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POCKET MONSTER RUBY



第97話 『才能をブッちぎる女』




『4月20日 時刻7:00 サイユウシティ・ポケモンセンター』


店員 「はい、あなたのポケモンは元気になりましたよ♪」

エマ 「あ、どうもありがとうございます!」

私は今日も早朝からバトルの繰り返し。
ポケモンリーグは終わり、もうほとんどのトレーナーはここを去って行ったけれど、私はここに残っていた。
他にも何人かは残ってバトルなどをしているみたいで、私はそんなトレーナーたちに混じってバトルを繰り返していた。

エマ 「…はぁ、でもやっぱ勝てないなぁ〜」

いつものことだが悩みの種だった。
自慢じゃないが、私はバトル経験なら下手なベテラン並…と自負している。
その戦跡は、トレーナー歴5年、戦績4989戦181勝4805敗4分け。
勝率にすると…考えたくも無い……orz
思えば、こんな戦跡の私がよく1次予選だけでも通ったなと思う。
実力テストではそこそこいい成績だったけど、実戦は何故か駄目。
私ってトコトンぶっつけに弱いんだよなぁ〜

エマ 「はぁ…」

本日、何度目かと言う溜息。
今日も今日で朝6時からバトルしたけど、5戦5敗…
シングル1対1を4戦とダブル2対2を1戦だ。
結局、ボロボロ…とまでは言わないけど、全員『ひんし』になって目の前が真っ暗になった…(笑)
持ち金もまた少なくなったなぁ…賞金も稼げてないし。
そもそも、私はバトルで稼いでいけない以上、バイトなどで維持している。
こっちに来てからも何度かやらせてもらっており、結構顔も覚えてもらっていた。
2次予選敗退してからは、スタジアムでバイトしたりしてたのでバトルもあまり見れなかったんだよね…
リーグ終わったし、バイト代ももうすぐ入るけど今はちょっと厳しいな。

キヨミ 「もう、行くの?」

キヨハ 「ええ、後は自分ひとりで大丈夫よ」

エマ 「あれ? あれって確か元チャンピオンの…」

私がふとセンターの出口を見ると、ふたりの女性が目に入った。
紛れも無く、そのふたりはリーグでハルカさんたちと戦った伝説のトレーナー!
私は気がつけばふたりに向かって駆け抜けていた。

キキィ!

などと靴のブレーキ音をさせながら、私はふたりに向かってまず挨拶を放つ。

エマ 「おはようございます! キヨミさん、キヨハさん!!」

キヨミ 「きゃっ!? な、何よいきなり〜」

キヨハ 「あら、あなたは確か……誰だったかしら?」

ズデンッ!!

と、私は思いっきりずっこけて、顔面から床にキスをする。
うぐぅ…ファーストキスはどうせ泥の味だったわよ……orz

キヨミ 「…はぁ、わからないならそれっぽい仕草しなけりゃいいのに」

キヨハ 「ふふふ…ついいつもの癖で♪」

などと、大人な笑みを浮かべていた。
私はその場でさっと立ち上がり、改めて自己紹介する。

エマ 「私! エマって言います!」
エマ 「2次予選で落ちちゃった落ちこぼれですけど、よろしくお願いします!!」

私はそう言って顔の汚れも払わないままお辞儀をした。
そんな私を見てか、ふたりは少し戸惑っているようだった。

キヨミ 「…で、私たちに何か用?」

エマ 「はえ?」

私は素で返す。
それを見てか、キヨミさんは呆れた顔で。

キヨミ 「はえ?じゃないでしょうが! 用があるから声かけたんじゃないの?」

エマ 「いえ! とりあえず挨拶しとこうと思ったので!!」

カクッ!と、キヨミさんはその場でよろけて見せた。
うむぅ…意外に冗談も対応するのか……私は本気だが。

キヨミ 「はぁ…もういいわ、で姉さんはどうするの?」

キヨハ 「どうするって…帰るわよ」

キヨミ 「…だよねぇ〜」

何だか、疲れた様子のキヨミさん。
一体彼女は何を期待したのだろうか?

エマ 「…キヨハさん、帰ってしまうんですか?」

キヨハ 「ええ、もう…全て終わったから」
キヨハ 「見届ける役目は、妹に任せるわ」

キヨミ 「うむ! しかと受け止めた!!」

そう言ってキヨミさんは無い胸を強調するかのように胸を張る…むぅ、それでも我より上かぁ!?

エマ 「………」

さわさわ…と私は自分の胸をまさぐる。
やってて哀しくなった…

キヨハ 「…それじゃあ、私は行くわね」

キヨミ 「ええ、後は私がちゃんと見るから」
キヨミ 「ハルカちゃんの戦いが終わったら、私もワカバタウンに戻るわ」
キヨミ 「…ヒビキさんと、コトネさんによろしくね」

エマ 「? ヒビキさん? それって、本戦で戦ってたトレーナーの…?」

キヨハ 「違うわよ、そっちのヒビキ『君』じゃなくて…こっちのヒビキ『さん』よ」

あえて『君』と『さん』を強調してくれる。
なるほど、別人か。

キヨハ 「…キヨミも知ってはいるのよね?」

キヨミ 「…双子のこと?」

キヨハ 「ええ、ヒビキさんと、コトネさんの子供たち」

キヨミ 「…そりゃ、知ってるわよ。名付け親だもん」

エマ 「へ? 名付け親なんですか?」

私は何となく尋ねてみる。
すると、キヨミさんは何故か悲しい顔をした。
私は、しまった…と心の中で思う。
触れてはならないことだったかもしれない。
だけど、キヨミさんはすぐに表情を変えて語り始める。

キヨミ 「私が初めてチャンピオンになった時、一緒に産まれた双子に私が名前を着けたの」
キヨミ 「…ひとりは、男の子で『ソウル』、もうひとりが女の子で『ココロ』」

キヨハ 「その子たちは、今もキヨミを目標に思い描いているのでしょうね…」
キヨハ 「今年のジョウトリーグでふたりとも初年でベスト4進出…優勝はできなかったけれど、素晴らしい成績よ」

エマ 「しょ、初年で…羨ましい」
エマ 「私なんか、5年目でもまだなのに…orz」

つくづく、天才はいるものだ…私みたいな盆栽…じゃなかった凡才は大変。
未だに予選すら勝ち上がったことが無いからなぁ…シクシク。

キヨハ 「…今年はどこも似たような物よ、『天才』…と言う言葉で区切るにはあまりにも多すぎる」

キヨミ 「そんなに多いの? そう言えばシンオウでもゴウスケを倒して優勝した子供がいたって聞いたけど」

エマ 「ゴウスケさんって…シンオウリーグ準優勝でトップコーディネイターですよね!?」

キヨハ 「そうよ、ちなみにトレーナーとして能力では私やキヨミとそう変わるものじゃないわ」

エマ 「!? 同等ってことか…」

私は驚愕する。
そんな実力者のトレーナーですら、優勝できないなんて…どんだけ分厚いんだシンオウリーグ。

キヨハ 「ちなみに、ゴウスケを倒した『ヒカリ』って子供は、今年のチャンピオン勢の中でもトップの天才らしいわ」
キヨハ 「10歳で、まだ1年目の新米だけど、その才能はミカゲ以上かもしれないわね…」

キヨミ 「!? あの、ミカゲ以上…?」

エマ 「ミ、ミカゲさんって…今年優勝した、ミカゲさんですよね? あれより凄いんですか?」

キヨハ 「…才能だけ、ならね」
キヨハ 「はっきり言って、ミカゲのレベルは図抜け過ぎているから、比較は難しいけれど」

キヨミ 「…才能、か」

エマ 「…嫌ですよね、才能だけで決まっちゃうなんて…それが無い人間は、落ちていくしかないみたいで」

私は俯きながら、思う。
才能って、何なんだろう? よく、漫画とかでは生まれた頃から、すでに運命は決まっている、とか言うけど。
それだったら私はもうこれ以上上には上がれないんだろうか?
私は生まれた頃からそうなる運命だったのだろうか?

キヨハ 「…必ずしも、才能のある物が上に立つとは限らないわ」

エマ 「…え?」

キヨハ 「かつて、ポケモンリーグを優勝した、ひとりの少年の言葉よ」
キヨハ 「ポケモンは愛情だ! だから信じた者が勝つ! そこに才能なんて物は存在しない」
キヨハ 「ただ、ポケモンを好きになれ! そうすれば、いつか勝てる!!」

キヨミ 「…確か、カントー出身のトレーナーだっけ? マサラタウン出身の伝説トレーナー」

キヨハ 「ええ、名は『サトシ』…今もどこかを旅してトレーナーを続けているって言う話よ」
キヨハ 「目撃情報は少ないらしいけど、つい最近はシンオウで目撃されたとも聞いたわ」
キヨハ 「リーグ挑戦はしてないみたいだけど、ジム巡りはやってるみたいね」

キヨミ 「彼が優勝したのが5年前だっけ? 11歳からトレーナー始めてるから、もう16歳か…」

エマ 「そうなんですか? だったら、私と同じトレーナー歴」

才能なんて、無い…か。
サトシさんは自分に才能があるとは思ってないんだろうか?
初年で制したんなら、十分凄いと思うけど。

キヨハ 「彼は、決して才能のあるトレーナーではなかったわ」

エマ 「…え?」

キヨハ 「サトシと言う少年はただ、ポケモンが好きなだけだった…」
キヨハ 「ピカチュウをオーキド博士から貰い、意気揚々と旅に出た」
キヨハ 「けれど、最初のジム戦でいきなり大敗…本人もかなり挫けたそうよ」

エマ 「…う、何かわかる」

あれは本当にきつい…私もサンダースを使うから、地面タイプ相手にどうしようも無かった時とかは泣きたくなる。

キヨハ 「でも、彼はそこで諦めなかった…彼は彼なりに特訓を繰り返し、突破方を見つけて攻略した」
キヨハ 「その後も、順調とは決して言えず、色んなジムでコテンパンにされてたそうよ…」
キヨハ 「その度に、彼はポケモンを信じて特訓し、ポケモンを信じて自分も強くなった」
キヨハ 「溢れんばかりの愛情を全てポケモンに注ぎ、気づけば彼が表彰台に立っていた」
キヨハ 「…思えば、ハルカちゃんと似ているかもしれないわね、前評判最下位って所とか♪」

エマ 「ハルカさんと、同じ…」

キヨミ 「そうね…そういう意味ではそうかも。でも、ハルカちゃんは…」

キヨハ 「ええ、恐ろしいまでの才能があったわ…ううん、才能ではないかもしれないわね」
キヨハ 「強いて言うなら、『力』…ハルカちゃんには勝つための『力』が存在しているのよ」
キヨハ 「そこには才能と呼べるものは無いわね…ハルカちゃんに才能があるならもっと楽に勝ってきたわ」

キヨミ 「…そうね、そうかも」
キヨミ 「私も、才能はあるって皆から言われたけど、実際にはそうでもない気もするのよね〜」

キヨハ 「その言葉、リボンでも着けてそっくりあなたに返してあげるわ」
キヨハ 「あなたに才能が無かったら私は今頃、首を吊ってるわね…」

キヨハさんは笑いながらそう言うが、全然冗談に聞こえなかった。
本気の目だ…あの人は絶対首を吊る!

キヨミ 「わ、悪かったわよ…」

キヨハ 「わかればよろしい…さて、思ったより時間を取っちゃったわね」

キヨミ 「あ、ホントだ…どうするの? 空飛んでいくの?」

キヨハ 「ううん、船でゆっくりと帰るわ…もう少し気持ちを整理したいし」

キヨミ 「そっか…気をつけてね?」

キヨハ 「ええ、あなたも…」

ふたりは笑いあって、別れる。
悲しそうな表情もしたけど、キヨハさんの背中は何故かしっかりと伸びていた。
彼女はこれから、どんな歩みをするのだろうか?

キヨミ 「…姉さんね、トレーナーを引退するの」

エマ 「えっ!? キヨハさんが…引退?」

キヨミさんはコクリと頷き、語り始める…

キヨミ 「元々、姉さんは負けたら引退と決めてたの」
キヨミ 「私に勝てるなら、トレーナーを続けるとも言ってたけど」
キヨミ 「結局、私どころか、ハルカちゃんに負けちゃって…姉さんはきっぱり諦めたみたい」

エマ 「そんな…それじゃ、さっきの話は…」

キヨミ 「…自分に対しても言った言葉」
キヨミ 「姉さんは、才能のあるトレーナーじゃなかったから」
キヨミ 「だから、余計に苦しんだ」
キヨミ 「諦めなければ、いつか上に立てる…でも、姉さんは10年経っても立てなかった」
キヨミ 「潮時と言えば、そう…21歳って言ったら、もう女性は家庭を持って、子供を育んでいてもおかしくない」
キヨミ 「だから、姉さんは実家に一度戻って、その後はブリーダーをやるそうよ」
キヨミ 「元々、ポケモンは大好きな人だから、やっぱりポケモンと離れたくはないんでしょうね」

エマ 「…ブリーダー、かぁ」

それも悪くないなぁ…と思ってしまう。
どうにも、トレーナーって、生涯トレーナー!って頑固者も多そうだけど。
実際にはそんな上手く行くわけも無い…家庭を支える人なら尚更だ。
私の両親も、トレーナーをやってたなんて話は聞いたこと無かった。
本当はやってたんだろうけど、ふたりはきっと途中で諦めたから。

エマ 「…私も、考えた方がいいのかな…引退」

キヨミ 「こらっ、冗談でも若い内はそんなこと言うな!」

コツンッ、と私は頭を小突かれた。
キヨミさんは少し厳しげな表情で言う。

キヨミ 「あんたはまだ若いし、決断するには早すぎる!」
キヨミ 「せめて、決断するなら男作ってからにすることね♪」

キヨミさんはウインクをしてそう言った。
私は俯きながら顔を紅くしてしまう。

エマ 「う…どうせ、男運なんて無いですし…こんな貧乳、誰も見向いてくれませんし…orz」

キヨミ 「…いいことを教えてあげよう、貧乳好きにロクな奴はいない!!」
キヨミ 「経験者の言葉よ、真摯に受け止めなさい!」

そう言ったキヨミさんは何故か不機嫌そうだった。
よっぽど嫌な経験をしたのだろうか?

エマ 「はぁ…やっぱり『きょぬう』にならねばならんのか……orz」

キヨミ 「同士よ! 気にするな!! 胸などその気になればあっという間にデカくなる!!」

そう言ってキヨミさんは両手を高く上げ、高らかに笑う。
私はその気迫に押され、こう返す。

エマ 「してキヨミ殿! その秘策とは!?」

キヨミ 「その名も豊凶…じゃなかった!! 『豊胸手術』!!」

エマ 「ぬ、ぬおお〜!? 『豊胸手術』〜〜!?」

私たちはふたりして恥ずかしいことを大声で言っている。
…ポケセンのど真ん中で。

キヨミ 「うむ! そもそも豊胸手術とはまず『バッグ』という物を使うらしい」
キヨミ 「豊胸手術に使用される豊胸バッグとは、別名『人工乳腺』と呼ばれ、これを胸部に挿入し、小さなバストを大きく美しくする」
キヨミ 「これが『人工乳腺法』…すなわち豊胸術と呼ばれるものらしい」
キヨミ 「この方法は、乳腺を傷つけることのない安全な方法で、術後の妊娠や授乳などに影響のない安心な方法とのこと…」
キヨミ 「バッグを挿入するには、脇下のシワに沿って、目立たない部分を最小限切開し、挿入」
キヨミ 「手術直後は若干の傷跡が残るが、時間が経てば自然に目立たなくなる…と」
キヨミ 「また、ダーマボンド(医療用接着剤)を使用すれば、抜糸の必要もなし!!」


<余談:ダーマボンド(医療用接着剤)とは、1999年にアメリカの旧厚生省が承認認可した医療用の生体接着剤で、通常の縫合と同等の仕上がりが可能だそうです>


エマ 「む、むぅぅ…してその効果はどれほどに!?」

キヨミ 「ふむ、経験者によると、ÅカップからCカップにまであげることは可能らしい」
キヨミ 「体系にも左右されるそうで、個人差はあるようね…」
キヨミ 「詳しくは専門医に尋ねよってことよ!」

エマ 「う…AAAカップの私ではそもそもどこまで上がるやら」

キヨミ 「……ってなわけで一緒にどう?」

やる気かい…そりゃ憧れはするのだが。

エマ 「…貧乏なんで当分無理です(泣)」

キヨミ 「あらら…それは切実ねぇ〜…まぁ私もそこまで貯金あるわけじゃないけど」
キヨミ 「まぁ、半分は冗談よ♪ 気にしないで」

もう半分は本気かい…
はぁ…何かどっと疲れた。

キヨミ 「こらこら…若いんだからシャキっとしなさい!」

そう言って、キヨミさんは無い胸をビシっと張る。
畜生…どうせ私はこれ以下よ!

男 「た、大変だ!!」

キヨミ 「!? どうかしたの?」

突然、20代位の男が店内に駆け込み、そう言い放つ。
キヨミさんはすぐに表情を真剣にし、男から状況を聞きだそうとした。

男 「ポ、ポケモンハンターだ!! ポケモンハンターが港を閉鎖して、ポケモンを奪ってる!!」

キヨミ 「港…ですって!?」

エマ 「キ、キヨハさんが危ないんじゃ!?」

キヨミ 「…姉さんが後れを取るとは思わないけど、不安はあるわね」

エマ 「私たちで行きましょうよ! 放っておけません!!」

私が力強く言うと、キヨミさんは頷く。

キヨミ 「そうね! 善は急げ! 行くわよエマ!!」

エマ 「はいです!」

私たちはそう言ってポケセンを駆け出る。
そして、私たちはそれぞれポケモンを出す。

ボボンッ!

エアームド 「エアッ!」
チルタリス 「チルルッ!」

キヨミ 「頼むわよエアームド!」
エマ 「チルタリス! 港まで突っ込めーー!!」

ポケモンに乗り、私たちは港へと向かった。
だが、すぐにいくつものポケモンが私たちの前に立ちはだかった。

ゴルバット 「ゴルルッ!!」
エアームド 「ムドーー!!」

キヨミ 「こ、こいつら!?」

エマ 「ハンターの迎撃部隊!? 滅茶苦茶多いですよ!?」

そうこう言っている間に、相手は一斉攻撃を仕掛けてくる。
ゴルバットの『エアカッター』やエアームドの『ラスターカノン』が空中を飛び交った。

エマ 「きゃぁっ!!」

キヨミ 「ちぃ!! 調子に乗るんじゃないわよ!! エアームド『こうそくいどう』!!」

エアームド(キ) 「エアッ!!」

ビュンッ!! ゴオオオオオォォォッ!!

キヨミさんのエアームドは凄まじい速度で全ての攻撃をかわしていく。
とてもあんな真似は私にはできそうもない。
私は高度を下げ、地上から走り抜けることにした。

ザッ!

エマ 「戻ってチルタリス!」

シュボンッ!

私はチルタリスを戻し、別のポケモンを繰り出した。

ボンッ!

サンダース 「ダース!!」

エマ 「よしっ! 行くよサンダース!! いつもみたいに『駆け抜ける』!!」

タタンッ!!

私は靴に仕込んである『スイッチ』を押すことにより、靴底から『ローラー』を出す。
私の奥の手で、これにより私のスピードはマッハ自転車を超える!!

エマ 「バッ! ビューーーーーーーーンッ!!」

ゴゥッ! キュィィィィィィィィィィィィンッ!!!

サンダース 「ダーーー!!」

タタタタタタタタタッ!!

私は靴から軽くジェット噴射を行い、凄まじいスピードで港まで駆け抜けていく。
途中、いくらかポケモンがいたけど、全て回避して見せた。
空中じゃともかく、地上ならこんなもんよ!

ビュンッ!!

エマ 「ひゃっほぅ! 道路に出たわよ!!」

ここからは道も広くなり、車も通る。
空中ではキヨミさんがドッグファイトをしている…どこぞのヴァルキリー小隊かあの人は。
私はとりあえず、一気に地上を駆け抜けた。



………。



警官A 「えっと、これで速度が計れるんですよね?」

警官B 「そうだ、サイユウって言っても、違反はあるからな…道が広いからって飛ばす奴も多い」
警官B 「一応、規定速度を超えたら、即止めるからな? 見落とすなよ…」

警官A 「はい…えっと、これでOK、これって何キロまで測定できるんですかね?」

警官B 「そうだな…ざっと300キロ位までだ、まぁそんなスピード出せる車なんて普通無いだろうが」

エマ 「イ〜ヤッホゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーー!!!」

バァンッ!!

サンダース 「ダーッス!!」

バビュンッ!!

警官A 「うわっ!? 壊れちゃった、何で?」

警官B 「……ありえん(笑)」



………。



エマ 「っしゃあっ! 港到着!!」

サンダース 「ダスッ!!」

サンダースは少し息を切らしていた…そりゃそうか、全速力でここまで来たもんね。

エマ 「ほいサンダース、いつもの『モーモーミルク』♪」

サンダース 「ダース♪」

私たちは体力回復に『モーモーミルク』を飲む。
疲れた時はこれが一番! 『いいキズぐすり』よりも効果あるんだから!! …理由は不明だけど。

ザワザワ…

港では客たちが立ち往生していた。
ハンターの姿もチラホラ見える、全員女性だ。
げ…銃持ってる、かなりヤバイかも。

エマ (どうしよっかなぁ…来てはみたものの、分が悪く感じてきた)

さすがに武装した相手に正面から戦うのは愚の骨頂だ。
とはいえ、搦め手で戦えるほど私は頭良くない。
せめて、ボスを見つけて倒せれば…

? 「ホールドアップ…」

エマ (やられた…! もう見つかったか!!)

隠れていたけど、あっさり見つかってしまった。
私は両手を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

? 「そのまま、こっちを向いて…」

エマ 「く…」

私が振り向くと、そこには驚く姿があった。

キヨハ 「Bang♪ アハハッ! 驚いた?」

キヨハさんだった。
心臓が止まるかと思った…この人、何考えてんのよ〜……orz

エマ 「もう…心配したんですよ? 奴らに捕まったかと…」

キヨハ 「大丈夫よ、これでも、元マグマ団幹部だったんだから…こういう手合いは慣れてるわ」

さりげに凄いことを聞いた気がした。
とはいえ、この場合頼もしくも思える。
私たちは、すぐにこれからどうするかを相談した。

キヨハ 「…キヨミが空中で引き寄せてくれているのは助かるわね」

エマ 「でも、どうするんですか? ボスを見つけて倒すにも、居場所がわからないと…」

キヨハ 「それは大丈夫よ、奴らがポケモンを奪っているのはあくまでダミー…本命は別にあるみたいだわ」

エマ 「本命…?」

キヨハ 「詳しくはわからない…でも、ポケモンじゃないのかもしれないわ」

? 「教えましょか? 折角やし…」

突然後ろから声…それも関西弁だ。
私たちは底に注目すると、やけに煌びやかな顔立ちをしたイケメンが立っていた。

キヨハ 「ランマ! あなた、知っているの?」

ランマ 「って言うか、関係者やな…ちょいと、トラブルですわ」

ランマと呼ばれたイケメンはキヨハの知り合いのようだった。
身に着けている服は割とラフな格好でガタイは悪くない。
って言うか、むしろがっしりしている…何かスポーツでもやっているのかと思うほどだ。

キヨハ 「…レンジャーの仕事?」

ランマ 「いや、そうやあらへん…イータがさらわれてもうた」

キヨハ 「!? イータって、前に一緒にいた少女?」

ランマ 「せや…奴らの狙いはイータみたいなんや」

わからない単語がいくつか出てくる。
イータ? 少女? そもそもレンジャーって…?

キヨハ 「…解せないわね、何でその娘なの?」

ランマ 「…話すと長くなるわ、簡潔に言うなら、『上はほぼ黒』、や」

キヨハ 「!? なるほどね…組織絡みか、その娘…特異な力でも持っているの?」

ランマ 「特異だらけや…挙げてくとキリありまへん」
ランマ 「イータは船乗せて移動させるつもりやったけど、そこを狙われてもうた」
ランマ 「今頃は船の中やな」

キヨハ 「船で逃げるつもりなのかしら?」

ランマ 「いや、それはない…最終的には飛行船で脱出するやろ…奴らの手口やからな」

何か、私空気だ。
どこかの誰かさんが空気は個性と言っていたが、この場合私は個性なんだろうか?

キヨハ 「…やはり、囮か」

ランマ 「ワテもそう思いますわ…どっかで必ず移動させるはずや」
ランマ 「ワテがやるなら…」

キヨハ 「船で脱出と見せかけ、別働隊で移送…ね」

ランマ 「ご名答…組織絡みな以上、失敗は許されへん…裏の裏のそのまた裏を敷く位はやるやろ」
ランマ 「相手も、プロやさかいな…」

キヨハ 「…ポケモンハンター『コキュトス』か、噂に聞くけどそんなに凄いの?」

ランマ 「…大将のカイーナはトレーナーとしても十分過ぎる位やな、あんさんやゴウスケといい勝負するで」

エマ 「げ…伝説クラスってことか」

ランマ 「ところで、この娘はどないしたん? 確かエマ選手やったっけ?」

エマ 「わ…覚えてもらえるなんて驚きです」

見た所、ランマさんも相当凄い人だと思うけど…私の名前を覚えてもらえるなんて♪

ランマ 「結構有名やで? ポケモンリーグのバイト番長って」

それを聞いてキヨハさんはクスクスと声を抑えて笑う。
どうせそうでしょうよ……orz

ランマ 「自己紹介遅れましたな…ワテ、こういうもんどす」

ランマさんはそう言って懐から名詞を出す。
それを見て私は…

エマ 「え〜と…うええっ!? ランマさんってお偉いさん!?」

ランマ 「しっ! 声でかいわ自分…気づかれるで?」

キヨハ 「大丈夫よ、見張りはいないわ」

そう言ってキヨハさんがフォローしてくれる。
何か、予想されてたみたい。

エマ (まさかRMUのお偉いさんとは…)

ランマ 「…ん? 奴ら動き始めましたな」



ハンターA 「さぁ、行くぞ!!」

ハンターB 「船を出せ!! これで任務完了だ!!」

ブオオオオォォォォッ!!

汽笛を鳴らし、船が出港を始める。
キヨハさんたちの読みではこれが囮…果たして?

ランマ 「ほな、こっちは任せますわ…ワテは船に潜入するさかい」

キヨハ 「わかったわ…気をつけてね?」

ランマ 「心配いらへん…それより、イータのことよろしゅう」

バッ!

そう言ってランマさんは素早く飛び出していった。
は、早いなぁ…手馴れてる感じ。

キヨハ 「…さぁ、私たちも動くわよ?」

エマ 「え? でもどこに…」

ブウゥオボッ!!

エマ 「わっ!? いい車!」

気がつくと、ハンター2名は車に乗り込んでいた。
どうやら、あれで本拠に帰る…ということだろう。

キヨハ 「…白のFCか、相当速そうね」

エマ 「RX7ですよね? 確か…かなりいじってそうですね〜、音もそれっぽいし」

オオオオオォォゥッ!!

凄い音を経て、車が走り始める。
さて、追いかけますかね〜

キヨハ 「行くわよ、エマちゃん! 早く乗って!」

ボンッ!

エマ 「うえぇっ!? 何で車がぁ!?」

キヨハさんはポケモンを出すかのごとく車をポンッと出してみた。
しかも、これって…

エマ 「黄色のランエボV!?」

キヨハ 「早く! 見失うわ!!」

私はそう言われて、車に乗り込む。
当然シートベルトは着ける…嫌な予感がするからだ。

ゴァッゴッ!!

そんな音を立ててエンジンが回り始める。
ヤバイ…絶対これ速い。
直感的にそう思えた。

キヨハ 「行くわよ!」

ギャアアァァァァァッ!!

エマ 「うひゃおわぁ!!」

凄い加速だわこれ…私の方が速いけどね♪(にやそ)



………。



ギャアアァァァァァッ!! ギャン! ギャァンッ!!

ハンターA 「ちょっ!? 後ろから何か来るよ!?」

ハンターB 「冗談! 追いつけるわけないわ!」

ゴシャァアッ!! ギョアンァァァッ!!

エマ 「うひゃぁ…相手も速いなぁ」

キヨハ 「この先は、立ち入り禁止区域ね…大丈夫かしら?」

エマ 「向こうもあんな感じですし、いいんじゃないですか?」

って言うか、言わなくてもやる気でしょアンタ…
キヨハさんはうっすらと笑みを浮かべ、一気にアクセルを踏んだ。

ギャァァァァッ!! パァンッ!!

エマ 「ちょっ!? 何か鳴りましたよ!?」

キヨハ 「気にしなくていいわよ! そう言う物だから」

そう言う物って…そんな簡単に『ミスファイアリングシステム』を積まないでください…
ちなみに解説すると…ミスファイアリングシステム(アンチラグシステム)とは。
ターボチャージャーによる過給エンジンにおいて、アクセルオフ時に発生する負圧による過給不足を解消するシステム
アクセルオフ時に混合気を故意に失火(ミスファイア)させる事で、排気タービン直前において燃焼を起こさせる。
それによって排気エネルギーの不足を補うことにより、コンプレッサーの回転が低下する現象を回避させる事からこの名称で呼ばれている…とのこと。
主に競技自動車に用いられており、 中低速の加速力を重要視するWRC等のラリーやダートトライアル。
また、ジムカーナなどの低速重視やドラッグレースなどのゼロ加速でその有効性を発揮する事が多いらしい。

エマ (まぁ、要するにスピードアップに役立つ、と…)

しかしながら、このシステムやたらとやかましい…。
使用上仕方ないとはいえ、爆発音にも似たこの音はあまり公道で使うもんじゃないと私は思う。

パァァンッ! パァンッ!!

ハンターA 「何よアレ…? 後ろでパンパン鳴ってるわよ!?」

ハンターB 「やかましい車ねぇ…このままぶっちぎってやるわ!!」

ギャァァァァッ!!

キヨハ 「思ったよりもやるわね…素人じゃないのは見てわかったけど、そこそこに走れるみたいね」

エマ 「ってか、この車で抜けないのは相当おかしいかと…」

明らかにこの車はレースとかラリーで使うようなタイプだ。
少なくとも一般車ではありえない。

キヨハ 「やれやれ…しかたないわね、2WDで4WDには勝てないってこと教えてあげましょうか♪」

ヤバイ…この人マジだ。
何か変なスイッチ入っちゃってますよ〜?

ギャアアアァァァンッ!! パァンッ!!

ハンターA 「ちょっと! 後ろぴったりくっつかれてるよ!?」

ハンターB 「黙ってて!! 抜かせるもんですか!! 4WDでこの峠道は簡単に曲がれないでしょうが!!」

ギャアアアァァァッ!! ゴオオゥッ!!

相手のFCは軽く際どいラインを攻めていく。
う〜ん、4WDが速いのはわかるけど、さすがにこのカーブは…

キヨハ 「4WDが曲がらないなんて言うのは時代遅れよ…私のエボVは曲がるわ!!」

ギャァァァァッ!! パァンッ! パァンッ! パァンッ! ゴワッシャァッ!!

ハンターA 「!? そんな!! 大外から抜く気!?」

ハンターB 「ふざけんじゃないわよぉ…!! 何てパワーなのよ!!」

ギュワアアアァァァァッ!! ドッギャァァァァッ!!

ハンターB (駄目だ! こっちよりも曲がるのが速い…!!)

ハンターA (立ち上がりの速度も段違いだ…! カウンターアタックでやられる!!)

ギャアアァァァッ!! パァンッ!!

S字の連続をキヨハさんはあっさりと制し、相手の車を置き去りにしてしまった。
相手はそのまま戦意喪失という所だろう…ガクッとスピードが落ちた。
勝負は…決まったのだ。

エマ (って! どんな走り屋だよ!? これポケモンの話よね!?)

今更だが、暴走しすぎだろ…読者着いて来れんて。



………。



キィィィッ!! ガチャッ!

キヨハ 「…さて、どうしましょうかね?」

ハンターA 「くそ…何が目的だ!?」

エマ 「さらった女の子! 返してもらうわよ!!」

ハンターB 「ふざけるな! そんな物は知らん!!」

相手はシラを切ってきた。
むぅ…確かに証拠は無い。
こっちにはそれを確かめる術も無いしなぁ…

キヨハ 「ところで荷物はいいの? 車を開けっ放しにするのはマズイわねぇ…」

ハンターA 「えっ!?」

エイパム 「エイパッ!? パパッ!!」

ガササッ!!

FCの方を見ると、エイパムがわさわさと逃げる。
もう色々やられたようだ。

ハンターB 「うきゃぁッ!? 人の車に何すんのよ!!」

ハンターA 「ちょっ! 追いかけるわよ!?」

ダダダダダダッ!!

ふたりはあっさりと追いかけてしまった…何だかなぁ。

エマ 「追いかけるんですか?」

キヨハ 「まさか…荷物はここにあるもの」

そう言ってキヨハさんは開けっ放しのドアから一際大きなトランクを外に出した。
丁度小さな子供が入れる位の大きさだ、この中にイータって娘が?

ガチャ…

イータ 「…何? 着いたの?」

キヨハ 「…意外と冷静なのね」

イータと言う少女は特に表情を変えることも無く、外に出てくる。
何て言うか、全然子供っぽくない。

イータ 「…何だ、助けられたのね」
イータ 「意外と速いし…」

イータはそう言ってこっちを流し見る。
何だか、キヨハさんを見て、少し呆然としていた。

イータ 「………」

さわさわ…

イータは何故か胸の辺りを撫でる。
ああ…気持ちはわかるわよ、痛いほどに。

エマ 「で、どうします? とりあえず離れましょうか?」

キヨハ 「そうね、とりあえず目的は達成したし、これで…!? 伏せて!!」

イータ 「!?」

ドサッ! ドガァァァァァンッ!!

エマ 「な、何っ!?」

突然、キヨハさんはイータを押さえて地面に伏せる。
瞬間、爆発音。
いきなりのことに私は状況を理解できてなかった。
だけど、すぐにその正体がわかる。

カイーナ 「ふん…わざわざご苦労なことだな」

キヨハ 「…なるほど、あなたが大将さんね」

そう言ってキヨハさんは立ち上がる。
相手はいかにも…といった感じだ。

アリアドス 「アリアッ!!」

なるほど、爆発の正体は『ヘドロばくだん』か…アリアドスが放っていたのね。
見た目だけでも相当強そうな感じだ…いかにもって感じ。

エマ 「よし! 虫タイプには岩タイプだ!! 行け『ノズパス』!!」

ボンッ!

ノズパス 「ノズパ!」

私は相性で攻めることにする。
とにかく、この相手を倒しさえすれば…!

カイーナ 「ふん…その程度のポケモンで戦うつもりか?」

エマ 「何をー!? ノズパス『いわなだれ』!!」

ノズパス 「ノズッ!!」

ドガガガガッ!!

アリアドス 「アリッ!」

ササッ!と、アリアドスは軽く回避して見せた。
ヤバッ…こんな速いとは…

キヨハ 「迂闊に突っ込んじゃ駄目よエマちゃん! 相手は相当上のレベルと思いなさい!!」

カイーナ 「ふ…『ギガドレイン』」

アリアドス 「アリーー!!」

ギュゥゥゥゥンッ!!

ノズパス 「パ! パパ〜!?」

アリアドスは口から糸のような物を吐き、ノズパスに巻きつけて体力を奪い取る。
マズイ! 効果抜群の技だ!!

エマ 「くっそ! ノズパス『パワージェム』!!」

ノズパス 「ノ、ノズッ!!」

ギュゥンッ! バァンッ!!

カイーナ 「かわせ」

アリアドス 「アッ!」

シュバッ! ドォンッ!!

またしてもかわされてしまう…くっそ、アリアドスは遅いポケモンなのに。
こっちの方が遅いのは仕方ないけど、あんな風に素早く動かれるのは厄介すぎだ。

エマ 「ノズパス! 『がんせきふうじ』!!」

ノズパス 「パッ!!」

ドガッ! ズドンッ!!

アリアドス 「ドッ!!」

エマ 「よっしゃ! 当たった!!」

これでアリアドスは動きを封じられた。
後は追撃で一気に……

カイーナ 「『バトンタッチ』」

シュボンッ!!

あっさりと逃げられる…くっそ〜〜……orz
あんな技も持っていたなんて…侮れないなぁ本当に。

カイーナ 「出ろ『カブトプス』、『アクアテール』!!」

ボンッ!

カブトプス 「カブッ!! プーッス!!」

バシャァンッ!! ドガァッ!!

ノズパス 「パ…ッス」

すかさず出てきたカブトプスにあっさりとやられるノズパス…速過ぎでしょさすがに。

エマ 「くっそ! 戻ってノズパス! 出るのよ『ノクタス』!!」

ボンッ!!

ノクタス 「ノック!」

カイーナ 「…セオリーか、いい加減鬱陶しいな」

キヨハ 「駄目よエマちゃん! そのカブトプスは…」

エマ 「へ?」

ザシュシュゥッ!!

ノクタス 「タ……」

ドシャァッ!!

エマ 「何ーーー!?」

ノクタスはあっという間に『シザークロス』を食らって退場。
何であんなスピードが出るのよ!? ドーピング!?

キヨハ 「アリアドスが『こうそくいどう』を『バトンタッチ』しているのよ!!」
キヨハ 「通常の倍の速度と思いなさい!!」

エマ 「そういうことか…!!」

これであのおかしな速度も納得いった。
前もってアリアドスが『こうそくいどう』していたのか、道理で速いはずだ!!

エマ 「だったら、スピードにはスピード!! 出ろ『ザングース』!! 『インファイト』!!」

シュボンッ! ボンッ!

ザングース 「ザーーンッ!!」

シュバッ!

カイーナ 「迎え撃てカブトプス! 『ばかぢから』!」

カブトプス 「プーーッス!!」

ヒュンッ!!

2体が高速で近づき、互いに高威力技を狙う。
スピードには自慢のあるザングースだ、ここは一気に…

ドガッシャァッ!!

ザングース 「グ…」

エマ 「あちゃあ……一発かよ」

シュボンッ!

何とも言えない…こうまで差があるのか。
スピードには自信あったのに、粉々だ…

エマ 「だったら、もうこの娘で行く! 『サンダース』!! 『スパーク』!!」

ボンッ!!

サンダース 「ダーーッス!!」

ダダダダッ!!

カイーナ 「む!? 速いな!」

カブトプス 「プ…」

ズドォンッ! バチバチィッ!!

サンダース 「サンッ!!」

サンダースは飛び出して速攻、相手に動かれる前に片を着けた。
ヨシッ! よくやった!!

キヨハ (あの娘…もしかして)

カイーナ 「やれやれ…手間をかけさせるな! 『グライオン』!!」

ボンッ!

グライオン 「グラァッ!」

エマ 「おっ!? 飛行タイプ!! もらったぁ!! サンダース『10まんボルト』!!」

キヨハ 「ちょっ…!!」

サンダース 「ダーーーッス!!」

バチバチバチィッ!!

グライオン 「グラァッ!!」

ドガァッ!!

サンダース 「サンーー!!」

エマ 「嘘っ!? 直撃なのに!?」

グライオンは電気にまるで怯まず反撃の『だましうち』を行ってくる。
それほど高威力な技じゃない…確実に当てに来たって感じだ。

サンダース 「ッス!」

エマ 「よし! 反撃よ!! 電気が駄目なら『シャドーボール』!!」

サンダース 「ダーー!!」

ドギュゥゥンッ!!

サンダースは口から『シャドーボール』を放つ。
一直線に高速で向かうそれは確実にグライオンを捉えた。

カイーナ 「『はたきおとす』」

グライオン 「グラッ!!」

バァンッ!!

何と、グライオンはあっさりボールを叩き落としてしまった。
く…技同士の相性か。

キヨハ 「駄目だわ! 退くのよエマちゃん!! 勝ち目は無いわ!!」

エマ 「んなこと言ったって…! ここでやらなきゃ…!」

キヨハ 「駄目よ! 相性が悪すぎるわ!! グライオンは地面タイプなのよ!?」

エマ 「…なぁ〜んだ、それを先に言ってくださいよ♪」

キヨハ 「は?」

私はニヤリと笑い、相手を睨みつける。
そして、すかさずこう言う。

エマ 「いっけーーー!! 『めざめるパワー』!!」

カイーナ 「ちぃっ!! かわせグライオン!!」

サンダース 「サ〜ンーーー!!」

パァァァッ!! コォォォォォッ!!

グライオン 「グッ!? グラーーー!!」

コキィィンッ!!

私のサンダースの『めざめるパワー』は氷タイプ! これで幾重もの地面タイプを屠ってきたわ!!
相手が地面タイプなら飛行と合わせて4倍!! 耐えられるわけ無し!!

グライオン 「グ…グラッ!!」

エマ 「んな馬鹿な!? 耐えた!?」

キヨハ 「『はねやすめ』で半減されたのよ!! 気をつけて!!」

カイーナ 「やれ!!」

グライオン 「ガァッ!!」

ドッギャァァァァンッ!!

サンダース 「ダーーーッス!!」」

いきなり『じしん』が直撃。
私のサンダースにはもちろん直撃…とはいえ。

サンダース 「ダ……ッス!!」

キヨハ 「持ちこたえた!? あの威力を…」

カイーナ 「ちぃ…追撃だ!!」

エマ 「なめんじゃないわよ!! 『でんこうせっか』!!」

サンダース 「ダーーッス!!」

ギュンッ!! ドッガァッ!!

グライオン 「グ…ゥ!?」

カイーナ 「何をやってる! 叩き潰せ! 『シザークロス』!!」

エマ 「スピードで負けるなーーー!! 『めざめるパワー』!!」

グライオン 「グラーー!!」
サンダース 「ダーーー!!」

ブオッ!! パァァァッ!! コキィンッ!!

グライオン 「……ラ」

サンダース 「ッス……」

ドシャァッ!!

エマ 「よっしゃぁっ!! って、サンダース!!」

私は慌ててサンダースに駆け寄る、そしていつものように抱き抱え、いつものように…

サンダース 「サンサンッ!!」

エマ 「あう…つい、癖で……」

私はサンダースの針の様な毛並みに顔を貫かれる。
はう…痛い。

キヨハ (意表を突いたとはいえ、あのグライオンを倒した)
キヨハ (この娘…やっぱり)

カイーナ 「…くそ、戻れグライオン!」

シュボンッ!

キヨハ 「退きなさいカイーナ! これ以上続けるなら私が相手になるわ!!」

カイーナ 「……ちっ、まぁいいだろう。目的は半分達成した」
カイーナ 「今日はここで引き下がってやる」

そう言って、カイーナと言う女性は背を向けて去っていた。
う〜む、巨乳美人…羨ましス。

エマ 「…御免ね無理させて、戻って」

シュボンッ!

私はサンダースをボールに戻し、口元をハンカチで拭く。
あ、そう言えば…このハンカチ、ハルカさんに返さなきゃ…あの時借りパクしてしまったままだ。(汗)
結局また汚してしまったわけだけど…うう、洗いなおさなきゃ。

キヨハ 「…エマちゃん、よく頑張ったわね」

エマ 「うう…でもボロボロですよ結局5体やられたようなもんですし…相手を2体倒すのがやっと」

キヨハ 「十分よ…あの相手は普通じゃないもの、相性が良くても負けて当然の相手よ」
キヨハ 「エマちゃん…あなたには、確かに才能はないのかもしれない」

エマ 「う…それ位は自分でもわかってますよ」

今更のことだ、才能があったらきっと有名になっているだろう。

キヨハ 「ううん、違うわ…才能なんてあなたには必要ないの」

エマ 「え…?」

キヨハ 「あなたには、もっと大切な物をその心に持っているわ…」
キヨハ 「『勇気』って言う、最大の武器を…そして、『愛情』と言う最大の防具を…」

エマ 「勇気と愛気……」

キヨハ 「それは○ンパイルよ、エマちゃん…」

エマ 「うう…○EGAに吸収……orz」

少々マニアックになってしまったか?
まぁ、とにかくキヨハさんが言うには才能なんて飾りらしい。
私には、別の武器がある…かぁ。

イータ 「…誰か来る」

エマ 「おわっ! そう言えば君のこと忘れてた!!」

イータ 「…別にいいし、興味も無いもの」

エマ (うぐ…はっきり言われた…この娘きついなぁ〜)
エマ (うん? この展開前にもあったような…)

ハンターA 「ああっ!? やっぱりこっちにいたぁ!!」

ハンターB 「くっそ〜!! だましたな!?」

キヨハ 「あら…」

どうやら追撃が来てしまったうようだ。
しまった…とキヨハさんが表情を重くする。
しかし、こっちにはキヨハさんと言う最終鬼畜兵器がいる!! 雑兵など恐れるに足らず!!

キヨハ 「参ったわね…私、ポケモン持ってないのに」
キヨハ 「…エマちゃん、行ける?」

エマ 「逝くことならできそうです…」

って、この人ハッタリでアレを追い返したんかい!! どんだけ心臓太いのよ!!
こっちはせいぜいチルタリスがいる位…ふたり相手は無理すぐる!!

ハンターA 「とにかく取り返すわよ! 出なさい『カイリュー』!!」
ハンターB 「覚悟しろ! 『バンギラス』!!」

ボボンッ!!

カイリュー 「リュー!!」
バンギラス 「バンギッ!!」

ビュゴォォォォッ!!

エマ 「うきゃぁっ!? 滅茶苦茶強そう!!」

見るからに強そうなポケモン…って言うか診断結果『死亡』でしょコレ!?
この状況でどうやって……


ドッグォゥッ!!

カイリュー 「リュ!?」

? 「ガァァッ!!

ズッドガァァァァァンッ!!!

バンギラス 「ギ……」

ドズズゥゥンッ!!

何と…気がついたら、カイリューとバンギラスがあっさり沈黙。
ってか、あのポケモンって…

キヨハ 「ガブリアス!? まさか…」

? 「やれやれね…折角復帰したと言うのに、もう終わってしまったわ」

エマ 「あー!? あなたは!!」

? 「あら? 私のことを知っているの? うふふ…それはそうよねぇ〜、誰かさんと違って私は優雅だもの♪」

エマ 「誰でしたっけ?」

ドグワシャァッ!!

何か凄まじい音を立ててすっ転んだ…うわぁ、ドレス台無し。
後ろではキヨハさんが声に出さず体を震わして大爆笑している…やったウケは取れた!
私は心の中でガッツポーズを取る。

キヨハ 「ぷくくく…!!」

? 「そ、そこっ!! あからさまに笑いを堪えるんじゃないわよ!! それとあなた!?」
? 「私は『マリア』よ!! 覚えておきなさい! この愚民!!」

エマ 「はぁ…愚民っすか」

どうやら、相当な高ビーキャラのようだ。
まぁ、面白いから良しとしよう…♪

キヨハ 「あ〜、面白かった…それで、何の用?」

マリア 「別に用なんて無いわ、単に通りかかっただけよ」

エマ 「通りかかったって…ここ立ち入り禁止区域ですよ?」

マリア 「知らないわよ…私が通る道に文句を着けるなんていい度胸だわ」

ダメだ…この人いつか捕まる、てか捕まえて。

マリア 「折角、退院できたのだし、リハビリと思って適当に来ただけよ」
マリア 「面白そうな相手も見つけたし、ね…」

ハンターA 「ひぃっ!! コイツがマリア!?」
ハンターB 「あの悪名高い、破壊神!?」

ズダダダダダダーーー!!

ふたりはあっさりと逃げてしまった。
って、車置いてるぞ〜…

マリア 「何よ、不快ね…人のことを化け物みたく…

エマ 「いや、あながち間違ってないかと…」

少なくとも不意打ちであのポケモン2体を軽く1体で捻られては、反論もできない。
な〜んで上のトレーナー連中ってこんな化け物じみてるんだろ?
本っ当に…自信無くしそうだった。





………………………。





結局、この事件はこれであっさりと片が着いた。
相当なパニックも予想したけど、リーグは終わって人も少なくなることにより、大したことにはならなかったようだ。
私にとっては…本当に色々あった1日だったけど……



………。



キヨハ 「それじゃあ、元気でねふたりとも」

エマ 「はいっ! キヨハさんも、ブリーダー頑張ってください!!」

ランマ 「まぁ、あんじょうきばりや…あんさんなら絶対成功しますわ」

キヨハ 「ええ、ありがとう…ハルカちゃんやキヨミにもよろしくね」

エマ 「はいっ! きっと伝えます!!」

ランマ 「ほな、気ぃつけてな〜」

キヨハ 「ええ…また、次に会う時まで」

ランマ 「………」

ブォォォォォッ!!

船は汽笛を鳴らし、動き始める。
キヨハさんの姿はすぐに見えなくなってしまった…
ありがとうございます、キヨハさん……私に色々教えてもらって。
私、きっとまだ強くなれます、キヨハさんの言葉のおかげで。
だから、キヨハさんも頑張ってください…私も、頑張りますから………



…To be continued




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