ポケットモンスター サファイア編




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第99話 『VSゲンジ 恐怖』






『3月10日 時刻05:10 サイユウシティ 海岸』


ユウキ 「……ふあ……あ! 眠い……朝の5時ってこんなに眠かったっけな?」

ここ最近6〜7時起きが続いたせいか、いつもの時間に戻して起きてみると予想以上に眠い。
とはいえ、今日は起きざるを得なかった。
どうやら、どうしても俺に会いたい人がいるみたいだしね。
最も……人かどうか怪しいが。

ザッ……。

ユウキ 「あっと……お出ましだ。こんにちわ」

俺は後ろに現れた気配にゆっくりと振り返り、挨拶を交わした。
その後、相手の顔を見る。

ビショップ 「……」

ユウキ 「えっと……たしか、ビショップって名前だったよな?」
ユウキ 「俺に一発かましてくれた礼は……まだしてなかったよな?」

ビショップ 「お前が俺を消すか? ならばそれもこの際よかろう……」

ユウキ 「かったる……そんな面倒そうなこと御免だね」

俺の目の前に現れたのは、随分と前に一度会った奴だった。
銀色の肌に紅い瞳、ザンジークを表す配色。
いきなり訳も分からず襲ってきて、訳も分からず納得していった変な奴だったな。

ユウキ 「今回は何のようで? 一応俺を監視していたんだろ……今まで」

ビショップ 「ふ……ばれていたか」

ユウキ 「……なんで姿を現した? その必要があるから?」

ビショップ 「……お前がザンジークでありつつ、キメナの性質を持っていることは分かっていた」
ビショップ 「だが、それに疑問を抱いたことはなかった……お前の体に転生したザンジークレアがその影響を与えたと推測したからだ」
ビショップ 「だが、お前を見ていると……我々ザンジークにとってあまりに予想外の結果を出して見せた」

ユウキ 「……」

俺はビショップの心を覗く。
といっても本当に心を覗く訳ではない。
俺は、その人の表情や精神状態からそれを読み取るだけだ。
たとえ種族が違えど、知恵があり、心理があるなら後は主観さえ分かれば心を読むことは不可能じゃない。
人間において行動を決めるのは主観だ、そしてそれを元に行動を決める意志が発生する。

ユウキ 「ザンジークに疑問でも抱いたのか?」

ビショップ 「……心理を読むのが巧いな……いつか恨まれるぞ」

ユウキ 「人外に言われるとは思わなんだ……あ、いや、失敬」
ユウキ 「……で、何を悩んでいるわけ?」

ビショップ 「……ザンジークとキメナが同一存在であるということはわかった……だが、何故だ?」

ユウキ 「?」

ビショップ 「何故ッ! 何故同じ存在が争う立場で存在する!? これまでの戦いは一体なんだったんだ!?」

ユウキ 「……なんのこと言っているのか、良く分からんが……ふむ」
ユウキ 「200年前の人はダイアモンドと黒炭が同じ物質と思っていただろうか?」

ビショップ 「は?」

ユウキ 「現代の常識ある人間は鉄が金になると思うだろうか?」
ユウキ 「お前が悩んでいることは、それ位どうでもいいこと」
ユウキ 「……でも、それは当時の人間にはありえない事実であり、同時にありえない空想」
ユウキ 「お前たちは知らなかっただけだろ? 知ってしまえばなんてことはないはずだ」

ビショップ 「! だがっ! 俺はキメナと! エメルと戦い続けた! 本能が叫ぶままに!」

ユウキ 「人は人と争うよ、命だって奪う……それも特に生きていくうえでなんの影響も及ばないままに」
ユウキ 「だけど、知恵があるから戦う、ザンジークもキメナも同じ知的存在……ならば戦うことも不思議じゃない……同時に融和することもね」

ビショップ 「……俺にエメルと手を取れと……」

ユウキ 「エメルっていうと……たしかシャドウのことだったな……まぁ、馴染まないのは仕方が無い」
ユウキ 「無理に融和しろとは言わないが、今の状況に順応することはできるだろう?」

ビショップ 「……」

ユウキ 「……はぁ、お前シャドウのザンジーク版だな……そっくりな反応しやがって」

シャドウは納得がいかない事柄を納得させられるとすっごく不満そうな顔をする。
それと瓜二つな顔をビショップにされた。
シャドウの奴、コイツのことすっげぇ嫌っていたけど、こいつも凄い嫌っているみたい……案外瓜二つなのになぁ。

ビショップ 「……ッ!」

ユウキ (そして更に不満顔)

面白いくらいにシャドウそっくりの顔だ。

ユウキ 「ビショップさんよ、アンタ一体どうしたいんだい?」

ビショップ 「! それがわからんからお前に答えを貰いにきた!」

ユウキ 「ああもう! 子供じゃねえんだぞっ! お前はザンジーク! シャド……じゃなくてエメルはキメナ! 生んだ人は同じ! それだけだ!」
ユウキ 「だったらシャドウと喧嘩でもなんでも納得するまですればいいだろっ!?」

予想以上の蛆虫っぷりにちょっとキレる俺。
ザンジークってやつぁ予想以上に世間知らずだし、自分で考えたがらねぇ。

ユウキ 「後のことは……少し自分で考えな」
ユウキ 「はぁ……俺はポケモンリーグで忙しいからな……もう帰る」

ビショップ 「……」

ユウキ (ポケモンリーグ……か、無事終われば万々歳だけどなぁ)

俺はビショップに背を向けてホテルへと帰る。
願わくばポケモンリーグ、何も無ければいいと思う。
だが、現実としてそれは難しいかもしれない。
そろそろペルを匿うのも限界かもしれない。
実力行使……でやるっていうのは簡単で良いが、そう現実は問屋が卸さんしな。




ペル 「……」

ペラップ 「ペル〜……どうしたの?」

ペル 「……『アイツ』の言葉が、頭をめぐる……」

ペラップ 「は? あいつ?」

昨日屋上であった、あの『物体』の言葉がずっと頭に響いた。
愛と犠牲……必要不必要。
何を言っているのかが分からなかった……だけど、ずっと頭の中に響く。

ペラップ 「ねぇ? あいつって?」

ペル 「……」

ペラップ 「ねぇ〜っ!」



…………。



『同日 時刻10:40 ポケモンリーグ 本戦会場』


シャベリヤ 『さぁ、長いようで短かったっポケモンリーグチャンピオンズカーニバルもついに後半戦を迎えています』
シャベリヤ 『今のところ負けなしはユウキ選手、ダイゴ選手、イヴ選手の三名……しかし、今日その負けなしである現チャンピオンのダイゴ選手と、Bブロック覇者のイヴ選手が激突!』
シャベリヤ 『まさに今日がターニングポイント! それではまずは本日一戦目をお送りしましょう!!』

ワァァァァァァァァ!!

今日も今日とて会場はデットヒートを繰り返す。
ポケモンリーグに訪れるお祭り好きな奴らの熱狂が控え室まで響き俺の心臓を軽く揺さぶった。

RMU役員 「ユウキ選手、フィールドに上がってください」

ユウキ 「あいよ」

俺はゆっくりと立ち上がる。
今日の結果次第で優勝争いに変化が起きる。
今日の相手は現役四天王最古参……古狸ってのはこちらがどれだけ頑張っても得られない『経験』っていうステータスを持ってやがる。
俺の少ない経験値は今回役に立たないだろうな……て言っても。

ユウキ (四天王戦もジム戦も俺が経験上不利ってのは変わらなかったがな……)

いつも通りやろうか……とりあえず今日のファイティングプランを組み上げて、俺はバトルフィールドへと向かった。



シャベリヤ 『さぁ! それではまず入場するのはユウキ選手! 現状ポケモンチャンピオンに最も近い位置にいる精鋭トレーナー! もはや説明不要! その強さは伝説級か!?』
シャベリヤ 『現在3戦全勝、言視触聴の幻遊人ユウキ選手だ!!』

ワァァァァァァッ!!

再び大歓声、日に日に声援が増えている気がする。
あ〜あ、やだねやだね……有名になりすぎると動きにくくなるからやだねぇ。
て……ポケモンリーグに出ているんだし、そうなるのも仕方が無いか。

ユウキ (俺はただ、パパを目指すようにただポケモンと触れ合い、勝ったり負けたりを繰り返すだけで良かったのになぁ……)

口から言ったでまかせのリーグ挑戦は、今こういう結果を持っちまったか。
口は災いの元とはよく言ったもんだよなぁ。

シャベリヤ 『さぁ、対するは四天王最後の砦! 竜の支配者! 竜人ゲンジ!』
シャベリヤ 『大会成績は1勝2敗と負け越しているが、今回はなんと最年少VS最年長! ここは経験を活かして若いトレーナーの勢いを止められるかーーっ!?』

俺が自分のバトルフィールドに立つと、向かい側に今回対戦する相手、四天王のゲンジが立ちふさがった。
まるで船の船長のような格好をしており、ヒゲが目立つ老人、しかしその出で立ち、その眼光はまさに四天王という風格を漂わせた。

シャベリヤ 『さぁ、そして今回この二人が争う舞台はこれだっ!!』

フィールドのシェルターが開くと、そこから今回のバトルフィールドがせり上がってくる。
今回のバトルフィールド、一言で言えば……峡谷だった。
フィールドの両端に10メートル近くの巨大な壁がそびえ立ち、ちょうどトレーナー同士の視線が合うところに一本道がある。
峡谷の下には霧が立ち込め、あけすけたのは上空だけ。

ユウキ (ち……これは俺の方が不利だな)

このフィールドは飛行タイプの方が有利だ、その点で考えると空を飛ぶ飛行タイプを多数有するゲンジさんに分が上がる。

ユウキ (だが、それはそれだけタイプの偏りもある……セオリー通りってのが少し気になるがやるっきゃないか)

審判 「ルールは使用ポケモン6匹! ポケモンの交代は両者自由!」
審判 「ただし道具の使用所持は原則として禁止、ポケモン図鑑は閲覧のみ許可します!」
審判 「なお、チャンピオンカーニバルにおいては休憩はございません!」
審判 「それでは両者不正のないよう、ポケモンをフィールドへ!」

ユウキ 「出ろ、グラエナ」

ゲンジ 「出よ! コモルー!!」

俺が足元にボールと落としてすぐ側にポケモンを出すのに対して、ゲンジさんはボールをダイナミックに投げて、フィールド中央にポケモンを出してくる。
今回もグラエナには悪いが、こちらは牽制しつつ、相手の手札を探る偵察役に徹してもらうつもりだった。
ところが、向こうは空を飛べるドラゴンで一気にせめて来るかとおもったら、いきなり向こうも様子見のコモルーだった。

ユウキ (意外と慎重なのかね……それとも、絶対の自信か?)

風潮で言えば俺は全勝しているわけだから、ゲンジさんとは勢いが違う。
開幕で手を抜いたら、そのままその傷口からダムが決壊するように一気に押し込まれる可能性さえあるというのに、それを正確に読んだということか?

ユウキ (ゲンジ……この人だけは俺も良く分からない)

四天王たちには必ず何かしらの異名がついている。
そしてその異名は、その人物の特性を現してきた。

地象繰騎のカゲツは天候を自由自在に操る、ホウエン四天王の切り込み隊長。
魂天方陣のフヨウはゴーストタイプとの繋がりが非常に強く、堅実な四天王。
氷炎のプリムは、その性質の絶対的矛盾を覆す、恐るべき四天王だった。
だがゲンジは……ドラゴン使い……竜人とか、全くその異名から戦闘スタイルがわからん。

ドラゴン使いというのはこれまでの戦いも見ればわかるが、他の四天王みたいに明確な特徴が見えてこないんだよな。
実際に手を合わせて知りたいところだが……今回は下手すれば負けるかもしれないな……。

シャベリヤ 『さぁ、これで両者ポケモンをフィールドに出した! 出した場所の違いは両者の性格の現れでしょうか!?』

ユウキ (俺もそうだと思いたい)

今は一刻も早く勝ちのリズムを作ることが先決だ。
知らないことが一番怖い、向こうは当然俺のことはほとんど把握しているだろうしな。

ゲンジ 「そんな遠くにポケモンを出すとは……このワシ相手には自信がないということかな?」

ユウキ 「ノーコメント」

審判からの開始のコールはまだ出てきていない。
静かに時がゆっくりと過ぎるのを感じる。
峡谷の下は左右が断崖に阻まれて身動きがとれない上に、こうまで霧が深いと簡単に手は出せないな。

審判 「……はじめ!」

審判の合図、それと同時に動き出したのはゲンジさんだった。

ゲンジ 「コモルー! 『りゅうのいぶき』!」

ユウキ 「グラエナ! ジャンプして『かぎわける』!」

俺が命令すると同時に今度は俺が、その場を飛び退き退避する。
すると案の定、俺がいた場所をコモルーの『りゅうのいぶき』が突き抜ける。
霧が深くて正確にコモルーを把握できなかったからほとんど勘で避けたが、グラエナはどうだ?

シャベリヤ 『グラエナ、上手くかわしたぞ! しかし隙だらけだ!』

ユウキ 「隙だらけと……グラエナ、警戒しろ!」

俺は命令すると同時に再びトレーナーサイド中央に戻り、視覚的に状況を把握する。
すると、足元にグラエナが構えてはいるが、その奥にコモルーの姿が確認できなかった。

ユウキ 「おい、グラエナ、コモルーは!?」

俺は慌てて、事の真相を見たはずのグラエナに聞いた。
するとグラエナは左の絶壁を前足で叩きワンワン吠える。

ユウキ 「壁? ああ! 訳分からないぞ!」

壁伝いを見てみるが、それらしい影はない。
いくら霧が深いとは言え、コモルーが隠れるには無茶があるはずなんだが。

ゲンジ 「いけコモルー!」

ゲンジさんの命令がフィールドに響く。
次の瞬間、壁の中からコモルーが突然出現する。

ユウキ 「……ちっ! よけろ!」

それはコモルーの『あなをほる』だった。
まさか横の絶壁に穴をあけて、通常の概念を覆して『あなをほる』で攻撃してくるとは思わなかった。

ここらへんはやっぱり経験の違いだろうな。
やっぱり一番警戒していたトレーナー歴の差が突かれる結果になるか!

ゲンジ 「抑えろコモルー! 動かれると厄介だ!」

グラエナ 「ガウウウッ!」

事前に『かぎわける』で相手の状況を匂いで把握していたためか、グラエナは壁から襲いかかってきたコモルーの一撃を回避するとそのまま前足でコモルーの頭を押さえ込む。

ゲンジ 「むっ! ならば『りゅうのいぶき』!」

コモルー 「コモーーッ!」

馬力はコモルーの方が上なのか、前足で押さえ込むグラエナをいとも簡単にはじき飛ばすとそのまま、空中のグラエナにめがけて『りゅうのいぶき』を放ってくる。
グラエナは身の危険を察知するが、空中では動きようが無い、だが間一髪のところで垂直に切り立つ崖をの壁を蹴って敵の攻撃をなんとか回避した。

ユウキ 「グラエナ! 『シャドーボール』っ! いけるか!?」

多少無理な注文ではあるが俺はグラエナを信じて攻撃命令を出す。
空中で思わぬ壁を蹴って態勢を立て直したグラエナはまだ十分とはいえない状況だったがそのまま口にエネルギーを集めて、漆黒の球体『シャドーボール』を生み出し、コモルーに放った。
攻撃した後の硬直を突かれたコモルーは『シャドーボール』が直撃、地面の爆発とともに吹き飛んでくる。

思わぬ爆発に吹き飛ばされたコモルーは予想外にも俺の方に吹き飛んでくる。
回避するにもどんくさい俺としては回避は不可能と判断すること0.2秒。
ただし、前述の通り回避はできないわけだから。

ユウキ 「止める……!」

思わず身構える俺、その判断は0.3秒。
ところが……。

シャベリヤ 『ああーっと! ユウキ君吹き飛ばされたーっ!』

こういう結果になるのは0.6秒ですでに結論が出ていた。
どっちみち回避不可能という結果が出ていた以上ある意味仕方が無いだろう。

ユウキ 「ててて……ほら、コモルー、さっさとバトルフィールドに帰りな」

俺はコモルーの直撃を受け止め、吹き飛んだため猛烈に痛い背中を摩りながら俺はコモルーを舞台に戻るよう促した。

ゲンジ 「むぅいかんな……立ち回りで分が悪いか……ならば戻れコモルーよ!」

コモルーがフィールドに戻ると、先程の一戦からこの後の展開を読んでかコモルーをボールに戻す。
ちょっと予想外だったが、元々先方がコモルーの時点で予想外だったのでこれで正常というところか。

ゲンジ 「いでよ! フライゴン!」

ユウキ 「キツイの一発ぶちかませ! グラエナ『あくのはどう』!」

空高く投げられたゲンジさんのボール、そこから光を放ち現れるのはフライゴンだ。
だが俺たちはその隙を狙い『あくのはどう』を放つ。

ゲンジ 「雄々しく羽ばたけフライゴン! 猛々しく龍の咆哮を上げよっ!!」

フライゴン 「ゴーーーーンッ!!」

ボールから登場して刹那襲う不意打ち攻撃は予想以上に体にダメージを残す。
にも関わらずフライゴンは全くそのダメージを解せず、大空を羽ばたき咆哮を上げた。

ユウキ (ありゃまノーダメージ……なんてことはないだろうが、全然効いてないな)

まぁ、元々雀の涙のグラエナさんの攻撃力じゃ仕方がないってところか。

ゲンジ 「フライゴン! 本当の波動の力を見せてやれ! 『りゅうのはどう』!」

フライゴン 「ゴーン!」

こちらの『あくのはどう』を見てか、ゲンジさんは『りゅうのはどう』を宣言する。
波動は違うがその性質は近いのかグラエナと同様口にエネルギーを貯めて、波動を練る。
よく練って放たれた一撃は大きく、速い。

ユウキ 「よけろグラエナ!」

と命令するが、狭い峡谷の下では自由には動けず回避するのは難しいのはわかっている。
とはいえ状況的に空中にいるフライゴンの方が圧倒的有利だった。

グラエナ 「ガウウッ!?」

『りゅうのはどう』の直撃だけは避けるが地面に着弾し、その爆発の余波に巻き込まれて吹き飛ばされるグラエナ。
威力が違うな、グラエナの『あくのはどう』と比べるのは当然としても、『りゅうのはどう』として見ても威力が高いと思う。
練り方の違いか、少し興味がわいてしまった。

ユウキ 「グラエナ、『あくのはどう』! ただしフライゴンみたいに波動をよく練ってみろ!」

俺はフライゴンのやり方を見て、上手く行けばやれるんじゃないかと思いグラエナに命令する。
グラエナは言われた通り波動を口元に貯めるとすぐに放たず波動を練る。
波動はまるでぐるぐると地球の自転のように周り、そして徐々に空気を巻き込むように大きくなる。

ユウキ 「いけ!」

グラエナ 「ガウゥッ!」

俺の命令と同時に『あくのはどう』がフライゴンに放たれる。
それは疾く、そして力強い一撃だった。

ゲンジ 「まずい! よけろ!」

さっき堂々と受け止めたゲンジさんが声を上げて回避を命令する。
フライゴンも恐怖を感じてかとっさに回避に入るが、わずかによけ切れず羽を掠めてそのまま態勢を崩して地面に落下した。

フライゴン 「ご、ゴン!」

しかし、フライゴンは地面に激突する刹那に態勢を切り返し、地面に降り立つ。
ちぃ……ダメージは薄いな、当たらなければ意味はないか。

ユウキ (しかし……)

ゲンジ 「むぅ……似ているとは言え違う技でこうまでコピーされるとは……」

俺とゲンジさんは案外このグラエナに驚愕する。
ゲンジさんはともかく俺もだ。

ユウキ (そういえばカゲツさんの時も見よう見まねで『のしかかり』習得したよな?)

あの時は、要領が簡単な技だしたまたまかと思ったがこいつぁ……もしかして。

ユウキ (今までこいつの才能には気付かなかったが……こいつ、ラーニングの天才か?)

今まであんなことさせようなんて思わなかったからな、猿真似もひとつの才能か?

ゲンジ 「ち! ならば決して真似出来ないこの技で決めてやろう! フライゴン、『りゅうせいぐん』!」

フライゴン 「ゴーーーン!」

フライゴンが地面に足をつけて首を天に伸ばし咆哮すると、淡くフライゴンの体が琥珀色に輝き始めた。
『りゅうのはどう』の時と同一色だが、それにしては光の量が多すぎる。
大技がくるというのが一瞬でわかった。

ユウキ 「させるなグラエナ! 『のしかかり』!」

冷静に判断するなら確認はしてみたかった。
だが予想以上の悪寒が首筋を辿り、俺は思わず安全策に手を出したのだ。

フライゴン 「ゴオオオオオン!!!」

しかし一瞬遅れて、フライゴンのまっすぐと地面から天へと伸びた体から天へとフライゴンの体から光る琥珀色の何かを球体エネルギーに変えて放ったのだ。
そう、まるで人工衛星を打ち上げるようにだ。

ユウキ 「一体な――ッ!?」

――なぜ、それは天へと打ち上げなければならかったのか?
相手を倒す技ならば、相手に向かって打つのが道理ではないのか?

ザワザワザワ、ザワザワ!

観客がざわめく、悲鳴さえ聞こえる。

シャベリヤ 『ええ、不慮のアクシデントによりここで10分ほど休憩を取りたいと思います』

ユウキ 「……たく、なんつー技だよ」

フライゴンから放たれた『りゅうせいぐん』は人工衛星が放たれたように上空へと打ち上げられると、まるで打ち上げ花火のように空中で炸裂。
そこからは『りゅうせいぐん』とはよく言った物で、無数の流星が尾を引いて地面を強襲した。
ただし、空を舞う美しい流星とは似ても似つかないかもな。
上空で炸裂したエネルギー体の破片は文字通りの『りゅうせいぐん』となり地面に降り注いだのだが、一発一発の威力がまずい。

ユウキ 「バトルフィールドが脆い……というわけじゃねぇんだよな?」

放送のかかった不慮の事故というのはバトルフィールドの崩壊だった。
『りゅうせいぐん』が放たれた刹那、グラエナは身の危険を感じて咄嗟に身を翻した。
『りゅうせいぐん』の直撃は逃れたものの、突然峡谷が『りゅうせいぐん』のダメージに耐えきれず崩落。
現在グラエナは生き埋め状態になっており、審判がグラエナの戦闘不能を宣言したものの、これから救出作業が行われるところだった。

ゲンジ 「むぅ……年甲斐もなくはしゃぎすぎたか?」

フライゴン 「ゴーン……ゴーン……!」

ユウキ 「……」

俺は遠くからゲンジさんとフライゴンを見た。
『りゅうせいぐん』を撃ち終わらせた後のフライゴンは息を荒くしてひどい倦怠感に覆われていた。
この症状『オーバーヒート』の後遺症にそっくりだな。

ユウキ (『はかいこうせん』クラスの威力を凌駕する攻撃力……確定と考えるべきか)

まさにメテオスォームってか。
土地レベルを大量に1にする(しかも大概は自分の領土)アレもこんな感じなのかねぇ?
まぁ、冗談でもなんでもなく今まさにここは土地レベルを下げられただろうがな。

ユウキ (もっとも、俺にとってはその方がありがたいけどね)

作業員 「おし、瓦礫をどかすぞ!」

下にポケモンがいるせいか重機を出せず、ポケモンと人の手を借りて瓦礫を除去されていく。
まずは一番大きな破片がどかされた時。

グラエナ 「ガウゥッ!」

ずっと頭を抑えられていたグラエナがどかされた破片の隙間から顔をだす。
顔を出すと、突然知らない顔の連続にグラエナはキョロキョロとして戸惑っていた。
恐らく何が起こったかもよくわかってないんだろうな。
ふと、俺に気付くと犬のように大声で吠えた。

ユウキ 「グラエナ、お疲れさん」

グラエナ 「?」

ユウキ 「お前の(この試合での)出番は終わったよ」

グラエナ 「ガウッ!?」

いつの間にというようにグラエナが驚く。
俺はグラエナをボールに戻すと試合再開を促す。

作業員 「え? でも、これだけ地面に瓦礫があったら危険だよ?」

ユウキ 「別にこっちは構いませんよ、飛行タイプの多いゲンジさんにとっては大した差ではないでしょう?」

ゲンジ 「……う、ム」

ゲンジさんの口が渋る。
本来なら条件的には空中を広くとれるこの状態の方がゲンジさんにとっては有利。
だが、俺の性格を読んでうんと言い切れなかったのだろう。
どうしてさすがになかなか勘がいいね。
伊達に歳はとってないか。

作業員 「いいのかなぁ……?」

作業員達はそう言ってフィールドを撤収する。
フィールドはそのまま瓦礫の山のまま。
足場は脆くいつ崩れるかもわからないだろう。

シャベリヤ 『どうやら試合が再開される模様です。フィールドはあのままか?』

審判 「……では、試合再開!」

ユウキ 「でてこいチルタリス」

チルタリス 「タリ〜っす」

俺はドラゴンを宙に出す。
大きく優雅に羽ばたきフィールドに出たチルタリスは華麗であろう。

シャベリヤ 『さぁ試合再開! ユウキ選手の二匹目はチルタリス! ドラゴンマスターともいうべき四天王ゲンジに挑むにはいささか無謀かっ!?』

ゲンジ (飛行ドラゴン……考えすぎだったか?)

チルタリスの登場に合わせてゲンジさんのフライゴンも飛び立つ。
軽く観察したところ試合停止が痛かったかな、すでに疲労の顔はなく全快の様に思える。

ユウキ (まずは制空権得なきゃ話にならんか)
ユウキ 「チルタリス、『りゅうのまい』!」

チルタリス 「チルル〜♪」

チルタリスは空中で優雅に踊りだす。
その隙に俺は何個か地面から瓦礫を手にとり懐に偲ばせた。
その間、ゲンジさんは当然のように攻撃に入るだろう。

ゲンジ 「フライゴン、『ドラゴンクロー』!」

ユウキ (ちょっと凝すいが、まぁポケモンバトルは元来こんなもの……)

俺は瓦礫の小粒を一つ空中に投げた。
チルタリスの後ろ、フライゴンの視界に小粒が入る。
鍛えられた感覚が鋭敏なポケモンほど、単純だが効いてしまう。
反応しちゃうからなぁ。

フライゴン 「ゴンッ!?」

シャベリヤ 『ああっと! フライゴン、まさかの空振り! チルタリスへの攻撃を外してしまった!』

小石に気取られてしまい、一瞬チルタリスがフライゴンの視界から消えた。
いや、正確には優先順位が変わっただけだ。
四天王が鍛えた程のポケモンだからこそ、そのわずかな物に反応してしまったのだ。

コツンッ……!

チルタリス 「っす?」

小粒が瓦礫の上で弾ける。
チルタリスも反応してしまうが……まぁ、そこは一応計算通りだ。

ユウキ 「小細工無用だ、『れいとうビーム』!」

チルタリス 「チルーッ!」

チルタリスは素早くフライゴンの周りを高速に飛び、最後は目の前で『れいとうビーム』を放つ。

ユウキ (チルタリス、お前は素直に戦えばいい、小細工は俺がするだけ)

フライゴン 「ッ!? ゴン!」

シャベリヤ 『ああっと、フライゴン瞬時に攻撃を回避! さながら超反応バトル!』

ユウキ (おいおいアレを回避するかよ、本当に恐ろしい反応だな、『りゅうのまい』で能力アップしても反応までは上がらないから厄介か)

チルタリスはそれほど反応がいいポケモンでもない。
『りゅうのまい』の効果は攻撃と素早さを上げる効果があるが、二段階以上素早さを上げても、ウチのチルタリスじゃ限界反応を超えてしまうから単なる雑な動きになってしまう。
困ったことだがフライゴンの方が限界反応が高いからスピード上げても思ったより効果がでんな。

ユウキ (さて、どうしますか……2回目を許すほど甘くも無いだろうしねぇ)

ゲンジ 「フライゴン、そのまま『りゅうのはどう』!」

ユウキ 「考えてる暇ないか! かわして……いや、こっちも同じ!」

両ポケモンの『りゅうのはどう』、至近距離からの二匹の技の発射は、至近弾接触による爆発。
本来ならちと無謀だがあえて同じ技を命令した。
おかげ少し、間が開いた。

シャベリヤ 『威力は互角か! 両者巻き込まれたぞ!』

威力は互角、そう互角。
そいつがわかれば十分、このバトルは……。

ユウキ (間違いなく長引く!)

パワーは同じだが、スピードはチルタリス、しかし反応はフライゴン。
全てが見事に合わさり互角になった。
噛合すぎて逆に怖いが……面白い展開にはなった!


ゲンジ 「ち……やむをえん! 同じ技で同じ攻撃力なら更に強力な技を放つまで!」

ユウキ (あらま、思ったより速かった、まぁ巻きだからしょうがないか)

フライゴンは『りゅうせいぐん』の態勢に入る。
潰す機会はあるが、長引かせたくはない。
な・の・で。

ゲンジ 「いけ! 『りゅうせいぐん』!」

ユウキ 「チルタリス、『こらえる』!」

フライゴンから放たれる『りゅうせいぐん』は地表に降り注ぐ。
その攻撃は決してこちらを狙って放っているわけではない。
故に運が良ければ動かずとも回避出来るだろう。
とはいえ、あまりに無差別すぎて自ら回避させようとは到底思えない。

シャベリヤ 『『りゅうせいぐん』が降り注ぐ! これはどうなるっ!?』

その様はまるで世界を滅ぼす炎が天より(以下略)のようであろう。
て○ヴォスかっての。

ユウキ 「今だ! 『れいとうビーム』!」

『りゅうせいぐん』を耐えた後に放たれる『れいとうビーム』はフライゴンに突き刺さる。

ゲンジ 「ちっ! しまった……早まったか!」

大の苦手である氷の技を受けたフライゴンは意識を失っているのか瓦礫の上に急降下する。

ユウキ 「む? チルタリス!」

チルタリス 「タリ〜っす!」

チルタリスには悪いが傷ついた体を押してフライゴンを救出してもらう。
チルタリスはかろうじてフライゴンを拾い上げて、瓦礫の上に着地した。

審判 「フライゴン戦闘不能!」

シャベリヤ 『チルタリスフライゴンを寸前で救助! そしてついに四天王ゲンジもポケモンを一匹失いました!』

ゲンジ 「む……よくやった、フライゴンよ」

ゲンジさんのフライゴンがボールに戻される。
次は何が出てくるのか?

ゲンジ 「でてこい、もう一匹のフライゴンよ!」

フライゴン 「ラーイ!」

シャベリヤ 『ゲンジ選手、三匹目もフライゴン! 一体どのように戦うのか!?』

ゲンジ 「体力は間違いなく残り僅か……ならば! 『すなあらし』!」

チルタリス 「ああっ! だめ! もう体力無いときにそれは!」

フィールドに砂嵐が吹きすさぶ。
小粒一つぶつかったらダウンのこの状況、まさか二匹も同じポケモンいれてるたぁなぁ。
フヨウさんやプリムさんもそうだったが流行ってんのか? 四天王内で。

シャベリヤ 『ああっと、勝った直後にチルタリスダウン! やはり『りゅうせいぐん』のダメージは大きかったのか!?』

ユウキ 「うむ、まぁまぁだな。戻れチルタリス」

俺はチルタリスを戻す。

ユウキ 「三番手はお前だ! 行けっ! ユレイドル!」

俺は次にユレイドルを出す。
ユレイドルは瓦礫の山に出ると、足の裏の吸盤をしっかりと地面につけてどっしりと空中のフライゴンに構える。

ゲンジ 「ユレイドルか! フライゴン、『かえんほうしゃ』!」

フライゴン 「フーラーイ!」

砂嵐の強風が吹く中、フライゴンの口から炎が吹き出し地上のユレイドルを襲う。
確かにユレイドルは草タイプ、だが同時に岩タイプでもある。

ユレイドル 「……!」

ユレイドルは頭を振り払い、軽く炎をかき消す。

ユウキ (砂嵐の中で岩タイプは特殊防御力を上げる! この程度の攻撃では怯みもしないよ!)

ゲンジ 「ち……思った以上に効かんか、ならば『アイアンテール』!」

特殊攻撃が効かないと見るやゲンジさんは今度は『アイアンテール』を命令する。
劣悪な視界の中でも怪しく光るユレイドルは格好の的であろう、だがこちらもそろそろ反撃をさせて頂く!

ユウキ 「ユレイドル! 『ヘドロばくだん』!」

ゲンジ 「! いかんフライゴン!」

ユレイドル 「!!」

ユレイドルの口から毒の塊が数発発射される。
視界が悪いのは両者同じ。
ユレイドルの放つ『ヘドロばくだん』は砂嵐の中では極めて見えにくいだろう。
……といっても、砂漠に住むフライゴンにはなんの問題もないかもしれないがな。

フライゴン 「!? フラーッ!?」

『ヘドロばくだん』がフライゴンの顔面に直撃。
運悪く顔面に受けたことでフライゴンは目を奪われ、地面に胴体着陸するハメになる。
砂嵐の中更に瓦礫を巻き上げて視界を悪くするフライゴン。
だがまだ、ダウンには遠い。

ゲンジ (まずいな……目が奪われた、これではいいようにいたぶられるだけか? だが……交換した後が恐いな)
ゲンジ 「ちっ! フライゴン、『じしん』だ!」

フライゴン 「! ゴーン!」

ゆっくりと立ち上がったフライゴンは、しっかりとその二の足を踏み込んで『じしん』を起こす。
なかなかに強力な『じしん』がフィールド全体を襲う。
一瞬瓦礫が浮き上がるほどの衝撃だったが、それではユレイドルは倒せない。
いや、再生に追いつかないというべきか?

ゲンジ (? 『じしん』で怯まない……そういえば、あのユレイドル出てからずっと動いていないな……)

ユウキ (気づいたかな……さすがに)

ユレイドルは『じしん』を受けても微動だにしなかった。
それはまるでしっかりと根を張った巨木のように……ね。

ゲンジ 「! まさかすでに根を張っていたのか!?」

ユウキ 「ご名答! トドメの『ヘドロばくだん』!」

ユレイドル 「!」

ユレイドルは出たと同時にその場で『ねをはる』をした。
これによりユレイドルは交換も、移動も出来なくは無かったが常に地面から養分を吸収し、体力を回復していたのだ。
時間をかければかけるほどユレイドルには有利になる、すでにその状況がバトル開始から始まっていた。

フライゴン 「フ、フラ〜ッ!?」

『ヘドロばくだん』の直撃を受けるフライゴンは後ろに吹き飛ぶ。
と、同時に『すなあらし』の効果が切れて、その場に快晴が蘇る。
フライゴンは瓦礫の上に倒れて目を回していた。

審判 「フライゴン、戦闘不能!」

シャベリヤ 『さぁ、これで互い2匹を失った! この勝負一進一退! どちらが勝つのか!?』

ゲンジ 「ごくろうフライゴン、次はお前だチルタリス!」

チルタリス 「タリ〜♪」

チルタリスは晴れた空に優雅に登場、なんだかこちらのチルタリスより優雅だなぁ、と感じる。
まぁバトルに優雅さは関係なし!

ユウキ 「よし! ユレイドルあやしい……ユレイドル?」

俺は更に攻勢にでようと命令をしようとするが、ユレイドルの様子に気付く。

ゲンジ 「? なんだ?」

対戦相手のゲンジさんも気づいたようだ。
ユレイドルはその場で固まっていることに。

ユレイドル 「……」

ユレイドルの時が……止まったか。

ユウキ 「ユレイドル戦闘不能! でどうぞ!」

審判 「は? え? あ……えと?」

シャベリヤ 『なんとトレーナーが自らポケモンの戦闘不能を宣言!? しかし見た所それほどダメージを負ったとは思えませんでしたが……審判の判断が待たれます』

審判 「ゆ、ユレイドル戦闘不能!」

ユウキ 「よし、戻れユレイドル!」

俺は急いでユレイドルをボールに戻す。
ユレイドルの奴、もうこんなに動ける時間が短くなってしまったのか。
後いつまで……後何日までユレイドルは生きていられるんだろうな……。

ユウキ 「さぁ、四天王戦初出場だ! 気張れよオオスバメ!」

オオスバメ 「スバ〜♪」

オオスバメは久しぶりの出番に嬉しいのか大きく翼を広げて宙を舞った。
元々の性格も相まってオオスバメはちょっと暴走気味、これまでの戦いではちっと使いどころが難しかったからな。

ゲンジ 「オオスバメか、チルタリスよく狙って『れいとうビーム』!」

チルタリス 「チルー!」

ほぼこちらと同じやり方で放つチルタリス。
やっぱり同じポケモンだけに技構成も似ているのか?
だとしたら、やりやすいがな!

ユウキ 「オオスバメ、『かげぶんしん』!」

オオスバメ 「スバッ!」

オオスバメは瞬時に数十体(正確には32体)の分身に化けて『れいとうビーム』を回避する。
オオスバメは俺のポケモンの中でも数少ない超高速戦特化。
だからこそこんなことも出来る!

ユウキ 「オオスバメ! そのまま『つばめがえし』!」

オオスバメは分身共々合わせて一斉にチルタリスに襲いかかる。
分身達は所詮実体の無い影だが、その姿はまさに本物と瓜二つ。
よくこういうのは影を見たら本体がわかるとかが定説だが、オオスバメのような高速に動く物に対して影を見る暇なんてないだろう!?

オオスバメ 「スッバーッ!」

チルタリス 「チルー!?」

チルタリスの下から腹部に向かってオオスバメの嘴が突き刺さる。
そのまま追撃戦に入りたかったが、ゲンジさんのチルタリス打たれ強いのかすぐに態勢を立て直していた。

ゲンジ 「『りゅうのいぶき』!」

ユウキ 「かわせ!」

オオスバメ 「オオスバッ! ……ッ!?」

瞬時に反撃するチルタリス、俺はじっくりチルタリスを観察していたおかげで回避命令が間に合ったが、オオスバメの翼にわずかに『りゅうのいぶき』が掠り、オオスバメが高度を落とす。
すぐに切り替えして、大空に戻るがちょっとばかりダメージを貰ったな。

ゲンジ 「速いな……ならば『スピードスター』!」

チルタリス 「スーバー!」

今度はチルタリスから『スピードスター』が放たれる。
こいつぁ回避不能、だったら強引に抜けるか!

ユウキ 「オオスバメ! 『でんこうせっか』!」

オオスバメは無数に放たれる『スピードスター』の中を駆け抜けるように『でんこうせっか』で突き抜ける。
多少の被弾では止まらない、元々威力の低い技だ、直撃を許さなければそれほど苦ではない。

オオスバメ 「スッバーッ!」

チルタリス 「チルルーッ!?」

そのままオオスバメが『でんこうせっか』でチルタリスを突き飛ばす。
空中戦においてはオオスバメの方が有利のようだな!

ユウキ 「『つばめがえし』!」

今度はチルタリスも怯んだ。
俺はその隙を見逃さないようにオオスバメに命令する。
瞬時に追撃に入るオオスバメ。
だが、やっぱりあのチルタリスは打たれ強いのだなと確信させられる。

ゲンジ 「チルタリス! こちらも『つばめがえし』だ! 喝をいれいぃ!!」

チルタリス 「ッ! チルーー!」

さすがは四天王と思うことはいっぱいある。
ゲンジさんのチルタリスは異常に打たれ強い上、怯んでからの復帰がものすごく速い。
その分ウチのチルタリスより遅いみたいだけど、ダメージを受けてもすぐに反撃してくるんだ。

シャベリヤ 「両者の『つばめがえし』! この苛烈な正空戦を制するのはどちらだ!?」

もはや静止不能の速度域に到達する二匹。
両者の体がまさに………接触する!

オオスバメ 「スバーッ!?」
チルタリス 「チルルーーッ!?」

まるでトラック同士が激突したかのような音を立てて二匹が吹き飛び、地面へと落ちる。

ズシャァァァ!!

ユウキ 「オオスバメ!?」
ゲンジ 「チルタリス!?」

地面に墜落した二匹は動かなかった。

審判 「両ポケモン、戦闘不能!」

シャベリヤ 『ああっと! 相打ち! まさかの相打ちとなった! これでゲンジ選手は3匹、ユウキ選手は2匹が残りとなった!』
シャベリヤ 『試合展開はついにゲンジ選手有利となった! しかしまだ気は抜けない!』

ユウキ 「ご苦労オオスバメ、ゆっくり休んでくれ」

俺はねぎらいの言葉をかけるとオオスバメをボールに戻した。
うーん、やっぱ四天王は強いねぇ……予定ならこの時点で2−2か3−2の展開にしているはずだったんだが。

ユウキ 「まぁ地盤固めはこれでいいだろう! ラグラージ!」

ラグラージ 「ラーグ!」

俺は5匹目にはラグを選ぶ。
ここまで来るのにちょい時間はかかったな。
本当はどうしようかずっと悩んでいたが、たまたま『りゅうせいぐん』でフィールドが破壊された。
そこからずっと考えたんだからな、勝つ方法を。

ゲンジ 「でてこい、ボーマンダ!」

ゲンジさんが繰り出してきたのはボーマンダ、ドラゴン系ポケモンとしては最上級のポケモンだな。
これまで出てきたポケモンたちはさしずめ前座……そういわんばかりの威圧感をもってこの場に登場する。

ユウキ 「ラグラージ、思いっきり足踏み!」

ラグラージ 「? ラグ!」

ラグラージは一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに素直に思いっきりその場で足踏みをした。
そうしたらどうなるだろうか?
当然、地面に細かい砂が舞い上がる。
『りゅうせいぐん』で砕かれた瓦礫は無駄に固く、しかし衝撃で浮きやすい。
ラグラージほどの力で足踏みをすれば粉は何メートルも舞う。
俺はその中で随分前に懐に仕込んでいた瓦礫の破片を宙に投げた。
それはボーマンダの頭にコツンと当たるのだった。

ボーマンダ 「ボ?」

ゲンジ 「?」

一回目ではなんてことはない。
向こうも一体何をやったのかわかっていないだろう。
だから、ここから肉付けをする。

ユウキ 「このラグラージ、アンタのボーマンダに確実にこの巻き上がった瓦礫を当てることが出来る」

ゲンジ 「なに? それがどうしたというのだ?」

ユウキ 「ふむ、まだ分からないか……ならばもう一回!」

ラグラージ 「? ラグ!」

ラグラージはもう一回大きく足踏みをする。
地面が揺れ、砂が舞い上がる中、俺は石を宙高く投げた。

ゲンジ 「ちっ! ボーマンダ、砂の上がった範囲から離れろ!」

ボーマンダ 「ボーマ!」

ボーマンダは羽を羽ばたかせて、瞬時にフィールドの端に飛んで行った。
だが、そこに俺の投げた石は落ちる。

コツン……とね。

ボーマンダ 「!? ボ……ボマ?」

ゲンジ 「!? まさか?」

ユウキ 「さて、今当てたのは単なる石一粒だがこれがもし『いわなだれ』や『ゆきなだれ』だったらどうかな?」

ゲンジ 「ッ!? まさか……そんなことが?」

ゲンジさんの顔が青くなる。
俺はニヤリと笑った。
相手の行動を読むことは俺に取っては造作も無い。
言視触聴の幻遊人なんて言われているが、気に入らないね。
俺は言う、視る、触る、聴く、それだけで相手を操作しているんじゃない。

ゲンジ 「信じられん……トレーナーはいざしらず、ポケモンまでそんなことができるのか?」

ユウキ (いい反応、適度に疑っているな)

揺れる辺りが一番脆い時、そういう時はつっつき過ぎず適度にやるのが一番。

ユウキ 「なんなら、もう一度試すかい? ただし次は『いわなだれ』が落ちてくるぜ?」

ゲンジ 「ッ!? く……ぅ」

ユウキ 「ラグラージ、『いわなだれ』!」

ラグラージ 「ラグッ!」

思いっきり踏み込んで地面を叩くと、地面がせり上がり岩が宙に浮かぶ。

ゲンジ 「ッ! ボーマンダ、『まもる』!」

ボーマンダは動かずにその場で『まもる』を使う。
これを使えばどんな技も効果はない。

ゲンジ 「ふ、ふはは! 当たっても効果が無ければ意味はあるまい!?」

ユウキ 「馬鹿だねぇ、まだこの効果の本質を理解していないとは」

ゲンジ 「……は?」

言葉の刹那だった。
ボーマンダに一筋の冷気が貫いた。

ボーマンダ 「マ……マン……」

ズゥン!

観客 「……」

審判 「え……? あ……ボ、ボーマンダ戦闘不能!」

審判も解説も、観客さえも誰一人声がでない。
ただ、そこにある真実は一つ、ボーマンダが戦闘不能になったってことだ。

シャベリヤ 『あ……呆気にとられました! 私長いことポケモンバトルを見てきましたが! こんなこと初めてです! 一体何が起こったのか!?』

観客 「ワァァァァァァァァッ!」

『いわなだれ』の直後にラグラージは『れいとうビーム』を放った。
それが真実なわけだが、そこにいたるまでに俺はいくつものトラップを仕掛けた。

審判 「ゲンジ選手、次のポケモンを……」

ゲンジ 「いや……もういい」

審判 「は?」

ゲンジ 「……降参だ」

審判 「あ……ゲンジ選手、戦意喪失! よってこの勝負ユウキ選手の勝ち!」

シャベリヤ 『な、なんと四天王ゲンジが降参! まさかの結末です!』

ここでゲンジさんの降参。
まぁ、想定上降参もあるかなとは思っていたけど、こんなに早くいくとはな。

ユウキ 「戻れラグ、お疲れさん明日も頑張ろ」

俺はラグをボールに戻す。
戻した後、ゲンジさんが俺の前までやってきた。

ゲンジ 「……私は君が怖い」

ユウキ 「は?」

ゲンジ 「最後のあれ、ポケモンではなく君の仕業だろう?」

ユウキ 「……タネを明かすマジシャンはいない」

俺はあえて今回は冷たくそう言った。
だがゲンジさんは特に気にする様子はない。

ゲンジ 「君の才能は、ある種人の人生さえ狂わす……その才能は……あまりに怖い、怖すぎる……」

ユウキ 「怖い……ね、気を付けましょう」

俺はそう言ってその場を後にする。
怖い……なんて言われたのは初めてだ。
でも、俺が人生を狂わせる?

ユウキ 「ペル……」

ふと、ペルの顔が浮かんだ。
もしかしたら俺はペルの人生を狂わせたのか?
……そう考えると、俺ってなんなんだろうね。

ユウキ (俺は俺なりのケリをつけないといけないか)




ポケットモンスター第99話 『VSゲンジ 恐怖』 完






今回のレポート


移動


サイユウシティ


3月10日


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

チルタリス

ユレイドル

ボスゴドラ

コータス


見つけたポケモン 66匹






おまけ



その99 「おやすみ」





今回も無しです。
本当に、本当にすいません。




おまけその99 「おやすみ」 完


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