ポケットモンスター サファイア編




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第100話 『VSイヴ 覚悟』






『3月10日 時刻13:20 ポケモンリーグ本戦会場』


観客 「ワァァァァァァァァッ!」

観客たちの声援は最高潮に達していた。
それもその筈だろう、その場では今大会今だ負けなしの二人が戦っているのだから。
だが、その戦いも今終わろうとしている。

シャベリヤ 『さぁ、チャンピオンダイゴVSBブロック覇者のイヴ選手の戦いも決着の時を迎えています!』
シャベリヤ 『互い満身創痍の状態、次の技を出すことはできるのか!? もはや立っているのは気力と意地か!?』

エーフィ 「フィ……フィ……ッ!」

メタグロス 「メタァ……」

シャベリヤ 『序盤戦は有利に進めたイヴ選手、しかメタグロスが出てからは一気にダイゴ選手のペースとなりました、しかしイヴ選手にも意地がある!』
シャベリヤ 『接戦に接戦の末、ついに互い進退窮まるか!?』

イヴ 「エーフィ……」

ダイゴ 「……」

エーフィ 「……フィ……ッ」
メタグロス 「グッロォ〜……」

ズッシィィィン!!

シャベリヤ 『ああっと! もはや立つこともできないのか!? エーフィとメタグロスが地面に倒れた!』

審判 「両ポケモン戦闘不能! よってこの勝負……引き分け!」

シャベリヤ 『引き分け! なんとここで引き分けです! リーグ戦における引き分けは両者ポイント無し! ということは現状で1位に上がるのはユウキ選手となりました!』

イヴ (く……やはり1年間のチャレンジではチャンピオンに勝つまでは至らなかったか……)

ダイゴ (やはり強い……これは覚悟を決めないといけないかもしれないね)




ユウキ 「……予想外だわな」

俺はゲンジさんとの試合終了後、ポケモンを回復させて観戦していた。
一応今後の進退を占う重要な一戦だからな。

ポケモンナース 「すごい戦い……心配だわ」

ユウキ 「? 心配って?」

丁度ポケモンセンターの待合室で観戦しており、回復をしながら一緒に観戦していたポケモンナースのお姉さんがそう呟いた。
心配……というと両者のポケモンのことだろう。
たしかにさっきの戦い激しいバトルだった。
だが互いにポケモンは極限まで鍛えてある。
余程のことがない限り怪我はないと思うが。

ポケモンナース 「ユウキさんと、イヴさんって明日の朝一番に試合でしょ? イヴさんのポケモンの回復間に合わないかも知れないわ……」

ユウキ 「そいつは重疊だね……て言うのは失礼か」

たしかにちょっとダメージがでか過ぎたな。
大会ルールにおいて一番怖いのがこのダメージだ。
短いサイクルで何度も戦うから疲労もたまるし、ダメージも中々抜けない。

ポケモンナース 「……あ、ユウキさんのポケモン回復が完了したわ」

ふと、お姉さんが機材に目を向けると、回復終了のランプが点灯し、いつもの曲がポケモンセンターに流れた。

ポケモンナース 「私はずっとサイユウ支部で働いているからわかるわ、強くなればなるほどポケモンを省みることができなくなる」
ポケモンナース 「戦いは激しくなる一方になり、一度の戦闘で受けるダメージもどんどん大きくなる……悲しいことよね」

ユウキ 「ポケモンとトレーナーは家族だ友達だって言うけど、友達も家族も自分じゃない、他人だ。他人の痛みがわかるわけがない」

これは真理だと思う。
もし、少しでもポケモンが受けるダメージが痛いと思うのならば、人間はポケモンバトルなんて興行にするわけがない。
痛みがわからないから、人間は喧嘩だってする。
痛みを知るということはものすごく難しい、与えた痛みに気づくとその痛みは倍になって返ってくるから。

ポケモンナース 「ユウキ君のポケモンはいつもダメージが少なくて助かるわ♪ すごいのね」

ユウキ 「怪我されちゃたまんないっすからね、ポケモンの体調管理もトレーナーの努めですよ」

俺はポケモンには8割程度体力が危なくなったらダウンしろと命令している。
このおかげで戦える時間は短いが、とりあえずポケモンたちが大事に至ったことはない。
まぁラグとかは割と無茶してくれる上、イマイチどこまでが限界かわからないから困るんだが。

ポケモンナース 「はい♪ あなたのポケモンはみんな元気になりましたよ♪」

俺はポケモンたちの入ったボールを受け取ると腰のボールラックに装着してポケモンセンターを出ようとする。
だが、丁度出口のところでポケモンセンターに入ってくるイヴさんと出くわしてしまう。

イヴ 「あ……」

ユウキ 「……」

ウィィィンとシャッターが開き、外の暑い熱気が入り込む。
それと同時に出会う俺とイヴさん。
何か話そうにも言葉は出てこない。

イヴ 「首位おめでとう……」

ユウキ 「ありがとうございます、明日はたとえどんなコンディションでも手は抜きませんよ?」

イヴ 「……ッ!」

イヴさんが動揺する。
どうやらトレーナー自身も自分のポケモンが受けたダメージを危惧しているらしいな。
こいつぁ明日は予想以上に楽な試合になるかもしれないな……。

イヴ 「ふ……いつも手を抜いているのはそっちの方だろう?」

だが、イヴさんも負けじと言葉で反撃してくる。
俺は軽く流し。

ユウキ 「はてさて? 真相は闇の中……まっ、人の数だけ正解はあるのかもね……それじゃ」

俺は適当にはぐらかしてポケモンセンターを出て行った。
手を抜くか……生粋のポケモントレーナーたちから見れば俺は侮蔑されるだろうな。
そうさ、俺は手を抜いている。
ポケモンバトルは傷つくのはポケモンだ、苦しいのもポケモンだ。
それなのに楽しむのは人間なのか?
ポケモンにも楽しんでもらえるバトルを俺はする。
そのやり方だけは絶対に曲げない。

ユウキ (……まぁ、俺は俺のやり方で戦うだけ、別に押し付けたりはしないさ)

俺は最後には微笑を浮かべてホテルへと帰るのだった。



…………。



『同日 時刻20:18 サイユウシティ ホテル』


ユウキ (後2日……このお祭りも後2日……か)

今日、まさかのダイゴさんとイヴさんのドローが発生したことにより俺が単独首位に上がった。
明日の結果次第では俺の優勝が確定する。
短いようで……あまりに長く感じたポケモントレーナーとしての旅も、後2日でひとつの節目を迎えるのか。

ペル 「ユウキ……」

ベットに座りながらベランダの窓越しから外を眺めていると、ペルが隣に座ってくる。
ペルか……俺はふと考える。
今日ゲンジさんに言われた言葉……俺の存在が、人の人生さえ狂わす……。
運命なんてものは信じないし、人の創る道に違いなどあるはずはないとは思う。
でも、あの言葉で俺はずっと疑問に思う。
時を操れもしない人間には所詮過ぎたる過去でしか無いし、惨めな後悔にすぎないことではあるが。

ユウキ 「俺は、お前の人生を狂わしたのか?」

ペル 「?」

ペルは分からないという風に首を傾げた。
実際理解していないんだろうな。
ペルは俺に惹かれたと言う。
ならば、俺とペルの接点が無ければ互い自由に過ごしていたのか?
ペルもポケモンリーグなんかに関わらずザンジークとして自由に暮らして、RMUにも狙われなかったのではないか?
そんな風に考えてしまう。

どんなに言っても過去に起きたことは過ぎ去った物だ、どれだけ嘆いても後悔に過ぎない。
でも……過去を肯定する必要もあるのかもしれない。
過去を否定するということは、過去を顧みないということだ。
少し意味合いは違うが、俺はある種過去を顧みなかった。
過去でどんな出来事があっても、今にはなんの影響もないし、未来は創れないと考えたからだ。
だから俺はずっと前を見続けていた。

でも、それは過去に負った責任から逃れているだけなのかもしれない。
この真理には決して答えが無いことは知っている……でも俺って奴はそこに答えを求め続けている、今でさえも。

ユウキ 「俺はペルを巻き込んだ責任を取らないといけないのか……」

ペル 「責任? 巻き込んだ? 何を?」

ユウキ 「色んな物だよ、もちろん俺もペルに巻き込まれた被害者だけどな」

ペル 「そう……どうすれば責任が取れるの?」

ユウキ 「そいつぁ難しい質問だな」

ペルはとても素直だ。
俺とは全く違う。
ペルは疑わない、俺は疑う。
ペルは本当の言葉を言える、俺は嘘をつく。

ユウキ 「ペルは俺に何を求めたんだ?」

ペル 「私がユウキに求めたもの……」

ペルが珍しく悩む仕草をする。
それほどペルには難しい問題なのか?

ペル 「それは多分ユウキが好きだから……まだ好きってよくわからないけど」

ユウキ 「俺が好きね、まぁ俺もペルのことは好きだよ。好きって言っても人それぞれだけどなぁ」

ペル 「……むずかしい」

ユウキ 「ああ、難しいなぁ」

ペルの好きがどんな感情によるものなのかは俺にはわからない。
俺の好きはペルの求める好きではないかもしれないが、これもまたわからない。

ペル 「そうだ、この前テレビでみた……」

ユウキ 「はぁ? なにを?」

ペルはふと思いついたように顔を上げる。
すると突然ペルは俺をベットに押し倒す。
いきなりマウントを取られる俺。
ここはタップするべきなのかと冗談交じりに考える。
この時点ではペルが何をする気かはわからないが、どうせ無邪気なことだろうし、害はないだろうと思ったからだ。

だが、直後部屋の扉が開いたとき、その考えは一瞬にして吹き飛んだ。

シャドウ 「おーい、晩飯買ってきたぞ――お?」

ペル 「ユウキ……責任とって」

ユウキ 「……」(呆然)

シャドウ 「……」(唖然)

ペル 「……」(整然)

……とりあえず簡単にこの場の状況を説明しよう。
本当は切羽詰っているけど、落ち着いている俺、ナイス俺。
とりあえずベットに押し倒される俺、その上に騎乗位で座るペル。
買い物袋を持って扉の前に立って固まるシャドウ……これが現状だ。

シャドウ 「貴様ユウキーッ!? ヤッたのか!? 何回だ!? というかそういうことはラブホでやれ!」

ユウキ 「やるかボケェ! 俺は未成年だし! ポケサファは全年齢対象だぁっ!」

最後少々意味不明だったが、その後10分かけて口論は俺の(圧倒的)勝利(まぁ当然)で終わった。
とりあえずペルを下ろして、飯を頬張りながら俺達は雑談する。

ユウキ 「全く早とちりしやがって……お前もアレか? 俺に既成事実作って逃げられんぞぉ! ってやるタイプか? 怖いぞ」

シャドウ 「女を上に載せている時点で大体誰でも疑うわ、ましてペルは穿いてないし……」

ユウキ 「穿いてないだと? 何故、シャドウがそれを知っている?」

シャドウがしまったと赤面する。
まさか……と思うが、そこは言及しないことにした。
うん、事故ならありえる。

シャドウ 「……それはそれ、これはこれだ」

耳まで真っ赤にして顔を背けるシャドウ。
うむ、分かりやすい奴だ。
当事者の本人ペルはというと一心不乱におにぎりを食べて全く今の状況を意に介さない。
大物の雰囲気をすでに持つペルだが、単に意味を理解していないだけだ。

ペル 「……大丈夫、ユウキのは立たなかったから」

ユウキ 「何が!? というかどういう意味でそれ言っているの!?」

訂正、ペルは意味を理解しているかも知れない。
とはいえ、何を言い出すかさっぱりわからないので俺としてはドギマギせざるをえない。

ペル 「……ぽ」

ペルはそうつぶやいて赤面する……かと思いきや顔は普通だった。
なんなんだアンタ。

シャドウ 「女を乗せて立たないだと? 貴様まさかホモか?」

ユウキ 「うるせぇ地獄へ落ちろ、バーカ!」

……そんなこんなでその日の夕食は進むのだった。
ペルと二人きりになるのは……案外危険なのかもしれない。



…………。



『同日 同時刻 サイユウシティ 海岸』


イヴ 「……」

俺は明日のことを考えていた。
明日俺はユウキ君と戦わないといけない……いけないというのに……!



ポケモンナース 「イヴ様、あなたのポケモンたちのダメージは極めて大きく、正直6匹同時では明日の戦いには間に合いません」
ポケモンナース 「ですが、1匹限りでしたら、明日までに万全にすることは可能です……どうしますか?」



イヴ 「く……どうする俺?」

シャベリヤ 「――やっぱりここにいたか、イヴ」

ふと、明日の戦いに悩んでいるとシャベリヤが顔を出す。
よく俺の場所がわかったな。

シャベリヤ 「どうするんだ明日? 間に合わないんだろ?」

イヴ 「……ああ」

ダイゴとの戦いは想定以上に接戦だった。
たった1年という期間で鍛え上げたポケモンたちがチャンピオンに通用した。
これは誇れることだ。
だが……俺の戦いはまだ終わったわけではない。
肝心の最強の新人、俺でも成しえなかった奇跡を起こす少年との戦いに万全の状態で挑めない。
神がいるというのならば、どうしてなんだ?

シャベリヤ 「イヴ、カントー時代のポケモンを使え、それならば問題ないだろう?」

イヴ 「! だがあれはマサキに預けている! 今からではこっちに間に合わない!」

シャベリヤ 「そうでもないぜ? 少し前だけどな、ホウエンとカントーでポケモンの転送が出来るようになった、なんでもニシキっていう研究者がなんとかしたみたいだ」

イヴ 「……!」

カントー時代のポケモン達が使える?
心は踊る……だが、それは……。

イヴ 「……駄目だ、それでは俺の望む戦いは出来ない……俺は……!」

カントー時代……俺がカントーでポケモンチャンピオンをやっていた時代のポケモンを使えば確かに明日戦うことはできる。
だが、それは俺の望んだ戦いじゃない。
俺はカントーでチャンピオンになってからも我武者羅に戦い続けた。
戦いに意味なんて求めなかった。
ただ、ずっとチャンピオンの座を防衛し続けた……まるで作業するように。
だが、次第に俺は疑問を抱いた……チャンピオンとはなんだろうと。

チャンピオンは皆から善法の眼差しで見られる。
チャンピオンはスターだ、ここにいるのは難しい。
だが、チャンピオンであるからといって何があるというのだろうか?
特に俺にはチャンピオンである意味はなかった。
チャンピオンになった俺には目的が無かったんだからな……。

次第にチャンピオンでいることが陳腐に思えるようになった。
だから俺はチャンピオンの座を捨てた。
もう一度チャレンジャーとして始め、また再びポケモンリーグに挑んだ。
カントーのリーグはまさに俺の望む結果を与えてくれた。
たった1年にも見たない少年トレーナーに俺は負けたんだ。
負けたとき、初めて俺はトレーナーになった意味を知った。
俺はこれを求めていたんだと。

だから、俺は今度はこのホウエンに渡った。
ポケモンはマサキに預けて、代わりイーブイたちを貰った。
連れていったのはずっと昔から付き合っているエーフィだけだ。
短い期間で行う挑戦……その中に俺の求めていたものがある。

俺はどこまで行ってもチャレンジャーだ。
チャレンジャーは待ち受ける敵より弱くないといけない……その状態で勝った時俺は快感を得られる。
だから、強いままで戦うことにはなんの意味もない。

シャベリヤ 「イヴ、お前のやり方には口は出さない……だが、満身創痍の現状で彼相手に満足に戦えると思っているのか?」

イヴ 「……」

無理であろう。
ユウキ君のポケモンはポケモン単体の力はチャンピオンには敵わないかもしれない。
だが、ユウキ君には言いようのない不思議な実力がある。
聞けば彼はまだ半年程度の新人トレーナーだ。
にもかかわらず、四天王さえ凌駕する技術をすでに持っている。
奇しくも、俺と同じ条件で戦っている相手だ。
その実力は非の打ち所は見つからない。

シャベリヤ 「ま……お前の自由さ、じゃ……俺は明日も早いからな」

イヴ 「……」

シャベリヤはそう言って去っていった。
その場には海のさざめきが残る。
俺はどうする……あの少年相手に。

(ユウキ 「ありがとうございます、明日はたとえどんなコンディションでも手は抜きませんよ?」)

ふと、ユウキ君の言葉が思い出される。
彼はある意味俺よりプロフェッショナルだ、チャンピオン向きの性格だと言える。
だが、同時にポケモンに甘い部分がある。
ポケモンバトルは命がけのぶつかり合いだ、その刹那の中に輝きを見出す。
彼はその行為を根底から否定している。
ポケモンバトルはお祭りのように愉しめばいいと思っている。

それそのものは間違いではない、事実野良のポケモンバトルはそんなものだし、新人ならばだれだってそうやって始める。
彼はポケモンに対して純真だ。
だがポケモンリーグという世界はそんな甘さを許しはしない。
それこそが、プロとアマの差だ……。

イヴ 「プロかアマか……か」

俺はふと呟く。
俺はプロフェッショナルであり続けていたつもりだ。
だが、案外俺はプロフェッショナルでいることに嫌気が指していたのかもしれないな。
ユウキ君はアマチュアのつもりでいるプロフェッショナルだ。
俺は……プロフェッショナルのつもりでいるアマチュアなんだな……。
ならば……。

イヴ 「最後までアマチュアで通してやろうじゃないか」

俺は覚悟を決めた。
俺はどこまで行っても……チャレンジャーだ!



…………。
………。
……。



『3月11日 時刻10:00 ポケモンリーグ 本戦会場』


シャベリヤ 『さぁ、昨日の激戦がまだ忘れられぬ中ついに、Aブロックの覇者とBブロックの覇者の激闘が始まろうとしています』
シャベリヤ 『思えば先週のルール変更により実現しなかったこのカードが時少し過ぎて今実現しようとしています』
シャベリヤ 『あの時戦っていれば勝っていたのはどっちか? これは無意味な想像か? しかし考えずにはいられない! さぁ今日の一発目! 最初からアクセル全開だ! 遅れるなよ!?』
シャベリヤ 『まずはレッドサイドから入場! チャンピオンに最も近い位置にたどり着いた伝説級の少年トレーナーユウキ選手!!』

観客 「ワァァァァァァァッ!!」

ユウキ 「……」

俺は静かにトレーナーサイドに立つ。
正面の通路から静かにトレーナーサイドに歩み寄る相手を見つめて。

シャベリヤ 『続いてブルーサイドより入場! 眼帯を巻いた戦慄のポケモントレーナーイヴ選手!』

イヴ 「……」

イヴさんは何を考えているのだろう。
二つの眼を用いず、ひとつの瞳で何を見るのか?
観客の声さえ聞こえていないのか、まるで修羅のような面持ちでトレーナーサイドへと立つのだった。

シャベリヤ 『さぁ、両者ともに記憶には新しい戦いの歴史! 両者ともその圧倒的実力でこの場へと立っています! さぁまさに世紀の一戦!』
シャベリヤ 『しかし……なにやら様子がおかしい? 審判が試合を始めません』

審判 「……あの、イヴ選手、本当によろしいのですか?」

イヴ 「ああ……構わない」

ユウキ 「? 一体どうしたんだ?」

試合会場のヒートっぷりとは真逆になんだか審判は気まずい顔をしている。
イヴさんに何かトラブルか?
しかし、イヴさんの表情は多くを語りはしない様子。
そこから先の事象を読み取るのは、先入観を要求するため危険と判断して俺は考えるのをやめた。

審判 「……ルールは使用ポケモン6匹! ポケモンの交代は両者自由!」
審判 「ただし道具の使用所持は原則として禁止、ポケモン図鑑は閲覧のみ許可します!」
審判 「なお、チャンピオンカーニバルにおいては休憩はございません!」
審判 「それでは両者不正のないよう、ポケモンをフィールドへ!」

ユウキ 「でろキノガッサ!」

イヴ 「いけ! エーフィ!」

シャベリヤ 『あ、今バトルが始まりました! 最初の間はなんだったのか!? ともあれ最初の両者のポケモン登場です!』
シャベリヤ 『まずユウキ選手はキノガッサ、イヴ選手はエーフィ! 開幕はユウキ選手不利だ!』

ユウキ (あらま、エーフィで来たか、性格考えるとブラッキーかサンダースと読んだんだけどな)

俺は的が外れたことに少し驚いた。
なぜならエーフィは実質キノガッサ読み一択、相性上エスパーは相対不利になるポケモンも俺は結構持っているのによくまぁ出してきたもんだ。
ここは相手の度胸勝ちとするか。

ユウキ (交換読みされるのも怖いな、イヴさんのトレーナーデータ上は控えのポケモンはいない。ということは手持ちを読みやすい)

俺は瞬時に第一手から放たれる様々な結果をシュミレートする。
その結果、一番最善と判断した結果はこれだ。

ユウキ 「キノガッサ! 『マッハパンチ』!」
イヴ 「エーフィ、『サイコキネシス』!」

シャベリヤ 『両者の命令がフィールドに木霊する! 先制攻撃はキノガッサ!』

キノガッサ 「キッノォッ!」

瞬時に距離を詰め、踏み込み相手の顔面を撃ちぬくキノガッサ。
『マッハパンチ』は相手より先に攻撃できる、だが格闘タイプの技故にエスパータイプのエーフィには効果が薄い。
大して実戦経験のないエーフィなら怯むこともあるだろう、だが相手は熟練のトレーナーのエーフィだ、受ける時は当然歯を食いしばり受ける覚悟を済ましている。
避ける気はない、やることはただひとつ……それは。

エーフィ 「!! フィーーッ!」

エーフィのつぶらな瞳と額の赤い宝玉のような物が妖しく光る。
次の瞬間キノガッサの体のコントロールは完全にエーフィに奪われた。
次の俺の命令の予断さえ許さずにキノガッサは観客席を護るフェンスに叩きつけられた。

シャベリヤ 『決まったーーっ! 一撃必殺! たまらずキノガッサ戦闘不能、ダウンだぁぁっ!!』

一発もらうから一撃でもって行くという覚悟。
理屈で分かっても体が反応するには人間では何十年というキャリアを持った熟練の武闘家がやっと手に入れる境地。
それを、なんのためらいもなく一発目からやられると、さすがに俺でも戦慄しちまう……。
首筋に嫌な汗が流れる……ランクが違うな。

ユウキ 「戻れキノガッサ!」

俺はフェンスに叩きつけられて動けないキノガッサをボールに戻した。
幸いにも熟練トレーナーのイヴさんとそのトレーナーのポケモンエーフィはどのポケモンのどこを潰せば壊れるかというのを熟知している。
だから、エーフィのやり方はキノガッサに肉体的損傷を少なくしつつ、一発で意識を奪う綺麗な倒し方をされた。
試合後の後遺症は大丈夫だろう、鮮やかだが綺麗過ぎる戦い方だな。

ユウキ (例えるなら投げつけられた小石、その後ろから飛び出してくる達人の回し蹴り……どっちが痛いかなんて明白だが、体はそうすんなりは動かない)

ウチのポケモンでもあんな危ない真似やってのけれるやつは何匹いるやら?
一体どういう荒行をして身につけたのか……あれは技術じゃないぜ。

ユウキ 「出ろ、サーナイト!」

サーナイト 「……」

ボールを投げるとサーナイトがふわりとフィールドに着地して、静かにエーフィを睨みつける。
これまでの全てのバトルの統計を元に対イヴ戦は戦術を組み立てたつもりだったが、実際のところはやはり実戦で組み立てる必要があるらしい。
よくも悪くもスタンダードなイヴさん、最初はセオリー通りに動いた、次はどう動くかな?

イヴ 「エーフィ、『シャドーボール』!」

ユウキ 「こっちも同じ!」

エーフィ、サーナイト両方が同時に『シャドーボール』の生成を始める。
『シャドーボール』の生成が先に終わったのはうちのサーナイトだったが、先に発射したのはエーフィだった。
ここら辺が基本戦闘速度の違いなのか、同じ行動をとるにしてもエーフィの方がサーナイトより早く動いちまう。

ズドォォン! とフィールド中央で『シャドーボール』がぶつかり合い爆散。
黒い波動のような何かを周囲に飛び散らせて、爆風がフィールドから吹きすさぶ。

イヴ 「もう一発『シャドーボール』!」

ユウキ (単調だな、1対1なら適切だが……真っ直ぐに捉えるべきか?)
ユウキ 「こっちも『シャドーボール』」

サーナイト 「はぁっ!」

最初と同じ展開だ、何もかもが寸分狂わず動く。
最初に放つエーフィと一瞬遅れて放つサーナイト、フィールド中央で爆散……そう、同じだ。

シャベリヤ 『第二打! またもや相殺! 両ポケモンダメージはありません!』

ユウキ (そう、ダメージはない)

エーフィのとれる行動はエスパータイプとしては極端に少ない。
サーナイトならばエーフィのほとんどの技が使える、相殺は容易。
こういうセオリーにない条件下、教科書ではなくトレーナーの本質で捌く状況が一番トレーナーの本質を暴かせてくれる。

イヴ 「囲碁で言えばまるでコウだな……終わりが無い。だが、囲碁では反則でもポケモンバトルにそのようなルールはないか」

ふ……とイヴさんが笑った。
笑った……? この状況下で?
何やら不気味な様子を見せたが、それが何を意味するのかは現状では分からない。
ただ静かにイヴさんの命令の言葉を俺は待った。


イヴ 「エーフィ、『シャドーボール』」

ユウキ 「サーナイト、『シャドーボール』!」

またもや同じ展開、一体イヴさんは何を考えている?
俺はわざと膠着状態になるように相殺を繰り返しているのに。
セオリーで言えばベストはポケモンの交換だ、その際に後ろが有効でないのなら流れに変化を起こすはず。
それさえやらないというのは、命令の放棄か?
いや、そんなはずはない。
眼帯に覆われたイヴさんの目、そして鋭く睨みつけるような細い瞳には勝利を確信する絶対の自信が満ちている。
あの人は、負ける気はない。

シャベリヤ 『再三に渡る『シャドーボール』! しかり両者が使い続けてもPPが切れるまで相殺を続けるだけか――なあっ!?』

サーナイト 「!?」

一瞬早くエーフィの『シャドーボール』……すじがきではそうなるはずだった。
だが……結果はあまりに意外な物だった。

シャベリヤ 『『シャドーボール』放たれた! だが、放ったのはサーナイトだけ!』

ユウキ 「嘘だろ……ディレイ!?」

エーフィは確かにその口にゴーストタイプのエネルギー、『シャドーボール』の生成は行われていた。
だがエーフィの『シャドーボール』の溜が『長かった』のだ。
サーナイトの放った『シャドーボール』はエーフィの頬をかすめ、後ろのフェンスで爆発する。
毛が擦れるほどの危険な距離での見切り、そして後発で放たれたエーフィの『シャドーボール』はより大きく練られ、強大な威力を持って放たれた。

ユウキ (ちっ! 『シャドーボール』後だ、命令が間に合わない! くそったれ!)

『シャドーボール』発生後の硬直を狙った一撃がサーナイトに刺さる。
『シャドーボール』は効果が抜群、サーナイトは大きく吹き飛ばされた。

ユウキ 「サーナイト!? 大丈夫かサーナイト!?」

サーナイト 「は、はい……」

地面を転がったサーナイトは顔面を土煙で汚しつつも、ゆっくりと立ち上がる。
元々ウチのサーナイトは華奢なだけに無茶をしてないか心配だが……。

ユウキ 「サーナイト正直に答えろ、大丈夫か?」

サーナイト 「も……勿論ですよ、マスター」

俺はサーナイトを睨みつけてしっかり尋ねるとサーナイトは立ち上がり振り返ると微笑返してそう言った。

ユウキ 「言動には責任持てよ、こっちは痛くも痒くもねぇんだ。本当に戦えるのかどうかの判断はお前にしかできないんだからな」

格闘技において、セコンドの判断が遅れて台無しになった選手っていうのはいくらでもいる。
こっちは多少の命令をするものの、基本はポケモン任せだ。ポケモンが痛かったら痛い、戦えないなら戦えないと言ってくれなきゃこっちは正確な判断はできない。
だが、サーナイトはあくまでニッコリと笑いかける。
ポケモンがそういう顔をしたら俺は信じるしかない。

ユウキ 「サーナイト、 『テレポート』から『シャドーボール』!」

サーナイト 「!」

サーナイトは瞬時に俺の命令に対応して『テレポート』を行った、瞬間移動、一見すると便利極まりない技に見える、上級者でも意外と対処法を知らない人も多い。
だが、この技にも決定的に弱点と言える部分はある。

イヴ 「『テレポート』か、エーフィ、ゆっくり待てばいい」

エーフィはその場で静止する。
サーナイトが次に現れるまでの僅かなタイムラグ、サーナイトは今、この世にいるようでこの世にいないといえる。
まさに『テレポート』中のサーナイトは一切の手出しが不要だと言える。

サーナイト 「!」

イヴ 「エーフィ! 後ろだ!」

イヴさんの行動はまさに適切、相手が『テレポート』したらまずは焦らないこと。
トレーナーとポケモン二人の目があればこの狭いフィールドすべてを見渡すことは決して難しくはない。
次に、決定的な『テレポート』の弱点が顕になる……だが、それも見越しての布石だ!

シャベリヤ 『サーナイト、エーフィの真後ろに姿を現した! だがエーフィのの反応も速い!』

エーフィはサーナイトが後ろに現われるとイヴさんの言葉を受けて後ろを確認することなく振り返って走りこむ。

イヴ 「『テレポート』の弱点はその異様な待機時間だ! 使用後約1秒から3秒ほど他の技を使うはおろか、動くこともできない!」

どれだけ素早さの差があろうと、ポケモンたちは本気で撃ちあうと必ず1ターン1回の攻撃しかできない。
それは全ての技に待機時間という硬直が存在するからだ。
『テレポート』はとりわけ硬直が長い、だからこそ対処法を知っている相手にはこの僅かなデッドタイムこそが死活問題になる。
だが、俺はそれさえ餌にして大物を引っ張る!

イヴ 「エーフィ、『かみつく』攻撃! もう体力は残っていない! いけぇ!」

攻撃の直後の『テレポート』ならばほぼ、相手の硬直の性で無償で行動に移れるため、『テレポート』は本来当身技のような使い方が必要になる。
だが、俺はそれをイヴさん相手に出来なかった。
たったひとつの技でも、多くのバリエーションを発揮し、多彩な対応ができる老練されたエーフィの戦闘スタイルは、才能だけでは手に入れることのできない絶対の経験による技。
そんな相手を相手に必ず確実な相関をもって、技を決める自信がないからこそ、この戦術に至った。
エーフィは直ぐ様サーナイトに飛びつき噛み付くのだ。
悪のタイプの技であり、それでなくても、もう体力の残っていないサーナイトには辛い一撃だ。

ユウキ 「体力がなくなれば根性値! サーナイト! エーフィを地面に叩きつけてぶち込め!」

サーナイト 「! うあああああああっ!」

サーナイトには言動の責任を取ってもらう。
大丈夫と言ったからにはサーナイトにはその言葉に見合う行動を取らないといけない。
サーナイトはエーフィを地面に叩きつけるとそのまま『シャドーボール』を生成して……放つ!

ズドォォン!

シャベリヤ 『き、決まったぁっ! サーナイト、不屈の一撃! 動けないエーフィに『シャドーボール』が直撃だ! しかし爆発にはサーナイトも巻き込まれたぞ!?』

サーナイト 「はぁ……はぁ……う……!?」

爆風により巻き起こる土埃が消え去るとそこに立っていたのはサーナイト、エーフィは横たわっていた。
最後の一撃を放ったサーナイトは自身も『シャドーボール』のダメージを受けている、俺の命令なしでももう立てないだろう。
誰の目にもわかるほどふらついたサーナイトは吸い込まれるように前のめりに地面に倒れた。

審判 「! サーナイト戦闘不能!」

エーフィ 「……ふぃ」

エーフィはというと……おそらくダメージはあったはず。
だが、さすがに一撃で倒れるというのは虫がいい話か何事もなかったように立ち上がった。

シャベリヤ 『なんということでしょう! 技を決めたサーナイトですが、倒れたのは自分だけ! 『シャドーボール』の発射位置が近すぎたか!?』

ユウキ 「戻れサーナイト、おっけ、よく頑張ったな」

俺はサーナイトをボールに戻すとよく労っておく。
サーナイトはよく頑張った、だが……予想以上にエーフィが強い。
そして、イヴさんが読めない。

ユウキ (優れたポケモンと優れたトレーナーの調律はまるでマエストロ……美しいとさえ取れるほどだ、俺にはまだ辿り着けない境地だろう)

イヴさんの力もエーフィの力も非の打ち所がないほど素晴らしい、イヴさんの冷静な判断、豊富な知識、そしてエーフィの努力により作り上げられた高い実力、そして才能が恐ろしい凶器だとまざまざと知らせる。
二匹……早くも二匹がやられたのだ。
相手にはこのエーフィクラスが後5匹いると考えられるのにだ。

ユウキ (ここまで絶望的で、負けしか見えてこない戦いはシャドウ戦以来だな)

俺は少し思い出す。
あれはそう……火山、フエンのえんとつやまでの戦い以来か。
あの時明らかにレベルの違う相手のバシャーモ相手に、タイプは有利でもヌマクローで絶体絶命の戦いを強いられた。
正攻法では何度シュミレートしても勝ち目が見当たらない、そんな戦いには奇跡を用いる以外に勝ち目がなかった。
おおよそ現実的ではない、トレーナーとしては大失格の戦術……そんなものを取らないといけないほどの絶体絶命。
それが俺の背筋を冷たく冷やしてくれる。

ユウキ 「ふふ……はっはっは。こいつぁいいや、今日は暑いしな……はは」

ふと、昔のことを思い出すと笑いがこみ上げてきた。
絶体絶命、確かに絶体絶命だこりゃ。
だが、考えて見れば俺はまだ半年に満たない新米トレーナー、俺より何倍も長くトレーナーやっている人間をいくらでも倒してきちまった。
新米が負けるなんて……当たり前なんだよな。
気がついたら勝つことが当たり前になってやがった……反省反省。

ユウキ 「さぁ、楽しもうか! いけ、ボスゴドラ!」

俺は勝ち負けにはこだわらないことにする。
初志貫徹といくつもりが、気がついたら戦っていくうちにどうすれば勝てるか、どうやって勝つか……そんなことばっかり考えていた。
いつのまにかポケモンバトルを楽しむのを忘れていた。
だから俺はここで……初心に戻る!

ユウキ 「ボスゴドラ、突進しながら『かえんほうしゃ』!」

ボスゴドラ 「ボッスー!」

ボールから出たボスゴドラに対して俺は直ぐ様命令を行った。
地鳴りを起こし、エーフィに突撃する色違いのボスゴドラは大いなる迫力があり、小さなポケモンならそれだけで身を竦めるだろう。
だが、その実力からにじみ出るオーラは遥かにエーフィの方が大きく威圧的だ、そう、だからこそこちらは挑戦者として挑まないといけない!

イヴ 「エーフィ、『すなかけ』!」

火炎をまき散らして突進するボスゴドラに対してエーフィが行ったのは『すなかけ』。
一見アンバランスな技に思えるが、砂は焼けるが消えはしないため有効であるといえた。
地面を蹴って大量の砂を巻き上げ、それはボスゴドラの目に入ってしまう。
慌てて砂を振り払おうとしてボスゴドラはその場で右往左往してしまう。
攻撃技を用いず無傷でその場をやり過ごすイヴさんのやり方には素直に感心する。
だが、こっちもただで終わらせはしない。

ユウキ 「『アイアンテール』! 見えなくても振れば当たる!」

ボスゴドラ 「! ボースッ!」

ボスゴドラの尻尾が光る、直ぐ様水平に振り回される鋼鉄の尻尾。
だが、見るとエーフィの方も尻尾が同じように輝いていた。

イヴ 「エーフィ! こちらも『アイアンテール』!」

それは少しポケモンを知っている人間なら誰が見ても馬鹿なという行為だろう。
エーフィの小さな体格、非力な力でボスゴドラに同じ技を挑むのだ。
ましてボスゴドラの場合はタイプ一致の技、エーフィの使うそれとは威力が違う。
誰から見ても、これはエーフィの自殺行為、そうとしか思えない。
少なくとも命令した本人と、それに対峙する俺以外は!

シャベリヤ 『エーフィとボスゴドラの『アイアンテール』がぶつかり合う! しかしやはりパワー負けだ……いや、これは!?』

先に放ったのはボスゴドラ、それに合わせたのがエーフィだ。
枝分かれした尻尾を鋼鉄に変化させてボスゴドラの尻尾の先端を打ち付ける。
するとどうだろうエーフィの体はクルクル回転しながら上空に打ち上げられた。
目の見えないボスゴドラにはインパクトの瞬間物体が上部に飛び上がり、成功したと思うだろう。
だが、実際にはイヴさんの掌の上だといえる。

ガコォン!

ボスゴドラ 「!? ゴ……ドォッ!?」

クルクル空中で大回転しながらもエーフィの尻尾は鋼鉄のままだ。
落ちてくる落下速度を利用して、放たれる必殺の一撃は正確に、そして的確にボスゴドラの頭蓋を捉えた。

ユウキ 「あちゃ、やられた……あの角度で打たれたら逆に頑丈な鋼鉄の体が仇になるんだよな」

ボスゴドラの体は砲弾すら弾く強靭な鋼の体を持っている。
だが時にこれが仇になることもある。
頭には当然脳が詰まっている。
こいつを強く打ち付けられると、脳が揺れてその強靭な鋼の体に脳が叩きつけられる……それも何度も。
ボスゴドラを物理的に倒すのなら非常に有効な手段だが、ボスゴドラ使いでもなければ、後は格闘家くらいしかこんな弱点気づかないはず。
てぇことを考えると……。

ズッドォォォン!!

ボスゴドラの体はいともあっさりと地面に倒れた。
そりゃそうだわな、体の内部は鍛えられないからな。

審判 「ボスゴドラ戦闘不能!」

シャベリヤ 『玉・砕! エーフィの攻撃失敗かと思われた刹那、落下速度を利用した『アイアンテール』がボスゴドラの頭を撃ち抜いた! ボスゴドラたまらずダウン!』

ユウキ 「本当に教科書みたいな人……さすがミスター教科書」

俺はパチパチ拍手をしながらボスゴドラをボールに戻した。
もしかしてこの人すべてのポケモンの弱点、特性、習性、癖とか覚えてるのかね?
どんな技も、どんなポケモンでも的確に対応するこの順応力、下に下に恐ろしい。

ユウキ 「早速3匹か……恐ろしいよな! いけ!」

俺は四匹目を投入する。

コータス 「コオオオッ!」

黒煙をばら撒き存在をアピールするコータス。
対グレイシア戦にとっておいたがそうも言ってられんか。

エーフィ 「ふぃ……ふぃ……」

イヴ (……100%の力で戦えるのは3匹までか……やむをえまい、相手はそれほど易しくない)
イヴ (観客からはさも易しく勝っているように見えるだろうな……全く、こっちはひとつでも間違えれば終わりの可能性があるというのに)

ユウキ (いい加減エーフィも疲れてきてるか……200%以上の戦果を発揮されて呼吸も荒れてないとか信じられないわな)

エーフィはダメージもたまり、呼吸も僅かに荒くなってきていた。
エーフィを倒すのは後もうちょっとで済みそうだが……その先だわな。
まぁ、この勝負に勝ちは見込まないが……エーフィは意地でも倒す!

ユウキ (なんでエーフィを交換しないのか分からないが……いや、交換する必要なんてないってことか?)

現実にここまで3匹が倒された、しかもほとんどが1〜2発の攻撃でだ。
まるで生き急ぐような戦い方だが、早くも半分がやられたのだから仕方がない。

ユウキ 「コータス、『えんまく』!」

コータス 「コオオオッッ!」

コータスの背中から煙幕が大量にばらまかれる。
催涙性はないので、目や呼吸器に入っても害はないが、視界は確実に奪う。
この後にイヴさんがやる行為は!

イヴ 「エーフィ、『ねんりき』! 煙を払え!」

ユウキ 「おし! いけ!」

エーフィ 「!?」

エーフィの視界が急に暗くなる。
『ねんりき』でエーフィが煙幕を急いで払っていくと急に太陽が何かに遮られたのだ。
やや、古典的であるが、このコータスが得意としていた戦術だ、今更命令しなくても阿吽の呼吸で行える。

コータス 「コーーッ!」

エーフィ 「!? フィーッ!?」

イヴ 「エーフィ!?」

シャベリヤ 『コータスの『のしかかり』! エーフィの小さな体を押しつぶしたぁぁ!』

ユウキ 「まだだ! 『かえんほうしゃ』!」

煙幕で相手の視界を奪い、コータスの『のしかかり』。
エーフィはコータスの重量に苦しむが、ここで追い打ちを命令する。

イヴ 「エーフィ、『あなをほる』!」

エーフィ 「!? フィッ!」

エーフィはすかさず地面を掘って土の中に隠れた。
有効な戦術だ、『かえんほうしゃ』は直ぐ様その掘られた穴に放たれたがおそらく届くまい。

ユウキ 「コータス、出てきた所に『オーバーヒート』だ! 一撃で決めるぞ!」

コータス 「コーッ!」

コータスはどっしりと足を地面に付けてエーフィの出現する気配を探る。
出てきたところにズドンとうてばもう体力は残っていない、ダウンのはずだ。

ボコッ……。

ユウキ 「! コータス、『オーバーヒート』!」

コータスの目の前の土が動いた。
その瞬間俺はためらわずに命令を行う。
まだ、トリックに気づかないまま。

シャベリヤ 『エーフィ、絶体絶命! コータスがそのあぎとを開いて待ち構えているぞ!?』

ユウキ 「いけ!」

コータス 「コーーッ!」

地面からソレは飛び出した。
俺は相手に反撃の予断を与えないために直ぐ様攻撃命令を出した。
それは見事放たれた『オーバーヒート』に焼き尽くされる。
やった……そう思った時だった。

ユウキ 「!? こいつは!?」

『オーバーヒート』の炎に焼かれたソレはエーフィであり、エーフィではなかった。

シャベリヤ 『なんと『みがわり』!? 焼かれたのエーフィじゃない、『みがわり』だぁぁぁ!!』

そう、それは『みがわり』だった。
地面の中で『みがわり』を作ってそれを先に地面に出したのだ。
後から飛び出すエーフィ、コータスは『オーバーヒート』の反動ですぐには動き出せない。

イヴ 「エーフィ、『フラッシュ』!」

エーフィ 「! フィーッ!」

エーフィの体が発光する。
まるでその場に太陽が出現したかと思うほどの強烈な光はコータスはおろか、俺まで視界を奪われた。

ユウキ 「ち……くそっ!」

イヴ 「いい天気だな、暑い……エーフィ、『あさのひざし』」

エーフィ 「ふぃ……」

エーフィが太陽の光を吸収し、エネルギーに変える。
日差しが強いこの状況下ではより一層強い効果を得られるだろう。

ようやく……視界は戻ってきたその時には。

ユウキ 「なんてこった……」

シャベリヤ 「なんということでしょう……一瞬の隙をついて使った『あさのひざし』によりエーフィの体力は大幅回復、大してコータスは『オーバーヒート』の反動で激しい倦怠感に包まれている!」

最悪だ……やっとこさ倒せる辺りまで追い込んだというのに気がついたら逆転され、振り出しに戻った。
先を急ぎすぎた……か、慎重さに欠き勝負を焦りすぎた。
緩急をつけた戦い方についていけなかった……か。

イヴ 「終わりだ、エーフィ、『サイコキネシス』!」

ユウキ 「くっ! せめてもの抵抗、もう一発『オーバーヒート』!」

体力を回復させたエーフィの力に反動で弱っているコータスの力が叶うわけはない。
その体は簡単にエーフィに囚われ、せめてものの抵抗の『オーバーヒート』二発目がエーフィを包みこむ。
しかし、『サイコキネシス』の余剰エネルギーを用いて、炎は払われ、ダメージはあまりないようだった。

エーフィ 「!!」

エーフィの念により、コータスの体は地面に逆さまに叩きつけられた。
元々特殊防御力の低いコータスではこの一撃は耐えられない……くそ!

審判 「コータス、戦闘不能!」

シャベリヤ 『四匹目! かつてこれほど一方的な戦いがあったでしょうか!? しかし、皆さん忘れてはいけない! ユウキ選手は弱くないのだ! では! このイヴ選手の強さは一体なんなのか!?』

ユウキ (俺とイヴさんの強さの違い?)

ふと、司会の声が耳に残った。
俺とイヴさんの強さの違いってなんだろう?
俺は確かに力をつけたはず、それはジム戦、そして四天王戦でも勝ってきた……それは紛れもなく俺とポケモンたちの力のはずだ。
では、このイヴさんとの力の差はなんなんだ?
理由が存在するのか、だとしたらそれは一体なんだ?

ユウキ (く……訳の分からないこと考えてる場合じゃないか!)
ユウキ 「任せたぞ! ラグ!」

ラグラージ 「ラッグーッ!」

ついに5匹目、俺は自身のパーティのエースをついに投入する。

ユウキ 「ラグ……二度目だ、トレーナーとしても、ポケモンの育成においても俺達が完敗だと思った相手に出会ったのは」

ラグラージ 「……ラグ?」

ユウキ 「俺とお前は決定的に違う部分がある。俺は基本戦うくらい逃げる性格だ、お前は逆に相手が強いほど楽しいタイプだろ」

ラグラージ 「……」

ラグラージはコクリと頷く。
こいつのことは誰よりも知っている。
俺と一番近くにいたはずなのに、俺の正反対を突き進む変な相棒。
ポケモンはトレーナーに似るっていうのに、こいつときたら全然俺に似やがらない。
だからこそ……だからこそだ。

ユウキ 「……俺にはイヴさんと俺の違いがわからない、一体何が違うのか……だから、お前に行ってもらう。お前も俺と違うから……ラグ、任せた!」

ラグラージ 「……!」

ラグラージは振り返り、俺に一瞥するとエーフィに向き直った。
まるで力士のように腰をあげ、地面を踏み抜くと、両手を前のめりに地面につけて構える。
ラグラージ種の最も自然な姿勢、ラグの本気がどこまで通用するか……見てみたい!

ラグラージ 「ラッグッ!」

突然ラグラージは口から泥の塊を発射した。
ラグの『マッドショット』だ。
エーフィは驚いた様子だったが、直ぐ様反応して回避した。
だが、ラグはその回避を読み、素早く先回りする。

イヴ 「速い! ビデオで確認するより更に!」

俺のラグは確かにラグラージとしては素早いだろう。
だが、それもラグラージとしての素早さでしか無い、その本質はエーフィの足元にも及ばない。
だが、ラグは周囲の環境をうまく利用する。
四角いフィールドを丸く使い、どう動けば相手を追い込めるか的確に詰められる。
そしてそれは、人間にはまるで高速で動いているようにしか見えないだろう。
だが、それも錯視にすぎない。
だが、錯視は驚異だ、ありえないはずのものが脳ではそれが正常だと認識してしまう。

そう、まさにエーフィとイヴさんには今ラグは素早いと脳が認識している状態だ。

イヴ 「エーフィ、『スピードスター』!」

エーフィ 「!」

エーフィは直ぐ様『スピードスター』を放つ。
無数の手裏剣のような『スピードスター』はラグラージを容赦なく襲う。
だが、ラグラージはひるまない、その程度の攻撃ではラグは止められない。

イヴ 「!? こいつ……攻撃を受けながら前に!?」

ユウキ (お前らしいやり方だ、俺なら絶対やらないね)

『スピードスター』をうけながら突進するラグは背中から腕を伸ばしてエーフィの首を掴む。
ラグは『かいりき』も使えるから何気ない行為がそれに当たることがある。
だから肉弾戦もラグは怖い。

ラグラージ 「ラグッ!」

ラグラージはそのままエーフィの首を掴んだまま、地面に叩きつけた。
エーフィの顔が歪む、元々エーフィもそれほど打たれづよくはない。
こういう理屈抜きの衝撃には特に弱い。

イヴ (くっ! ビデオで見る戦術とはさすがに違うな……しかし、トレーナーが命令しないとは!)

珍しくイヴさんの顔が歪む。
俺はバトルは俺より得意なラグに完全に任せて、イヴさんとエーフィを徹底的に観察することにした。
その表情、その仕草、その言葉をすべて見逃さず俺は自分とイヴさんの違いを観察した。

ラグラージ 「ラグッ!」

ラグラージは地面にエーフィを叩きつけても行動を止めはしない。
そのままエーフィを離すと、足を持ち上げた。

イヴ 「! いかん、避けろエーフィ!」

エーフィ 「エッフィ!?」

エーフィは咄嗟に飛び退いた、次の瞬間のその場が陥没する。
ラグラージのまるで丸太のようにふとい足が地面を踏みぬいたのだ。
少しでも遅れていたらエーフィの肋骨がエグイこと担っていた気がするが、おそらくラグも避けられると見抜いた上でのやり方だろう。
あいつはスイッチが入る前までは比較的紳士的で、相手に怪我はさせない。
スイッチが入っちまうと、徹底的に相手を潰しちまうのが難点だが……。

ラグラージ 「……」

ニヤリと笑うラグラージ、イヴさんたちには不気味に思えるだろう。
ラグは戦いの本質を楽しんでいる。
今はスポーツの域で楽しんでいるに過ぎない、相手が一戦を超えると、それは闘争というにはあまりに生々しくなる。
できることなら……見せることなく終わって欲しいがな。

イヴ (ラグラージ種としての弱点は変わらんだろうが、スタイルがあまりに違いすぎる、それに実戦経験が少ないのもきついな)

エーフィ 「……フィイイイ」

エーフィも息を大きく吸い込む、緊張でエーフィの筋肉がこわばっているのだろう。
こちらが命令を出さないことも、一瞬ではあるが反応を遅らせる。
なんのかんのいってもトレーナーが命令を出すということは、相手に何をするのかも知らせてしまう。

ラグラージ 「……ッ!」

ラグラージは突然後ろカカトで地面を踏みぬいた。
僅かなモーションから繰り出されるこの技は!

ズドォン!

シャベリヤ 『おおっと! ユウキ選手のラグラージお得のノーモーションの直下型地震がフィールドを襲うぞ! 完全にエーフィ虚を突かれた!』

イヴ 「どうせ見てから反応できる技じゃない! くるぞエーフィ!」

エーフィ 「!」

ラグの『じしん』は走りこむ予備動作の中に含まれている。
地震の発生と同時に走りこみ、地震で動けないエーフィに襲いかかる。

エーフィ 「フィイイイッ!」

ラグラージ 「ッ!?」

突然エーフィが激しく毛を逆立てて唸り声をあげるとラグラージが寸前で止まった。
相手に弾幕を張られても平然と走り抜けるラグが止まるということは……それほどのプレッシャーを押し付けられたか。

ユウキ (声だけでラグの前進を止めた奴は初めて見たな……)

人間には分からないが、あのエーフィがラグが止まらないといけないほどの殺気を一瞬で放ったってことか。

ラグラージ 「!! ラッグーーッ!」

意を決してラグラージが突っ込む。

イヴ 「エーフィ、『サイコキネシス』!」

待ち構えるイヴさんとエーフィ。
エーフィの額の宝玉が光るとラグの体が不思議な膜に包まれ身動きが取れなくなる。
ラグも必死に動こうとするが、そのたびに体はきしむ一方だ。

イヴ 「やれ!」

エーフィ 「!」

エーフィが力を開放すると、ラグラージが後ろに吹き飛ぶ。
地面に擦りつけられた、勢い殺さぬままフェンスがへしゃげるほど強く壁面に叩きつけられたのだ。

ラグラージ 「ラ……グ……ッ!」

壁にめり込んだラグは口から喀血する、大ダメージだ……普通なら耐えられない。
普通なら……な。

シャベリヤ 『す、凄まじい一撃です。人間ならば即死でしょう……ですが、な、なんと言いましょうか? ら、ラグラージ笑っています!』

イヴ 「笑うだと……?」

ラグラージの口から血が地面にこぼれ落ちる。
なのに……ラグの顔は笑っていた。
口がまるで人形のように曲がって満面の笑みを口に浮かべている。
だが、まるで光が映らないような瞳は笑っているとは程遠い。
ゆらりと体を前に傾けると、足を地面につけた。
しかし自身の体重を支えることができず体がぐらつく。
だが、なんとかその場に立ってみせた。

あまりに異様な光景に、イヴさんはおろか、観客も……司会でさえも言葉を失っている。

ユウキ (公式戦では初めてか……ラグの修羅を出す奴が出てくるとはな……)

うすうす危惧はしていた。
イヴさんのエーフィは強すぎる、それこそ規格外に。
だからこそ、ラグのもうひとつの顔を引き出してしまった。
もう、こうなったらラグは俺の命令もほとんど聞かない、ただ相手を倒すだけの修羅に化けるだけだ。

ラグラージ 「……グ」

その場でラグが裏拳をすると、フェンスが砕けた。
それは一種のデモンストレーションか何かだろうか?
否、ラグはそんな回りくどいことはしない。
ラグの手にはフェンスの破片があった。
何をする気か……そう思った刹那、ラグは破片をエーフィに投げつけた。
エーフィは瞬時に『ねんりき』でそれを止めると、地面に落としてみたせた。

だが、その瞬間にはラグが走っている。
先程のダメージが無かったことになったのかと思うほどの速度、それはまやかしではない。
体を異常なほど酷使したその動きは、あまりに速い。

イヴ (なんだこの異様な気配、押し殺されるほどのプレッシャーか? こんな異質な空気は初めてだ……だが)
イヴ 「俺は負けん! エーフィ、奴はもう虫の息だ、ほんの一押しでいい、いけ!」

エーフィ 「エーフィ!」

恐怖で震えていたエーフィの体はイヴさんの言葉を聞くと、震えを止めてラグラージに飛び出した。
そのスピードはラグラージ以上。
エーフィの『でんこうせっか』だ。
たしかにもう何をやってもラグは倒れるだろう。
だが、体の危険信号を無視して戦うラグはひとえに恐ろしい。
特にその反応速度、銃弾すら回避するんじゃないかって恐ろしささえある。
エーフィの小さな体もまさに風の如くラグラージに襲いかかったが、ラグラージはそれを超える動きを見せる。
いや、やはり動きはエーフィの方が速い、ただラグラージは各部位を高速で動かし、ほぼ無駄のない動きでエーフィを見切ったのだ。
見切った上でその後の動きはあまりに鮮やかだった。

言葉も放てないほどあっという間の間。
その間にラグはエーフィの体を手で地面に押し付けた。
ただ、押し付けるだけなら最初と一緒。
しかし、その瞬間に地面が隆起するほど揺れる。
ラグの地震……いや『震貫』か、荒業だったが、ダイレクトにエーフィの体内に地震を発生させた。

エーフィ 「エ……フィ……ィ……」

エーフィはなんとか立ち上がろうとするが、ついに体は立ち上がることがなかった。
ゆらりと立ち上がるラグラージ。
その顔はまるで般若の笑み、体はボロボロで立っているのも不思議なほど。
だが、勝利者の笑みを浮かべ、その場にそびえていた。

審判 「……あ、エーフィ戦闘不能!」

それは、審判の声だった。
誰も声を出せない、ある者は圧巻のため……ある者は恐怖のため。
だが、審判の声が静かなフィールドに響いた時、今までで一番の歓声が巻き起こった。

シャベリヤ 『陥落! ついにエーフィが陥落した! だが、まだ一匹を倒しただけ! このバトルはどうなるのか!?』

イヴ 「……ダメだったか」

ユウキ 「?」

イヴさんは静かに目を瞑る、小さく首を横に振った。

イヴ 「戻れエーフィ、よく頑張ったな」

イヴさんはエーフィをボールに戻すと、当然の労いを行った。
だが、その後イヴさんはポケモンを出す様子がない。

イヴ 「……降参だ」

審判 「……わかりました。イヴ選手、降参によりこの勝負ユウキ選手の勝ち!」

ユウキ 「なんだと?」

突然エーフィが倒れるとイヴさんは降参だという。
まだ、イヴさんは五匹も残しているのにどうして?

観客 「ブーブー!」

観客たちも当然のブーイングをしている。
そりゃそうだろう、どう考えてもこっちは負け戦。
降参で勝ちを貰ってもこっちは嬉しくもない。

だが、イヴさんはゆっくりとフィールドを横断して俺の前に立つと。

イヴ 「私のポケモンはエーフィ一匹だけだ、後ろはいない……だから全滅なのだ」

ユウキ 「なっ!? あんた……それが挑戦者の姿なのか!?」
ユウキ 「アンタは人を馬鹿にしているのか!?」

イヴ 「……君には悪いと思っている」
イヴ 「だが……私には戦いを放棄することの方ができなかった……それだけだ」

ユウキ 「対当のバトルをせずに相手に挑むのは、相手に対する冒涜だ。そればかりは俺は認められない! 降参、俺も降参だ!」

俺は不愉快になって、そう声高らかに言う。
観客たちがにわかにざわめき始めた。

シャベリヤ 『ええ……なんといいましょう、両者降参を表明しました……ええと、大会のルールに基づくとこれは……』

審判 「……両者降参により、この勝負引き分け!」

シャベリヤ 『そう、引き分け……引き分けとなります! なんということでしょう、ここで引き分け!』

俺はこんな勝ち方は認めない。
本当なら負けでもいい、こっちは五匹つかって倒したのはエーフィ一匹。
こんな馬鹿げた引き分けがどこにあるってんだ……たく。

ユウキ 「ご苦労さん、ラグラージ……戻って休め」

ラグラージ 「……」

俺はラグラージをボールに戻すとフィールドを跡にしようとする。
でも、最後にイヴさんに伝えたいことがあって、俺は足を止めた。

ユウキ 「……イヴさん、あなたのバトルに対する情熱、そして覚悟はわかりましたし……それも認めます」
ユウキ 「だから敢えていいます……ポケモンリーグに貴方の居場所はない……もし居場所を求めるなら……もっと高い遥かなる高みでしょう」

イヴ 「さらなる高み……?」

ユウキ 「……」

ポケモンリーグのバトルは、あくまで競技、見せ物であり、スポーツだ。
イヴさんはあまりに求道者すぎる。
あの人はこの場にいるべき人ではない。
俺は、不愉快な思いを抱きながらその場を後にした。




ポケットモンスター第100話 『VSイヴ 覚悟』 完






今回のレポート


移動


サイユウシティ


3月11日


現在パーティ


ラグラージ

サーナイト

チルタリス

ユレイドル

ボスゴドラ

コータス


見つけたポケモン 66匹






おまけ



その100 「百回なのに……」





今回もおまけないんです……おまけの定義がわからなぃぃぃ……。



おまけその100 「百回なのに」 完


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