ポケットモンスター サファイア編




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第34話 『二つの魂』





『11月28日:午後1時 118番道路』


ザァーーーーーー!


ハルカ 「ひゃあっ!? 凄い雨!」

ユウキ 「たく…なんでこんな時に!」

ここは118番道路。
昨日アクア団との騒動の後、ぶっ倒れたのに腹のなる音で目を覚ました俺はその場で食事をいただいた。
ついでに一泊もさせてもらい、本日ヒワマキシティを目指して歩いた。
しかし、その途中、このハルカちゃんと偶然の再会を果たしたのだ。
ポケモンバトルを行うはずだっただが…。

ハルカ 「あ〜あ…、まさかいきなりこんな通り雨にあうなんて」
ハルカ 「どうする? こんな雨だけどポケモンバトルする?」

ユウキ 「不可不可不可不可不可…」

ハルカ 「だよね〜…ま、しょうがないか」

さすがにこの土砂降りの中、バトルをするのはただのドンキホーテだ。
俺もそこまでの大馬鹿にはなれない。

ハルカ 「そういえば、ユウキ君どんなポケモン持っているの? 見せ合いっこしようよ!」

ハルカちゃんはそういうとモンスターボールを取り出す。

ホエルコ 「ホエ〜」

ドンメル 「ドンドン!」

ジュプトル 「ジュプ…」

ユウキ 「以前と変わらないんだな」

ハルカ 「うん、本当はもっと捕まえているんだけど、お父さんに預けているから」

ユウキ 「よし、でてこいお前ら」

ラグラージ 「ラージ!」

サーナイト 「……」

コドラ 「コド〜?」

コータス 「コ〜♪」

チルット 「おんや?」

リリーラ 「…リ」

俺はとりあえず手持ちのポケモン達を出す。

ハルカ 「わぁ! いろんなポケモンもっているんだね!」

チルット 「おや、あなたはたしかハルカさん」

ハルカ 「きゃあ♪ あなた確かフエンで歌っていたチルットね♪」

チルット 「いえ〜す、アイアムっす」

ハルカ 「きゃはっ♪ 可愛い♪」

ユウキ 「……」

ハルカ 「そうだ! ユウキ君にこれあげるよ!」

ユウキ 「あん? これは?」

ハルカ 「秘伝マシン02『そらをとぶ』! チルットに覚えさせてあげて!」
ハルカ 「今はまだ、ユウキ君を乗せて飛ぶことは出来ないだろうけど、きっと大空に舞えるようになるよ♪」

ユウキ 「ふむ…ありがたく貰っておこう」

俺はハルカちゃんから秘伝マシンを受け取ると技マシンケースに仕舞う。

サーナイト 「それにしても、ここってちょっと危なくないですか?」

ハルカ 「え?」

ユウキ 「ん〜…たしかに」

俺達はこの土砂降りを避けるため雨宿りをしているわけだが、そこはちょっと危険だった。
すぐ後ろに崖があり、下には川がザァザァ流れていた。
崖崩れしたらいっかんの終わりかな?

リリーラ 「……」

ユウキ 「みんな、ちょっと崖の方から離れよう」

コータス 「コー」

ハルカ 「そうだね」

そう言って、みんな少し崖の方から離れる。
しかし、一匹だけ離れないポケモンがいた。

リリーラ 「……」

リリーラだ。
リリーラは動けないんだから仕方ないか。

ユウキ 「たく、やれやれ」

俺は崖の近くにいるリリーラの元による。
しかし、それが不幸か…。

ガラッ…。

ユウキ 「はい?」

突然、木々が真横になる。
つまり、視界が横になったってことだ。
ていうか…。

ユウキ 「ちょ、嘘っ!?」

サーナイト 「ま、マスター!?」

ハルカ 「ユウキ君!?」

崖が突然崩れた。
俺とリリーラはそのまま崖下の川に真っ逆さまに落ちてしまう。

バシャァン!!



コドラ 「!!」

バシャァン!!

サーナイト 「て、コドラさん!?」

チルット (まずい!! 今マスターが襲われたら…!?)

チルット 「ラグラージさん、サーナイトさん! 急いで追うっす!」

ラグラージ 「ラグ!」

サーナイト 「はい!」

ハルカ 「ちょ、この娘は!?」

ハルカさんはそう言ってコータスさんを指す。
さすがにコータスさんは追える筈が無い。

チルット 「ハルカさんはここでコータスさんを頼むっす!」

サーナイト 「いっきまーす!」
ラグラージ 「ラグー!」

おいら達は急いでコドラさんを追う。
まさか、こんなに早く事が動くなんて!



…………。



ラグラージ 「ぷはぁっ! おい…サーナイトは大丈夫か?」

サーナイト 「はぁ…はぁ…はい…大丈夫です」

サーナイトさんはラグラージさんに捕まって岸に上がった。
オイラは空を飛べるっすから着水する必要がないっすけど。

サーナイト 「マスターはどこにいるんでしょうか?」

チルット 「…わからねぇっす」

ラグラージ 「とにかく探すしかない…」
ラグラージ 「この雨じゃ…僅かな動きの感知も出来ない…」

チルット 「ラグラージさんはあっち調べてください」
チルット 「オイラはあっち、サーナイトはあっちを調べるっす」

おいら達はとりあえず3手に分かれることにする。
ラグラージさんもサーナイトさんも異存はなかった。

ラグラージ 「わかった、じゃあ行く」

まず、ラグラージさんが探しに行った。

チルット 「サーナイトさん、話があるっす…」

オイラは二人っきりになったサーナイトさんに話を持ちかける。

サーナイト 「なんですか?」

チルット 「コドラさんのことっす」

サーナイト 「!?」

サーナイトさんが異様な反応を見せる。
これは、うすうす感じていたようっすね。
なら、話が早いっす。

チルット 「コドラさんの異変には気付いていたっすね?」

サーナイト 「うすうす…なんだか別人みたいだって…」
サーナイト 「それに…なにか不安だけがずっと胸を締め付けていましたから…」

チルット 「簡単に言うっす…コドラさんは敵っす」

サーナイト 「!? それってどういうことですか!?」

チルット 「いいから、黙って聞くっす!」

サーナイト 「う…」

オイラはまずサーナイトを鎮める。
いきなり、話すと混乱するっしょうけどこれは知らせないといけないことっす。
でも、知るのはオイラとサーナイトさんだけでいい…。

チルット 「まず、コドラさんはザンジークというもうひとつの魂に乗っ取られているっす」
チルット 「これは元々本来コドラさんに入る魂だったっす」
チルット 「しかし、保険としてより容易にマスターに近づくためザンジークは昔のあのコドラさんの魂を用意したっす」
チルット 「今、ザンジークは用意を終え、マスターの殺害を目的にしています」

サーナイト 「そんな…そんなことって…」

チルット 「ちょっと危ない事を考えているようっすから言っとくっすけど…」
チルット 「コドラさんをオイラは救うっす!」

サーナイト 「え…出来るんですか!?」

チルット 「これはオイラの推測っすけど、魂の剥離は不可能っす」
チルット 「表に出られる魂は一つっすけど、必ず裏にもうひとつの魂があるはずっす」
チルット 「コドラさんの魂はザンジークの魂に負けて、今は後ろに隠れているっす」
チルット 「ならば、逆にザンジークにはコドラさんに打ち負けてもらうっす!」

サーナイト 「そんな…どうやって…?」

チルット 「コドラさんがザンジークなんかに負けてたまるかって強く思わさせればいいっす」
チルット 「コドラさんが禁断の感情を持っちまった相手っているっしょ?」

サーナイト 「あ…マスター…」

チルット 「そう、ネタはあるっす」

サーナイト 「で、でもでも! どうやって実行するんですか!?」
サーナイト 「コドラさんの魂にどうやって!」

チルット 「そのため三奏は毎日練習しているっす…」
チルット 「6000年前から決められた役割…今度こそマスターを護るっす」

サーナイト 「!?」

6000年前から続くおいら達の戦い…。
まだ、終わったわけではない。

チルット 「結論を言うっす…」
チルット 「おいら達は…」




…………。




ユウキ 「くそ…ついてないな…」

崖に落ちてもう30分くらい。
とりあえずリリーラをボールに戻して森を彷徨っていた。
依然雨はザァザァ降り続け、俺の体はもう既に濡れ鼠である。
このまま体温の低下が続いたら風邪は確実か。

ザァァァ…。

ユウキ 「雨はずっと続いているしな…」

かったるいことにどこにいても雨に当たってしまう。
鬱蒼と周りがよくわからない森の癖に雨だけはしっかり通してくれる。
しかも薄暗いうえ雨で視界が悪いから自慢の視力も役に立たない。

ユウキ 「くそ…こんな遭難洒落にならねぇぞ…」

現在地もわからない。
もしかしたらこのまま死んじまうかもしれない。
なんとか…しないと…。

? 「時は有限なり…」

ユウキ 「!?」

突然、どこからか呟く声が聞こえる。
森の木々が声を反響させてどこから聞こえているのかわからない。
もし、続かなかったら幻聴かとも思っただろう…。

? 「闇夜の空は蒼く…」

ユウキ 「誰だ? どこにいるんだ?」

独り言のように語る声…。
俺は必死にその声の主を探す。

? 「月は赫く染まり…」

ユウキ 「女性…か?」

よく聞くとその声は女性だと確認できる。
それにしてもなんだこの詩のような歌は…?

? 「地は雪のごとく…」

ユウキ (近づいてきている…?)

その声は確かに近づいてきている。
反響が大きくなり、跳ね返りが少なくなっている。
確実に俺を円の中心点として近づいてきている。
なんだ…なんなんだ!?

? 「神に愛される者…神に尽くす者…」

ユウキ 「人じゃない…」

やがて、正面に動く物体が見える。
それは誰が見てもわかる…人じゃないことくらい。
それは四足だった…。
ポケモン…か?
それとも…。

ユウキ (ザンジーク…か?)

やがて、その姿を俺は正確に確認する。

コドラ 「儚き者…ただ…散るのみ…」

ユウキ 「コドラ!?」

そう、それはコドラだった。
たしかに…コドラなんだけど…。

コドラ 「お久しぶり…というには間が短すぎますかね? ユウキさん?」

ユウキ 「コドラじゃない…なんだお前は!?」

そいつはコドラの姿をしてはいるが俺の知っているコドラじゃない。
あの色違いの体…体つきも似ている。
でも…それでも!

ユウキ 「なんなんだよ! おまえは!!」

コドラ 「ふふふ…コドラですよ、あなたの知る、ね」

ユウキ 「嘘つけ!!」

俺は必死に否定する。
こいつはただ、怪しく笑った。
こいつが怖い…。
こいつは…やばい…!

コドラ 「どうせ死ぬあなたです…教えてあげましょう」
コドラ 「私は…コドラの体に身を隠したザンジークです」

コドラは俺の顔を見て面白そうに語りだす。
俺にとっては恐怖でしかない。

コドラ 「ですが、ザンジークとしての私ではあなたに気付かれかねません」
コドラ 「そこで、あらかじめ別のココドラの体に移るはずだった以前のコドラの魂をこっちにもってきたんです」
コドラ 「全て、欺くためです…私の目論見どおり無事あなたに接近でき、側にいられる位の信頼を得てくれました」
コドラ 「あとはわかるでしょう? 目的を果たし用なしなったコドラの魂には消えてもらい、私が表に出ました」
コドラ 「ザンジークとして…あなたを『Delete』するためにね」

ユウキ 「…そして、俺を今、殺すと…?」

コドラ 「そうです、死んでもらいます」

コドラはまるで人形の様に冷酷な赤い瞳でそう言う。

ユウキ 「わかった…だが、ただで死にはしない…フォルム!」

俺はスフィアフォルムを展開する。
むざむざ殺されてたまるか!

コドラ 「ふふ、私を殺しますか?」

ユウキ 「! ……」

コドラは俺の顔色を見てくすくす笑う。

コドラ 「無理ですね、あなたに私は殺せない」
コドラ 「もし、私がポケモンの体をしていなかったら、望まなくてもあなたの『反転衝動』によって殺されていたでしょう…問答無用に出会った瞬間にね」

ユウキ 「く…」

ああ、俺は確かにコドラを殺せない。
いや、それ以前…攻撃することも…心を痛める。
仮にも…あれはコドラなんだ。
コドラはいつも甘えてきて、迷惑だけど仲が良くて、俺の大切な家族だった…。
あれは家族ごっこだったのか…?
ただ、この時のためだけにコドラは存在したのか…?

ユウキ 「くそっ! そんなのあってたまるか!!」

認めない!
たとえなんであれコドラは大切な仲間だ!
家族だ!!

コドラ 「!? 逃げるのですか!?」

ユウキ 「ああ! 逃げるね! お前とは戦えない、でも死にたくない!」
ユウキ 「だったら逃げるが勝ちだ!」
ユウキ 「こんなかったるい殺し合いなんてできるかっ!!」

俺はその場から全速力で逃げる。
当然向こうは全力で追いかけてくる。
こうなったら息が続く限り逃げてやる!!

サーナイト (マスター…大丈夫ですか?)

ユウキ (さ、サーナイトか!?)

突然、サーナイトのテレパシーが俺の頭に響く。
いきなりすぎるぞおい!

サーナイト (あ〜あ〜、感度良好…OVER)

ユウキ (切ってどうする!? 何のためのテレパシーだ!!)

心の中で突っ込む。
サーナイトに対しては直接言っているのと同じだ。

サーナイト (とりあえず事情は知っています! その場で停止してください!)

ユウキ (何っ!? ふざけんな! 後ろからコドラが追っかけてきているんだよ!)

サーナイト (でも、高速で動く動体の捕捉は難しいんです!)
サーナイト (そっちに今から『テレポート』しますから!)

ユウキ (くそ!? 早くしろよ!)

俺はその場で立ち止まる。
コドラとの距離約20メートル!
早くしてくれ!

サーナイト 「お待たせいたしました!」

ユウキ 「うひゃら!?」

突然、目の前にサーナイトが現れる。
ち、近すぎだ!

ユウキ 「て、んなこと考えている場合じゃねー!! う、後ろ!」

サーナイト 「え!?」

コドラ 「はぁ!!」

こんなことやっている間にコドラは追いつき突進してくる。
押し倒す気だ!

サーナイト 「くっ!?」
ユウキ 「うおっ!?」

俺達は咄嗟にコドラの『とっしん』を避ける。

コドラ 「サーナイトですか」

サーナイト 「マスターはやらせません」

コドラ 「ふっ、勝てますか?」

サーナイト 「勝つ負けるというよりも…救います!」

コドラ 「…? 何を?」

サーナイト 「『コドラさん』をですよ」

コドラ 「私を…? 何を血迷ったことを」

サーナイト 「本気でバトルさせてもらいます」

コドラ 「ふふ…ただの殺し合いでしょうけどね」

ユウキ 「サーナイト…」

サーナイトはいつに無く真剣な面持ちでコドラを見る。
サーナイトとコドラが…争うのか…?

サーナイト 「マスター、離れて…少し危なくなると思います…」

ユウキ 「あ、ああ…」

コドラ 「いきますよ!」

俺は少しその場から離れて行く末を見守る。
コドラとサーナイトの戦いはコドラから仕掛けることによって始まった。

コドラ 「はぁ!」

サーナイト 「!」

グッ!

コドラはサーナイトに接近戦を挑む。
しかし、サーナイトは接近を許さない。
『サイコキネシス』で動きを止める。
しかし、コドラは…。

コドラ 「『サイコキネシス』では時間稼ぎにしかなりませんよ!」

コドラは平然と『サイコキネシス』の呪縛を解いて、サーナイトに襲い掛かる。

サーナイト 「時間稼ぎで十分です!!」

バチチィ!!

コドラ 「!? 『10まんボルト』!?」

サーナイトの『10まんボルト』がコドラに炸裂する。
『サイコキネシス』を放ちながら集中力を高めて、『10まんボルト』の威力アップを狙っていたのだ。
コドラはまんまと引っかかってしまい『10まんボルト』を受けてしまう。

サーナイト 「私はコドラには負けません…」

コドラ 「くっ…たしかにこのままでは勝てませんね…ならば!」

キィィィィ!

サーナイト 「!? …これは!?」

ユウキ 「ま、まさか!?」

突然、コドラの体が光り始める。
それは…ポケモン独特の…。

ポケモン図鑑 『ボスゴドラ:鉄鎧ポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:2.1m 重さ:360.0Kg タイプ:鋼 岩』
ポケモン図鑑 『土砂崩れや山火事で山が荒れるとせっせと土を運び木の苗を植えて自分の縄張りを綺麗に掃除する』

ユウキ 「進化しやがったー!!?」

そう、コドラは今、ボスゴドラに進化したのだ。
体格も大きくなり、足だけで立つようになったその姿はまさしく怪獣である。

サーナイト 「マスター、逃げてください」

ユウキ 「逃げろって…お前!?」

サーナイト 「追求しないでください!!」

ユウキ 「!?」

サーナイトはこれまでに無いくらいの声でそう言った。

ユウキ 「…くっ!」

俺は有無言わさないサーナイトの気迫に押されてその場から逃げ出した。


サーナイト 「追わないんですね」

ボスゴドラ 「追わなくてもいいですから」
ボスゴドラ 「それに、今はあなたが一番危険ですから」

僕はボスコドラさんと対峙する。
待っていてくださいね…絶対助けますから。

ボスゴドラ 「それにしても妙ですね? さっきから極力攻撃を行わない…」
ボスゴドラ 「それに、集中力をずっと高めて…」

サーナイト 「……」

ボスゴドラ 「まぁ、いいです…そろそろ行きますよ!」

ボスゴドラは近づくことなくその場から攻撃を仕掛けてくる。
一体何を…!?

ボスゴドラ 「ブファ!!」

ゴォォォォォ!!

サーナイト 「そんな!? 『かえんほうしゃ』!?」

突然ボスゴドラは口から『かえんほうしゃ』を放った。
そんな、いつの間に覚えたんだ!?

ボスゴドラ 「生まれる前にココドラの時点で覚えておいたんですよ!」
ボスゴドラ 「どうですか!? 私の奥の手は!」

サーナイト 「くっ!?」

ボスゴドラさんは『かえんほうしゃ』を放った後すぐに距離を詰めてきた。
見た目より早い!

サーナイト 「くっ!? はぁ!!」

バチィ!!

ボスゴドラ 「止まりませんよ! 今度はね!!」

僕は『10まんボルト』を放つがボスゴドラは止まってくれない。
進化したことによって更に打たれ強くなっている!
そして…!

ボスゴドラ 「はぁ!!」

バキィ!! ズササァ!!

サーナイト 「う…」

『アイアンテール』だ…。
痛い…凄く痛い…。
衝撃で木が倒れた。
気絶しそう…でも…気絶しちゃ駄目だ…。

サーナイト (お願い…届いて…ボスゴドラさん…)

ボスゴドラ 「終わりですね…私の仕事はユウキの始末…さようなら…」



………。



ユウキ 「はぁ…はぁ…何の音だ?」

さっき大きな音がした。
木が倒れるような音だ。
まさか…!?

ユウキ 「サーナイト…まさか…な…」

嫌な予感だけがする。
サーナイト…やられてないよな…?

チルット 「マスター!!」

ユウキ 「チ、チルット…?」

チルット 「よかった…無事だったんでやんすね」

チルットは酷く安心したようだった。
俺は内心安心しきれなかった。

チルット 「何か言いたそうっすね」

ユウキ 「お前…どこまで知っているんだ?」

チルット 「全て…でも、安心して欲しいっす」
チルット 「オイラは…味方っす。何があってもマスターを護るっす」

ユウキ 「…信じれるのか?」

チルット 「信じてくれると嬉しいっす」

ユウキ 「……」

チルットは俺に多くのことを隠している。
俺とポケモンたちの出会いは偶然ではなく、運命…『必然』なんだろう。
なら、ここで教えてくれないことを聞くのは無粋…。
知るべき時に知るべきなのだろう…。

ザッザッザ…。

ユウキ 「!?」

チルット 「来たっすね」

何がきたか…。
それはチルットの真剣な表情を見たらすぐにわかった。

ボスゴドラ 「あら〜? …思ったより早く追いつきましたね〜」

チルット 「コド…ボスゴドラに進化したんすね」

ボスゴドラ 「ええ、ポケモンですから…そろそろ進化してもいい時期と思いましたし」

ユウキ 「ど、どうするんだ…チルット」

チルット 「どうするってオイラにできるのは歌うだけっす…」

ユウキ 「歌うって…」

ボスゴドラ 「『破魔の歌』はポケモンである私には効きませんよ」

ユウキ 「破魔の歌…?」

チルット 「歌の一種っす…まぁ、信じて欲しいっす」

チルットはそう言う。
俺にできるのは…信じるだけか…。






『暗い…暗い…暗い…』

真っ暗だ…。
まるで星の無い宇宙のようね…。
アレからどれ位の時間が経ったの…?
いつまでこうしているんだろう…。
もしかして、これが死の世界なの…?

? 『コドラさん、コドラさん…あ、今はボスゴドラさんだけど』

『? 誰…?』

どこかで聞いたこのあるような声が頭の中に響く…。
暖かい声ね…きっと、優しい心を持っているのね…。

サーナイト 「あの、僕ですよ! サーナイト!」

『サーナイト…?』

どこかで聞いた事があるような…。
でも、思い出せない…。
誰だっけ…?

サーナイト 『よかった…まだボスゴドラさんはいる』

目の前に白い肌の女の子のような子が現れた。
初めて…黒色以外の色を見た…。

サーナイト『しっかりしてください! ボスゴドラさん!』

その子はしっかりしろって言う。
ちょっと反応に困る…。
何をしっかりすればいいのだろう…。

? 「あーもう! イチイチ女々しくなりやがって!」

『うひゃら!?』

突然、目の前におっきな怪物が現れた。
な、なんか頭に響くというよりも耳から聞こえたような…?

『あ、あなた誰…?』

ボスゴドラ 「俺はお前だ!! いい加減目を覚ませ!!」

『え? ええ?』

正直戸惑う…。
私ってこんな怪物みたいな顔しているの…?

サーナイト 『ほら! ボスゴドラさん! 気を確かに!』
サーナイト 『マスター 、そっぽ向いちゃいますよ!?』

『え? マスター?』

何か、物凄く心に響いたんだけど…。
マスター…もっとはっきりした言葉が欲しい。

ボスゴドラ 「おう! ユウキが他の女に取られちまうぜ!?」

『…!!?』(ビクン!!)

マスター…ユウキ…ユウキ…!!

『冗談じゃないわよ!!』

サーナイト 『わっ!? びっくり!?』

ボスゴドラ 「よーし! その意気だ! あのザンジークをぶっ倒せ!!」
ボスゴドラ 「そして! 自由になろうぜ!!」

『私の体返せー!!!』





ボスゴドラ 「うく…?」

チルット 「おっ、始まったみたいっすね」

ユウキ 「? どうしたんだ…急に苦しみ始めたぞ?」

ボスゴドラは急に頭を抱えて苦しみ始めた。
一体どうしたんだ?

チルット 「じゃ、オイラは歌うっす」
チルット 「ラ〜ララ〜ラ〜」

チルットは今だとばかりに歌い始めた。
まるでハミングのようなやさしい歌声だ。

ユウキ (一体何がどうなっているんだ?)

ボスゴドラ 「く…そんな…まさか?」
ボスゴドラ (まさか、ここに来てアイツが浮上している!?)
ボスゴドラ 「あぐ…あ…!!?」

ユウキ 「おいおい…大丈夫なのかよ?」

ボスゴドラの苦しみ方は尋常じゃなかった。
一体何なんだ!?

ボスゴドラ 「…じゃないわよ…」

ユウキ 「え!?」

ボスゴドラ 「冗談じゃないわよ!! 私の体を勝手に使われてたまるかー!!」
ボスゴドラ 「ザンジークなんかに私の恋は止められないんだからーっ!!!」

ユウキ 「ボスゴドラ!?」

チルット 「おっ、思ったより早く勝利したっすね」

ユウキ 「はぁ…?」

チルット 「オイラは半日くらいは勝負になるかと思ったんすけどね…」
チルット 「それ程、彼女の恋は冷めてはいなかったんすね」

ユウキ 「何ひとりで納得してるんだよ…」

チルット 「いえいえ〜、べ〜つに〜」

ボスゴドラ 「や〜ん、ユウキ〜会いたかったわよ〜♪」

ユウキ 「げっ!?」

突然ボスゴドラに上から圧し掛かられてくる。
こ、この反応は…!?

ユウキ 「ボスゴドラかっ!?」

ボスゴドラ 「それ以上でもそれ以下でもないわよ〜♪」

間違いない…。
か、帰ってきやがった…。
でも、ま…いいか。

チルット 「んじゃ、さっさとサーナイトをさがすっす」

ユウキ 「お、おう!」

俺は急いでチルットの後を追う。
ボスゴドラをさすがに止めることはできない。
これは逃亡ではない! 戦略的撤退なのだ!

ボスゴドラ 「あ〜ん、まって〜…て、あれ〜?」

ドスゥン!

チルット 「お?」

ユウキ 「え?」

突然、ボスゴドラはその場で倒れる。
一体どうしたんだ?

ボスゴドラ 「あはは〜…久し振りで体が疲れた」
ボスゴドラ 「それに眠いわ…ちょっと寝るわ…」

ユウキ 「あ、おい…」

チルット 「やれやれっすね…」

ボスゴドラはそう言って眠り始めた。
何だかその様子はとても安らかな眠りだった。

ユウキ 「…ま、いいか」

チルット 「あ、太陽っすね」

俺達は空を見上げる。
雨はやっと止み、空には太陽の光が差した。
やっと止んだか…。

ユウキ 「よきかなよきかな…」

俺はそう思った。
すんごい、騒動だったけど終わりよければ全て良し。
ザンジークのこととか三奏のことと俺にはわからないことは多い…。
それでも、それがまだ知らなくてもいいことならそれでいいだろう。




ポケットモンスター第34話 『二つの魂』 完






今回のレポート


移動


118番道路


11月28日(ポケモンリーグ開催まであと93日)


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

ボスコドラ

コータス

チルット

リリーラ


見つけたポケモン 46匹

ボスコドラ



おまけ



その34「その時歴史は動いた」




チルット 「じゃ、行くっす!」

ハルカ 「あ! もう、ユウキ君お願いよー!」

サーナイト 「いっきまーす!」
ラグラージ 「ラグ!」

ザパァン!!



…………。



ハルカ 「もう…ユウキ君のポケモンって自立性高すぎ!」

正直、迷わず飛び込んだコドラやその後行ったチルット君とか凄すぎ!
普通、迷わず崖下ダイブなんてしないって!

ハルカ 「あなたもしちゃうの?」

コータス 「コー?」

コータスは首を傾げて頭には?が浮かんでいる。

ハルカ 「あ〜あ、雨は依然強いしさ〜」

ジュプトル 「ジュプ…」

ホエルコ 「ホエ〜」

ドンメル 「ドン…」

ドンメルは湿気でいい加減弱ってるし。

ハルカ 「とりあえず戻りなさい、ドンメル」

ドンメル 「ドン…」

ハルカ 「あ〜あ、いつまで待っていれば良いんだろう…」

そういや、コドラとかあの体重で水面にぶつかっても大丈夫なのかな?
ていうか、泳げるの?

ハルカ 「ああ〜、あたしも崖下ダイブしてみよっかな〜?」

な〜んて、さすがに私には無理ね。

コータス 「コー!? コ〜♪」

ハルカ 「え!? ちょ、コータス何!?」

突然コータスが後ろから背中を押してくる。

ハルカ 「もしかして有言実行!? 有言実行なの〜!?」

喜んでダイブは勘弁!!?

ハルカ 「いやぁあああああっ!!?」


このときハルカは…空を飛んだ…。

ハルカ 「これは単なる落下運動ーーっ!!!!」

ザァパーン!!



…………。



チルット 「あ、太陽っすね」

ユウキ 「よきかなよきかな」


それは…まさしく歴史が動いた時だっだとさ。
めでたしめでたし。



ハルカ 「めでたくなーい!!」



おまけその34 「その時歴史は動いた」 完



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