ポケットモンスター サファイア編




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第23話 『挑戦者アスナ』





『11月7日 午前8時27分 ポケモンセンター・105号室』


ユウキ 「………」


(アスナ 「明日、午前10時…ジム前に来て…」)


ユウキ 「遅かれ早かれ、ジム戦はやってくるか…」

俺はこの日はポケモンセンターに寝泊りしていた。
そして、今日、指定の時間にジム前に来てくれとアスナに言われた日だった。
俺はそれより4時間ほど前…だいたい6時ごろから目を覚まして考え事をしていた。
内容は当然今日のジム戦だ。
勝負のことより、このジム戦の必然性を考えている。
俺はポケモンリーグ出場を目指すポケモントレーナー…、アスナはジムリーダー。

ユウキ 「時期が時期なら、ジム戦は当たり前だもんな…必然の行いか」

俺はこれからのことを考えながら寝室の天井を見た。
部屋はカーテンも閉め、薄暗く、何もない天井を見ても本当に何もないが、少々今の俺は気分が悪かった。
だから、気分を紛らわせたかったのだ。

ユウキ (俺は、アスナに勝って、さらなる高みを目指す…)
ユウキ (アスナは、どうなるかな…?)

つい、アスナのことも考えてしまう。
少なからず家庭教師をやってしまったせいで情が移ったのかもしれない…。

ユウキ 「バカか俺は…人の心配ができるほど器用な人間でもないくせに…」

しかしすぐに俺は考えるのを止めた。
少なくとも、俺がアスナの心配をしても無駄だ。
俺は自分の心配だけをすればいい…少なくとも、今は。

ユウキ 「………」

俺はゆっくり窓に掛けてあるカーテンを開け、支度を始める。
モンスターボールはボールラックに入れ、腰に巻き、バックには必要なものをつめる。

ユウキ 「…行くか」

俺はそう小さく呟いて、部屋を出るのだった。



……………。



お姉さん 「あら、おはようございます」

ユウキ 「…ども」

いつも通りチェックアウトのためカウンターのポケモンセンターのお姉さんの前に行く。
お姉さんは朝ということもあって軽く挨拶をしてきたので俺は更に軽く、首だけ縦に振って挨拶した。
そして俺はお姉さんに鍵を返すのだった。

お姉さん 「ご利用ありがとうございました! またのお越しを!」

ユウキ 「……」

俺はまた、首だけを軽く縦に振ってそのままポケモンセンターを出た。
時刻はもう、9時と言うこともあって町には人がまばらにあった。
このままジムへ直行したら30分とかからない…時間が早すぎたか。

ユウキ 「仕方ない…」



…………。
………。
……。



『同日 9時30分 フエンジム前』


ユウキ 「…しばらく待とう」

俺はジムへ向かうまでなるべく遠回りをしながら寄り道もしてジムへ来た。
アスナの家には近寄らなかった、ジム戦をする相手にあまり会いたくなかったからだ。
ただ、少し腹が減っている。
今日は朝から何も食べていないので、こんな時に限ってジムに寄る前にコンビニで何か食べ物を買っておくべきだと思ってしまう。

ユウキ 「なんなら、今から行くか…?」

つい、そう思った。
時間的には急げば恐らく余裕だろう。
ならば善は急げ…。

アスナ 「あ、先生、やっぱりね…早めに来て正解だよ」

ユウキ 「…どうも」

コンビニへ向かおうとすると、まるで狙われたかのようにアスナがショルダーバックを持って出てくる。
どうやらジムへ来たようだ…少しタイミングが悪く…。

アスナ 「あはは! そんなに硬くならなくたっていいって!」
アスナ 「先生はトレーナーで先生なんだからもっとふてぶてしくしときなよ!」

ユウキ 「…む?」

イマイチ良くわからない。
トレーナーで先生だとふてぶてしくしないといけないのか?

アスナ 「ま、今ジム開けるから入りなよ」

ユウキ 「…うむ」

どうも上手く喋れない…何故だ?



………。



ユウキ 「……」

中に入ると相変わらず地面の所々から湯気が立っていた。
穴を掘ったら温泉が出てくるかもな…。

アスナ 「ちょっと待っててね! 審判の先生呼んでくるから!」

アスナはそう言うとバックを背負ったままジムの奥の部屋に向かった。
荷物を置くためか、それとももう審判はこのジムに来ているのか。
まぁ、何にせよ俺は挑戦者の立つ場所で待っていた。


アスナ 「…お待たせ! 先生!」

ユウキ 「! …む」

ほとんど待っておく時間もなく、アスナはすぐに奥の部屋から審判を連れてくる。
審判はかなり高齢で多くの白髪が見れた。
まぁ、白髪の総数は俺の方が多いかもな…。

アスナ 「じっちゃん、ありがとね…んで、ごめんね」

じっちゃん 「なに、孫の頼みじゃ任せておけ」

アスナと審判の老人(アスナはじっちゃんと呼んでいた)はなにやら会話をしてそれぞれ、所定地に向かった。
いや、アスナだけは俺に近づいてくる。

アスナ 「ごめんね先生、何から何まで急で…」

ユウキ 「いや、別にいいさ、アスナの事情だしな…」

実際、このジム戦はアスナがこの町を離れるためだ。
俺も本音はこの町のジムバッジが必要だからな。

アスナ 「だから、ついでに言うけどさ、実はあたし今日がはじめてのジム戦なんだ」

ユウキ 「なぬ? 初めて…?」

アスナ 「ついで言うと、これがこのジムの最後のジム戦なんだ」

ユウキ 「…は? 廃業と言うことか?」

アスナ 「うーん…というより、あたしが消えるとこのジムになり手がいないから臨時休業かな?」

ユウキ 「……」

つまり、このジムにはジムメイトがいないということか…。
しかし、学校に通うとして、卒業まで休業なら、立派な廃業と同じではないだろうか?

アスナ 「ま、それはともかく…」

ユウキ 「…あのな…何が言いたいんだ?」

アスナは手を横に振ってそう言う。
正直俺には全く関係のないことを言われてなんでだと思ったが、前振りだったのか…。
正直、だんだんかったるくなるから手短に頼みたい所だ。

アスナ 「あたし、いきなりジムリーダーとして戦ったら、多分まるで話にならない勝負になると思うの」
アスナ 「それこそ、あのエキシビジョンの時のように、ね?」

ユウキ 「…どうかな」

確かにあの時はココドラでコータスと戦った。
結果はココドラがコドラに進化することで勝利した。
…偶然と言っていい。

アスナ 「だからね、あたし今日は挑戦者として、戦わせてもらうわ!」

ユウキ 「…挑戦者!」

アスナは真っ直ぐ俺の目を見てくる。
アスナは、挑戦者として、本来ジムリーダーのあるべきでない戦いをする気か。
…そして、俺に受けてほしいんだ…。

ユウキ 「わかった、なら、俺も全力で受けてたとう!」

俺もそう言って、アスナの赤い目を睨みつけるとは言わずとも見つめる。

アスナ 「あはは! そんなに見つめられたら恥ずかしいね! それじゃよろしく!」

ユウキ 「……」

アスナは見事に茶化すように顔を赤らめ、ジムリーダーの立つ場所に戻った。
ああいう、大切な雰囲気の所をぶち壊せるのは天性かもしれないな…。
おれにとってはかったるいだけだが。

ユウキ (一癖、ある相手だしな…)


審判 「それではこれよりフエンタウン、ジム戦を行います!」
審判 「使用ポケモンは3体! ポケモンの途中交代は挑戦者のみ有効!」

アスナ 「あ、ちなみにここでの挑戦者は形式上先生だから!」

ユウキ 「……」

審判 「こら! ジムリーダー! 人が説明している時に割ってくるな!」

アスナ 「ゴメーン! じっちゃん…じゃなくて審判!」
…やはり、アスナは他のジムリーダーとは違いすぎる…。
審判相手に、割って入れるほどの度胸なんだから…。

ユウキ (先行き不安だな…)

審判 「こほん! えー、どこまで言ったかな?」

アスナ 「んな形式はどうでもいいからさっさと始めてよ!」

審判 「馬鹿者! これは神聖なジム戦において最も重要なことであって…!」

アスナ 「……」

ユウキ 「…かったるい」

審判は説教を始めた。
これじゃあ、ジム戦が始まらない…。

審判 「だいたいお前はジムリーダーとしての自覚が足らん!」
審判 「だから、ジムメイトに逃げられるんじゃ!」

アスナ 「それは関係ないでしょ! あれは父さんの性じゃないのよ!」

審判 「お前も同じじゃわい! もっとしゃんとせい!」

アスナ 「それだったらじっちゃんだって、四天王やめたらぐうたら審判に成り下がったちゃってさ! 子供の面倒くらい見れないわけ!?」

審判 「なんじゃと!? わしだって頑張って仕事探してるじゃぞ!?」

アスナ 「だったら温泉に入り浸ってないで、就職相談所にでも寄りなさいよ!」

審判 「!”##$$%%&’’(())==〜〜!!!」

アスナ 「|〜=))(’’&’&%(=〜)!!」

ユウキ 「……」

このままだと永遠にこのふたりの痴話喧嘩は続きそうだ…。
やっぱり俺が止めるべきなのか…?

ユウキ 「はぁ…待った!!」

アスナ 「!?」
審判 「!?」

ユウキ 「ここはジム戦を行う場だ! 痴話喧嘩をするべき場ではない!」
ユウキ 「それから審判! 審判は公平さが必要だ! この場に私情を持ち込むべきではない!」
ユウキ 「それからジムリーダー! 審判を困らせて進行を止めない!」

アスナ 「……」
審判 「……」

ユウキ 「なにか、異議は?」

アスナ&審判 「ありません…」

ちょっと強く言いすぎたか、二人とも心なしかさっきより小さく見える。
いや、これ位は言っておくべきだな、特にこのふたりには…。

審判 「えー、では気を取り直して…」
審判 「これよりフエンタウン、ジム戦を行います!」
審判 「使用ポケモンは3体! 途中交代は挑戦者のみ有効!」
審判 「先制はジムリーダー!」
審判 「それではこれよりフエンタウン、ジム戦第417戦を行います!」

アスナ 「えっと…、何だかよくわからなくなったけど…とりあえず!」
アスナ 「あたしは全力で行くからね! 覚悟しといてよ!」

アスナ 「いって! マグ!」

マグ 「マグ〜」

ユウキ 「マグマッグか…」

アスナが出してきたのはマグマッグ。
おおよそ予想通り、使用するのは炎タイプのようだな。

ユウキ 「いけ! ラグ!」

ラグラージ 「ラーグ!」

アスナに対して俺はラグを出す。
アスナには悪いが今回は最初から止めにかからせてもらおう。
文字通り全力で!

アスナ 「ラグラージ…やっぱりかぁ…」

さすがにアスナも苦い顔をしている。
当然か、これほど、炎タイプにとって嫌な相手もいないだろうからな。
まして、マグマッグは岩タイプも持っている、地面も持つラグラージには相性が悪いことこの上ない。

アスナ 「やるしかないよね! マグ! 『ひのこ』!」

マグ 「マグ〜!」

ユウキ 「かわせ! ラグ!」

ラグラージ 「ラグッ!」

マグマッグは火の粉をラグに放ってくる。
水技で強引に押しても良かったが、さすがにジムリーダーのポケモンだけに『ひのこ』といえど威力が高い。
かわしてから安定して一撃を加えた方がいいだろう。

ユウキ 「よし! 『マッドショット』!」

ラグラージ 「ラグー!」

俺はラグが『ひのこ』を完全に回避するとそう、命令する。

アスナ 「! マグ! 『リフレクター』!」

マグ 「マグ…」

ユウキ 「『リフレクター』か!?」

マグマッグは『マッドショット』に対して『リフレクター』と言う、見えない壁を張る。


リフレクターはリフレクター。
見えない壁を張ってしばらくの間『物理攻撃』を半減させる。
使う分には全く不自由しない技で、発生中はどこから攻撃してもこの壁に遮られてしまう。
また、攻撃においては特に攻撃の邪魔にはならない。
非常に便利な技だが、あくまで物理攻撃を半減させる技だと言うことは覚えておいた方がいい、無効化はしないのだ。

ドシャァァ!!

マグ 「マグ…」

アスナ 「ふぅ…」

ユウキ 「8割…といったところか…なら!」
ユウキ 「ラグ! 『みずでっぽう』!」

ラグラージ 「ラーグ!」

アスナ 「あ!」

ビシャア!!

マグ 「マグゥ〜」

審判 「マグマッグ! 戦闘不能!」

アスナ 「違う! マグマッグじゃなくてマグ!」

ユウキ 「…同じじゃないのか?」

俺もラグラージをラグと呼んでいるがな。

アスナ 「うう〜、区別のためなのにもう! 行って! メグ!」

メグ 「マグ〜…」

ユウキ 「また?」

アスナはまたもやマグマッグを繰り出す。
しかし、名前が違っていたな。
区別ってそう言うことか…。

アスナ 「メグ! 『ひかりのかべ』!」

ユウキ 「むぅ…」

メグ 「マグ〜…」

やはり見えない壁が張られる。
効果以外はリフレクターと一緒だ。
こっちは『特殊攻撃』を半減させるわけだ。

ユウキ 「ラグ! 一気に行くぞ! 『みずでっぽう』!」

ラグラージ 「ラグー!」

アスナ 「メグ! 『いわおとし』!」

メグ 「メグ〜!」

ドカァ!!

メグ 「メグ…」

ラグラージ 「ラグゥ…」

両者にダメージ。
だが、ラグのほうが圧倒的に有利だ。
『いわおとし』じゃダメージが少ない。
加えてメグの方はせいぜい耐えられてあと1発。

アスナ 「ごめんねメグ…」

メグ 「メグ〜」

ユウキ 「…?」

アスナはボソッと何か呟いたようだった。
よくは聞き取れなかったがメグは反応した。
ごめんとか言っていたような気がしたが…?

ラグラージ 「ラグ?」

ユウキ 「ラグ、もう一度『みずでっぽう』だ!」

ラグは沈黙する俺に不思議そうな顔をして振り返ってきた。
俺はそれにあわててラグに命令を出す。
マグマックには水技があまりに効きやすい! これで終わらす!

アスナ 「メグ! 『あくび』!」

ラグラージ 「ラグッ!?」

ユウキ 「!?」

バシャァッ! という音を立てて『みずでっぽう』はメグに直撃する。
メグは俺の予想通りこの一撃で倒れる。
しかし、ラグは少し厄介な技を喰らってしまった。

あくびは欠伸。
本当に欠伸をするわけではないが、その技で出された息を相手に吸わせる技だ。
空気だけに回避は無理で最も厄介な所は時間が経つと眠ってしまう状態異常わざということだ。

審判 「マグマッグ! 戦闘不能!」

アスナ 「ごめんねメグ、捨石にしちゃって…」

ユウキ 「……」

だが、その捨石が最悪の状態を生んでしまったようだ。

ラグラージ 「ラ、ググ〜…」

アスナ 「…ラグラージ眠っちゃったね」

ユウキ 「…かったる」

アスナ 「確か昨日は、ラグラージ以外こっちに有効なポケモン持ってなかったね…」
アスナ 「悪いけど勝たせてもらうよ! お願い! コータス!」

コータス 「コー!!」

ユウキ 「…もどれ、ラグラージ」

ラグラージ 「………」(眠)

俺は眠ってしまったラグラージをボールに戻す。

ユウキ 「どうするかな…とりあえず俺は…」
ユウキ 「いけ! サーナイト!」

サーナイト 「……」

俺はラグラージの変わりにサーナイトを出す。
サーナイトはいつも通り無言でボールから出る。
さて、伸るか反るかだな…。

アスナ 「コータス! 『えんまく』!」

コータス 「コー!!」

コータスは大きく声を上げ、体の穴から大量の黒煙を噴出す。
それはあっという間にフィールドを煙幕で覆う。

えんまくは煙幕。
文字通り煙幕で相手の命中率を下げる。

ユウキ 「サーナイト! 『サイコキネシス』で取り払え!」

サーナイト 「はぁ!」

俺はサーナイトに『サイコキネシス』で『えんまく』を取り払わせる。
漂いつづけられては相手の位置を確認できん!

サーナイト 「あれっ!?」

ユウキ 「コータスは!?」

なんと、『えんまく』を取り払うと、コータスがフィールドから消えていた。

アスナ 「そのまま『のしかかり』!」

コータス 「コー!!」

サーナイト 「え…?」

ユウキ 「!?」

ドカァ!

サーナイト 「ああっ!?」

ユウキ 「サーナイト!?」

なんと、アスナのコータスは『えんまく』が出ているうちに大きく跳び上がり、『えんまく』がなくなったと同時に上からサーナイトに降ってきたのだ。
遅いと言われるコータス種でこんな戦法を取ってくるなんて…。

ユウキ 「ちぃ!? サーナイト! 『サイコキネシス』!」

サーナイト 「くぅっー!!」

サーナイトはコータスの重さに苦しみながらもコータスを不思議な膜で覆い、ゆっくり浮かび上がらせる。
サイコキネシスの利点は物理的に効果が作用することだ。

ユウキ 「よし! そのまま投げ捨てろ!」
アスナ 「される前に『かえんほうしゃ』!」

コータス 「コー!!」

サーナイト 「!!?」

ゴォォォォ!!

ユウキ 「サーナイト…?」

サーナイト 「う…」

審判 「サーナイト戦闘不能!」

コータス 「コー!!」

コータスは『サイコキネシス』から解かれて、サーナイトのすぐ側に降り立つ。
コータスにほとんどダメージはない。

ユウキ 「よくやった…サーナイト」

俺はそう言うと静かにボールを取り出し、サーナイトを戻す。

ユウキ (…どうする次はやはり、コータスか? それともグラエナ?)

俺は少々悩んでいた。
少々旗色が悪い…。

ユウキ 「ええい! いけ! グラ…!」

チルット 「ちるっと参上! チルットでやんす!」

ユウキ 「エナ…って、え?」

俺がボールを投げようとすると、突然ボールラックからチルットが出てくる。
ちょっと待て、これはジム戦だぞ?

アスナ 「チルット…舐めているとは思わないからね! 先生!」

コータス 「コー!」

ユウキ 「いや、これはちょっとした手違いで…」

審判 「チルット対コータスはじめ!」

ユウキ 「…かったる」

チルット 「ぼやぼやしているとやられちゃいますよ? …でやんす」

ユウキ 「ええい! いけチルット!」

チルット 「チルーッと!」

俺はもうやけくそにチルットをバトルに出す。
勝てる気がしないが…。

ユウキ 「チルット! 『みだれづき』!」

チルット 「チルー!」

アスナ 「コータス! 『かえんほうしゃ』で迎撃よ!」

チルット 「ふ…そんな攻撃!」

チルットは鮮やかに宙を舞い、コータスの『かえんほうしゃ』を回避する。

コータス 「コー!」

チルット 「冗談ではない! でやんす!」
チルット 「ん? なんか焦げた臭いがする気が…?」

ユウキ 「あ…」

見るとチルットの羽根がちりちり燃えている。
かすっても燃えるほどあの綿毛は燃えやすいのか!?

チルット 「あちちちちちちー!!!?」

アスナ 「よし! もう一度『かえんほうしゃ』よ!」

コータス 「こー!!」

チルット 「ぎゃああああああああああっす!!!」

どさっと音を立て、チルットは地面に落ちる。
プスプスしてるし…。
見事に焦がされたものだ…。

審判 「チルット、戦闘不能!」

アスナ 「チルットはギャグ担当?」

ユウキ 「……」

俺は無言でチルットをボールに戻す。
たく、言われたい放題だぞ…チルット…。
はぁ…かったる。

ユウキ 「いけ! ラグラージ!」

ラグラージ 「……」(眠)

ラグラージは相変わらず眠っている。
なんとかして起きてもらわないと、やられる!

アスナ 「これでラスト! コータス、『かえんほうしゃ』!」

コータス 「コ−!」

ゴォォォォォッ!

ユウキ 「ラグラージ!!」

俺は大声でラグに呼びかける。
起きてくれ! 頼むから!

ラグラージ 「…ラグ!?」

アスナ 「あっ!?」

ラグラージ 「ラグゥゥゥゥ!!」

ラグラージは咄嗟に目覚め、正面から来る『かえんほうしゃ』をガードする。

アスナ 「…まさか、先生の一声で目覚めちゃうなんて…」

ユウキ 「ふぅ…」

これで何とか戦えそうだ。
いや、タイプ上こっちの方が有利だろう。

ユウキ 「よし! ラグラージ、『マッドショット』!」

アスナ 「『てっぺき』!」

コータス 「コ−!!」

コータスは甲羅に篭ってしまう。
こうなってしまってはコータスに物理攻撃は無意味か…。

バシャッ!

見事にラグラージの『マッドショット』は直撃するがコータスの甲羅はそれを弾いてしまう。

コータス 「コー!」

ユウキ 「くそ…」

ラグラージ 「ラグ…」

アスナ 「今度はこっちよ! コータス! 『かえんほうしゃ』!」

ユウキ 「かわして、『みずでっぽう』!」

ラグラージ 「ラグ!」
コータス 「コー!」

ラグラージはコータスの『かえんほうしゃ』を避けると同時に『みずでっぽう』をコータスに放つ。

コータス 「コ!?」

アスナ 「大丈夫! メグの『ひかりのかべ』があなたを守っているわ!」

ユウキ 「『ひかりのかべ』か…」

まさか、ここにきて今度は『ひかりのかべ』にラグの攻撃が遮られるとは…。

ユウキ 「ちぃ! ラグ! もう一発!」

アスナ 「コータス! 『オーバーヒート』!!」

ユウキ 「!!?」

ラグラージ 「ラグー!!」

ラグラージはコータスに向かって正確に『みずでっぽう』を放つ。
対してコータスはエネルギーを溜めている。
そして…。

コータス 「コォーーーー!!!」

ゴオオオオオオオッ!!!

ユウキ 「ラグー!!?」

ラグラージ 「ラァ…グゥ…」

アスナ 「耐えられた!?」

コータス 「コォ…」

アスナのコータスは物凄い火炎で『みずでっぽう』を一瞬の内に蒸発させてラグラージを飲み込んでしまう。
その火炎はラグラージの体力を急激に奪ってしまった。
今は何とか耐えれたみたいだが…。

ユウキ 「くそ…どうする?」

物理攻撃はコータスの甲羅に弾かれ、特殊攻撃は光の壁に遮られる。
そして、今の一撃でラグは大ピンチだ。
なんだかこいつがバトルに出るといつもボロボロだな…。

ユウキ 「……」

アスナ 「先生…?」

俺は静かに瞑想するかのように目を瞑る。
勝つ方法は…。

ユウキ 「ラグ! 守りに徹しろ!」

ラグラージ 「ラグ…ラージ!!」

アスナ 「守り? そんな消極策打ち破れコータス!」

コータス 「コ−!!」

アスナはそう言って、コータスに気合を入れさせる。
コータスは見事にまだまだやれそうだった。
少し、『疲れ』を残しながら…。

アスナ 「コータス! 『かえんほうしゃ』!」

ユウキ 「逃げろ! ラグ!」

ラグラージ 「ラグー!!」

ラグラージは明らかにダメージを受けている体を動かし、『かえんほうしゃ』を避ける。
動くだけでもダメージは辛そうだ。

アスナ 「コータス! 『えんまく』!」

コータス 「コー!」

今度は『えんまく』を吐き出す。
サーナイトにやったアレをするつもりか!?

ユウキ 「ラグ! バックステップ!」

ラグラージ 「ラグ!!」

ラグは更に後に下がる。
コータスの『のしかかり』もその場から動かれたら当たるまい!

アスナ 「『かえんほうしゃ』よ! コータス!」

コータス 「コー!!」

ユウキ 「!?」

ラグラージ 「ラグゥ!?」

コータスは今度はその場から動かず『かえんほうしゃ』をラグに浴びせる。
さすがに、同じ事はしないか…。

ユウキ 「大丈夫か…ラグ?」

ラグラージ 「ラグ…」

ラグラージは小さく頷く。
まだ、なんとか、か。

アスナ 「しぶといな〜…よし!」
アスナ 「コータス! もう一度『オーバーヒート』!」

コータス 「コォ…コォオオオオーー!!」

ユウキ 「受け止めろ! ラグラージ!」

ラグラージ 「ラグゥッ!!」

アスナ 「えっ!?」

俺は正面からその『オーバーヒート』を受け止めさせる。
さっきより一回り弱いが、その火炎はラグラージにダメージを与える。
そして…。

ラグラージ 「ラーグ…ラーグ!」

アスナ 「そんな!? 2発目も耐えられたの!?」

コータス 「コォ…コォ…」

ユウキ 「よし…ラグ、行くぞ、俺たちの逆転劇!」

ラグラージ 「ラグー!!」

ユウキ 「ラグラージ! 『みずでっぽう』!」

ラグラージ 「ラグー!!」

アスナ 「く!? 『かえんほうしゃ』よ!」

コータス 「コー!!」

互いの攻撃はフィールドの中央でぶつかり合う。
そして、その攻撃はこっちに軍配が上がる。

アスナ 「そんな!? 威力が弱い!?」

コータス 「コー!?」

ピシャア!

今度はコータスに『みずでっぽう』が『直撃』する。
コータスは痛そうにしていた。

ユウキ 「最後だ! ラグラージ! 『だくりゅう』!!」

ラグラージ 「ラァグゥゥー!!」

ラグラージはその大きな口から大量の泥の水を吐き出し、その『だくりゅう』はコータスを襲う。

だくりゅうは濁流。
泥の混じった水で、相手を襲う強力な水技だ。
圧倒的水量のため、多くの敵にダメージを与えることができる。
また、フィールドに水があるならそれで使用も可能だ。
どう考えても、体の中にある水分よりも多くの水量を出しているのは気にした方が負けである。

アスナ 「く!? 『オーバーヒート』よ! コータス!」

コータス 「コォ…コォ…」

アスナ 「!? コータス!? どうしたの!?」

アスナのコータスは明らかに息切れしていた。
疲れきっている。
しかし、それでも、コータスはその首をあげ、『オーバーヒート』を使う。

ラグラージ 「ラグゥゥゥ!!」

コータス 「コォーー!!」

ユウキ 「……」

アスナ 「やばい!?」

しかし、もはや疲れきったアスナのコータスの『オーバーヒート』はラグの『だくりゅう』には敵わない。
それもそのはず、今のラグの『だくりゅう』はただの『だくりゅう』じゃないからな。

ラグラージ 「ラァグゥーー!!」

ズパァン!! ズシャアアアー!!

アスナ 「う、コータス…?」

コータス 「コォ…」

大量の濁水で流されたコータスはそのまま目を回して倒れていた。
そしてその瞬間。

審判 「コータス! 戦闘不能!」
審判 「よってこの勝負 挑戦者ユウキの勝ち!!」

アスナ 「あ〜あ、負けちゃったや…」

ユウキ 「…敗因はわかるな?」

俺は勝負に勝つとアスナに近づきそう尋ねる。
アスナはそれに対してあまり迷うことなく答える。

アスナ 「『オーバーヒート』の使いすぎ…」

ユウキ 「そうだ」

オーバーヒートはオーバーヒート
体内の熱をピストンのようにして熱暴走を起こす。
その熱暴走の余剰エネルギーを熱エネルギーに替え、敵に体当たりする技だ。
稀にこのコータスのように火炎エネルギーに替え、火炎放射状にして攻撃することもあるが。
ただ、使った後体が急激にクールダウンしてしまい、一瞬の内に体に倦怠感が生まれ、火力がダウンしてしまうのだ。
己の力を限界突破して使う技だけに炎技の中で最も威力が高いが、連発できない。
すれば、さっきのように攻撃が遅れることもあるからな。

ユウキ 「『オーバーヒート』はいわばトドメ用の技だ」
ユウキ 「使うタイミングは悪くなかったが問題はその後だ」
ユウキ 「耐えられた場合は体力の回復を待った持久戦が望ましい、出ないとさっきのように逆転のチャンスをみすみす与えてしまうこともあるからだ」
ユウキ 「そして、もうひとつ、ラグラージを追い詰めたこと」
ユウキ 「ラグラージは『激流』という特性をもっている」
ユウキ 「これは追い詰められた時、危機を乗り切ろうとする力がポケモンに力を与える」
ユウキ 「もし、2発目がもっと待たれてから撃たれたら負けていたかもしれないな…」

アスナ 「……」

ユウキ 「…どうした?」

アスナ 「あ、あはははははは! やっぱり先生は先生だね!」

ユウキ 「?」

アスナは突然大笑いする。
そんなにツボにはまること言ったか?

アスナ 「説明がポケモンの先生みたいだよ? あはは!」

ユウキ 「………」

アスナ 「あは、あ〜あ、笑った笑った!」

ユウキ 「はぁ…」

本当にアスナは一癖ある奴だ。
最後の最後で結局台無しにする女…か。

アスナ 「あは、はい! これ」

ユウキ 「ん」

アスナはそう言って、小さな炎の形をした赤いバッジを俺に差し出す。
俺はそれを受け取って。

ユウキ 「ヒートバッジ、ゲット!」

アスナ 「あ〜あ、勝てると思ったのにな」

ユウキ 「悪いな、負けるわけにはいかないからな」

アスナ 「ふふ、そうだね」

しかし、今日は疲れた。
結局、いつも通りバトルしてしまったしな…。

ユウキ 「ふぅ、ま、勝ててよかった良かった」

アスナ 「あたしも久々のポケモンバトルで疲れちゃったな…お腹も減ったし」

ユウキ 「うむ…」

そういや、朝飯食うの忘れていたな…。
ダメだ、思い出したら…。

ぐぅぅぅ…。

ユウキ 「ああ〜…」

考えると鳴ってしまう。
ある意味欲望に素直な腹だな…俺のは。

アスナ 「あはは…お弁当持ってきて正解だったかも…」

ユウキ 「弁当…?」

アスナ 「うん、後で一緒に食べよっか」

アスナは笑いながらそう言った。
俺はそれを断れず(断る理由もないが)そのままジムを出るのだった。




ポケットモンスター第23話 『挑戦者アスナ』 完






今回のレポート


移動


フエンタウン


11月7日(ポケモンリーグ開催まであと114日)


現在パーティ


ラグラージ

グラエナ

サーナイト

コドラ

コータス

チルット


見つけたポケモン 39匹




おまけ



その23 「手紙」




『11月7日 午後10時12分 フエンタウンアスナの自宅・リビング』


ユウキ 「…これでよし」

アスナ 「何やっているの? 手紙?」

ユウキ 「ちょっと、な」

アスナ 「気になるな〜 誰に出すの?」

ユウキ 「内緒だ、昔の友達とだけ言っておこうか」

アスナ 「何々…? あて先はコガネシティ?」

ユウキ 「…て、こら! 読むな!」

アスナ 「もう! 隠さなくたっていいじゃない!」

ユウキ 「あのな…」

アスナ 「あ、さては恋人?」

ユウキ 「生憎だな、恋人はもう、いないよ」

アスナ 「え…もう?」

ユウキ 「…忘れろ」

アスナ 「むー、気になる…でもコガネシティって…ジョウト地方の…?」
アスナ 「なんで? もしかして遠距離恋愛? それとも向こうが引っ越したの?」

ユウキ 「以前、卒業証書見せたよな? それに書いてあったろ…ジョウト地方、コガネシティって…」

アスナ 「あ、そうか、PCSはジョウトとカントーにひとつづつあるだけだもんね」

ユウキ 「そういうこと、俺はジョウト出身だからな…」

アスナ 「そっかそっか、うんうん、いとしい人と別れて寂しいんだ…」

ユウキ 「それなら手紙じゃなくて電話を使うだろ、普通…」

アスナ 「あ、そうか…じゃあなんで?」

ユウキ 「アスナの中では恋人確定な訳か?」

アスナ 「違うの?」

ユウキ 「違うと言っているだろうが!」



結局そんなこんなで次の日、ユウキはポストに手紙を入れたとさ。
あて先は…ジョウト地方、コガネシティ、コガネジム。


おまけその23 「手紙」 完


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