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beatmaniaUDX The ANOTHER Story Type.K


7th STAGE 『模擬戦』




オロロージョ 「――でやぁぁぁぁっ!!」

ブォンブォン!!

エレキ 「おっとと! あぶないあぶない」

ゼクトバッハ召喚器を持って必死にエレキさんを捉えようと振り回すオロロージョさん。
それを簡単にいなし、触れることさえ許さないエレキさんには余裕の笑みがある。

ケイ 「オロロージョさん頑張ってくださーい!」

私は遠くでオロロージョさんとエレキさんの戦いを応援していた。
ここはいつものEDEN本拠地の玄関前。
話は一時間前程に遡るが、エレキさんからの提案で合同訓練を行うことになった。
そしてどういうわけかオロロージョさんとエレキさんで十番勝負を行うことになった。
ちなみに今のは三本目、現在のところエレキさんが二勝している。

サイレン 「全然当たらんな」

鉄火 「当たったら即死級ですもんねぇオロロージョさんのは」

最初のギャラリーは私だけだったけど、気がついたらサイレンさんや鉄火さん、セリカさんにナイアさんとぞろぞろと集まってこの戦いを観戦している。
オロロージョさんはとにかく果敢にエレキさんを攻めるけどエレキさんはそれを無駄な動きなく見事に回避してつばぜり合いにさえ持ち込めない。
いや、エレキさんがオロロージョさんの馬鹿力を恐れて触れさせようとしないんだと思う。
時々オロロージョさんの剣の腹を横から叩いて軌道をずらしたりしているけど、結構痛そうだった。
つばぜり合いするにもオロロージョさんの馬鹿力が相手じゃそのまま押し込まれかねないもんね。

ケイ 「うーん、やっぱり蟷螂の斧っていうことなのかなぁ?」

エクレメス 「何? その蟷螂って?」

ケイ 「え……えと、さぁ? と、とにかく折角の武器も当たらなければ意味がないってことですよ!」(正確には自分の力量もわきまえずに強敵に立ち向かう意です、ちなみに蟷螂とはカマキリのことです)

私は蟷螂と聞かれると答えることが出来ずに、うやむやに意味だけ伝える。
うーん蟷螂ってなんだろ、ゆとり世代には難しい問題だね。

オロロージョ 「……くっ! ていやぁ!!」

エレキ 「残念! 隙だらけ……だ!」

ガキィィン!!

エレキさんの右手の一撃がオロロージョさんの召喚器をはじき飛ばす、すぐさま放たれた左の一撃はオロロージョさんの首元で止まる。

エレキ 「はい、これで俺の三勝」

オロロージョ 「く……」

エレキさんは剣を引くとニヤリと笑った。
対してオロロージョさんは珍しく悔しそうな顔をしていた。
私はすぐさま濡れたタオルを持ってオロロージョさんの元に向かう。

ケイ 「大丈夫ですかオロロージョさん? はい、タオルです」

オロロージョ 「ありがとうケー、それにしてもエレキは強いな、全くこちらの攻撃が当たらない」

エクレメス 「アンタの攻撃が単調なのよ、次の戦い自分から攻めずに相手の攻め方を待ってみなさい」

オロロージョ 「エクレメス? わかった」

オロロージョさんは体をタオルで拭くと地面に落ちた召喚器を手にとって四本目の試合に望む。

エクレメス 「……当たりゃ勝てるって思ってたけど、キラーには効かないしエレキには当たらない……使い方次第ってのは本当ね」

エクレメスさんは観客席に戻るとそう呟いた。
そう、オロロージョさんの一撃は当たれば防御なんて意味のない強打。
その一撃は贋作とはいえどゼクトバッハを一撃で破壊するほどの攻撃力を持っている。
当然それを嫌ってエレキさんはさわらせない。
キラーさんに至っては堂々と受け止めたほどだ。

オロロージョさんには技がない。
力で押し込まれるにしろ技で封じられるにしろ、一度技量が上回られるとオロロージョさんの力は呆気ない。

エレキ 「お? 今度は待ちか?」

オロロージョ 「……」

オロロージョさんはエクレメスさんに言われた通り両手で召喚器を持ってじっとエレキさんの動きを待った。
オロロージョさんには随分久しい苦戦だと思う。
元々オロロージョさんの力は規格外でありちょっとの技では全く止まらない。
それはいわゆる苦戦を知らない人生だと言えると思う。
その中でいきなりキラーさんやエレキさんみたいに自分の力を超えるどうしようもない相手と戦っている。

でも彼は絶望しない、諦めない。
彼は約束してくれた、必ず強くなるって……それに馬鹿な正直に答えてくれている。
それはとても嬉しい、このエレキさんとの戦いは大敗すると思う。
でもオロロージョさんはその力をちょっとずつでも必ず吸収する。
いつか、キラーを倒すほどにきっと彼は強くなる。

エレキ 「……ち、仕方ねぇ!」

見合って数分、痺れを切らしたのはエレキさんだった。
エレキさんはどっしりと構えるオロロージョさんにまっすぐ向かい、まず最初の太刀を浴びせた。
オロロージョさんは冷静にその一撃を受け止める。
しかしすぐさま、横に動いたエレキさんの二撃目がオロロージョさんの横腹を襲った。

オロロージョ 「く……!」

オロロージョさんはなんとか反応して二の太刀を受け止め、そのまま後ろに後退する。

エクレメス 「……やっぱ付け焼刃か、しゃあない相手は各上だ」

ケイ 「でも、なんとかして一本位取れないものですかね?」

攻めても守ってもエレキさんは有利に進めていた。
エレキさんの二刀流から放たれる技は一本しか得物を持たないオロロージョさんには絶対不利。
それを巧みに扱うエレキさんも凄いけど、オロロージョさんは為す術がなさそうだった。

エレキ 「亀作戦ならそれはそれで手はあるぜ!?」

エレキさんが突然攻め方を変えて来る。
なんと右に持っていた剣を水平に構えて付いてきたのだ。

ケイ 「まさか幕末の技、○突!?」

マンガやアニメでおなじみ某幕末剣客マンガに出てくる新選組の技っぽいのを使うエレキさん。
振りや薙を繰り返してきた今までの攻撃にはないパターンに慌ててオロロージョさんはよけたがよけた先に右手の一撃が着ていた。
オロロージョさんは驚いて慌てて止まったが一本だった。

オロロージョ 「く……四連敗」

エレキ 「良い作戦だったが、受け止められなきゃ意味ないぜ?」

オロロージョさんはついに守りきれず一本をとられてしまう。
私たちはすぐにオロロージョさんの側まで向かった。

オロロージョ 「済まないふたりとも、ダメだった」

ケイ 「仕方ないですよ、エレキさんの攻撃は多彩ですもん」

エクレメス 「そうね、でも触れたでしょ?」

オロロージョ 「え? ああ……」

エクレメス 「じゃ、次は頑張って反撃してみよー、まぁ格上が相手だ玉砕してきなさい」

ケイ 「情け無用?」

エクレメス 「じゃ、戻るわよ〜」

私たちはまた観客席に戻るといよいよ五本目が開始されようとしていた。

ケイ 「オロロージョさんの汗すごかったですね」

エクレメス 「ええ、でもエレキもかいてたわ……3本目まではかいてなかったのにね?」

ケイ 「え?」

エクレメスさんはエレキさんを見るとニヤリと笑う。
私もエレキさんを見ると気づいた、エレキさん確かに汗をかいている。
とはいえ、疲れはまだオロロージョさんの方が大きい。

ケイ 「もしかしてさっきの指示は休ませるために?」

エクレメス 「亀作戦は相手を疲れさせるのも目的よ?」

ケイ 「はぁ……」

そういえば日本いた頃、カナちゃんの家にあったボクシングマンガに似たような展開があったような。
まだ効果が出るのは先そうだけどエクレメスさんはあくまで不敵に笑う。
この人が笑うっていうことには一矢報いる作戦があるってことだよね。

エレキ 「ち……また待ち作戦か……よ!」

今度は見合うことなくエレキさんが攻めた。
まず一発、左の一撃がエレキさんの隙だらけの腹を薙ぐ。
慌てて受け止める態勢に入るが、そこはフェイントで左の一撃は途中でひかれ右の一撃がオロロージョさんの頭部を襲った。

オロロージョ 「!! うおおおおっ!!」

オロロージョさんは瞬時に剣を下から天に向かって薙ぎ払った。
とっさの一撃にエレキさんは慌ててスウェーバックで下がり、エレキさん絶好の一撃機会は遠ざかった。

エクレメス 「あの馬鹿の良い所はあれ、私たちの言葉を馬鹿正直に信じて実行するところ」

ケイ 「今度は手を振りましたもんねぇ」

エクレメス 「私たちは最強よ、私とオロロージョのタッグは無敵ね」

ケイ (キラーさんにぼろ負けしたのはノーカウント?)

私はそう思うが、さすがに口には出さず黙った。
エクレメスさんは悪どいけどとんでもない策略家。
打算なくして絶対動かないし、物凄く切れる。
オロロージョさんは馬鹿正直だから、なんでも疑わずに信じちゃうからエクレメスさんの期待に100%応えてくれる。
さしずめ今も予定通りといった具合に笑っている。

だけどエレキさんは驚いた様子で中々攻めるに攻められなかった。
まさか反撃されると思っていなかった……そんな顔で中々両者の射程距離は縮まらない。
触れなければ勝てないけど、触れる距離はこちらも危険……そういう意志がエレキさんに働いたかのようだった。

エレキ 「たく……嫌な作戦だぜ……つぇあ!」

エレキさんは射程に入ると力任せに右の一撃をオロロージョさんに叩き込む。
オロロージョさんはそれを召喚器の腹で受け止めると、すぐさま後ろに飛び退いた。
その一瞬後に左の一撃が水平にオロロージョさんの腹部を襲っていたのだ。
少しでも遅れたらやられていただけに、オロロージョさんにしては珍しく機敏に動けた。

エレキ 「野生の勘か? ち……はぁ……はぁ……」

オロロージョ 「……勘なのは確かだ、なんとなく危険だと思った」

エクレメス 「勝機ね……」

ケイ 「え?」

エクレメスさんが勝機とボソッと呟いた。
一体何をする気だろう?
エクレメスさんはすっごい良い人顔して物凄く悪どいことを平気でやるから何を考えているのか本当に読めない。
ただ、この人が笑っている限りは勝算ありというのは確かだろう。


その後、エレキさんはオロロージョさんの攻めを警戒しながら確実に攻めて、なんとか見つけた隙をついてエレキさんが勝利する。
私は水の入ったコップとタオルを持ってオロロージョさんの方に向かった。
だが、今度はエクレメスさん、動かない。

ケイ 「オロロージョさん、大丈夫ですか、水です」

オロロージョ 「うん、ありがとう」

ケイ 「いい調子ですよ、頑張ってください」

オロロージョ 「ああ!」

オロロージョさんは水をグビっと飲むとタオルで汗を拭いてすぐさまエレキさんと向き直る。
汗は3本目の時に比べると随分引いている気がする。
私はチラッとエレキさんを見た。

エレキ 「……はぁ……はぁ」

肩で息をしている。
エクレメスさんの作戦は図らずとも結果を出し始めていた。

その後私が観客席に戻ると6本目が開始された。
エクレメスさんはその時は何も言わず、ただニヤニヤと笑う。
エレキさんとオロロージョさんはそのまま見合ったが、やがてエレキさんが動いて攻撃を始めた。

ケイ 「……エレキさん休みませんね」

エクレメス 「休めないのよ」

ケイ 「え? でもオロロージョさんはエクレメスさんの指示を守って動きませんよ?」

エクレメス 「違うわ、エレキの体面よ、エレキはオロロージョに比べたら先輩だもの、その先輩が卑怯にも待つわけにはいかないでしょ?」

ケイ (悪どいなぁ……本当に、そういった人柄も笑って利用するもんなぁ)

私は改めてエクレメスさんが性悪なんだと思った。
普通相手が遠慮してくれているところを堂々と突くかなぁ?
これはアレだよね? ようは勝てばよかろうなのだぁっていう奴だよね?
ある意味そういう節操の無いところは見習うべきな気もするけど、やっぱり人としては間違っている気もしてくる。
ていうか、人間性でいえば間違いなく間違っているよね。

さて、そんなわけでエレキさん必死にオロロージョさんを攻める。
その攻めは熾烈を極め、オロロージョさんに反撃のチャンスを許さない。
中々両者隙を出さないが、エレキさんが出したフェイントにオロロージョさんが引っかかってしまい、オロロージョさんはあまりに突然に一本をとられてしまった。

エクレメス 「くっくっく……ここまで想定通り行くと逆に愉快ね」

ケイ 「普通の人の場合は普通に愉快ですから」

私たちは6本目が終わるとすぐにオロロージョさんの元に向かう。
オロロージョさんも必死に防御していたのか少し肩で息しているけど、まだ大丈夫という感じ。
というよりやっぱりオロロージョさんは頑丈だよね、普通の男性と比べてもずっと肺活量あるし、長い時間動けるもんね。

エクレメス 「よくやったわオロロージョ、後は攻めなさい怒涛のごとく、ただし大ぶりはだめ、隙ありと思えば大ぶりしてもいいけど基本はコンパクトにね?」
エクレメス 「よく分からなかったら……そうね、エレキの攻め方を思い出しなさい、わかった」

オロロージョ 「ああ、わかった」

ケイ 「じゃあ、残り4本頑張ってくださいね?」

オロロージョ 「ああ、わかっている!」

私たちが戻ると試合はすぐに再開される。
この10本勝負の怖いところはインターバル時間が、私たち次第。
つまり一分とかそういう風に区切っているんじゃなくて、私たちはオロロージョさんの所に行って戻ってきたら再開なのだ。
こういうところがなんというかアバウトであり、エクレメスさんはそういうところもちゃっかりつついている。

オロロージョ 「いくぞっ!」

エレキ 「むっ!?」

キィン!

エレキ 「くぅっ!?」

オロロージョさんは今までとは打って変わりいきなり攻めに回ると、エレキさんは慌てて態勢を帰る。
だが、ここまでの疲れが溜まったのか今まで回避していたいのについにエレキさんがオロロージョさんの一撃を受け止めた。
だけどすぐに打点を変えて、オロロージョさんの攻撃をいなす。
大ぶりだったらガードごとたたき伏せたろうけど、エクレメスさんの言いつけを守ってコンパクトに攻めているからなんとか受け切れている。
でも両手持ちならともかく、片手では厳しいらしく反撃には移れないまま距離をとった。

オロロージョ 「ちぃ……たぁ!!」

オロロージョさんはすぐさま後退するエレキさんの胸を突く。
一直線に放たれた一撃は受け止めにくく、エレキさんはなんとか身を捻ってよけた。
すぐさま左の一撃をオロロージョさんに放つが、オロロージョさんはそのまま剣を跳ねさせてエレキさんの一撃を弾く。
大きく隙を見せるエレキさん、オロロージョさんはチャンスと見てか、一本踏み込んで思いっきり振り下ろした。

オロロージョ 「でいやぁぁぁ!!」

エレキ 「うおおおおっ!?」

ガッキィィィン!!

エレキさんの持った模擬刀の刀身が宙を舞う。
わずかに漏れる光を反射させて地面に落ちた。
必死にガードに回した右手は折れた剣を持って固まっている。

エレキ 「うそ……だろう?」

なんと、模擬刀とはいえオロロージョさんは召喚器でたたき折ったのだ。
当然そのまま召喚器はエレキさんの頭の前で止まり一本。

エクレメス 「当たらなきゃあてればいいのよ、当てられる状態に引きずり込んでね?」

ケイ 「手法は確実に外道ですけどね」

エクレメス 「あら? 戦略と言って欲しいわね?」

エクレメスさんの言いたいことはわかるけど、あえてヒロイズムを語ればこれは卑怯だと思うなぁ。
相手の優しさに付け入った作戦なんてひどいよ。
といっても……こんな異世界じゃ安っぽいヒロイズムだって馬鹿にされるんだろうけどね……。

私たちはすぐさまオロロージョさんの元へと向かう。
オロロージョさん私たちが来るとようやく笑った。

ケイ 「やりましたねオロロージョさん! 勝ちましたよ!?」

オロロージョ 「ああ! ここから反撃だ!」

エクレメス 「その意気よ、これまで自分がされて嫌だと思ったこと思い出しながら戦いなさい、相手も絶対嫌だから」

オロロージョ 「わかった」

私たちは戻ると、すぐに8本目が始まる。
この戦いは前回同様オロロージョさんの堅実な攻撃から始まった。
休む時間を与えてもらえないエレキさんは防戦一方。
防戦するにもすでに疲れがたまって足は重くなるし、オロロージョさんの一撃を受け止めるのは恐ろしく精神力と体力をすり削っていくことだろう。
オロロージョさんも本当に素直と言おうか馬鹿正直と言おうか言われた通り戦っていく。
振り下ろしや横薙がメインだったのに加え、所々突きを加えて、さらにフェイントまで使い始めた。
突きもフェイントも今回エレキさんと戦って負けた原因の技だ、確実にエレキさんの技を本人は知らず知らずに盗んで戦っている。
いままでガードを堅くさせたのはもしかしたら、こういった戦い方を実戦で教えるためだったのかもしれない。
急に増えた多彩な技にエレキさんは体力的にも精神的についていけなくなり、隙を見せてしまったところに剣を弾き飛ばされて一本を取られる。

その後、9本目も同様に進み勝利し、残すは最後の10本目となった。

ケイ 「これに勝てば、4勝6敗! 最初の成果に比べればずっといいですよ!」

オロロージョ 「ああ、見ていてくれふたりとも」

エクレメス 「当然、ちゃんと勝ちなさいよ?」

オロロージョ 「ああ! まかせてくれ!」

最後の水分補給と休憩を終えると再びエレキさんと向き直すオロロージョさん。
私たちは席に戻って最後の試合を見学した。

オロロージョ 「……てぇい!」

エレキ 「ち! おりゃあ!」

ガキィン!

オロロージョさんの一撃はエレキさんの左の一撃により弾かれた。
オロロージョさんが態勢を崩す、すぐさまエレキさんが右の一撃をオロロージョさんに放つがオロロージョさんはそれを身を捻って回避してみせた。

ケイ 「エレキさん、体力回復しましたかね?」

エクレメス 「少しは回復したかもしれないけど、オロロージョ見てよけれてる、動きが鈍った証拠よ、やけくそね」

そう言われればたしかにエレキさんの攻撃が遅くなった気がする。
さすがに疲れに疲れたって感じ。
汗も滝のように流しているし、ロウソクの残り火みたいだった。

でも、それでも先輩の意地なのかツラそうな顔をエレキさんは見せない。

セリカ 「エレキー! 頑張ってー!」

ナイア 「気合いれなさい! 先輩でしょ!?」

サイレン 「頑張れよ!」

エレキ 「ちっ! わかってらぁ!」

激を飛ばされ張り切るエレキさん。
一瞬鋭さを取り戻して右と左を交差させた一撃が、オロロージョさんをガード越しでダメージを与えて後退させた。

鉄火 「オロロージョさんも頑張ってください!」

エクレメス 「気張りなさい!」

ケイ 「がんばれー! オロロージョさーん!」

オロロージョ 「ああ、わかっている!」

両陣営に対する応援も熱を増す。
オロロージョさんが攻めれば巧みにエレキさんがいなす。
エレキさんが反撃にでればオロロージョさんはそれを弾いた。

体力は明らかにエレキさんの方が少ないでも、でも元の技量がオロロージョさんを上回っているので拮抗状態に持ち込んでいる。
対するオロロージョもさすがに少し疲れが出始めている。
まだ大丈夫だろうけど、長引くと泥仕合の可能性も出てきている。

オロロージョ 「はぁっ!!」

キィンキィン!!

エレキ 「くぅっ!」

オロロージョさんのコンパクトに纏めた二撃がエレキさんの刀二本を弾く。
そのまま決定的な一撃を放とうとするが、そこでエレキさんのケリがオロロージョさんを捉えた。
腹部を蹴られてのけぞるとそのままエレキさんは態勢を立て直し反撃、オロロージョさんは慌てて後ろにひいた。

オロロージョ 「くぅ……びっくりした」

エレキ 「さすがに鍛えてるな……本気で蹴ったんだが」

ケリのダメージはそれほど大きくはないようで、オロロージョさんの感想はビックリした、以上。
その頑丈さに驚きつつも、まだまだ手札を見せきっていないエレキさんはなんとか引き伸ばしている。

エクレメス 「……ちょっとまずいかなぁ?」

ケイ 「エクレメスさん?」

珍しく笑みを無くすエクレメスさん。
私は冷や汗をかいてエクレメスさんを見た。

エクレメス (腹部かぁ……ダメージが重なって酸欠にならなければいいけど)

オロロージョ 「ふっ!」

エレキ 「……たく、ベテランは大変だよ!」

最初の方に比べると明らかにエレキさんの動きは落ちているのにそれでも粘る姿は流石と言える。
オロロージョさんの動きは決して衰えていない。
むしろエクレメスさんの指示もあって技をコンパクトにはなって、隙はない。

エクレメス 「オロロージョ! 強引にいけぇい!」

オロロージョ 「! はぁぁっ!!」

エレキ 「!? くぅっ!!」

何を思ったのかエクレメスさんが叫んだ。
それを聞いたオロロージョさんは力いっぱい召喚器を振り回した。
いきなりの戦法の変化にエレキさんは必死で受け止める。
下手すれば剣ごと持って行きかねない強打だったけど、奇跡的にかその一撃は防がれた。

エレキ 「あっぶねぇ……もうっちょっとで……て……おいぃ!?」

オロロージョ 「どぉぉりゃああああああっ!!」

止めた……と思った刹那だった。
オロロージョさんがもう一歩踏み込んで更に押し込む。
圧倒的パワーに押し込まれたエレキさんは剣をはじき飛ばし後ろに尻餅をついた。

エレキ 「強引に……強引すぎるだろ」

オロロージョ 「はぁ……はぁ……おし!」

本当に……本当に強引にいった。
その結果は周囲の静寂さが物語っていた。

オロロージョさん、一度渾身の一撃を放ったあと、止められたのにもう一度踏み込んでそのまま押し込んだのだ。
常識的に考えてそんな倒し方があるとは思えないが、あの馬鹿力がまさにそれを成功させたということだろう。
なんにせよ、オロロージョさんが勝った。

ケイ 「やったぁぁ! オロロージョさんの勝ちだぁ!」

私が声をあげると、周囲はそれにつられて歓声を上げた。

エクレメス 「おっし予定通り、4勝達成!」

ケイ 「そういえばエクレメスさん、珍しく今回のオロロージョさんの訓練に熱を入れていましたよね?」

私は終わった後ふと不思議に思ったので聞いてみた。
いつものエクレメスさんを考えると打算なく動いたのがなんとも不思議であり、一体どうしたんだろうと思った。
するとエクレメスさんはふっふっふと不敵に笑い始めた。

エクレメス 「サイレン、カモーン♪」

サイレン 「……ち、仕方ない」

ケイ 「?」

何故かエクレメスさんがサイレンさんを呼ぶとサイレンさんはしぶしぶやってきた。

エクレメス 「賭けは私の勝ち♪ 4勝以上達成よ♪」

サイレン 「ち……あの坊やじゃエレキには勝てないと思ったんだがな……」

ケイ 「な……か、賭けをしてたんですか?」

エクレメス 「そうよ♪ オロロージョが4勝以上すれば勝ちってね」

ケイ 「? あれ? なんで勝ち越しじゃないんですか?」

エクレメス 「だって、誰が見てもオロロージョ不利じゃない、なんで同等の条件で賭けるのよ?」

そうだ……この人はそういう人だった。
分の悪い賭けは極端に嫌う癖に、賭けるときは絶対勝つ。
ていうかエクレメスさんはセコイんだよね。
よく言えば知略に富んだ人だけど、4勝以上なんてなんでそんな微妙な勝負になるのか……と考えるのは無粋なんだろうか。

ケイ 「ちなみに何をかけたんですか?」

エクレメス 「今日の晩飯」

ケイ 「ま、また小さいですねぇ」

エクレメス 「大きいと乗ってくれないもん」

サイレン 「くっそぉ、あの坊やを甘く見すぎたな」

サイレンさんは悔しそうに自慢の帽子を深くかぶって悔やんだ。
私はなんだかなぁと思う。
でも、オロロージョさんはまた強くなった。
エレキさんとの戦い、全体を見れば負け越しだけど確実に有益な結果が出せたと思う。

私はオロロージョさんの方に駆けた。
タオルをもってオロロージョさんの元に向かうと、オロロージョさんはニコリと笑いタオルを受け取る。

ケイ 「オロロージョさん、お疲れ様でした」

オロロージョ 「ありがとう、ケー。ケーの応援のおかげだよ」

ケイ 「え、そ、そんなことないですよ、私なんて……その……」

真顔で私のおかげなんて言われると顔が真赤になって火照っちゃう。
なにはともあれ、今回の訓練ではオロロージョさんを褒めたい。

ケイ 「どうですか? エレキさんと戦った感想って」

オロロージョ 「やっぱり強いよ、4勝も出来たのが不思議な位だよ」

エレキ 「なぁに言ってやがる、セコンドに何吹き込まれたのか知らないが、闘いながらメキメキ強くなりやがって」

ふと、オロロージョさんと会話していると対戦相手のエレキさんが寄ってくる。
確かに見ていてもオロロージョさんは闘いながら強くなっている気がした。

セリカ 「お疲れ様ですオロロージョさん、よく頑張りましたね」

オロロージョ 「あ、ありがとうございますセリカさん」

セリカ 「ふふ、打倒キラーは大変ですけど、これからもがんばりましょうね」

オロロージョ 「はい!」

ケイ (やっぱりオロロージョさんはエクレメスさんやセリカさんみたいな大人の女性が好きなのかなぁ?)

私はなんとなくオロロージョさんはどんな女性が好みなのか考えてみた。
私ってやっぱり性格的にも体格的にも子どもっぽいし、オロロージョさんからはどう見られているんだろう。
あ、これって恋愛的感情じゃないからね!
やっぱり、ご主人としては配下の好み位しっておくべきだしね?

エクレメス 「おーい、オロロージョ! 祝勝あげるわよー! きなさーい!」

そこへ、賭けに勝って上機嫌のエクレメスさんがやってくる。
たかが晩飯分賭けただけの割には随分上機嫌な様子だった。

オロロージョ 「祝勝って……負け越しなのに?」

ケイ 「エクレメスさんにとっては勝ちなんですよ」

賭け的な意味で。
そういえば、今回ってこれだけ?
気がついたら一話分だよ、怖い怖い。



…To be continued




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