ポケットモンスター サファイア編




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第88話 『冷たい決戦』






シャベリヤ 『さぁ…第一試合も終わり、いよいよ第2試合が始まろうとしております…』
シャベリヤ 『先ほどは、大半の予想を上回り、ユウキ選手の圧勝で終わってしまったがはたして次はどうなるのか…!?』
シャベリヤ 『さぁ、それでは今からAブロック準決勝第2試合、レン選手対リュウト選手の一戦を始めます!』

リュウト 「……」

レン (お腹すいたなぁ〜…)

俺は目の前の対戦相手を見定める。
向こうはやる気がないのか、なんとも覇気のない顔でフィールドに立っていた。
油断するつもりはない…というより、これまでのレン君の戦いを見る限りあれでいてかなりの実力者だ。
ただ、まったく持って覇気を感じさせないその出で立ちは戦う者の気を削ぐようだ…。

リュウト (今回のフィールドは草原…まぁ、可もなく不可もなくか)

審判 「それでは、両者不正の無いようにポケモンをフィールドへ!」

リュウト 「でてこい、カイリュー!」
レン 「行って、マスッキ!」

カイリュー 「リュー!」

マスキッパ 「キッパッ!」

俺は最初からリーダーポケモンのカイリューを繰り出す。
レン君は最初に何を考えて何を出すのかさっぱりわからないゆえ、俺は一番自信のあるカイリューを繰り出した。
レン君が出したのはマスキッパで、草タイプだが、浮遊の特性をもつ、ハエ取り草のようなポケモンだ。

審判 「それでは、試合開始!」

リュウト 「カイリュー、『ほのおのパンチ』!」

カイリュー 「カイーッ!」

俺は試合開始否やカイリューに命令する。
ここまでのレン君の戦い方をみれば、先に沈めにかかる方が有利だ!

レン 「わ…わわ! いきなり〜!? え、えと、マスッキ『ヘドロばくだん』!」

レン君はいきなりの攻撃に、慌てふためきながらも命令を出してきた。
『ヘドロばくだん』か…悪いチョイスではないがな!

リュウト 「回避してみせろカイリュー!!」

カイリュー 「リューッ!」

カイリューは巧みにマスキッパの大きな口から放たれた『ヘドロばくだん』を回避して、距離を詰める。
そのまま右手に炎を灯らして上からマスキッパの頭を殴りつけた。

マスキッパ 「マ、マスッキ〜!」

マスキッパは地面に叩き付けれられるが、距離を離して体勢を立て直した。

シャベリヤ 『マスキッパ、いきなりの大ダメージ! 開幕から手痛いダメージを受けたが大丈夫かっ!?』

レン 「大丈夫〜!?」

マスキッパ 「キ、キッパッパ!」

マスキッパは確実にダメージを受けている。
仕留めきれなかったのは誤算だが、今押し切れなかったらこの後何があるかわからん!

リュウト 「一気に行くぞ! 『ドラゴンクロー』!」

カイリュー 「リューッ!!」

ザッシュウウッ!!

マスキッパ 「パッパーッ!?」

ズササァァッ!!

マスキッパは顔面を切り裂かれ、地面をすべりレン君の足元へと転げる。

審判 「マスキッパ、戦闘不能!」

シャベリヤ 『決まったー!! 電光石火の早業でマスキッパ沈黙! レン選手何も出来ずポケモンを失ってしまったぞ!?』

レン 「うぅ…マスッキ〜…」

リュウト 「…とりあえず、一匹」

レン君は足元に転げるマスキッパを抱きかかえる。
一喜一憂、激しい相手だ、決して飲まれるなよ…俺。

レン 「戻ってマスッキ…でてこい、フッ君っ!」

フローゼル 「フローッ!!」

リュウト (フローゼルがきたか…恐らくレン君のエースアタッカーの一匹)

レン 「もう怒ったぞーっ! いくよっ! フッ君!」

フローゼル 「フーッ!」

レン君は怒っているのだろうが、イマイチ覇気の無い顔だった。
生来ノホホンと女顔をしているせいだろうか。
だが、今度はスピードアタッカーだ、カイリューでは分が悪いか?

リュウト 「相手が相手だ、容赦はするなよ! カイリュー、『りゅうのいかり』!」

カイリュー 「リューッ!」

ゴオォォォォォォッ!!

俺はまず、遠距離から攻撃を開始する。
フローゼル相手に至近距離戦は分が悪い、まずは戦うべき距離を把握する!

レン 「フッ君! 『こおりのキバ』!」

フローゼル 「フローッ!」

シャベリヤ 『フローゼル、神速を思わせるスピードで、『りゅうのいかり』を回避! そしてそのままカイリューの喉元へと向かうっ!』

リュウト (ちぃ! 速いなっくそっ!)

フローゼルは決して綺麗な避け方ではないが、『りゅうのいかり』を大雑把に回避しながらカイリューに向かう。

リュウト 「カイリュー、『アクアテール』!」

カイリュー 「リュ、リューッ!!」

カイリューはフローゼルの素早さに戸惑うが、単調な動きが幸いして、なんとかフローゼルを捕らえる。
カイリューは空中でバク転するように尻尾を振るうとフローゼルの顎をカチ上げ、なんとか難を逃れる。
本当は『かみなりパンチ』の方がダメージは望めるのだが、その場合確実にあのフローゼルはカイリューの首に噛み付いていただろう。
『かみなりパンチ』でフローゼルに与えられるダメージと『こおりのキバ』でこっちが受けるダメージでは割にあわん。
相手に与えるダメージも少ないが、こうしないとこっちがやられる可能性もあるからな。

レン 「フッ君! 『れいとうビーム』!」

リュウト 「!? カイリュー、『まもる』!」

フローゼル 「フッローッ!!」

キィィィン!!

カイリュー 「リュ…リュウッ!」

フローゼルは空中で姿勢を整え、真下にいるカイリューに『れいとうビーム』を放った。
レン君の命令の瞬間、俺はヤバイと思った。
俺は咄嗟にカイリューに『まもる』を命令した。
カイリューは空中でなんとか守りの体勢に入り、難を逃れる。

レン 「そのまま噛み付け!」

リュウト 「!?」

フローゼル 「フッローッ!!」

カイリュー 「リューッ!?」

フローゼルは重力落下の法則に従い、そのまま上からカイリューの噛み付いた。
そのまま、フローゼルの口元に冷気が集まる。

レン 「『れいとうビーム』! いっけーっ!」

フローゼル 「フーローッ!!」

カイリュー 「リュ…リュゥーッ!!?」

フローゼルの口元から『れいとうビーム』が放たれる。
零距離から一撃に、カイリューは成すすべなく地面へと落ちた。

シャベリヤ 『フローゼルの強烈な一撃! 効果は抜群だぁ!! 立てるかカイリューッ!?』

カイリュー 「リュ…リュウ…」

カイリューはなんとか立ち上がる。
だが、ダメージがでかすぎる。
ドラゴンタイプのほとんどにいえることだが、氷タイプの技は天敵だからな…。

レン 「しぶといね、フッ君、『かみくだく』!」

リュウト 「!? 戻れカイリュー!!」

俺は慌ててカイリューをボールに戻した。
な、なんだ…こいつから感じる冷や汗は…。

リュウト (馬鹿な…俺がレン君に恐怖を抱いている…?)

開幕直後からレン君から感じる何かが変わったと言うのは肌身を通して感じていた。
だが、それが最初は不可解でなにかよくわからなかったが、今は恐怖として感じている。



…………。



ヨー 「ひょぇぇぇ…カイリュー、よく立てたなぁ…てか、大丈夫なのかよ?」

今、フィールドでカイリューとフローゼルの戦いがあった。
状況はフローゼルの押せ押せで、カイリューはなんとかそれをしのぐ現状。
だが、フローゼルの『れいとうビーム』をくらい、命からがら立ち上がったといった表情だった。
現在、カイリューはボールに戻され、リュウトさんの次の手が待たれる。

ユウキ 「…これが、答えか…」

ヨー 「へ? 答えって?」

ユウキ 「……」

俺は何も答えない。
ただ、フィールドの上で対戦相手を見定めるレンのみを見た。
力のタガを抑えるロックが僅かに緩んだみたいだな。



…………。



シャベリヤ 『さぁ、辛うじてリュウト選手カイリューをボールに戻しました、この行動が後の展開にどう繋がるのか!? 次のポケモンが待たれます!』

リュウト 「…いくぞ、トドゼルガ!」

トドゼルガ 「ゼガーッ!」

俺はカイリューの中継ぎにトドゼルガを出す。
フローゼルと戦うにおいて有利不利はないはずだ。
あとは、個々の強さか…。
スピードタイプのフローゼルに対して、タフネスさを売りにするトドゼルガ。
捕らえきれるかが…問題だな。

レン 「…いくよ、フッ君! 『かわらわり』!」

フローゼル 「フロッ!」

フローゼルは一直線にトドゼルガに向かってくる。
スピードはたいしたものだ、だがトドゼルガもただでは沈まん!

リュウト 「トドゼルガ、『のしかかり』!」

トドゼルガ 「ゼガーッ!」

一直線に小細工なくトドゼルガに向かうフローゼル、さすがにスピード差は激しくトドゼルガが出遅れたことは言うまでも無い。

フローゼル 「フーローッ!」

ドッカァァァッ!!

トドゼルガ 「ゼ、ゼガーッ!!」

トドゼルガはフローゼルの攻撃の直撃をもらう。
しかし、すぐさま至近距離のフローゼルに『のしかかり』を行った。

レン 「よけて、フッ君!」

フローゼル 「フローッ!」

ズッシィィィン!!

フィールドを揺らす巨体が、地面を叩く。
フローゼルは素早く、攻撃した後距離をとり、トドゼルガの下敷きになることは無かった。

リュウト 「ならば! トドゼルガ、『がんせきふうじ』!」

トドゼルガ 「ゼガーッ!!」

ズガガァァン!!

フローゼル 「フ、フロッ!?」

トドゼルガが前足のヒレで地面を叩くと、突然フローゼルの足元から岩が競りあがり、フローゼルを動けなくする。

シャベリヤ 『トドゼルガの『がんせきふうじ』! フローゼルの動きを止めた! どうするレン選手!?』

レン 「! フッ君、『あなをほる』!」

フローゼル 「フローッ!」

フローゼルはその場で穴を掘り、緊急脱出を図る。

リュウト 「その状態じゃ、この技は回避できまい! 『じしん』!」

トドゼルガ 「トドーッ!!」

トドゼルガは体を大きく、跳ね上げ地面を叩く。
すると大きな縦揺れが会場に起こる。

ガッシャァァンッ!!

フローゼル 「フローッ!!?」

強烈な『じしん』を受けて、フローゼルが地面から飛び出してきた。
ダメージは必ずある! だが、何をするか分からん、今のうちに追撃だ!

リュウト 「トドゼルガ、『れいとうビーム』!!」

トドゼルガ 「ゼガーッ!!」

キィィン!!

宙を舞うフローゼル、トドゼルガは冷気を口に集約し、それをフローゼルへと放つ。
周囲の空気を急速に冷却し、光線となってフローゼルへと一直線に向かった。

レン 「フッ君、『まもる』! そして『かみくだく』!」

フローゼル 「! フ、フロッ!」

フローゼルは空中で『れいとうビーム』を『まもる』で防ぐ。
そのまま慣性の法則でトドゼルガに落下してくる。

フローゼル 「フローッ!!」

フローゼルが咆哮をあげ、その顎を広げ、トドゼルガの首へと噛み付いた。

リョウト 「トドゼルガ、『のしかかり』!!」

トドゼルガ 「! ゼガーッ!!」

トドゼルガの分厚い皮下脂肪はフローゼルの一撃ごときで沈みはせん!
トドゼルガは噛み付かれながら前のめりにフローゼルを押しつぶす。

シャベリヤ 『フローゼル絶体絶命!! どうするレン選手!?』

レン 「! 戻ってフッ君!」

リュウト 「! 戻すか!」

レン君はフローゼルをボールに戻す。
すでに虫の息に近いフローゼルをボールに戻すのもどうかと思うが、それならば利用させてもらう!

レン 「出てきて、パッチン!」

パチリス 「パチパチーッ!」

リュウト 「トドゼルガ、『ふぶき』!」

トドゼルガ 「トドーッ!!」

ビュオオオオッ!!

パチリス 「!? パッチッ!?」

無防備に戦場へと飛び出すパチリス。
フローゼルの交換の代償はパチリスへの強烈な一撃とさせてもらおう。

レン 「踏ん張れパッチン! 『10まんボルト』!」

パチリス 「パッチッチーッ!」

トドゼルガ 「!! ゼガーッ!!」

シャベリヤ 『パチリスの『10まんボルト』に苦しむトドゼルガ! しかし、耐える! タフネスさを武器にするトドゼルガまだ倒れないぞ!』

リュウト 「火力不足だな! トドゼルガ、『れいとうビーム』!」

トドゼルガ 「トドー!」

キィィン!

レン 「パッチンかわして! そのまま接近だ!」

パチリス 「パッチーン!」

パチリスはトドゼルガから放たれる『れいとうビーム』を小さな体を活かして回避し、すばやく地面を走り抜けてくる。

レン 「パッチン! 『いかりのまえば』!」

パチリス 「パッチー!!」

トドゼルガ 「!? ゼガーッ!!」

トドゼルガの背中に飛び乗り、その前歯で噛み付くパチリス。
だが、『いかりのまえば』は相手の体力を半減させる技、今のトドゼルガには大して意味などないぞ!

リュウト 「そんな攻撃で!! トドゼルガ振りほどいて、『ふぶき』!」

レン 「外側は強くたってぇぇ!! 『ほうでん』!!」

パチリス 「チーーーー!!」

バチバチバチバチバチィ!!

トドゼルガ 「!!?」

シャベリヤ 『ああっ! パチリス噛み付いたまま『ほうでん』! パチリスの体から電気が直接トドゼルガに流れた!!』

トドゼルガ 「! ゼ、ゼガァ…!」

ズッシィィィン!!

審判 「トドゼルガ、戦闘不能!」

シャベリヤ 『決まったー! 分厚い肉の壁の内側から流した強力な電気、たまらずダウンです!』

リュウト 「! 戻れ、トドゼルガ!」

やられたな…『いかりのまえば』が伏線だったとは。
パチリスとトドゼルガでは体格差がありすぎるから、それを活かしてトドゼルガの死角で戦うだけかと思ったらこんな攻撃を仕掛けてくるとは。

リュウト (間違いない、今目の前にいる対戦相手は、2回戦の時とは違う…)

俺はトドゼルガに労いの言葉をかけてボールに戻すと、次のポケモンを出す準備をする。

リュウト (レン君、強いな…今まで戦った相手で一番強いかもしれない…そして、誰よりも強くなれるかもしれない)
リュウト (だが、勝つのは俺だ! レン君にも、ユウキ君にも、イヴさんにも、チャンピオンだって倒してやる!)
リュウト 「俺は負けん! 行け、キュウコン!」

キュウコン 「コーン!」

シャベリヤ 『さぁ、リュウト選手の3匹目のポケモンはキュウコン!』
シャベリヤ 『互いポケモンを1匹ずつ失い、傷ついたフローゼルとカイリューを持つ、現状…まさに一進一退!』
シャベリヤ 『この均衡を崩すのはどちらか!?』

リュウト 「ちんたらやるつもりはない! キュウコン、『ねっぷう』!」

キュウコン 「キュウウ…!」

キュウコンの体から大量の熱が放射され、それが高温度の風となりパチリスに襲い掛かる。
出会い頭くらいのある程度離れた距離でこそ一番力は発揮する。

レン 「パッチン、身を丸めて! そして『ほうでん』!」

パチリス 「パ、パチチッ!」

バチチチチィン!!

パチリスは大きな尻尾腹の方に股の下からだして、しがみ付き、丸くなりキュウコンの『ねっぷう』を耐え凌ぐ。
それと同時に『ほうでん』を放ち、こちらに対抗してくる。

リュウト (く…!? ただではやられてくれんな…さすがに!)
リュウト (だが、俺のキュウコンは少し普通とは違うぞ!?)
リュウト 「キュウコン、『さいみんじゅつ』!」

キュウコン 「コーン…!」

キュウコンの目が怪しく光る。
赤い珠玉のごとき目は、パチリスの瞳に入った瞬間、それはまどろみへと誘う。

パチリス 「パッチッチ〜……?」

キュウコンの攻撃が止み、静まったと同時、パチリスの本能が目を開いてしまった。
パチリスが本能で見てしまったキュウコンの瞳、その瞳を覗いた瞬間、パチリスの意識は一気に引き込まれる。

パチリス 「ZZZ…ZZZ……」

シャベリヤ 『ああっと!? パチリス、眠ってしまったぁ!!』

レン 「ぱ、パッチン起きて!!」

リュウト 「無駄だ、キュウコンの誘いは深い、パチリスは呼びかけようと起きはしない」

本来野生のキュウコンやロコンは『さいみんじゅつ』は覚えない。
だが、俺のキュウコンはそれを持つ、故に対処の乏しい物はこれに引っかかる。

リュウト 「キュウコン、『だいもんじ』だ!」

キュウコン 「キュウ…コーン!!」

キュウコンの口に炎が溜められる。
通常戦闘で使うように即時の溜めではなく、確実に相手を仕留めるための溜め。
深く、長く、強く溜められた炎は『だいもんじ』となりて、パチリスを襲う。
弾道は問題ない、遮蔽物もない!

ドッゴォォォォォォォォッ!!

文字通り『大』の字を描いて、パチリスを焼き焦がす。
通常より溜めが長い分、威力は通常より高い…耐えられるわけが無い!

パチリス 「パ…パッチィ〜……」

審判 「! パチリス、戦闘不能!」

レン 「も、戻ってパッチン!」

レン君のパチリスは『キュウ〜…』と大の字に前のめりで倒れ、審判からダウン宣告が出される。

シャベリヤ 『決まったー!! パチリス痛恨のダウン! これでレン選手少し不利になったぞ!?』

不利?
そんなわけないだろう、レン君が相手ではたとえ6対1でも有利とは思えん。
だからこそ油断せず、容赦もせず、確実に……攻め込む!

レン 「えーと、キュウコンは炎タイプだからぁ…水タイプに弱くてぇ…ああーっもう! 出てきてムッ君!」

レン君は頭の中でタイプ相性を計算していたようだが、途中で何が起こったのか癇癪を起こしてしまい、結局相性上可も無く不可も無くなムクホークをセレクトしてきた。
一体、レン君の頭の中で何があったんだ?

レン 「ムッ君、『ブレイブバード』!」

ムクホーク 「ムクホー!」

リュウト 「いきなりかっ!? キュウコン、止めようなんて思うな! 確実避けて『あやしいひかり』!」

レン君のムクホークのコレは大会中、幾度も使われたが半端じゃない威力だ。
真っ向から止めにかかったやつはことごとく、弾き飛ばされダウンしている。
使った当人もダメージがあるようだが、受けようなんてさらさら思わん。
相殺もせん、分が悪いからな!

ムクホーク 「ムクホー!」

キュウコン 「コンッ!」

ビュオゥッ!!

キュウコンは身を屈め、当たる直前に身を翻(ひるがえ)し、『ブレイブバード』を避けきる。
そして体勢はやや整わないものの、ムクホークに『あやしいひかり』を放った。

レン 「ムッ君まだ! 当たるまでいけぇぇぇっ!!」

リュウト 「!? 嘘だろっ!?」

キュウコンが技を出すよりも早く、ムクホークは反転し、キュウコンへと襲い掛かる。
当然だ、向こうは技を継続している…やられる!?

ドッカァァァァァァ!!!

キュウコン 「コーンッ!?」

キュウコンの体が、いとも軽がると宙を浮く。
迂闊だった…今のレン君の精神状況から選択を見誤るなんて…。
今のレン君は例えるなら、闘技場へと出て、マタドールに挑発される闘牛。
確実に、よりすばやく仕留めにかかるに決まっている…そこを見誤るとは…不覚!

審判 「キュウコン、戦闘不能!」

シャベリヤ 『なんとー!? キュウコン、ここであっさり幕引き! まさかの『ブレイブバード』2連続で即刻ダウンだー!!』
シャベリヤ 『レン選手の脅威の猛攻、リュウト選手どうやって止める!?』

リュウト (どうやって止めるか…どうやって止めるかな…さて?)

解説さんの言い方じゃ、さも簡単そうに聞こえてしまうのは俺だけかな?
正直、進退窮まった…なんて生易しい状況じゃない。
俺が試合前に注目していたのはレンを2トップで支えるエースポケモンの2匹。
『フローゼル』と『ムクホーク』だ。
フローゼルはなんとか追い込んだ。
だが、このムクホーク、どうやったら止まるんだ?

シャベリヤ 『さぁ…フィールドは異様な静けさを持ちます、戦慄の強さでリュウト選手に迫り来るレン選手、リュウト選手の心境はいかほどの物か?』

リュウト 「一か八かだが…お前に賭けるぞ! バンギラス!」

バンギラス 「バーン!!」

ビュオオオオオオッ!!

シャベリヤ 『草原に吹雪く、砂嵐! フィールドは快晴から一転して、砂嵐だ!!』

俺はバンギラスを繰り出す。
岩と悪を併せ持つバンギラス、飛行とノーマルタイプのムクホークには一見有利そうだが、その実はそうでもない。

レン 「ムッ君、『インファイト』!」

こいつだ!
これがあるせいで、バンギラスとムクホークの相性は逆転する!
バンギラスは格闘タイプの技にはすこぶる弱い!

リュウト 「バンギラス、『いわなだれ』! そいつを潰せば大殊勲だぞ!!」

バンギラス 「バーン!!」

砂嵐でフィールドの視界は悪い。
だが、バンギラスにとってはまるで清められた水の中にいるようなものだろう。
ムクホークが何も考えていないのか一直線にバンギラスへと向かう。
スピードは速いが、砂嵐が邪魔で動きはバンギラスと互角のようだった。

ドッカァァァ!!!

まずはムクホークの『インファイト』がバンギラスを捕らえる。
バンギラスの体が大きく後ろに仰け反った。

リュウト (ムクホークの攻撃が先に入った! これなら…!?)

バンギラス 「バ…ン…!!」

ガララララッ!!

直後、ムクホークの真上からバンギラスの『いわなだれ』が襲い掛かる。

シャベリヤ 『両者の強烈な攻撃がクリーンヒットォォ!! 効果は抜群なだけに大丈夫か!?』

バンギラス 「バーン……」

ズッシィィィン!!

シャベリヤ 『まず最初に倒れたのはバンギラスだ! 巨体が砂を巻き上げる! ムクホークはどうなんだ!?』

ムクホーク 「………」

審判 「両ポケモン、戦闘不能!!」

シャベリヤ 『だめだぁ! ムクホークもダウン! 強烈な攻撃が交差した瞬間、後にあるのは破滅だけなのか!?』
シャベリヤ 『とりあえず、ここで合計6匹が倒れたぞ、10分の休憩だ!』

『インファイト』…一見強力無比な技に思えるが、その実穴はある。
この技は使用後、使用者当人の防御力と特殊防御力が下がるといわれる。
事実、これほど捨て身で技を放てば、それもわかるという気もする。
バンギラスは倒れたが、結果として防御力が下がったムクホークも『いわなだれ』が耐えられなかったわけだ。
相打ちだが…よくやったバンギラス。



…………。



ヨー 「ふぅ…とにもかくにもこれで後半戦かぁ」

アンナ 「どっちが勝つんでしょうか?」

ヨー 「さぁなぁ? そっちのふたり、どう思う?」

ヨーはそう言って俺(ユウキ)とイヴさんの方を向く。

ユウキ 「レンは今、良くも悪くも精神的にバトル向きになっている」
ユウキ 「生来優しい性格のレンだ、バトルはそう得意な方じゃない。だが最初のマスキッパがあっさりやられたことで気が動転して、コンバットハイになっちまった」
ユウキ 「お陰で、レンとは思えない鬼の猛攻で攻め立てて、気持ち的にはレンの方が有利だった」
ユウキ 「…だが、休憩入っちまったからな…これで元のレンに戻っているようじゃ、レンの勝ちは薄いだろうな」

イヴ 「だが、並みのレベルではレン君には立ち向かえない」
イヴ 「リュウト君のレベルアップも褒めるべきだな…ここまで苦しい戦いを全て糧として彼は上りあがってきた」
イヴ 「これは強敵になりそうだが…どっちが勝つか…休憩後の両者の顔次第だな」

ヨー 「…だそうだね。まぁたしかにリュウトさん、強くなったよなぁ〜…俺ぁどうなんだろう?」

ユウキ 「お前は伸びちゃいるが、ポケモンに振り回されているようじゃまだまだだな。まぁ、精進するこった」

ヨー 「てはは…厳しいお言葉ありがとう」



…………。



シャベリヤ 『さぁ、10分という短くも長いという、人それぞれの感じ方の休憩時間もいよいよ終了』
シャベリヤ 『この草原のバトルフィールドにおいて、勝利を収めるのはリュウト選手か!? レン選手か!?』
シャベリヤ 『現在の状況は互い3対3! しかも互い大ダメージを受けたポケモンを1匹所持のまさに、一進一退の状況!』
シャベリヤ 『休憩前は同時ダウンだったんで、同時に出して後半戦スタートだ!』

審判 「両者、ポケモンを前へ!」

リュウト 「でてこい、ボーマンダ!」
レン 「でてきて、スカたん!」

ボーマンダ 「ボーマッ!」

スカタンク 「スッカー!」

リュウト (スカタンク…確か悪と毒を併せ持つタイプだったな)

レン君が出したのはスカタンク、名の通りスカンクに似たポケモンだ。
どうせ、レン君のポケモンだ、一癖も二癖もあることだろうな。
こっちはボーマンダ、多少の危険はあるが俺はあえて、タイプの被るカイリューと一緒に出した。
危険性は高いが、この賭け…まんざらはずれでもないだろう!

ボーマンダ 「ボーマッ!」

スカタンク 「ス…スカ…」

ボーマンダの威嚇でスカタンクはたじろく。
こうやってボーマンダの特性は『いかく』、こうやって相手の戦意を削ぎ、攻撃の意思を削る。

レン 「うう〜…怖いな〜…で、でも負けないぞ〜っ!」

リュウト (! 戻っている…どうやら休憩の10分はレン君正常に戻したようだな…とはいえ、またいつ豹変するかわからん…注意せんとな)

レン君の表情はすでに、さっき戦っていた時のそれとは違っていた。
ノホホンとした生来通りのものに戻っている。
これなら、さっきのような無茶はなくなるだろうが、同時に慎重になって素直に倒れてはくれんかもしれんな。
とはいえ、あのままのレン君と戦うよりはずっとマシだろう。

リュウト 「よし、ボーマンダ、機先を取るぞ! 『かえんほうしゃ』!」

ボーマンダ 「ボーッ!!」

ボーマンダは口から『かえんほうしゃ』を放つ。

レン 「わわっ!? 口から炎吹いた!? スカたん、こっちも『かえんほうしゃ』!」

スカタンク 「スッカーッ!!」

スカタンクも負けじと『かえんほうしゃ』を放ってくる。
さすがに肛門からではなく口からだ。
両者の技がフィールド中央で激突、とはいえ個体ではないのでぶつかるというよりは混ざり合うという方が正しい。
ただし、中央で混ざり合った結果、急激に中央の温度は高まり、爆発する…!

ドカァァァァン!!

大爆発を起こし、フィールドを爆煙で包み込む。
同じ技を使われるとは思わなかったが、この展開好都合だ!

リュウト 「ボーマンダ! 『ドラゴンクロー』!」

ボーマンダ 「ボーマッ!」

ボーマンダは煙の上から回り込み、スカタンクへと接近する。

レン 「わわっ!? こんな煙の中から!? き、気をつけてスカたん!」

スカタンク 「ス、スカッ! スカッ!?」

ボーマンダ 「マーッ!!」

ザッシュウウッ!!

ボーマンダは風を切り裂き、スカタンクの側面から襲い掛かる。
スカタンクは『ドラゴンクロー』の直撃を受け、大きく体を滑らせた。

レン 「ス、スカたん! 『ヘドロばくだん』!」

スカタンク 「ス…スカーッ!!」

スカタンクは口から泥の塊のような物を放ってくる。
着弾すれば爆発するなぞの『ヘドロばくだん』だ。

リュウト 「ボーマンダ、『はがねのつばさ』で切り裂け!」

ボーマンダ 「ボーマッ!」

ボーマンダは翼を鋼質化し、尻尾を下、頭を上といった天に向かって縦になった形のまま、襲い来る『ヘドロばくだん』をそのまま回転して、全て打ち落とす。

ドカァン! ドカァァン!!

シャベリヤ 『おおっ!! ボーマンダ、鮮やかに『ヘドロばくだん』を打ち落とした、だが、大丈夫なのか!?』

『ヘドロばくだん』は稀に毒状態になる追加効果がある。
防いでいるようだが、これは直接体で弾いているわけだから接触しているわけだ。
だが、そこでこの『はがねのつばさ』の意味が出る。
翼の部分だけ鋼タイプとなり、毒を弾く。
鋼に毒は効かないゆえ、この防御が取れる。
見た目は派手だが、その実ちゃんと理にはかなっているわけだ。
そして、このやり方の効果はもうひとつ!

レン 「!? そんな…!?」

リュウト 「今だ、『じしん』!」

ボーマンダ 「ボーマーッ!!」

ズドォン!!

レン君の心理的ダメージ、それと同時にボーマンダは地面を4つの強靭な足でしっかり踏み抜き、地震を起こす。
強烈な縦揺れはスカタンクに大きなダメージを与える。

スカタンク 「ス…スカァ〜…」

審判 「スカタンク、戦闘不能!」

レン 「うう…戻って、スカた〜ん…」

レン君はしょんぼりとスカタンクをボールに戻す。
脆い物だな…元に戻ったレン君が急に脆く感じた。
今は恐怖を感じない、安心も無いが負けるような気はしなかった。

レン 「でてきて、ドーたん!」

ドータクン 「ドータクン!」

シャベリヤ 『さぁ、ついにレン選手、最後のポケモンが出た! 残るポケモンはドータクンとフローゼル! どうする!?』

リュウト (ドータクン、鋼とエスパーを併せ持つポケモン…弱点はなんと炎と地面のみ)
リュウト (しかも、特性により、そのどちらかの弱点は消える…たしかレン君のドータクンは『たいねつ』…ということは地面技か)

たしか、資料室掲載のレン君のドータクンは『たいねつ』だったはず。
間違っていたら悲惨な目にあいそうだが…やるしかないだろう!

リュウト 「ボーマンダ、もう一発『じしん』!」

ボーマンダ 「ボーマ!」

レン 「わわっ!? でもでもー! こっちだって! ドータクン、『さいみんじゅつ』!」

ボーマンダ 「ボーマッ!!」

ボーマンダの強烈な『じしん』がドータクンを襲う。
大ダメージにさえなまれるがドータクンはさすがに落ちない。
そして、ドータクンの腹部(?)にある目(??)が赤く光ると、ボーマンダは突然ねむってしまった。

リュウト (!? やばい…どうする!?)

ドータクンに大ダメージは与えられたがこっちはねむってしまった。
こうなると…さすがにまずいか!?

リュウト 「ここは…! 戻れボーマン…!」

レン 「だーめだよ! ドータクン、『とおせんぼう』!」

ドータクン 「ドータン!」

ドータクンの影が突然、モンスターボールから出る素粒子不定変格赤暗粒子体を遮り、ボーマンダをボールに戻すことが出来ない。
ちぃ…そんな技も使えるのか!?

レン 「さぁ、一気に行くよー! 『ジャイロボール』!!」

ドータクン 「ドーター!!」

ギュウウウウンッ!!!

ドータクンは体を高速回転させて、ボーマンダに体当たりする。
すばやさの差が激しいほど威力が上がるというこの技、ボーマンダには大ダメージか!?

ズッササァァァァァァァッ!!

ボーマンダは眠っているため、避けることもできず、そのまま直撃を受けた。
よほどドータクンとはスピード差があるのか、ボーマンダはフィールドの端まで吹っ飛ばされた。
イマイチねむっているので、戦えないのかどうかがわからないが、こういう曖昧なときは大概…。

審判 「ボーマンダ、戦闘不能!」

…ダウン宣告が出される物だ。
眠っている時はだいたい、気持ち分少しダウンされる幅が広がる。
何せ眠っていては戦えないだけに、戦闘不能と宣告されるのが早いのだ。

リュウト 「ち…もどれボーマンダ…こっちも最後のポケモンだ! アブソル!」

イマイチどうなるかはわからないが、俺の最後のポケモンはアブソルだ。
性格的には多分俺に一番に似ているのはこいつで、こいつもまた俺と同じくとにかく運がない。
相性的にはむしろ悪くないはずだし、何とかなると思いたいが。

リュウト 「効かない訳じゃないだろう!? 『つじぎり』!」

アブソル 「アブソーッ!!」

アブソルはドータクンに対し突っ込む。
抜群とはいかないが、等倍だ。

レン 「ごめんなさい、リュウトさん、僕…勝つよ♪」

リュウト 「!? …なにを…!?」

突然、菩薩のような顔をしてレン君は、はっきりと『勝つ』と勝利宣言をしてきた。
『ザッ』と音がした瞬間、俺は自分の足が一歩後ろへと退いたのだと分かった。

レン 「ドータクン、『あまごい』!」

リュウト 「『あまごい』!? 馬鹿な、一体何を!?」

俺にはレン君の行動が理解できなかった。

アブソルはつっこむ。

鋼の体を切り裂き、ドータクンを後一歩まで押し込んだ。

直後、ドータクンより、バスケットボール大の水色の球が天へと打ち上げられた瞬間、天候は大雨の土砂降りとなった。

リュウト (馬鹿な!? この時点で勝利宣告など…うっ!?)

俺はレン君の目を見たとき、勝機を失った気がした。
まるで無垢で…その上で、敗北を意識しない冷静な顔立ち。
まずい…飲まれるな…俺!

レン 「ドータクン、ごめんね、『だいばくはつ』」

リュウト 「ドータ…クン…?」

ドータクン 「ドーター!!」

ドガァァァァァン!!!

ドータクンの『だいばくはつ』は大雨の中、まるでダイナマイトでも放り込まれたかのようにして、地面を抉り、爆発した。
だが、俺はそれよりも、レン君の言った、たった一言が離れなかった。
どーたくん…ドータクン…だと?
いつからだ…いつからドーたんからドータクンに変わった!?





ユウキ 「扉を…完全に開けたな」




審判 「両ポケモン、戦闘不能! 両者最後のポケモンを!」

シャベリヤ 『ドータクンの強烈な『だいばくはつ』! フィールドの地形さえも変えてしまう一撃で、両者はおのずと最後の一匹の直接対決となった!』
シャベリヤ 『すでに皆さんお分かりと思うが、両者に残っているのは後一撃で倒れんばかりの手負いの2匹! この勝負間違いなく、次のコールで決まる!』

レン 「でてきて、フッ君♪」

リュウト 「でて…こい、カイリュー…」

互い、傷つきボロボロのポケモンをだす。
レンのニコヤカな顔は、いも言われぬ恐怖を感じさせた。
飲まれるな…飲まれるな…飲まれるな!!

リュウト 「うおおおおおっ! カイリュー! 『ドラゴンクロー』ッ!!!!」

カイリュー 「リュ…リューッ!!」

レン 「フローゼル、『こおりのキバ』」

フローゼル 「フ…フローッ!」

フローゼルは大雨の中、特性の『すいすい』で高速化し、カイリューの攻撃を一蹴、そのままカイリューに…噛み付いた。

キィィン!! ガシャァァン!!

カイリューが地面へと落ちる。
ガシャンと氷が割れ、カイリューは倒れていた。

審判 「カイリュー戦闘不能! よって勝者レン選手!」

シャベリヤ 『決まったー!! 接戦を制し、勝利したのはレン選手! Aブロック決勝進出だーっ!!』

レン 「フッ君、頑張ったね♪ 戻って」

リュウト 「負けた…負けた…のか…?」

分かるはずだ…分かるはずなのに。
目の前に傷ついたポケモンを抱いて、満面の笑みを浮かべる12歳の少年。
まるで女の子を思わせる小さな体、細い手足、そして綺麗な顔。
そんな顔に…そんな子の目に…俺は恐怖したのか…。

リュウト 「う…うおおおおおおおおおおおっ!!!」

俺は吼えた。
悲しくて、空しくて、悔しくて。
俺はただ、吼えた。




ポケットモンスター第88話 『冷たい決戦』 完






今回のレポート


移動


サイユウシティ


3月6日(ポケモンリーグ本戦4日目)


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

チルタリス

ユレイドル

ボスゴドラ

コータス


見つけたポケモン 66匹






おまけ



その88 「お休みです」





ええ、今回は都合上お休みです。
短そうですが、オマケをやるには余裕が無さ過ぎるわけですね、はい。
それでは89話で。



おまけその88 「お休みです」 完


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