ポケットモンスター サファイア編




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第14話 「夢の為の犠牲」





『10月16日 午前8時2分 キンセツシティポケモンセンター・三階』


ユウキ 「………」

白い壁、独特の薬品の匂い…。
今、ユウキはポケモンセンターの3階病棟にいた。

お姉さん 「簡単に言うと脱臼ね…」
お姉さん 「踏み込んだとき体の荷重に足が捻れて足のすねの間接部を脱臼したの」

お姉さんはヌマクローのいる病室で、俺にそう診断結果を言う。

ユウキ 「酷いんですか…?」

お姉さん 「酷くはないわ…でも、今日と明日くらいはこのまま静養しておいた方がいいわ」

ヌマクロー 「ヌマ…」

ヌマクローは真っ白なベットに寝込んでこっちを見ると申し訳なさそうな顔をする。

ユウキ 「気にすんなよ、ジム戦はお前抜きでもちゃんとやるさ」

今日は予定通り俺はジム戦を行う。
このキンセツジムのジムリーダーは電気タイプを使うそうだが、さすがに地面タイプとはいえ怪我をしたヌマクローを連れて行くわけにはいかない。

ヌマクロー 「ヌマ! ヌマヌマ!」

お姉さん 「だめよ! 立ち上がっちゃ!」

ヌマクローはいきなりベットから立とうとするがお姉さんはすかさずそれを止める。

キルリア 「ダメですよ、ヌマクローさんを連れて行くわけにはいきません…」

キルリアは俺の脇から姿を出しヌマクローに近づいてそう言う。

ヌマクロー 「ヌマ…」

ヌマクローはあからさまに残念そうな顔をした。
たしかに、ヌマクローがいないのは痛いがそうも言ってられんからな。

キルリア 「すいませんマスター、僕もここに残ってヌマクローさんの側にいときます」

ユウキ 「キルリア…分かった、ジム戦は何とかするからヌマを頼む」

キルリア 「はい」

俺はそう言ってその場を発つ。
ヌマもそのままにしていたら無理してでもジムまで来かねん。
キルリアがいた方が安心だ。

お姉さん 「キンセツジムのジムリーダーテッセンは電気タイプのポケモンを使うから気をつけて」

お姉さんは俺が部屋を出て行こうとすると一言そう言ってきた。
俺はそれを聞くと『どもっ』と頭を下げてジムへ向かった。



………………。



ユウキ 「! あれは…!」

俺はポケモンセンターの外に出て真っ先にジムへ向かうとジムの前には見知った人物がいた。
あれは…そう、トウカジムで出会った少年…。
『ミツル』君だった…。


ミツル 「もう大丈夫だよ! 僕とラルトスならジムリーダーとだって戦えるよ!」

? 「だけどね…」

なにやら近くで聞くと40代くらいのおっさんとミツル君は言い合ってていた。
ジム戦がどうたらこうたら言っていたがどうしたのだろうか…。

ユウキ 「一体どうしたんだ…ミツル君」

ミツル 「あ、ユウキさん! 聞いてくださいよ、僕、ジム戦に来たんだけど叔父さんはまだ早いって言うんだ!」

ミツル君は俺を見つけると俺にまるで子供が親にせがむように言い寄ってくる。
そして、この叔父さんという人物はそれを聞いて、親が子供を宥(なだ)めるように。
なんかすっげーかったるいんだけど?

叔父さん 「まだ、ポケモントレーナーと戦ったこともないのにいきなりジム戦なんて…」

ミツル 「だったら! ユウキさん僕とポケモンバトルしてください!」

ユウキ 「俺がミツル君と?」

ミツル 「はい! お願いします!」

ミツル君は強くそう言う。
何だかその様子はトウカシティで会ったミツル君とはえらく違っていた。
何だか急ぎすぎている感じがする…。
だが、戦いを挑まれて引くわけにもいかない。
ミツル君には悪いが俺はここのジムリーダーに勝負を挑んで勝たないといけない。

ユウキ 「わかった、相手をしよう!」

俺はそう言って構え、スバメのボールを取り出す。
恐らく今回スバメは出番がないだろうからだ。
本当はかったるいって言って流しても良かったんだがな…。

ミツル 「よーし! いけラルトス!」

ミツル君は真っ先にボールを取りだし宙に投げる。
そして、その中からはラルトスが現れた。
間違いなくあのときのラルトス。
俺はそれに対してスバメを繰り出す。

スバメ 「スバー!」

ラルトス 「ラァ…」

ミツル 「いくよ、ラルトス!」

ラルトス 「ラァ!」

ユウキ 「………」

ラルトスか、実際に戦うのは野生の時以来だな。
ミツル君がどれ位の濃密な時間をラルトスと過ごしたか…?
少なくともミツル君自身からは覇気のような物は感じない。
ツツジさんやトウキさんはトレーナーとして対峙した時点で感じたが、ミツル君にはなかった。
脅威は全く感じない。
彼には悪いがこれは流す程度のことになりそうだ。

ミツル 「ラルトス! 『ねんりき』!」

ユウキ 「スバメ! 『かげぶんしん』!」

ラルトス 「ラァ!」

スバメ 「スバ!」

スバメはラルトスよりも一瞬早く分身の中に消えて『ねんりき』をかわす。
こうなったらもう俺でもどれが本物のスバメかわからない。
分身の数は5個と多くはないがそれでも高速で動くスバメの本物を捕らえるのは至難の業だ。

ミツル 「う…!?」

ラルトス 「ラ…ラァ!?」

分身はミツル君のラルトスを囲み停滞する。
ミツル君たちはどれが本物かわからず戸惑っていた。

スバメ 「スバー!」

ラルトス 「ラァ!?」

ドカァ!

ミツル 「ラ、ラルトス!?」

スバメは突然後ろからラルトスに『つばさでうつ』攻撃をする。
ラルトスは受身を取れず宙に舞い地面に叩きつけられる。

ユウキ 「戦闘不能のコールはいらないな…」

スバメ 「スバー」

ラルトスはたった一撃でダウンしてしまったようでスバメも戦闘状態を解除して俺の肩にとまる。

ミツル 「…参りました」

ミツル君はラルトスの側まで歩み寄ると身を屈めラルトスを抱かかえ、顔を上げずそう言う。
声は非常に暗い、何も出来ずに負けてしまったのが悔しいのだろうか。

叔父さん 「ほら、もう帰ろう?」

ミツル 「…わかりました…帰ります…」

ミツル君はやはり顔を上げない。
叔父さんに宥められるとミツル君はゆっくり立ち上がり110番道路の方へととぼとぼと歩いていった。

ユウキ (…彼には悪いが俺はこんなところでは負けられないんだ)

俺にはジムを勝ち進んでポケモンリーグに出る夢がある。
いや、本来夢と言うような大それた物ではなかった。
ただ、目的がなかったからそういう道を選んだだけだった。
たが、その考えは日が経ちジムを巡るうちに変わっていった。
もう、これは俺だけの問題じゃない。
俺は誰にも負けない、勝ち進んでポケモンリーグへと登る。

スバメ 「スバ!」

ユウキ 「ああ、そうだったな、ジムへ入ろうか」

俺がミツル君の去っていった方を見つめて立ち止まっていると、スバメがジムの方へとせかす。
俺はスバメをモンスターボールに戻すとそのままジムへと入った。





ユウキ 「…ここは一体どうなっているんだ?」

入っていきなり俺が見たのは壁だった。
具体的に言うと人ひとり分くらい隙間があるだけだったんだ。
一体全体どうなっているんだ?

ユウキ 「エレベーターでもなさそうだな…」

とりあえずその隙間に入って調べてみたが何も無かった。
中は全てが白いからなんかむかつく。
壁が白くてむかつくって理由がわかるな…。

ユウキ 「はぁ…かったる」

なんでいきなりジムにきて行き止まりにあわにゃならんのだ?


ピンポンパンポーン


ユウキ 「!?」

突然どこらかそんな放送を知らせる音がする。
一体何が起こってるんだ?

? 『よくぞ入ってきたチャレンジャーよ!』
? 『ワシの名前はテッセン! このキンセツジムのジムリーダーだ!』

放送によるとこの声の主はテッセン、つまりジムリーダーだそうだ。
て、それはいいがこの部屋はどうなってるんだつーの。

テッセン 『その部屋はコースターになっておる!』
テッセン 『今から壁が解放されて床が走り出す! 振り落とされないように!』

ユウキ 「……」

…なんじゃそら。
かなり無茶苦茶だなっと思った瞬間本当に壁は横にスライドして無くなると本当にトロッコのレールのような物が現れた。
ちなみに後ろの壁は逆に閉じた。
そして、一気に加速。

ユウキ 「…て! おい!」

そう、加速は一瞬だった。
幸い加速は40キロくらいに抑えられていたがいきなりその速度で動き出した。
空気抵抗が凄い、吹き飛ばれる程ではないが踏ん張らないとしんどかった。
道はずっと真っ直ぐ続いている。
…て、どうなっているんだよ…外から見たときはそんな広いジムには見えなかったぞ!?

テッセン 『あ、ちなみに時々分岐点があるけどそのまま真っ直ぐ行っていたらぶつかるぞ』
テッセン 『左右に体重をかけることによってそういう時はカーブできるから』

ユウキ 「なんじゃそら!」

テッセンさんはいきなりいい忘れたようにそう補足する。
間違いなく忘れてたな…。
そして、そんなことを考えているうちに本当に分岐点はくる。
2択だが迷っている暇はない!

俺はすかさず右に体重をかける。
すると床は見事に右の道へ入る。

テッセン 『続いてはカーブ地帯だ! 要領はさっきと同じ!』

ユウキ 「こぉのー!!」

ジムリーダーテッセンさんの言う通りものすごいカーブがくる。
俺は必死に右へ左へと体重をかけてカーブする。

ユウキ (どうなってんだこのジムは!)

しかし、このとき俺はあることに疑問に思う。
これだけのコースター、本当に作れるだろうか?
そしてもう1つ。
違和感だ…。
この床は猛スピードで走っている割には揺れが少ない気がした。
あと、どうも正面との遠近感が。

ユウキ 「こいつは…もしかして」

しかし、俺がそう口にして何か気付いたときには…。

『ゴールイン』

と、真正面に言葉が出る。
やっぱりか…。

ユウキ 「はぁ…かったるすぎる仕掛けだな…」

そう、その部屋は実際は動いているわけではなく。
単なる体感マシンだったのだ。
ただ、リアルにするため床は揺らし壁は全て液晶モニターにして真正面からは風を流していたのだ。

やがて、ゴールインと言う文字がでた後この床の揺れは止まり、風もやんだ。
そしてまた正面のモニターは横にスライドする。

ユウキ 「長い前振りだ…しかも最大級のかったるさを実現してくれたし…」

そして、俺は壁がなくなった先にはいつものジム戦を行うフィールドがあった。
ここのフィールドは他とはまた一風違っていた。
コーナーに鉄柱が4本ある。
ていうか、ボクシングやプロレスで見るリングのようだ。
リングが長方形にあると思ってもいい。
ただ、床は地面のようだった、あとはリングを囲むロープはゴムで出来ていないようだった。
むしろ針金のようにも見える。

テッセン 「よく来てくれた! 挑戦者!」
テッセン 「なかなか楽しめたろう!」

真正面、フィールドの向こう側にはジムリーダーがいた。
ジムリーダーは小柄で俺より身長は低そうだった。
ただし体格は太り気味の一言に尽きる。
こげ茶色のセーターの上からどれ位太っているかは十分わかった。
年齢は40は超えてそうだ。
髭がぼうぼうに生えており、全て白かった。
顔は温和でやさしそうな顔だ。
なんか笑っているようにも見える。

テッセン 「ワシがテッセンだ! 君の名前は?」

テッセンさんはそうロープ越しから聞いてくる。
俺は素直に。

ユウキ 「ユウキです!」

少し場所が遠かったので俺は大きな声でそう言った。

テッセン 「はっはっは! 元気があって結構! それではジム戦を始めようか!」

テッセンさんは大声を上げて笑うとそう言って目つきを変える。
ロープ越しでしかも遠いからよくはわからないがひしひしとここまで緊張が伝わってきた。

ユウキ (やっぱり…この威圧感が無いとジム戦じゃないな…)


審判 「…これより! キンセツジム、ジム戦を行います!」
審判 「使用ポケモンは3体! ポケモンの途中交代は挑戦者のみ有効!」
審判 「先制はジムリーダー!」
審判 「これよりキンセツジム、ジム戦第175戦ジムリーダーテッセン対挑戦者ユウキの一戦を行います!」

いつも通りいつもの場所から審判がそう言うと俺にとって3回目のジム戦は始まった。

テッセン 「行くんじゃ! コイル!」

テッセンさんは最初にコイルを繰り出してくる。

コイル 「コイー」

ポケモン図鑑 『コイル 磁石ポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ0,3m 重さ6,0Kg タイプ 電気 鋼』
ポケモン図鑑 『左右のユニットから電磁波を出すことで重力を遮り空中に浮かぶ』
ポケモン図鑑 『体内の電気が足りなくなると飛べなくなる』


ユウキ (コイルか…だったら俺は!)
ユウキ 「いけ! ツチニン!」

ツチニン 「ニンニーン!」

俺はツチニンを繰り出す。
電気にタイプ相性で有利なのは唯一地面のみ。
地面は電気が効かないのだ。

ユウキ (だが…ツチニンは地面を持っているだけで地面技はない…どうするか)

テッセン 「コイル! 『たいあたり』じゃ!」

ユウキ 「ち! 避けて『みだれひっかき』!」

コイル 「コイー」

ツチニン 「ニン!」

コイルは空中からその小さい体ですばやく『体当たり』するがツチニンはその上に飛び、後ろから引っ掻く。

コイル 「コイー」

ツチニン 「ニン…」

ユウキ 「チ…やはりダメージが薄すぎる」

こういう局面でコイルの『鋼タイプ』が特性を現す。
鋼にノーマル技は効かない。
いや、効果がないわけではないがダメージは半減だ。
あまり打たれづよくないコイルでさえケロっとした顔をしている。

テッセン 「どうした! そんな攻撃じゃコイルにはびくともしないぞ!」

ユウキ 「…」

俺はテッセンさんの言葉は無視する。
しかし、本当にどうした物か…?

ユウキ (何かないのか…このフィールドに打開策は!?)

テッセン 「ならば『ソニックブーム』だ! コイル!」

ユウキ 「! 避けろ!」

コイル 「コイー」

コイルはその体を振動させる。
その振動は最初は小さく、段々大きくなっていく。
そして…!

コイル 「コイー!!」

ビュオウ!!

ソニックブームはそのままソニックブーム。
ものすごいスピードの衝撃波を相手に与える技でどんなポケモンにもある一定のダメージを与える。
しかし、それはその一定以上のダメージを与えることはない。
コイルは細かく激しく振動することでそれを一瞬止め解放されたエネルギーでソニックブームを出した。

ツチニン 「ニン!」

ツチニンはからくもそれを回避する。

コイル 「コイー! コイー!」

ビョオ! ビョウ!


ツチニン 「ニィ!? ニン!」

ユウキ 「連発もできるのか!?」

コイルは次々と『ソニックブーム』を出しツチニンを攻撃する。
ツチニンはそれを何とか回避しつづけるがその度に地面がちょっとずつえぐれる。

ユウキ 「くそ!? どうすれば!?」

テッセン 「逃げてるだけでは勝ち目はないぞ! ユウキ君!」

はっきり言って今、ツチニンにはどうすることも出来ない状態だった。

ユウキ (コイル特有の弱点はないか…!?)

俺はひたすら考える。
だが、そのような考えはなかなか浮かばない。

ユウキ (! 待てよ!? コイルは『磁石』だ! だったら!)

ユウキ 「ツチニン! 『すなかけ』だ!」

ツチニン 「ニン!」

すなかけは砂かけ。
地面があるのであればその土を相手に振りかけ相手の命中を下げる技だ。

コイル 「コ、コ〜…」

コイルはツチニンのすなかけを食らうと突然地面に落ちてしまう。

ユウキ 「ポケモン図鑑の説明によれば左右のユニットの電磁波によって重力を遮るといっていた…」
ユウキ 「もし、その電磁波を遮ることができるとしたら、と、考えてやったわけだが成功のようだな…」

実際には電磁波を完全に遮ることは出来ないが、弱めることはできる。

ユウキ 「よし! コイルはもう回避は出来ない!」
ユウキ 「ツチニン! ひっかきまくれ!」

ツチニン 「ニンー!」

コイル 「コイ!?」

ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!


硬い鋼を削る音がしばらくした後ツチニンはコイルから離れる。

コイル 「コイ〜…」

コイルはもう戦えない状態だった。

審判 「コイル戦闘不能!」

テッセン 「なんと奇抜な発想…みごとじゃな」

これにはテッセンさんも褒めてくれる。
本当に我ながらよく思いついた物だ…。

ツチニン 「ニィ…ニン!?」

ユウキ 「! 進化!?」

ツチ二ンがコイルに勝利した後、テッセンさんがコイルをボールに戻すとツチニンに変化がおきる。
体が眩く光り、体が徐々に変化を始める。

ポケモン図鑑 『テッカニン 忍びポケモン ツチニンの進化系』
ポケモン図鑑 『高さ0,8m 重さ12,0Kg タイプ 虫 飛行』
ポケモン図鑑 『上手に育てないと言うことを聞かず大声で泣きつづけるのでトレーナーの腕が試されるポケモンといわれている』

ユウキ 「ひ…飛行だと?」

最悪の状態だった。
ツチニンは進化することで大幅に強くなっただろうがそれは同時に『電気』弱くなってしまった。
地面が消え…飛行が付いたことで一気に相性が悪くなった。

テッセン 「ふふふ、どうやら運はわしに向いているようじゃな!」
テッセン 「ワシの2体目はこいつじゃ! ビリリダマ!」

ビリリダマ 「ビリー!」

ポケモン図鑑 『ビリリダマ ボールポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ0,5m 重さ10,4Kg タイプ 電気』
ポケモン図鑑 『少しのショックですぐに爆発する』
ポケモン図鑑 『モンスターボールに強力なパルスを浴びせたときに産まれたと噂されている』

ユウキ 「やはり…また電気…」

このままじゃ、簡単にやられてしまう…。
俺はそう思いポケモンの交換をすることにする。
あと、出せるポケモンは2体、グラエナとキノガッサだ。

ユウキ 「いけ! グラエナ!」

グラエナ 「ガウ!」

俺は2体目にグラエナを繰り出す。
相性に問題はない。

ユウキ 「グラエナ! 『かみつく』!」

テッセン 「『いやなおと』じゃ!」

ビリリダマ 「ギガガガガガガガビビビビビビガガガガガ!!!」

ユウキ 「うな!?」

グラエナ 「がう!?」

突然ビリリダマはけたましく嫌な音を出す。

いやなおとは嫌な音。
文字通りの技で相手の防御をガクッと下げてしまう。
音波系の技だから防音の特性をもったポケモンには効果はないがな…。

テッセン 「よし! 『じばく』じゃ!」

ユウキ 「なんだと!?」

ビリリダマ 「!!」

グラエナ 「グ…!?」

カッ! チュドーン!

一瞬閃光が走ったと思うとグラエナのすぐ側でビリリダマが爆発する。

じばくは自爆。
自分も気絶状態になるが相手にも強烈なダメージを与える強力な技だ。

グラエナの防御力を下げたのはこのためか!?

グラエナ 「………」

ビリリダマ 「………」

ユウキ 「くそ…」

審判 「グラエナ! ビリリダマ両者戦闘不能!」

いきなり相打ちに持ち込まれた…。
こっちの一匹がもう飛行とばれている…キノガッサに賭けるしかない!

テッセン 「ワシの最後はコイツじゃ! いけ! 『レアコイル』!」

レアコイル 「レアコイー」

ポケモン図鑑 『レアコイル 磁石ポケモン コイルの進化系』
ポケモン図鑑 『高さ1,0m 重さ60,0Kg タイプ 電気 鋼』
ポケモン図鑑 『強力な磁力線で精密機械を壊してしまうためモンスターボールに入れておかないと注意される街もある』

レアコイル…姿はコイルが3匹連結してトライアングルを描いた姿をしている。
三匹集まることでコイル3匹分以上の電気を発生すると言われている。

ユウキ 「頼んだぞ! キノガッサ!」

キノガッサ 「キノー!」

俺はここでキノガッサを繰り出す。
実質最後のポケモンと思ってもいいだろう…。
幸いキノガッサは格闘タイプ…鋼には相性がいい…しかし。

テッセン 「レアコイル! 『でんじは』じゃ!」

ユウキ 「く! 避けろ!」

レアコイル 「コイー」

キノガッサ 「キノ!」

キノガッサは回避して、距離を詰める。

でんじはは電磁波。
電気ポケモンの一般的な技で当てた相手にダメージは与えないが麻痺状態にしてしまう。

ユウキ 「よし! 『マッハパンチ』!」

テッセン 「いかん! 『でんげきは』じゃ!」

キノガッサの『マッハパンチ』は当然先制レアコイルに当てる。
しかし、一発でレアコイルは倒れてくれずそのままレアコイルの『でんげきは』を受けてしまう。

でんげきはは電撃波。
強力な電撃を相手に波動状にして叩き込む技だ。
光のスピードで広範囲に攻撃するため必ず必中してしまう。

テッセン 「もう一発じゃ!」

ユウキ 「やらせるな! 『マッハパンチ』!」

レアコイルだってそんなに打たれづよくない、キノガッサの攻撃力があれば二発で!

キノガッサ 「キノ!」

ボォン!

ユウキ 「な!?」

キノガッサ 「キノ!?」

なんと『マッハパンチ』はレアコイルを掠めるように外れてしまう。
レアコイルは動いていない、キノガッサのファンブルだ!

レアコイル 「コイー!」

キノガッサ 「キノー!!?」

ユウキ 「キノガッサ!?」

キノガッサはそのままレアコイルの2発目の『でんげきは』を食らってしまう。
キノガッサも打たれづよくはない! やばい!

キノガッサ 「キノ…?」

ユウキ 「どうした!?」

キノガッサの様子がおかしかった。
体が若干こわばっている。
若干麻痺に似た状態になってしまったようだ。
でんげきはは相手を麻痺させることはない。
しかし、電撃に違いはない麻痺でなくともそれに近いことは起きる…。

テッセン 「ふふ…よし! トドメの『でんげきは』!」

ユウキ 「くそ! 『マッハパンチ』だ!」

レアコイル 「レアー!」

キノガッサ 「キノー!」

ドガァ! バチィン!

同時、2匹の攻撃は同時にきまる。

レアコイル 「レア…?」

キノガッサ 「キノ…」

互い苦しそうだ…。
若干レアコイルに分があるか…?
現在キノガッサの状態は最悪だ…既に手を地面につけ体も硬直し始めている。

ユウキ「仕方ない! 戻れキノガッサ!」

俺はボールを取り出し、キノガッサをボールに戻そうとする。
幸いキノガッサはまだ麻痺状態ではない。
ならば一旦ボールに戻して回復させた方がいい。
テッカニンは地獄かもしれんが…。
しかし、キノガッサは…。

キノガッサ 「キノ!? ガッサ!!」

キノガッサは俺が戻そうとするボールから発せられる赤い光線を回避して拒否する。

ユウキ 「キノガッサ!?」

キノガッサ 「キノキノ!」

テッセン 「いじっぱりな物だな…ならば容赦はせん! 『でんげきは』!」

キノガッサ 「キノー!」

キノガッサは俺の命令を無視してレアコイルに立ち向かう。

ユウキ 「やめろ! 壊れるぞ! 戻れ!」

俺は必死で叫ぶがキノガッサ頑固に拒否する。
このままじゃ勝とうが負けようがキノガッサが壊れてしまう。
電気って言うのは想像以上に怖い物だ…下手をすれば命を失うし、神経が焼き切れてしまうことだってある…。






私が今やらなきゃ勝てるわけないしょ!







ユウキ 「!?」

誰だ!? 今確かに頭の中に女の声が響いた。
しかし、知らない声だ…いやあれは。

ユウキ (キノガッサ…!?)

しかし、何故だ!? もしあれがキノガッサの声だったとしても何故聞こえた!?
俺は超能力者じゃない…ポケモンの言葉なんて分からない…。
また、もうひとりの俺の力というわけでもない…。
体からもうひとりの俺は感じなかった。
じゃあ、いったい…。

ユウキ 「キル…リア?」




………………。




ヌマクロー 「ヌマ…」

キルリア 「マスター…頑張ってください…キノガッサさんどうかマスターに力を…」

キルリアは丸椅子に座って手を合わせて瞑想していた…。
俺も願う…せめて戦えなくてもユウキに力を…キノガッサや他のみんなにユウキを導く力を…。
ユウキの夢は俺たちの夢…。

ヌマクロー (ユウキ…頑張れ…)






キノガッサ 「キノォーー!!!」

レアコイル  「レアー!」

バチィン!

ユウキ 「キノガッサ!?」

キノガッサの『マッハパンチ』はついに『でんげきは』より後になってしまう。
そして、そのまま電撃を受ける、いや受けつづけている!?

レアコイル 「コイー!!」

なんとレアコイルはここに来て電撃を放ちつづけた。
ラストスパートってことなのか!?

しかし、キノガッサは止まらなかった…。

キノガッサ 「キノーーーーー!!!!」

ドカァ!!



今までで一番激しい音…。
キノガッサはなんとでんげきはを受けたまま渾身の『マッハパンチ』を繰り出した。

レアコイル 「レ、レア…」

キノガッサ 「キ…ノ…」

レアコイルはキノガッサの『マッハパンチ』でフィールドの中央から3メートルほど吹っ飛ばされ動く気配はない。
そして、キノガッサもフィールドの中央でフィラメントの切れた電球のように倒れていった。

ユウキ 「キノガッサー!!」

審判 「りょ、両者戦闘不能によりこの勝負チャレンジャーユウキの勝ち!」

審判はあまりに壮絶な勝負に戸惑いながらそう宣言する。
俺はあとテッカニンを残しているから俺の勝ちだった。
だが、俺はそれを聞いてよろこんではいられなかった。
キノガッサが心配だ。

ユウキ 「ツ…!」

俺はロープを握って飛び越えてフィールドに入るとき、ロープに若干の電気が流れていることに気が付いた。
こんな電気でも痛いのにキノガッサは…。

ユウキ 「キノガッサ!!!」

俺は全力でキノガッサに駆け寄る。
キノガッサは仰向けに倒れている。
言葉はない、目だけが俺を見ている。

キノガッサ 「キ…」

キノガッサは俺を見ると少し笑ってみせる。

ユウキ 「もういい…喋るな…よくやった」

俺はそう言ってキノガッサを抱きしめた。
キノガッサの体からは何度も電撃を受けて痛いくらいこちらに静電気がきたが俺は気にしなかった。
キノガッサの痛みが取れるなら何だってしてやりたい…。
キノガッサの体は電撃を何度も受け麻痺どころか火傷をしている。
電気は熱も持つ…。

ユウキ「どうして…こんなになるまで…」



あなたの…夢のためよ…




ユウキ「…俺の?」



あなたがポケモンリーグにいけるのなら私は喜んでその犠牲になるわ…




ユウキ 「アホか…なんで俺のために…こんなに…」

俺は抱きしめながらそう言った。
正直いま、キノガッサの目を見る自信がない。
目は涙が溢れて何も見えない。



あなたの夢は私の…いえ、私たちの夢でもあるのよ…




ユウキ 「………」

俺は何も言えない…。
なんて言えばいいかわからない…。
ただ、キノガッサのために涙を流すことしか出来ない…。



泣くのは止めてよ…まるで私が死ぬみたいじゃない…




ユウキ 「…死ぬなんて言うな…」



ごめんなさい…、でも、私…もうダメみたい…




言っとくけどこれで二度とあえなくなるとかじゃないんだから…




ユウキ 「………」



ユウキ…ありがとう









キルリア 「あ…」

ヌマクロー 「ヌマ…?」

突然の僕が声を出したことにヌマクローさんは『どうした?』と聞いてくる。

キルリア 「キノガッサさんのパルスが…途絶えました…」

僕は色々な物のパルスが感じる。
パルスは生命力といってもいい。
正確にはちょっと違うけどこれが消えたと言うことは気絶したか…あるいは…。

キルリア 「キノガッサさん…」

瞬間何か僕の中に嫌な感じがした…。
なにか今まで当たり前だったことが全て崩れさってしまう感じがして僕は…。

ヌマクロー 「ヌマ…」

キルリア 「う…うう…」

僕は…泣いた。
でも、最後のパルスは…とっても幸せそうな暖かいパルスだった…。
だから僕はすぐに涙を拭いた…。
キノガッサさんは役目を果たした…それがどんな結果だろうとも僕たちはキノガッサさんを笑って見送らないといけない…。









ユウキ 「キノガッサ…キノガッサ…!!」

キノガッサは最後にありがとうと言った瞬間もう声は聞こえない…。
いや、聞こえなくなったといった方が正しいか…?
どちらでもいい…キノガッサはもう…。

テッセン 「ユウキ君…」

ユウキ 「? テッセンさん…?」

俺が顔を上げるとそこにはテッセンさんがいた。
涙で景色は歪んで天井のスポットライトが眩しかった。

テッセン 「君の勝ちだ…君にはこれを渡そう…」

テッセンさんは俺に何か小さい物を渡そうとする。
俺はそれをキノガッサを抱きとどめたまま左手で受け取る。

テッセン 「『ダイナモバッジ』…このワシに勝利した証だ…」

それはバッジだった。
俺はそれをあやふやな握力で握り締めた。
いま、強く握っているのか弱く握っているのかもわからない…。

テッセン 「その子…急いでポケモンセンターに連れて行ったほうがいい…電気を浴びすぎている」

ユウキ 「言われなくても…そうします…」

俺はそう言うと涙を拭きキノガッサを背負って急いでポケモンセンターに向かった。




……………。
…………。
………。
……。
…。




お姉さん 「右半身が麻痺…」
お姉さん 「ただし、首から下のところで神経が焼ききれているから頭より上は問題ないわ…」
お姉さん 「言わなくてもわかっていると思うけどもうこの子は戦えないわ…」

俺は集中治療室の前にいた。
お姉さんは俺の前に立つとヌマクローのときのように淡々と言ってくれる。

ユウキ「治るんですか…」

俺はダメ元聞いてみた。

お姉さん 「わからないわ…本人次第ね」

ユウキ 「本人次第…?」

お姉さん 「神経が切断されるってとても厄介なことなのよね…」
お姉さん 「何とか手術で神経をある程度繋ぐことには成功したわ…」
お姉さん 「でも、一度切れた線を繋ぐと以前と感覚が変わるの」
お姉さん 「動くこともままならないほどにね…」
お姉さん 「だけど、繋がってはいるの…だから彼女がもう一度戦えるようになるかはあの子次第」
お姉さん 「無責任なようだけど今の技術でも完全に元通りには出来ないの」
お姉さん 「でも、現実にその状態から回復した人はいる…もちろんしなかった人も…」

お姉さんは冷静にそう言っていく。
俺にはその言葉が絶望にしか聞こえなかった…。
いくら他人のポケモンとはいえこんなに顔色変えず平然と言えるこの人が俺には怖かった。
きっと、同じような…いや、もっと酷い症状の患者を何人も見てきたからだろうな…。

キルリア 「マスター…」

ユウキ 「キルリア…?」

気が付くと足元にキルリアがきていた。
キルリアは少し悲しそうな顔をしていた…。

キルリア 「キノガッサさんはきっと幸せでした…」

キルリアはそっとやさしい声でそう言う。
でも、顔は暗い…。

キルリア 「…だから、笑って見送りましょう…」
キルリア 「キノガッサさんは死んだわけではありません…あの人は…必ず戻ってきます…」

キルリアは最後にその暗い顔を振り払うように強くそう言う。
決して大きな声でもなく覇気のある声でもなかったがとても強く聞こえた。

ユウキ 「そう…だな…」

お姉さん 「最後に言っておくわ、あなたのヌマクローはとりあえずモンスターボールの中で安静にしていたら明日明後日には問題なくなるわ」
お姉さん 「最後にあなたからキノガッサに言うことはある?」

お姉さんはヌマの件を言った後そう付け足す。

ユウキ 「ありがとう…こう言っといて下さい」

お姉さん 「わかったわ、それとポケモンセンターにあるパソコンからこっちに繋いだらいつでもキノガッサに会えるから定期的に顔を見せてあげて」

ユウキ 「はい、ありがとうございます…」

ありがとうか…。

ユウキ (キノガッサ…ありゃ俺の台詞だぜ…)


………。


テッセン 「ユウキ君…キノガッサは大丈夫だったかね…?」

俺がカウンターでヌマのボールを受け取るとテッセンさんが近づいて話し掛けてくる。
恐らくポケモンの回復に来たのだろう…。

ユウキ 「…何とか一命は取り留めました」

テッセン 「そうか…」
テッセン 「きっとあのキノガッサはよほど信頼していたのだろうな…」
テッセン 「でなければあれほどまでは耐えられん…」

ユウキ(…信頼…か)

確かに俺とポケモン達は他人には理解できないほどの信頼関係を築いていると思っている。
だけど、今日わかった。
信頼は諸刃の剣だと…。
もし、このような信頼関係が続いたらまた、あんなことが起きるのではないかと思うと怖い…。
だけど…それを乗り越え強くならないといけない…ポケモン達を守れるくらい心も体も…。

テッセン 「君にはポケモンリーグに出てもらわないと困るな…」

ユウキ 「…え?」

テッセン 「あれ程の戦いをされたんだ…君ならきっとやれる、頑張ってくれ」

ユウキ「…まいったな…」

俺はそう言うと頭をぽりぽりと掻いた。
また…背負う物が増えたな…。




ポケットモンスター第14話 「夢の為の犠牲」 完






今回のレポート


移動


キンセツシティ


10月16日(ポケモンリーグ開催まであと136日)


現在パーティ


ヌマクロー

グラエナ

キルリア

スバメ

テッカニン


見つけたポケモン 28匹

コイル

ビリリダマ

レアコイル

テッカニン



おまけ



その14 「バイト」




ユウキ 「えーと、ここはこうしてっと…」

俺は今配線を結んでいた。
何の配線かと言うとテッセンさんのジムのからくりの配線だ。
電気ジムらしく電気を使ったジムだから電磁ネットによる迷路を作ろうとしているのとのことだ。
それの原理はスイッチをいたる箇所に作りそれをふむ事によって電磁ネットのオンオフがきまるというものだ。
まぁそんなに難しく作ってないから簡単に解ける仕組みだが。
ちなみにこれは一応バイトだ。
以前にも言っていたが金がない…。
よってこうやって稼いどかないといけないんだよな。
まぁ、時限爆弾の解除よりよっぽど楽なものだ。
爆発物処理免許持ってるしな…。(なんでもっているかは今は内緒だ)

テッセン 「ふむ、こっちは終わったぞ!」

ユウキ 「こっちも終わりました!」

ちなみに作業をやっているのは俺とテッセンさんふたりだけ。
3時間かけて改装したぜ。
今日はここでもう1泊だな。

テッセン 「ふむ、ユウキ君のおかげで今日中に終わったよ」
テッセン 「これはワシからのバイト料だ」

そう言って、テッセンさんは最初から用意していたのか封筒を渡してくる。
俺はその中身を見たとき驚愕する。

ユウキ 「こ、こんなに貰えませんよ!」

中にはなんと2万も入っていた。
たかが3時間の作業だぞ…?
しかし、キノガッサの入院費とか考えるとこれくらいは…。

テッセン 「いいんじゃ、それは君の旅に役立ててくれ」
テッセン 「金でポケモンリーグに出られるという訳ではないが金はあるに越したことはない」
テッセン 「それと、キノガッサの手術代や入院費を気にしとるようじゃが気にせんでいい」

ユウキ 「え? それはどういうことですか?」

テッセン 「ワシが払ってやる! だから気にするな!」

ユウキ 「そんな! そんなこと出来ませんよ!」

さすがにそこまではしてもらえない。
太っ腹すぎだろ。

テッセン 「その代わりじゃ…」

ユウキ 「は、はい…?」

テッセンさんはただしと条件をつけてくる。
ま、まぁ、当然だよな…。

テッセン 「ポケモンリーグに出場するんじゃ、それが借金のかたじゃ」

ユウキ 「は、はいっ! 頑張ります!」

こりゃ…死ぬ気でいかなきゃいけないな…。

テッセン 「君には期待しとるんだからな…頑張れよ」

ユウキ 「え?」

最後にテッセンさんは小言でそう言う。

テッセン 「さーて! じゃあそこのおどろきラーメンで晩飯でも一緒にとらんか?」

ユウキ 「はい! ご一緒させていただきます!」



おまけその14 「バイト」 完


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