ポケットモンスター サファイア編




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第57話 『最後のジム戦』





ワイワイガヤガヤ!

ユウキ (そういうことか…)

未だ興奮冷めやらぬジム。
局面はミクリさんが2匹のポケモンを失い後半ステージへと移行しようとしていた。
海と砂浜のフィールドは地下に格納され、新たに現れたのは巨大な水槽だった。
水槽は深さ10メートル近くあり、さながら水族館の中のようだった。
トレーナーサイドとジムリーダーサイドの地面は水面の上まで持ち上がり、3メートル大の大きな円形の浮きが8個水面に浮かべられる。
これは泳げないポケモンにとっては地獄のフィールドだな。
ボスゴドラやコータスを外しておいて正解だったな。

解説 『みなさんお待たせいたしました! これより後半戦を行います!』
解説 『なお、現在チャンレンジャーユウキはユレイドルを失い残り4匹』
解説 『対するジムリーダーはラブカスとトドクラーを失い、残り3匹だ!』

ミクリ 「…いけ! ナマズン!」

ナマズン 「ナマー!」

ポケモン図鑑 『ナマズン:ひげうおポケモン ドジョッチの進化系』
ポケモン図鑑 『高さ:0.9m 重さ:23.6Kg タイプ:水 地面』
ポケモン図鑑 『大暴れすると沼の周囲5キロの範囲で地震のような揺れが起こる』
ポケモン図鑑 『本当の地震を予知する力も持つ』

ユウキ (ナマズンか…サーナイトの電気技は通用しないな)

現在フィールドの浮きの上に立っているのはサーナイト。
どうするか…エスパー技こそ真の力を発揮するが…。

ユウキ (まぁいい…このまま押せるなら押すだけだ!)
ユウキ 「サーナイト! 『サイコキネシス』!」

ミクリ 「ナマズン! 『ドわすれ』!」

ナマズン 「なま〜?」

解説 『サーナイトのサイコキネシス、ナマズンを捕らえる! しかし、ナマズン眉ひとつ動かさないぞ!?』

ユウキ (『ドわすれ』か…厄介な技を使うな…)

ドわすれは度忘れ。
理屈がさっぱりわからないが特防を大幅に上げる技だ。
こうなってはさすがに…。

ミクリ 「ナマズン! 『みずのはどう』だ!」

ナマズン 「ズン!」

ナマズンも他のポケモンたち同様口から『みずのはどう』を放つ。
その威力はトドクラーに比べると威力が劣るようだった。

ユウキ 「テレポート! そしてもう一度サイコキネシス!」

サーナイト 「!!」

サーナイトはその場から瞬間移動してナマズンの背後を取り、ナマズンにサイコキネシスを放つ。
ナマズンはまた受けるが、まだ倒れない。
特防が上がっているからな…。

ミクリ(テレポートか…厄介な技だ、ならば!)
ミクリ 「ナマズン、『じしん』だ!」

ナマズン 「ズーン!!」

ズドォン!!

サーナイト 「!? うわっ!?」

ユウキ 「くっ!?」

ナマズンはその場から『じしん』を放つ。
さすがに『じしん』はフィールド全体に及ぶため、空でも飛べないと防げない。
しかし、今回最も厄介なのは…。

バシャン!!

解説 『おーっと! サーナイト『じしん』で浮きから落ちたぞ!?』

ユウキ 「サーナイト! 急いで浮きに上がれ!」

ミクリ 「ナマズン! 『かいりき』!」

ナマズン 「ナマー!」

水中というフィールドを持ったナマズンはまさに水を得た魚そのもの。
非常に素早い動きを見せる。
逆にサーナイトは溺れこそしないもののナマズンに勝てるはずもない。
ナマズンはサーナイトに急速に近づき、サーナイトをかちあげる。

サーナイト 「くぅっ!?」

ユウキ (まずいな…サーナイトではナマズンに分が悪い…ダメージが少ないうちに交換するべきか!)
ユウキ 「もどれ! サーナイト!」

俺はサーナイトをボールに戻す。
まだサーナイトに倒れられるわけにはいかない。

解説 『チャレンジャー、サーナイトを戻した! 次に出すのはなんだーっ!?』

ユウキ 「いけ! チルタリス!」

チルタリス 「タリ〜っす」

俺はチルタリスを出す。
こいつなら、ナマズンの地面技は効かない。
ナマズンとは有利に戦えるはずだ。

ミクリ (チルタリスか…厄介な相手だ、うまく立ち回れるか?)

互い、まずは見合う。
お互い、中々動き出せない危険な雰囲気を持っているからだ。
だが、動き出さないと意味はない!

ユウキ 「チルタリス! 『りゅうのいぶき』!」
ミクリ 「ナマズン! 『ダイビング』!」

チルタリス 「ぶはぁっ!!」
ナマズン 「ズン!」

解説 『おーと! 同じタイミングで命令、行動は同時だーっ!!』

チルタリスは離れた位置からナマズンに『りゅうのいぶき』を放つ。
しかし、ナマズンは同時に動いたため、水中深くに潜ってしまった。

ユウキ (また、この展開か…どうするよ俺?)

ダイビングで潜られたら攻撃できない。
出てきたところに痛い一撃かましたいところだが…。

ユウキ (あのナマズン…『ドわすれ』で特防上がってやがるからな…)

その性で有効なダメージが与えにくい。
ドラゴンタイプの技は特殊だからな。(今はドラゴンクローは物理だから大丈夫だぞ?)

ユウキ (やるっきゃないか!)
ユウキ 「チルタリス上昇して、攻撃を警戒しろ!」

チルタリス 「了解っす!」

俺はそう命令するとチルタリスは水面から離れる。
しかし、もともと水槽がかなり高い位置にあるため天井もあり、水面から2メートルほどしか離れられなかった。
これは飛行タイプを想定したフィールドでもあるな…。
いくら水タイプは豊富な間接攻撃を持っているとはいえ、空中の敵にはダメージを与えにくい。
このフィールドはその有利不利を縮めている。

ザッパァン!!

ナマズンはチルタリスの真下から飛び上がる。
その体に似合わず、ナマズンのジャンプはチルタリスに十分届くものだった。

ユウキ 「チルタリス! 『ドラゴンクロー』!」

俺は迎撃するよう『ドランゴンクロー』を命令する。

ミクリ 「ナマズン! そのまま『スパーク』!」

ユウキ 「なに!?」

なんと、ミクリさんは『スパーク』を宣言する。
ナマズンが電気技ですか!?

ナマズン 「ナマー!!」

バチチチィ!!

チルタリス 「な、なんとーっ!?」

チルタリスの『ドラゴンクロー』もナマズンを的確に捉えるが、勢いの乗ったナマズンの『スパーク』もそのままチルタリスにぶつかってきた。

バッシャーン!

ナマズンはそのまま水中に落ちる。
そのままナマズンは何事もなかったように水中を遊泳していた。
本当に打たれづよいな…。

ユウキ 「チルタリスは…?」

チルタリス 「く…」

ダメージはそこまででもない。
だが、チルタリスは『麻痺状態』になっていた。
まずい…どうする!?

ユウキ (チルタリスの特性は自然回復…戻した方が無難か…)

問題は戻した先だ。
ミクリさんに何かするチャンスを与えるのはあまりに危険といえよう。
だが、ここで『リフレッシュ』で状態異常を直しても、さらに悪循環になることは目に見えている。

ユウキ 「いちばつだ! もどれ!」

俺はチルタリスを戻すことする。
この後のポケモンはダメージ覚悟!

ユウキ 「いけ! サメハダー!」

ミクリ 「ナマズン! 『ねむる』!」

サメハダー 「サメッハー!!」

俺がサメハダーを出すと同時にナマズンはなんと眠り始めた。

ナマズン 「なま〜」

ユウキ (なんてこった…まさか回復技とはな…)

『ドわすれ』されているだけにここで回復されたら厄介極まりない。
とにかくこうなったら眠っている間に出来るだけダメージを与えるしかない!

ユウキ 「サメハダー! 『かみくだく』攻撃!」

サメハダー 「サメッハー!」

サメハダーはその巨体を躍らせてナマズンに襲い掛かる。
こんな巨大口に噛み付かれたら並みのポケモンはたまったものじゃない。

ミクリ 「ナマズン! 『いびき』!」

ナマズン 「ナマァ〜…!」

ズパァン!!

サメハダー 「サメーッ!?」

解説 『おーっと! ナマズンの『いびき』サメハダーを衝撃波で吹き飛ばしたーっ!』
解説 『サメハダー、ナマズンに近づけない!!』

ユウキ (くそ! 寝ながら戦うのかよ! しかもあれじゃ近づけない!)

まさか、ナマズン相手に八方塞がりになるとは思わなかった。
あの、ナマズン…強い!

ユウキ (『いびき』が予想以上に厄介だ…サメハダーでは近づけないか?)

いや、あの技は音波だ…ここに突破口がある。

ユウキ (できればあまりやりあいたい場所じゃないが…相手の土俵で戦うしかないのか…)
ユウキ 「サメハダー! 『ダイビング』!」

サメハダー 「サメッ! サメーッ!!」

バッシャァーン!!

解説 『おーっと! サメハダー水中に潜ったぞ! これで『いびき』は受けずにすむ!!』

ユウキ (ああ、確かにな…しかし、『ダイビング』は一旦間をおいての時間差攻撃)

ミクリ (ナマズンはその間に目覚める!)

ナマズン 「なま〜ぁ…ナマッ!?」

解説 『ナマズン目覚めたっ!』

ユウキ 「一発は一発だ! いけ! サメハダー!!」

ナマズンはやはりダイビング中に目覚める。
目覚めてすぐ行動はできない。
サメハダーの一撃は確実に決る!

サメハダー 「サメッハーッ!!」

ザパァン!!

ナマズン 「ズンーッ!?」

サメハダーはその巨体を躍らせて、ナマズンの下から襲いかかり、ナマズンを宙高く跳ね上げた。
『ドわすれ』を積んだナマズンに水技は通用しにくい、しかし…あのサメハダーの体格からの物理的衝撃は十分だ!

ユウキ 「サメハダー! そのまま『きりさく』!」

サメハダー 「サメー!」

解説 『サメハダー! まだ慣性が続いているうちにナマズンに追い討ちだー!』

サメハダーはナマズンをその大きな尾びれでナマズンを切り裂く。

ミクリ 「くっ! 『スパーク』!」

ユウキ 「『かみくだく』攻撃だ!」

ナマズンは空中から落ちると同時にスパークを放ちながらサメハダーに急降下する。
俺はそれを迎え撃つように命令した。

バチチィン!!

サメハダーは帯電するナマズンにかみつく。

ナマズン 「ナ、ナマ…!」
サメハダー 「サ、メ、ハダー!!」

ミクリ 「ナマズン!!」
ユウキ 「負けるな! サメハダー!」

互いの根競べだった。
ナマズンは『ダイビング』、『きりさく』でダメージがたまっている。
対するサメハダーのダメージは『いびき』一発だが、スパークが効果抜群だ。
乗るか反るか!

ナマズン 「ナマ〜…」

サメハダー 「さめ〜…」

バシャァン!!

審判 「ナマズン、サメハダー戦闘不能!」

解説 『なんと、両者のポケモンダブルノックアウトだーっ!』

ミクリ 「よくやった、戻りなさいナマズン」

ユウキ 「おっけ、頑張ったなサメハダー」

俺たちのポケモンは互いがダメージに耐えられず両者ダウンとなった。
ナマズンを失ったミクリさんはこれ2匹。
こっちはサーナイト、チルタリス、ラグラージの3匹で依然まだ俺が有利。

ユウキ (しかし、俺はすでにサーナイトとチルタリスを見せているからな…)

これでこの後の戦況にどう影響するか。

審判 「ジムリーダー、次のポケモンを」

ミクリ 「はい、いけ、アズマオウ!!」

ポケモン図鑑 『アズマオウ:金魚ポケモン トサキントの進化系』
ポケモン図鑑 『高さ1.3m 重さ:39.0Kg タイプ:水』
ポケモン図鑑 『卵を守るためオスとメスは交代で巣の周りを泳ぎ回りパトロールする』
ポケモン図鑑 『卵が孵るまで一月以上続く』

ユウキ (アズマオウか)

種族的にはあまり強くはないが、やはりこのバトルフィールドに対応したポケモンだな。
水タイプというのは変わらないし、ナマズンより戦いやすいだろう。

ユウキ 「いけ、サーナイト!」

解説 『挑戦者、再びサーナイトを出したぞ! ジムリーダーどう対処するのか!?』

サーナイト 「はぁ…はぁ…」

ユウキ (ダメージがある…危険だな)

サーナイトはナマズン戦でダメージを負っていたからな。
速攻で決めないと元々体力の少ないサーナイトは最後まで持たないな。

ミクリ (サーナイトにダメージはある、しかしあのサーナイトは『かみなりパンチ』を使う)
ミクリ (くしくもアズマオウは接近戦が主な戦い方…危険な戦いだな…)

ミクリ 「いけ! アズマオウ! 『つのでつく』攻撃!」

ユウキ 「速攻で決めるぞ! 『10まんボルト』!」

ミクリ 「なっ!?」

サーナイト 「はぁっ!」

ミクリさんは心底意外そうな顔をした。
電気の間接攻撃は予想外だったようだな。

解説 『おーっと! 挑戦者意表をついた攻撃! アズマオウを電撃が襲うぞ!』

アズマオウ 「ズマ!?」

バチィン!

ユウキ 「しま…!」

しかし、ここで俺の予想とは思わぬ方向に電撃が飛ぶ。

解説 『なんとサーナイトの『10まんボルト』はアズマオウの隣の浮き島に誘導されたぞ! アズマオウ無傷でサーナイトに接近!』

アズマオウ 「アーズマー!!」

サーナイト 「!!?」

ユウキ 「サーナイト!」

サーナイト 「うわぁ!」

ザシュゥ!

アズマオウの角がサーナイトを襲う。
サーナイトは咄嗟に身を捻って突き刺さるのは避けたが、横腹を切られた。

ミクリ (運が良かった…まさか『10まんボルト』まで使うとは)
ミクリ (だが、次また外れてくれるとは限らない…この好機のがすわけにはいかない!)

ユウキ (ちぃ! 疲労で手元が狂ったか!?)
ユウキ (どちらにしても最悪だ!)

状況的にはサーナイトやや不利か。
あと1発耐えられるか?
いや、難しいな…思ったよりこのジム戦見えないところで俺不利に働いているのかもな…。

ミクリ 「アズマオウ『こうそくいどう』だ!」

アズマオウ 「ズマ!」

解説 『アズマオウの『こうそくいどう』! スピードが倍加したぞ!!』

ユウキ (『10まんボルト』を意識した戦術だな…さぁ、どうするよ俺)

サーナイトも疲れている、あまり無茶はできない。
しかし、アズマオウはスピードを増した。
危険だがカウンター狙いか?

ユウキ (だが、アズマオウは間接技も使える、待つのも危険か…)

サーナイト 「く…」

ユウキ (出血もある…やるしかないか)

俺は覚悟を決める。
サーナイトはこれ以上は辛いだろう。
幸い俺の後ろにはチルタリスと無傷のラグラージがいる。
サーナイトこれが最後だ。

ユウキ 「サーナイト、目を瞑れ」

サーナイト 「! はい…」

サーナイトは一瞬俺の方を向くと、素直に目を瞑り、アズマオウの方を見た。

ミクリ 「これは…?」

解説 『なんとサーナイトその場で完全に目を瞑ったぞ!? 諦めたのか!?』

ミクリ (まさか、あの挑戦者が諦めるはずはない、だが…一体あの状態でなにを?)
ミクリ (コロンブスの玉子のつもりか?)

ユウキ (サーナイト、お前は強い、お前には場の空気が見えるはずだ、そうだな?)

サーナイト (はい、前方にアズマオウ、さらにその奥15メートルほどのところにミクリさんがいます)

ユウキ (100点満点だ、そのままいくぞ…気を集中しろ)

サーナイト (はい!)

俺とサーナイトはテレパシーで会話する。
サーナイトにはできる、サーナイト以外にはできない。
さぁ、賭けだが…ミクリさんはどうする?

ミクリ 「待っていても何もいいことはないだろう…アズマオウ! トドメだ! 『たきのぼり』!」

アズマオウ 「アズマッ!!」

解説 『アズマオウサーナイトにもう突進! そのまま水をかきあげてぇ…なぁーっ!!?』

サーナイト 「……!」

アズマオウ 「ズマッ!?」

ミクリ 「な…」

ユウキ 「………」

アズマオウは水を巻き上げてサーナイトに『たきのぼり』を行う。
しかし、サーナイトは目を瞑ったまま鮮やかにその『たきのぼり』を回避した。
誰もがその姿には唖然としているが俺はそうは思わない。
サーナイトには見えている、なら小細工なしの『たきのぼり』くらい回避する。
そしてサーナイトは…。

サーナイト 「! はぁ!」

バチィン!

アズマオウ 「アズマーッ!?」

サーナイトは手の届く距離で『10まんボルト』を放つ。
ほとんど手の触れるような位置で放つ『10まんボルト』はアズマオウを確実に捕らえた。

解説 『まさかの反撃にアズマオウ、『10まんボルト』が直撃! 効果は抜群だ!!』

ミクリ 「アズマオウ!」

サーナイト 「これで…終わりです!!」

バキィ! バチチィン!!

アズマオウ 「ズマ〜ッ!?」

サーナイトはそのまま腰を動かして体重の乗った『かみなりパンチ』をアズマオウに放つ。

アズマオウ 「ズマ…」

審判 「アズマオウ! 戦闘不能!」

ユウキ 「おっし」

サーナイト 「はぁ…はぁ…!」

ミクリ 「く…もどれアズマオウ」

解説 『ついに追い詰めれたジムリーダー! 最後に出すポケモンは…!』

ミクリ 「いきなさい! ミロカロス!」

ミロカロス 「ミロー!」

解説 「でたーっ! ジムリーダーの最後のポケモンはジムリーダー最強のポケモンミロカロスだーっ!」

ユウキ 「ミロカロスか…」

強力そうなポケモンがでてきたもんだ…。
俺はさりげなくサーナイトのほうを見る。

サーナイト 「く…はぁ…はぁ…!」

ユウキ (だめだな…出血もある、もう倒れていいぞサーナイト)

サーナイト 「はぁ…はぁ…はい…」

ドサァ!

審判 「サーナイト、戦闘不能!」

解説 『なんといきなりサーナイト倒れた! 挑戦者これで2匹だ!』

十分だ、サーナイト頑張ったな。

ユウキ 「いけ! チルタリス!」

チルタリス 「再びタリ〜っす!」

俺はミロカロスに対してチルタリスを繰り出す。
スパーク一発を受けたが、ボールに戻したので自然回復の特性で麻痺はない。
ドラゴンタイプも幸いして水タイプの技も効きにくいし戦いやすいはずだ。
ただ、問題があるとすれば。

ユウキ (ミロカロスの氷技か)

ミロカロスは技マシンを使えば『れいとうビーム』や『こごえるかぜ』が使える。
これらを喰らえばドラゴンタイプと飛行タイプを持つチルタリスはたまったものじゃない。
十分気をつけなければならないだろう。

ミクリ 「まずは小手調べです、ミロカロス! 『たつまき』!」

ミロカロス 「ミロー!」

ユウキ 「かわせ! チルタリス!」

チルタリス 「あぶなっ!」

ミロカロスの口から放たれた『たつまき』は空を飛ぶチルタリスを襲う。
チルタリスはそれを何とか避けてミロカロスの真上に来た。

ユウキ 「チルタリス! 『りゅうのいぶき』!」

チルタリス 「この技シャベリにくいっす! ぶはぁっ!」

ミクリ 「落ち着いてミロカロス、プールの底までは届かない」

ミロカロス 「ミロ〜」

ミロカロスはプールの底に潜る。
さすがに10メートル以上ある水深にまではチルタリスの『りゅうのいぶき』は届かない。
参ったな…このプールそのものが巨大な壁だよ…。
これさえなければもっと楽に戦えたか…て、それがジム戦だもんなぁ…。

ミクリ 「ミロカロス、『みずのはどう』!」

ミロカロス 「!」

バッシャァン!

チルタリス 「うんぎゃ!?」

ユウキ 「チルタリス!?」

突然、プールの底から水の塊が真上のチルタリスを襲う。
突発的なことだったのでチルタリスも反応できず直撃を喰らってしまった。
てか、底まで声が届くのかよ!?

ミクリ 「ひとつ教えましょう、このプールには水中スピーカーがある」
ミクリ 「ミロカロスはこのまま底で戦うことも出来るのだよ」

ユウキ (説明どうも…)

てことはチルタリスはジリ貧じゃないないのか?
いや、これからくる攻撃全部回避すれば別だが…。

ユウキ (どう考えたってチルタリスの体力が持たないっつーの!)

却下だ。
さて、どうする俺!

バッシャァン!!

ユウキ 「はいぃ!?」

チルタリス 「んなぁ!?」

解説 『ミロカロス! まさかの奇襲だーっ!!』

なんとミロカロスは空中を飛ぶ、ミロカロスに飛び掛ってきた。
その様はまるでアロワナのジャンプのようだった。

ミクリ 「ミロカロス、『まきつく』!」

ミロカロス 「ミロー!」

チルタリス 「ギャッ!?」

ユウキ 「チルタリス!?」

バッシャーン!!

ミロカロスはあっという間にチルタリスに巻きつき、そのまま水中に引きずり込んだ。

ミクリ 「そのまま『れいとうビーム』」

ミロカロス 「!」

チルタリス 「!?!?」

ミロカロスは水中で身動きを封じたチルタリスに容赦なくれいとうビームを放つ。
そのまま…。

チルタリス 「今回はあんまりっす〜…」

審判 「チルタリス戦闘不能!」

チルタリスはそのままぐったりしたまま浮いてきていた。
おいおい…あっけなさすぎるぜ…チルタリス。

ユウキ (冗談じゃないぜ、無傷でチルタリスを撃破したのかよ…あのミロカロス)

ミロカロス 「ミロー!」

ミロカロスはダメージはない。
むしろ程よく体が動いてここからトップギアに入りますって感じだ。

ユウキ 「たく、お前頼りだよ! ラグラージ!」

ラグラージ 「ラグッ!」

解説 『挑戦者最後のポケモンはラグラージ! 水陸両用の挑戦者の切り札だーっ!』

ユウキ (さて、ラグ…俺がいない間のお前…どうなったか見せてもらうぜ)

ミクリ 「地面タイプを持つラグラージは水タイプの技は普通に受ける! 『みずのはどう』だ!」

ユウキ 「ラグ、お前ならどうするよ?」

ラグラージ 「ラグ…ラグッ!」

ラグラージは少し考えると浮き島から水中に飛び込んで『みずのはどう』をかわした。
そうか、水中戦が望みか。

ユウキ 「ラグ! 『かいりき』!」

ラグラージ 「!」

ラグラージは今は水深の浅いところにいるミロカロスに接近して、首根っこをつかむ。

ミクリ 「ミロカロス!?」

ラグはそのまま首根っこをつかむとラグはミロカロスを放り投げた。
あれも『かいりき』の技か?
ラグなら技なしでもやりそうだが…。

ユウキ 「ラグ、そのまま『マッドショット』!」

ラグラージ 「ラグ!」

ラグはミロカロスを放り投げるとすばやくマッドショットをミロカロスに放った。

ミロカロス 「ミロッ!?」

ミロカロスはマッドショットが直撃する。

ミクリ 「くっ! ミロカロス『たつまき』!」

ミロカロス 「ミロ!」

ゴォォォォッ!

ラグラージ 「ラグッ!?」

ラグラージはミロカロスの反撃で吹っ飛ぶ。
ダメージこそほとんどないものの距離を離された。
接近戦を嫌がっているのか?

ユウキ 「別に遠距離からでも攻撃方法がないわけじゃないぜ! ラグ、『じしん』!」

ラグラージ 「ラグッ!」

ドドドドドドドドッズドン!!

ラグは『じしん』を起こしてミロカロスを攻撃する。
地面のないこのフィールドでは効果は低そうだがミロカロスに十分なダメージは与えられるだろう。

ミクリ 「ミロカロス、『じこさいせい』!」

ユウキ 「む!」

ミロカロス 「ロ〜ロ〜♪」

ミロカロスの体は見る見るうちに回復していく。
むぐ…使うことは理解していたがどうするよ、俺?
ミロカロスのタフな体力をどうやって削る?

ユウキ (依然ヤエコさんのミロカロスと戦った時は強引に速攻で押し切ったが果たしてジムリーダーにもそれが通用するか?)

少なくともあのミロカロスよりも遥かにこのミクリさんのミロカロスは鍛えこまれている。
こちらもさすがにあの頃と同じということはないが…。

ユウキ 「でぇい! やるしかないか! ラグラージ! 『たいあたり』!」

ラグラージ 「ラグッ!」

ミクリ 「ミロカロス、『みずのはどう』」

ミロカロス 「ミロー!」

ラグラージの『たいあたり』はミロカロスに決まるが直後ミロカロスの『みずのはどう』がラグに決まる。

ユウキ 「くそ! そのまま『じしん』」

ミクリ 「ミロカロス! 『たつまき』! そして『じこさいせい』!」

ラグラージ 「ラージ!」

ミロカロス 「ロー!!」

ラグラージは『じしん』で攻撃するが、ミロカロスはラグラージと再び距離をとり、また『じこさいせい』をする。

ユウキ (くそ、回復に追いついていない!?)

ミクリ (遠距離からまともな攻撃は地震くらい…PPを考えても遠距離で戦ったほうがミロカロスは確実に戦えるな…)

ラグラージ 「ラグゥ…」

ユウキ 「ラグラージ…」

ラグにもダメージが溜まっている。
長期戦は明らかに不利だ。
だが、どうすればいいか?
あのタフなミロカロスを一撃で倒すことは出来るのか?
出来なければこっちの負けだ。

ラグラージ 「ラグ…」

ラグラージは一瞬こちらを見ると拳を強く握った。

ユウキ (ラグ…?)

ラグは確信を持った目をしていた。
つまり絶対に勝てる…そういいたいのかラグ?
だが、どうすればいい?
水技はミロカロスにはほとんど効かない。
『じしん』は強力だがこのフィールドでどうにもダメージが通りにくい。
せめて、この『じしん』が相手に100パーセントの力で叩き込めたら…。

ユウキ (ん? 100パーセント?)

俺は今、自分で思った100パーセントという言葉にピンときた。
そうか、あるにはあったな…ラグだけのあの技が…。

ユウキ (ただ、問題はミクリさんだ…あの技をやるには密接状態にならないといけない)
ユウキ (しかし、どうもさっきからミクリさんは近づかれるのを嫌がっていた)
ユウキ (おそらく、簡単には近づかせないということだろうな…)

ラグラージ 「ラグ! ラグ!」

ユウキ 「ラグ…そうかよ」

ラグはやれと言った感じで吼えた。
可能性があるならそこにオールチップ…ってことか。
まだ、カイオーガ戦に比べればマシな賭けだな。

ユウキ 「OK! いけ、ラグ!」

俺は覚悟を決めるとラグに命令する。

ミクリ 「ミロカロス! 『なみのり』!」

ミロカロス 「ミロー!!」

ユウキ 「ラグラージ! 『だくりゅう』!」

ラグラージ 「ラグーッ!!」

ミロカロスは大きな津波を起こしてその波がラグを襲う。
大してラグもほぼ同じ泥の混じった濁流を起こしてミロカロスに襲いかかる。

ドドドドッ! ザッパァァン!!

『だくりゅう』と『なみのり』がぶつかり合い、激しくフィールドの水槽が揺れる。

ユウキ (…ん? 水面が濁った?)

見るとさっきの『だくりゅう』で水槽が若干土気色になっており、濁って透明度を下げていた。

ユウキ (これは…使えるかもしれない!)

ミロカロス 「ミロー!」

キィン!!

ラグラージ 「ラグッ!?」

ユウキ 「ラグラージ!?」

ミロカロスの突然の『れいとうビーム』がラグを襲う。
ラグは咄嗟のことに反応できず浮きから落ちてしまった。

バッシャァン!!

解説 『ラグラージ! 『れいとうビーム』を受けて落ちたが大丈夫なのか!?』

ユウキ (というか、凍ってないよな…?)

水が若干濁っててわかりくい…。

ユウキ (しょうがない…もうひとつの目で見るか…)

出来れば使いたくないが、俺はキメナだか何だか知らないが、そっちの方の目で見る。
力を使えば、これくらいの濁った水どうってことない。

ラグラージ 「…!」

ラグラージは俺を見上げてグットポーズをとった。
凍っていないな…なら、やれる。

ユウキ 「ラグラージ! 『だくりゅう』!」

ラグラージ 「!」

ザパッァァンン!!

ミロカロス 「ミロッ!? ミロロ!?」

下から『だくりゅう』が溢れてきて、プールからまた水があふれ出る。
ミロカロスも今は浮きにいるため、その浮きも大きく縦揺れした。
もっとも…実の所ミロカロスにダメージは無い。

ミクリ (ミロカロスは驚いてこそいるが、その実ダメージを被っていない…)
ミクリ (まさか…あ!)

ユウキ (ミクリさんの表情が変わった、気づいたみたいだな…だが!)

ミクリ (プールの中が…何も見えない!?)
ミクリ (まさか濁したのか!?)

ユウキ 「ラグラージ最後だ! 『震貫』!」

ラグラージ 「!」

俺はラグラージに『震貫』を命令する。
あのカイオーガさえもぐらつかせた技だぜ!?

ミクリ (く、水が濁って動けない…それに『震貫』? どんな技だ?)

ユウキ (静かなでだな…せっかちなラグらしくないな…)

今、プールは不気味な位の静寂を持っていた。
それに吊られてか観客たちも一挙一動を静かに待っていた。

ミロカロス 「ミロ…ミロ…!?」

ミロカロスが焦っている。
さて、どうする気なんだ…ラグ?

ミクリ 「く…」

ザァッパァン!!

解説 『ミロカロスの正面! 水が巻き上げられた!!』

ミクリ 「ミロカロス! やられる前に『みずのはどう』!」

ミロカロス 「ミロー!」

バッシャァン!!

ミロカロスは瞬時に反応して正面に『みずのはどう』を放つ。
しかし…。

解説 『なんと! 正面はダミーだ! 水を巻き上げただけでラグラージはいないぞ!?』

ミクリ 「しま…!?」

ザッパァン!

ラグラージ 「ラージ!」

ミクリ 「後ろ!?」

ラグラージはミロカロスの後ろから姿を表す。
そんままミロカロスの首根っこを掴むと水中へ引きずり込んだ。

ユウキ 「いけーっ!!」

ラグラージ 「!!」

ミロカロス 「!?」

観客 「……」

解説 『……』

ユウキ 「……」
ミクリ 「……」

再び、静寂。
みんなどうなったかが気になっている。
やがて…。

ミロカロス 「☆〜☆〜…」

ラグラージ 「ラグー!! ラージ!!」

ミロカロスが目を回して浮かび上がり、ラグラージが威勢良く水面に顔を出す。
その瞬間…!

審判 「ミロカロス戦闘不能! よってこの勝負挑戦者ユウキの勝ち!!」

観客 「ワァァァァァァァァァァァッ!!!」

解説 『決まったーっ!!! 挑戦者、ついにジムリーダーを下した! この瞬間挑戦者の勝利が決まったーっ!!』

ユウキ 「おっし!」

俺は小さくガッツポーズを取る。
勝った!
これで…ポケモンリーグに出られる!

ダイゴ 「ユウキ君! ユウキ君!」

ユウキ 「は? ダイゴさん?」

勝利の感傷に浸る間もなく、出口の方でダイゴさんが手を振って俺を呼んでいた。
かなり控えめですが…ね。

ダイゴ 「ユウキ君! 急いでこっちへ! ラグラージも!」

ユウキ 「へ? あ…!?」

気がつくと勝利者インタビューにくる大量の記者やら何やらが迫ってくる。

ユウキ 「じょ、冗談じゃないぞ!? ラグ! こい!」

ラグラージ 「ら、ラググゥ〜!?!?」

俺たちは咄嗟に反応して大急ぎでジムを跡にした。
たく! なんでこんな疲れるジム戦せにゃならんのだーっ!?




ポケットモンスター第57話 『最後のジム戦』 完






今回のレポート


移動


ルネシティ


2月10日(ポケモンリーグ開催まであと19日)


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

チルタリス

ユレイドル

サメハダー

キノガッサ


見つけたポケモン 59匹

ナマズン

アズマオウ



おまけ



その57 「このぉ…馬鹿兄貴〜…」





あ、さてさて今回もおまけはサイユウシティでのお話。
今回の主人公は『アスカ』。
かの四天王の一人『カゲツ』の実の妹であり、ポケモントレーナーの彼女。
彼女もポケモンリーグに出場するのだ。
さて、そんな彼女にこれから一体何があるのか…?
それでは今回もおまけ57、始まりと御座候〜♪(テケンテンテンッテテン♪)



『2月10日 某時刻 サイユウシティ:ポケモンセンター』


アスカ 「あの馬鹿兄貴〜、いつまであたしを待たせるのよ…」

あたしの名はアスカ。
一応、生まれはジョウトのポケモントレーナー。
カゲツはホウエン出身なのになんでやねんっていう突っ込みはなしね、だってオリキャラだし。
現在あたしはポケモンセンターの待合室で兄である『カゲツ』が来るのを待っていた。

アスカ 「あの馬鹿兄貴…まさか、また『ナンパ』なんかしているんじゃないでしょうね…」

そう、あたしの兄には困った癖が存在した。
本来ならすぐにでもポケモンセンターにこれるはずなのにこないことを考えると…ありえる。

アスカ 「たく、あの馬鹿兄貴は…」

しかし、探しに外に出るわけにも行かない。
すれ違いになったら問題だし、第一こんな暑い日に外に出るのも億劫。
待合室で待っていれば冷房が効いているので大分楽だった。

アスカ 「テレビでも見て時間潰すかしら?」

私は待合室のソファーに無造作に置いてあったリモコンを取ると、部屋の端上部に備え付けられていた小型のテレビの電源を入れる。
まるで病院ね…この光景。

解説 『みなさんお待たせいたしました! これより後半戦を行います!』

アスカ 「あれ? ジム戦の生中継?」

テレビをつけるといきなり後半戦がどうとか言われる。
どうやらルネジムのジム戦を生中継しているようだった。

アスカ 「珍しいな〜、普通ジム戦なんて取り上げないのに」

ポケモンリーグかグランドフェスティバルならともかくジム戦なんて普通はテレビ中継なんてしない。
よほど、珍しい人が挑戦したのかな?

解説 『なお、現在チャンレンジャーユウキはユレイドルを失い残り4匹』

アスカ 「ん? ユウキ…?」

聞いた事のある名前が飛び出してくる。
たしか、あの伝説のポケモンカイオーガをゲットし、辛くも世界の水没から救ったホウエンの英雄。
ていうか、あたしの友達のハルカのお隣さん…て、ええええっ!!?

アスカ 「なんでこの人テレビに映ってるの!?」
アスカ 「てか、今頃ジム戦!?」

すでに2月10日、ポケモンリーグ開催まであと19日しかないのにいまだにルネで大丈夫なんだろうかあの人は…。

? 「……」

アスカ 「ん…? て、はえっ!?」

突然、私の横に立って、テレビを見る女の子が現れる。
私はさすがにその娘を見たときは度肝を抜かされた。

アスカ (な、なんなのこの娘…)

私の横に立った少女は見た目14,5歳の少女で、黒いワンピースを一枚着ているだけだった。
それだけでも十分異様なのだけれど、さらに異様なのは顔面にあった。

アスカ (なんで仮面を…?)

少女は顔の半分を半月型の仮面で覆っていた。
髪の毛は腰辺りまですらっと豊かな銀色の髪の毛をなびかせ、唯一覗かせる左の片目はまるでイエロートルマリンの如く美しい瞳をしていた。
完璧に日本人じゃないわね…てか、浮世離れしすぎでしょ。
少女は私には目もくれずテレビに集中していた。
気になるのかな…このジム戦が?

解説 『おーっと! サーナイト『じしん』で浮きから落ちたぞ!?』

アスカ 「あ…」

再びテレビの方を見るとサーナイトが水面に浮かばれた浮き島から転げ落ちていた。
まさにバッシャーンってやつね。
サーナイトは慌てて浮き島に上がるが、ナマズンはサーナイトを思いっきりカチ上げた。
それを見てさすがにユウキさんは冷静にサーナイトをボールに戻した。

『ユウキ 「…! ……!」』

カメラはユウキさんの顔をアップで写した。
白髪がやたらに特徴的でちょっと大人っぽく見えるけど、やっぱり子供ね。
私とそんなに歳が変わらないのかも。
ちなみに私は15、ちょっとまえに誕生日を迎えたわけ。

アスカ 「う〜ん、それにしてもユウキさんって…結構いい男かも…♪」

惚れるとまではいかないけど、結構いい線いってるじゃない。
いい男見つけたかも♪

少女 「……」(ジー)

アスカ 「ん? な、なに…?」

何故か、横からやたらに痛い視線を感じる。
目だけ少女の方を向けると少女は物言わず無表情にあたしの方を見ていた。
い、一体何かしら?

アスカ 「あ、あの…なにか?」

少女 「……」

しかし、少女はうんともすんともいわずに再びテレビの方に目を向けた。
なんなんだろう…感じ悪いな〜…。

アスカ (それにしても兄貴、遅いな〜…もしかして忘れているなんてことないよね?)

もし忘れていたら殺す。
絶対殺す。
あの馬鹿兄貴…絶対ろくな死にかたしないんだから!

? 「ねぇ、そこの彼女! 一緒にパイン食べない?」

アスカ 「! こ、この声はぁ…」

とっても聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。
そして、あんなナンパの仕方をするのはあたしの知る限りたったひとり。

? 「ああ、ねぇ、ちょっとだけだからさ〜! ああ…いっちまったか」

アスカ 「馬鹿兄貴ーっ!!!!」

? 「へ? げっ!?」

ドゴォ!!

あたしは振り向きざま女の子に逃げられる馬鹿兄貴こと『カゲツ』兄貴を見つけると急接近し、腹部に右ミドルキックを浴びせる。

カゲツ 「おごぉ…い、いきなりすぎる…ぞ…」

兄貴は悶絶しているがあたしは容赦する気はない。

アスカ 「馬鹿兄貴ぃ〜あたしを呼んでおいてその妹をほったらかしにしてナンパとはいい度胸じゃない…」

カゲツ 「あ、いや、これにはな、事情があってだな…」

兄貴はいきなり言い訳を始める。
その際すでに完全にダメージは抜けているようでそれがかえってむかつく。
まぁ、これだけ不死身ならいくら蹴っても死にはしないわね。

アスカ 「どうせ、可愛い女の子に目が移ってナンパに直行、しかし見事に玉砕したのにあたしのことは頭からすっぽり抜け落ちたと…そんなところでしょ?」

カゲツ 「う…お、お前は予知能力者か…」

アスカ 「この…馬鹿兄貴ーっ!!」

ドバキィ!!

カゲツ 「ゲバッ!?」

あたしはためらうことなく今度は兄貴の側頭部にハイキックを浴びせた。
兄貴は見事にノックダウン…と思いきや踏みとどまる。
む…殺す気で振り抜いたのに。

カゲツ 「ふ…人間は木や石じゃない、その柔らかな体で衝撃を吸収することだって出来るのさ…」

アスカ 「思いっきり腰が笑っているよ…馬鹿兄貴…」

顔だけはクールに決めているが、下半身は思いっきり笑っている。
相変わらず、この馬鹿兄貴は…。

カゲツ 「あ〜、で、お前を呼んだのにはちゃんとわけがあってだな…」

アスカ 「む…そこでいきなり話題をずらす気?」

おもいっきり逃げているように思える。
しかし、その際追い討ちをかけはしない。
いちいち馬鹿兄貴の馬鹿に付き合っていたらこっちの身が持たない。

カゲツ 「実はだな…おおっ!?」

アスカ 「ん? ど、どうしたの!?」

カゲツ 「へぇい! そこのプリティーガール! お兄さんとパイン食べない〜!?」

少女 「?」

兄貴は何を思ったかいきなりさっきからテレビに食い入るように見る少女にナンパを始める。

アスカ 「この…馬鹿兄貴ーっ!!!!!!!」

ドバキイィャ!!!!!!

その日、ポケモンセンターには計3発の乾いた打撃音が響いたのだった…。



少女 「?」

ちなみにこの少女、名前は『ペル』。
まだ、本格的な登場は後よ?




おまけその57 「このぉ…馬鹿兄貴〜…」 完



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