ポケットモンスター サファイア編



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第101話 『終焉の世界』






シャドウ 「ポケモンの回復、終わったのか?」

ユウキ 「ん……明日受け取ることになった。ラグ辺りは無茶したしな」

イヴ戦終了後、気分の悪い俺はさっさとホテルに帰った。
ポケモンはポケモンセンターで預けて明日の回復を待つ。

ユウキ 「なぁ……シャドウはポケモンと触れ合ってどれくらいになるんだ?」

シャドウ 「ずいぶん突然だな……まだ2年位だと思うぞ」

ふと、俺は気になったことを質問すると、シャドウは少し考えて答えた。
2年か……俺の倍以上はあるんだな。

ユウキ 「シャドウはなんでポケモントレーナーになった?」

シャドウ 「……カードはもっていない。だから明確にはポケモントレーナーではないぞ」

ユウキ 「んなこたぁどうでもいいよ、ようは本物だろうが真似事だろうが……やろうとした理由ってあるだろう?」

シャドウ 「ならば先にお前が答えたらどうだ? あまり自分ばかり質問は失礼じゃないか?」

ユウキ 「……俺、か」

俺は少し思い出す。
思い出せばまだホウエン地方に引越してきたのって半年前のことなんだよなぁ……。

ユウキ 「俺はパパのようなトレーナーになりたかっただけさ。ポケモンも好きだったしな」

シャドウ 「……だが、トレーナーというのはそんな綺麗な存在ではない」

ユウキ 「ま、実感させられたわな」

ポケモンは生き物だ、決してロボットのようには動いてくれない。
そしてこの世界は、それを忘れている。
ポケモンバトルを娯楽とし、ポケモンの痛みをただの数値として認識し、形骸化していた。
そして俺もそんなシステムに填め込まれた歯車のひとつにすぎない。

ついさっき……あのイヴ戦のせいで今の自分に疑問しかない。
ゲンジ戦……そしてイヴ戦、どちらも俺に疑問を投げかけてきやがった。
人間はとても複雑に見えるが、見えている部分はとても単純なものなんだ。
面倒なのはその見えている部分が多すぎて、しかも今は複雑すぎるからかったるい。
なんでトレーナーになったんだろう……て考えるけど、それはやっぱりパパみたいになりたかったって答えるべきか。

シャドウ 「明日で最後だな……」

ユウキ 「だな……そういやペルは?」

そういえばペルの姿が見えない。
日中ならば問題はないと思うがどこに行ったんだ?

するとシャドウは無言のまま上を指さした。
上階……いやそれより上。

ユウキ 「……屋上か」

俺はそうつぶやくと立ち上がり、屋上へと向かった。





ユウキ 「3月つっても………サイユウは暑いわな」

屋上に出た俺は手で日差しを遮りある影を捜す。
するとそれはすぐに見つかった。
物干し竿に掛けられた白いシーツが風に揺られる中、その奥でたなびく黒い姿。
ベランダに手をおいて地平線を見る少女の黒いワンピースが風に揺れている。

ユウキ 「……聞けば、ここにいるのがずっと日課らしいな」

ペル 「……ユウキ?」

昼間は俺がいないことが多い。
俺は試合もあるし、基本的にはポケモンの回復を見届けてから戻るからいつも帰るのは夕暮れだ。
だからこんな昼間から俺がここにいるのは珍しいだろう。
シャドウの話しではここ最近は大体ここにいるらしかった。

俺はペルの少し後ろから話しかけるとペルと同じように手すりに手をつけてサイユウの空を眺める。
スカイブルー……そして綿雲……見えるのはそれだけ。
だけどペルにはもっと別の何かが見えるのかもしれないな。

ペル 「……」

ユウキ 「?」

ペルはチラチラとこちらを見てくる。
だが気になって俺が視線を向けると慌ててペルは視線を外した。
訝しげにしながらまた俺が目線を外すと、彼女は再びこちらを見てくる。

ユウキ 「目を合わせて話しにくいならこのまま聞いてやるよ、どうした?」

俺は遠くの空を眺めながらペルのおかしな行動を聞いてみた。
ペルはそれを聞くと、少し間をおいて。

ペル 「……なんでもない」

……と言ってくる。

ユウキ 「なんでもなくはないだろう、なら今日はなんで目線を外してくるんだ?」

ペル 「……わからない」

ユウキ 「わからないと来たか」

ペル 「……」

ペルはまた押し黙ってしまう。
視線だけはチラチラと感じるが、本人も恐らく自分のやっていることがよくわからないのだろう。

ユウキ (昨日の時点ではペルはまだ………求めるということがわかっていなかった)

恐らく彼女は俺を求めているんだろうが……肝心の求めるということをよく理解していない。
だからどうすればいいかが分からず戸惑ってしまう。

ユウキ 「ペル……ほれ」

俺はそう言うと手すりにおいたペルの手を優しく握る。

ペル 「……あ」

ペルからか細い声が漏れた。
ちょっといつもと違う声、か細いはまぁいつもどおりだが。

ユウキ 「ペル……どんな感じだ」

ペル 「手が熱い……けど、なんだか温かい」

ユウキ 「心臓は?」

ペル 「ドキドキ、脈打ってる」

ユウキ 「よし……だったら今度はペルが俺にやってみろ」

俺はそう言うと手を離し、手すりにおいた。

ペル 「……」

ペルはと言うと、しばらく俺の手を凝視したあと、割れ物を扱うかのように恐る恐る手を震えさせてゆっくり俺の手にその色白い手を置いてきた。
優しい置き方、加減の仕方がわからないから、極限まで優しくしているというのがわかる。

ユウキ 「ペル、好きな人に触れたいと思うのは人間としては当たり前の理念だ、もちろん特殊な性癖の奴もいるから絶対ではないがな」
ユウキ 「俺はペルに強制したつもりはない、最終的には自分の意思でその手は俺の手に置かれたはずだ……その意志がお前の求めだ」

ペル 「これが……」

ペルはそう小さくつぶやくとキュッと俺の手を握ってきた。
少し痛い、だが俺は顔には出さずただ受け入れてあげた。
ペルは人間の言う当たり前がわからない。
当たり前というものもそれは人それぞれの当たり前があり、定義など存在できないのだからおかしな話ではあるが、とにかくペルには当たり前がないのだ。
人間が持つべき感情が何一つないから何も感じなかったのだろう。
特に興味という感情がなかったのは大きい。
人間は興味という感情で行動できるが、ペルはそれができない。
だから何もしなかった……そう、何千年も。

ユウキ 「ここからの光景はペルにはどう見えるんだ?」

ペル 「青い空……白い雲……それだけ」

ユウキ 「そうか……その景色を見る意味は?」

ペル 「意味?」

俺はあえてこの難題をあげる。
人間が空を見るなんて大抵は何となくだろう。
そう……ペルもそのなんとなくでいい。
だけど、彼女はなんとなくなんて思わないだろう。
曖昧がわからないから、彼女は必ず意味を求めるだろう。
人間なんて曖昧でいいのにな。

ペル 「私の自由は多分、ここにしかないから」

ユウキ 「……そいつぁヘビィだな」

予想外の言葉にちょっとびっくりしてしまう。
自由……か、そうだな。
ペルは生まれからずっと自由だったろう。
自由で……なんの影響も受けなかった……その結果何も無い空っぽの存在になった。

だから無限の時に監視されている今というのはすごく不自由な時間だろう。

ユウキ (その気になればペルは無限の時からも逃げるなんて簡単だろう……だとすると)

本当に彼女を拘束しているのは俺たちなのかもしれない。

ユウキ 「ペルはどうしたい?」

過去にもしたこの質問その答えは……今も一緒だろうか?

ペル 「……ユウキと、一緒にいたい」

? 「――……だけど、その願いは本当に叶えられるのかな?」

ユウキ 「!?」

俺は瞬時に振り返る。
全く気配を感じなかった。
そこにいたのは妖艶な一人の女性だった。

女性 「ふふ、睨まないでほしいなぁ、君……あの子と同じ見た目だけど君は温和そうなのに」

ユウキ 「あの子? シャドウか……あんたは誰だ?」

女性 「僕? 僕はソウス……よろしくね♪」

見た目は恐らくこのホテルの従業員。
異様にセクシーな女性で、俺が出会ったことのないタイプだが……俺の体がいつもの反応をしない。
いつもなら体が真っ赤になって、目を向けられないはずだが……コイツの時は逆に目をそむけるなというデンジャーな警戒心しか出てこなかった。

そう……こいつ、人間じゃない。

ソウス 「あら? もしかしてまた警戒されている? まぁいつもの事だけどねぇ……はぁ」

俺の様子を見てか、がっくりと項垂れて溜息を漏らしているが俺は心を止水のようにして様子を見た。

ペル 「……なんの用?」

ソウス 「うふふ♪ そうかぁ……ペルちゃんの意中の人はこの人だったのねぇ〜」

ペル 「……意中の人?」

ユウキ 「本当に好きな人という意味」

ペル 「ああ……うん」

頷いたってことは理解はできたということだよな。

ソウス 「僕にはねぇ……まるで君たちが蜘蛛の巣に引っかかった蝶に見えるんだよねぇ……どうあがいても自由にはなれない存在……て感じかなぁ?」

ユウキ (こいつ……俺たちの事情を知っていて挑発しているのか? 人じゃないのは確かだが、悪意も何も見えないのが不気味すぎる)

その女性の振る舞いは本当に普通の妖艶な女性と言う感じなんだ。
だがその女性には例えるなら色がない。
まるで真っ白な紙に白い色鉛筆で描いたような存在、それゆえに不気味だった。
俺が今まで出会った人外たちは、人外といえど色があった……それだけに対処のしかたが本当につかめない。

ユウキ 「俺たちが蝶ならあんたは蜘蛛かい?」

俺はあえて引掛けてみる。
もしヤマが当たっているのならば、こいつは相当まずいかもしれない。

ソウス 「蜘蛛かぁ……妖しくも美しい女郎蜘蛛というのも悪くないかなぁ? でも……僕は君たちをむしろ助けたいけどなぁ」

ふふっと最後に細い目で笑う。
誤魔化されたのか?
少なくとも向こうはやはり何も出す様子がない。
ラチがあかないかもしれないが、俺は多少危険な橋を渡る手段に出た。

ユウキ 「無限の時位は簡単に撒ける……それに奴ら臆病者には俺たちは手に出せないさ」

ソウス 「敵はそれだけとは限らないよ?」

ユウキ 「!?」

反応を示した?
いや、偶然かもしれない……だが。
それよりも敵が他にいる?

ソウス 「うふふ、まぁ冗談だけどね♪」
ソウス 「でも……これは冗談抜きのお話だけど、人は生きる上では一人にはなれない……だから永久に本当の意味で自由にはなれないんだよ」

それは妙に意味のあり気な言葉だった。
たしかに人間が人間として生きるには人間の目は避けられない。
それが人間が組み上げた世界のシステムなのだから。

ユウキ 「だったら、人のいない世界に逃避行するさ」

俺は冗談まじりにそう言った。
実際には本当に冗談だ。
人のいない場所など本当にこの地球には存在しえないだろう。
逆を言えば人という貪欲な生き物は自分たちが存在しえない場所以外はすべてを抑える。

それに人との関わりあいなくして人は生きられない。
人はそれ単体で万能ではない。

ソウス 「ふーん……君もやっぱりそういう選択をするんだ……」

ユウキ (君も? やっぱり……だと?)

コイツの言葉が冗談ではないのならば、俺と同じことを言った(もしくはした)奴が他にもいるのか?
だとするとくだらないな……そんな場所など本当に異世界にでもいかないとないだろう。

ソウス 「残念だなぁ……君達にもわかって欲しかったなぁ」

ユウキ 「どういう意味だ?」

この女の言っていることは一々意味ありげだが、意味自体はさっぱりわからない。
敵意も好意も無いこと事態が、こいつを不気味にし、否が応にも俺を険悪にさせる。

ソウス 「きっと君たちは追いかけられる……それも永遠に、だけど君たちはそれを断ち切る方法を持っている……知らないだけで」

ユウキ 「……」

知っているのか……知らないのか。
俺の意見でいえば、この女……いや、この化物は全部知っている上で言っているんだと思う。
そのまま意訳すると、無限の時は永遠に追ってくる、だが俺たちは断ち切れる、方法は知らないだけで……こうなる。
断ち切る方法? 無限の時をぶっつぶす……か?
いや、違うな……あいつらは物理的に潰しても意味はないし、下手にそうすればやられるのはこっちだ。
法律はこっちを味方してくれない。

ユウキ (だったら……本当に人のいない所に逃げろってか?)

その選択肢ならたしかに関係を断ち切れるだろう。
だが、そんな場所あるわけ……いや、まさか?

ユウキ (俺の能力と、あいつがあればいける?)

スフィアはとても便利だが繊細な能力だ。
異なる位相をサーチすることもできるが、それ単体ではそれだけでしか無い。
だが、異なる次元の位相を2つのスフィアでサーチして、その場を固定し、『白夜』でつなげれば、どんな世界でも渡れるだろう。
まだ、過程の段階でしかないが、この方法は不可能ではないはずだ。

ソウス 「ふふ、一応『今回も』聞いておこうかな? 君たちは『巻きますか?』 それとも『巻きませんか?』」

ユウキ 「はぁ? 何を言っている?」

ソウス 「ふふ、口で言わなくてもいいよ、後の結果で全てわかるから……それじゃ、さようなら愛しの二人♪」

ソウスはそう言うと屋上から去っていく。
俺とペルは呆然とそれを眺めた。
ふと、手すりから下を見ると、こちらを観察するサングラスの男の姿が確認できた。
俺は舌打ちする。

ユウキ 「かったる……最近訳がわからねぇ」

無限の時の視線はいつものことだ。
だが、今回は謎の化物まで現れやがった。
あいつが何者なのかはわからないが……だが、ひとつの決意は生まれた気がした。

ユウキ (無限の時……か、わかったよ……俺も覚悟を決める……だが、その前にやることがあらぁ)

俺は空を見上げた。
クリアブルーに綿雲の空。
ホウエンは今日も平和だろう。



…………。
………。
……。



『翌日 時刻09:00 ポケモンリーグ本選会場』


シャベリヤ 『ついにやってきましたポケモンリーグチャンピオンカーニバル最終日!』
シャベリヤ 『名残惜しいが、泣いても笑っても今日が最後! そして本日一発目はユウキ選手VSダイゴ選手のバトルだ!』
シャベリヤ 『互い成績は4勝1分け負けなし! 泣いても笑っても勝ったほうが優勝だ!』
シャベリヤ 『さぁ、まずは入ってきたのは現チャンピオンダイゴ選手!』

観客 『ワァァァァァァァァ!!!』

シャベリヤ 『続いて入場するのはユウキ選手だぁぁぁぁ!』

ユウキ 「……」

観客 「ワァァァァァァァァァ!!!!」

ブルーサイドの花道を通って会場入りすると、そこは熱気の渦だった。
ただでさえ暑い気温が更に暑く感じる。
普段テレビから確認するそれとは熱気が大違いだ。
見るのと聞くのでは、ここまで大違いなのだな。
さて、慣れないことをさせられるが……あれが、このホウエン一強い男か。

ダイゴ 「久しぶりだね、ユウキ君! 正直ここまで君がやるとは思わなかったよ!」
ダイゴ 「初めて会ったのはムロの『いしのどうくつ』だったね、あの時の君に比べると随分見違えたよ」
ダイゴ 「だが、今の僕はチャンピオンのダイゴだ、新人の君に簡単に勝てる相手ではないということをお見せするよ」

ユウキ 「む……よろしく頼む」

ダイゴ 「ユウキ君?」

俺は極力相手にかかわらないようにする。
あいつ風にいうとかったるいか、俺もかったるいぞ。

審判 「……ルールは使用ポケモン6匹! ポケモンの交代は両者自由!」
審判 「ただし道具の使用所持は原則として禁止、ポケモン図鑑は閲覧のみ許可します!」
審判 「なお、チャンピオンカーニバルにおいては休憩はございません!」
審判 「それでは両者不正のないよう、ポケモンをフィールドへ!」

ダイゴ 「いけ! エアームド!」

ユウキ 「いけ、サーナイト!」

エアームド 「エアー!」

サーナイト 「……? マスター?」

チャンピオンが出したのはエアームド、ただし見たこともないほど巨大なエアームドだ。
通常のエアームドより50センチはでかい、こんな巨大なエアームドは長く生きてきたが初めて見たな。
ふ……強そうだ。

一方、サーナイトはフィールドから出ると落ち着いた様子でエアームドを見極める。
だが、その途中で違和感を覚えたらしくこちらを振り返ってきた。

ふ、違和感……か、その反応は正しいよ。
何故なら……。

ユウキ 『オーケー、ちゃんと最初はサーナイトだな』

俺の耳元にさりげなく取り付けられたインカムからはユウキの声が溢れてくる。
俺はユウキの服、ユウキの靴、ユウキの手袋に、ユウキのバンダナ、そしてユウキのポケモンを持っている。

ユウキ 『じゃ、シャドウ、せいぜい頑張ってくれよ?』

シャドウ 「……見てもいないのに、指示が出せるのか?」

そう、俺はユウキの姿をしたシャドウだ。
インカムでつながれた通信越しにユウキにもこちらの音声が伝わるだろう。
今、俺はここにいるだけで、ユウキは音を便りに戦おうとしている。
無茶だ……とも思うが、無理を通すのがあいつだけに信用するしかない。

審判 「バトルスタート!」

戦いの火蓋は切って落とされた、その当人たちも揃わぬまま。



…………。



フューリー 「はは、シャドウ……君がホテルから離れてくれるなんて僥倖だ」

ユウキ 「ふ……だが、貴様がここにいてもなんの意味もないだろう?」

俺はシャドウの姿をしたユウキだ、見た目が瓜二つだから目の前のイカレた少年もこちらがユウキとは気づかない。
まぁ、声色も合わせているから、俺ならなりきれるな。
耳元のさりげないインカムからは会場の音が聞こえる。
さて、ダイゴさんは何してくるのかな?

シャドウ 「『まきびし』だ」

ユウキ 「サーナイト、『10まんボルト』」

フューリー 「? 貴様、何を言っている?」

ユウキ 「ひとりごとだ、気にするな」

フューリー 「?」



…………。



サーナイト 「はぁぁぁっ!」

エアームド 「え、エアー!!」

シャベリヤ 『サーナイト、エアームドの使う『まきびし』も気にせず『10まんボルト』で攻撃! エアームド苦しそうです!』

シャドウ 「耐えたぞ、ダメージ半分といった所」

ユウキ 「半分か……ふむ、気にすんな、もう一発」

シャドウ 「サーナイト! もう一発『10まんボルト』!」

サーナイト 「はい!」

ダイゴ 「く、『どくどく』だ!」

エアームド 「え、エア! エアーッ!?」

エアームドは『まきびし』の他に『どくどく』まで撒いてくる。
しかも、相打ち狙いのやり方で、サーナイトは猛毒状態になるが、エアームドはそれで倒れた。

審判 「エアームド戦闘不能!」

シャベリヤ 『その様は電光石火か!? ユウキ選手には似合わぬいきなりの猛攻にエアームド敢え無く轟沈!』

ダイゴ 「戻れ、エアームド!」
ダイゴ (やはり強い……だが、違和感を感じるな、彼はこんな強引だったか? それにポケモンへの命令もいつもと様子が違う気が?)
ダイゴ 「く、考えている暇はないか! 次は君だ、ボスゴドラ!」

ボスゴドラ 「ゴドーッ!!」



…………。



ユウキ (あえて特殊防御の低いボスゴドラか……とはいえサーナイトは毒ってる、逃げる手段もあるが、チャンピオンがそれを許すとは思えないな?)

俺は音声だけでその場の状況を頭で組み立てる。
ウチのボスゴドラとは質は大分違うだろう。
どんな戦い方をするのか分からないが、俺がその場にいないだけに下手な手は打てねぇな。

ユウキ 「ち、サーナイトに『めいそう』」

フューリー 「テメェ、さっきからこっち無視してんのか!? お前がこっちにいる間にあの小娘は別働隊が攫いに行っているぜ!?」

ユウキ 「ああ、そうだろうな……だが、関係ないだろ?」

フューリー 「へ、まさか俺を相手に背を向けられるとでも?」

ユウキ 「逆だ、その必要はない……ていうか、もう勝っている」

フューリー 「なに……ん!?」

フューリーは気がつかぬまま、俺のスフィアの中に閉じ込められていた。
俺が意識を傾ければそれは色を持ち、質量を持つ事もできる。
俺は空間から白夜を抜くと、それを振るった。

フューリー 「がぁぁっ!? テメェ……まさ……か……ユ……ウ……」

相手の内蔵に直接ダメージを与える『白夜』の空間操作能力。
気絶する寸前に俺の正体に気がついたようだが、後の祭りだ。

ユウキ 「どうなった?」

シャドウ 『吠えられた、出てきたのはコータス』

ユウキ 「ち……読みを読んできたか……だが、相性はいいか、『オーバーヒート』」

状況はまだ、いいようだ。
ならばガンガン攻めよう、細かい小細工なんて出来はしないからな。



…………。



シャベリヤ 『『オーバーヒート』が炸裂ぅ!!! 強烈なダメージにボスゴドラ……んん!?』

ボスゴドラ 「!! ゴドォ!!」

ダイゴ 「ボスゴドラ、『メタルバースト』!!」

コータスの『オーバーヒート』でボスゴドラは手を地につけた。
どう考えても一撃で倒せるダメージだったはずだ。
だが、ボスゴドラはほんの僅かに耐えてみせる、そのまま体をメタリックに変えて、ダメージを反射してきた。

コータス 「こ、コーッ!?」

審判 「コータス戦闘不能!」

シャドウ 「戻れ! コータス!」

ダイゴ 「ふふ、初めてかな? イッシュ地方では『がんじょう』の特性を持つポケモンは体力が満タンな時ならどんなダメージでも絶対に耐えてみせることができるんだよ」
ダイゴ 「僕のボスゴドラはホウエン産だけど、それを習得させた、高すぎる攻撃力は……こうなるのさ」

シャドウ 「だ……そうだ」

ユウキ 『やろう……そんな初めて聞いたぞ、俺のボスゴドラでも頑張ればできるのか?』

シャドウ 「どうする?」

ユウキ 『どうするもこうするも、サーナイト、再臨』

シャドウ 「でろ、サーナイト!」

サーナイト 「く……」

サーナイトはフィールドに出るも猛毒のダメージで苦しそうだ。
ユウキはサーナイトを捨て駒にする気か?

ユウキ 『『ねんりき』でいい』

シャドウ 「サーナイト、『ねんりき』!」

ダイゴ 「まだだ! ボスゴドラ、『ラスターカノン』!」

互いの攻撃は最速だった。
いや、ボールから出たばかりのサーナイトがわずかに遅れているか。
おかげで両者の攻撃が直撃する。
ボスゴドラは当然ダウン、だが、サーナイトも毒のダメージと重なりダウンした。

審判 「両ポケモン戦闘不能!」

シャベリヤ 『相打ち! これはユウキ選手痛い! これで互いのもちポケモンは4匹! 進退極まったぞ!?』

シャドウ 「……次、どうする?」

ユウキ 『見るのと聞くのではやっぱり感覚的に違うか……チルタリス』

シャドウ 「でろ、チルタリス!」

ダイゴ 「出番だ! ユレイドル!」

俺たちが出したのはそれぞれ、チルタリスとユレイドル。
両者フィールドに出ると、相手を睨みつけた。
地のユレイドルと空のチルタリスか……さて、同采配をくだせばいい?



…………。



ユウキ 「ユレイドルか……ラグ読みか? チルタリスでは可もなく不可もなくだと思うが……」

俺はフューリーを気絶させた後、そのままRMUホウエン支部のあるビルを目指す。
その道の途中には誰もおらず、皆会場の方に行っているようだ。
それゆえにか、俺も無限の時も動き出した。
もう、互いに時間がない、そう考えるべきだろう。
俺も……逃げ勝ちを狙うのはちょっと甘かったみたいだと後悔している。
だから、俺は徹底的にやることにした。

ユウキ 「チルタリス、『れいとうビーム』」

俺はインカムから命令を出す。
インカム越しからはチルタリスのけたたましい叫び声が聞こえるが、どうせなにか余計なことをやらかしているのだろう。
相手はユレイドル、回避ができるとは思えないが?

シャドウ 『『すなあらし』だ、ダメージは与えたが、どの程度かは……怪しいな』

ユレイドルが使ったのは『すなあらし』。
岩タイプは砂が舞っていると特殊防御力が増す。
これでは『れいとうビーム』でも大したダメージはなさそうだ。
ここでチルタリスの決定力不足がまた露呈されるわけか。

ユウキ 「『うたう』」

俺は仕方なく、絡め手を選択する。
インカムからはチルタリスの歌声が響き、ちゃんと命令を実行しているのがわかるが……さて?

シャドウ 『『ヘドロばくだん』を食らった。眠らせることには成功したが、こっちのダメージもでかい』

ユウキ 「毒ったか?」

シャドウ 「いや、その様子はないな」

ふぅ……なら安心だ。
毒られたら敵わないからな。
眠ったならば、無理は禁物か。

ユウキ 「交代、ヨーマを出してやれ」



…………。



シャドウ 「でてこい、サマヨール!」

サマヨール 「ヨーマヨマ」

シャベリヤ 『なんと!? ここにきてユウキ選手、今まで使ったことのないポケモンを投入!? まさか隠し玉か!?』

ダイゴ (サマヨール? 一体何をしてくる気だ?)

シャドウ 「サマヨール! 『れいとうビーム』だ!」

サマヨール 「ヨーマー!」

サマヨールの両手から放たれる『れいとうビーム』はユレイドルを襲う。
だが、ユレイドルはまだ耐える。
ユウキの狙いは分からないが、こいつで勝てるのか?

ユレイドル 「! ユレ!」

ダイゴ 「! ユレイド……!」

ユウキ 『ちょうはつ!』

シャドウ 「『ちょうはつ』だ!」

サマヨール 「サマヨーヨー!」

ユレイドル 「ユ、ユレー!?」

ダイゴ 「じこさ……なに!?」

恐らくユウキの読みだろう。
インカム越しからダイゴのすることを読み、的確に相手の補助技を見抜く。
俺はそれをなるべく最速で合わせるだけだ。

シャドウ 「よし、『どくどく』!」

サマヨール 「サマヨー!」

ユレイドル 「!?」

ダイゴ 「く、『ギガドレイン』だ!」

ユレイドルは毒にかかるが、『ギガドレイン』で反撃される。
やがて『すなあらし』も止むが、次はどうすればいいのか?

ユウキ 『ヨーマを戻して、再びチルタリスで『りゅうのいぶき』』

シャドウ 「よし戻れ、サマヨール、でてこいチルタリス! 『りゅうのいぶき』」

ダイゴ 「く! ならば『げんしのちから』!」

砂も止んで、仕切り直すとユウキの命令で俺はサマヨールを戻してチルタリスを襲った。
だが、ダイゴもそれを見てすぐさま効果抜群の攻撃を命令する。
チルタリスの登場を狙って襲ってくる岩。
だが、チルタリスはそれを華麗に回避すると、『りゅうのいぶき』をユレイドルに放った。

ユレイドル 「ユ、ユレ〜……」

審判 「ユレイドル戦闘不能!」

ダイゴ 「よくやった、ユレイドル、戻れ」
ダイゴ 「次は君だ! でてこい、ネンドール!」

ダイゴが次に出したのはネンドール、エスパーと地面の併せ持ちか。
相性は悪くないがユウキはどうする?

ユウキ (あまり撃ちあいたくはないな……嫌な予感がする、後ろを考えるなら……)
ユウキ 『チルタリス、『れいとうビーム』』

シャドウ 「チルタリス、『れいとうビーム』!」

チルタリス 「チールーー!!」

ダイゴ 「ネンドール、こちらも『れいとうビーム』だ!」

ネンドール 「ネーン!」

ネンドールの独立した腕がチルタリスに向くと、そこから『れいとうビーム』は放たれる。
互いの『れいとうビーム』は交錯し、互い直撃を受けた。

チルタリス 「ギャース!? こ、氷は……だめっすぅ……」

審判 「チルタリス、戦闘不能!」



…………。



ユウキ 「やっぱそうなったか……」

薄々、こうなる予感はあった。
ネンドールは幅広い技を覚えさせられる。
俺が向こうにいるなら、的確な指示も与えれそうだが、声だけじゃやっぱり限界だな。
さて……まぁ、ここからはこっちも仕方がない。

ユウキ 「シャドウ、こっからはお前に任せるぞ」

シャドウ 『な……!? 俺に任せても大丈夫だと思うのか?』

ユウキ 「信じてる」

シャドウ 『ち……ボロ負けしても文句言うなよ?』

ユウキ 「気にしねぇよ」

俺はそう言うと、一時インカムの電源を切った。

目の前にはRMUのビルがある。
俺は入り口の前で、以前と同じように『あの部屋』へと侵入をするのだった。




そこは、窓のない豪奢な洋室。
まるで王族の部屋のような佇まいだが、使用感はなく、一人の女声が椅子に座ったままうつむいていた。

ユウキ 「……やぁ、こんにちは」

エグドラル 「あなた!? ユウキ……さん、どうして?」

ユウキ 「なに、色々と確認したくてさ」

エグドラル 「確認?」

そう、確認だ……。
俺はどうしても突き止めらければこれは気が済まなかった。

ユウキ 「無限の時はペルを欲した、これは恐らくザンジークの何かを欲したと思われる……だが、それならば何故マザーがいるのにペルが必要なのだ?」
ユウキ 「ペルはすでにザンジークとしての性質は失っており、これはマザー……あんたにも同義だ」

エグドラル 「……」

ユウキ 「……だとするならば、これは矛盾だ。マザーもペルもほぼ同質の存在、なぜそれを2つ欲する? しかも執拗に?」
ユウキ 「あんたがマザーならば、無限の時は捕まえられるか? だがあんたがエグドラルなら捕まえる意味は? どちらにも矛盾がある……簡潔に言おう」
ユウキ 「あんた、無限の時の真のボスだろ?」

そう、こいつはメノースのおっさんに捕まえられているんじゃない。
自分で捕まり、自分でこの組織を操っているんだ。

俺の仮説を聞くと、エグドラルはニヤリと笑った。
微笑だが、それは当たりを意味したのだろうか?

エグドラル 「……お見事、『今回の』あなたは正解にたどり着いたか」

ユウキ 「今回の?」

まただ、また聞いた言葉。
今回の……ということは前回はなんだ?
そもそも前回? そんなものあるはずはない……。
だが、こいつの言葉に嘘は感じられない。

エグドラル 「ご察しの通り、私は無限の時の真の支配者、エグドラル」

ユウキ 「……やっぱりな、だが……何故だ?」

……そう、それが分からない。
なぜ、エグドラルはマザーをやめてまで、こんな組織を作ったのか?
分からない……しかも無限の時の連中はキメナ同様、『Delete』に対して強い耐性がある。
造反……裏切り……そんな言葉も浮かぶが、マザー相手にはちゃちなものとしか思えない。

エグドラル 「……残念ね、正解にたどり着いたのに、『真相』にはたどり着いていないのね」

ユウキ 「真相だと?」

エグドラル 「メノース! 来なさい!」

メノース 「はっ! エグドラル様!」

エグドラルのその一言に、待っていましたとばかりに、大量の男たちが部屋になだれ込んでくる。
どうやら、待ち構えていたらしい。

ユウキ 「ち……どういうことなんだよ?」

エグドラル 「私は諦めない……次こそ絶対に!」

ユウキ 「次……だと? ち!」

俺は周囲の状況のやばさを感じ、まだ追求したかったが、すぐさま『白夜』で脱出する。
脱出場所は……ペルの下だ!



エグドラル 「この世界は呪われている……その浄化には……一体いくつの代償が必要なの?」




…………。



ユウキ 「ペル!」

次に目に写った光景は、ペルの姿とホテルの屋上の風景だった。
周囲に数人人間が倒れており、ペルが倒した無限の時だろうと推測できる。

ペル 「どうしたの……ユウキ?」

ユウキ 「……ペル、どうやら俺たちはとんでもない状況らしい」

エグドラルが敵だとわかった以上、これ以上はこの世界は危険だ。
相手はいくつもの世界を無かったことにしてきた化物の総大将。
もはや、この世界に安全な場所があるとは思えない。

ユウキ 「ペル、俺はこの世界を捨てる……お前を護るために!」

俺は一度決めたら曲げるつもりはない。
俺のダチに手をかけようとする馬鹿が居る。
俺はそいつを絶対に許さない。
だが……今回は……今回は俺の負けだ。
だが、敗走なら、徹底的にしてやる。

ペル 「……ユウキは、いいの?」

ユウキ 「なに?」

ペル 「私は……この世界に残しているものは何も無い……でも、あなたは……違う」

ユウキ 「……ああ、そうだな……この世界には様々な形で俺の15年分の足跡がある」

そう、俺には俺の人生がある。
それは苦しいこと、楽しいこと、悲しいこと……いっぱいだ。
だが、それを犠牲にしてもいいと、俺は考えた。
安っぽいと思う、浅はかだと思う。
でも……俺はそれでも目の前の少女を見捨てるなんてできない。

ユウキ 「シャドウ……聞こえるか?」

俺はインカムの電源を入れて、シャドウを呼び出す。

シャドウ 『ユウキか? どうしたんだ?』

ユウキ 「状況は?」

シャドウ 「オーラス、相手はメタグロス、こっちはラグラージだ」

そうか……シャドウもラグたちも頑張っているんだな。
だったら、俺から言える最後の命令は。

ユウキ 「シャドウ、ラグラージに伝えろ、ガンバレと」

シャドウ 「? ユウキ……お前、まさか――!?」

俺はインカムをその場に捨てる。
後は、お前に任せたシャドウ。

ユウキ 「フォルム!」

俺は今世紀最大のマジックをここに行う!
マジックの名は……次元転移!

俺はどこでもいい、どこか位相の安定した世界を無作為に捜す。
それをヒットさせると、右手には『白夜』を持ち。

ユウキ 「ペル……行こう」

ペル 「あなたが……それを、望むのなら」

左手にはペルの手を握って……俺は……この世界に『さようなら』をした。






…………。




レン 「!? なに……これ?」

私は、最後のポケモンリーグを観戦しているとき、体に凄まじい違和感を覚える。
さっきまで、あった何かの記憶が次々と消えて行く感じ。
これはなに……!?
いや、私は……何をやっているの!?
何を覚えているの!?

周りを見ると、観客全員、いや世界中の人が、同じように頭を抱えていた。
まるで、無理やり頭の中を掃除されるかのように。




シャドウ 「……バカヤロウが」

俺はバトルフィールドに立ちながら、そうつぶやいた。
あいつは……ユウキは次元の壁を越えて、この世界から消えてなくなった。
そいつがどういう意味を持つか……それは、世界から抹消されるということだ。
あいつはもうこの世界にはいない、つまりこの世界の歴史からもいなくなったということだ。
皆の記憶からあいつが消えて行く、あいつの思い出は矛盾になるから世界がアンチプログラムを発動させている。
それが効かないのは、同じく世界に抹消されている、俺のような存在だけだ。












ソウス 「やっぱり……今回も彼らは『巻かなかった』か」
ソウス 「うふふ……しょうがない子達だねぇ……だからこそ狂おしく……愛おしい」
ソウス 「うふふ……それじゃ、次の世界への準備に入るか……僕は諦めないよ……約束の時は……必ず訪れる……僕が、『みんな』のために訪れさせてみせるさ」
ソウス 「あはは……あははははははははは!」



世界が……黒く染まる。
それは、世界の終わりだった。
世界の時が止まり、空間の広がりは終わる。
だが、終焉ではない……繰り返しなのだ。
そう……それは繰り返される。
妖艶なる女の笑い声と、真祖なる女の苦痛の悲鳴と共に。



ポケットモンスター第101話 『終焉の世界』 完







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