
あまりに突然な出来事のため、観客たちもどうすればいいのかわかっていないのかもしれない。

コトウ 「この結果により、準決勝第2試合は不戦勝と言う処置を取ることとなりました!」
コトウ 「よって!! このバトルの勝者が決勝進出と言うことになります!!」

オオオオオオオオォォォッ!!

観客は気を取り直し、実況の声に乗って騒ぎ始める。
現金と言うか、場に流されやすいというか…

コトウ 「とはいえ、バトルを始める前に観客皆さんにお願いがございます!」
コトウ 「全員、今大会にて崩御なされたザラキ選手に対し、黙祷をお願いいたします!!」
コトウ 「ザラキ選手に! 黙祷!!」



………。



1分程の時間だったが、その瞬間会場は静寂に包まれた。
全員がザラキ選手に黙祷を捧げ、今回のバトルを称えたのだ。
そして、黙祷を終えると後はいつも通り。
今回のバトルは下手すると前回以上に凄惨な結果を残すことになるかもしれない。



ハルカ 「…ミカゲとマリアちゃん、どっちかが決勝で戦う相手か」

ノリカ 「正直…どっちも嫌ですよね、何か強すぎるって言うか…」

ジェット 「確かにな、絶対普通のバトルにならないぜ…」

リベル 「でも…ハルカさんにしろ、キヨミさんにしろ、そんな実力に差があるとは思えませんけど」

キッヴァ 「どうですかね…ハルカさんとキヨミさんは本気のバトルを見せてくれましたけど」
キッヴァ 「あのふたりは…まだ本気のバトルなんて見せていない気がします、特にマリア選手は」



………。



ウオオオオオオオォォォォォッ!!!

ミカゲ 「…鬱陶しいわね、本当に」

私は観客の五月蝿さに少しイラッとしながらも、フィールドを闊歩する。
次の相手は、あのマリア…まともなバトルになるとは思えないわね。



………。



マリア 「…やっと、この日が来たわね」

私はツインテールの髪をさっ…とかき上げ、笑みを零す。
あのミカゲをようやく公開処刑できる。
見ていなさい…所詮クローンのあなたが私には勝ち目なんて無いってことを!



………。



コトウ 「え〜、ここでミカゲ選手とマリア選手の簡単なプロフィールをご紹介いたします!」
コトウ 「ミカゲ選手、シンオウからやって来た…とのことですが、出身不明で、公式大会の参加は初とのこと!」
コトウ 「ここホウエンではすでにグランドフェスティバルで準優勝の成績と素晴らしい実績を残しております!」
コトウ 「公式大会ではまるで名前を聞きませんが、何と驚くべき所は所持バッジ数!!」
コトウ 「何と、メジャー、マイナーのジムバッジも含め、総数は50枚以上とのこと!!」
コトウ 「皆さんもご存知のように、マイナージムのバッジもポケモンリーグではちゃんと認められる物があり、その数と言うのは単純に強さのパロメータ!」
コトウ 「ミカゲ選手はこれだけのバッジを所持しているにも関わらず、ポケモンリーグは今回が初参戦!」
コトウ 「一体、今大会の参加はどう言う意思なのでしょうか!? 期待が膨らみます!!」



ハルカ 「あいつ…どんなバッジフェチなのよ…」

サヤ 「まぁ、趣味でしょう」

ジェット 「つーか、フェチなのか?」



コトウ 「続きましてマリア選手ですが、こちらもシンオウからの出場…ながら出身不明!」
コトウ 「公式大会の出場経験も皆無で、ミカゲ選手の内容と妙に似ております」
コトウ 「あまりに少ない情報だけに、ミカゲ選手とマリア選手の実力は測りにくいところですが…両者共にここまでを圧倒的な強さで勝ち登ってきた物同士!」
コトウ 「ミカゲ選手は苦戦こそあった物の、その強さはまさに神がかり!」
コトウ 「マリア選手は、まるで相手にならない相手を軽く屠っての勝ち登りと、まさに悪魔的強さ!!」
コトウ 「そう! このバトルはまさに…神と悪魔の戦いだーーーー!!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!!



ミカゲ 「…鬱陶しいわね、本当に」

マリア 「あら、逃げずによく出て来れたわね? この世との別れは済ませてきた?」
マリア 「何なら、遺書を書く間位は待っててあげるわよ? どの道、すぐ死ぬんだから」

ミカゲ 「………」

マリア 「うふふ…恐怖で声も出せなくなった?」

審判 「こらっ、マリア選手! 私語は慎みたまえ!! ペナルティを出すぞ!!」

マリア 「五月蝿いわ…私に指図しないで!」

審判 「っ!?」

マリアはカッ!と目を見開いて審判を威圧する。
それを見て審判は完全にマリアに押されていた…やれやれ、ね。

ミカゲ 「邪魔だから、さっさと消えなさい…この戦いに審判なんていらないわ」

審判 「な、何を言っている! そんなことが許されるわけ…」

ミカゲ 「死にたいなら、別よ?」

私はマリアと同じ様な目で審判を威圧した。
それを見てか、審判は完全に怯える。
そう…これはバトルなんかじゃない、ただの…

ミカゲ 「殺し合いよ!!」
マリア 「殺し合いよ!!」

ボボンッ!!

ドクロッグ 「ググッ!」

ロズレイド 「ロズッ!!」

私たちは同時にポケモンを出す。
私はドクロッグ、マリアはロズレイドだ。
気に入らないわね…初手を毒タイプで牽制、考え方が似ているってだけでも鬱陶しいわ。

ミカゲ (スピードでは勝てない、ここは交換が無難な選択ね)
マリア (まずは、様子見でもしておこうかしら…)

ミカゲ 「戻りなさい『ドクロッグ』!」
マリア 「『どくびし』!!」

ドクロッグ 「……」

シュボンッ!!

ロズレイド 「ロズッ!!」

バババッ!!


コトウ 「おおっと!! ミカゲ選手、不利と思ったのかドクロッグをすぐに交代!」
コトウ 「その間にロズレイドが『どくびし』を仕掛ける!! 見事なタイミングです!!」
コトウ 「若干対応が遅れたミカゲ選手、次のポケモンには強制的に毒が入ってしまう!!」


マリア 「うふふ…どうしたのよ? 誰を出しても同じだと思うけれど…?」

ミカゲ 「…『ミカルゲ』!!」

ボンッ!!

ミカルゲ 「ミカ〜…カッ!?」

ブシュッ!

ミカルゲが出てきた途端、『どくびし』が刺さり、ミカルゲは毒状態になる。
これで、ミカルゲは長く場に留まることが難しくなった。
とはいえ…

ミカゲ 「確かに誰を出しても同じね…あなたに勝ち目が無いって言うのはね!!」
ミカゲ 「『サイコキネシス』!!」

マリア 「退きなさい…」

シュボンッ! ドギュンッ!!

ミカルゲはすぐに行動するも、ロズレイドは逃げる。
マリアはこちらが毒なのをいいことに、ダラダラとボールを手に取った。

マリア 「うふふ…見っとも無いわね〜、そんなに攻撃したいの?」
マリア 「だったら、好きにしてみたら!? 『ダイノーズ』!!」

ボンッ!!

ミカゲ 「ちっ! 退きなさい!!」

シュボンッ!

ミカゲ 「『ドクロッグ』」

マリア 「馬鹿ねぇ…『だいちのちから』!!」

ダイノーズ 「ノーッズ!!」

ボンッ!! ドバァンッ!!

ドクロッグ 「ググッ!! グゥッ!?」

ドッギャアアアアアアアアアァァァァァァンッ!!!

私はミカルゲを戻し、再びドクロッグを出す。
ドクロッグが出たことで、『どくびし』は吹き飛び効果は無くなった。
だが、ダイノーズの攻撃をモロに受けるという状態に…


コトウ 「『だいちのちから』がヒットォ!! ドクロッグ、大ダメージ!!」
コトウ 「地面が割れ、ドクロッグは強烈な一撃を喰らってしまいましたー!!」


ドクロッグ 「…グッ!!」

マリア 「アハハッ!! まるで猿ね! 釈迦の掌で動き回る猿!」
マリア 「私には哀れにしか映らないわ!!」

ミカゲ 「鬱陶しいわね…これだけのことでもう浮かれているの?」
ミカゲ 「ドクロッグ! 『クロスチョップ』!!」

ドクロッグ 「グッ!!」

マリア 「怖い怖い…退きなさい、『ダイノーズ』」

シュボンッ!

ドクロッグ 「グッ!!」

ズザザッ!!

対象を失い、ドクロッグは接近する足を止めた。
やれやれ…鬱陶しいわね、本当に。

マリア 「ふふ…さぁ出るのよ『ドサイドン』!!」
ミカゲ 「『クロスチョップ』!!」

ボンッ!!

ドサイドン 「ドッサーー!!」

ドクロッグ 「グーー!!」

バッ! ドッカァァァァァッ!!


コトウ 「交換で出てきたドサイドンに『クロスチョップ』が炸裂!!」
コトウ 「効果は抜群だ!! ドサイドン大丈夫か!?」


ミカゲ (硬い! 弱点でも物理じゃダメージは期待できない…)
マリア 「ドサイドン! 『つのでつく』!」

ドサイドン 「ドッサ!!」

ズシンッ!とドサイドンは踏み込み、ドクロッグ目掛けて角を突き出してくる。
モーションは速い、回避は無理ね…

ミカゲ 「『まもる』!」

ドクロッグ 「グゥッ!」

ピキィィンッ!!

ドサイドン 「…!!」

マリア 「あら…」
ミカゲ 「『かわらわり』!!」

ドクロッグ 「ググッ!!」

ドッガァッ!!

ドクロッグは『まもる』の態勢を解いてすぐに反撃する。
目の前にあったドサイドンの頭を手刀で思いっきり殴りつけた。

ドサイドン 「…サァァイ!」

ドサイドンはまるで怯んだ様子は無い、徹底的に鍛えているわね…だけどそれだけに罠にかかりやすい!!

マリア 「何度やっても無駄よ! ドサイドン『ロックブラスト』!!」

ミカゲ 「かわしなさい!」

ドサイドン 「ドッサーー!!」

ドガガガッ!!

ドサイドンの腕から無数の岩が放出され、ドクロッグを襲う。
ドクロッグは何とか、交わそうとするも、2発貰ってしまった。

ガガンッ!!

ドクロッグ 「グゥー!!」

ズザァッ!!

当たったとはいえ、効果半減。
2発程度なら、まだ十分に動けるはず。
ましてや…耐久特化のドサイドンならね!!

マリア 「無力ね! トドメよ! 『じしん』!!」

ドサイドン 「ドサーーーー!!!」

ドクロッグ 「……!!」

ミカゲ 「…ちっ」


コトウ 「ドサイドン、ドクロッグの攻撃を物ともせず反撃!!」
コトウ 「ドクロッグはさっきのダメージで起き上がれていない! これはマズイか!?」


マリア 「散りなさい! 絶望に打ちひしがれて!!」

ドッガァァァァァァァァァンッ!!! ガガガガガッ!!

地震がドサイドンを中心に巻き起こる。
その威力はかなりの物…ドクロッグが喰らえば間違いなく倒れるだろう。

マリア 「……」

ニヤリ…とマリアが笑う、勝利を確信したわね。
だけど、すぐに…その目障りな顔を変えてやるわ。

スタッ!

ドサイドン 「?」

ミカゲ 「『きあいだま』!!」

ドクロッグ 「グーー!!」

ドッバァァァンッ!!

マリア 「!?」

ドッ!! ズウウウウウウウゥゥゥゥゥゥンッ!!!

ドサイドン 「………」


コトウ 「な、何と!! 勝利確実と思われたドサイドンが逆にダウン!!」
コトウ 「ドクロッグ、あの一瞬でドサイドンの頭上まで飛び上がり、ドサイドンの肩に着地!」
コトウ 「そして、そこから頭に向けて特殊技の『きあいだま』で零距離攻撃!! ドサイドン、たまらずダウンです!!」



ハルカ 「な、何てバトルよ…」

サヤ 「恐ろしいですね、どう見てもマリアさんのペースでしたが、たった一撃でミカゲさんのペースになりました」
サヤ 「物理に極端な耐性を持つドサイドン…弱点でさえ倒すのは難しいはず…そこを不意の特殊技で一気に沈める戦略」
サヤ 「一手が、全てをひっくり返す可能性がある…このレベルのバトルはそうそう見れないでしょうね」

サヤちゃんは淡々と説明するが、ミカゲとマリアちゃんのバトルは普通を通り越している。
審判を拒否した時点で、明らかに両者失格物だけど、ここまでは意外にも普通のバトルだけに協会側は黙認するようだ。



マリア 「戻りなさいドサイドン…役立たずね」

シュボン!

マリアは悪態をついて、ドサイドンを戻す。
その表情は意外にも冷静な物だった。
むしろ、喜んでいる?

マリア 「ふふふ…少し位はやるわね、もっとも…これが本気だったらガッカリだけど」

ミカゲ 「御託はいいわ…さっさと次のポケモンを出しなさい」
ミカゲ 「私を殺す気なら、全員まとめて出せばぁ?」

私は挑発してみせる。
所詮、この戦いにルールなんて存在しない…わざわざシングルバトルにこだわる必要ないのだから。
こっちもその方が手っ取り早いし…

マリア 「…そうねぇ、それもいいけど、あなたのその余裕が気に入らないのよ」
マリア 「あなたの余裕を消す方が先…それにはポケモンバトルであなたを完膚なきまでに叩く必要がある」
マリア 「さぁ、出てきなさい『ブーバーン』!! 目障りな毒蛙を焼き尽くせ!!」

ボンッ!!

ブーバーン 「ブバァ…!」

マリアは炎タイプのブーバーンを繰り出す。
『かんそうはだ』の特性を持つ、ドクロッグは炎タイプの攻撃が怖くなる。
やれやれ…ね、単純と言うか何と言うか。

ミカゲ 「…もういいわ、このバトルはあなたの負け」
ミカゲ 「これ以上やっても、あなたに勝ちは無い、諦めてさっさと帰れば?」
ミカゲ 「やるからには…徹底的に潰すわよ?」

マリア 「その余裕が気に入らないって行ってるでしょう!? ブーバーン『だいもんじ』!!」
ミカゲ 「『ふいうち』!」

ブーバーン 「ブ〜!」

ドクロッグ 「グゥッ!!」

ドガァッ!!

ドクロッグはブーバーンが炎を溜めている間に距離を詰めて顎先を蹴り上げる。
その一撃でブーバーンは顔が蹴り上げられ、目標を一瞬見失う。

ブーバーン 「!?」

ダンッ!

ドクロッグ 「ググッ!!」

ブーバーンが向き直る前に、ドクロッグがブーバーンの死角に動く。
スピード差は明白、ブーバーンも決して遅くは無いスピードだけど、このスピード差って言うのはほんの少しでも恐ろしい物なのよ。

マリア 「何をやっているの!! 『ふんえん』よ!!」

ミカゲ 「『まもる』」

ブーバーン 「ブバーーー!!」

ドクロッグ 「ググゥ!」

バボオオオオオォォォォッ!! ピキィィィィンッ!!

ブーバーンは範囲を気にせず『ふんえん』を放ってくる。
この技は確かに自分を中心に高熱の煙を噴射する技。
威力も高く、火傷しやすい。
だけど、読まれていてはお話にならない。

ミカゲ 「『ストーンエッジ』よ!!」

ドクロッグ 「グゥ!!」

ドガァッ!! ガガガガガガッ!!

ブーバーン 「ブーー!!」


コトウ 「何が起こったのか!? ブーバーンの『ふんえん』でフィールドは良く見えません!」
コトウ 「しかし、ミカゲ選手が指示したのは『ストーンエッジ』!! ブーバーンに決まってしまったのか!?」


ヒュゥゥ…

ブーバーン 「ブ…ブバ」

ドクロッグ 「グゥ…」

マリア 「ブーバーン! 何をやっているの! トドメを刺しなさい! 『かえんほうしゃ』!!」

ブーバーン 「ブ…ブバーー!!」

ゴオオオオオオォォォッ!!

ドクロッグ 「!!」

ドシャァッ!!

ドクロッグは『ふんえん』の中で無理に動いたせいで、かわすことは出来なかった。
でも十分よ、マリアは完全に冷静さを欠いている、勝負は見えたわね。

ミカゲ 「戻りなさい、ドクロッグ…出るのよ『マニューラ』」

シュボンッ! ボンッ!

マニューラ 「マニュ…」

私はすぐにマニューラを出す。
もう考えることも無い、やることはひとつ。

マリア 「く…ブーバーン、戻…」
ミカゲ 「『おいうち』」

マニューラ 「ニュラッ!!」

ドカァッ!!

マリアはすでに詰められていることに気づかず、あっさり交代しようとした。
まぁ、どっちにしてもブーバーンは終わっていたからこっちはどうでも良かったけれど。

ブーバーン 「……」

ドシャ!

マニューラの『おいうち』で腹を切り裂かれ、ブーバーンは何も出来ずに倒れる。
マリアは体をワナワナと震わしながら、明らかに怒りに震えていた。

マリア 「くぅっ! さっさと戻りなさい『ブーバーン』!!」

シュボンッ!

マリアはボールを握り締め、明らかに憎しみを向けた目でこっちを睨んだ。

マリア 「気に入らない気に入らない気に入らない!!」
マリア 「何であなたは余裕なのよ!? 私のコピーの癖に!!」

ザワザワザワ…

ミカゲ 「………」

マリア選手の叫びに会場が騒がしくなる。
鬱陶しいわね…別に正体を隠すつもりは無いけど、いちいち反応されるのは鬱陶しいわ。

マリア 「何とか言いなさいよ!! クローンの癖に!! 私の体から生まれた出来損ないの癖に!!」

ミカゲ 「…いいから、ポケモンを出しなさいよ」
ミカゲ 「出来損ないクローン以下のお嬢様♪」

私がそう言ってやることで、完全にマリアは我を失う。
ふぅ…ここまで思い通りだと、つまらないわね。

マリア 「黙りなさい!! 認めないわ!! あなたが私より上なんて! 絶対認めない!!」
マリア 「私はお父様の娘なのよ!! この世で一番強いの!! 誰よりも上よ!!」
マリア 「お父様は神になるの!! 世界を支配するのよ!! 私はその後を継ぐ子供なの!!」
マリア 「あなたなんて、あなたなんて!! 早く死ねばいいでしょぉ!?」

ボンッ!!

ガブリアス 「ガーーッブ!!」

マリアは逆上して、相性の悪いガブリアスを出してくる。
やれやれね…手の着けられない子供だこと。
このままじゃ救い様が無い…ここで上下関係って奴を教えておかないといけないようね。

ミカゲ 「マニューラ『こおりのつぶて』!」

マリア 「『げきりん』よ!!!」

ガブリアス 「ガブァ!!」

マニューラ 「マニュ!!」

ヒュヒュヒュヒュッ!!

マニューラは礫を指先から放ち、ガブリアスの体に当てる。
氷に弱いガブリアスはそれで通常怯む…が、このガブリアスは構わず突っ込んできた。

ガブリアス 「ガアアァァァァッ!!」

マニューラ 「ニュ、ニュラッ!?」

バッ!!

反射的にマニューラは空中へ逃げるが、ガブリアスは『げきりん』状態のまま空中へと追いかけてきた。
執念…とでも言うつもり!?

ガブリアス 「ガァァァッ!!」

ドゴォッ!!

マニューラ 「!?」

ガブリアスは凄まじいスピードでマニューラとの距離を詰め、上から爪を振り上げた。
腹部を直撃されたマニューラはそのまま下に叩きつけられる。
凄まじい衝撃で、防御の低いマニューラはダウンしてしまう。
そして、ガブリアスは怒りのまま、ダウンしたマニューラをも追撃しようとした。

ガブリアス 「ガァァッ!!」

ミカゲ 「戻るのよ『マニューラ』! 出てきなさい『ミカルゲ』!!」

ボンッ!

ミカルゲ 「ミカッ!」

マリア 「殺せ殺せ殺せ!! 皆殺しよーーー!!」


コトウ 「と、とんでもないことになってきました!!」
コトウ 「もはや、マリア選手錯乱しているのか、収拾がつきません!」
コトウ 「協会側はすでにこのバトルを没収するようです! ですが、バトルは継続されております!!」


ミカゲ 「…没収ですって、冗談じゃないわ!」
ミカゲ 「ミカルゲ、さっさと終わらせるわよ『あくのはどう』!!」

ミカルゲ 「ミカーーーー!!」

カブリアス 「ガアアアアァァァッ!!」

ドガァッ!!

ミカルゲよりも遥かに速いスピードでガブリアスは特攻する。
その一撃で、ミカルゲは要石ごと吹き飛ぶが、すぐに『あくのはどう』で攻撃した。

ドギュゥゥウンッ!!

ガブリアス 「ガ…アアアァァァァァッ!!」

ミカルゲ 「ミカカカカァッ!!」

ミカルゲは明らかに怒りの声をあげる。
しょうがないわね…相変わらずガブリアスを見たら、あの娘は…
とはいえ、あれをまともに止めることが出来るのはミカルゲ位…仕方ないわね。

ミカゲ 「『おにび』よ!!」

ミカルゲ 「ミカ〜!」

マリア 「『みがわり』!!」

ガブリアス 「ガァァァァッ!!」

マリア 「何をして…!!」

ガブリアスは怒り狂ったまま、マリアの指示を無視する…
混乱してるわね…相手を見えてもいないわ。
あれじゃ野生の獣と同じ。
もうどうと言うことは無さそうね…交換しようとももう思ってないでしょうし。

ボボボッ!!

ガブリアス 「ガブァッ!? ガアアアアアアアァァァァァッ!!」

マリア 「…え?」

ドシュァァァァッ!!

ミカゲ 「!?」

一瞬、時が止まった様に感じた。
『おにび』の効果で火傷したガブリアスはその痛みに怒り狂った。
マリアの指示が逆に怒りを刺激したのか、混乱していたガブリアスは相手が見えていない。
そんなガブリアスは、たまたま目に映ったマリアを切り裂いた。
所詮人間でしかないマリアは何も出来ずにガブリアスの爪で肩から腹を切り裂かれ、血を噴出した。
人形のように、力なくフィールドへ倒れたマリアを見て、場が凍り付く。


観客 「キャアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!」

観客のひとりが叫んだ。
瞬間、会場は恐怖に包まれる。
逃げ出す者、震える者、何も出来ない者。
もう…これはただの惨劇だった。

ミカゲ (…つまらないわね、やっぱり)
ミカゲ 「戻りなさい…ミカルゲ、後は私がやるわ」

ミカルゲ 「…ミカ」

シュボンッ

戻す時、ミカルゲは何故か悲しい声をあげた。
それはマリアに対してなのか、ガブリアスに対してなのか…それはわからなかった。
私はミカルゲを戻すとボールをラックにしまい、力を少し解放する。
その瞬間、私は人間を超えた力を引き出し、一足飛びで反対側のフィールドにいるガブリアスの頭上まで飛び上がる。

ガブリアス 「!?」

ミカゲ 「おとなしく…しなさいっ!」

ドゴォッ!! メキメキィッ!!

ガブリアス 「ガァァッ!!」

私はガブリアスの首を押さえつけ、地面に叩きつけた。
その衝撃でガブリアスは声をあげるが、私は力を弱めない。
私は、体に痛みを感じつつも、もう片方の手でガブリアスの頭に掌低を叩き込む。
同時に、ドラゴンタイプと同様の力を叩き込み、ガブリアスは為す術なく気絶した。

ミカゲ 「…哀れね、マリア」

マリア 「…かっ……はぁっ!?」

マリアは血を吐いて、喋ることもできないようだった。
ただ、涙を流し、憎そうに私の顔へと手を向ける。
私はその手を払おうともせず、ただ哀れむ目でマリアを見てやった。

マリア 「…はっ…はばっ……あぁ」

マリアは必死になって私の首を絞めようとする。
そうすれば、私が死ぬのだろうと思って。
最後まで、哀れな娘……人間の力で私を殺すことなんて出来ないのに。

ス…

マリア 「!?」

ミカゲ 「………」

私は無言でマリアを抱き上げた。
馬鹿な娘…マシュウに利用されているとも知らずに。
あんな男を信用し、騙され、そしてこれで捨てられるだろう。
哀れ…ね。

ミカゲ 「…忘れるんじゃないわよ、ガブリアスを戻しなさい」
ミカゲ 「あなたの…ポケモンでしょう?」

マリア 「…あ……ぅ……あ」

マリアは致命傷の傷を受けながらも、倒れるガブリアスにボールを向ける。
そして、マリアは涙を流した…ボールを上手く使えてないのだ。
すでに視界もはっきりしていないのかもしれない…私は、そっと手を添えてあげた。

ミカゲ 「貸しにしておくわ…感謝なさい」

シュボンッ!

私はマリアの手を握り、ボールのスイッチを押してガブリアスを戻してあげた。
マリアはそれが限界だったのか…後は力なく気を失った。
体から体温すら失われていくマリアの体を私は抱き、その場を去っていった。



………。



コトウ 「…皆様、どうか落ち着いてください! たった今、RMUから報告が入りました!」
コトウ 「先ほどのバトルについては、没収試合…と正式に決定!」
コトウ 「本来なら再試合か完全没収かが検討されるのですが、今回の場合は何とマリア選手にペナルティとし、マリア選手は失格!!」
コトウ 「これにより、ミカゲ選手が無条件で決勝へと進出決定! マリア選手には後ほどペナルティの内容が告げられることとなります!」
コトウ 「以上で、本日4試合あったバトルは終了!! 様々なトラブルが続くも、準決勝は明日となります!!」
コトウ 「それでは、これにて解散! 皆様、本日はお付き合いいただきありがとうございました!!」



………。



ジェット 「…やっぱ、タダじゃ終わらなかったか」

リベル 「うう…何であんなことに」

リベルちゃんはキノコの帽子で顔を隠し、あの惨劇を忘れるかのように震えていた。

サヤ 「……」

アムカ 「……サヤ?」

サヤちゃんは冷静に場の空気を感じているようだった。
正直、この場はもう立ち去るべきだろう。

ハルカ 「…私、マリアちゃんの所に行って来るわ」

ノリカ 「あ、私も行くであります!」

ダダッ!

私はノリカと共に、その場を後にする。
去り際にチラッと皆を見たけれど、すぐに立ち上がっていた。



………。
……。
…。



『時刻13:30 マリアの病室』


ガチャ…

ハルカ 「失礼しま〜す」

ノリカ 「失礼するでありますっ」

カミヤ 「…あ、ハルカちゃん…と、妹さん?」

ハルカ 「違います」

例によって間違えられる…全くこいつのせいで。
それよりマリアちゃんは…

マリア 「………」

ハルカ 「あれ? マリアちゃん…起きてても大丈夫なの?」

マリア 「……」

カミヤ 「…今のマリアちゃんには何を言っても無駄だよ」
カミヤ 「生きてはいるけど…ショックで感情が死んでしまっている」
カミヤ 「…回復する見込みは、残念ながら無い」

それを聞いて、少し凍り付く。
ショック…か。
確かに、マリアちゃんにとっては、それだけのショックがあったのかも…
ミカゲもそうだけど、マリアちゃんも普通の人間とは明らかに違う何かを背負っていた。
一体…何なの? 何で、こんなにも苦しまなきゃならないの?

カミヤ 「…少し、昔話をしようか」
カミヤ 「ミカゲが生まれた時のこと」

ハルカ 「…え?」

ノリカ 「ミカゲが、生まれた時…」

カミヤ 「とりあえず、座りなよ…立ちながらじゃなんだし」

そう言って、カミヤさんは椅子を勧めてくれる。
部屋の端にふたつ余っていたので、私はそれをベッドの側に持って来た。
私たちはそれらに座って、カミヤさんの言葉を待った。

カミヤ 「…もうわかっていると思うけど、ミカゲはマリアちゃんのクローンなんだ」
カミヤ 「マリアちゃんが産まれたと同時にクローン生成にかかられ、ミカゲはこの世に正を受けた」

ハルカ 「…でも、歳は同じなんですよね? 普通、クローンってイメージ的に細胞から少しずつ…ってイメージがありますけど」

カミヤ 「そうだね、普通なら…そんな感じ」
カミヤ 「だけど、ミカゲは普通の成長をしなかった」
カミヤ 「それは…彼女の成長促進に使われた細胞に秘密がある」

細胞…何だか生々しい聞こえ方だ。
ミカゲの秘密って…一体?

カミヤ 「細胞の名前は…『ギラティナ・セル』…略して『GC細胞』と名付けられた」
カミヤ 「ちなみに、名付け親はネロだよ…彼は生物学のスペシャリストで、ミカゲの本当の生みの親でもある」

ノリカ 「…ネロ選手って、あのキレた人ですよね? うわ〜想像できない…」

ハルカ 「それより、本当の生みの親って…?」

カミヤ 「…ネロはミカゲを育てようとはしなかったからね、代わりに僕が育てたんだ」
カミヤ 「ミカゲは生まれながらにして、タマゴから孵化したばかりのミカルゲを与えられた」
カミヤ 「ミカルゲと共にミカゲは順調に成長し、僅かな期間でバトルタワーを制覇するほどの強さになった」
カミヤ 「正直、寒気がするほどの才能だったよ…マリアちゃんとは違ってね」

カミヤさんは辛そうな表情でそう言った。
ミカゲの成長がまるで喜ぶべきでないかのような。

カミヤ 「マリアちゃんはミカゲと同様にポケモンと共に育てられた」
カミヤ 「だけど、マリアちゃんはミカゲとはまるで違った」
カミヤ 「自分が育てたポケモンは絶対に手放さないミカゲに対し、育てたポケモンをオモチャの様に捨てるマリア」
カミヤ 「ミカゲは自分が気に入ったポケモンは拘って育てる…時にはタマゴから1000体以上のポケモンを孵化させたこともあった」
カミヤ 「マリアちゃんもそれは同様だったけど、大きな違いは、強さの見解」
カミヤ 「種族的な強さに拘らないミカゲと、追求したマリアちゃん」
カミヤ 「バトルスタイルも次第に差が出始めた…ポケモンを引き立たせ、勝利を望むミカゲ」
カミヤ 「ポケモンのことなど露とも思わず、トレーナーの勝利を優先するマリアちゃん」
カミヤ 「同じ勝利に拘る者同士でも、ミカゲはポケモンのダメージをとにかく気にする」
カミヤ 「マリアちゃんは逆にまるで気にしない、必要とあればわざとダウンさせる」
カミヤ 「何年も何年もふたりが戦い続ける内、誰もが思う事があった」

ハルカ 「…どっちが、強いか……ですかね?」

カミヤさんは無言で頷く。
同じ様に育てられ、違うスタイルを歩み出したふたり。
わざわざそんなふたりを育てて、何をする気だったのかは知らない…だけど、誰もが気にすることはそれだ。
どっちが強いのか…? それは…今回の戦いではっきりしてしまったけど。

カミヤ 「…組織内でも、ミカゲとマリアをぶつけることは何度かあった」
カミヤ 「だけど、何度やっても…勝ったのはミカゲだった」

ノリカ 「ええっ? そんなに差が大きいようには感じないけど…」

カミヤ 「そう…差が大きくないんだよ…なのに勝てない」
カミヤ 「戦えば、必ずミカゲが勝つ…何度か繰り返す内、組織内でははっきりしたことがある」
カミヤ 「マリアは…『出来損ない』だと…ね」

ハルカ 「!!」

ノリカ 「…酷い」

オリジナルであるはずのマリアちゃん、それが出来損ない…
奇しくも、クローンであるはずのミカゲがマリアちゃんを超えてしまったのか…

カミヤ 「…マリアちゃんは、父親を尊敬している」
カミヤ 「父であり、組織のボス、『マシュウ』をね」

ハルカ 「マシュウ…?」

ノリカ 「…聞いたことはないですね、凄いトレーナーなんですか?」

カミヤ 「…恐らく、この世で最も強いトレーナーだよ、僕が知る限りではね」
カミヤ 「非情で冷静、かつ狡猾」
カミヤ 「勝利のためには不可能すら可能にする…野望の塊」
カミヤ 「マシュウ総帥は…娘であるマリアちゃんですら道具としてしか見ていない」

聞いてて腸が煮えくり返る…何だそれは?
父親が実の娘を道具? ふざけてる!
私は俯き、握り拳を固めていた。
そんなの…マリアちゃんが、可哀相だ。

カミヤ 「次第に父の関心はマリアちゃんからミカゲに移った…マリアちゃんはそれを子供ながらに受け入れることができなかった」
カミヤ 「マリアちゃんは愛情受けずに育ち、冷たい心のまま育った」
カミヤ 「ミカゲも人には冷たかった…育て親の僕にすら心は開いてくれなかった」
カミヤ 「そんなミカゲでも、ポケモンは好きだったんだ…」
カミヤ 「口では絶対に認めないけど、ミカゲはポケモンが好きだ、だからポケモンもミカゲが好きなんだ」
カミヤ 「マリアちゃんとの差を開いたのはそんな所なのかもしれない」

ノリカ 「…ポケモンは愛情だ!って、オーキド博士も言ってますしね!」

カミヤ 「…結局、ミカゲは12歳になった時点で外に出ることが許された」
カミヤ 「数えられないほど作られたマリアちゃんのクローンの中で、唯一の12歳」
カミヤ 「ミカゲと同時に作られたクローンは99人いたけど、成長したのはわずか3名」
カミヤ 「残り96名は細胞のまま死亡…運良く形になった3人の内、ひとりは1年で死亡」
カミヤ 「次は6歳まで生きた、残りのひとりは12歳になる前に死亡…ちなみに、いずれもトレーナーとしては2流止まりだったよ」

100人にも登るクローンで唯一の生き残り、か。
ミカゲはもしかしたら、死んでいったクローンの分も背負って生きているのかもしれない。
何となく…そう思う。

カミヤ 「…GC細胞は気紛れだ、同じ様に人体に組み込んでもまるでミカゲが選ばれたかのように…」
カミヤ 「だけど、成功例は他にもある…ミカゲが6歳になった時、マリアちゃんからではなく、ミカゲの体からクローンを作り出そうとした結果だ」
カミヤ 「誰もが成功はしないと、思っていた…僕もその一人だ」
カミヤ 「だけど、ネロはそれを成功させてしまった…それも8人も」

ハルカ 「8人…も?」

カミヤ 「ネロはその頃からホロンエネルギーの研究をしていた」
カミヤ 「ポケモンにホロンを組み込むことは成功…だが人体なら?」
カミヤ 「ネロはそんな危険な人体実験を行い、全て成功させた」
カミヤ 「それぞれ、炎、電気、水、草、闘、超、悪、鋼の8種あるホロン…」
カミヤ 「それらを宿した全てが、今もなお生きている」

ノリカ 「…そ、それってミカゲの兄弟…になるんですか?」

カミヤ 「う〜ん…兄弟というより、同一の存在とも言えるけど」
カミヤ 「…ネロが育てたそれらの子供たちは、通称『Mチルドレン』と呼ばれるようになった」
カミヤ 「これは、ミカゲのことも同時に指し『Mariaの子供』…という意味も込められている」

ハルカ 「マリアちゃんの子供?」

カミヤ 「いや、聖母マリアのことをこの場合は指す…」
カミヤ 「ネロが皮肉を込めて名付けた物だよ…せめて、ってことで、ね」

ハルカ 「今もなお生きているってことですけど、その子たちはミカゲたちをどう思っているんですか?」

私がそう質問すると、カミヤさんは複雑そうな顔をした。
嫌なことを言いそうね…

カミヤ 「…敵対している、とだけ言っておこうか」
カミヤ 「マリアちゃんほどの殺意は無いかもしれないけど…相当憎んでるよ」

やっぱり…嫌なことだ。
どうして? どうしてそんな風にしか考えられないの?
マリアちゃんもミカゲも…家族同様なのに。

カミヤ 「ネロがいれば、そんなことにはならなかったかもしれない…」
カミヤ 「けど、ネロがMチルドレンを育てたのは10歳まで」
カミヤ 「ネロが人として生きていた頃まで…だね」

ハルカ 「!! 『パンデュラ』…」

ノリカ 「? それ、何です?」

カミヤさんは無言で頷いた…ノリカは知るはずもない。
私は答えなかったが、雰囲気でノリカは何も聞くことは無かった。

カミヤ 「…マリアちゃんは総帥を愛しすぎた」
カミヤ 「本当は褒めてもらいたかったんだろう…頑張ったな、って」
カミヤ 「だけど…もうマリアちゃんはそんな言葉にすら反応できない」
カミヤ 「本当に……壊れてしまった」

カミヤさんは、涙声になっていた。
こんなことになってしまったのは、自分のせいだと言わんばかりに。
マリアちゃんは何も反応しない。
ただ…窓の外を見ていた。
遠くに海が見える…マリアちゃんはそれをただ意味も無く見ているようだった。

ハルカ 「マリアちゃん、父親のために頑張ったのね…」
ハルカ 「ミカゲを倒せば、父が認めてくれると…そんな馬鹿なこと思って」
ハルカ 「マリアちゃん……」

マリア 「………」

私は外を見るマリアちゃんをやや強引にこちらを向け抱きしめた。
私の胸にマリアちゃんの顔を埋めさせ、私は優しく言葉を投げかけてあげた。

ハルカ 「…頑張ったね、マリアちゃん」
ハルカ 「もう、頑張らなくていいから…ね?」

マリア 「……!?」

一瞬、マリアちゃんが動いた。
私の胸の中、マリアちゃんは手を震えさせた。

カミヤ 「マリアちゃん!? まさか…反応するわけが」

ノリカ 「ハ、ハルカ様の巨乳に反応したか!?」

今はあえて突っ込まなかった…ノリカは後でしばく。
私はマリアちゃんの顔を正面から覗く。
マリアちゃんは…泣いていた、まるで叱られた子供のように。

マリア 「…あ……ぁ……あ」

ハルカ 「…! マリアちゃん、私のこと、わかる?」

私は話しかける、だけど…マリアちゃんは泣きじゃくった。
理由はわからない…けど、私には理解する方法があった…

ハルカ (マリアちゃん…?)

マリア (お父様…お母様……マリアを、捨てないで)

ハルカ 「!! マリア…ちゃん」

私はマリアちゃんの心を覗いてみた。
悪いとは思いつつも、彼女を救うにはこれしかないと思ったからだ。
心が壊れてしまったのなら、呼び戻すしか…

ハルカ (…マリアちゃん、大丈夫よ…私がいてあげるから)
ハルカ (お父さんやお母さんの代わりにはなれないかもしれないけど…私が友達になってあげるから)
ハルカ (だから…戻ってきて!)

バタン!

ミカゲ 「マリア! そろそろ目を覚ましなさい!!」

マリア 「!!?? 私に命令しないでーーー!!」

ドンッ!!

ハルカ 「ふにゃ!?」

私は突然、マリアちゃんに吹き飛ばされた。
そして私は背中から床に落ち、倒れた上体でミカゲを見上げていた。

ミカゲ 「……これで貸しふたつにしておくわ」

タッタッタ…

そう言って、ミカゲはさっさとその場を後にした。
え? ええ?

マリア 「…はぁ…はぁ…あ、あら?」
マリア 「私…どうして?」

ノリカ 「マ、マリア中佐ーー!! よくご無事でーー!!」

だきっ!

マリア 「きゃぁっ!? ちょ、ちょっとあなた! どこ触っているのよ!!」

ノリカ 「ぬぅっ!? この貧相さ! もしかして勝った!?」

そう言って、マリアちゃんから離れ、ノリカは自分の胸を触っていた。
ま、まさかマリアちゃん…そこまで?

マリア 「あ、あなたねぇ!? 私はそこまで貧相じゃないわよ!!」

マリアちゃんは素っ頓狂な声をあげて、胸を隠す。
むぅ…そこまで貧乳とは。

ノリカ 「ちなみに私は73あるのであります! 最近の11歳では十分巨乳であります!!」
ノリカ 「しかもまだ伸びる!! 中佐とは成長率が違うであります!!」
マリア 「わ、私だって伸びるわよ!! …まだ72だけど

ハルカ 「…え? 今、何て…」

マリア 「うるさいわね!! あなたみたいな爆乳闘士とは違うのよ!!」

ハルカ 「いや〜私なんてまだまだよ〜」

ノリカ 「さすがであります!! すでに平均値を軽くオーバーしている司令でもまだまだとは!!」

マリア 「平均値って、いくつなの?」

ノリカ 「18歳以上の成人女性なら82.4cmであります!! ちなみにハルカ様は87オーバーであります!!」

マリア 「87!? わ…私と15cmも同い年で………」

カミヤ 「あっはっはっは!! マリアちゃんも頑張って牛乳飲まないとね!!」

カミヤさんは突然大笑いして、そう言う。
すると、マリアちゃんは顔を真っ赤にして反論する。

マリア 「黙りなさい! 飲んでも育たなかったのよ!!」

ハルカ 「私は飲まなくても育ったけど…遺伝もあるのかしらねぇ〜」

私はそう言って作者のせいで無駄に大きい胸をボヨンボヨンと手で揺らしてみる。

カミヤ 「ちなみに、ミカゲは86あるよ〜♪」

ノリカ 「おおっ! オリジナルなどすでに形骸でありますか!!」

マリア 「あんな物はタダの飾りよ!! マニアな連中にはそれがわからないのよ!!」

気が着いたら、いつも通り…いやいつもより人間らしいマリアちゃんがそこにいた。
こうやって、笑ったり、泣いたり、怒ったりできる…私はそれが嬉しく思えた。
そんな私は、思わずマリアちゃんを抱きしめ、素直にこう伝える。

ギュッ!

マリア 「キャッ!?」

ハルカ 「マリアちゃん…お帰り☆」



…To be continued




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