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POCKET MONSTER a supplementary biography
Golden Sun & Silver Moon



第3話 『独旅』




『4月7日 時刻12:00 32番道路』


キヨミ 「……」

ヒノアラシ 「ヒノ〜?」

ヒノアラシが私に何かを言う。
大丈夫か?と言っている…
私は俯きながら、コクリ…と一回頷いた。

ザッ…ザッ…

私の足取りは重い。
今、私は『ひとり』で旅をしている。
理由は…昨日のジム戦だった。





………………………。





『4月6日 時刻15:00 キキョウシティ』


キヨミ 「やったぁ!! 私、ジムリーダーに勝ったよ!!」
キヨミ 「ウイングバッジ、ゲットーー!!」

私は勝利の嬉しさを体全体で表現し、それをお姉ちゃんやマサキに見せる。
だけど、お姉ちゃんは何も言わなかった。
マサキは苦笑いを返すだけ。
私は、そんなふたりを見て…不思議に思った。

キヨミ 「…ね、ねぇ? 何で、黙ってるの…?」

キヨハ 「………」

お姉ちゃんは何も言わない。
ただ、私に背を向けたまま、微かに震えているように見えた。

マサキ 「…キヨミ、ちょっとこっち来い!」

キヨミ 「え…?」

マサキはお姉ちゃんから離れて歩いていく。
いつになく真剣な顔に、私はちょっと圧倒されていた。



………。



キヨミ 「ええっ!? お姉ちゃん…負けたの?」

マサキ 「せや、この意味がわかるか?」

マサキから聞かされたのは、衝撃的な事実。
お姉ちゃんは、昨日のジム戦で、敗北していた…
昨日は、私も帰るのが夜遅くだったから、お姉ちゃんとは顔を合わせてなかった。
今日のジム戦も、珍しく私は早起きし、お姉ちゃんは起きてこなかった。
ジム戦の時も、見に来てはくれなかった…多分、気を利かせてくれたんだ、と思ってたから。

キヨミ 「お姉ちゃんが…負けてた」

マサキ 「キキョウジムのジムリーダーが『エアームド』を使うとは、キヨハちゃんも思うてへんかったやろ…」
マサキ 「物理攻撃が主体のポケモンしかおらへんキヨハちゃんでは、勝つのは難しかった言うことや」

確かに、あの『エアームド』は物凄かった。
防御力が凄まじく、『はたく』や『たいあたり』ではビクともしなかった。
だけど、反面特殊防御力は低く、効果抜群でもない『ひのこ』で大ダメージを負っていた…

キヨミ 「…そんな、私知らなかった」

マサキ 「…キヨハちゃんはしばらくここに留まって特訓や」
マサキ 「ワイも一緒におるさかい、お前は先進め」

キヨミ 「はぁ!? 何でよ!! 私も一緒に…」

マサキ 「ええから行け!! お前がおったらキヨハちゃんには邪魔やねん!!」

キヨミ 「!? な、何でよぉーーー!!」
キヨミ 「そ、そんなの! マサキが決める事じゃないでしょぉ!!」

私は、思いっきり怒鳴るマサキに対し、泣き叫ぶ。
マサキはそれでも言葉を変えるつもりはなかった。
私は泣き、マサキは無言で去る。
私にはわからなかった…姉妹なのに…
お姉ちゃんの気持ちが…





………………………。





『4月7日 時刻12:05 32番道路』


キヨミ 「うぅ…えぐっ!」

ヒノアラシ 「…ヒノッ」

ひとりがこんなに寂しいとは思わなかった。
ヒノアラシが、いつになく私を慰めてくれるけど、私は泣くのを止められなかった。

キヨミ 「ひっく! …ひっく!!」

ゴウスケ 「どないしてん…こないな所で」

キヨミ 「うぅ…? な、何でゴウスケが?」

泣きながら歩く、私の前にゴウスケが現れた。
不思議そうな顔で私を見、頭を掻きながら話をする。

ゴウスケ 「…まぁ、何があったか知らへんけどな、話してみぃや?」
ゴウスケ 「話位なら、聞いたるで…」



………。
……。
…。



ゴウスケ 「…なるほどなぁ、そんなことがあったんかい」

キヨミ 「…うん」

私はようやく泣き止み、ゴウスケに事の成り行きを話した。
ゴウスケは特に嫌がることもなく、真面目に話を聞いてくれた。

ゴウスケ 「…そら、いい気分やないわな」
ゴウスケ 「よりによって、出来の悪い妹に負けたんやから…」

キヨミ 「ぐすっ…出来が悪いのは、わかってるわよ」
キヨミ 「私だって…お姉ちゃんに勝ったことないもん」

ゴウスケ 「せやけど、それはポケモン以外の話やろ?」

キヨミ 「…うん」

そうだ。
何をやっても、私はお姉ちゃんには勝てなかったのに…
ポケモンバトルでは、私はお姉ちゃんに勝ってしまった。
ジム戦でもそう…お姉ちゃんが勝てなくても、私は勝った。
どうして? どうして…こうなったちゃったの?

キヨミ 「ひぐっ…うぅ…!」

ゴウスケ 「あ〜! ええ加減泣き止め!! そんなことやとポケモンが心配するやろ!!」

キヨミ 「…え?」

ヒノアラシ 「…ヒノ〜」

私はヒノアラシを見る。
すると、確かに凄く心配そうな顔をしていた。
私はその姿を見て、今度はバッグに背負っている卵のことを思う。

キヨミ 「そうだ…しっかりしなきゃ」
キヨミ 「私には、ポケモンがいるもの…」

私は服の袖で涙を拭う。
もう、幾度となく拭っていたため、袖はびしょびしょだった。
そんな姿を見兼ねたのか、ゴウスケはハンカチを取り出して私に差し出す。
綺麗な真っ白無地のハンカチだった。

ゴウスケ 「それで顔拭け…滅茶苦茶やぞお前」

キヨミ 「…ぐすっ、ありがとう」

私はその言葉に甘えてハンカチを使わせてもらう。
そして、それを返そうとすると、ゴウスケは手と首を振って拒否する。

ゴウスケ 「いらんいらん、お前にやる」
ゴウスケ 「ワイはもう一丁持っとるしな」

キヨミ 「…ありがと」

私はもう一度礼を言う。
するとゴウスケは、微笑み。

ゴウスケ 「ほななっ、気ぃつけて旅せぇや? 寂しくなったらポケモンに話せ」
ゴウスケ 「ポケモンとトレーナーは一心同体やからな」

そう言って、ゴウスケは去っていく。
私は心の中で、その背中にもう一度礼を言う。

キヨミ (ありがとう、ゴウスケ)





………………………。





サカキ 『で、どうだ? 卵の件は』

ゴウスケ 「…ホンマに孵ったようですわ」
ゴウスケ 「せやけど、あの少女に渡ってすぐ…少女はもうひとつ卵を持っとりますが、まだそっちは孵らへんようです」
ゴウスケ 「ということは…」

サカキ 『上出来だゴウスケ…卵は別に特定の人物で孵るわけではない』
サカキ 『要は時間さえかければ、誰でも孵すことは不可能ではない、と言うことだろう』

ゴウスケ 「せやけど、土地の風土もあるでしょう…ジョウト地方でたまたま、かもしれまへん」

サカキ 『確かにな…もうしばらく調査を頼むぞ』
サカキ 『決起の時は…そう遠くはないからな』

ゴウスケ 「了解ですわ…『R団計画』、いよいよ始動ですな♪」

ワイは思わず笑う。
サカキ様の『世界征服計画』
今はまだ、裏の計画や…
せやけど。

ゴウスケ (ロケット団が完成する日は近い…か、ククク! おもろなってきたわ!!)





………………………。





『時刻12:30 32番道路』


メリープ 「メリッ!?」

ボンッ! コロコロコロ…ゴロロッ!! ゴロロッ!! ゴロ……カチッ!!

キヨミ 「やったぁ!! 『メリープ』ゲット!!」
キヨミ 「これで友達が増えたよヒノアラシ♪」

ヒノアラシ 「ヒノッ」

ヒノアラシは、バトルに満足だったのか気持ち良く頷く。
ジム戦を終えてからか、ヒノアラシは私に懐いてくれるようになった。
だらしない私を見兼ねているのか、ヒノアラシは常に前に出て私を支えてくれる。
私も、この子たちがいるなら何とかなる気がした。

キヨミ 「私、もう泣かないね…ひとりでも頑張る!」
キヨミ 「皆と一緒にポケモンリーグを目指す! そして優勝あるのみ!!」

ヒノアラシ 「ヒノヒノッ」

ヒノアラシは私が元気を取り戻したことで、笑ってくれる。
そうだ、この笑顔があるなら私は戦える。
頑張ろう…ひとりじゃないんだから。





………………………。





『4月8日 時刻12:00 つながりのどうくつ』


キヨミ 「わっ、結構明るいね…これなら『フラッシュ』はいらないか」

メリープ 「メリ〜♪」

私は『フラッシュ』をメリープに覚えさせておいた。
けど、予想に反してこの洞窟は明るい。
使う必要はなさそうだった。

ズバット 「ズバー!!」

キヨミ 「きゃぁっ! メリープ『でんきショック』!!」

メリープ 「メリリー!」

バチチッ!!

ズバット 「ズ、ズバ…」

いきなり野生のポケモンが現れる。
もう、驚くなぁ…
だけど、メリープの『でんきショック』のおかげで、飛行タイプは楽に倒すことが出来るようになった♪
とはいえ、有利な相手がいれば苦手な相手もいる…特に今の私には致命的に戦いたくない相手がいる。

ドガガガガガッ!!

キヨミ 「うひゃぁ!? まさか、また!?」

イワーク 「イワーーーーーーー!!」

ドドドドドドドッ!!

周りの岩を砕きながら、突進してくる『イワーク』
今の私には、どうにも出来ない相手だった…

キヨミ (何で、どの技も効き難いのよーー!!)

ヒノアラシ→相性悪し
ラッキー→攻撃技自体貧弱
メリープ→自殺行為

せめて、岩や地面に強いポケモンがいたらよかった…!

キヨミ 「と、とにかく逃げるしかない! メリープ『フラッシュ』!!」

メリープ 「メ、メリッ! メリリーー!!」

ピッカアアアアアアァァァァァァァッ!!!

イワーク 「イ、イワ〜!?」

ガガガッ!!

イワークはあまりの眩しさに目をくらまし、壁に激突する。
この隙に私たちは何とか逃げ出せた。


『なんとか にげきれた!』


キヨミ 「はぁ…はぁ…もう嫌」

ヒノアラシ 「ヒ…ヒノ〜」
メリープ 「メリ…」
ラッキー 「ラキ…」

すでに、手持ちの3体はボロボロ…レベルアップはすれども、新しい技はイワークとかイシツブテにはイマイチ。
どうにも、この洞窟はきついようだった…

ヒノアラシ 「…ヒノ」

キヨミ 「うん? そういえば…今まで全然使わなかったけど、ヒノアラシの『きしかいせい』って何なんだろ?」

ヒノアラシ 「…ヒノ〜?」

私はヒノアラシに聞いてみるが、答えは無し。
図鑑で見てわかることは、格闘タイプの技ということだけ。
だけど、この技…全然威力がない。
まともに使っても、ロクなダメージを与えられないのだ。
有利なはずのノーマルタイプに使っても、ほとんどダメージを与えられず、気がついたら私自身覚えていたのを忘れていた。

キヨミ 「…でも、岩タイプには効果抜群なのよね」

格闘タイプは、岩、氷、ノーマルに強い。
『きしかいせい』があれば、岩にも通じるだろうか?
どの道、ヒノアラシはもう体力も限界近い…他の技も使い切っているだろう。
『ブラストバーン』を連発するわけにはいかない…イチかバチか!

ドガァッ!!

イワーク 「イワーーーーーー!!」

キヨミ 「来たっ! 行くわよヒノアラシ! 『きしかいせい』!!」

ヒノアラシ 「ヒッノー!!」

ドッギャァッ!!

イワーク 「イ、イワーーーーーーー!?」

ズッズウウゥゥゥゥゥゥンッ!!!

キヨミ 「!!」

物凄い音がした。
ヒノアラシは残り少ない体力で、イワークを殴りつける。
それを食らったイワークは8mある巨体を傾け、壁に叩きつけられたのだ。

キヨミ 「え、ええ!? 何で!?」
キヨミ 「あんな威力のある技じゃなかったのに…」

ヒノアラシ 「ヒノッ」

ヒノアラシは倒れたイワークを見て、まだまだとアピールする。
今ので自信がついたのか、残り少ない体力にも関わらず、やる気は満々だった。

キヨミ 「…まっ、いいか!」

私は納得することにした。
この際、結果オーライで!!

キヨミ 「あっ、そう言えばラッキーも新しい技覚えたのよね〜その名も『タマゴうみ』〜♪」
キヨミ 「これって、自分の体力を回復できるだけじゃなく、仲間の体力も回復できるのよね〜、すっごい便利!」
キヨミ 「じゃあ、ラッキー! ヒノアラシをよろしく♪」

ラッキー 「ラキラッキ〜♪」

ポンッ! キラキラキラ〜☆

ヒノアラシ 「…! ヒノー!」

バシュゥッ!!

ヒノアラシは体力が回復して、炎を勢い良く噴出する。
いいわよ〜…これでまだまだ戦えるわね!

イシツブテ 「イッシ!!」

キヨミ 「むっ! イシツブテ発見! でもイワークに比べたら石ころよ!! ヒノアラシ『きしかいせい』!」

ヒノアラシ 「ヒノー!!」

ベチッ!!

キヨミ 「…はぁ?」

ヒノアラシ 「……」

イシツブテ 「デッシ!!」

ドガッ!

ヒノアラシ 「ヒノー!!」

キヨミ 「な、何でよ!?」

ヒノアラシはイシツブテを吹き飛ばすことが出来ず、逆に吹き飛ばされる。
イワークの時は簡単に倒せたのに!

キヨミ (まさか…この技って、何か威力出す条件があるの?)
キヨミ (イワークの時は、ヘロヘロの状態だった…今は回復して…ああっ!?)

私はここで気づく。
というより、それ以外に考えられなかった。

キヨミ (そうか! 『きしかいせい』って、文字通り『起死回生』!)
キヨミ (追い詰められてないと、威力が出ないのか!!)

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノ〜!! ノーー!!」

ドッバアアアアアアアアアアァァァァァァンッ!!

イシツブテ 「イ、イシ…」

ゴロゴロ…と焦げたイシツブテが転がる。
って!

キヨミ 「こんな所で『ブラストバーン』使ってどうするのよ!」
キヨミ 「ただでさえ疲れる技なのに、こんな場所で使ったら…」

イワーク 「イワーー!!」
ズバット 「ズバー!!」
イシツブテ 「イッシ!!」
コラッタ 「コララーー!!」

キヨミ 「ひえーーー!! やっぱり来たーーー!! 逃げるわよーーーー!!」

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノッ!」


『なんとか にげきれた!』



………。
……。
…。



『時刻16;00 ヒワダタウン』


キヨミ 「つ…ついたわ」

ヒノアラシ 「ヒノ…」
ラッキー 「ラキ〜…」
メリープ 「メリ…」

私たちはボロボロになりながら、ついに次のジムがある『ヒワダタウン』にたどり着いた。
しかし、まずはポケモンセンターが先!
回復よ! ご飯よーー!!



………。
……。
…。



『時刻17:00 ポケモンセンター』


店員 「はい、あなたのポケモンは皆元気になりましたよ♪」

キヨミ 「ありがとうございます!」

私は元気になった3体を受け取る。
さぁ、次はいよいよジム戦だ!!

キヨミ 「って…今日はもう遅いか」
キヨミ 「ジム戦は明日にするとして、もうちょっと特訓しようか!!」

ゴウスケ 「ほな、ワイとバトルしてみるか?」

キヨミ 「あっ! ゴウスケ!! またあったね♪」

例によって突然現れるゴウスケ。
相変わらずの優しそうな微笑みで、私を見ていた。

ゴウスケ 「まぁ、ちょっとした用でな…ここに滞在しとった」
ゴウスケ 「それより、バトルどうする? ワイで良ければ相手になるで…もちろん、手加減はせぇへん」

ゴウスケは、笑いながら凄む。
う…ちょっと怖くなったかも。
何だか、ただならない気を感じた。
もしかして、ゴウスケは強いのだろうか?

キヨミ 「ちなみに、ゴウスケってジムバッジは持ってるの?」

ゴウスケ 「ふたつや…お前さんは?」

キヨミ 「…ひとつ」

ゴウスケ 「まぁ、バッジの数とトレーナーの実力が必ずしも比例するわけやない」
ゴウスケ 「強いかどうかは、戦って判断すればええことや」

ゴウスケは気軽にそう言う。
確かに、バッジがあるからって『私より』強いとは限らない。
あれから、私たちだってレベルアップしてる…大抵の相手になら勝てるはずだ。

キヨミ 「よっし! その勝負受けた!!」

ゴウスケ 「よっしゃ、ほなら外出よか! 33番道路でやろ!」

私は頷き、33番道路に向かった。
ヒワダタウンの隣の道路で、ここには『ヤドンのいど』がある。



………。



『時刻17:10 33番道路・ヤドンのいど前』


ゴウスケ 「使用ポケモンは3体! ヒワダジムのジム戦ルールと同じや」

キヨミ 「そっか…ヒワダジムは3体で戦うのか」

ゴウスケ 「一応先輩やしな! 先に出したるわ!! 出ろ『イワーク』!!」

ボンッ!

イワーク 「イワーーーー!!」

キヨミ 「…そんなのアリ?」

よりにもよって、一番苦手な相手を出してくれる。
これはまずい…どうしよう?

ゴウスケ 「どないしたんや? 『つながりのどうくつ』を抜けられたんなら、別に驚くことあらへんやろ」

キヨミ 「…くっそ! やるしかない!! 『ヒノアラシ』!!」

ボンッ!!

ヒノアラシ 「ヒノーー!!」

バシュウゥッ!!

ヒノアラシは、イワークの大きさに怯むことなく、背中から炎を噴出する。
相性は圧倒的に不利…だけど、勝てない要素がないわけじゃない!

ゴウスケ 「おいおい…わざわざ先に出したってるのに、何で相性悪いポケモン出すねん…」

キヨミ 「相性いいのを持ってないからよ!」

ゴウスケ 「そら、失敬…ほな行こか〜『いわおとし』や」

キヨミ 「『えんまく』よ!!」

イワーク 「イワーー!!」

ガガガガガッ!!

ヒノアラシ 「ヒ、ヒノー!!」

バフゥゥゥッ!!

イワークは先に動き、大きな尻尾で地面を叩く。
すると、地面から岩が巻き上がり、ヒノアラシの頭上に落ちてくる。
ヒノアラシは若干遅れて『えんまく』を放ち、視界を遮った。

ゴウスケ 「…む」

ドッガァッ!!

キヨミ (大丈夫! ヒノアラシは直撃してない!)

私はこの煙の中で、ヒノアラシの状態を確認した。
目では見えない…だけど、私には『心』で見える部分がある。

キヨミ (私には、ポケモンの残り体力が何となくわかる)
キヨミ (ヒノアラシはダメージを負っていない、という事は、当たってない!)
キヨミ 「『ひのこ』よ!」

ヒノアラシ 「ヒノーー!!」

ババババババッ!!

イワーク 「イワーー!!」

効果は今ひとつだけど、イワークには十分効いてる!
いくらなんでも、何発も浴びせれば…!

ゴウスケ 「なめたらアカンで…『がんせきふうじ』!」

イワーク 「イワーー!!」

ドガァッ!! ドッギャァッ!!

ヒノアラシ 「ヒノーーー!!」

キヨミ 「ヒノアラシ!?」

何と、イワークはもう一度地面を叩き、今度はヒノアラシの足元から岩を突き出す。
ヒノアラシの周りを囲むように突き出し、ヒノアラシは動きを止められてしまった。

キヨミ 「あれが…『がんせきふうじ』!」

上から落とす『いわおとし』とは逆の発想だ…
これじゃあ、上だけを気をつけるわけにはいかない!

ヒノアラシ 「ヒ…ヒノ〜!!」

ゴウスケ 「トドメや! 『たいあたり』!」

キヨミ 「『ブラストバーン』!!」

ヒノアラシ 「! ヒ〜ノーーーーーーーーーーーーー!!!!」

イワーク 「!?」

ドギュァァァッ! ズッバアアアアアアアアアァァァァァッ!! ドオオオオオオオオォォォンッ!!!

ゴウスケ 「ぐぅ!!」

キヨミ 「くぅぅっ!!」

ヒノアラシは体を固定されたまま、口から熱線を繰り出す。
突進してきたイワークは顔面からそれを食らい、大爆発を起こして後ろに吹き飛んだ。

ドッ! ズウウウウウゥゥゥゥゥンッ!!

イワーク 「…イ、イワ〜」

シュボンッ!!

ゴウスケ 「…なんっちゅうやっちゃ」

ゴウスケは苦い顔でイワークを戻す。
余程、今のは予想外だったのだろう。
私は逆に、俄然調子が出てくる!
相性の悪い相手は倒した! 一気に行くわ!!

ヒノアラシ 「ヒ…ヒノ」

キヨミ (ヒノアラシはダメージが思ったより大きい、しかも動けない)

ゴウスケ 「『アリゲイツ』! 『みずでっぽう』や!!」

ボンッ!

アリゲイツ 「アリゲーーーー!!」

ヒノアラシ 「!!」

ドッバァァァッ!!

キヨミ 「ヒノアラシ!?」

いきなり出てきたアリゲイツというポケモンが、『みずでっぽう』を放つ。
岩に捕らえられ、身動きの出来ないヒノアラシはそれを見ていることしか出来なかった。
だけど…

ヒノアラシ 「ヒノ〜!!」

ダッ!!

キヨミ 「良かった…無事だったの!?」

予想外に、ヒノアラシは無傷のようだった。
それ所か、さっきので岩が砕けて自由になったのだ。
これで、まだまだわからない!

ゴウスケ (しもたな…まだ『みずでっぽう』の制御が甘い)
ゴウスケ (岩に囲まれてたさかい、小さなヒノアラシの頭に狙いを絞るのはまだ無理か…)

キヨミ 「よしっ! 戻ってヒノアラシ!」

シュボンッ!

私はヒノアラシを一旦戻す。
相性が悪いのを連続で相手には出来ない。
ここは、相性のいい子で行く!

キヨミ 「出てきて『メリープ』!」

ボンッ!

メリープ 「メリー!」

ゴウスケ 「『みずでっぽう』!!」

アリゲイツ 「アリゲー!!」

ドバァッ! バッシャァァンッ!!

メリープ 「メリリ〜!!」

出て来たところを狙い撃ちされる。
だけど、それは想定済みよ! メリープは結構打たれ強い!
かなりダメージはあったけど、こっちの攻撃が決まれば!!

キヨミ 「メリープ『でんきショック』!!」

メリープ 「メリーー!!」

バチチィッ!!

アリゲイツ 「…!! ゲイッ!」

メリープ 「メリッ!?」

キヨミ 「嘘っ!? 効果抜群なのに!」

ゴウスケ 「育てが甘いわ…まだまだやな」
ゴウスケ 「『かみつく』!」

アリゲイツ 「アリー!!」

ガッブゥッ!!

メリープ 「メリリー!!」

ドシャァッ!!

アリゲイツは軽快にメリープへと近づき、『かみつく』
そのダメージに耐えられず、メリープはダウンした。
だけど、相手にもそれなりの反動はあった。

アリゲイツ 「ア、アリ…!」

ゴウスケ 「麻痺やと…? いつの間に…」
ゴウスケ (いや…それとも、これが例の『せいでんき』っちゅうやつか?)
ゴウスケ (噂程度やったけど、これで信憑性が出てきたな…予想以上の収穫や!)

キヨミ 「……」

ゴウスケは笑う。
だけど、何だか今の笑いは怖い。
バトルを楽しんでいるのかもしれないけど…何故か、嫌な気分になった。

キヨミ (どうしてだろう? ゴウスケが別人のように感じる)

今相対しているゴウスケは、私に優しく声をかけてくれた少年とは違う気がした。
まるで、別人を見ている感覚だ。
それとも…あれが、本当のゴウスケ?

ゴウスケ 「何してんねん! さっさと次のポケモン出さんかい…」
ゴウスケ 「それとも、ギブアップか?」

キヨミ 「じょ、冗談じゃないわ! 続けるわよ! 行け『ラッキー』!!」

ボンッ!

ラッキー 「ラッキー〜♪」

ゴウスケ 「出てきたな…これがあの卵から孵った奴か!」

キヨミ (え…? ゴウスケ、ラッキーが孵ることを知ってた?)

ゴウスケ 「さぁ行くで! アリゲイツ『みずでっぽう』!!」


アリゲイツ 「アリゲーーー!!」

バシャァァァッ!!

ラッキー 「ラ〜ッキー!!」

ラッキーは『みずでっぽう』の直撃を浴びるも、全く怯まなかった。
元々体力は自慢、下手な攻撃なら問題ないわ!

ゴウスケ 「さすがやな…ラッキーの体力は」
ゴウスケ 「せやけど、これならどうや! 『かみつく』!!

キヨミ 「『はたく』よ!」

アリゲイツ 「アリーー!!」
ラッキー 「ラキー!」

バチィ! ガブゥッ!!

ラッキー 「ラキーー!!」

ズゥンッ!!

キヨミ 「そ、そんな…!」

ラッキーはあっさりとダウンしてしまう。
あれだけ体力があるのに…!

ゴウスケ (こんなもんやろな…『ぼうぎょ』の低いラッキーでは)
ゴウスケ (『HP』と『とくぼう』は大したもんや、せやけど…それだけやで)

シュボンッ!!

キヨミ 「強い…」

私は結局、この子に頼ることになった。
相手はまだ2体…とても勝てるとは思えない。
でも、私は信じる!

キヨミ 「あなたなら、きっとやってくれるって!!」

ボンッ!

ヒノアラシ 「ヒノーーー!!」

バシュゥゥゥッ!!

ゴウスケ (さて…前はあれにやられたからな。今回は終わらせるで!)

キヨミ (勝てる! 絶対勝てる! 行けヒノアラシ!!)
キヨミ 「ヒノアラシ『でんこうせっか』!!」

ヒノアラシ 「ヒノッ!!」

ドギュンッ!!

アリゲイツ 「ア、アリッ!?」

ゴウスケ (ちっ、速いな!)
ゴウスケ 「アリゲイツ『こわいかお』!」

アリゲイツ 「アリッ!!」

ヒノアラシ 「ヒノーーーー!!」

ドッガァッ!!

アリゲイツ 「〜!!」

アリゲイツは『こわいかお』でヒノアラシの動きを止めようとするけれど、ヒノアラシは構わず相手も見ず頭からアリゲイツの顎に突っ込んだ。
予想外の一撃に、アリゲイツは怯んでしまった。
私はこの一瞬を逃さない。

キヨミ 「今よ『きしかいせい』!!」

ゴウスケ 「何やと!?」

ゴウスケは、信じられないと言った反応で、驚く。
どうやら、この『きしかいせい』と言う技は、とんでもなく予想外らしい。
つまり、今この時点で最も効果のある技ということ!!

ヒノアラシ 「ヒッノーーーーー!!」

ドッガァァァァッ!!

アリゲイツ 「ア、アリーーーー!!」

ズズッ…! ズシンッ!!

キヨミ 「…よしっ!!」

私は一瞬踏みとどまろうとするアリゲイツに恐怖を覚える。
だけど、アリゲイツはそのままダウンした。
もう体力は残っていない、私にはわかる!

シュボンッ!

ゴウスケ (最悪やな…またあれにやられるか)
ゴウスケ (どういうこっちゃ…『ブラストバーン』といい、『きしかいせい』まで)
ゴウスケ (どう考えても、ヒノアラシが覚えるはずのない技や!)

ヒノアラシ 「ヒノ〜!!」

カァァァァァァァァッ!!

キヨミ 「ええっ!? な、何なの!?」

ゴウスケ (ここでかいな…! こら厄介になったわ!)

ヒノアラシ? 「マグマーーー!!」

キヨミ 「こ、このポケモンは…?」

私は姿を変えてしまったヒノアラシを図鑑で見る。
すると、あれはヒノアラシではないという事に私は気づいた。

キヨミ 「『マグマラシ』…ヒノアラシの進化系!!」
キヨミ 「やったぁ!! ヒノアラシ、また強くなったんだね!!」

マグマラシ 「マグッ!!」

ドッュウゥゥッ!!

マグマラシは、ヒノアラシの時と同じように、背中から炎を噴出し、やる気をアピールする。
前よりも更に力強い! これなら絶対行ける!!

ゴウスケ 「勝てる思てるんやろな…せやけど、進化しても体力はそのまま…」
ゴウスケ 「出ろ『ヨーギラス』!!」

ボンッ!!

ヨーギラス 「ヨーッギ!!」

キヨミ 「あら、最後は可愛いのが…」

私は思わず図鑑で確認する。
すると、最悪の事態という事に気づいた。

キヨミ 「んげっ!? また岩と地面!?」
キヨミ 「何で、炎に強いのばっか出すのよ〜!!」

ゴウスケ 「知るかいな…お前が対策してへんだけやろ」
ゴウスケ 「これに懲りて、水か草でも育てるんやな!」

それはごもっとも…でも、今はそんなこと言ってる余裕はない!
ゴウスケの言う様に、進化してもマグマラシの体力は減ったままだ。
『きしかいせい』で攻撃は出来るけど、当たらなければ意味はない。

キヨミ 「それでも…やるしかない! 『きしかいせい』!!」

ゴウスケ 「『いわなだれ』!」

ヨーギラス 「ヨーーー!!」

ドガガガガガガッ!!

マグマラシ 「マグッ!? マググーッ!!」

ドッガァッ!! ガガガガガッ!!

キヨミ 「きゃぁっ!?」

ヨーギラスは体を震わせ、地面から大量の岩を巻き上げる。
そして、それを雪崩のようにマグマラシへと降り注がせた。
マグマラシはそれに対応するため、『きしかいせい』で岩を攻撃する。
何とか防げたものの、マグマラシの攻撃は不発となってしまった。

ゴウスケ (今のでも、大したもんや…幼いポケモンとは思えへんな)
ゴウスケ (弱点の技に向かって真っ向勝負…正面から向かっていくとは並の勇気やあらへん)
ゴウスケ (こら…予定変更かもしれへんな)

キヨミ (どうする!? あんな技を使ってくるんじゃ、こっちの攻撃は難しい!)
キヨミ (イチかバチかは危険すぎる…でも!)

マグマラシ 「マグ〜!!」

ドッシュウゥッ!!

キヨミ (マグマラシはやる気だ!)

私は覚悟を決める。
何よりも、ここで退いたら私はマグマラシのトレーナーとして失格だと思った。
あの子がやる気なら、私はトコトン付き合う。
これからずっと一緒に戦うならなおさら退けない!!

ゴウスケ 「…降参や、止めとくわ」

キヨミ 「は、はぁっ!?」

ゴウスケ 「…ワイの負けや」
ゴウスケ 「まだ、ヨーギラスはあまり育ってへん、『きしかいせい』なんか食らって怪我でもされたら敵わん」
ゴウスケ 「せやから、ワイの負けや…キヨミの勝ち」

シュボンッ!!

そう言って、ゴウスケはポケモンをボールに戻す。
どうしてだろう? 相性は有利…しかもあんな凄い技も使えるのに。
マグマラシの体力は少ない…それで降参するなんて。

マグマラシ 「……」

ボシュゥゥ…

キヨミ 「戻ってマグマラシ!」

シュボンッ!

私は炎を切ったマグマラシを見て、すぐにボールへ戻す。
もう、体力は限界に近かった…緊張の糸が切れたはずだ。
すぐに、ポケモンセンターに戻らないと。

ゴウスケ 「………」

キヨミ 「ゴウスケ、ポケモンセンターに行かないの?」

ゴウスケ 「ワイはええ…薬があるさかい、先へ進むわ」
ゴウスケ 「ジム戦、頑張れや!」

タッタッタ!

そう言って、最後はいつもの優しい微笑みで語りかけてくれた。

キヨミ (一体…どの顔が本物なんだろう?)

ゴウスケは、バトルになると、まるで人が変わったように怖くなる。
気性が変わると言うのだろうか?
まるで、怖い人になったみたいだった。
普段は…あんなに優しいのに。

キヨミ 「あっと…それよりもポケモンセンター!!」

私はハッとなって急ぐ。
予想以上に辛いバトルだった。
明日はジム戦! ゆっくり休まないと…ね?



…To be continued




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