ポケットモンスター サファイア編




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第37話 『ココロ』





『12月3日:午前6時00分 ポケモンセンター外庭』


ユウキ 「うーし、今日も朝練始めるぞー」

サーナイト 「マスター、なんか上の空な声ですね…」

チルット 「それにしても読者的には久し振りの朝練っすね」

ユウキ 「うら、そこの二人気合いれんか」

サーナイト (…マスターこそもうちょっと覇気を…)

チルット (だめっすね…こりゃ)

さて、作品的には久し振りだがちゃんと旅の途中でも朝錬は欠かさなかった俺は今日も朝錬を開始する。
どうにも気乗りはしないがな…。
何でかな…なんでだろうかな〜…。

チルット 「あ、ナギさん」

ユウキ 「うぇっ!!?」(ビクゥ!!)

俺は電気が背筋を走ったかのように体が縦に真っ直ぐになった。
そして思わず後ろを振り返る。

ユウキ 「あれ…?」

しかし、後ろには俺が泊まっている結構良い部屋があるだけだった。
ナギさんは…。

チルット 「m〜mm〜」

ユウキ 「……」

呆れるしかない…。
チルットを責めるよりも俺の不甲斐なさが情けない。
まさか、ナギさんの名前が発せられるだけで過敏に反応するとは…。
これってやっぱりナギさんを意識している証拠なんだよな…。
二度目の恋でも一度目のような初心さ…か。

ユウキ (はぁ…アカネには見せられんな…こんな姿)

別にアカネとはもうなんでもない関係だがどこか後ろめたい所があったりもする…。
てか、ジム戦できないな…こんな感情のままじゃ。

サーナイト 「あの…マスター?」

ボスゴドラ 「そろそろ始めたいんだけど、どうすればいいの?」

ユウキ 「え? ああ…自分達で勝手にやっていてくれ…自由に訓練してくれれば良い」

正直オーダーを決める心の余裕はない。
恋患い…危険な感情だ…。
なんとか殺さないと…。



…………。
………。
……。



ユウキ 「そろそろ休憩いれとけ」
ユウキ 「今日もここで自由にしといて良いから」

チルット 「マスター、どこに行くっすか?」

ユウキ 「…ちょっと散歩してくるわ」

俺はそう言うとポケモン達から目を離す。
正直、何も考えたくないな…。



チルット 「…じゃ、オイラはちょっと出かけるっすかね」

サーナイト 「あれ? 今日は三奏の練習はしないんですか?」

ボスゴドラ 「そうね、嫌でもやらせるくせに」

チルット 「ん〜、今日は休みっす、オイラもやることあるっすから」

ラグラージ 「ふ〜ん、相変わらず行動力豊かだな」

チルット 「まぁ、リリーラさんよりは」

リリーラ 「……」

ラグラージ 「リリーラは行動力なんかないに等しいじゃないか」

コータス 「無口な上、自力でその場から動くことが出来ませんからね…」

チルット 「じゃ、そういうことでしばしさらばっす!」

オイラはそう言うとその場から上昇する。
そしてオイラはポケモンセンターの二階の高さで止まるとある、目的の部屋に向かった。



………。



ナギ 「ラ〜ラ〜ラ〜、ラ〜ララ〜ラ〜♪」

コンコン、コンコン!

ナギ 「ララ?」

私はベットに座りながら目を閉じて歌っていると外から窓が突付かれる音が聞こえた。
私は窓に目を向けるとそこには昨日来たチルットがいた。

ナギ 「開けてほしいのね、はい、どうぞ」

私はベットから立ち上がり窓の戸を開ける。

チルット 「どうも、おはようございますっす」

ナギ 「おはよう、今日はどうしたのチルット君?」

チルット 「自分のことは気軽にチィって呼んでくれたら良いっす」

ナギ 「じゃあチィ君、今日はどうしたの?」

私は親しみを込めてそう聞いた。

チルット 「ご迷惑かとも思ったっすが、今日も来させてもらったっす」

ナギ 「まぁ、迷惑なんてとんでもない! いつでも来てくれていいって言ったでしょ?」

そう言うとチィ君はにっこりと笑った。
鳥のくちばしなのに表情豊かね。
でも、そこもまた可愛い〜。

チルット 「さて、実は今日はあなたの想い人に会ってきました」

ナギ 「えっ!? ユウキさんに!?」

チルット 「はい、本音聞きました」

ナギ 「え?」

いきなりわけがわからなくなる。
え? どういうこと?

チルット 「気付かないっすか? オイラ誰に会ったかは聞いてねぇっす」

ナギ 「あ…」

そこでようやく気付く。

チルット 「いわゆる自爆っすね…誰が好きかしっかりこの耳で聞かせていただきました」

チィ君はわざわざ耳を強調して言ってくる。
キュゥ〜…チィ君いじわるだよ…。

ナギ 「キュゥ〜…チィ君本当に会ったの?」

チルット 「会ったっすよ、これ事実っす」

ナギ 「……」

どうしよう…なんだかいきなりユウキさんのことまた意識し始めちゃった…。
何を話せば良いんだろう…?

チルット 「ユウキさんの話…聞きたいっすか?」

ナギ 「えっ!?」

…どうしよう。
聞こうかな?
聞かないべきかな…?

チルット 「……」(ニマ〜)

ナギ 「そんな、いやらしい顔しないでよ〜…」

チルット 「ニマ〜」

ナギ 「キュゥ〜…いじわる」

チィ君はあまりにもわざとらしく笑う。
祐里子ちゃん…。
何故か、知らない人の名前が頭に浮かんだ。

チルット 「脈あり」

ナギ 「え?」

いきなり脈ありとだけ言ってくる。
て、脈あり…?
脈ありって…?

ナギ 「もういち…!」
チルット 「二度は言わないっす」

もう一度言ってと言う前に釘をさされる。
キュゥ〜…本当に…本当にそうなの〜?

チルット 「良かったすね、両想いっすよ」

ナギ 「キュゥ〜…そんな、恥ずかしいよ〜」

チルット 「ユウキさんも同じみたいっすよ」
チルット 「まぁ、告白するなら早くした方が良いと思うっすよ」

ナギ 「でも…」

でも、私はユウキさんの足手まといになる。
第一、私はジムリーダーだもの。
どうせジム戦なんてできないけど、どうしてもそう言ったジム戦のことを考えてしまう。
たとえ好きでもジム戦はできる…そんなことはわかるけど。
多分、私たちの好きは…まともなジム戦ができない。

ナギ (私の体がもたない…ユウキさんはそれがわかるからこそ全力で戦えない)
ナギ (愛情がアダになって私とまともに戦えない)

でも、そんなジム戦は意味がない。
どんなに焦ってもどちらかがやる気のないジム戦はそんなの茶番に過ぎない…。
わかっているのに…昨日はそんな茶番を演じようとしていたのね…。
私はジム戦が、ううん。
ポケモンバトルが好き…ポケモン達が伸び伸びと、そして生きていると感じられるから。
そして、その時だけは私に翼が与えられるから…。
そう、心の翼が…。

チルット 「自分の体は自分が一番わかる、か…」

ナギ 「え?」

チルット 「…なんでもないっす、あ、じゃあオイラはもう行くっす」
チルット 「最後に言わせてもらうっすけどユウキさんを自分の側に留めてしまう事は罪じゃないっす」
チルット 「たとえ、あなたがどんな選択をしてもあなた以外は悔やまないっすよ」

ナギ 「あ、待って、チィ君!」

しかしチィ君はそのまま飛び去ってしまう。
その場には私だけが残された。

ガチャ。

先生 「ナギ、誰か居たのか?」

突然、今度は主治医のトリイ先生が部屋に入ってくる。

ナギ 「いえ、ひとりでしたよ…」

先生 「そうか、なら良いが、それよりベットに横になりなさい、そして窓は閉めておいたほうが良い」

ナギ 「はい、すいません…」

私は言われたとおり窓を閉めてベットに横になった。
そして、先生はいつもの通り体温計を取り出し、私の体温を測り始めた。

先生 「どうだ? どこかおかしい所はないか?」

ナギ 「いえ、むしろ健康そのものの感じです」

先生 「そうか? 君の病気は病弱といえなくもない体質にしているからな」

ナギ 「……」

先生はそう言いながら体温計を私の胸元から取り出す。
正確には左の肩の間だけど。

先生 「体温は正常か、少し高いが周期的には今日辺りが危険日だからな」

ナギ 「…そういう言い方止めてください」
ナギ 「先生、医者なのにデリカシーがないです」

毎日体温を測られて何年も経つから先生は私の排卵周期も知っている。
なんだか、いざ口にされると凄く恥ずかしい…。

先生 「すまないすまない、とりあえず大丈夫そうだな」

ナギ 「…はい」

先生 「ん? どうしたんだ?」

先生は心配そうな顔でそう聞いてきた。

ナギ 「先生…私が誰かを好きなるって残酷なことですか?」

先生 「いきなり不躾な質問だな…」

ナギ 「……」

先生 「残酷とは残る酷と書いて残酷と読む」
先生 「そして直接的な意味は惨たらしい様子」
先生 「確かにナギは普通の娘と違ってとんでもないハンデを体に持っている」
先生 「それは、好きな人に足かせとなるだろう、特に相手がナギのことが好きならな」
先生 「君はいつ死ぬかわからない、数秒後には死ぬかもしれないし寿命で死ぬかもしれない」
先生 「そして、その恐怖は愛するまま『残』されるものにはまさに『酷』だろう…」
先生 「そういう意味では、残酷だな…」

ナギ 「……」

ユウキさんはどう思うだろう…。
いつ死ぬともわからないのは怖い…。
痛みとか、苦しみとかそんな直接的な痛みはないけど、心は痛い。
ああ、どうしてこうなっちゃたんだろう…。

先生 「…何をそんなに思いつめているかは知らんが、今は眠ることを薦める」
先生 「何か考える方が辛いだろう? なんなら睡眠薬を渡そうか?」

ナギ 「…別にいいです。三度寝位は慣れてますから…」

私はベットで横になり毛布を被ると目を閉じた。
少しだけ、気が楽になった気がした。
多分思い込みだろうけど、今はそんなブラセボにすがろう…。

先生 「それじゃ、私は戻るぞ。何かあったらすぐに知らせるんだぞ?」

ナギ 「……」

先生がそう言うと足音が部屋から出て行く。
やがて、扉の閉まる音が聞こえると急に部屋は静かになった。
いつまでこんな状態が続くんだろう…。
ジムリーダーとしても、人としても駄目な気がする。

ナギ 「……」

私は目を開けて体を起こすと部屋の外の音を探る。

ナギ (先生は…部屋だよね?)

私は先生が部屋にいると思うと私は立ち上がって窓の側に来た。
そしてベットの下の隙間に手を伸ばした。
手に感触、そこにあるものを私は引っ張り取り出す。
ロープだ。
長さは大体この部屋から地面くらいまで長さ。

ナギ (大丈夫よね? 今回も先生は気付かないよね?)

実は時々先生には黙ってここを抜け出している。
さすがの先生もこんなロープを隠しているなんて気付いてない。
鳥ポケモンで外に出たら先生に気付かれる可能性があるけどロープで下に降りれば丁度この部屋の窓際は死角になるから気付かれない。
部屋にはすぐ戻れば先生は全くわからない。
今まで一度も気づかれたことはない。

ナギ 「よし」

私はがっしりとロープを柱に縛るとロープを下に下ろす。
そして、そのロープを使って私は下に降りるのだった。
うーん、こういう作業ってワイヤーアクションとかできるかも…。
きっと、ロッククライムとかもできるんじゃないかな?
体力は確かに少ないかもしれないけど、昔からこんなことよくやっていたから問題は感じられない。
帰る時はこのロープを使って昇るだけ。

ナギ 「さてと…」

私は地面に足をつけると目的のある場所に向かうため鬱蒼とした森林を進む。




…………。
………。
……。




『同日:午後9時41分 ヒワマキポケモンセンター 123号室』


ザァァァァァァァァァァァァァ!

ユウキ 「……」

部屋の中は窓の外から大きく響く大雨のオーケストラで埋め尽くされている。
うるさくはない、むしろ心地よいくらいの音量だ…。
さすがにポケモンたちはモンスターボールに戻しておいた。
俺はベットに大の字で寝転がっていた。
俺の眼の中は暗いが真っ白な天井で埋め尽くされていた。
なんとも矛盾した話である…真っ暗なら何も見えないはずなのに俺は真っ白な天井を見ているのだから。
むかつくな…真っ暗なら全部黒で埋め尽くせよ。
なんで、よりにもよって白なんだよ…。
なんか、凄くむかつく…。
目を閉じれば良いだけの話なのだが瞬きする程度でとても目を瞑る気にはなれない。
しかし、目を開けている限りあの嫌味な位汚れのない無邪気な白い天井が見えてしまう。
ひとえに俺の眼が悪いんだが…。
俺の眼は夜でもよく物を見えさせてくれる。
猫とかも夜目が効くが色は感じれらない。
ただ暗視スコープのような世界に見えるらしい。
俺の眼は夜だと言うのに色覚がしっかり反応している。
色が見えるんだ。
なんだか、それはそれで疎ましい…。

ユウキ 「…結局これからどうすれば良いんだろう」

俺は天井を無視しながらそんな事を考えていた。
ナギさんがジム戦をできる可能性は未知だ。
18戦しているということは少なくとも今の状態で18回はジム戦を行っている。
まさか、その全部が今回のような途中で棄権した無効試合とは思えない。
余程調子が良いときならできるはずだ。
免疫力の低下ならあの病気そのものが苦しめているわけじゃないからな。

ユウキ (て、今の俺に正常なジム戦なんてできるのかよ…)

少なくとも今の自分は自分ででも異常と感じられる。
自分という存在に関しては誰よりも理解しているつもりだ。
なんだろうな…なんで精神が異常をきたしたんだろうか?
今思えばそう感じる。
俺の精神がおかしくなる道理ってなんだったんだ?
それとも今の俺はそんなことさえわからないくらい壊れているのか?
まるで…精神汚染だな。

ユウキ 「馬鹿か俺は、普通だよ俺は…」

なんだかおかしなことを考えていたようだな。
本当はわかっている。
ジム戦をしたら俺は…この街を離れて次のジムに向かわないといけない。
ポケモンリーグを目指すトレーナーの義務をと言ってもいい位のごく当たり前の行為だ。
そして、ポケモンチャンピオンを目指す全てのトレーナーに対する礼儀でもある。
ナギさんといる口実だよな、ジム戦をしないのは。
ナギさんがどう思っているかも知らないくせに。

ユウキ 「ナギさんの側にいたい…認めないわけじゃない」

実際そう思っている。
ただ、そんなエゴを通していいんだろうか。
先生はナギがいつ死ぬかわからないと言った。
そんな人を好きになってしまった時、一時でも手の届かない場所にいようと思うだろうか?
俺には無理だな…怖いからな。
失ってしまうのが。

ユウキ (そもそも人間はみんないつ死ぬかなんてわからないんだ…)
ユウキ (ただ、ナギは普通の人より少し死に近い位置にいる…それだけだ)

俺だってこのまま眠ったらそのままお陀仏しているかもしれない。
可能性がないわけじゃない…。
そう、可能性は…。

ユウキ 「かったるい…」

なんだか、急に何も考える気力がなくなった。
ただ、面倒くさいの同義語…かったるいという言葉が浮かんだ…。



…………。
………。
……。



『12月4日:午前6時03分 ヒワマキポケモンセンター 123号室』


チュンチュン…チチチ。

ユウキ 「ん? うん?」

鳥の鳴き声だ。
俺はゆっくり瞼を開く。
外から柔らかな日差しと鳥の鳴き声があった。
いつの間にか眠っていたようだ。
すでに雨は止み、朝日が部屋の中に差し込んでいる。

ユウキ (人間、眠れるものだな)

そんなどうでも良いことを感心してしまう。
まぁ、続く話題でもないし無視といこう。

ユウキ 「…ん?」

外を見ると見覚えのある後姿を確認した。
パジャマ姿だったがあれは…。

ユウキ (ナギさん?)

どうしてあんな場所にナギさんがいたのか疑問だったが俺はそのナギさんの後を追うのだった。


………。


ナギさんは後ろを気にも留めず街の外の全く未開拓な森林の中に入っている。
俺はその後を気付かれないように追った。
やがて、何度も誰かが通ったのか倒れた草草の獣道を進んでいくと突然大きな木のある広場に出た。
鬱蒼とした森林とは打って変わってそこは朝の日差しが一杯差し込み、短い草がその地面を覆っている。
場所としては30メートルくらいの円形の広場のようだ。
丁度真ん中にある人際大きな木がある。
どうやら、ナギさんはここに着たかったような。
ナギさんは大木の側に行くとゆっくり腰を下ろした。

すると周りから多くの鳥ポケモンたちがナギさんの下に寄っていくのだった。

ユウキ (野生の鳥ポケモンか)

それにしてもここらでは見ない野生のポケモンまでいる。
トロピウスのような大きなポケモンからネイティのような小さなポケモンも。
ここは、ナギさんの憩いの場なのかな?
少なくともナギさんの顔はとても幸せそうだった。
遠目でもわかる、それ位の笑顔だった。

ユウキ (邪魔しちゃ悪いかな…)

俺はそう思うと引き返すことにする。
覗き見するのも悪いしな。

ガサッ。

ナギ 「! 誰? 誰かいるの?」

ユウキ (て…)

なんという古典的なパターン…。
俺は枯れ枝を踏んでしまい、その音でナギさんは気付く。
…しゃあないわな。

ユウキ 「……」

ナギ 「え? ユウキさん!?」

俺は素直に姿を現した。
ナギさんはまさか俺とは思わなかったという顔で驚いた。

ユウキ 「…邪魔したかな?」

ナギ 「い、いえ! そんな!」

ナギさんは慌てて首を横に横にと振った。

ユウキ 「隣行っていいか?」

ナギ 「は、はい、どうぞ」

俺はそのままナギの隣に立った。
丁度大木背中を預けさせてくれる。

ナギ 「まさか、ユウキさんがくるなんて…」

ユウキ 「俺はまさかこんな朝早くからナギさんが森の中に向かうとは思わなかったがな」

ナギ 「…気付いていたんですか?」

ユウキ 「部屋から確認できたからな」

ナギ 「…一階の人にはバレバレですもんね」

ユウキ 「まぁ、そうだな」

ユウキ 「……」
ナギ 「……」

会話が止まった。
まずいな、何だか気まずいぞ。

ユウキ 「ここって、ナギさんの秘密基地?」

ナギ 「え?」

ユウキ 「いや、何回も人の通ったと思われる獣道を通っていたから」

ナギ 「…確かによく来ますねここには」
ナギ 「病気にかかる前からここは誰も知らない私とここのポケモン達の秘密基地…そうですね確かに」

ユウキ 「だったら、悪いことしたな」

ナギ 「え? 何故です?」

ユウキ 「秘密基地は秘密だから秘密基地だろ? 他人に知られればただの基地だ」

ナギ 「ああ、なるほど」
ナギ 「だったら、内緒にしておいてください、そうすれば秘密基地です」

ナギさんは笑顔でそう言う。
今は可愛いとそんな感情は不思議とない。
ここに、この場に何か不思議な風を感じるのみだった。

ナギ 「私、この広場が好きだから昔からよく来ていたんです」
ナギ 「ユウキさんのご察しの通りあの道を通ってですね」

ユウキ 「…ひとつ不躾(ぶしつけ)な質問をしていいか?」

ナギ 「嫌って言ったら聞かないですか?」

ユウキ 「そうだな、嫌がることをしないのは俺の信条だしな」

ナギ 「それって、本当ですね?」

ユウキ 「嘘もつくし冗談も言うが、本当だ」

ナギ 「信用ないですね」

ユウキ 「信用しろ」

ナギ 「ふふ、いいですよ、どんな質問ですか?」

ユウキ 「…どうして、ジムリーダーになったんだ?」

ナギ 「え…?」

俺はそれが聞きたかった。
ジム戦なんてロクにできないのにナギはジムリーダーをしている。
これは多くのトレーナーに迷惑をかけている。
それでもなおジムリーダーをしているのは何故だろうか?

ナギ 「…ヒワマキはまだ産まれて20年も経っていません」
ナギ 「それでも、私はここで生まれここで育ちました」
ナギ 「私はこの街で…ヒワマキシティで2代目のジムリーダーです」
ナギ 「先代は、お母さんが勤めていました」
ナギ 「私は街の開拓をしながらもジムリーダーを務める母の背中を見て育ちました」
ナギ 「お母さんは強く、お母さんの鳥ポケモンたちは私の憧れでした」
ナギ 「優しく…大きくて、強いお母さん…私の憧れです」

ナギさんはゆっくり過去を話している。
それとナギさんがジムリーダーになった理由は入っていないようだが俺は黙って聞く。

ナギ 「でも、お母さんはもう10年も前にジム戦の最中突然死んでしまいました」

ユウキ 「! 突然…?」

ナギ 「先生は原因不明の病死だって言っていまいした」
ナギ 「私は忘れません…あの光景を」

ナギ 「相手はゴローニャ、お母さんはチルタリスで優勢に戦っていた」
ナギ 「でも、突然、糸が切れたかのようにぱたりと倒れた…」
ナギ 「わけがわからなかった…相手の男の人のトレーナーは慌ててお母さんの下に駆けつけた」
ナギ 「気がつくと、お母さんは救急隊員に運ばれてミナモの病院に運ばれた…私も一緒だった」

ナギ 「当時わね、病院もなくて公衆電話とかもなかったから遠くてもミナモにまで行かないといけない」
ナギ 「そして、ミナモの病院でお母さんは死んだとお父さんに言われた」
ナギ 「…あの時はまだ死ぬって言うのが理解できていなかったわ、まだ4歳だもの」
ナギ 「でも、それから数週間たった時今度はお父さんが倒れた」
ナギ 「お母さんと同じなんだって、その時はすぐにわかりました、同じように突然だったもの」
ナギ 「それに、体温も感じない、即死だったみたい」
ナギ 「それからジムは一度潰れた」
ナギ 「理由は簡単でした…ただでさえジムリーダーが不足しているホウエン地方でこんな田舎のしかもわけのわからない死に方をしたジムリーダーの後に着くのは嫌」

ナギ 「当たり前ですよね、病院もない…警察署もない、火事が起きても消防署もない」
ナギ 「ヒワマキシティが生まれて8年目の時…まだ、この街は町と呼べるほどの機能を持っていない」
ナギ 「そんなところに好き好んで赴任してくるジムリーダーは普通いませんよ」
ナギ 「だから、私は今から4年前、10歳の時ジムリーダーになりました」
ナギ 「お父さんが死んだ頃私も今の病気にかかりましたけど、まだこんな街といった印象の深かったこの街では簡単にジムリーダーになれました」
ナギ 「まぁ、結局ほとんどジム戦なんてできていないんですけど」
ナギ 「街が大きくなってジムリーダーの代理の話も出てきましたけど私はキッパリ断りました」

ナギ 「知らない人に私の…お母さんの後を任せたくない…これが私のジムリーダーでいる理由です」

ユウキ 「……」

ナギさんは特に顔色も変えずそんなことを淡々と話した。
その時の顔は喜怒哀楽のない人形のような表情だった。

ユウキ 「辛くないのか?」

ナギ 「辛いと思ったことはないですよ、私は結構強いですから」

そう言いながら今は暗い顔をした。
今は弱い感じを受けるいつものナギさんだ…。
もしかしたら、ナギさんはこの街に縛られているのではないだろうか?
この街で生まれ、この街で育った…か。
この街は…ナギにとってはお母さんでありお父さんか。

ユウキ 「この街は好きか?」

ナギ 「大好きですよ、お母さんたちが愛した街ですもの」

ユウキ 「人間って…好きか?」

ナギ 「…随分変なこと聞くのですね?」

ユウキ 「……」

俺でもそう思う。
だが、何故かそんなことを聞いていた。

ナギ 「あまり好きじゃないかもしれませんね…きっと」

ユウキ 「きっと?」

ナギ 「正直、わかりません…好きか嫌いかなんて」
ナギ 「どうしてそんなことを聞くんですか?」

ユウキ 「…わからない、自分でも何で聞いたんだろうな」

ナギ 「ふふっ、何ですかそれ」

ナギさんは俺の顔を見てとても自然に笑う。
俺は今は晴れている空を眺めた。

ナギ 「私の事好きって本当ですか?」

ユウキ 「!? 突然何を…」

ナギ 「教えてください、どうなんですか?」

ナギさんは少々しつこく追及してくる。
俺は…。

ユウキ 「好きだよ、ナギさんのこと」

ナギ 「やっぱり、そうなんですか…辛いですね」
ナギ 「私もユウキさんの事好きですよ、だから辛いです…」

ユウキ 「どうして…辛いと思うんだ?」

ナギ 「私はユウキさんと離れてたくないです」
ナギ 「でも、ユウキさんはいつかこの街を去らないといけないです」
ナギ 「もうポケモンリーグまであまり時間があるとは言えませんから」

ユウキ 「……」

それは、俺も思っていたことだ。
だが、実際問題どうするべきなのだろうか?
俺にはどんな選択肢があるのだろうか?

ユウキ 「ずっと側にいるよ、て言ったらどう思う?」

ナギ 「…困っちゃいます、きっと」

ユウキ 「優しいな、ナギさんは」

ナギ 「ユウキさんも優しいと思いますよ」
ナギ 「ユウキさんはキスしてと言ったらしてくれますか?」

ユウキ 「困っちゃうな…それは」

ナギ 「ふふ、臆病ですね」

ユウキ 「自制心が強いと言ってくれ」

ナギさんは笑いながらそう言った。
俺は顔を赤くしながらそっぽを向いた。

ナギ 「…ユウキさん」

ユウキ 「!? ナギさん…?」

ナギさんは立ち上がってそっと身をゆだねてきた。
俺はさすがに戸惑ってしまう。

ナギ 「…抱きしめて…ください」

ナギさんの顔は見えない。
顔を俯かせている上俺の胸に顔を埋めているからだ。
ナギさんは本気だろうか?
それとも冗談なんだろうか…。
俺は…俺は…。




ポケットモンスター第37話 『ココロ』 完






今回のレポート


移動


ヒワマキシティ


12月4日(ポケモンリーグ開催まであと87日)


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

ボスゴドラ

コータス

チルット

リリーラ


見つけたポケモン 47匹




おまけ



その37「コガネシティのアイツ」




あ、さてさて今回はホウエン地方ではなく遠くジョウト地方はコガネシティ。
コガネシィの恋する乙女、その名はジムリーダー『アカネ』のお話です。
さ〜て、どんなはなしになるやら。



アカネ 「へっくし!」

クルミ 「あれ? アカネちゃん風邪?」

アカネ 「ちゃうちゃう、そんなんやない」
アカネ 「誰かウチのこと噂しとんやないやろか?」

ウチの名はアカネ。
このコガネシティでジムリーダーやっとるもんや。
詳しいことは第11話外伝と第23話外伝をよろしゅう。
ちなみにうち今はコガネジムやのうてある人気喫茶店におるねん。
大阪弁丸出しで読みにくいちゅう人は次のクリックしてくれたらいいさかい。

バイリンガルでどうぞ♪


クルミ 「ユウキ君が噂していたり?」

アカネ 「アイツが〜? まぁウチはいつでも想っとるけどな」

正直な話、アイツの考えはウチでもようわからん。
基本的に誰かとつるむんは好かん奴やったし、ウチのこと考えるような奴やないしな。

クルミ 「でもでも、この前手紙貰っていたでしょ?」

アカネ 「ああ、あれな」

確か23話外伝で貰ったわ。
くどいようやけど詳しいことは外伝で。
ANOTHERの方からで見れるで。

アカネ 「ちゅうても社交辞令みたいな感じやったしな」
アカネ 「アイツにウチのこと気にしとる余裕なんてほとんどあらへんて」

少なくともまだ4つってあの時はゆうとったしな。
もし、センリはんにあのユウキが勝ったしても5つやろ?
今頃ヒーヒーゆうてジムをめぐっとんのちゃうんか?

アカネ (ん〜、でもあいつあれで優しい奴やしな…もしかしたらもしかするかもしれんな)

クルミ 「あはは、そんなにユウキ君が気になるの?」

アカネ 「ふえ? そうでもないよ、あいつ心配するほど愚かなやつやないし」

クルミ 「あはは、すごい信頼ね」

アカネ 「ウチはアイツの事誰よりもしっとるって自負するで」

恐らくあんな無愛想な奴好きなんウチだけやろ。
へっへっへ…今頃うちがおらんで寂しゅうしとるちゃうやろな?

クルミ 「あ〜あ、ユウキ君って羨ましいな、そんなに一途に愛してもらえるなんて」

アカネ 「なにゆうとんねん、クルミかてい〜〜〜っぱい、愛してもろとるやん」

クルミ 「ええっ? どうして?」

アカネ 「ふっふっふ〜、しっとるで〜あんたがラブレターようさんもろとるの」

クルミ 「あ、あれはファンレターよ!」

アカネ 「ほう〜? 下駄箱につまっとんのがか?」

クルミ 「ど、どうしてそれを!?」

アカネ 「『僕は君を愛してます、付き合ってください』って書いっとったで〜?」

クルミ 「な、なんで内容知っているの〜!?」

アカネ 「ふっふっふ、ウチに隠し事は通用せんで〜♪」

クルミ 「うぅ〜ぅ〜」

実は下駄箱からひとつ弱みとして貰わせてもろたんやがな。
名もなき想い届かなかった少年A、わるう思うなや。

クルミ 「酷いよ、アカネちゃん」

アカネ 「悪かった悪かった、ほら注文の品きたで?」

クルミ 「あ」

そうこうしていると喫茶店やし注文の品が二つうちらのテーブルにやって来た。
内容はイチゴサンデーや。
ここのイチゴサンデーは美味いゆうて人気なんやな、これが。

クルミ 「わぁ♪、美味しい♪」

クルミはスプーンを取るとホンマに美味そうに食い始めた。
このうちの目の前におるまだ16歳の少女こそ今、放送界で名をとどろかす美少女DJクルミや。
去年オーディションにいった所見事受かっちまってはれて歌手デビュー。
ウチよりひとつ年上で今は高校に通っとる。
ウチは中学やけど、ジム関係で昔から知り合いやさかい大の親友ちゅうわけや。
ラジオ放送ん時はおとなっぽう見せとるけど、ウチの前やとまるで妹みたいやな。
ちゅうってもクルミは根はかなりしっかりしとる。
ウチがユウキと絶縁中なんかよう気いつかってくれたしホンマ感謝や。

クルミ 「でもさ〜、私何も知らない人の愛なんてよくわからない…」
クルミ 「ラブレターって、なんか嘘っぽいのよね…私にはそう感じちゃう」

アカネ 「モテとるようでその実、モテとらんっちゅうことか?」

クルミ 「うん…もしかして遊ばれてるんじゃないかって…そう思うと怖くて…」

アカネ 「ウチなんかはラブレターもろた事なんか一度もあらへん」
アカネ 「せやからようわからんけどな」

クルミ 「ねぇ、ユウキ君を好きになった時ってどんな感じだったの?」

アカネ 「ん? ごく自然な感じやなかったんかな?」
アカネ 「いつも側におるんが当たり前やったし、せやから直接的な告白とかはなかったんよな」
アカネ 「ただ、あの事件がキッカケやったしな…」

クルミ 「なに、あの事件って?」

アカネ 「アカン、これはクルミにも教えられん」

クルミ 「ぶぅ…ケチ」

アカネ 「ウチはガメツイねん、まぁウチからゆえんのはクルミも良い人自分から見つけようとするんやな」
アカネ 「本当に好きなんやったら、ラブレターも告白もいらんて」

クルミ 「ん〜、そうだよね♪ ありがとアカネちゃん♪」

アカネ 「まぁ、人生の先輩やしな」

クルミ 「私の方が年上なのに…」

アカネ 「ほら、はよくわへんと溶けるでイチゴサンデー」

クルミ 「ああっ! 忘れてた!」

アカネ 「ふふっ」

クルミは慌てて食べ始めた。
なんや、かわいいもんやな。

クルミ 「アカネちゃんも食べたほうがいいと思うけど?」

アカネ 「え? ああっ! ウチもたのんどったんやったわ!!」

ウチは慌てて自分のイチゴサンデーを食べる。
なんや、すっかり忘れとったわ。
それにしても、ユウキ今頃どうしとるんやろな〜?



おまけその37 「コガネシティのアイツ」 完



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