Menu
BackNext
サファイアにBack サファイアにNext




POCKET MONSTER RUBY



第94話 『Liberation』




『4月17日 時刻13:30 サイユウシティ・第0スタジアム』


ワアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!


コトウ 「沸きに沸いております! ここサイユウシティ!!」
コトウ 「リーグ決勝を戦うふたりのトレーナーが、互いに己の全てを削りあうこのバトル!!」
コトウ 「すでにバトルは後半戦! ミカゲ選手の圧倒的なパワーを見せ付けるポケモンたちの前に、ハルカ選手は辛うじて喰らいついております!!」
コトウ 「4体のポケモンを失いながらも、ミカゲ選手もまた半分を失うと言うこれまでにない拮抗したバトル!!」
コトウ 「果たして最終的に勝利するのはどちらなのか!? 会場中がその期待感に呼応するかのごとく熱く! 熱く!! 燃え上がっておりまぁぁぁぁぁすっ!!!」


ウオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!!



ハルカファン 「ハールーカッ!! ハールーカッ!!」

ノリカ 「まだまだじゃーーー!! もっと声出せーーー!!」

ハルカファン 「了解であります、ノリカ軍曹ーーーー!! テメェら!! 応援だーーーー!!!」



ハルカ (これでミカゲの残りは、ミカルゲ、ドクロッグ、マニューラか…)
ハルカ (対してこっちはバシャーモと…もう一体)
ハルカ (正直…相当きつい、でもこれを乗り切れないとこのバトルは何の意味もない!!)

ミカゲ (鬱陶しいわね、本当に…)
ミカゲ (私のポケモンを3体もダウンさせるなんて…あの時以来ね)
ミカゲ (あの時は、力を使わずに勝てた…と、言っても相手が本調子だったらどうなっていたか)
ミカゲ (今、私の目の前にいるのは、ただのトレーナー…そのはずだった)

審判 「両者! ポケモンを出して!!」

審判の声に私はハッ…となる。
考えている時間はあまりない…どの道私には選択肢は多く残されていない。
今できることを全力でやるだけだ、後はポケモンを信じよう!

ハルカ 「頼んだわよ『バシャーモ』!!」

ボンッ!

バシャーモ 「シャモッ」

バシャーモはまだまだ元気のようだ。
『オーバーヒート』を撃った影響も回復している、これなら連発しても何とか耐えられそうだ。

ミカゲ 「……ちっ」

ヒュル〜…

ミカルゲ 「ミカ…」

ミカゲ 「…? あなたが行くと言うの?」

ミカルゲ 「ミカッ」

突然、ミカゲのバッグからミカルゲが顔を出してミカゲに訴える。
そうか…ミカゲのミカルゲは今回もボールに入れてないのね。
しかし…

ハルカ (ミカルゲはゴーストと悪タイプの両立で弱点が無い…加えて、ミカゲのポケモンでは最強のレベル!)

正直、バシャーモでも正面から当たって勝てるかどうかはわからない…
いや、多分勝てない…今のままじゃ、まだダメだ!

ミカゲ 「…あなたは引っ込んでなさい、出るまでも無いわ」

ミカルゲ 「!? ミカ〜?」

ミカゲ 「出なさい『ドクロッグ』!!」

ボンッ!

ドクロッグ 「…グクッ」

何とミカゲはミカルゲではなくドクロッグを繰り出した。
何かの意図があってなのか…?

審判 「それでは、バトルスタート!!」

ハルカ (とにかく! ミカルゲが出てこないならチャンスだ!! ここで少しでも差を縮めておかないと!!)
ハルカ 「バシャーモ! 『だいもんじ』!!」

バシャーモ 「シャモーーー!!」

ゴバァッ!!

バシャーモは大きなモーションで口から炎の塊を吐き出す。
『オーバーヒート』を除けば最高クラスの火力を誇る大技だ、当たれば相当のダメージを見込めるはず!

ミカゲ 「『ダストシュート』!!」

ドクロッグ 「グッ! カーーー!!」

ドクロッグもまた大きなモーションで口から巨大な塊を吐いてくる。
紫の色でまさに毒球! 恐らく、毒タイプの大技だ!!

ギュバァッ!! チュドォォォンッ!!

バシャーモ 「シャモッ!?」

ハルカ 「バシャーモ!!」

バシャーモ 「!!」

バッ! ドヒュンッ!! バッチャァンッ!!

私の声に反応してバシャーモはすかさず回避行動を取った。
ダッキングでその場から低く屈み、正面から来た『ダストシュート』を避ける。
若干肩口を掠った物の、ダメージは無いようだ…

バシャーモ 「!? ッ…」

ハルカ 「!? まさか…!」

回避はしたと言え、バシャーモの肩口に若干紫色の傷口が見えた。
嫌な予感がする…毒タイプの技だけに、掠っても次第に毒が回ってくるかもしれない。

ミカゲ 「ふふ…威力はこちらの方が上のようね」

ハルカ 「!? 確かに…同じ大技でも、『だいもんじ』を貫通してくるなんて…」

『ダストシュート』も相当な大技だ、必ず『だいもんじ』と同様、大きなデメリットはあるはず。
でも、考えている暇が無い…バシャーモの毒が回りきってしまえば、勝ち目は完全に無くなる!!

ミカゲ 「どうするつもりかしら!? 『ダストシュート』!!」

ドクロッグ 「グッ!! カーーーー!!」

ギュバァッ!!

ハルカ 「『だいもんじ』!!」

バシャーモ 「シャモーーーー!!」

ゴバァッ!!

私は更に気合を込めて技を指示する。
それに応えてバシャーモは更に気合を込めた。
考えるよりも先に身体が動いた…ここは退けない!!
互いの放った赤と紫の塊が再び直撃する。

ドォォォォォォンッ!! ババァンッ!!

ミカゲ 「!? 何ですって…!」

ハルカ 「しゃあっ!! 今度は相殺!!」

バシャーモはここに来て更に火力を上げた。
ドクロッグとの撃ち合いがいい方向に傾いている!
まだまだこの娘は行けるのよ!!

ミカゲ 「ふざけるんじゃないわよ!! どうして相殺なのよ!! さっきは上回っていたじゃない!!」
ミカゲ 「ドクロッグ!! 手を抜くんじゃないわよ!! 『ダストシュート』!!」

ハルカ 「今度は撃ちぬけぇぇぇ!! 『だいもんじ』!!」

ドクロッグ 「グーッ! カァァァァァァッ!!」
バシャーモ 「シャ〜…モーーーーーーーーー!!!!」

ドクロッグもまた今まで以上の気合を込め、技を放ってくる。
バシャーモは己を蝕む毒に耐えながら更に火力を上げた技を放つ。

ババァンッ!! ズバァァァァァァンッ!! パラパラ…



コトウ 「またしても相殺!! ハルカ選手負けておりません!! あのミカゲ選手とパワーで並んだかぁ!?」



………。



ジェット 「いいぞいいぞ!! これなら勝てるかもしれねぇ!!」

リベル 「頑張れハルカさん!! 負けてないですよーーー!!」

サヤ (確かに…ここに来て更にバシャーモが成長を見せた)
サヤ (でも、それに対してドクロッグも明らかにパワーを上げてきた…これは一体?)
サヤ (まさか、ミカゲさん…このバトルで心中するつもりなのですか!?)

キッヴァ 「…明らかにドクロッグもパワーを上げてきましたね」

サヤ 「…ええ、確かに」

キッヴァさんも気づいているようだ、ミカゲさんの底知れない力に。
私はその正体を知っている…けれど、実際に目の当たりにしたのは数度。
それも、ポケモンリーグが始まってから…
ミカゲさんの持つ、特殊な力…それをこのバトルで見せている。

サヤ (それは…ミカゲさんがハルカさんを対等レベルの相手と認めた証でもあるのかもしれない)

アムカ 「ふみゅ…何か、気分悪い」

サヤ 「!? カタナ!! すぐに目を瞑って!!」

アムカ 「…みゅ、大丈夫、このバトルは見たいの……」

カタナは明らかに顔を蒼くしながら私に持たれかかってくる。
カタナの力が反応し始めている、このままバトルが進んだら、カタナは…?

サヤ (ごめんねカタナ…最悪の場合は、私が!)

チャキッ…

私は御剣を手に握り締め、この先を見守ることにする。
目を瞑りつつも、私は今会場に解き放たれかけている『邪気』を見据えた。
それが解き放たれてしまえば、この会場は一気に悲劇の場に変わる…!!



………。



ミカゲ 「ありえないでしょ…何故、同じ威力になるの!?」
ミカゲ 「私の方が上のはずでしょう!! それがどうして押し返せないの!!」

ミカゲが今までに無く感情を露にして叫ぶ。
前にも同じ様な光景を見た気がする…そう、マリアちゃんだ。
マリアちゃんも、ミカゲとの戦いでこうやって感情を露にした。
自分と同じ存在を認められない…同じ強さの相手がいることが腹立たしい。
自分が一番でなければ、誰も認めてくれない……存在が認められない…だからミカゲやマリアちゃんは必死なんだ。

ハルカ (今日は、私がその意味を教えてみせる!! 『殺すのは己の拳! されど、生かすのは己の心!!』)
ハルカ 「バシャーモ! 『だいもんじ』よ!! フルパワーで行けぇ!!!」

バシャーモ 「シャ〜モーーーーーーーーーー!!!」

ミカゲ 「認めないわよ!! ドクロッグ、『ダストシュート』ォォォッ!!」

ドクロッグ 「カァァァァァッ! カカァッ!!!」

ゴォォォォッ!!

ハルカ (!? な、あの光は!?)

私はミカゲとドクロッグが放つ、黒い光に驚く。
間違いない、あれがミカゲの力だ…間違いなく、ミカゲはポケモンに何かしらの力を与えている!

ギュバァッ! ゴバァァッ!! チュドォォォォンッ!! バババッ! パラパラ…

再び、互いの技は相殺する…バシャーモは火力をどんどん上げているのに、ドクロッグはそれに対抗してくる。
ミカゲの執念はそこまでして…ドクロッグもまたそれに応えようとしているのが凄い。
だけど…この代償は、あまりに!

ミカゲ 「……ぐうぅっ!」


ザワザワ…!!


コトウ 「こ、これは一体!? 突然、ミカゲ選手の身体に奇妙な紋様が!?」
コトウ 「会場中が、固唾を呑んでいます! ミカゲ選手、苦しんでいますが、その表情は執念に満ちております!!」
コトウ 「まさに…悪魔と言うべきでしょうか!? 私にも正しい形容が思い浮かびません!!」



………。



カミヤ 「まずい!! 限界を超え始めた!! 止めるんだミカゲーーーー!! それ以上は死ぬぞーーー!!!」

マリア 「無駄よ…ああなったら、ミカゲは止まらない、良く知っているでしょう?」
マリア 「認めるわけが無いわ…自分と対等の相手なんて、私だったら死んでも認めない!!」

カミヤ 「マ、マリアちゃん…」

僕の叫びもミカゲには届かなかった…確かに、マリアちゃんの言う通り、認めるはずが無いんだ。
だけど、僕はこうならない結果になるように、ここまで来たのに…ここで見ていることしか出来なのか!?

マリア 「…野暮は止めなさい、あれはミカゲが自分で選んだ道よ」
マリア 「その道に、敵が立ち塞がったら、叩き伏せるか、逃げるしかないのよ…」
マリア 「私もミカゲも、『逃げる』なんて選択肢は教えられてないし、選んだことも無い」
マリア 「後は、戦いの場にいるふたりが決めることよ…」

カミヤ 「マリアちゃん…」

僕はマリアちゃんの言葉を受け、止めることは諦めた。
あのマリアちゃんが、こんなセリフを吐くなんて。
ハルカちゃんの影響なのかこれも…だったら、僕にできることは、もう祈るだけだ。

カミヤ 「ミカゲーーーー!!! 頑張れーーーー!!」

マリア 「…カミヤ」

僕は叫んだ。
例え届かなくても、ミカゲを応援する。
それでも、勝てとは言えなかった…ただ、彼女に『生きて』ほしいから。
僕は…卑怯者だな。



観客A 「ミカゲ、頑張れーーー!! 負けるなーーー!!」

観客B 「!! そ、そうだ負けるなミカゲーーー!! お前が優勝だぞーーー!!」

観客C 「頑張ってミカゲさーーーん!!」



コトウ 「な、何と言うことでしょうか!! ここに来て、ミカゲ選手に熱いエールが与えられております!!」
コトウ 「ミカゲ選手の姿に誰もが息を呑む中、たったひとつの応援の叫びが観客の心を捉えました!!」
コトウ 「これで応援も一気に真っ二つ!! ハルカ選手とミカゲ選手の背中を会場が後押ししています!!!」



………。



ミカゲ (うるさい、うるさい、うるさいわよっ…!)
ミカゲ (私に応援なんていらない! 私は…勝てればいい!! 負けたくない!!)
ミカゲ 「私は勝つのよぉぉぉぉっ!! あなたなんかに!! 負けるわけが無いでしょぉぉぉぉっ!!」

カァァァァッ!!

ミカゲは更に力を放出し、もはや紋様が顔を隠すほどになりつつある。
私は覚悟を決めた。
もう、出し惜しみはしない! 時間が無いんだ!!

ハルカ 「バシャーモ『オーバーヒート』ォォォォッ!!」

ミカゲ 「ドクロッグ『ふいうち』!!」

ドクロッグ 「カァァッ!!」

ヒュンッ!! ドガァッ!!

バシャーモ 「シャ…モォッ!!」

ゴワァァッ!!

ドクロッグ 「グゥゥッ!?」

ドクロッグは高速で間を詰めてきた。
遠距離ではラチが開かないと踏んだのか、接近戦で勝負を挑んでくる。
だけど、効果今ひとつの技だけに今のバシャーモは怯まなかった。
バシャーモはクロスレンジで体内の炎を爆発させ、ドクロッグの腹に向けて拳を叩き込んだ。

ドゴォッ! ドッバアアアアアアアァァァァァァァンッ!!!

ドクロッグ 「カッ……!!」

ドッシャァァァァァッ!!

審判 「…ドクロッグ戦闘不能!! バシャーモの勝ち!!」

ウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!!

ミカゲ 「うぐぅぅ…も、戻りなさい…!!」

シュボンッ!!

ミカルゲ 「ミカッ!! ミカカッ!!」

ミカルゲが心配そうにミカゲに声をかける。
ミカゲは顔の紋様を隠すように手を当て、視線だけでこちらを睨んだ。
ゾクッ…とした。
まるで人間と相対しているような感覚じゃない…獣すら凌駕した、まさに悪魔…

ハルカ (今、師匠の言葉をはっきりと理解した…こういう事だったんだ)
ハルカ (ミカゲは確実に人じゃなくなっていく…その先にあるのは、確実な死…)
ハルカ (同じ過ちを繰り返さないために…私は、ミカゲを…!!)

ググッ!!

私は壊れた拳を握り込む。
痛みは一瞬…でも、そこから先、私の右手は痛みすら感じなくなった。
本来なら、治るはずの拳。
でも、治らなかった…
それは、私が拒んだから…
拳が壊れることで、もう人を殺さなくてすむ…理由がほしかった。
だけど、そんな物は何の意味も無かった。
私は確かに竜凰拳の伝承者だ! でも、それでもポケモントレーナーだ!!



………。



コウリュウ (そうだハルカ、ようやく取り戻したな…本当のお前を)
コウリュウ (今のお前なら、目の前の少女を必ず救える! 救って見せろ!!)
コウリュウ (竜凰拳伝承者として、正しき拳を振るえ!!)



………。



ハルカ 「戻ってバシャーモ!」

シュボンッ!!

ミカゲ 「く…! 出るのよ『マニューラ』!!」

ボンッ!!

マニューラ 「ニュラッ! ……!!」

マニューラは出てきてすぐにミカゲの状態を確認する。
一瞬、辛そうな顔をしたマニューラだが、すぐにミカゲの視線を見てこちらを向く。
何が何でも勝つ…そう言う顔だ。
互いに退けないわね…私もやるしかないわ!!

ハルカ 「任せるわよ『マッスグマ』!!」

ボンッ!

マッスグマ 「…グマッ」

私は最後のポケモンをとうとう繰り出す。
ここまで温存しただけに、マッスグマは最初から全力で飛ばせる! 少しでもバシャーモの負担を軽く出来れば!!

審判 「それでは、バトルスタート!!」



コトウ 「さぁ、バトルも大詰めになって来ました!! 果たして勝つのはハルカ選手か!? それともミカゲ選手か!?」



観客A 「ミカゲーーー!! 勝てよーーーー!!」

観客B 「ハルカーーー!! 必勝ーーーー!!!」



ハルカ 「マッスグマ『ずつき』!!」

マッスグマ 「グマッ!」

ミカゲ 「『つじぎり』!!」

マニューラ 「ラァッ!!」

ヒュンッ!!

マッスグマ 「!?」

ズバァッ!!

マッスグマ 「グ、グマァッ!!」

マッスグマとマニューラが高速で接近した瞬間、マニューラが目の前から消え、マッスグマの背中を切り裂く。
凄まじいスピードだ、とても目で追える速度じゃない! エマのサンダースよりも確実に速い!!

ハルカ (しかも、威力も高い…下手に急所に入ったら即ダウンだ!)

だけど、マニューラはその分防御力が低いと私は踏む。
一撃でもいいから、何とか当てることが出来れば…必ず勝機はある!!

ミカゲ 「…はぁ……はぁ……」

マニューラ 「…ッ! ラァッ!!」

マニューラはミカゲの状態を察してか、指示も待たずに突っ込んでくる。
悪いけど、これはチャンスだ! いくらミカゲのポケモンが凄くても、ポケモンだけの動きでは限界がある!!

マッスグマ 「グマッ!」

ハルカ 「って、マッスグマ!?」

ダダダッ!!

マニューラの動きを見てか、マッスグマも自分勝手に動き出した。
いつも私に忠実なマッスグマからは考えられない行動だ。
だけど、その動きに一番面食らっているのは、マニューラだった。
私の指示無しに距離を詰めたマッスグマにマニューラは一瞬手が遅れる。
そして、その遅れはここでは致命傷に…

ドガァッ!!

マニューラ 「ニュ…ラァァァ!!」

ザシッ!!

カウンター気味のタイミングで、マニューラは左頬にマッスグマの右爪を喰らう。
『いわくだき』だ…マニューラは氷と悪タイプだから4倍のダメージ…!
技自体の威力は低いといっても、これなら!!

マニューラ 「ラァッ!!」

バババッ!!

マッスグマ 「グマ〜!!」

ズババババッ!!

マニューラは片膝を着きながらも、『こおりのつぶて』を連射してきた。
マッスグマはそれを浴び続け、徐々に後退させられる。
マズイ…この状態が続けば逆転されかねない!!

ハルカ 「マッスグ…」
マッスグマ 「グマーーー!!」

バシャァァッ!! コキキィッ!!

マニューラ 「!?」

私の指示よりも速く、マッスグマは『なみのり』を放つ。
自分の周りに波を起こし、『こおりのつぶて』は波に飲まれて消えてしまう。
そして、その起こした波にマッスグマは乗り、マニューラへと突進していく。

ザァァァァァァッ! パァァァァァァァァァンッ!!!

マニューラ 「ニュラ〜〜〜!!」

マッスグマ 「グーーーーマーーーー!!!」

ゴキャァァァァッ!!!

鈍い音が響き渡る。
『なみのり』に耐えたマニューラだったが、そのまま波から飛びあがり、高空からの『ずつき』を敢行したマッスグマ。
マニューラの脳天にマッスグマの頭が襲い掛かり、マニューラはそのまま前のめりにダウンした…

ドサァッ!! ドスンッ!!

マッスグマ 「グ…マァ……」

マッスグマもまたダメージは大きい、このまま続けられるか?
私は後に控えているミカルゲのことも考慮し、あえてマッスグマにテレパシーで指示を出す。

ハルカ 『マッスグマ…ダウンした振りをしなさい!』

マッスグマ 「……! ……!!」

ドサァッ!!

マッスグマは私の指示を受け、前のめりに倒れた『振り』をする。
すると、審判は両者の状態を見て、宣告をする。

審判 「両者戦闘不能!! よってこの勝負引き分け!!」


ワアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!


コトウ 「ついに! 両者残り1体!!」
コトウ 「ハルカ選手、怒涛の勢いでついにタイまで持ってきましたぁ!!」
コトウ 「もう、どちらが勝ってもこの勝負は確実にホウエン史上に残されるでありましょう!!」
コトウ 「トレーナー、ポケモンそれぞれが力を出し切ろうと凌ぎを削るバトル!!」
コトウ 「真っ二つの応援を背に、ふたりはいよいよラストバトル!!」



ハルカ 「…これが最後よ、後は任せるわ! 『バシャーモ』!!」

ボンッ!!

ミカゲ (負けたくない…負けるのは嫌……死ぬのは怖くない…勝ちたい)

ミカルゲ 「ミカ!! ミカカッ!!」

ミカゲ (嫌…負けるのは……死んでもいい………私に、勝たせてよ………)

ス…ズゥゥゥゥゥゥンッ!!!

ミカルゲ 「ミカッ!! ミカカッ!!」

ミカルゲは、虚ろな顔をしたミカゲの意思に関わらず、自分で動いてきた。
100kgを超えると言われる『かなめいし』を自身の技で動かし、バトルフィールドに降り立った。
そして、審判はそれを見て、戸惑いながらも、宣言をする。

審判 「! バトル、スタート!!」

ハルカ 「手加減はしないわ!! バシャーモ『オーバーヒート』!!」

ミカルゲ 「ミカーーー!!」

カァァァッ!!

バシャーモ 「! シャモーーーーーーーー!!!」

本日3発目の『オーバーヒート』
今まで最高の威力でバシャーモはミカルゲにそれを放出する。
元々、打撃系が苦手な性格のためか、接近用の『オーバーヒート』はあまり得意ではなかった。
だけど、グラードンとの戦いを経て、バシャーモは自ら放射系の『オーバーヒート』を編み出したのだ。
これにより、完全に遠距離の特殊攻撃として機能するようになった『オーバーヒート』はまさしくバシャーモの切り札。
ミカルゲは『めいそう』により、特殊防御力を高め、それを正面から受け切る態勢に入った。

ゴォワアアァァァァァッ!! ズドオオオオオオォォォォンッ!!!

ミカルゲ 「ミ、ミカ〜〜〜!!」

やはり受けきった! ミカルゲはヒードランの火力すら止めきったのだ、バシャーモでは到底押せるわけが無い。
それもわかっていた…だけど、私は勝つためにここに立っているんじゃない!!

ハルカ 「ミカゲーーーーーー!! ボーーッとしてるんじゃないわよ!!!」

ミカゲ 「!? …あ……」

私の叫びにミカゲが反応する。
だけど、その目はもう死人と大差なかった…完全に虚ろな方向を見ている。
私の姿はもう見えてないのかもしれない…だけど、声は届いた。

ハルカ 「あんたのポケモンは戦ってるのよ!? あんたがそんなでどうするのよ!!」
ハルカ 「戦いなさいよーーーー!! あんた、トレーナーでしょうがーーーー!!」

ミカゲ 「!? ミ…カ…ルゲ……」

ミカルゲ 「ミ、ミカッ!!」

ギュアアアァァァァァッ!!

バシャーモ 「シャモォ〜!!」

ミカゲはミカルゲを見た。
そして、ミカルゲは『あくのはどう』を放ってきた。
言葉は無くても、心が繋がっている…ミカゲとミカルゲはそれだけで互いのことがわかるんだ。
だから、ミカルゲは痛がってる…苦しんでる。
ミカゲの痛みはミカルゲの痛み…ミカルゲの悲しみは、ミカゲの悲しみ。
私はその絆を信じたい!!

ハルカ 「バシャーモ!! あんたも応えるのよ!! 『フレアドライブ』!!」

バシャーモ 「シャモーーーー!!」

バシャーモのダメージもまた小さくは無い…毒が回り始めている。
『あくのはどう』が今ひとつと言っても、確実にバシャーモの体力を削った。
そもそも、ミカルゲは『めいそう』で能力を上げているのだからもう特殊攻撃では話にならない。
苦手と言っても、バシャーモの物理技では最高火力!! 『もうか』が発動すればいくらミカルゲでも!!

ゴワァァァァッ!!

バシャーモのダメージに比例して『もうか』は発動する。
当然、発動=バシャーモピンチなわけだけど、そんなことはこの際どうでもいい!
私は全力で戦う! ミカゲがそれに応えるまで!!

バシャーモ 「シャモワァッ!!」

ガッ! バァァァァァァァンッ!!

バシャーモはミカルゲの顔に右拳を叩き込み、左手で右手を押さえながら全炎を込めて右拳から放出する。
イメージは『○スターウルフ』だが、説明は略させていただく。

ミカルゲ 「〜〜〜!! ミ、ミカ…!!」

ミカゲ 「!? ミ…カルゲ!! ミカルゲェェェ!!」
ミカゲ 「アアアァァァァッ!! うわああああああああぁぁぁぁっ!!」

ゴワァァァァァッ!!!

ミカゲは突然叫び、黒い気が充満した。
ミカルゲはその気を受け、ダウンかと思われるダメージから復活した…
そして、全ての力を放出したバシャーモは……

バシャーモ 「……ッ」

ドシャァァァッ!!!

倒れた…当然と言えば当然だ。
『もうか』が発動した時点でバシャーモは明らかに体力が残り少ない。
しかも、『フレアドライブ』は反動が返って来るデメリット…ミカルゲの体力を一気に持っていった代わりの代償は…あまりに大きすぎた。
こうなる結果は予想していた…私は、トレーナーとしては失格だろう。
ポケモンが倒れることをわかっていながら、その選択を取ったのだから。

審判 「バシャーモ戦闘不能! よって!! 本年度ポケモンリーグ優勝は!! ミカゲ選手ーーーーーーーーーー!!!」



ワアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!

コトウ 「ついに!! 決!着!! 死闘を制したのはミカゲ選手!!」
コトウ 「順当な結果とは言え、苦しい戦いでした!! ミカゲ選手に会場中からエールが送られます!!」
コトウ 「すでに黒い紋様で身体が覆われ、もはや誰だかわから……ああっ!?」



ザワザワ……!!

観客 「キャアァァァァァァァ!?」

観客 「な、何だよあれはぁぁぁ!?」



ハルカ 「!? 来た!! こいつが…元凶!!」

私は目の前で起こっている事態を冷静に処理する。
ミカゲの身体から黒い気が実体化し始めているのだ。
ミカゲはすでに人の身体を失いつつある…観客が悲鳴を上げるのは、無理も無い。

バリリィッ!! ビチャァァァッ!!

ミカゲ 「アァァァ…!!」

ミカゲの背中が破れ、黒い翼が現れる。
妙にトゲトゲしい形で、まるで骨に羽が着いたような…いや、羽とも呼べない。
まるで黒い気が羽と化している様な…
そして、ミカゲは更に変貌していく…服は破れ、すでに人間のそれではない身体を露にした。

ビチャチャッ!! ビリビリッ!!

ミカゲ 「…ガァァ」

ミカゲの意識はもはや無いのか…ミカゲの身体は異様な姿へと変わっていた。
人としての姿形は辛うじて残っている…頭と体、手と足が着いている…と言う点だけだけど。

ハルカ (ミカゲ…あなたはこうなって本当に良かったの?)
ハルカ (こんな姿になってでも…勝ちたかったの!?)

ググッ!!

私は右拳を強く握り締めた。
もう痛みは微塵も感じない! 私は戦う!!

ハルカ 「竜凰拳、第47代正当伝承者!! ハルカ、参る!!」

ザッ! ザザッ!!

私は5年振りに竜凰拳の型を取った。
左手は目の高さで拳を開き、前に。
右手を腰の高さで引き、握り込む。
足は左足が前、右足は蹴りやすい位置に留め、やや後方姿勢。


コウリュウ (竜凰拳、参ノ型(さんのかた)か)
コウリュウ (ハルカが一番得意としている型だな、バランス重視の構え)
コウリュウ (行け、ハルカ! お前が救うんだ!! 伝承者の使命を果たせ!!)



サヤ 「ハルカさん、加勢します!!」

ハルカ 「必要ないわ!! それよりも観客の非難を優先させて!!」

サヤ 「!? ハルカさん…わかりました!!」
サヤ 「皆さん!! ここは危険です!! すぐに退避を!!」

サヤちゃんの声で、次々と会場の観客たちは姿を消し始める。
まるで災害だ…今私の目の前にいるのは、まさしくモンスター…
だけど、私は竜凰拳の伝承者ハルカ!! 元より、人あらざる者の拳を持つ女!!

ハルカ 「行くわよミカゲ!! あなたは、私が救うわ!!」

ミカゲ 「シャァァァァッ!!」

私の闘志に反応してか、ミカゲはこちらに意識を集中させる。
何てプレッシャー…これがミカゲに巣食う悪魔なの?
人相手にこれほどのプレッシャーは受けたことが無い。
今、私の目の前にいるのが人でないことを実感する。

ハルカ 「ハァァッ!!」

ドンッ!!

ミカゲ 「!? アァァァッ!!」

私の右拳がミカゲの胸にヒットする。
良かった…打撃は通用するようね!
ミカゲは少しだけ後ろに吹っ飛ぶが、すぐにこちらを向き直った。
ちなみに、さっきの一撃は並の人間なら10メートルは吹っ飛ぶ威力だ。
体重が通常よりも上がっているのか…確実に人間を殴った感触じゃなかった。
だけど、負ける気はしない…久しぶりだわ、この感覚!

ハルカ 「昔はこうやって…!!」

ドギャァッ!!

私は右回し蹴りでミカゲの首を狙う。
一般人なら骨折して死んでいる威力だけど、ミカゲは怯まない。

ミカゲ 「シャァァッ!!」

ハルカ 「本気で殴ることが楽しかったけぇ!!」

ゴキィッ!!! ズドォォォォンッ!!

私は突っ込んできたミカゲの顔面に『気』を込めた右拳で殴り抜ける。
さすがのミカゲも地面にめり込む、ってか…地面割れたわね。



ユウキ 「おいおい…地面割ったぞあいつ」

エマ 「うひゃぁぁ! ハルカさん超人!!」

ミク 「それよりも非難よ!! あなたたちも早く!!」

ヒビキ 「ああ…だが」

ユウキ 「こりゃ、逃げるわけにもいかんわな…」

俺たちは何故か、この場に留まることを選んだ。
ハルカがミカゲと戦っている…その姿に何故か逃げることができなかった。
ハルカの表情は楽しげだった…この人間を超えた死闘を楽しむかのように。

エマ 「頑張れハルカさーーーん!! 負けちゃダメですよーーー!!」



………。



キヨミ 「ふぅ…色々大変ねぇ、本当」

キヨハ 「誰も、こんな状況は予想してなかった物ね…」

ゴウスケ 「せやけど、ワイらも十分馬鹿やな…わざわざ観戦するんやさかい」

ミツル 「何だか…不思議ですよね、ハルカさんが戦っていると、怖さも忘れる位頼りになります」

ランマ 「ま、ミカゲはんも…すっかり『仲間』やさかいなぁ〜、せやからハルカちゃんも戦うんでっしゃろ」
ランマ 「ハルカちゃんの人徳は、人を超えるんやなぁ〜」

イータ (これだ…私はこれが見たかった)
イータ (人を超えた者と人を止めた者の戦い…)
イータ (その答えが…見たい)
イータ (ハルカは、それを見せてくれるたったひとりの女)
イータ (私が…私であると思えるように)
イータ (ハルカはきっと…答えを見せてくれる)



………。



ジェット 「避難終わったぜ!! お前らはどうする!?」

リベル 「こ、怖いですけど! それでも見たいです!!」

キッヴァ 「同感です! これも経験でしょうしね…」

サヤ 「皆さん…これは危険な戦いなんですよ?」

アムカ 「大丈夫…皆は私たちが『護る』からね? サヤ…」

カタナはよろよろとしながらも、立ち上がった。
しっかりと目を見開いて、ハルカさんを見ている。
カタナはハルカさんから見えない力をもらっているのかもしれない。
この娘が持つ、破壊衝動を抑えるほどに…
今のカタナなら、扱えるかもしれない…『嵐を呼ぶ者』を。

ノリカ 「ふんぬーーーー!! このノリカ軍曹!! 最後までお供いたしますぞーーー!!」



………。



カミヤ 「ミカゲ…とうとう、こうなってしまった」

マリア 「はぁ…で、どうするの? 逃げるなら早くしてよ?」
マリア 「私、車椅子だから動けないんだけど」

カミヤ 「マリアちゃん、本当は見たいんでしょ?」
カミヤ 「大体、逃げるならひとりでも動けるでしょうに…」

マリア 「う、うるさいわね! いいじゃないのよ! それより紅茶はまだなの!?」
マリア 「缶でもいいから買ってきなさいよ!」

マリアちゃんは誤魔化すようにそう言い放つ。
僕は仕方ないので予め用意しておいた、缶紅茶を差し出す。

マリア 「な、何よこれ!? ぬるいじゃないの!?」

カミヤ 「僕も今回は最後まで見るよ! だからそれで勘弁!!」
カミヤ 「しっかりしたのは、また今度出すから!!」

マリア 「もう…変な所で頑固なんだから!」

結局マリアちゃんも渋々缶を開けた。
飲むことは飲むのね…律儀だなぁ〜



………。



ミカゲ 「ガァァッ!!」

ハルカ 「さっすがにしぶといわね…名のある格闘家でも数度は死んでる攻撃なんだけど…」

ドギャァッ!!

私は起き上がったミカゲの腹部に横蹴りを入れる。
もちろんは気は込める、ただの打撃じゃ通用しないのはすでにわかってる。
私の能力で相手の体力はわかる…けど、あまりに今回はおぼろげだ。
体力が定まって無いって言うか…段々上がってる?

ミカゲ 「シャァァッ!!」

ブシャァッ!!

ハルカ 「!?」

突然、ミカゲはその場から消える。
まるで黒い血を噴出したかのようなエフェクトでミカゲはその場から姿を消したのだ。
しかも…気配が完全に消えてる。
私でも察知できないなんて…ちょっとマズイ?

ザシュゥッ!!

ハルカ 「!? な、何よ突然!!」

何も気配を感じないのに、突然背中が切り裂かれた。
当然、ミカゲの姿は見えない。
私は切り裂かれた背中から血が出るのを感じる…ヤバイじゃない。

コウリュウ 「ハルカ! 相手は、どうやらこの世から姿を消してるみたいだぞ〜!!」

ハルカ 「師匠!? この世からって…」

サヤ 「別の世界から直接攻撃しているんです!! こちらから攻撃することはできません!!」

今度はサヤちゃんが観客席から説明してくれる。
気が着くとサヤちゃんは目を開いていた…つまりは、それほどの事態か。

ハルカ 「別世界からって…人外過ぎるでしょ! どうやって攻撃すんのよ!!」
ハルカ 「っとぉっ!!」

バヒュゥッ!!

私はその場から反射的に離れ、ミカゲの攻撃を回避する。
あっぶな〜…当たったらヤバイって!

コウリュウ 「お前…よくかわせるな」

サヤ 「ハルカさん、見えてるんですか? あれ…」

ふたりが呆れた顔で私を見る。
私はとりあえず簡単に答えた。

ハルカ 「う〜ん、攻撃の瞬間、何か殺気を感じるのよね…あ〜これこれ」

ヒュッ! ドバァッ!!

私が移動したと同時、私のすぐ横から何か黒い気が放出される。
ミカゲの攻撃は殺気に満ちている…別世界といえども、攻撃はこっちに来るんだから、読むことは不可能じゃないってことね。

サヤ 「はぁ…感心しますね、ハルカさんには」

コウリュウ 「やっぱオメェはにんげんじゃねぇわ…」

ハルカ 「何よふたりして! 大体、私がこんなんなったのは師匠が…とぉっ!!」

ドバァンッ!!

私は再び攻撃を回避する。
やれやれ…ミカゲの奴チキりおって。
15年変わらぬ完成されたスタイルを更にチート性能にした感じね…これからは待ちミカゲと呼んでやるわ!!

サヤ 「…とにかく、ミカゲさんの姿はカタナに開かせます! ハルカさんはそこに全力で攻撃を加えてください!!」
サヤ 「チャンスは、恐らく一度きりです…しくじったらもうどうにもならないかもしれません」

ハルカ 「…OK、好きにしてよ」
ハルカ 「一撃ね…じゃ、本気出しますか…そろそろ」

サヤ (まだ、本気じゃなかったんですか…!?)

コウリュウ 「やる気か…あれを」

ハルカ 「本当は使いたくないんですけどね…やった後、痛いから」

ドスッ!!

私は自分のこめかみに右親指を突き刺す。
衝撃で若干こめかみから血が流れ出るが、すぐに止まる。

サヤ 「こ、これは…」

コウリュウ 「竜凰拳・奥義『逆鱗孔(げきりんこう)』…特殊な秘孔を着くことにより、本来の限界以上に引き出すとっておきだ」
コウリュウ 「だが、強大な力は己をも蝕む…俺がやったら、3分もつかどうかだな」

サヤ 「そ、そんなに危険な…」

コウリュウ 「ハルカなら5分って所か…文字通り一発勝負になりそうだな」

ハルカ 「…! はぁぁぁ……」

私は全身から溢れる気を解放し始める。
こうなると、精神状態もちょっと危なくなる。
いわゆる、ボスモードと言う奴だ…手加減なんてできないわね。

サヤ 「カタナ!! お願い!!」

アムカ 「…もう、アムカだって言ってるでしょう!!」

ゴォワアァァァァァァァァァッ!!

ハルカ 「あれは…!?」

コウリュウ 「…『嵐を呼ぶ者』か」

サヤ 「ご存知でしたか…さすがはコウリュウさん」

コウリュウ 「外国じゃ、『ストームコーザー』って名で恐れられてる」
コウリュウ 「何でも、街ひとつを軽く消し飛ばしたんだとか…」

そいつは物騒だ…ってか、私よりヤバイんじゃないのそれ?

アムカ 「かぁぁぁ…っ!!」

メキメキメキィッ!!

アムカが手にした刀が次第にアムカの右腕を侵食し、同化した。
同時に刀は変貌を遂げ、異形の剣となる。
刀身が2メートル近くにまで大きくなり、アムカの右腕は異形の物質と化していた。

サヤ 「あれが、カタナの本当の姿でもあります」
サヤ 「私の破邪の剣『御剣』と対を成す、破魔の剣『嵐光(らんこう)』!」
サヤ 「その力は、ありとあらゆる物質を無に返し、異世界への空間すら引き裂く威力…」
サヤ 「ハルカさん! カタナの一撃に合わせてください!!」

ハルカ 「了解…全く、手間かけさせるわね…」

私はすぐに構えを取る。
一撃で決める以上、私の最高の技を繰り出すしかない。
師匠ですら、認めざるを得なかった、私の必殺技…

コウリュウ 「八ノ型か…ハルカオリジナルの構えだな」

サヤ 「オリジナル…ですか」

コウリュウ 「本来、竜凰拳には7つまでの構えがある、さっきまでハルカがやってたのは参ノ型だ」
コウリュウ 「だが、こいつはハルカがオリジナルで作った構えで、本当に一発用」
コウリュウ 「構えなんて呼べねぇな…ただ右拳で相手を倒しますよ〜って言ってるだけの構えだ」

師匠の解説通り、私は右拳を引き、ただそれだけで動きを止める。
この型に防御は必要ない、ただ攻撃して相手を倒すのみ。
ザラキさんの戦い方とある意味似ている…ただ違うのは。

コウリュウ 「こいつの特徴は、『やられる前にやる』だ」

アムカ 「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ブォッ!! バボォゥゥゥゥゥゥンッ!!

異質な音と共に、アムカの剣が何も無い空間を切り裂いた。
私はその先に向って突進する、すでに相手は見据えている。
異世界の先にミカゲがいることを私は確認し、そこに飛び掛る。
右拳を構え、ミカゲの顔面を打ち抜く。
同時に私の全身に溜めていた気が右拳から放たれ、ミカゲの脳を貫通した。

コウリュウ 「竜凰拳・秘奥義『空破衝(くうはしょう)』…竜凰拳最大の奥義のひとつであり、ハルカ持つ技では最大級の威力を誇る技だ」
コウリュウ 「本来は、遠くの相手を倒す技だが、ハルカはそれを零距離で放つことにより、一撃必殺の拳と変化させた」
コウリュウ 「ゆえに、この技はハルカオリジナルでもある、『零・空破衝(ぜろ・くうはしょう』!!」

ミカゲ 「……!! ア…ガ……アァァァァァァァァァッ!!!」

シュゥゥゥゥ…

ミカゲの体から黒い気が放出される。
私は異世界の地面を踏みしめていた。
重力の感覚が普通じゃない…何か、変な気分ね。

ミカゲ 「……ア……アァ………」

ハルカ 「…はぁ、時間無いし、とっとと帰るわよ!!」

ガシッ!

私はミカゲの肩を担いですぐにその場から元の世界に戻る。
てか…重っ! ミカゲ、何kgあるのよ!?

ダンッ!!

ハルカ 「ふぅ…到着!」

ドシャァァァッ!!

ミカゲ 「…ア」

コウリュウ 「…おい、本当に終わりか? 何か黒い気が充満してるぞ」

サヤ 「大丈夫です、後は私が…!」

ドスゥッ!! パァァァァァァァッ!!!

地面に倒れたミカゲにサヤちゃんは剣を突き立てる。
ヒビキさんの時と同じだ、サヤちゃんの光によってミカゲは徐々に元の姿に戻っていく。
しばらくすると、ミカゲは人の姿を取り戻した…ただし。

コウリュウ 「むぅ!? こいつは…」

ハルカ 「この外道がぁぁぁ!!」

ドギャァァッ!!

私はすかさず師匠の顎を『零・空破衝』で打ち抜く。
もちろん、それなりに手加減はしてだ…全く。

サヤ 「…ミカゲさん、意外にスタイル良かったんですね」

ハルカ 「全く、こんな姿男には見せられないわ…ん?」

私は裸のミカゲを隠すように立ち、ふと視線を感じて振り向く。



ユウキ (いや、見てない見てない…!)

ヒビキ (見なかったことにしておくか…)

エマ 「ほえ〜?」

ミク 「…全く」

私が睨むと、ユウキは『見てない』とジェスチャーを送る。
本当かしら…まぁ観客が引いただけでも、良しとしておきますか。

コウリュウ 「あたた…何も必殺技使うことねぇだろうに」

ハルカ 「足りないなら、もう一発でも叩き込みますよ?」

コウリュウ 「い、いやもう十分!! いらん! 断じていらん!!」

ハルカ 「だったら、せめて後ろ向けこの変態!!」

ズバァンッ!!

私は遠距離で『空破衝』を放ち、師匠を吹っ飛ばす。
全く、油断も隙も無い…これだからエロ中年は。

サヤ 「とりあえず、私のシャツを着せておきましょう」

ス…

そう言ってサヤちゃんはカッターシャツを脱ぎ、ミカゲに着せた。
とは言っても、サイズ差があるから下まで隠せないわよ…

アムカ 「じゃ、アムカは下をあげるね〜♪」

そう言って、アムカは下を脱いでミカゲに着せ始めた…ってこら!!

ハルカ 「あんたも一応年頃の女の子なんだから、あんまり無防備なことしない!!」

アムカ 「しかし、私はこんなこともあろうかとブルマーを履いているのだ!!」

そう言ってババーン!と効果音でも出そうな勢いでアムカは自慢し始めた…何でブルマ履いてるのよ!!

サヤ (と言うより、どんなことを想定して!?)

コウリュウ 「むぅ…女子高生のブルマ……」

ハルカ 「一片死んで来ーーーーい!!」

と、私は再び必殺技を放って吹っ飛ばす。
遠ければ遠いほど威力が下がるのが難点なのよね〜、まぁ私のは1km位軽く届くけど♪

アムカ 「あははっ、ハルカさんの師匠、面白い人だね♪」

ハルカ 「お願いだから、もうちょっと女の子として自覚してよ〜」

サヤ 「……」(赤面)

ミカゲ 「う……あ……」

アムカ 「あ、気が着いたね…」

ミカゲ 「…こ、ここは?」

サヤ 「…バトルフィールドですよ、色々ありましたが、おめでとうございます」
サヤ 「あなたが、優勝ですよ」

ミカゲ 「優勝……? わ、たし……が?」

カミヤ 「ミカゲ!!」

ダダダッ!

カミヤさんがミカゲの側に駆け寄る。
よっぽど心配だったのか、カミヤさんは涙ぐんでいた。

ミカゲ 「な、に…よ……メガ、ネ……曇ってる、わ…よ?」

カミヤ 「馬鹿!! こんなに心配かけて…! 僕がどれほど苦しんだか!!」

ミカゲ 「………」

ミカゲはカミヤさんの顔を見れずに俯いた。
今、彼女はどんな心境なのか…?
バトルで勝つには勝った…でも、ミカゲは自分に負けた。
そう…ミカゲは敗北したのだ、自分自身の力に。

ハルカ 「…ミカゲ、言いたいことは山ほどあるけど、今は病院に行きなさい」
ハルカ 「そんで、カミヤさんにう〜〜んと! 甘えなさい!」

ミカゲ 「…なっ!? わ、私は…そんなこと……」

マリア 「いいから、さっさと連れて行きなさいよ…全く」

カミヤ 「そうだね! 話は後だ!! 病院直行ーーー!!」

ドドドドドドドドドッ!!

慌しくカミヤさんはミカゲを背負って行ってしまった。
やれやれ…何とも疲れ……

ドシャァッ!!

サヤ 「きゃっ! ハルカさん!?」

アムカ 「ど、どうしちゃったの!?」

コウリュウ 「あらら…時間切れか」

ハルカ 「ぐ、ぐふぅ…これだから、嫌なのよ!!」

私は『逆鱗孔』の反動で倒れる。
全身が痛覚神経に覆われ、私はまさにリアル○鋭孔に…ヤバ…死ぬかも。

コウリュウ 「やれやれ…こうなると触ることもできんからなぁ〜」
コウリュウ 「とりあえず今日一日はここで寝とけ、痛みでピクリとも動けんだろうしな」

ハルカ (く、口も動かせないのよね、これ…!)

師匠は私の無様な姿を見て笑っていた。
少なくとも気が戻るまではこの状態が続く…一晩はこのままね。

コウリュウ 「…ほ〜れほれ」

ツンツン

ハルカ 「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」

コウリュウ 「ほら、面白れぇだろ!? 触っただけでこうなるんだぜ!!」

アムカ 「あ、悪趣味…」

サヤ 「さすが、ハルカさんの師匠ですね」

ノリカ 「ハルカ様ーーー!! 何と言うお姿にーーー!!」

ユウキ 「やれやれ…とんだ敗北者だ」

キヨミ 「でもまぁ、らしいって言うか…」

キヨハ 「全く、面白いわよね♪」

ジェット 「はははっ! やっぱ最後はオチがねぇとなぁ!!」

リベル 「あははっ、確かに!」

キッヴァ 「ふぅ…戦っている時とはこんなにギャップがあるのも珍しいですよね…」

ミツル 「とにかく、お疲れ様でしたハルカさん!!」

ランマ 「ホンマや…ようやったで、準優勝!」

エマ 「惜しかったですよね〜、もうちょっとだったのに!」

ヒビキ 「だが、本当によくやった…今回の結果は誰もお前を責めはしないさ」

ゴウスケ 「だははっ! こんなに笑えるのもハルカちゃんやからやろうしなぁ!」

結局皆が思い思い私を称えてくれた…一部除いて。
準優勝か〜…まっ、初めてのリーグでは上出来…か。



………。



ハルカ 「………」

ノリカ 「? ハルカ様?」

コウリュウ 「…そろそろ、そっとしてやるか、こいつも疲れたんだ」
コウリュウ 「まぁ、明日には目覚めるだろ…こいつの睡眠回復はカビゴン並だからな」

キヨミ 「それって、褒められてるのかなぁ?」

キヨハ 「うふふ…でも、わかりやすい例えね」

ノリカ 「よっしゃーーー!! ならば不肖ノリカがハルカ様の目覚める時までご一緒するであります!!」

アムカ 「よーしっ! 僕も一緒に寝るーーー!!」

そう言って、ふたりはハルカの隣に倒れた。
やれやれ…準優勝相手に馬鹿騒ぎね。

イータ (でも…答えは見れた、それで良しとしようかしら)
イータ (私は…生きている)
イータ (そして、私は今、ここに居る…)

私は、ここに居ていいんだと、自分で思った。
私に居場所はあっていいのか? それをずっと考えていた。
答えはどこにも無かった…ずっと同じ部屋で、ただ生きているだけ。
でも、私は自分の足で歩くことを知った。
そして、出逢った…こんなにも面白い人間に。

イータ (ふふふ…こんなに面白いと思ったのは、本当に久しぶり)
イータ (まだまだ…楽しませてもらえるんでしょうね、ハルカには)



…To be continued




Menu
BackNext
サファイアにBack サファイアにNext




inserted by FC2 system