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POCKET MONSTER RUBY 番外編T



『Final Mission』




『3月20日 時刻:10:00 サイユウシティ・RMUビル』


秘書 「…おはようございます、ランマ様」

ランマ 「おおきに、何か変わったことはありまへんか?」

ワテは、モロモロの手続き等を完了させ、ついこの間このサイユウシティにやってきた。
金髪のショートヘアーをして美人秘書が、ワテを出迎える。
全く…ええ趣味しとるわ。

秘書 「…特には」

ランマ 「ほうでっか…上からは?」

秘書 「特に何も…ランマ様については上も関わりたくないのでしょう」

秘書はんがそう言うと、ワテはクスクスと笑う。
まっ、ワテはどこ行っても嫌われもんですわ。

ランマ 「…まぁ、ええでっしゃろ」
ランマ 「ワテの出場手続き、問題ありまへんやろな?」

秘書 「…滞りなく」
秘書 「ランマ様がお忍びで出場なさることは、誰もお気づきになられないでしょう」
秘書 「…この私を除いては」

そう言って、彼女は不敵な笑みを零す。
なるほど…自身満々でっか。
せやけど…

ランマ 「…ここまで各地方飛び回って見てきたけど、今年はどの地方もバケモノ揃いや」
ランマ 「シンオウ、カントー、ジョウト…予想を遥かに超えたレベルアップを遂げとる」

秘書 「…ここホウエンも同様でしょう」
秘書 「伝説のチャンピオン、出場…それだけでもニュース誌は賑わうでしょう」

そう言って、彼女はワテに茶を差し出す。
ワテの好きな、ほうじ茶でっか…気が利きはりますな♪

ランマ 「あつつっ! …まぁキヨミ、キヨハの出場は想定内ですわ」
ランマ 「問題は…その他のトレーナーですわ」
ランマ 「シンオウ地方で、暗躍する『HP団』と関わりを持つトレーナーが3人」

秘書 「ミカゲ、マリア、ネロ選手ですね?」

ワテは頷いて茶をずずず…と飲む。
直接見たことはあらへんが、組織に関してはかなりヤバイようや…
アルミアの『セブン』と『ハーブ』が1度関わったそうやが…手がかりは何も無し。
あのふたりを出し抜けるほどの組織やったら、誰がやっても無理でっしゃろな。

ランマ 「…伝説と言う意味では『ザラキ』選手の出場も多き要因や」

秘書 「…20年程前でしたか? その当時の準優勝者と聞いておりますが…」

ランマ 「…ポケモンのレベルで言えば、現時点であの人に勝てるトレーナーはおりまへん」

秘書 「!! …それほどなのですか?」

予想以上に彼女は驚く。
ザラキはんも、今や伝説同様でっか…それだけ世に出てへんかったんやな。
せやけど、今年はそのベールを脱いだ…この意味は?

ランマ 「まぁ…ホウエン地方の現時点では、ですわ」
ランマ 「今年の各地方から輩出された『チャンピオン』なら、勝てるかもしれまへん」
ランマ 「…それ位、今年のチャンピオン勢は強いですわ」

秘書 「…シンオウ制覇の『ヒカリ』選手、カントー制覇の『ユキコ』選手、そして、ジョウト制覇の『クリス』選手ですか」
秘書 「いずれも、相当なレベルのトレーナーであり、全員共通で女性…なおかつ」

ランマ 「…全員がトレーナー暦1年未満っちゅうことですわ」

正直、これが一番気になる数字や。
ヒカリ選手に関しては、血縁からも納得のレベルやが…
他に2名はほぼノーマークや…ヒカリはんほどの前評判はあらへん。

ランマ 「…とはいえ、仮に彼女らがこのホウエンで出場していたら、どうなってるかはわかりまへんな」

秘書 「やはり…ルールの改正案は?」

ランマ 「通すで…上に伝えとき、時間やるさかいきっちり考えって」

秘書 「畏まりました、上にはそうお伝えしておきます」

彼女は一例をして、報告に向かおうとする。
だが、すぐにそれを遮るかの様な電話が鳴り響く。

トゥルルルルルッ!! ガチャッ!!

ランマ 「…こちらランマでっせ〜♪」

ワテはワザとらしく女声で応対する。
大抵、初対面の相手は確実に女と間違えるほどの美声やからな♪ ← 自分で言うな

? 『…相変わらずじゃな、ランマ君』

ランマ 「…その声、教授でっか?」

ワテは、『しもた…』と思いつつも、真面目に応対しなおす。
さすがに、知った相手から来るとは今回予想してへんかった。
てっきり、上の連中が先手打ってくると思っとったのに…

ランマ 「…で、わざわざ何の電話でっか? 『シンバラ』教授」

シンバラ 『うむ、折り入って頼みたいことがあってな…』

シンバラ教授…アルミアやフィオレを行き来して研究を続けている有名な人物だ。
現在、ポケモンレンジャーが扱っている『キャプチャ・スタイラー』の生みの親である。
ワテも、フィオレでレンジャーやっとった頃に、何度もお世話になっとる…いわば恩人や。

ランマ 「…教授がワテに頼みごととは、何かあるんでっか?」

ワテは少しカマをかけてみた。
教授は馬鹿正直屋からな…意味あらへんかも知れんけど。

シンバラ 『む? まだ、荷物は見ておらんのか?』

ランマ 「はぁ? 荷物って…」

秘書 「……」

秘書はんが黙ってワテ小包を渡す。
なるほど…これのことかいな。
ワテは受話器を片手に秘書はんに包装を解いてもらう。



………。



ランマ 「!? …教授、何の冗談でっか?」

シンバラ 『残念だが冗談ではない、私は至って本気だよ』

ワテは中身を見てから頭を抱える。
そこに入っていた物は、形こそ違えど、紛れもない『キャプチャー・スタイラー』だった。

ランマ 「…ワテは引退した身でっせ? こんなんもらえまへん」

シンバラ 『それはわかっている…じゃが、今回のミッションは君にしか頼めん』

教授の声からは、かなり切実なのが伝わってくる。
相当なミッションを予想できるわな…

ランマ 「腑に落ちまへん…現行のトップレンジャーにでも、やらせたらええんちゃいますん?」
ランマ 「わざわざワテが出ることはありまへんやろ?」

シンバラ 『…残念じゃが、トップレンジャーのほとんどは他のミッションで動くことができん』
シンバラ 『あの事件は…想像以上に傷跡が深いよ』

ランマ 「…それは、心中お察しいたします」

あの事件…フィオレ全体を揺るがした大事件。
『ゴーゴー団』と名乗る連中が起こした、大事件や。
去年の終わり頃、どうにかフィオレのレンジャーがその事件を解決した…
ワテもギリギリまでは関わっとったけど、上から嫌われとったさかい、詳しくは踏み込めなんだ。

シンバラ 『…ともかく、アルミア、フィオレ、共にトップレンジャーを出すことは不可能じゃ』
シンバラ 『だからこそ…君にしか頼めん』

ランマ 「…ヒナタはんはどないしたんでっか? 彼女の方が適任でっしゃろ?」
ランマ 「前のマナフィ事件後、レンジャークラス10をもらったって知りましたわ…彼女の方がどう考えても…」

シンバラ 『無理じゃ…彼女は若すぎる。今回のミッションは、単に優秀なポケモンレンジャーでは無理なのじゃ』
シンバラ 『ゆえに…君に頼むのじゃ。『ポケモントレーナー』でもある、君に…』

最後の方は、本当に申し訳なさそうな声やった。
ワテは教授に恩のある身…引き受けたいのは山々やが。

シンバラ 『頼む…どうか、引き受けて欲しい』
シンバラ 『下手をすれば、全世界の脅威に変わるやもしれんのじゃ』
シンバラ 『君なら引き受けてくれる、ワシは信じておる』
シンバラ 『ワシは忘れておらんよ、君が立てた誓いを…』

ランマ 「…昔の話ですわ」
ランマ 「今は、もう現役のようには…」

本当は嘘や。
体はそこまでヤワやあらへん。
まだや…教授はまだワテに隠しとることがある…
その情報を引き出すまでは受けられへん。

シンバラ 『……バトナージ、言えるのはそれだけじゃ』

ランマ 「!? それは…!! まさか…本気で言うてるんでっか!?」

秘書 「…?」

ワテは声を荒げたのを自覚し、抑える。
『バトナージ』…アルミアに伝わる言葉。
せやけど、この場で使うた教授のバトナージの意味は…

シンバラ 『確証はない…じゃが、君ならこの意味がわかると思っておる』

間違いあらへん。
教授は、疑っとる。
この回線は、上にも漏れてる可能性は高い…せやから、教授は『バトナージ』と言うた。
こっちの人間がこの意味を知っている可能性は低いからな。

ランマ 「…わかりましたわ、そのミッション引き受けまひょ」

シンバラ 『…すまん』

ランマ 「…謝らんといてください、ほな」

ガチャリ!

ワテは慌しく電話を切る。
これ以上は電話で話されへんやろ…
それに…

ランマ (…わざわざ手紙でミッションとはな)
ランマ (教授、ハナからワテが引き受ける思うとったんやろな…)

まぁ、実際引き受けたわけやが…。
わざわざ情報を隠したって事は、できるだけ知らん方がええってことやろな。
と…なると、事は恐らく急を要する。
可能な限り早せんとマズイやろな…

ランマ (内容自体は極めて単純…)
ランマ (ある、ひとりの『少女』を保護して欲しい)
ランマ (年齢は推定6〜7歳。金髪の髪に服装は黒のTシャツで、紺のズボン)
ランマ (トレーナーではないが、多数のゴーストタイプと一緒にいる…か)
ランマ (で、どこにおるか…場所は……『そらのはしら』)

ワテは内容を読み終えて、少々気を入れなおす。
どうやら、生半可なミッションやなさそうや。

秘書 「…行かれるのですか?」

ランマ 「…開幕までには戻るわ」
ランマ 「それまで、上からの苦情頼みますわ」

秘書 「畏まりました…ご武運を」

ワテはすぐに部屋を出て行く。
そして更衣室に向かい、できるだけ動きやすい服装に着替える。
ワテはその後、入っていた形の違うスタイラーを右腕に装備した。



………。
……。
…。



『時刻12:00 サイユウシティ・港』


ランマ 「…なるほど、そう言うわけか」

ワテは説明書を読みながら、新型のスタイラーを試していた。
このスタイラーは『ファイン・スタイラー』と言うらしい。
本来、各地のトップレンジャーに配布予定で、これはまだ試作品。
今回のミッションは、これのモニターも兼ねてのこと…っちゅうわけやな。

ランマ 「腕に直結で、ディスクは指と連動か…なるほど」

ワテは軽く振ってみる。
本体の重さが多少気になるも、従来のスタイラーに比べればスムーズにアクションが行えるだろう。

ランマ 「完成品には、パワーアップデータもアップロードする機能があるが、これにはそれは無し…か」
ランマ 「まぁ、試作品やから当然やろ…」
ランマ 「しかし…レベルアップの機能は搭載されており、使い込めばそれだけ気持ちも伝わりやすくなる…か」

以前、教授が考えとった、『パワー・スタイラー』の機能に近いな。
あれは、あまりにパワーが強すぎて、ポケモンの意思に関係なくキャプチャーを成功させてしまう、悪魔の機械やったが…

ランマ 「これは、心配なさそうや…さっすが教授、改善としては完璧やな」

ワテは説明書を大体読み終え、早速試してみることにする。
『そらのはしら』までは、多少距離がある…ここは移動に便利なポケモンで。

ランマ 「よっしゃ、行くで! 『キャプチャー! オン!!』」

バヒュンッ!! キュイイイイイイイイイイイイイイイィィィィンッ!!!

ペリッパー 「ペリ!?」

ランマ 「キャプチャ完了!!」

ワテは、久しぶりのレンジャーポーズを決める。
左手を胸の前に、そしてスタイラーを持つ右手を天に掲げる。
久しぶりやが…まぁこんなもんやろ。

ランマ 「気ぃ取り直して行くで! ペリッパー上昇や!」

ペリッパー 「ペリ〜!」

ワテはペリッパーの背に乗って移動を開始する。
ペリッパーは空の運び屋と呼ばれるポケモン…移動にも具合はええ。
幸い、水タイプでもあるからな…海に着水できる鳥ポケモンは重要や。

ランマ (とはいえ…目的地まで距離はある。今日中に着くのは難しいかもしれへんな)

着いたとしても、このペースでは次の日になってまうやろ。
シンバラ教授の言葉…裏があるなら、急がなあかん。





………………………。





そして、大体の予想通り、ワテは丸一日かけて『そらのはしら』へと到着した。



『3月21日 時刻13:00 そらのはしら』


ペリッパー 「ペリ〜」

ランマ 「おおきにな!」

ペリッパーはワテを降ろすと飛び去っていく。
ここまで休まずに運んでくれたのは助かったわ。

ランマ 「さて…本題は」

『そらのはしら』
天空へ突き抜ける高さを持った、ホウエン地方で最も『高い』建造物。
一般的には立ち入りを禁止され、RMUの許可なく入ることは許されない。
とはいえ、ワテにそんな制約はまるで関係あらへん…関係者やからな。

ランマ (…人の気配はない、ターゲットは上か)

外からでも強力なポケモンのプレッシャーが感じられる。
ここに住んでいる野生のポケモンはチャンピオンロードの比やない。
四天王クラスのトレーナーでようやく勝てるレベルのポケモンたちや…
代々、この地方のチャンピオンにはここへ立ち入る許可が与えられるらしいが…

ランマ (よもや、ワテが入ることになるとはな…)

正直、ワテのポケモンでもきついかもしれへん。
まとめて出られたら、対処できへんかもしれんな。

ランマ 「とはいえ…やらな話ならんわ」
ランマ 「これは…ミッションやからな! 行くで『ムウマ』!」

ボンッ!

ムウマ 「ムゥ〜♪」

ワテはムウマを外に出す。
ムウマはワテの一番のパートナーや。
レンジャー時代も、ようけアシストしてくれた。
今回も、こいつと一緒なら大丈夫や!



………。



『時刻13:10 そらのはしら・1F』


ランマ 「…うじゃうじゃいるわ」

ムウマ 「ムゥ…」

ワテは入り口の影から中を様子見る。
ネンドール、ジュペッタ、クチート、サマヨール…
いずれも強力やろな…強行突破は面倒やろ。

ランマ 「せやけど…野生は野生、対処の使用はあるわな」

コロコロ…

野生のポケモンたち 「!!」

ランマ (今や!!)

ワテは、ポロックを多数床に転がした。
それに目がくらんで、ポケモンたちは一点に集まる。
後はその間に駆け抜けるっちゅうわけや。
初歩的な方法やが、野生のポケモンやからこそ効果はある。
人に慣れてないだけに、な。



………。



『時刻13:15 そらのはしら・2F』


ランマ 「…足元が崩れとる」

ムウマ 「ムゥ…」

ちょっと触れれば、パラパラ…と地面は崩れそうだった。
一瞬だけなら乗れるかもしれへん…せやけどワテにそないな移動無理やろな。

ランマ 「…こういう時こそ、こいつの出番やな!!」

ワテは右手を構え、目標に向かって叫ぶ。

ランマ 「キャプチャー・オン!!」

ゴルバット 「ゴル?」

キュィィィィィィィィンッ!! ポカンッ!!

ランマ 「キャプチャー完了! 頼むで!!」

ゴルバット 「ゴルル♪」

バササッ!!

ワテはゴルバットの足に掴まり、階段の近くまで連れて行ってもらう。
しかし…ここはホンマに1Fのごとの天井が高い!
1Fと2Fだけでも50mは登ってるやろな…おかげで階段もごっつ長い!
そこそこでかいポケモンも生息してるさかい、この広さは納得やな…



………。



ランマ 「ゴルバット、おおきに♪」

ゴルバット 「ゴルルッ♪」

バッサバッサッ!!

ワテはゴルバットに礼を言うて先へ進む。
こんな調子で、6Fまで行くんか…こら体力使うで!



『3F』


ランマ 「ムウマ『あやしいひかり』や!」

ムウマ 「ムゥ!」

ボォ〜…

ジュペッタ 「ぺぺ〜…」



『4F』


ネンドール 「ネンドー!」

ランマ 「ドンカラス、アシスト頼むで!!」

ドンカラス 「ドンカッ!!」

ランマ 「飛行アシスト! ゴー!!」

ビュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオッ!!!

ネンドール 「ネ、ネンドー!?」

ワテはディスクを回転させ、竜巻を作り出す。
ポケモントレーナーなら、常にポケモンを連れ歩ける…せやからアシストも狙って繰り出せるのが強みや!
せやけど、その分アシストを一回使うと今度はしばらく使えん…今回のミッションではもうドンカラスはアシストできへんやろ…

ランマ 「キャプチャ完了!!」

ネンドール 「ネン…」

ランマ 「お疲れやドンカラス!」

シュボンッ!

ワテはドンカラスをボールに戻し、ネンドールの頭に乗る。
後は、これで移動だ。



………。



『5F』


チルタリス 「チルルー!!」

ゴオオォォォォッ!!

チルタリスは『りゅうのいぶき』でラインを攻撃してくる。
これは一筋縄ではいかんか!

ランマ 「くっ…頼むでラプラス!! 氷アシスト!!」

ボンッ!

ラプラス 「ラプーー!!」

ランマ 「行けーーー!!」

ワテはディスクを大き目のラインで回し、力を溜める。
チルタリスはその動きに惑わされ、攻撃態勢に入るが、もう遅い!

コキィィィンッ!!

チルタリス 「!?」

ランマ 「今や!!」

キュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!! ポンッ!!

ディスクから放たれた雪球がチルタリスに直撃し、チルタリスは凍って動けなくなる。
この隙に、ワテはキャプチャーを成功。
ふぅ…最期の手前で強敵やったわ。



………。



『時刻15:00 そらのはしら・最上階』


ランマ 「…何や? 風があらへん…」

ムウマ 「ムゥ…?」

最上階は屋上…気がつけば、雲の上にいた。
最期の階段だけ、異様な長さやった…1時間位は登らされただろう。
しかし、これだけの高さにありながら、風がひとつも吹いてなかった。
異質な空気に不気味さを感じながらも、ワテは目標の『少女』を見つけた。

少女 「……」

少女は、ただ太陽の光を一身に浴びていた。
硬い石でできた床に座り込み、正面から光を浴びている。
異様な光景だった。
何故…彼女はここにいるのだろう?
ここまで来るのに、ワテはそれなりに苦労した。
情報通り、あの少女はわずか6〜7歳の少女に見える。
せやけど、彼女はここにおる…一体何故?

ランマ (気になることは他にもある…何でRMUの上層部が、この少女を狙ってるかや)

教授の言った『バトナージ』…その本来の意味は『闇に沈んでしまった光を再び目覚めさせること』
これが、アルミアに伝わる、伝承や。
せやけど、教授が示唆したのは暗号の意味を込めての『バトナージ』…
それは、すなわち…闇に沈む=正義が悪に沈む、光が目覚め=正義が悪に目覚める。
これは、ワテが現役の時に暗号として一度だけ…教授と使ったやりとりや。
即ち、教授とワテの間でしか通用せぇへん暗号。
今回のやりとりでこの意味を想定すると、導き出された答えが…

ランマ (ワテのいる光がRMU…それが、闇…すなわち悪に染まっている)

ここからはワテの想像や。
RMUは、何かしらの組織に手をつけられとる。
上層部が不穏な空気を出してる気がするわ。
まぁ、ともかく…何とかターゲットはクリアできそうや。
ワテは、少女の下へと無造作に歩いていく。



カツ…カツ…カツ……

ランマ 「!!」

ヒュッ! ドガァッ!! ザザッ!!

ジュペッタ 「…ペタ〜!」

ランマ 「!? ジュペッタ…いつの間に!」

見ると、ジュペッタは巨大な木槌を右手に持っていた。
な、何つー…危なっかしい。

ランマ (待てよ…ゴーストタイプ多数と一緒やって情報にあったな)
ランマ (つーことは、これは彼女のポケモンか? いや、トレーナーやない言うとった)
ランマ (パートナーか…?)

ジュペッタ 「……」

ジュペッタは、明らかな敵意…もといあれは殺意や。
それをこっちに向けとる。
正直、ここまでの気をポケモンから向けられたのは生まれて初めてや。
あれは…キャプチャーできへんやろな、確信できるわ。

ランマ 「……」

ワテはジュペッタとの距離を開ける。
ジリジリ…と距離は開き始める。
そして次の瞬間。

ムウマ 「ムマッ!」

ランマ 「ちぃ!!」

ブォンッ!!

ヨノワール 「ワーール!!」

背後からヨノワールが『シャドーパンチ』を放ってきた。
ワテはムウマの声に反応して、何とかかわすことができた。
ヤバイ…何か、うじゃうじゃ出てきたで!?

ゴース 「ゴス〜」
ゴースト 「スト〜!」
ゲンガー 「ゲッゲ!!」
ヨマワル 「ヨ〜」
サマヨール 「マ〜」
ヤミラミ 「ラミミー!」
ムウマ 「ママー!!」
ムウマージ 「マジジ〜!」
ユキメノコ 「メ〜…」
ロトム 「トムム!」
ミカルゲ 「ルゲゲ!」
ヌケニン 「………」
フワンテ 「ワワ〜」
フワライド 「ワラ〜!」

ランマ 「…こらあかん、ゴーストタイプ勢ぞろいや!」

ムウマ 「ムゥ〜!!」

ムウマは力強く唸る。
この状況下でこいつはやるつもりや。
同じゴーストタイプ…何か考えあるんか?
すっかり、ワテらは囲まれとる…
相手はかなり感情が高ぶっとる…刺激したらマズイやろな。

ランマ (野生が相手なら、ポケモンバトルで切り抜けることはできるやろ…せやけど)

相手はただの野生ではない。
あれは、明らかに少女を守ろうと言う意思だ。
それに対して、ワテは戦うことができへん…
同じ『守る』と言う言葉に、これほどの壁があるとはな…!

ランマ (ファイン・スタイラーといえど、あれほどの強い意志を持ったポケモンには通用せぇへんやろ)
ランマ (ターゲットは目前…どないすんねん!?)

この時、ワテは教授の言葉を思い出す。

シンバラ 『ワシは忘れておらんよ、君が立てた誓いを…』

ランマ (誓い…せや!)

ワテは、アルミアのスクールを卒業後、同期のレンジャーと誓いを立てた。
ただ、立てただけや…直接刻むことはあえてせぇへんかった。
ワテは、その誓いを心に刻んだからや!

『何があっても、ワテは絶対に救う!』

それがワテの誓い。
救う…とは、何を指しているのか自分でも曖昧や。
せやけど、ワテはミッションにおいて、守れる物は全部守る!
誓いの元に、ワテは必ず救うんや!!

ランマ (ついては…あの少女、及びこのポケモンたちを全員救う!)
ランマ 「…ちなみに、話は通じるかお嬢ちゃん?」

少女 「……」

ワテは、この距離から未だにピクリとも動かない少女の背中に向かって言う。
それが聞こえたのか、少女はゆっくりと立ち上がり、こっちを向いた。

少女 「………」

ランマ (異国人やな…ヨーロッパ系か?)

見た目はただの少女。
とはいえ、瞳からはやけに冷たい視線を感じる。
まるで、品定めでもするかのような…そんな眼差しだった。

ジュペッタ 「…ペタ〜!」

少女 「ペタ…止まって」
少女 「じゃないと…ご飯抜くよ?」

ジュペッタ 「…ペ、ペタ!!」

ジュペッタは少女に凄まれ、あっさりと下がる。
何や…日本語で喋ったけど、ポケモンにニックネームか?

カツ…カツ……

少女は、徐々に徐々にこちらへと歩み寄ってくる。
不思議と、寒気がした。
まるで、追い込まれているかのような感覚や。
これほどのプレッシャーをこの少女から感じるとはな…

ランマ (なるほど…特別な能力でも持ってるとか…そういうことか?)

超能力者だとか、そう言う類かもしれない。
とにかく、彼女は相当重要な人物で、下手をすれば歴史を変えるようなこともやってのける…とか言うのが映画とかの伝統やな。

少女 「………」

カツ…カツ……

少女はワテの目の前に歩み寄ってくる。
次第に、恐怖感が増す。
もう逃げられない…そんな感じやった。

ランマ 「…!」

少女 「……」

ス…サワサワ……

少女は、ワテの服…と言うか体に触れてさする。
特に、胸の辺りを念入りにさすっていた。

ランマ 「な、何や?」

少女 「…あなた、男? それとも女?」

ランマ 「は…?」

ワテは、いきなりの問いに素っ頓狂な声をあげる。
まさか…それを確かめるだけかいな?

少女 「どっちなの? 紛らわしいけど、私は男だと思うの」
少女 「私、自分が間違っているとは思ってないの、で、どうなの?」

ランマ 「…男や、お嬢ちゃんの正解」

少女 「ふっふ〜ん♪ やっぱり! あの肉つきは、絶対男だと思ったもんね〜!」

カゲボウズ 「クカッ!?」

今度は、少女の背後から『カゲボウズ』が現れる。
まだ、おったんやな…オカルトマニアか?

少女 「ゲボーはこれでご飯抜きね! 私の勝ちだもん♪」

カゲボウズ 「カッ!?」

カゲボウズは何やらショックを受けているようやった。
人の体に対して、何賭け事やっとんねん!

ランマ 「はぁ…もうええわ、で、お嬢ちゃん名前は?」

少女 「人の名前聞く前に、自分から名乗るのが礼儀ってどっかで聞いたけど?」

少女はあっさりそう返す。
何か、この娘偉い大人振っとる気がするなぁ…子供に思えへん。

少女 「何? もしかして名前ないの? だったら、私と同じだけど」

ランマ 「ランマや…それがワテの名前や」
ランマ 「で、嬢ちゃんは? って…今、おかしなこと言うたよな?」

少女 「…それ位、普通に想像つくと思うけど? 大体気づくの遅すぎ…馬鹿みたい」

むっか〜…何やねんこの娘! もしかして関西系のギャグが通用せぇへんのか!?
遅れてツッコムのは王道やで!?

ランマ 「…もうええわ、ワテは今回に限ってポケモンレンジャーや。お嬢ちゃんを保護にしに来た」
ランマ 「できれば、周りのこの子ら宥めてくれるか? ちゃんと皆一緒に連れてくさかい」

少女 「…何が望み?」

少女は、やや怪しそうにそう言う。
何や…もしかして疑がっとるんか?

少女 「…見返り無しには、そんなことしないでしょ?」
少女 「それとも、私の体が目当て? そう言う趣味?」

ランマ 「何つーこと言うねん! 子供やろ!!」

ワテがそうツッコムと、少女はククク…と嫌な笑い方をする。

少女 「言ってみただけだし…何、本気にしてるの?」
少女 「まぁ、別にいいけど…どうせ私子供だし、そう言うのまだ無理だから♪」
少女 「10年後には相手できるかもね〜…私にその気があれば」

少女は、おおよそ子供とは思えない言動を連発してくれる。
しかし、とりあえずミッションはクリアできそうや…これ以上はあんま関わりたくあらへんな…

ランマ 「とりあえず、着いてきてもらえるんか? その方がありがたいんやけど?」

少女 「…食べ物は出る?」

ランマ 「…そら出すがな、それ位は」

少女 「…ちなみに、私じゃなくてこの子たちの分」
少女 「私は、何も食べられないし、食べたくないから」

少女は呆れた顔でそう言う。
今、サラリとおかしなことを言ったけど…アカン。
ツッコムのは止めよ…

ランマ 「…まぁ安心し、ポケモンフーズ位なら好きなだけ出したるさかい」

少女 「…何それ? ポケモンフーズ? それがモンスター用の食事なの?」

ランマ 「はぁ? 今時ポケモンフーズ知らんはないやろ…TVでもCMとか見れるがな」

少女 「TV? CM? 何それ…?」

どうやら、少女はからかっているわけではなく、マジにわからへんようやった。
何か…嫌な予感するわ。
もしかして、この少女って…どえらい少女ちゃうやろな…?

ランマ 「…あ、ちょっと待ってんか?」

少女 「?」

テュルルルルッ!! テュルルルルルッ!! ボイスメール着信!!

シンバラ 『どうやら少女の保護は完了したようじゃな!』
シンバラ 『今、迎えのポケモンをよこす!』

ランマ 「こちらランマ! 了解! 最上階で待つ!!」

ワテはそう言って、メールを返信した。
この高さまで電波届くとは…さすがシンバラ教授やな。

少女 「…それ、何?」

ランマ 「ん? これか…これは『ファイン・スタイラー』」
ランマ 「新型のキャプチャ・スタイラーや」

ワテはそう言って、右手のスタイラーを見せる。
すると、少女は目を丸く見開いて、それをマジマジと眺めた。

少女 「…触ってもいい?」

ランマ 「ええけど、ボタン押すのは止めてな?」

少女 「ボタン? これ服なの?」

ランマ 「いや…そのボタンやなくてな…まぁええけど」

少女は、不思議そうにスタイラーを触っていた。
まるで、初めておもちゃを与えられた子供のようやな。
って、子供は子供か…

少女 「ふ〜ん…で、これ何に使うの?」

ランマ 「…ポケモンのキャプチャーに使うんや」
ランマ 「ポケモンに、気持ちを伝えて、力を貸してもらうんや!」

少女 「…大体察しは着くんだけど、ポケモンって何のことを言ってるの?」
少女 「一応、聞いとく」

ランマ 「…ホンマに知らへんのか?」

少女 「だから、聞いてる」

少女はあっさり言う。
嘘を言っているようには感じへんのが不思議やな…

ランマ 「…ポケットモンスター、縮めて『ポケモン』! わかったか?」

少女 「…初めて聞いたけど、意味はわかった」
少女 「要するに『モンスター』のことね」

少女は、勝手に納得して解釈する。
いや…そらそやねんけど、な。

カイリュー 「カーーイ!!」

ランマ 「おっ、迎えが来たようやな」

少女 「…ドラゴンか、あれに乗るの?」

ランマ 「せや、しっかり掴まれば安全やで」

あのカイリューはフィオレでレンジャーに力を貸してくれてるカイリューや。
ワテも幾度となく力を貸してもらってる、問題はあらへんやろ。

少女 「…家族全員は乗れないでしょ」

ランマ 「家族…って、ああ…ポケモンのことか」
ランマ 「お嬢ちゃん…ボールは?」

少女 「ボール…? もしかして『モンスターボール』のこと?」
少女 「それだったら、持ってない…ってか、あんな小さな玉に閉じ込めたくないし」

少女は簡単に言う。
つまりや…この少女はボールに捕獲せんと、あれだけのポケモンと絆を持っとるわけや。
まずいなぁ…さすがにこの高さでは。

カイリュー 「カ、カイッ!?」

ムウマ 「ムゥ! ムマ!!」

ランマ 「何や!? あ、あれは…!!」

少女 「うわ…凄いのが来たね〜」

レックウザ 「ギャオオオオオオォォォムッ!!」

突然、上空からあの伝説のポケモン『レックウザ』が現れた。
しかも、かなり怒っとる…どうやら、縄張りを荒らされたと思うとるな。
さすがのワテも…これは予想してへんかった。
ワテは、すぐにボイスメールを送る。

ランマ 「こちらランマ! レックウザに遭遇!! 少女はカイリューにて帰還させる!!」

ワテはそれだけ伝えて、切る。
やれる所まで…やるしかあらへん!!

少女 「…勝手なこと言ってるけど、私は…」

ランマ 「いいいから行け!!」

少女 「!!」

ワテは駄々を捏ねようとする少女を一喝する。
この状況…どうしようもないんや!!

ランマ 「ポケモンはワテが全員守ったる!!」
ランマ 「絶対や! 必ず守る!! それがワテの誓いや!!」
ランマ 「せやから、ワテを信じろ!! カイリューに乗れ!!」
ランマ 「後は必ずどうにかなる!! ワテが何とかする!!」

少女 「…何で? 何で…そんなにまで私を?」

少女は戸惑っているようだった。
だけど、ワテはこの際構っていられない。

ランマ 「堪忍な…!」

ガシッ!

少女 「!?」

ブンッ!!

カイリュー 「カイッ!」

ガシッ!

少女 「ちょっと、ま…」

カイリュー 「リューー!!」

ドギュンッ!!

ワテは、カイリューに向かって少女を投げ飛ばす。
カイリューはそれを見事に両手でキャッチし、少女を地上へと送った。
これで、後は…ワテの問題だけや!!

ランマ 「…ドンカラス、ムウマ!」

ボンッ!!

ドンカラス 「ドン…!」

ムウマ 「ムゥ!!」

ランマ 「お前らは行け! あの娘を守るんや!!」

ドンカラス 「!?」
ムウマ 「ムマ!?」

ワテが言うと、ドンカラスは僅かに迷う。
ムウマは明らかに反対していた。

レックウザ 「ギャアアアアアアアアアアアアアァァァァッスッ!!!」

ドギュアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!

ランマ 「くぅぅっ!!」

レックウザの『はかいこうせん』が床板を削り取る。
凄まじい威力や…こんなんまともに食らったら…!

ランマ 「早せい! 彼女を守るのがミッションや!!」

ドンカラス 「!!」

ガシッ!

ムウマ 「ム、ムマッ!? ムマーーーー!!」

ドンカラス 「カラカラ! カララ!!」

ムウマ 「!! ムゥ…!!」

ドンカラスはワテの考えをよく理解してくれとる。
嫌がるムウマを無理やりにでも連れて行ってくれた。
あいつらなら、必ず守ってくれる。
後は…ワテの問題や!



………。



レックウザ 「ギャアアアアアアアァァァァッ!!」

ドォォンッ!!

ランマ 「ぐああっ!!」

ドシャァッ!!

ワテはレックウザの技に吹き飛ばされる。
とても勝てる相手やあらへん…スタイラーも…やられた、か…?

バチッ! バチチッ!!

ランマ (すんまへん、教授…折角のスタイラー、もう壊してもうたかも…)

パチリス 「パッチーー!!」

バチバチバチィ!!

レックウザ 「ガアアッ!! ギャオオオオオオォォムッ!!」

パチリスが『10まんボルト』で攻撃するも、まるで通じない。
レックウザの力は…やはり普通やないんか!

ランマ 「スタイラー…いけるんか?」

バチッ! バリリッ!!

スタイラーは…まだ死んでいないようやった。
こいつも…必死に戦こうてる。
産まれたばかりで、自分の不甲斐なさに悔やんでるんや!

ランマ 「これが最期や…! ワテのレンジャー魂! 全部あんさんにくれたるわ!!」
ランマ 「キャプチャーーー!! オン!!」

ドギュンッ!! キュィィィィンッ!!

レックウザ 「ギャアアアアアァァァァッ!!」

ランマ 「もう、後先は考えへん! パチリス! 電気アシストォ!!」

パチリス 「パッチーー!!」

カッ! ピシャアァァァァンッ!!!

レックウザ 「!? ギャアアアァァァッ!!」

電気アシストの効果でレックウザの真上から電撃が落ちる。
僅かながらも、レックウザの気持ちが揺れた!
しかも痺れて動けへん…追撃や!!

ランマ 「オドシシ! ノーマルアシスト!!」

オドシシ 「オドッ!!」

以前のスタイラーにはなかった新たなアシスト。
ノーマルは、スタイラーのパワーとラインを強化してくれる!!

ランマ 「オオオオオオオオオオオオッ!!

キュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!

レックウザ 「ギャアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」

ランマ 「あかん!!」

キュゥゥ…

ワテは、失敗した。
あれだけ回しても、レックウザはキャプチャできんかった…
これで、振り出し…いや、絶望、か!

ランマ 「……? 何やこれ?」
ランマ 「レックウザへの気落ちが…残っとる」

ワテは、スタイラーの数値を見て驚いた。
今までのスタイラーは、一度ラインを切ったら、それまで溜めた気持ちは全て消えてしまってた。
せやけど、このスタイラーから与えられた気持ちは、ずっと残り続けとる!

ランマ (そう言う仕組みやったんですか…教授、今ほどワテはあんたを尊敬したことありまへん!!)

これで、まだワテには勇気が与えられた。
まだワテは…負けてへん!!
ワテは力強く床を踏みしめる。
足先から指先までに全力で力と想いを込め、ワテは再びディスクを射出した。

ランマ 「キャプチャーー!! オーーーン!!」

バシュッ!! キュィィィンッ!!

ランマ 「もう、アシストは使えん…! 地道やが、少しづつ削ったる!!」

レックウザ 「ギャアァッ!!」

ドバアァァッ!!

ランマ 「おっと!!」

ワテはレックウザの攻撃タイミングを見切ってラインを切る。
こうすれば、ダメージは受けへん。
相手へのダメージは残り続けてる…これならいつかは…

ランマ (!? 回復されてる!? そうか…時間が経てば経つほど、与えた気持ちも下がってまうんか!!)

と言うことは、定期的に想いをぶつけなければならない。
しかし…レックウザのあの攻撃、あれを掻い潜って一週囲むのも苦難や!

ランマ 「せめて…もうひとつ隙があれば…!」

レックウザ 「ギャアァッ!?」

ヤミラミ 「ラッミー!」
ヌケニン 「………」
ジュペッタ 「ペッタ!!」
ゲンガー 「ゲッゲ!!」
フワライド 「ワルル!」
ロトム 「トトッ!」
ユキメノコ 「メ〜!」

ランマ 「お、お前ら…助けてくれるんか!?」

少女が『家族』と称したゴーストタイプの内の7体。
こいつらが代表して、ワテに力を貸してくれるようや。
これは願ってもないチャンスや! 借りるで…その力!

ランマ 「頼むでヤミラミ! 悪アシスト!!」

レックウザ 「ギャアァッ!!」

ドガガガガッ!!

レックウザが地面を強く叩き、床を崩す。
あれに当たったら、ディスクはやられてまう。
せやけど、こういう時でも!!

キュィィィンッ! パァァッ!!

障害物なった岩が、平らに崩れる。
悪アシストの効果は、フィールドの正常化!
今の内に回すで!!

キュィィィッ!!

レックウザ 「!!」

ランマ 「…うっし! 次はロトム! 電気アシスト!!」

バチィィンッ!!!

レックウザ 「ギャアアッ!!」

パチリスと同様、電撃で動きを止める。
さらに追撃や!

ランマ 「ゲンガー! 毒アシスト!!」

ゴォアァァァァッ!! シュゥゥゥッ!!

レックウザ 「ギャオオオオォォオムッ!!」

床から強力な毒液が噴出し、痺れて地面に着いていたレックウザに効果が及ぶ。
通常なら、このアシストは飛んでいる相手に当たらない。
せやけど、状況次第では十分効果はあるで!

ランマ (しかも、毒をくらったら気持ちの回復が止まるようやな!)

後は増やしていくだけ!
ワテは次々とアシストを駆使していく。

ランマ 「ユキメノコ! 氷アシスト!!」

キュィィッ! コォキィィンッ!!

レックウザ 「!?」

氷の力でレックウザは一瞬凍りつく。
効果も抜群で、一気に気持ちは増えたで!

ランマ 「フワライド! 飛行アシスト!!」

キュィィィィィィィィィ!! ビュゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!

レックウザ 「ガアアアアアアアアアアァァァッ!!」

レックウザは竜巻の力で気持ちが揺れ動く。
相手が出かければでかいほど、効果も大きくなる!
もうちょっと…! もうちょっとや!!

ランマ 「ヌケニン! 虫アシスト!!」

キュンッ! ベタッ!!

レックウザ 「ギャアアァァッ!!」

ドギュアァッ!!

ランマ 「おっと! 遅い遅い!!」

レックウザはすぐさま反撃するが、ワテは軽くよける。
虫アシストの効果は、相手の速度をダウンさせる。
効果は今ひとつでも、動きが緩めば十分!

ランマ 「そして、これがラストや!! 頼むでジュペッタ!! ゴーストアシスト!!」

キュィィィィィッ! ボババババババッ!!

レックウザ 「!! ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!」

ディスクで囲んだ場所からゴーストの力が発動する。
これに当たった相手は、気持ちゲージが上昇し、同時にヘロヘロ状態にする…ってマニュアルにあったわ!
ともかく…最後にレックウザは高らかな叫びをあげ、ようやく…落ちた。

ランマ 「…くっそ〜、こんな大掛かりなキャプチャー、初めてや」

レックウザ 「……」

レックウザは、バトルの後に落ち着いたのか、ワテを軽くにらみつける。
さすがのワテももう動けへん。
これ以上、暴れられたら終わりや。

レックウザ 「…ギャアァ」

ゴゴゴゴッ!!

ランマ 「な…何や? まさか…連れてってくれるんか?」

レックウザ 「……」

レックウザは無言で頷く。
どうやら、認めてくれたらしいわ…



………。



『時刻16:00 サイユウシティ・鳥獣保護区』


少女 「………」

秘書 「大丈夫よ、ランマ様は必ず戻られます」

少女 「…別に、信じてないとは言ってないし」
少女 「それに、その必要もない」

秘書 「あ…!」



………。



ランマ 「やっほ〜! 今戻ったでー!!」

レックウザ 「ギャァァッ!」

秘書 「レ、レックウザ!? 初めて見ました…」

少女 「ありえないし…あれに乗ってくる?」
少女 「でも…ちゃんと皆いるね。これで…借りができちゃった」

少女は、やや照れた感じで俯く。
何や、こういう所はしっかりと子供っぽいやん♪

ゴース 「ゴスッ!」
ゴースト 「スト!」
ゲンガー 「ゲッ!」
ムウマ 「マー!」
ムウマージ 「マジジ!」
ヤミラミ 「ラミ〜」
ヨマワル 「ヨー」
サマヨール 「ワー」
ヨマワール 「ワール」
ジュペッタ 「ペタッ」
ヌケニン 「………」
ユキメノコ 「メ〜」
ロトム 「トー」
ミカルゲ 「ルゲ〜」
フワンテ 「ワワ〜」
フワライド 「ワララ〜」

少女の『家族』全員、レックウザの体にひっついて来た。
約束は…とりあえず果たしたわ。

少女 「…ゲボー、良かったね」

カゲボウズ 「クカカカーッ!!」

カゲボウズは嫌な笑顔で嫌な笑い声をあげる。
な、何かこれは慣れたくないなぁ…

秘書 「…お疲れ様ですランマ様」

ランマ 「おう、難儀やったわ…」

レックウザ 「……」

ゴォォッ!!

ランマ 「レックウザ! おおきになーー!!」

レックウザ 「……ギャアアァァァッ!!」

最期にレックウザは高らかな咆哮をあげて去って行った。
これで…ホンマにミッションクリアやな!

テュルルルルッ! テュルルルルッ!!

シンバラ 『ランマ君、ミッションクリアおめでとう!』
シンバラ 『じゃが、その少女に関しては君に一任したい』
シンバラ 『彼女を取り巻く影は…恐らく危険が付きまとうじゃろう』
シンバラ 『じゃが、君の誓いを忘れないで欲しい! 君なら、必ず守れる!』
シンバラ 『ここで、君をトップレンジャーとしての称号を与える!!』
シンバラ 『じゃが、君には君の仕事がある、それを優先してもらっても構わん!』
シンバラ 『あくまで肩書きだけじゃ! 君は…引退しても、生涯ポケモンレンジャーじゃよ♪』
シンバラ 『以上! 通信終わる!』

教授は勝手なことをペラペラと一方的に喋った。
まぁ、ボイスメールやからな…
ワテはしゃあないんで、簡単に返信する。

ランマ 「少女の件は了解! せやけど、ワテがレンジャーとして働くのはこれで本当に終わり! 以上!!」

それだけ言って、ワテはスタイラーの電源を落とす。
試作型言うてたけど…これは凄いシロモノや。
ちゃんと修理して送り返したらんとなぁ…

少女 「…勝手に話し進めてたけど、本気?」

ランマ 「はぁ? 何がや?」

少女は呆れた顔でワテにそう言う。
そして、ため息をひと…

少女 「…はぁ、あなた絶対ロリコン」

ランマ 「なっ!? アホ言うなや! 誰が子供に手ぇ出すかい!!」
ランマ 「それよか…お前名前は何やねん!? ええ加減名乗らんかい!」

ワテがやや強めにそう言うと、少女は少し考え…

少女 「…だったら『イータ』って呼べば?」
少女 「それでいいや…面倒だし」

ランマ 「…面倒って」

イータ 「そこの女の人…皆にご飯食べさせてあげて」
イータ 「私は、どっかで休みたい」

秘書 「わかりました…それではポケモンの皆様はこちらへ」

ランマ 「って、マイペース過ぎやろ!?」

ワテがそう言うが、ふたりは気にした様子はない。
いや、むしろ遊ばれてんのかワテ?
そう思うと…途端にやるせなくなる。

ランマ 「…はぁ、何か先が思いやられるわ」

ムウマ 「ムゥ〜!」

ガバッ!!

ランマ 「ワッ! な、何やねん?」

ムウマ 「ムゥ! ムゥ〜!!」

ランマ 「何やねんな…ワテが負けるわけあらへんやろ?」
ランマ 「ワテが帰る言うたら、絶対帰るんやから♪」

ドンカラス 「カッ…カラカラ」

ドンカラスは、何やら笑い飛ばす。
何やねん…意味深な。

イータ 「…いつまで遊んでるの? さっさと来たら?」
イータ 「色々教えて欲しいこと多いんだから、手伝ってよ?」

ランマ 「ああ〜! わかったわ!! ちょい待て!!」





………………………。





『4月某日 時刻23:00 RMUビル・ランマの部屋』


ランマ 「………」

ワテは、あの時のミッションを記録したディスクを編集する。
ここまでが…今回のミッションの全貌や。
結局、RMUからの接触はあれから無し。
イータは、できるだけ隠れて匿っとる。
しかし、ここまでで気づいたことは…

イータ 「……ねぇ、次の本は?」

ランマ 「…何や、もう終わったんかいな? 今回はそれだけやで…」

イータ 「…そう、なら眠る」

ランマ 「おやすみ…」

イータ 「…おやすみ」

イータは僅か1ヶ月足らずで、日本語をマスターした。
正確には、話すことは元々できたようだが、文字を書いたり意味を理解したりしたと言うことだ。
イータは、考えもつかんほどの『天才』やった。
数学の本を渡せば、一日足らずでマスター。
しまいにゃ『広辞苑』も数日で覚えきってもうた…脱帽やで。
他にも、ポケモンに関する知識もほぼ全て吸収。
キヨハでも目を剥く知力やな。
現時点での人類としたら、一番賢いかもしれへん…
誰かが狙ってる…って、わからんでもないわ。

ランマ (イータがおったら、○タルギアかて作れそうやからな…)

イータ 「…ZZZ」

イータは無邪気な顔で眠っている。
普段はやや大人ぶった感じで、口が悪い。
天才とはいえ、体は子供やからな。
しかし、ここでももうひとつ突飛なことがある。

ランマ (イータは、食事を一切取らへん)

出会ってから1ヶ月近くの今日まで、彼女は何も口にしなかった。
一度だけ…食事をさせようかと思ったら、その場で嘔吐して偉い目におうた。
あの時だけは、イータに思いっきり言われた。

『死にたいの? ってか殺したげようか?』
『いらないって言ってるのよ! 聞こえなかったのこのクズ!!』

他にも色々言われた…でも、まぁ…あの時はホンマに謝ったわ。
まさか、食事見せるだけで体調崩されるとは思わんかった。
とはいえ、極度に反応するのは肉類だけ…野菜とか木の実は問題ないみたいや。
お菓子も…見るだけなら大丈夫そうやった。

ランマ (イータに必要なのは、毎日の『日光浴』と『水』だけ…)

イータは、毎日欠かさず、定期的に昼になると『日光浴』をする。
何故かはわからないが、これがイータの秘密のひとつだろう。
太陽の光と水があれば、人間は何も食べなくても生きられる…なんて理論が無きにしも非ず…らしい。
まぁ、実際にこうやって目の前に実物がおるんやから、信じるしかあらへん。

ランマ (他には、イータはトレーナーを良く思ってへん)

ポケモントレーナー全てが聖人君子やあらへん。
奴隷のように戦わせる輩もおるしな…
それのせいか、イータはポケモンバトルを良く思ってへん。
ボールに入れるのさえ、最初は極度に嫌がったからな…今では何とか全員ボールに『一度』は入れたけど。

カゲボウズ 「クカカカカッ!!」

ランマ 「何やねんな…ゲボー? イータは寝てるで?」

イータのポケモンは全てニックネームがある。
カゲボウズのこいつは特に一番中のええ『ゲボー』っちゅう奴や。
割と人懐っこいんか、無謀なんか…よう人にちょっかいかける。
まぁ…問題が起きてるわけちやうからええけど。

ランマ 「うしっ! こんな所やろ!」

カゲボウズ 「?」

ワテはノートパソコンにあるデータをディスクに保存し、終了する。
とりあえず、機密データ扱いや…ワテ以外にはこのプロテクトは突破できへんようにしてある。
イータのことは…これから先になるやろ。

ランマ 「さて…タッグバトルも大詰めやし、そろそろ本格的に急がしなるな!」

カゲボウズ 「…クカ〜」

ワテはぐっ…と背伸びをして休む準備をする。
イータか…この少女にはまだ秘密があるんかいな?
どっちにしても、ようやく他人に対して心を開き始めたんや…大切に、守ったらんとな



…To The Next of Ruby!!




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