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beatmaniaUDX The ANOTHER Story Type.K


2nd STAGE 『異世界』




『時刻場所一切不明』


ケイ 「……ん?」

うっすらと意識が覚醒する。
薄暗く、天井が板張り……ここは?

ケイ 「えと……私……どうして?」

私は少し前のことを思い出す。
たしか……町の中で変な戌の兜を被った人に声をかけられて……。

ケイ 「黒い渦に飲み込まれた……」

意識の覚醒と同じくして次第に記憶が戻ってくる。
そして目の焦点が合うと、その景色が現実味をおう。

ケイ 「どこ……ここ?」

ゆっくりと体を起き上がらせる。
体には固めの布団がかけてあり、手から感じる材質は毛布とは程遠い……毛皮か何かだろうか?
見るとベットの上のようで、周囲を見渡すと個室のようだった。
みすぼらしい……シックとも言い方はあるだろうけれど、これはむしろボロいというのが適切な気がする。

ガチャリ……。

部屋の角の扉が開く。
誰かが入ってきたのかと感じた時、自分が今いるところがわからないと無意識に恐怖心が走り、私は布団を深く被る。

オロロージョ 「目覚めたか〜……て、お?」

ケイ (誰だろう……? 男の人?)

褐色と言うには薄い肌、キリッとしたした顔つき、そして鋭い目はイェロートルマリンのような黄色。
髪の毛は金髪だけど、手入れが悪くぼさぼさで、元々は長髪だったのか後ろ髪がばっさりと不均等に切られている。
サイドだけは切られていないのか腰まで伸びており、赤い紐で結んでいた。
私より身長が高い、180あるかないかかな?
かなり長身、細くはないけど筋肉質でもない。
私より少し年上のような外見だけど、青年といった感じ。
外国人は年齢より大人びて見えるから、案外年下とか?

オロロージョ 「おーい、なんだ? 布団に包まって寒いのか?」

ケイ 「……だ、誰ですか……?」

オロロージョ 「ん? ああ……俺はオロロージョだ」

ケイ 「オ、オロロージョ……?」

変な名前……そんなスペル聞いたこともないし……本当にここはどこだろう?

オロロージョ 「俺は名乗ったぜ、次は君の名前を教えてくれ」

ケイ 「……小有珠慧」

オロロージョ 「コースケ? そうか! コースケ!」

ケイ 「あ……ち、違いますっ! こ、小有珠慧です!」

オロロージョ 「? だからコースケだろ?」

ケイ 「小有珠・慧なんです!」

オロロージョ 「コース・ケー?」

ケイ 「……もう、ケイって呼んでください」(泣)

オロロージョ 「おう! わかったぞケー!」

この人馬鹿だろうか……コースケじゃ男の人になるよ。
こんな間違われ方したの始めて……。

エクレメス 「目覚めた?」

オロロージョ 「おう、エクレメス! 目覚めたぞ!」

扉の向こうから女性の声が聞こえる。
エクレメスと言われる女性。
名前はやはり聞いたことの無いスペル……どんな国ならそんな名前があるのだろうか?

エクレメス 「……どれどれ?」

少し警戒した様子で一人の女性が部屋に入ってきた。
白人のような白い肌と金の髪、オロロージョさんに比べると手入れされているようだけど、やはり汚れが目立つ。
一見するとまるで兄弟のようにも見える女性。
優しい瞳をしており、女性らしい体つき。
髪の毛は短く切っており、形は綺麗、身長はオロロージョさんより一回り小さい。
私より少し大きいくらい?
体つきはほっそりとしており、私より体重が軽いもしれない。
胸は……意外とある。
見た目は私より年上に見えるけど……どうなんだろう?

エクレメス 「……私たちを暗殺しようとする間者って顔じゃないわね……」

ケイ 「暗殺ってなんんですかぁ〜!? ていうかここはどこなんですかぁ〜!?」

オロロージョ 「ここはノイグラートとアゼルガットの国境付近だぜ? 一応アゼルガット領」

ケイ 「そ、それってどこですか? 国?」

エクレメス 「そうよ。この空と空の狭間の世界、アリア・テ・ラリアの一国、アゼルガット王国の端……」

ケイ 「ア……アリア・テ・ラリア? アゼルガット王国……?」

聞いたことの無い単語が次々と連なる。
頭の中が混乱して、パンクしそうになる。

ケイ 「わ……訳がわからない」

エクレメス 「……こちらもわからないわね。私の名前はエクレメス、あなたは?」

ケイ 「……小有珠慧です」

エクレメス 「コースケ? 変わった名前ね」

ケイ 「お二人揃って同じ間違いしないでください! もうケイでいいです!」

エクレメス 「? ケーね、わかったわ」
エクレメス 「さて、ケー。単刀直入に聞くけどアナタは何者?」

ケイ 「何者といわれても……日本に住む一人の高校生としか」

エクレメス 「日本? どこかしらそれは?」

ケイ 「えと、東アジアの一国で、極東に位置する島国です」

エクレメス 「東アジア?」

オロロージョ 「間違いない! やっぱりこの娘が救国の英雄だ! きっと天の世界からこの世界を救うために降りてきたんだ!」

エクレメス 「オロロージョ、だからそれはリヒトの讒言だと……」

オロロージョ 「そんなことはない! 彼女の服装を見ても一目瞭然だ! こんな服見たことない!」

ケイ (救国の英雄? 一体何のこと……?)

ふと……頭の中にあの戌の言葉がよみがえる。

『ならば、世界を救ってみませんか?』

ケイ (!? ……まさか、本当に世界を救えっていうの?)

ここが私が知っている世界じゃないことはもうわかってきたし、彼等が私の言っていることを本当に理解していないことも薄々わかっていた。
全てを本当と仮定して話を進めると、私は異世界アリア・テ・ラリアという世界に飛ばされて、世界を救わないといけない……ということだろうか?

オロロージョ 「ケー! お願いだ! 今この世界は混沌に満ちている! この世界を救うため君の力を貸してくれ!」

ケイ 「あ……あの……申し訳ありませんけど、私はただのしがない一高校生ですよ?」

エクレメス 「その高校生というものがどういうものか、こちらとしてはわからないのだけれどね」

オロロージョ 「えと……きっと、この世界にきて何もわからないから戸惑っていると思う……だけど!」

ケイ 「ひゃっ!?」

オロロージョさんは私の両手を掴むと顔を近づけて、子供のように顔を輝かせる。
私はいきなりのことに顔を赤面して、固まってしまう。

オロロージョ 「今この世界は、無秩序なまま、力ない者が涙を流す日々が続いている! だが、人々は抗うことも出来ずただ絶望が毎日と享受することしか出来ない!」
オロロージョ 「君は突然光の玉となって空から降ってきた! 間違いなくリヒトの予言の通りだった!」
オロロージョ 「お願いだ! 君の力を俺たちに貸してくれ!」

ケイ 「……オロロージョさん、私は力もないし、運動神経も切れいるし、それに頭も悪いです……足手まといこそなっても、きっと力になれない」
ケイ 「……でも、それでも私の力が欲しいっていうのなら、私は全力で頑張ります」

オロロージョ 「! それじゃあ!」

ケイ 「……あの、私はその救国の英雄かどうかはわかりませんけど、宜しくお願いします」

エクレメス 「オロロージョ……はぁ、ケー、よろしく」

エクレメスさんは何か諦めたようにため息をついたが、右手を差し出してくる。
私は握手と思い、その手を握る。

ケイ 「よろしくおねがいします」

オロロージョ 「よーし! これで百人力だ! ついにあの暴君を倒す時が来たんだな!」

エクレメス 「向かうの?」

オロロージョ 「ああ! もう我慢できない! キラーを倒す!」

ケイ 「キラー? あの……その人は?」

エクレメス 「ここアゼルガット王国を治める王の名よ」
エクレメス 「ロクな政治を行わず、民たちを苦しめ、そして無法者たちをのさばらせた諸悪の根源」
エクレメス 「ただ、その強さは人外の域に達しているとも言われ、それが拍車をかけて今の混沌を悪化させているわ」

ケイ 「じ、人外な強さ? そ、そんな人に勝てるんですか?」

エクレメス 「さぁ? 人外って言っても案外側にそんな奴がいるからね」

私は顔を真っ青にして聞くと、エクレメスさんはそう言ってニヤリと笑いオロロージョさんを眺めた。

エクレメス 「大丈夫、オロロージョはお人好しで馬鹿だけど、規格外の強さだから」
エクレメス 「いくら強いって言っても所詮は人間、戦って勝てない相手じゃないわ」

ケイ 「は……はぁ」

エクレメスさんは随分な自信でそう言い切る。
それほどまでにオロロージョさんは強いのだろうか?
この世界がどんな世界かまだわからない。
感じるところまるで中世的な世界には感じる。

オロロージョ 「よし! じゃあ早速出発だ! 目指すは王城!」

エクレメス 「そうね」

ケイ 「あの、それってどこにあるんですか?」

エクレメス 「ここから東に十日程歩いたところよ」

ケイ (十日……遠いなぁ)

歩いて十日となると相当な距離だ。
自動車とかあれば一日でつくんだろうけど、この世界にはなんだかなさそう。

オロロージョ 「二人ともすぐに用意を……ん?」

ケイ 「? オロロージョさん? どうしたんですか?」

オロロージョ 「人の気配だ……たぶん囲まれている」

エクレメス 「私たちの暗殺を狙う奴かしら?」

ケイ 「あの……暗殺って何かしでかしたんですか?」

エクレメス 「別に、ただ横行を極める政府の豚をオロロージョがぶっ飛ばしただけ」

オロロージョ 「それ以来たびたび、王国の兵士に狙われるんだよな、悪いのは上の連中だってのに」

ケイ 「……な、なるほど……」

なんだか段々オロロージョさんたちがわかってくる。
この人たちはきっと義賊なんだろう。
だけど、この世界は思ったより封建社会として形が完成している感じ。

エクレメス 「まぁ何人いようと、正面から来る限り敵じゃないわね」

ケイ 「ええっ!? そんな、囲まれた大変ですよ!?」

エクレメス 「大丈夫、私はともかくオロロージョはそれくらいじゃ止まらないから」

オロロージョ 「いくぞ!」

オロロージョさんは鋭い目つきをすると部屋を出て行く。
私たちも慌てて後をおうと、部屋のロビーと思われるところに立ててある一本の赤い剣のようなものをオロロージョさんが持つ。

ケイ 「オロロージョさん、それは?」

オロロージョ 「名前は『Xepher』……一応召喚機なんだけど、俺には使いこなせないし、まぁぶっ叩くことくらいは出来る」

オロロージョさんが取り出した赤い剣は剣というには無骨すぎた。
剣の柄とか剣とか区別が無く、剣のような形をした金属といった印象を受ける物だった。
剣は尖っておらず、切る事を目的としてないということは剣の刃を見れば一目瞭然だった。
召喚機って言っていたけど、それは……?

エクレメス 「突入する前に出るわよ、オロロージョ!」

オロロージョ 「おう!」

オロロージョさんを先頭に二人は部屋を出て行く。
部屋を出るとすぐに外で、外には10数人の変わった服装の男たちが居た。

エクレメス 「なんだ、正規兵かと思ったら盗賊」

ケイ 「と、盗賊?」

随分リアルな言い方をするエクレメスさん。
周囲を囲む男性たちはみな屈強で、服装はみすぼらしく布で覆えている面積も少ない。

盗賊A 「へっへへ……おめぇら、命が惜しかったら金と食料置いてきな」

オロロージョ 「残念だけど、金もなければ食料もない! だから奪う相手を間違えているぞ!」

盗賊B 「へ! だったらその身包みはいでやるぜ! 女は高値で売れるしなぁ」

ケイ 「!? は……はわわ……」

う、売られる……身売り!?

オロロージョ 「悪いけど二人とも俺の大切な仲間だ。それに身包み剥がれるいわれもない」

盗賊A 「へっ! お前等やっちまえ!」

盗賊達 「おーーっ!!」

皆ボロボロとはいえ、武装した集団。
それが一斉に私たちに襲い掛かってくる。

オロロージョ 「加減できないぜ!? せぇーーーーーのーーーーっ!!!!」

ズッドォォォン!!

盗賊達 「ぎゃああああっ!!?」

ケイ 「……へ?」

オロロージョさんは剣を構えると一振り、地面を砕き割り盗賊10数人か一度に吹き飛ぶ。

盗賊A 「な、なんだぁっ!?」

盗賊B 「こ、こいつ化け物かぁ!?」

オロロージョ 「あのさ、俺としてはお前たちも今の悪い政治に巻き込まれた犠牲者だ。出来れば戦いたくは無い」

盗賊A 「くっ! おい! あの女どもからだ! こいつは無視だ!」

盗賊B 「へ、へい!」

オロロージョさんの強さを見てか今度は私たちに狙いをつけてくる。

ケイ 「て、わわわ!?」

エクレメス 「……やれやれ、女と舐められたものね」

私は慌てふためいてどうしたらいいかとわからないでいると、エクレメスさんは超余裕でいる。
一体なんの余裕かと思いきや、突然歌い始める。

エクレメス 「♪〜〜♪♪〜〜♪〜……」

ケイ 「エ、エクレメスさん歌っている場合じゃ!?」

エクレメス 「フレアーボルト!」

ケイ 「え?」

エクレメスさんが言葉を紡いだ瞬間だった。
周囲の空気が熱せられたかのように熱くなると、突然空気中に炎が発生し、盗賊達を襲う。

盗賊A 「なんだとーーっ!? 音術士!? 魔法使いだってのか!?」

ケイ 「ま、魔法?」

エクレメスさんはなんと突然魔法を扱う。
その様はまるでファンタジー世界のようだった。

ケイ (す、すごい……オロロージョさんもエクレメスさんもこんなに凄いの……)

オロロージョさんの馬鹿力、エクレメスさんの魔法。
その目から入ってくる情報は、確実に私の脳にインプットされない不可思議な情報たち。
それが一斉に、現実化し、そして非現実と現実の境目を曖昧にしていく。

ケイ (こ、こんなのって……なんなのっ!?)

私は慌てふためき、ただ怯えることしか出来なかった。
未知の領域の力を使う、二人が怖いのだろうか?
それとも、そのような力があるこの世界に畏怖を為したか?
ただ何とも着かぬまま、私の体は硬直し、熱が奪われる気さえした。

盗賊A 「くっ! て……テメェら……調子に乗りやがってぇぇぇっ!!!」

エクレメス 「私の音術はオロロージョの馬鹿力と違って、命を殺めることあるわよ? まだ誰も怪我してないうちにどこかへ行きなさい」

盗賊A 「ああーーーーっ!! もうやめだっ!! テメェら全員細切れにしてやるーーーっ!!!」

オロロージョ 「細切れは困るな……俺たちこれからキラーを倒さないといけないし」

エクレメス 「そう言う問題じゃないでしょ、オロロージョ……全く、こののほほん人間は」

盗賊A 「てめぇら!! こいつを見ろーーっ!!」

ケイ 「?」

突然、盗賊の親玉と思われる人は持っていた袋から一振りの剣と思しき物体を取り出した。
私はそれが何かわからなかったが、二人はそれに顔を青くする。

エクレメス 「それはまさか!? ゼクトバッハ召喚機!?」

盗賊A 「その通りよーーっ!! こいつはとあるルート手に入れた、スレイクの傑作機! ゼクトバッハ召喚機さ!」
盗賊A 「さぁ、出てきやがれ!! ゼクトバッハ……『GANBOL』!!」

突然だった。
盗賊の人が持っていた紅い剣が輝きだす。
いびつな形の剣は形を変え、もはや分類不可能な形状へと変化すると、盗賊の足元に魔方陣を作り出し、底から巨大な何かが出現する。

ズドォォォン!!

強大な質量が空間に突然の顕現。
大気を押しのけて、空間にねじ込まれたそれは周囲の空気を爆発させてその場に姿を現す。

ケイ 「きょ、きょきょきょ……巨大ロボットーーーッ!?」

突然目の前に現れたのは10メートルはあろうかという人型のロボットだった。
アニメとかで見るようなロボットと比べると無骨というか、手足が太くて短い、という感じだった。

盗賊A 『ヒャッハハッハーー!! もう泣いて許しを請いても許さねぇぜーー……て、ん?』

ロボットの中から高笑いをする盗賊をよそに、酷く冷静な顔をしているオロロージョさんとエクレメスさん。

オロロージョ 「すげぇな……Xepher以外のゼクトバッハ初めて見た」

エクレメス 「……贋作ね。エーテル金属を使ってもいないし、装甲に描かれた魔術回路の羅列もでたらめ……ゼクトバッハとは呼べないわね」

オロロージョ 「へ? てことはこれゼクトバッハじゃないのか……なんだ」

そう言ってガックリするオロロージョさんと、明らかに落胆したエクレメス。

ケイ 「……て、落ち着いて見ている場合じゃないですよーーっ!」

盗賊A 『そ、そうだぜ!? てめぇら、踏み潰されたいのかーっ!?』

エクレメス 「……とはいえ、確かに大きい敵は戦いにくくて厄介ね」

オロロージョ 「相手の足元潰して、倒れたところを追い討ちは?」

エクレメス 「いい案ね……それで行きましょうか」

オロロージョ 「おっしゃーーっ! でぇぇぇいいっ!!!」

オロロージョさんは少しエクレメスさんと少し話し合うと、すぐさまオロロージョさんが動き出した。
すぐさま、相手の足元にもぐりこんだオロロージョさんはその剣で巨大ロボットの右足をブッ叩く。

盗賊A 『うおっ!? だが、この程度じゃ――!』

オロロージョ 「二発目ーーーっ!!!!」

ガッコォォォォン!!!!

盗賊A 『ぎぃっ!?』

とてつもなく大きな音が静寂の空間に木霊する。
オロロージョさん渾身の一撃は巨大ロボットの足を見事に叩き折った。
片足を失った衝撃で、後ろに倒れる巨大ロボット。

ズッシィィィィン……ッ!!!

盗賊A 「け……けほけほっ! な……なんて奴だ!?」

慌てて胸の辺りから盗賊が出てくる。
そこには待ってましたと言わんばかりに、オロロージョさんとエクレメスさんが。

エクレメス 「へぇ……贋作の場合、ここの装甲財が動いて外れるわけか……以外と凝っているわね」

オロロージョ 「エクレメス……どうする?」

盗賊A 「あ……あはは〜……その、お姉さん方許してくださーい!!」

盗賊はそう言って走って逃げ出す。

エクレメス 「……ふふ、良い事思いついた♪ オロロージョ、ゼクトバッハを使いなさい」

オロロージョ 「え? でも俺にはあれは使いこなせないぞ?」

エクレメス 「いいのよ、さっ♪」

オロロージョ 「……わかった。顕現せよ……ゼクトバッハ、『Xepher』!!」

突然、オロロージョさんが剣を天に掲げて、叫ぶと剣が光を放つ。
目を開けられなくなるほどの光、その中で紅い剣はその形を変える。
オロロージョさんの足元に現れる魔方陣のようなもの、それが高速回転すると、その下から何かが出現する。

空間にあるはずのないものが出現する時、空間はそれを押し戻そうとする力が発生する。
しかし、その圧倒的であり、絶対的であり、そして究極的なその物質は、空間の反発作用を跳ね除け、この世界に顕現する。

ズドォォォォン!!

ケイ 「きゃあっ!?」

突然の爆風に吹き飛ばされそうになる。
最初に出てきた時もすごかったけど、今度はそれ以上だった。

そして、その時目の前にいたのは一体、巨大ロボット……いや、まるでそれは神話に登場する巨神だった。
黒光りする強大な鎧を来た、巨人のようなフォルム。
手には一刀の巨大な剣を持ち、敵の前に顕現した。
その姿はまるで神掛かっており、神さえ畏怖させん脅威性を感じさせた。

盗賊A 「ひ……ひええええっ!? ゼクトバッハだとーーっ!?」

エクレメス 「さぁ、今度はあなたがぺしゃんこの番かしら?」

にやりと笑い、盗賊に近づくエクレメスさん。
その背後にはオロロージョさんの乗っていると思われる巨人が立つ。

盗賊A 「た、助けてくれー! 命だけはぁ〜!」

エクレメス 「ええ、私は慈悲深いからね、助けてあげるわ……ただし」

ニヤリと笑うエクレメスさん。
少し黒いオーラがにじみ出る。

エクレメス 「金と食料を置いてきな♪」

盗賊A 「ひ、ひいいいいい〜!!?」



…………。



エクレメス 「いやぁ〜♪ 儲けた儲けた♪ これで当分は旅が続けられるわね♪」

ケイ 「盗賊から、奪うなんて前代未聞です……」

あれから、エクレメスさんは盗賊団からお金と食料を見事、強奪した。
でもさすがにオロロージョさんが口を挟み、奪う量は食料2日分とお金半分だけとなった。
十分奪いすぎだよぉ〜……。
エクレメスさんも満足しているのか、嬉々としていた。

エクレメス 「何を言っているの、今の時代は力こそが正義なのよ♪」

ケイ 「でも、そんな世界を正すためにお二人は戦っているんでしょ?」

エクレメス 「それはそれ、これはこれ」

オロロージョ 「ケー、確かにエクレメスのやり方は正しいとはいえないけど……俺たちもこういうやり方でしか生きていけないんだ」
オロロージョ 「命があれば、きっと明日があるさ……彼等には悪いけど俺たちも必死だからね」

ケイ 「はぁ……あ、それはそうと、あの大きな巨大ロボットはなんなんですか?」

エクレメス 「巨大ロボット? もしかしてゼクトバッハのこと?」

ケイ 「あ、多分それです……なんか叫んでいたじゃないですか」

エクレメス 「オロロージョのは『Xepher』、過去の英人たちが作り出した強大にして強烈、神話にして神覇」
エクレメス 「召喚機を媒介に、空間にエーテル金属で出来た搭乗型のゼクトバッハを召喚、その装甲はあらゆる攻撃や魔法に耐性があり、装甲に描かれた紋様は――」

エクレメスさんはゼクトバッハなる巨大ロボットのことを聞かれると嬉々として説明を始める。
正直聞いている分にはチンプンカンプンだったけど、とりあえず巨大なロボット、ファンタジーバージョンとして認識しておく。

オロロージョ 「ゼクトバッハといえば、あの盗賊が持っていたのはなんだったんだろう?」

エクレメス 「スレイクの傑作って言っていたわね……多分、『GAMBOL』のことと思うけれど、あれ、『GANBOL』って絶対言っていたわ……間違いなく贋作」
エクレメス 「本物なら、魔術回路の羅列を見ればまるわかりだわ!」

ケイ 「オロロージョさん、なんだかそのゼクトバッハっていうのを説明する時って生き生きしてますよね?」

オロロージョ 「エクレメスは音術とかゼクトバッハとか、そういった類のマニアなんだ」

ケイ 「そうなのか〜」

エクレメスさんは一人で未だに語っている。
多分もう聞いていないことに気づいていない。

ケイ 「でも、あんな巨大ロボ……じゃなかった、ゼクトバッハがあれば、楽勝ですね♪」

オロロージョ 「ん〜……そうもいかないんだよね」

ケイ 「え? どうしてですか?」

オロロージョ 「『Xepher』は俺を認めていないから、俺には動かせないんだ……召喚できるだけ」
オロロージョ 「普通は召喚することさえ出来ないそうだけど、それが出来るのに動かせないのはきっと、俺がまだ未熟からなんだ」

ケイ 「……ということは、盗賊の前に出したのは?」

オロロージョ 「多分、エクレメスが効率よく盗賊から奪うためのブラフ」

ケイ 「……エクレメスさんって案外黒いなぁ……」

普段は理知的で優しそうな顔をしているのに、結構性格はがめついというか……黒い。
なんだか、茂木さんを思い出すなぁ。

エクレメス 「聞いているのケー!?」

ケイ 「あ、は、はいぃ!?」

エクレメス 「全く、私が折角偉大なるゼクトバッハの高説を行っているというのに……こうなればあなたには一から徹底的に叩き込む必要があるわね」

ケイ 「う……お、オロロージョさん、助けてください〜」

オロロージョ 「いや、でも覚えて損はしないよ? 知らないと不利になることも多いし」

私はオロロージョさんに助けを求めるけど、オロロージョさんは見事にベクトルから外れた返答を返してくる。
なんていうか、オロロージョさんもどこか変、のほほんとしていたり、空気読めなかったり。

ケイ (もうなんで……なんで私はこんな世界に着ちゃったんだろう)

見渡す限りが不毛な平野。
空は淀み、暗く……まるで魔界の入り口のような様相。
そして、私の知らない力たち……。
私はこの世界で何ができるというの?
私が世界を救う……できるはずがない……そう、できるはずが……ない。



…To be continued




 
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