四

 二月に入ってすぐ、進路の意識調査をした。
 俺は、高校卒業後の希望欄に、何も書くことがなかった。
 就職? それは、最後の手段だろう。今では転職やら再就職やら一般的になってきたが、俺は、どうせならひとつの会社でずっと仕事をしていきたいと思っている。
 進学? それが、一番無難ではある。
 しかし、何を専攻するのか。どの学部に向かうのか。ま、少なくとも、理系の大学に行かないことは確かだが。
 専門学校。……なんの?
 即就職に繋がるということはわかる。しかし、どんな仕事を近い将来したいのか、俺にはまだ決めていない。
 「私は四年制大学の、経営学部に入りたい」
 学校の帰り道、望月が言った。
 もうすっかり、足の怪我は治り、俺の腕にしがみ付くことなく、普通に歩いている。
 学校では人目があるから、というのもあるからかもしれないが。
 「経営学部? 店開きたいのか?」
 俺が訊くと、
 「うーん……いざっていうときに、喫茶店開きたいかなって思って。経営に関する知識、会計に関する知識、法律も、商法を勉強したくって」
 ………。
 ……しっかり現実を見据えてる。さすが、望月。
 「いざっていうときとは、どういうことですか?」
 聡子ちゃんが横から訊いた。
 「私、学校の先生になりたいの。でも、教員の数って、今すごく多いから、常勤じゃなくて、臨時雇いのような形でしかできそうにないのね。最初は皆そうなのかもしれないけど、それじゃ収入がないから」
 「じゃ、学校の先生になるまでの、一時凌ぎ的なことで喫茶店持つんですか?」
 「そうじゃなくって、逆かな。教師になれなかったとき、とか、学校の先生を引退した時とか、そういうときにお店を開きたいなって思って。始めに開いてすぐに閉めるんじゃ、売ったとしても借金地獄だよ」
 「ですよねえ。私もそれを心配したんですよ」
 「私の場合、第一志望が学校の先生。第二志望が喫茶店経営、ってことになるね」
 「私の第一志望はケーキ屋さんです」
 聡子ちゃんが嬉しそうに言った。
 「じゃ、私と一緒に経営学部に入る?」
 望月が笑顔を見せると、
 「はいっ!」
 と、聡子ちゃんもこの上ないような笑顔で答えた。
 「ちょっと待て。望月、教員免許取るんだよな。なんで教育学部じゃないんだ?」
 俺が訊くと、望月は顔をしかめて、
 「薫くん、何も知らないんだね」
 と、俺を批難した。
 「なっ、なんでだよ」
 ぐっと詰まりそうになりながら、俺は訊く。
 「四年制の大学には、教職課程のコースが設けられていて、教師になるための授業が用意されてるんだよ。ちゃんと、教育実習もあるしね」
 望月はそう答えた。
 「じゃ、じゃあ教育学部は、なんだ? それ専門を勉強したい奴がいくのか? お前は、教職を目指すけれども、経営も学びたいからって、経営学部を目指すのか?」
 「うーん……まあ、そういうことなんだけど、教育学部っていうのは、幼稚園を含めた学校の先生のことなんだよ。だから、私が経営学部で免許取得しても、小学校と幼稚園の先生にはなれないんじゃないかな」
 「え? どういうことだ? よくわかんねえ」
 「うーん、私もよくわかってないんだけどね、教育学部っていうのは、幼稚園から小学校、中学や高校の先生になれるようにコースが分かれてるのね。それは、教員免許っていうのは、幼稚園の先生なら幼稚園の、小学校の先生なら小学校の、っていう風に、免許の範囲が分かれてるからなんだよ。で、教育学部以外の学部で免許を取得する場合、たいてい高校の教員免許だけしか取れないんじゃなかったかな」
 望月は腕を組んで考える仕草をした。
 「そうなのか?」
 俺が訊くと、
 「さあ。わかんない。そうだったような気がする。気になるなら薫くん、自分で調べなよ」
 からかうような口調で言った。
 「やだよめんどくせえ」
 俺の科白は、いつもそうだった。
 「で、薫くんの将来は、どうなってるの?」
 望月が訊いた。
 何もわかっていない俺は、
 「さあな。気になるなら、自分で調べろよ」
 「意味不明だよ薫くん」

 その後、他の連中の進路志望を調べて見た。
 望月の言う、教育学部のことは調べないが、こういう人のことを探るのは俺的に得意なのであった。
 まず、吉田。あまり知りたいとも思っていないのだが、ま、去年からの付き合いなので、聞いてやってもいいだろう。
 「俺? 俺は、楽器屋でバイトしながらバンド続けるよ」
 それがロックンローラーの生き様さ、という感じで吉田が言った。
 しかし、成功すれば、の話である。
 「馬鹿。俺は絶対にデビューしてやる。努力も続けているんだ。まっすぐ突っ走る! それがロックンローラーの生き様なのだぁあっはっはっはあっ」
 叫ぶ途中で語尾を笑いに変える吉田。
 うーん、こいつのキャラは二年経つがいまいち掴めない。
 ……ほんとに言うとはな。
 伊勢さんにも、聞いてみよう。
 ……本人に訊くのだから、探ってるわけではない。
 「私? もちろんお嫁さーん」
 ごつい体でシナをつくる伊勢さん。
 「あっはっは」
 「何笑ってんのよ、失礼ね」
 顔を、じゃなかった、頬を膨らませる伊勢さん。しかし、それすら笑いにするような、明るさを彼女は持っている。
 「私は看護師になるつもり」
 すぐに拗ねたような表情を解き、言った。
 穴山さんは、どうだろうか。
 綾子がいなくなり、俺とはほとんど会話をすることもなくなってしまった、穴山さん。一年前と、同じような関係に成り下がってしまった感がある。
 「あたし? あたしは、別に……」
 「進路決めてないのか?」
 「うん。だって、まだ一年あるわけだし。ま、大学には行こうと思ってるけど、短大かもしれない」
 「そっか」
 俺は腕を組んで、
 「綾子は、確かスチュワーデスになりたいって言ってたな。どういう学校に通うんだろうな。そういう専門学校でもあるのかな」
 「普通に航空会社に就職じゃないの? あたしはよく知らないけど……」
 さて。俺はどうしようか……。
 「真田くんはどうするの?」
 「え?」
 「たいへんだよね、望月さんを養ってあげないといけないわけだから」
 なぜか、それはからかい調子ではなく、俺を責めるような口調だった。
 なんで……?

 そのまま、数日が過ぎた。
 俺は自分の進路を決め兼ねている。今まで考えたことのない将来のことを、今いきなり考えろと言われても、すぐに決められるわけがない。
 ま、あくまで予定、ではあるので、適当でも差し支えないのだが……。
 別に、望月を意識したわけではないが、俺は第一志望を四年制大学と書いた。学部は、わからない。
 国公立だと、学費は安く済む。私立には行かない、とだけ、俺は決めた。
 国公立は、倍率も高いし、難しいとは、わかっている。
 「おーい、真田」
 廊下を歩いていると、吉田が後ろから駆け寄ってきた。
 声を聞いて、吉田だとわかるようになったのは、今年に入ってからだな。綾子と過ごすことが多くなったから、自然と吉田が関係してくるのだった。
 「相変わらず仏頂面してるな」
 俺の顔を見た吉田が言った。
 「でっかいお世話だ。何の用だ?」
 「ああ。真田は、今日が何の日か知ってるか?」
 「……は?」
 なんだ? 体育はないし、宿題もなかったはずだ。
 「抜き打ちテストでも、あるのか……?」
 恐る恐る訊くと、
 「そんなことじゃねえ。今日はバレンタインだぞ」
 ……ばれんたいん?
 「チョコレートの日?」
 「もらえればな」
 ぐさっとくる一言を吉田は言った。
 俺は、何を隠そう、望月と聡子ちゃん以外からはバレンタインでチョコをもらったことがない!
 自慢にはならない。
 むしろ、ミジメ?
 「で、それがどうかしたのか?」
 俺が訊くと、吉田はにんまりと笑って、
 「お前、一個でももらったか?」
 と言った。
 「もらってねえ」
 正直に答えると、
 「俺は、ほれ、既にこれだけもらったんだぞ」
 と、ポケットからチョコレートを取り出した。五つ、あった。
 「いやあ、バンドやっててよかったあ。『いつもライブ観てます』とか言われちゃってよ。俺年下の女の子にもてるようなんだわ。あは、あは、あは」
 ……殴っていいか。
 「ま、お前も望月さんからはもらえるだろうから、心配はしてねえが」
 ……何が言いたいんだ? こいつは。
 「俺は、まだまだこれから増えそうなんだわ。わは、わは、わは」
 ……張り倒すぞ。
 「まあ、帰りの鞄に若干でも余裕があったら教えてくれ。十個くらい分けてやる。だが、間違うなよ。女の子たちはその愛を俺にくれるんだからな。俺への愛をじっくりと噛み締めてくれ。なは、なは、なは」
 ……穴掘って埋めたろか。
 「ではさようならっ」
 吉田は手を振って、教室に入って行った。
 ……結局、あいつは自慢しに来ただけなのか?
 しかし、あいつはそんなにもてるのか?
 むさ苦しいだけの騒がしい男だろう?
 ……もしかして、全部ミーハー気分のチョコじゃねえのか?
 全部、義理。それはそれで、悲しいんじゃない……?
 それに、知らない女の子からチョコをもらっても、毒が入ってたらどうすんの?
 ………。
 ……決して、負け犬の遠吠えじゃあないぞ。ほんとだぞ。ほんとに負け犬の遠吠えじゃないんだぞ。
 「おにいちゃ〜ん」
 廊下をぱたぱたと走る音がした。
 俺をこう呼ぶのは、聡子ちゃんしかいない。
 「これ、義理チョコです」
 俺に追い着いた聡子ちゃんは、ポケットから小さな包みを出して、俺に手渡した。
 しかし、はっきり義理って言うのは……。
 ちょっと待てよ?
 ふと、妄想にも似た考えが、頭に閃いた。
 「聡子ちゃん、吉田って知ってるよね?」
 聡子ちゃんは、小首を傾げて、頷いた。
 「吉田にもチョコレートあげた?」
 奴は、年下の女の子にもてるという話を今さっきしたばかりだ。それなら、聡子ちゃんも、あげたのかもしれない。
 それを、奴は義理だと気付かないでいるのかもしれない。もしそうなら笑ってやろう。
 「私がですか? あげるわけないじゃありませんか」
 聡子ちゃんは笑って言った。
 「私は、毎年お兄ちゃんにしかあげてません」
 ……ん? それはどういう意味だ?
 「さよならっ」
 聡子ちゃんは背を向けると、廊下を駆け出した。
 うーん……。
 意味がわからない。まるで俺のことが好きみたいな言い方じゃないか。
 聡子ちゃんはもてるはずなんだがな。
 うーん。聡子ちゃんは好きな人はいないのか。
 俺もそうだよ。
 「……はあ」
 俺は溜め息をひとつつき、教室に入った。

 昼休み。
 「真田くん、これあげるよ」
 穴山さんが、学食に向かう俺にそう言って手渡したのは、紛れもなくチョコレートだった。
 「義理だけどね。去年は結構綾子と一緒に世話になったから」
 「あ、そう……ありがたくいただきます」
 わざわざ義理と言わなくても、勘違いするわけがないじゃないか。
 そう言えば、綾子からは何も届いてないな。帰ったら、届いてるのかもしれないが。綾子はそういう奴だ。
 義理でも、ちゃんと律儀に送ってくれるはずだと、俺は思っている。
 でも、おそらくそんな余裕はないだろうな。どんな事情で大阪に帰ったのかは知らないけど、電話連絡の一本も、手紙での連絡もないのだから。
 「結構大きいな。手作り?」
 俺が言うと、穴山さんは目を丸くして、
 「そんなわけないじゃん」
 と言った。
 「まあ、あたしと綾子のふたりからってことにしといて。だから、その大きさね」
 俺が両手で、やっと掴めるほどの大きさ。
 「へえ」
 なんかようわからんが、俺は一応納得したような顔をする。
 「穴山さんは、綾子と連絡取り合ってるのか?」
 俺が訊くと、穴山さんはとたんに顔を曇らせ、
 「月に一回くらい……」
 と、警戒するような表情で言った。
 なんで?
 「じゃ、用事はそれだけだから」
 言って、穴山さんは踵を返した。まるで、逃げるようだと、俺は思った。
 学食で、伊勢さんと一緒になった。
 「あ、真田くん、ちょうどよかった」
 「何が?」
 定食を持って席についたところで、伊勢さんがポケットにそのばせていた包みを取り出した。
 「これ、クラスの女の子に頼まれてたんだ。義理チョコだけど渡しといてくれって」
 その小さな包みを受け取りながら、
 「へえ、誰? こんな仏頂面した愛想のない男に渡す奴は」
 「自分で言わないように」
 伊勢さんが笑って、
 「それは内緒。で、こっちは私から。本命チョコ」
 反対側のポケットから少し大きめのチョコを取り出した。と言っても、片手で持てるほどの大きさだが。
 「一応手作り」
 伊勢さんが、いつもと変わらぬ笑顔で言った。
 それに対して俺は、
 「ごめん、義理なら受け取るけど、本命は受け取るわけにはいかない」
 「え?」
 伊勢さんの笑顔が凍りついた。
 「望月さんから、受け取るから?」
 俺は、頷かなかった。
 「そっか……だよね……」
 伊勢さんは俯いて、呟いている。
 「真田くんには望月さんがいるもんね。……わかった」
 差し出した手を引っ込め、気持ちのカケラをポケットに仕舞った。
 もう二度と、その気持ちが表に顔を出すことはない。
 「悔しいなあ」
 伊勢さんは俺の顔を見てにやりと笑った。
 「私も望月さんに負けないくらいいい女になってやる。で、病院内で一番の評判看護師になるんだから」
 ……がんばれ。
 俺は、心の中で呟き、そして頭を下げた。
 声に出すと、余計に傷つけることになると、なぜかしら思ったからだった。

 帰り道。
 今日は、望月とふたりきりだった。聡子ちゃんは、部活で、一緒には帰れなかった。
 本当かどうかは、わからない。
 無口な帰り道。
 いつになったら、チョコを出すんだろうか?
 俺は、もらえることはわかっていた。
 俺も、受け取るなら望月からのチョコレートだけ、と決めていた。受け取る側の、義理のようなものである。
 問題は、それから後なのだが、気にすることはないと、思うのだった。
 「あ、あの、薫くん……」
 望月が、おずおずと口を開いた。
 いつもと同じように横を歩いている望月が、今日は一段と小さく見える。
 「なんだ?」
 なぜか、俺の声は掠れていた。
 「あ、あの、……これ」
 差し出した望月の手は、震えていた。
 両手で、落とさないように、支えるように、重ねて差し出していた。
 その手の平の上に、ちょこんと、ハートの形をした包みが置かれている。
 「受け取ってください」
 ぺこんと、望月はお辞儀をした。
 九十度。素晴らしいお辞儀だった。
 俺は包みに手を伸ばし、取り上げて見た。
 「ずいぶん、小さいな」
 ちらと、お辞儀したまま、望月が顔を上げた。俺の様子を窺っている。
 「手作りだろ?」
 「う、うん、もちろんだよっ」
 なぜか意気込んで頷く望月。
 「その割りに、やっぱり小さいな。俺への気持ちって、こんなもんだったのか?」
 俺は、からかうつもりはないのだが、なぜかそういう言葉を吐いてしまう。
 「えっ! あっ、あの、そのっ……」
 望月は顔を真っ赤にさせ、シドロモドロになった。
 「ゆ、昨夜ね、一生懸命作ってたんだけど、考え事してたら、失敗しちゃって。……で、結局出来あがったら、そんなに小さくなっちゃってたの……」
 「ふうん、元々の大きさは?」
 「これくらい」
 と、望月は手で大きさを示した。それは、小脇に抱えられるくらいの大きさだった。
 「結構でかいな……」
 「それは、私の気持ちだから。あっ」
 言ってしまってから、望月は口を押さえた。
 からかい甲斐のある奴だ。しかも、結構それがかわいい。
 ………。
 今、俺はなんて言った?
 「考え事って、何を考えてたんだ?」
 「うーん……色々」
 望月が、誤魔化すように笑った。
 「あの……。受け取ってくれる?」
 上目遣いで俺の方を見る望月。
 「まあ……いいんじゃねえの?」
 俺はぎこちなく頷いて見せた。
 「小さくても、お前の愛がぎっしり詰まってるわけなんだろうから」
 「えっ!」
 望月の顔からボウッと湯気が噴き出た。というのは冗談だが、それに近い。
 「そ、そういうことははっきりと言わないで……」
 お前が気恥ずかしくしてると、俺までがなぜか気恥ずかしくなる。
 そういう反応をするな。俺としては、さらっと言ったつもりなんだからな。
 「ま、例えて言うなら、しっぽまでぎっしり詰まった鯛焼きだな」
 照れ隠しに、俺は少し上ずいた声で言った。
 「餡子の量を増やさなくても、鯛の部分を一回りでも小さくさせれば、餡子がぎっしり詰まったように見えるんだ。それと同じ原理で……」
 「その例えだと私が愛の量を誤魔化してるみたいじゃない?」
 「………」
 「………」
 「……気持ちの問題だな」
 「……はあ」
 望月は溜め息をついた。
 ほんと、俺は例えが悪すぎる。
 「受け取るだけは、受け取ってやる」
 俺は言った。
 付き合う付き合わないは、今考えることでもないと思えた。
 しかし、俺を想ってくれている望月に、報いてやりたいという気持ちは、少なからずあるのだった。
 今すぐは、付き合えない。しかし、これから先、どうなるかはわからない。
 人生は、長いのである。そして、俺たちはまだまだ若い。
 社会に出る前から、いい加減な関係にはなりたくない。
 本気の付き合いをしていたとしても、社会に出て、俺自身が、ひとりで自立して生きていけるかどうかもわからないのである。望月を、それに付き合わせるわけにはいかないのだ。
 愛だけで飯は食えない。
 だが、俺は、望月をただの幼馴染みから、ひとりの女の子として見るようにはなっていた。文化祭での騒動があってからだが。
 その見方をしても、俺は望月が嫌いにはなれない。好きという気持ちが、どういうものなのかもわからないのだが。
 これが、俺たちの当たり前の姿なのかもしれない。
 一緒に登下校して、一緒に弁当を食べて、笑い合ってふざけ合う。たまには、怒ったり泣いたりしながら、一緒に時を過ごすのではないだろうか。
 今までと同じように。
 でも、今までと同じとも、限らない。
 それは、俺が望月の気持ちに気が付いたからであり、その気持ちに報いてやりたいと思うからである。
 この先、どういう事件があるかも知れない。
 どんな、困難がふたりを待ち受けているのかも知れない。
 でも、望月は俺の隣りにいてくれる。その、確信がある。
 好きという気持ちがどんなものなのか、望月が教えてくれるかもしれない。
 結局、わからないままかもしれない。
 だが、望月のために、今は隣りで笑っていてやろう。
 それが、今俺にできるせめてもの返答だと思う。
 「望月……」
 横を歩く望月に、俺は声をかける。
 望月は、いつものように、首を傾げるようにして、俺を見上げる。
 「これからは、お前のことをふみって呼んでいいか?」


    to be continued
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