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修学旅行

ある日、俺たちの学校は修学旅行に出かけた…。
現代の高校にとってはごく普通の行事だ。
そして、俺たち高校生にとって修学旅行といえば、一生の思い出になるであろうほどビッグなイベントなのだ。
訪れる場所もたいてい決まっていて、そのほとんどが観光なり遊園地なりで遊びながら勉強もするといった感じで行われる。
もちろんそれは俺たちの学校にもあてはまることだ。

と思っていた…。

しかし、実際俺たちが訪れたのは、別になんて事のないただの学校だったのだ…。
それも近くに観光できるところでもなく、人っ子一人いない山の上の学校だ…。

湯沢 「(しかもでかい塀に囲まれてる…。)」

やがて、俺たちを乗せたバスはその塀の中に入っていき、建物の入り口前の小さな広場に停まった。

湯沢 「(こんな所まで連れて来て、一体俺たちに何をさせるつもりなんだ?)」

他の奴らは少しアヤシイと思いながらも先生達の言う事を聞いている。

湯沢 「(…しかしこれはあきらかにおかしい。)」

俺は少し探りを入れてみようと、建物の中に入っていく俺たちの学校の生徒の列から外れ、先生達に見つからないように建物の横側にある別の入り口から中に入った。

湯沢 「(ちょっち狭いかな?)」

でかい外見とことなり、中は異様に狭かった。
そして俺はその中を中を歩きまわった。

湯沢 「…なんだここは?」

外から見ると汚いが、中はすごくきれいだった…。

湯沢 「なんなんだここの材質は…コンクリートじゃないぞ?」

廊下も壁も天井も、真っ白のようにも見えるが薄い青色のようにも見える。

湯沢 「ちょっち寒いし。それに壁の角…あまり尖ってない。」

少し丸みを帯びている。まるで発泡スチロールのような手触りだった…。
不思議な空間だ…壁に何も貼ってないし、教室らしき場所もない。

湯沢 「やはり何かある…怪しい建物だ。」

湯沢 「こんな所に俺たちを連れてきた学校側(あるいはこの学年の先生達)は
一体何を考えているんだ?」
湯沢 「(ここには一体何があるというんだ?)」

ほんとにわからない…。

湯沢 「(まあ、とにかくここから一刻も早く出る事が得策だろう…。)」
湯沢 「(しかし誰にも相談できない。先生達の罠かもしれないな…。)」

なんていうのは考え過ぎだろうか…?

湯沢 「しかし…先生達が何かを企んでいて、それに俺たちを巻き込もうとしているのは確か…
でもないか。」
湯沢 「(まあとりあえず…友達にだけでもこのことを教えといてやろう。)」
湯沢 「…の前に、ここはどこだ…?」

一方通行だし、途中に窓もなかった…。

湯沢 「…逃げ道も…ない…。」
湯沢 「(どうしよう、ここでもし誰かに見つかったら…。)」
湯沢 「って、誰に見つかんだよ!?ケッ、あほらし…はっ!?」

…耳を澄ませばどこからか、人の話す声が聞こえてきた。
とっさに俺は何もない壁をよじ登り、天井にスパイダーマンのようにくっついた。

湯沢 「(まず無理だと思うけど…。)」

すると、その声の主たちは俺のほうに寄ってくる。そして俺に気付かず下を通過したかに見えたが…。

? 「ん?なんだこれは…?」

?? 「…ハンカチ?なぜこんなところに…?」

湯沢 「(はうあっ!俺だ!俺のハンカチだ!しかもお気に入り…!!)」
湯沢 「(ちっ、天井にのぼる時に落としてしまったんだな。我ながらマヌケだ…。)」
湯沢 「…あら?」

ドスンッ!

湯沢 「落ちちゃった…。」

? 「!?お前…。」

湯沢 「(あっちゃ〜どーしよー。やっぱしマヌケ…。)」

そして奴等を、顔を上げて見た!

湯沢 「!?」
湯沢 「(…先生。担任の…轟先生。)」

轟 「湯沢…お前なぜここに…?」

湯沢 「(くっ…やっぱこれは先生達の罠っ!?)」

?? 「君か…湯沢君。君にはいつも手を焼かされる…。」

湯沢 「(かっ、川西…。)」

轟 「こんな所で何をしている?早くみんなのところへ戻るんだ。」

湯沢 「へっ、やなこった!あんたらが一体何を企んでいるのかは知らないが、俺はあんた達のいいなりにはならないっ!」

轟 「はぁ?何を言っているんだ…?さあ、ワシ等と帰ろう。」

湯沢 「近づくなっ!!」

轟 「!?…何だ、どうしたんだ?湯沢。」

湯沢 「(くっ…どうする?今捕まったらそれこそこいつらの思惑通りになっちまう…。)」

川西 「いいかげんにするんだ湯沢。いいから来い。」

湯沢 「近づくなって言ってるんだぁ〜!」

ゴギッ!
ゴガッ!

気がつくと川西は泡を吹いてもがいていた…。

轟 「湯沢、お前なんてことを…!」

湯沢 「うるせー!!俺は絶対捕まらない…。お前等の思い通りにはさせないっ…!」

轟 「待て、湯沢っ!!」

湯沢 「(…先生、あんただけは信じてたのに…)」
湯沢 「くそっ!!」
湯沢 「(しかしこれからどうしよう…?)」

まちがいなく他の先生達も俺を探しに来るだろう。

湯沢 「(たとえあの二人の仲間じゃなかったとしても。俺は川西を殴ったんだからな…。)」
湯沢 「(しかし…なんとかしないと…なんとか…。)」
湯沢 「(ん?あれは…。)」

クラスメートの野田洋子とその仲間たちだった…。

湯沢 「おい野田!」

野田 「きゃっ!?…あ、なんだ湯沢君か…。」

湯沢 「なんだじゃない。いいか?よく聞け…。」

俺はさっきあった出来事と、轟たちが何かを企んでいるということを野田たちに話した…。

野田 「…ぷっ」

全員 「あっはははははは!!」

湯沢 「!?」
湯沢 「何がおかしい!?」

野田 「だって、湯沢君すごいよそれ。すごいこと考えたね。でも信じないよ?バカバカしい…。」

湯沢 「じゃあ、なんで修学旅行のしおりに載っていなかった場所に来てんだ!?」

野田 「だから、崖崩れがあったんだよ。このままじゃ予定の場所には着けないからって、急遽この施設に来る事になったんだよ。バスの中で言ってたじゃない。」

湯沢 「…なんだとぉ!?」

野田 「だから、そんなバカなこと言ってないで一緒に遊ぼっ?」

湯沢 「……」

野田 「ほら?」

野田は俺の腕を掴んだ。
が…。

湯沢 「俺に触るなっ!」

野田 「!?」

俺はその手を振りほどいた。

湯沢 「…そうか。お前もグルだな!?」

野田 「えっ?」

湯沢 「お前もあの二人とグルで…俺をはめようとしてっ…!」

野田 「…ちょっと、湯沢君!?」

湯沢 「近づくな!!」

野田 「…どうしちゃったのよ湯沢君、大丈夫!?」

この時の俺はもう混乱を極めていた…。
何が本当で何が偽りか、誰が味方で誰が敵か、わからなくなっていた…。
だから、野田の俺の体を揺さぶるこの衝撃は、俺の理性を完全に吹き飛ばしたのだった…。
そして、気が付いたら野田は胸から血を流し、地面に倒れていた…。

湯沢 「(俺がやったのか…?)」

頭の中でその言葉が繰り返される…。
そして俺の手には血染めのナイフ…。
ポケットに入れておいた俺のナイフ…。

湯沢 「やっぱり俺がやったんだ…。」
湯沢 「(俺が野田を刺したんだ…。)」

他の女生徒たちも騒いでいる。

湯沢 「はっ…!?」

カシャーン!

湯沢 「ちっ、ちがうっ!俺はっ…!」

なにも違ってはいない…。すべて事実だ…。
なのに俺は、情けなくもナイフを地面に放り投げて弁解しようとしている…。
こいつらみんなが証人だというのに…。
これにより俺の精神は完全にまいってしまった…。
そして、俺はこの場から逃げ出していた…。
女生徒たちはただ騒ぐだけで、その場を動こうとしなかった。
きっと腰が抜けたなり足が竦んだなりで動けなくなったんだろう。まあ無理もないが…。

湯沢 「(なっ、何かの間違いだ…!この俺が人殺しなんて…!)」

逃げる途中で誰か先生とすれ違ったが、そのときの俺には見えているはずもないことだった…。
そのまま俺は夢中で走りつづけ、そしてとうとう建物の外に出られた…。

湯沢 「(これで逃げ切れる!!)」

この時俺はそう心の中で叫んだ。歓喜の一瞬だった。
そう…一瞬だった。
気が付いたら俺は、空から倒れた自分の姿を眺めていた…。
周りには警察、救急車、クラスメートが見える…。
そして、俺の体の近くにはフロントガラスの割れたトラックが停まっていた…。
どうやら俺は、このトラックと正面衝突してしまったらしい。
実際、俺の体はヒトの形を残さないで、ただの肉の塊としてそこに存在するだけだった…。
あれが俺だ…。

そう思った時…俺は、すでに死んでいたことに気がついた…。


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