四

 「撮りますよぉっ、はい、チーズっ!」
 パシャッ、とフラッシュが光り、集合写真を撮った。
 室町三代目将軍足利義光が建てた黄金の寺。鹿苑金閣寺。池を挟んで向かい合わせで、クラス別の集合写真を撮る。どこの学校にも見られる定番の一枚である。
 清水での恥ずかしい一場面の後、一通り回った俺たちは、バスに戻り、一路この金閣寺へとやってきたのである。
 「いやあしかし、ほんとに金色してるんだなあ」
 と、池の向こうに見える黄金色の箱のような建物を感慨深げに見上げる。
 「うん。紅葉と何かマッチしてるよね」
 伊勢さんが頷きながら言った。
 「ああ。粉雪とか雪景色なんかでも、郷愁があっていいんじゃねえか?」
 「ああいいねえっ」
 伊勢さんが笑顔を向ける。
 「時刻は夜で、静寂だけが支配してるみたいな」
 「おや、伊勢さんって風流がわかるんだな」
 「ふっふーん、これでもわたし、文学少女よ」
 心なしか胸を反る伊勢さん。
 「へえ。好きな本は何?」
 俺が訊くと、
 「本格推理小説」
 「……風流のカケラもない」
 それどころか血なまぐさいだけじゃねえか。
 「何言うてんの。カオちゃんかて部屋にある本って推理小説ばっかやん」
 横から綾子が、呆れたように溜め息をつきながら言った。
 「なんでおまえが知ってるんだ」
 「よう言うわ。ウチに部屋の掃除やらせといて。『居候してるんだからそれくらいしろ』とか言って」
 「何ぃいいっっ! それは本当か真田ぁああっっ!!」
 と、どこで聞き付けたのか、吉田がものすごい形相で飛び込んできては俺の襟元を締め上げる。
 「いててててっ、綾子の嘘に決まってんじゃねえかっ! 離せっ」
 俺が必死に解こうとすると、
 「嘘とは失礼やな。ジョークやん」
 と、いささか心外とでも言いたそうな顔で綾子が言った。
 「お前のその手のジョークは俺を痛めつけることに繋がるんだぞ」
 綾子に向かって言って、
 「いいかげん離せバカ」
 吉田の腹に蹴りを入れる。それでようやく、吉田は俺の襟から手を離した。
 「ねえっ、綾子、あそこでお守り売ってるよ」
 と、穴山さんが俺たちの方に駆け寄ってきた。
 「えっ、ほんま? どこどこ」
 と言って、綾子と伊勢さんはさっさと穴山さんと駆けて行く。
 「……俺たちも行かね?」
 取り残されたように立っている俺と吉田が、同時に頷いた。
 そして、ゆっくりと、ふたりが向かった土産物屋に向かった。土産物屋、と言っても、小さく、品物は色々なお守りしかないようだった。
 例えば、花まもり。誕生花の、お守りで、当然一月から十二月までの十二種類ある。
 不動明王のお守り。大きさが違ったり、金箔で装飾されているものもある。
 星座のお守り。これも十二種類ある。が、個人的には京都や日本の文化、特に室町時代とは関係がないように思われる。
 その時、俺の肩をポンポンと叩く者がいた。振り向くと、
 「Excuse me.Can you speak English?」
 アメリカの青年が俺に何かを訊いた。
 一瞬で、俺の頭が真っ白になった。
 「ちょいとごめんよ、君は英語は話せる?」
 たったそれだけの英語すら、そのときの俺には理解できなかった。
 本物のアメリカ人。見ず知らずのアメリカ人が、いきなり俺に話し掛けてきたのだ!
 それは、俺にとって前代未聞の珍事で……と解説している場合ではない。何とかしないと!
 それで、少し落ち着くことができた。
 頭をフル回転させる。
 「A little」
 かろうじて、その単語が出て来た。しかし、
 「〜〜〜〜〜〜〜」
 何何っ?
 早すぎてわかんねえ。
 アメリカ人は、首を傾げ、
 「〜〜〜〜〜〜〜」
 もう少しゆっくりと、繰り返したようだった。
 しかし、俺の理解を超えていた。誰かの助けを受けようと、周りを見た。
 が、吉田も、遠巻きに見ているだけだった。まるで他人を装っている。
 ロックンローラーなら英語くらいできろよ〜っ!
 俺は泣きたくなった。
 「〜〜〜〜〜〜〜」
 アメリカ人はまた何か言った。さて、どうする。
 俺は最早その言葉を理解しようとはしなかった。どうやって、この場を誤魔化すか。それだけを必死に考えようとした。
 そのとき、
 「〜〜〜〜〜〜〜」
 横から、女性の声が飛んできた。流暢な英語で。
 おお、これで助かった、と思って女性を見ると、なんと綾子だった。
 「綾子……」
 「〜〜〜〜〜〜〜」
 「〜〜〜〜〜」
 唖然とする俺を尻目に、綾子とそのアメリカ人青年は、会話を始めた。
 「〜〜〜」
 「〜〜〜〜〜〜」
 俺には理解できない。
 「〜〜〜〜」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 会話は続く。綾子は、
 「Oh!」
 とか言って、土産物屋のお守りをふたつ指差している。
 「〜〜〜?」
 アメリカ人が訊くと、
 「Yes」
 だけは俺にもわかった。
 そして、異国の青年はそのふたつのお守りを買うと、綾子にサンキューと述べて立ち去ったのだった。
 めでたしめでたし。
 「カオちゃん、あれくらいの英語もわからんって、情けな」
 ぐさっ!
 「で、彼は何と言っていたのかな?」
 俺はなるべく平常心を装って訊いた。
 「ああ。本国にいる彼女に、何かお守りをプレゼントしようと思っててんけど、どれがええんかわからんで悩んでたらしいわ」
 「で?」
 「とりあえず可愛いぽいお守りを選んだんはええけど、色が二種類あってな。青とピンク。日本ではどっちの色を女性に渡すもんなんやろなあっていうのが、最終的には訊きたかった事柄やったようやで」
 「へえ……。アメリカでは色で男女を差別しないんだろうな」
 「うん、日本だけやで。小さい時から男の子は青。女の子はピンク、又は赤。って決めてしまってるんわ」
 「そう言えば小学校のランドセルとか、上履きの色って決められてたな」
 「最近では見直されてるようやねんけどな。ちょっと前まではそうやってん」
 「なるほど。だから悩んだわけか、あの青年は」
 綾子が頷いた。
 「しかしお前、なんであんなに英語が上手なんだ?」
 「だって、ウチの夢スチュワーデスになることやもん」
 「おーい由利さーん、真田ーっ、集合だぞーっ」
 遠くで吉田が呼ぶ声がした。何時の間にかそこまで逃げていたらしい。
 土産物屋の右側の方に、茶屋のような休憩所がある。もちろん、本当にお茶を飲ませる店である。その奥に、金閣寺の出口がある。敷地の、出口だ。
 金閣寺の建物内には、入ることはできない。だから、入場料は払うが、それは敷地に入って、建物を生で観るだけの料金なのである。
 「わかったぁっ」
 俺は吉田に手を振ると、土産物屋で花まもりをひとつ買って、出口の方へ走った。
 綾子も、同じ物を買っていた。もちろん、誕生月が違う俺たちなので、選んだお守りの柄は違った。
 しかし、これを持っていたからと言って、何がどうなるわけでもないだろう。そもそも、何のご利益があるお守りなんだ? それとも、どんな害から身を守るためのお守りなんだ?
 うーん……。無駄な買い物だったかもしれない、と、俺は思わずにはいられなかった。

 「これも納得いかへんことやねんけどな」
 バスの中で、通路を挟んで隣りに座っている綾子が口を開いた。
 ちなみに、綾子の隣りに座っている穴山さんが窓際。俺の隣りに座っている伊勢さんが窓際。俺の後ろの座席に吉田。その隣りの窓際が戸城、という位置付けである。
 「何が?」
 俺が訊くと、
 「金閣寺にゃ行っといて、銀閣寺は行かへんのやろ? それがおかしい。これはふたつでワンセットやで。確かに時代的には五十年以上離れてるけど、同じ室町の時代に、同じ足利家の将軍が建てた寺やのになあ。ここで差別することないやん」
 「さあ……」
 あまりの綾子の憤慨さに、俺は何も言えなくなっていた。
 「確かに義政が建てた銀閣寺は、財政難から銀箔で造ったんちゃうけど。でもそれなりに必死になって建てたんやんか。その心意気をこの目で観たかってんっ」
 何か必死に訴え掛ける綾子。しかし。
 「財政難だからこそ、幕府の力を誇示しようと思って、苦し紛れにやった政策なんだろ? 恐らく一番被害を被ったのは義政より農民だぜ。税金や、労働力としてさ」
 「それは、まあ、そうかもしれへんけど……」
 「その後幕府が倒れて、群雄割拠の戦国時代に入ったんだろ。そのお陰で信長や秀吉が活躍できたんだから、もういいじゃねえか」
 「もういいって……」
 「何百年前の話して、お前は怒ってるんだ? 金閣でお守り買ったことよりも、もっと無駄な話してるんだぞ」
 「は?」
 「いや、何でもない」
 別にお守りを買ったことを後悔しているわけではない。
 ほんとだぞ。ほんとに後悔してないんだぞ。
 「もうええわ……」
 悲しそうに呟くと、綾子は向こうを向き穴山さんと話を始めた。
 「ねえねえ真田くん」
 と、ようやく落ち着いた俺に、すかさず伊勢さんが声を掛けてきた。

 嵐山の、旅館。
 午後七時。夕食が終わり、自由時間が訪れた。外に出てもいい、という自由でもあるし、旅館の中での自由も許されている。
 外に出る場合は、制服着用のこと。ちゃんと、入り口の前に用意したノートに、クラス番号名前を書いて、何時に記入したのかという時刻まで書く。
 午後九時までには、帰ってくること。遅刻した者は、旅館には入れない。野宿でもするんだな、と、拡声器を使って学年主任の先生が言っていた。
 俺は、正面玄関の混雑しているロビーで待っていた。
 一緒にお土産を見よう、という約束があったからだった。
 「真田くーん、一緒にお土産見にいこ」
 伊勢さんがやってきた。もちろん、制服を着ている。
 「いや。俺、人待ってるから……」
 俺が詰まりながら断ると、
 「ええ? ほんとに? もしかしてわたしが荷物落ちさせるとか思ってない?」
 「思ってない思ってない。ほんとに俺、人待ってるから」
 軽く笑いながら言うと、伊勢さんも納得した様子で、
 「わかった。じゃ、また明日」
 と、手を振って外に出て行った。もちろん、その前にノートへの記入を終わらせていたが。
 変な男に引っ掛かるなよ、と、そのノートのチェックをしている先生のひとりが冗談のように言った。
 手持ち無沙汰になった俺は、壁にもたれて息を吐いた。
 「薫くん、お待たせ」
 ようやく、望月が現れた。
 「遅い」
 俺が言ってやると、
 「ごめぇん、一回お風呂入ってたから……」
 と、上目遣いで俺を見た。
 「ま、いいや。早く行こうか。ものすごい混んでると思うけど」
 俺が言って歩き出すと、
 「うんっ」
 と、望月も笑顔で頷き、俺の横に追い着いた。
 旅館を出る時、
 「真田、望月に悪いこと教えるんじゃないぞ」
 と、冗談めいた科白を先生に言われた。
 「俺が教えてもらうんですよ」
 と、言い返してやったら、先生は目を丸くしていた。
 生徒をからかってばかりいたからな、いい気味だ。
 「さあて、どこに行くかな」
 道を歩きながら訊くと、
 「手当たり次第にどこへでも」
 にっこり笑って望月が言った。
 いつになくはしゃいでいるように見えた。
 「涼しいねえ」
 確かに、秋の夜風は冷たい。俺は寒いと思うくらいなのだが、風呂上りの望月には涼しく感じられるのだろう。
 「風邪引くなよ」
 「うん、ありがと」
 それから、俺たちふたりは立ち並ぶ土産物屋を片っ端から冷やかして行った。
 「もう明日帰るんだよねえ。二泊三日は短いよね」
 「確かにな。夏も二泊三日だったけど、中身が濃かったからな」
 「今回は、薄いの?」
 と、望月が俺の目を見上げて言った。
 「さあ、どうかな」
 俺は誤魔化すように目を逸らした。
 「小遣いが続く限り、いっぱい買おうぜ」
 気を取り直すように、俺は不必要なほど元気な声で言った。
 「うんっ」
 と、望月も頷き、
 「でも薫くんはお土産買うの?」
 「いや、俺はひとつふたつだけ買えばいいや」
 「そっか。どんなもの買いたい?」
 「俺のことはいい。適当に八橋なんか買っとけば親は納得する。聡子ちゃんへのお土産が問題だけど、それはお前の土産を見ながら探すよ」
 「そうだね、聡子ちゃんにも買ってあげないとね」
 「せっかく出て来たんだし、荷物持ちくらいしてやるぞ。遠慮なくバンバン買えよ」
 伊勢さんが聞いたらどう言うだろうかと思いながら訊くと、
 「ありがとうっ」
 望月はこの上ない笑顔で答えてくれた。
 「でも、私何を買おうか決めてないんだよね」
 「当たり前だろ。んなもん探しながら見つけるのに決まってんじゃん」
 「あ、そうか」
 望月は頷いた。
 「でも時間かかりそう」
 「気にすんな。物色してる時間が最も楽しい時間なんだぞ」
 「あはは、それもそうだね」
 「じゃ、この店にはあまりいい物ないし、余所探しに行こうか」
 俺は望月を促し外に出た。
 レジにいたおじさんが俺の方を睨んだことは、望月には内緒である……。
 「これなんてどうかな?」
 と、望月はキーホルダーを指差した。どれどれ、と見てみると、名前のキーホルダーだった。
 何々くん、とか、何々ちゃん、と書かれた、キーホルダーである。ここのは、京都らしく、男の子のは新撰組のかっこう、女の子のは和服をデザインしている。
 「へえ……聡子ちゃんにか?」
 「ううん。私の」
 望月が言った。
 「あ、あったよ、『ふみちゃん』」
 と言って、そのキーホルダーを取り外す。
 「なんだ、お前が買うのか?」
 「うん。薫くんも、『かおるくん』っていうの買って」
 「は?」
 俺はたぶん顔が引き攣っているだろう。
 「いや、俺、そういうキーホルダーはあまり……」
 好きじゃない、と言おうとした。しかし、
 「あっ、あったよ、ほら。『かおるくん』」
 という望月のはしゃいだ声に掻き消された。
 望月は、その目当ての物を俺の眼前に突き出す。
 手渡されたそれを、俺は見下ろす。『かおるくん』と書かれたプレートの下で、新撰組らしい服を着たかわいらしいデザインの絵が俺を見詰め返す。
 うーん。
 ひとしきり考え、ま、いっか、という結論に達した。
 どうせお土産というものはくだらないものと相場は決まっている(?)。それに、既に金閣寺で下らないものを買ったじゃないか。それと比べたら、このキーホルダーは京都でしか手に入らないものというのは確かなのだから、少なくとも希少価値ではあるはずだ。
 「しゃあねえな。買ってやるよ」
 俺は望月ではなく、まるで俺を見詰め返す新撰組の男(?)に向かって呟き掛けるように言って、レジに向かった。
 「ありがとうございましたー」
 店員のお愛想を背中で聞きながら店を後にする。
 望月も、買ったようだった。なぜか、るんるん、という感じではしゃいでいる。
 そんなに欲しかったのだろうか?
 「ねえ薫くん」
 そう思っていると、望月が俺を上目遣いで呼んだ。
 「私のと交換しない?」
 「は?」
 「だから、私が『かおるくん』を持って、薫くんが『ふみちゃん』を持つの」
 「……なぜ?」
 「んん。いいから。ダメ?」
 まあ、値段は同じだったはずだし、値打ちはそう変わらないはずなのだが……。
 「何か企んでないか?」
 「何を企むっていうの?」
 それはまあ確かに……。
 しかし、合点がいかない。同じ値打ちの物を、なぜわざわざ交換するというのか。
 「なぜ?」
 もう一回訊くと、望月は仕方ないなあというような溜め息をつき、そしていくらか伏せ目がちにして呟いた。
 「だって、私、薫くんとはクラスも違うし、この旅行でも今やっと一緒に行動できたんだし、せめて『かおるくん』ていうキーホルダーだけでもいつも側にいてくれたらなあって思って……」
 「………」
 「………」
 「………」
 「………」
 「……それは、言い替えれば呪いの藁人形のようなものか?」
 これを憎っくきアイツだと思って……それ以上は言えません。みたいな。
 「薫くん、例え悪過ぎ」
 望月の冷静な突っ込み。
 「ま、それくらいはいいけどさあ……」
 「何?」
 「俺がいなくても『ソレ』があればいいってことだよな?」
 「違うよー。ほんとは私、ずっと薫くんの傍にいたいなって……あ」
 自分が何を言っているのか気付いた望月は、顔を耳まで真っ赤にさせ、俯いてしまった。
 「今お前、とてつもなく恥ずかしいこと言ったぞ」
 俺も、たぶん赤面しているだろう。そんなことを、面と向かって言われたことがないからである。
 それでも、これだけ悪態がつけたるのだから、俺は何てたいした奴なんだと、自分を誉めずにはいられなかった。
 「と、とにかく交換してね」
 望月はそう言うと、俺の手からキーホルダーの入った袋を取り上げ、代わりに自分が持っていた同じ袋を俺の手に強引に握らせた。
 「おいっ……」
 と、俺が止める間もなく、望月は俺に背中を向けると、旅館の方へ走って行ったのだった。

 翌日。
 修学旅行最後の日が訪れた。今日は、嵐山。トロッコ列車に乗り、紅葉を見て、京都にさようなら。をする予定であった。
 しかし、俺の目には、嵐山の綺麗な紅葉は見えていなかった。
 渡月橋を渡り、二尊院の鮮やかな輝くような紅葉を見て、嵯峨野のトロッコ列車に乗った。
 と、言っていた。
 俺には、どんなものも見えていなかった。終始、ぼうっとしていただろう。班の皆が声を掛けてきても、俺は生返事ばかりしていて、ずっと上の空だったと、後になって聞かされた。
 俺の頭の中は、昨夜の望月の不可解な行動によって占められていた。
 俺のキーホルダーを、望月が持つ。その意味することは何なのか。
 そればかりを考えていた。
 どれだけ知恵を絞って考えても、また色んな角度から考えても、これ以外に納得できる答えが見つからないのだった。
 しかし、その答えは、俺にとって非常に信じ難いものである。そしてまた、確信もない。
 望月は、俺のことが好きなのだろうか……?
 それも、幼馴染みとしてだとか、友人として、という意味を、あるいは超えているのではないだろうか?
 男と女としての、好き嫌い。恋愛感情を持っているのだろうか。
 だからこそ、昨夜の袋を俺の手から奪うという行動に出たのではないだろうか。
 だからこそ、顔を真っ赤にさせ、逃げるように走り去ったのではないだろうか。
 望月は、俺のことが好き。
 では、俺は……?
 果たして、望月のことが好きなのだろうか?
 嫌いではない。それだけは言える。
 しかし、好きとは、一体どういうものなのだろうか?
 その、根本的なところから、俺は理解することが必要なのではないだろうかと、思うのだった。
 俺は、これまでの人生、のほほんと生き過ぎたのではないか。


    to be continued
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