ポケットモンスター サファイア編




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第22話 『休日』





チュンチュン…。

チュンチュン…チチチ…。

ユウキ 「ん…」

朝を知らせる小鳥達のさえずり。
俺はそれを虚ろながらかすかに聞き取る。
が、どうにもおかしい、耳が…と言うよりも姿勢が。
どうも体の節々が痛い気がする。
てか、何かにもたれているのか…?
しかし、意識は余程眠く、結局起きられないまま意識は徐々にまどろんでいく。

チュンチュン…チチ…。

もはや、小鳥達のさえずりもまともに聞き取れない。
そして俺はゆっくり眠りへ…。

ボフゥン!!

チルット 「朝でやんすー!! 起きるでやんすー!!」

ユウキ 「!!?」

突然、耳元でやかましく叫ばれ俺は驚いて目を覚ます。
声の主を見るとそれはチルットであった。

ユウキ 「チルット! お前どうやってモンスターボールから出てきた!?」

俺は俺は頭を震わせてチルットにそう言う。
たしかモンスターボールに入れておいたはずなのに何故外に出ているんだ!?
しかし、チルットはそれを聞くとさも当然のように。

チルット 「モンスターボールから出るのなんて楽勝っすよ」
チルット 「もっとも、気がついたら出ているって感じっすけど」

ユウキ 「……」

さすがに絶句する。
モンスターボールとは言い換えれば檻のような物だ。
それがこうも簡単に出られては…。

チルット 「そんなことより朝っすよ」

ユウキ 「わかってる…」

俺はそう言うと一度目を擦り、周りを見回して状況を探り、時計を探す。

ユウキ 「6時…か、またこの時間帯か…」

まず、真っ先に目に入ったのは直径30センチくらいの青色の丸時計だった。
丸時計はしっかり6時を指していた。
どうにも最近5時を過ぎて6時に起きることが多くなっている気がする。
もしかしたら寝不足か…。

ユウキ 「…それとも寝疲れによるものか?」

俺は次に自分の状態を見る。
俺はいつもの服を着て、アスナの家のリビングの長机に寝そべっていた。
どうりで肘やら腕やらが痛いはずだ。
しかし、布団は背中から毛布をかけられていた。
アスナがやったんだろう…恐らく。
その証拠のようにアスナの姿がリビングには無かった。

ユウキ 「やれやれ…家庭教師も大変だわな…」

俺は立ち上がり軽く屈伸をする。
そして、はっきり意識を覚醒させた所で俺はチルットを元のモンスターボールの中に戻した。

ユウキ 「さて、まずしなけりゃならないのは…」

俺はそう言って今しがたまで眠っていた机に散乱している物を見る。
それは、アスナ専用もしもの時の参考書だった。
はっきり言って大体これで大丈夫なのだが、まだ入れた方がいい気がしなくもない。

ユウキ 「ふむ…」

俺は少し考えていると、突然アスナの部屋のドアは開き、中からアスナが現れる。
アスナは昨日着ていたパジャマから普段着に着替えいた。
思ったよりアスナの朝は早いようだ。

アスナ 「おはよ、先生…」

ユウキ 「ああ、おはようアスナ」

俺たちは互いに軽く朝の挨拶をする。
アスナは挨拶をすると、そのままキッチンの方に向かった。

アスナ 「ちょっと待っててね、今から朝ご飯作るから」

ユウキ 「ああ」

しかし、どうも今日はアスナに元気がない気がする。
もしかしたら朝が弱いのか…?

ユウキ 「俺も強いとは言えないしな…」

俺はそう勝手に解釈すると、そのまま朝ご飯ができるのを待っているのだった。


………。
……。
…。


ユウキ 「いただきます」
アスナ 「いただきます」

俺たちはご飯が食卓に並ぶと手を合わせてそう言う。
やはり怠るべきではないだろうこれは。

ユウキ 「しかし、朝から頑張ったな…」

俺は食卓に並ぶ膳を見てそう言う。

アスナ 「そう? 普通だけど?」

しかし、アスナはあまりに平然と普通だと言う。
ちなみに今日食卓に並んでいるのは白ご飯、味噌汁、卵焼き、サラダ。
4品もある…。

ユウキ 「やはり、パン派との差か…」

実は俺は朝はパン派。
こんなには食べないのだ。
へたしたら食パン1枚とか普通だったからな。

アスナ 「…ねぇ先生」

ユウキ 「ん?」

アスナ 「今日はさ…どっか二人で遊びに行かない?」

ユウキ 「…何故?」

アスナは突然そう言ってくる。
いきなりなんだとも思ったがアスナはどうも勉強が嫌とかじゃなさそうだった。

アスナ 「これで『最後』だからさ…先生とそういう思い出も作りたいかなって…」

ユウキ 「……」

俺はアスナの最後という言葉に気付くがここは気にせず聞いていた。
最後…一体どういうことか?

アスナ 「だからさ、何もないところだけど…ね?」

ユウキ 「…わかった、いいよ」

俺はそう言って許可する。
息抜き…と言うには急なことだがたまには1日潰してもいいだろう。
俺も、疲れてるしな。

アスナ 「じゃ、そういうことで! 朝ご飯さっさと食べようか」

ユウキ 「……」

アスナは俺からYESを聞くと、嬉しそうに急にいつものアスナに戻る。
さすがに俺も少し驚いてしまった。
まさか、これが言い出せなかったから暗かったのか…?


………。
……。
…。


ユウキ 「この町のことはあまり知らないから行き先はアスナに任せるぞ」

アスナ 「うん、わかっているって」
アスナ 「とりあえずポケモンセンターに寄ろっか」

俺たちは食事を終えるとそう言って、家を出た。
食器洗いはアスナが手っ取り早く終わらせてしまった。

ユウキ 「しかし、ポケモンセンターに寄ってどうするんだ?」

俺は何故ポケモンセンターに向かうのか疑問に思って聞いてみた。

アスナ 「そりゃ、温泉入るためでしょ?」

ユウキ 「朝から入るなよ…」

俺はさすがに突っ込みを入れておく。
俺は朝から温泉に入る気はないぞ?

アスナ 「あはは、冗談だよ。ポケモンたち預けに行くの」

ユウキ 「ポケモンたちを?」

アスナ 「うん、そうだよ」

アスナは今度は首を縦に振ってそう言う。
まぁ、温泉以外には無いわな。

アスナ 「先生も預ける?」

ユウキ 「そうだな…いや、だったら」
ユウキ 「出て来い、みんな!」

俺たちはポケモンセンターの前まで着くと俺は一斉にボール6個を投げ、ポケモンたちを出す。

ラグラージ 「ラグ?」

チルット 「おお、今度は外でやんす」

アスナ 「わお、先生のポケモン勢ぞろい?」

ユウキ 「今日は自由時間だ」
ユウキ 「夕方日が傾くらいまでにはこの場所に戻ってきてくれ」

俺は出したポケモンたちにそう言う。
ポケモンたちはそれぞれ様々な様子で納得する。

サーナイト 「でも、マスターは?」

ユウキ 「俺はアスナと、な」

サーナイト 「アスナ…?」

アスナ 「ども」

サーナイト 「あ、こちらこそ…」

アスナはサーナイトに一礼するとサーナイトもつられて頭を下げる。
なんだか、少し不思議な光景だ…。

アスナ 「いわゆる美人系のポケモンってか、やっぱり女の子?」

サーナイト 「…はぁ」

ユウキ 「あ、いや、一応♂」

サーナイトはやはりかというようにため息をついた。
もはや諦めているのかもしれない。

ユウキ 「つーわけだ、ラグ、あとは頼むな」

俺はそう言うと、アスナ共にポケモンセンターに入る。

ラグラージ 「ラグ」



…………。



ラグラージ 「さてと、じゃ、どうする?」

サーナイト 「ふーむ、各自でのんびりしていていいんじゃないでしょうか?」

グラエナ 「だったら俺は適当に寝てる…」

コドラ 「あたしはユウキを追いかけないと」

コータス 「そ、それは駄目だと思いますよ…?」

チルット 「…とりあえず、解散といきましょうっす?」

ラグラーグ 「そうだな、じゃ、解散」

ラグラージは手を叩くことも無くそう言うと、それぞれは適当に動き出した。


サーナイト 「僕はどうしようっかな…?」

僕は解散したあとポケモンセンターの辺りで考えていた。
特にやることも無いし、趣味とかも無いからな…。

チルット 「あ、サーナイトさん、ちょっと来てほしいっす」

サーナイト 「?」

何をしようか悩んでいるとなぜだかチルットさんが呼んできた。
僕は何かと思いチルットに寄った。

サーナイト 「どうしたんですか?」

チルット 「まぁまぁ、いいから来てほしいでやんす」

コドラ 「一体何なのよ?」

サーナイト 「コドラさんも?」

なんとチルットはコドラさんも連れてきていた。
一体これからどこへ連れて行くんだろう?
一体何する気だろうか?


………。


チルット 「ここっす」

サーナイト 「広場?」

コドラ 「広場ねぇ〜」

僕たちはチルットさんに連れられて、人の多い公園のような場所にきた。
チルットさんはここの中央にある噴水の前まで歩いて(もとい飛んで)行った。

コドラ 「で、なんなわけ?」

コドラさんは少々いらついたような声でそう言う。
僕はいらついてはいないがやはり、何故こんな場所までつれてきたのか疑問だった。

チルット 「実は、おいら、御二人方とユニットを組みたいと思ったでやんす」

コドラ 「はぁ…?」

サーナイト 「ユニ…ット…?」

何だろうかそれは?
ユニットっていきなり何を?

チルット 「と、いうわけで初演奏はこの場所っす!」

サーナイト 「演奏…?」

僕はそれを聞いたとき、チルットが呼んだ意味を理解する。
つまり、ボーカルやら何やらを手伝えと…!?

コドラ 「ふざけんじゃないわよ! 何であたしが!」

サーナイト 「ぼ、僕もさすがにそういうのは…」

さすがに人前で歌ったりするのは恥ずかしい。
コドラさんなんて顔真っ赤にしている。

チルット 「大丈夫でやんすよ、とりあえずオイラがまずソロで歌うっすから聴いてほしいっす」

チルットさんはそう言うと軽く深呼吸をして、歌いだす。

チルット 「♪〜♪♪〜♪。 ♪〜♪〜〜♪〜〜♪♪♪」

チルットさんはその体からはとても信じられないようなきれいな歌声で歌い始める。
初めは静かにゆっくりと、次第にこの広場一体に広がるような声で歌う。
しかし、近くで聞いていても雑音にならない、非常にチルットさんが上手なのがわかった。
ここにいる人間の人たちもこの歌声に思わずみな振り向いていた。

コドラ 「……」

コドラさんもこの時はさすがに静かにしていた。
コドラさんはどう思っているんだろうな?

チルット 「〜♪…っと」

パチパチパチパチパチ!

チルットさんが歌い終わると周りの人間の人たちが一斉に拍手を送った。
チルットさんはそれに応えるように『どうも』と日本語を使いながら宙を舞った。

チルット 「まぁ、こんなもんっす」

コドラ 「それだけの物持っているんならソロでやればいいじゃない…」

コドラさんは感想を述べる前にそう言った。
しかし、たしかにあれだけの歌唱力があるのなら僕たちみたいな素人など誘わずひとりでやった方がいいと思う。
はっきり言って僕たちじゃ足手まといだと思うし…。

チルット 「でも、三人でやった方がいいっす」
チルット 「やってみるっす」

コドラ 「あたしは歌うの苦手なのよ?」
コドラ 「いきなり歌えるわけ無いじゃない…」

コドラさんは珍しく弱気だ。
もしかして超音痴?

チルット 「それは言い逃れっす、やる前から逃げるのはいかがなものかと?」

コドラ 「う…」

コドラさんは痛いところを突かれたのか少し嫌な顔をする。
しかし、結局。

コドラ 「わかったわよ…どうなっても知らないわよ…」

チルット 「はいっす♪」

コドラさんの承諾を得るとチルットさんは嬉しそうに笑って言った。

チルット 「さぁて、後はサーナイトさんも」

サーナイト 「え? 僕も?」

コドラ 「あんたもやるのよ!」

サーナイト 「…そうですよね」

さすがに僕だけ言い逃れは出来そうに無い。
恥ずかしいけど…仕方ないよね…。
とほほ…。



…………。
………。
……。



ハルカ 「ふぅ! いっぱい珍しい物手に入れたし今度はヒワマキシティかな?」

あたしはフエンタウンの漢方薬屋からでると、適当に歩き出した。
今回のお目当ては温泉と漢方薬。
もう両方とも達成したけど、これからどうしよう?

青年A 「おい、公園で妙な3匹のポケモンが歌っているそうだぞ?」

青年B 「ああ、知ってる。しかも結構上手いんだろ?」

青年A 「ああ、行ってみようぜ!」

あたしの近くでそんな話をしていた青年達はその後その公園まで走っていった。

ハルカ 「…興味あるかも…」

あたしはそう思うとその公園へ向かうのだった。



…………。



チルット 「♪〜♪♪〜」
サーナイト 「〜♪〜〜♪〜♪〜」
コドラ 「♪〜♪♪♪〜♪♪〜」

ハルカ 「あれね…」

あたしは公園に着くと噴水の近くで歌っている3匹のポケモンを見る。
ポケモンはチルットとサーナイトとコドラ…。
全く関連性のない3匹ね…という事はトレーナーのポケモン?

ハルカ 「う〜ん、でも歌うの上手だなぁ〜未来のスターってやつかも」

ラグラージ 「ラグ…」

ハルカ 「!? ラグラージ!?」

突然横にラグラージがやってくる。
さすがにあたしもビックリしちゃうけどラグラージはあたしを特に気にしていないみたい。
既に時間は午後の4時、この子も明らかに野生じゃなさそうね。

ハルカ 「あれ? ていうか…」

ラグラージ 「ラグ?」

あたしはこのラグラージを見てあるポケモンと人物を思い出す。
ラグラージはあたしに気付いて振り向く。

ハルカ 「やっぱりあなた、あの時のユウキ君のミズゴロウ!」

私はこの子を見るとユウキ君のミズゴロウが浮かんだ。
どこか仕草とか似ているし、間違いなく進化したんだ!

ラグラージ 「ラグ? ラーグ♪」

ラグラージは私のことを覚えていてくれたみたいで私と気付くと嬉しそうに笑ってくれた。
あれ? でもユウキ君は?

ハルカ 「ユウキ君はどうしたのラグラージ?」

ラグラージ 「ラグ…」

あたしがそう聞くとラグラージは首を横に振る。
知らないってか。
一体どうしたっていうんだろ。

ラグラージ 「ラグ…」

ハルカ 「ラグラージもあのポケモンたちを見に来たの?」

ラグラージ 「ラグ…ラグ…」

ラグラージはまたもや首を振る。
そうか、迎えにきたんだ…。


ハルカ 「てことは、あの子たちもユウキ君のポケモン?」

私はラグラージとの会話から読み取るとそう判断する。
少なくともラグラージは捨てられたとかそういうことじゃないらしい。
まぁ、ユウキ君がそんな簡単に見捨てたりするわけないか。

ハルカ 「それにしても、ユウキ君も色々育てているんだ」
ハルカ 「あのコドラなんて色違いじゃない…」

私はそう呟くともうあとは何も詮索せずあの子たちの歌を聞いていた。

チルット 「♪〜…」

サーナイト 「ふぅ…」

チルット 「みなさんありがとうっす! おいら達『三奏』の初舞台聞いてくれた人たちありがとう!」
チルット 「これからどこかでおいら達の歌聞いたらよろしくっす!」

コドラ 「コド…」

サーナイト 「は、恥ずかしい…」

チルット 「じゃ、最後に1曲オイラのソロを聞いてほしいっす!」

パチパチパチパチパチ。

周りからは最後の曲に対して拍手が飛ぶ。
なんだかポケモンたちじゃないみたい…。

ハルカ 「…ていうか、今、日本語喋った!?」

あたしはチルットがあまりに普通に喋る物だから気付かなかったがチルットが日本語を喋っていることに気付く。
どうやって覚えさせたんだろう…恐るべしユウキ君。



………。
……。
…。



チルット 「サンキュー! それじゃおいら達ここで終わりっす!」

コドラ 「コドー!」

サーナイト 「あ、ありがとうございました…」

最後にチルットが歌い終わると3匹は頭を深深と下げる。
といっても、そう見えるのはサーナイトだけだけど。

気がついたらもう6時…結構暗くなっちゃった。
周りの観客達も蜘蛛の子を散らすように去っていった。

ユウキ 「たく、やっと終わったか」

アスナ 「でも、上手だったね先生」

ハルカ 「ユウキ君!?」

突然、後からユウキ君の声が聞こえたと思って振り向くとそこにはユウキ君がいた…後、ついでにたしかこの町のジムリーダーも…。
て、なぜに?

ユウキ 「あれ? ハルカちゃん? なんでここに?」

ハルカ 「あ、あたしはこの町にちょっと用事があってね…て、それよりユウキ君こそどうしたのよ?」

ユウキ 「俺は、ジム戦に来たんだよ」

ハルカ 「あ、そりゃそうか」

ユウキ君はジム戦のために来たに決まっているわよね。
あたしとしたことがうっかりしていたわ…じゃなくて!

ハルカ 「なんでそのジムリーダーと一緒にいるの!?」

アスナ 「居たら悪いわけ?」

ジムリーダーはそう言ってあたしの前に来る。
む…身長はあたしより高いわね…。

ユウキ 「まぁ、こっちも変な事情があってな…」

ユウキ君は頭を掻きながらそう言う。
なんだか誤魔化されたような言い方…

ハルカ 「教えてくれそうに無いね、まぁいいや」
ハルカ 「それより、ユウキ君良いポケモンもっているね」

ユウキ 「…あいつらか?」

ハルカ 「うん、ていうかみんな…」

あたしが見た限り、ユウキ君のポケモンはそれぞれみんないい育ち方をしているのがわかる。
実に自由で豊かな感情が感じ取れるし、やっぱりユウキ君は才能があるんだと改めて実感する。

ユウキ 「…案外変な奴等だけどな…」

ハルカ 「ふふ、じゃあそんなユウキ君にこれをあげるわ!」

あたしはそう言うとバックからあるゴーグルを取り出す。

ハルカ 「聞いて驚き見て驚き、なんとこれはただのゴーグルにあらず、これの名は…」

ユウキ 「ゴーゴーゴーグル…だよな?」

ハルカ 「うう…」

先に言われた。
ユウキ君なんで知っているの?

ユウキ 「それがあったら砂嵐だろうが吹雪だろうが進めるんだろ?」

ハルカ 「しかも使い道まで知ってるし!?」
ハルカ 「もしかして…持ってた?」

あたしは恐る恐るユウキ君に聞いてみる。

ユウキ 「いや、持っちゃいない」

ハルカ 「そう、じゃあ、はいこれ、ユウキ君にあげる!」

あたしはさっさとユウキ君にこのゴーゴーゴーグルを渡す。
そして、あたしはさっさとこの場を離れるのだった。

ハルカ 「なんだか、今日のユウキ君やりにくい!」


…………。


ユウキ 「…いいのか…タダで」

アスナ 「得したね、先生」

…たしかに得したといえばそうだろう。
まぁ、貰える物は貰っとくが俺だしな。

チルット 「おお、気がつけばご主人、いつの間に!」

ユウキ 「お前らが遅いからどうしたのかと思ったら変なポケモンの噂を聞いてきたんだよ」

実際もう時間は7時前になっている、夕刻をとっくに過ぎてるし。
夜な夜なソロ活動は禁止した方がいいかもな…。

ユウキ 「それとあの『三奏』ってのはなんなんだ?」

さっきの公演の時、確かに三奏と言っていた。
グループ名のことだろうが一体何だというのだ?

チルット 「三奏はグループ名っす」
チルット 「音を奏でし3匹のポケモン…だから三奏でやんす」

アスナ 「ふーん、変わったグループ名だけどいいね」

サーナイト 「あの、マスター…」

ユウキ 「ん?」

サーナイト 「もしかして、ずっと見ていたんですか?」

ユウキ 「途中からだがな…」

俺が来たのは5時くらいだった。
それより前からチルットたちはやっていたみたいだがな。

サーナイト 「はぅ…恥ずかしい」

サーナイトは赤面して顔を隠しながら縮こまる。
余程恥ずかしかったのか…。

チルット 「それより、ご主人随分遅かったでやんすね」

ユウキ 「…どういう意味だ? 時間になっても帰ってこないからこっちから来たんだぞ?」

チルット 「いや、そう言う意味じゃないっす、オイラの予想ならもう20分は早い予想だったんすがね」

チルットは考えるようにしてそう呟いた。
ようするに、計画的にわざとここまでやっていたと?

ユウキ 「お前もしかして…俺がここまで来ると踏んで公演していたのか?」

チルット 「そりゃ当然っす!」

コドラ 「コド…」

サーナイト 「そうだったんですか…」

どうやら、サーナイト達は知らなかったようだ。
チルットめ…割と計算高い奴なのか?

チルット 「さ、そんなことよりもう戻るっす」

ユウキ 「あ、こら…!」

チルットはそう言うと一匹さくさくと公園の外に飛んでいってしまう。

ユウキ 「…たく」

俺はそれを見て、渋々モンスターボールを取り出す。
外に出したみんなをボールに入れるためだ。

アスナ 「ねぇ、先生…」

ユウキ 「…ん?」

俺が皆をモンスターボールに入れているとアスナは申し訳なさそうに声をかける。
俺はチルットまでしっかりモンスターボールに入れると振り向く。

アスナ 「明日…よろしくね」

ユウキ 「…わかってる」

俺はただ、そう言って歩き出す。
明日…明日が『この生活』の終わり。
明日…また、俺は…。




ポケットモンスター第22話 『休日』 完






今回のレポート


移動


フエンタウン


11月6日(ポケモンリーグ開催まであと115日)


現在パーティ


ラグラージ

グラエナ

サーナイト

コドラ

コータス

チルット


見つけたポケモン 39匹




おまけ



その22 「日溜りの公園で…」




11月6日 午後5時12分
 フエンタウン 町を見渡せる公園。


ユウキ 「…こんな場所もあるのか…」

アスナ 「あはは、まぁ、あまり見晴らしのいい場所でもないけど」

俺たちは今、少し高いところにある公園に来ていた。
時刻は既に夕日が差している時間帯。
本来ならそろそろポケモンたちを迎えにいっとかないといけないんだが、アスナに呼ばれてくることになった。

アスナ 「ここ、結構好きなんだ…小さいけどこの町も見渡せるし」

ユウキ 「……」

アスナは落下防止の柵にもたれ掛って言う。
俺は隣でアスナを無言のまま見ていた。

アスナ 「この町とも…おさらばか…」

ユウキ 「…?」

アスナは町を見つめてそう言った。
俺には正直すぐにはその意味がわからなかった。

ユウキ 「どういうことだ…」

俺は思い切って聞いてみた。
少々失礼なことかもしれなかったが、気になってしまったのだ。

アスナ 「あたし、キンセツの大学受けることにしたんだ」

ユウキ 「…! そうか」

なるほど、だからか。
たしかにキンセツシティならこの町を離れなければならないからな。
しかし、急だな…もう決めていたとは。

ユウキ 「いつなんだ? 出発は?」

アスナ 「えっとね…明後日なの」

ユウキ 「…! 急すぎないか!?」

さすがに驚いてしまう。
そんな急なことを言われても、用意が大変だろうに。

アスナ 「ごめん! 本当に急な話で…」
アスナ 「でも、受験日は11日なの…」

ユウキ 「5日後!? 間に合うのか…」

アスナ 「一応…1日分余るよ」

ユウキ 「……」

少なくとここからだと1週間くらいかかる気がしたが…?
もしかして方向音痴の俺は無駄に距離をロスしたわけ?

アスナ 「それで、先生とあたしの関係はおしまい…」
アスナ 「いや、正確には今からかな…?」

ユウキ 「…アスナ?」

イマイチアスナの意図が読めない。
どうも急ぎすぎている…何故だ?

アスナ 「明日、午前10時…ジム前に来て…」

ユウキ 「…!?」

アスナ 「…意味は…わかるよね?」

ユウキ 「…わかった」

アスナは…自分の立場に憤りを感じている。
嫌なんだろう…トレーナーである『俺が』こんな所で、それも自分のために足止めされているのが…。
だから、急いでいるんだ…。
そのために、僅か数日で始まってしまう受験校を選んだのだろう。
…不可能な部分や矛盾は多い…。
どうやって受けたのか?
少なくとも学校推薦は受けた様子はない。

ユウキ 「…いや、謦咳(けいがい)か…」

アスナ 「? なに?」

ユウキ 「なんでもない…」

これは自分の考えなのでアスナに言うつもりはない。
俺はそう思うと歩き始める。
今日は…ポケモンセンターで一日を過ごす事になるな…。

アスナ 「あ、待ってよ先生!」

アスナも急いで俺の後ろを追いかけてきた。
俺はそれを見て少しゆっくり歩く。
といっっても、追い着くまでだ。
追い着かれたら歩幅がアスナのほうが広い分俺は早歩きしないといけない。

ユウキ 「…遅かれ早かれ…」


おまけその22 「日溜りの公園で…」 完


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