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beatmaniaUDX The ANOTHER Story


4th STAGE 『memories』

男 「………」

景色が見える…。
一体、何故?
ひとりの少女が、俺に微笑みを投げかける。
そして、俺は…。


男 「!?」

ガバッ

俺は意識が戻り、起き上がる。

男 「……?」

周りを見ると、医務室だということがわかる。
微かに聞こえる駆動音…艦の中か?

男 「………」

耳をすましてみると、ふたつの足音が聞こえる。
俺は、足音がこの部屋の前で止まったのを確認すると、気を落ち着けた。


ガチャ


エリカ 「あ、何だ起きてるんじゃ…!」

突然、女が俺を見て絶句する。

セリカ 「どうしたの…?!」

後ろにいた女もだ。
一体何だ?

エリカ 「リュ、リュウ…」

セリカ 「まさか、リュウが…」

男 「リュウ…?」

聞き覚えのない言葉…いや名前か。
俺はその時ふと気づく。
俺の頭の中で、何かが足りないことに。
記憶がない。
自分でそう気づくのも可笑しいのかもしれないが、俺の中で部分部分の記憶がなかった。
まるで、パズルの穴のように、各部分の記憶がない。
そう、自分のことすらも…。

エリカ 「どうして、リュウがあの機体に…」

セリカ 「待ってエリカ、何だか様子がおかしいわ」

後ろにいる髪の長い方の女が、俺に近寄る。

セリカ 「リュウ、私たちがわかる?」

エリカ 「セリカ、何言って…」
リュウ 「知らん…残念ながらな、お前が知っているということは俺も知っていたのかもしれん」

エリカ 「!?」
セリカ 「!?」

ふたりは同時に絶句する。
やはり、俺を知っているのか。
俺は、忘れているんだな。

エリカ 「あなた…記憶が」

リュウ 「ああ、いくらかなくなったようだな」

俺は無感情にそう答える。

ナイア 「記憶が無いことを自分で理解してるってことは、虫食いのようになくなったのね」

部屋の外から、もうひとり女が現れる。

エリカ 「ナイア…」

ナイア 「知り合いみたいね…」

セリカ 「……」

そして、俺は女たちの集まる操縦室に連行された。

リュウ 「………」

エリカ 「この男の名はリュウ。私やセリカと一緒にVに所属していた男」

ナイア 「成る程…それで、あの機体に何故乗っていたか、覚えている? リュウ君」

突然話を振られる。
が、俺は全く記憶に無かった。

リュウ 「何のことだかわからないな」

ナイア 「そう、決まりね…あなた、洗脳されてたのね」

エリカ 「洗脳!?」

リュウ 「成る程、マインドコントロールの副作用で記憶をなくしたというわけか」

ナイア 「理解力あるわね、そういうこと…あなたが芝居してなければね」

リュウ 「………」

俺は何も答えなかった。

ナイア 「あの機体であれだけの反応速度を引き出すんだから、普通じゃないとは思ったわ」

エリカ 「確かに、重装型で軽装並に動くのはびっくりしたわね」

ナイア 「マインドコントロールで電子的に無理やり潜在能力を引き出すのよ…脳に訴えかける物だから、記憶がなくなってもおかしくないわね」

セリカ 「ひ、酷い…リュウがどうしてこんな目に」

エリカ 「セリカ…」

セリカは俺を見てとても悲しい眼をする。
エリカは、何かを知っているのか、セリカを見て辛いことに耐えているようにも見えた。

リュウ 「俺をこれからどうする…? 処刑するのか?」

ナイア 「そうして欲しいなら、してあげてもいいわよ」

リュウ 「…俺に決定権は無い」

セリカ 「やめて、ナイアさん! お願い、殺すだなんて…」

エリカ 「セリカ、ナイアはそんな女じゃないわよ」

半ば半狂乱に陥っているセリカをエリカが冷静に咎める。
何故セリカはこれほどまでに…?

ナイア 「だ、大丈夫よ…そんなことしないから」

セリカ 「………」

エリカ 「セリカ、リュウを部屋に連れて行ってあげて、その後はあなたも休みなさい」

セリカ 「え…あ、うん」

セリカは反応が少し遅れて、俺を部屋に案内する。



………。



エリカ 「………」

私はふたりが部屋を出たことを確認する。

ナイア 「話してもらえるわね?」

トラン 「…セリカさんが、あんなに混乱するなんて」

リリス 「………」

エリカ 「…セリカはリュウに惹かれすぎてるのよ」

ナイア 「惹かれすぎ? 妙な言い方ね」

エリカ 「Vにいた時から、セリカはリュウに惹かれていたの」
エリカ 「それは愛情とは言えないのかもしれない」
エリカ 「でも、確実にセリカはリュウに惹かれていった」

ナイア 「遠まわしな言い方はいいわ、原因を言って」

私は一度ため息を吐くと、静かに語った。

エリカ 「リュウの存在自体が、セリカを狂わせるのよ…」
エリカ 「リュウ、記憶をなくしても、性格は変わってないわ」
エリカ 「クールで無感情。でも誰よりも優しい」
エリカ 「この前の彩葉を庇ったことも、洗脳されてなおかつやった行動でしょ?」

ナイア 「………」

エリカ 「本質はああなのよ、いつも自分を犠牲にして他者を助ける」
エリカ 「セリカに対しても、私に対しても…」

ナイア 「…結局1番大きな原因となった事件は?」

確信を求めるナイアに向かって私は答える。

エリカ 「…知ってる? つい1年前に起きた大きな事件」

私はナイアに向かって、そう答える。

ナイア 「…A事件」

リリス 「…知ってます、小惑星『A』で起きた惨殺事件」

トラン 「………」

エリカ 「そう、その事件に私とセリカ、そしてリュウが関わっていたの」

ナイア 「あなた達が…? どうして」

エリカ 「私たちには実戦テストだと言われていたわ」

ナイア 「あの事件、今ならわかってるんでしょ?」

エリカ 「ええ…公にはVの名前は一切出ていない! 本当はVが滅ぼしたくせに…!!」
エリカ 「でも、それ以上に、何もわからずにAを滅ぼす手助けをした自分が1番許せない…!」

私は握り拳を固め、怒りに震える。

エリカ 「でも、わたしはよかった…セリカが問題だったのよ」
エリカ 「私たちが与えられた作戦は、毒ガスや細菌の詰まった兵器を特定のポイントに届けること」
エリカ 「私たちにはそれは食料だと言われていたわ。先行部隊に届ける、ね…」

ナイア 「汚い手口ね、別に死んでも問題にならない兵士を危険な任務につけ、帰ってこれた優秀な者は、Vに洗脳され、やがて記憶をも蝕まれる」

私はナイアの言葉に頷き、続きを話す。

エリカ 「…問題はその作戦中。リュウが途中に敵に襲われたのよ」
エリカ 「相手は、ナイフで、リュウに切りかかったわ」
エリカ 「セリカは、その頃からすでにリュウに惹かれていた」
エリカ 「リュウを想い過ぎるあまりセリカは…引き金を引いた」

ナイア 「殺したの? 敵を…」

エリカ 「……死ななかったわ、誰も」

ナイア 「?」

エリカ 「リュウが、敵を庇ってセリカが放った銃弾を受けたの」

ナイア 「!?」

エリカ 「…敵は混乱して、そのまま逃げていったわ」
エリカ 「でも、セリカは…」

ナイア 「……どうなったの?」

エリカ 「自分が引いた引き金でリュウが倒れた。混乱どころじゃないわ」
エリカ 「でも、幸いリュウは死ななかった。それからよ…セリカはリュウに関して過剰なまでに反応する」
エリカ 「優しすぎるセリカとリュウ…リュウは誰にも惹かれない性格だからいいけど、セリカは…」

ナイア 「大体わかったわ…でも、それは愛情じゃないの?」

エリカ 「わからないわ、今のセリカだと、本能的にそう思い込んでいるだけかもしれない」

リリス 「…愛情ですよ。きっと」

ナイア 「根拠は?」

突然リリスが語りだして驚くが、私はリリスの言葉に耳を傾ける。

リリス 「セリカさんはただ一途に好きなだけ…それが行き過ぎる愛だとしても」

ナイア 「…エリカならわかる?」

エリカ 「わかりたくもないわ…そんな曖昧な愛なんて。やっぱり、こうだって言う愛が欲しいわよ」

ナイア 「あなたらしいわ」

私たちは苦笑しながらも、戸惑いを隠せないでいた。



セリカ 「…ここが、空き部屋だから、自由に使って」

リュウ 「………」

俺は何も答えず、部屋に入ろうとする。

リュウ 「…パスワードロックか」

セリカ 「あっ、ごめんなさい…まずは船内登録しないと」

セリカは俺の手を引いて、別の場所に向かう。
やがて、大き目の部屋に辿り着く。

セリカ 「さぁ、入って」

俺はセリカに続いて部屋に入る。
中は薄暗く、大きなコンピュータがあった。

セリカ 「えっと、船内登録…」

セリカが操作すると、スピーカから声が流れ、モニターに文字が出る。

EARTH LIGHT 『船内登録…リュウ。…了解、パスワードをどうぞ』

セリカ 「リュウ…」

リュウ 「………」

俺は4ケタのパスワードを入力する。

ピピピピピピ…

機械音が響き、やがて登録が終了する。

EARTH LIGHT 『登録完了しました、以後あなたは先ほどのパスワードで、船内を出歩くことが可能です』

セリカ 「それじゃあ、さっきの部屋に戻りましょう」

リュウ 「道ぐらいならわかる、後はひとりでいい」

俺はそう言うと、ひとりで歩き始める。

セリカ 「あ…」



リュウ 「………」

俺は部屋の前でパスワードを入力する。
すると、扉は開き、俺は中に入る。

閑散とした部屋だった。
中にはテーブルと椅子、鏡に洗面所、バスルーム、必要な物は完備されていた。

リュウ 「冷蔵庫か…中には水と非常食があるな」

俺は部屋をあらかた見回すと、布団があるのに気づき、少し眠ることにする。
十分寝た気はするが、頭が混乱して気が回らなかった。



エリカ 「………」

私は船内を何故か歩いていた。
ひょっとしたらと思った。
でも、まさか本当に…。

セリカ 「……うう」

エリカ 「セリカ!? どうしたの!?」

セリカ 「いやぁ! 来ないで!!」

エリカ 「セ、セリカ!! 私よエリカよ!!」

私はその時、セリカが何も見えてないのがわかった。
いや、見ていない。

エリカ 「セリカ!!」

私は無理やりセリカの肩を掴んで、セリカを落ち着かせる。

セリカ 「え…あ、は…?」

セリカはどうやら正気に戻ったようだ。

エリカ 「セリカ、どうしたの?」

私は感情を押し殺しながら、そう聞く。

セリカ 「……私、どうして?」

エリカ 「セリカ…」

私はセリカを優しく抱きとめる。
原因はわかってる、リュウがいるから。
私にはそれが許せなかった。

セリカ 「エリカぁ…私、私…」

セリカは子供のように泣きじゃくる。

セリカ 「怖いよ…リュウがまたあの時のように」

エリカ 「セリカ…ひとつだけ答えて」

セリカ 「…?」

セリカはまるで怯えた猫のような顔で私を見る。

エリカ 「リュウのことをどう想ってる?」

セリカ 「え…? そ、それは…」

セリカは頬を赤らめて、俯く。
それで十分わかった。

エリカ 「そう…」

私はセリカを離すと、自分の部屋に戻る事にした。

セリカ 「エ、エリカ!」

エリカ 「…ごめんなさい、やっぱり私は忘れた方がいいと思うわ。リュウのこと」

セリカ 「ど、どうして!?」

エリカ 「Vと戦う以上、リュウは味方とは思えない」

私は後ろを向いたまま、そう答える。

セリカ 「そんなことはないわ!」

エリカ 「じゃあ、あなたのその状態、どう説明するつもり!?」

セリカ 「!?」

エリカ 「セリカ、あなたがリュウに向けている感情は愛情じゃないわ」

セリカ 「え…?」

エリカ 「私には、あなたはリュウに惑わされているようにしか思えない」

セリカ 「…そ、そんな」

エリカ 「お願い! 正気に戻って!! リュウは死んだのよ!? あの事件の時に!!」

そう、結局ナイアたちには嘘を言った。
リュウはあの事件で『死んで』いる。

セリカ 「う、嘘…だって」

エリカ 「あれは、クローンよ」

セリカ 「!?」

エリカ 「記憶がないのは洗脳のせいじゃない、あれはVが作ったクローン」
エリカ 「初めから、植え付けられた記憶で動いているの。衝撃で都合のいいように記憶が消えたようだけど」

セリカ 「そ、そんな…」

セリカはその場でうずくまって、泣きじゃくる。
わかってた、セリカがリュウを好きなことぐらい。
でも、だからこそ、死んだ人間まで想うのはどうかしてる…。

トラン 「…そう言うことだったんですか」

エリカ 「ト、トラン…」

まさか聞かれるなんて。

トラン 「どうして、嘘を…?」

トランは怒る風でもなく、無表情にそう聞いてくる。

エリカ 「お願い…聞かないで」

トラン 「エリカさんも、リュウさんが好きだからですか?」

エリカ 「!?」

私は、その言葉を無視することができなかった。ゆえにセリカにも容易に気づかれてしまった。

セリカ 「エリカが…? まさか、私とリュウを引き離すために…?」

エリカ 「違うわ! セリカ、思い出すのよ! あの事件を…リュウはもう」

セリカ 「聞きたくない!! もうイヤァ!!」

セリカはその場で泣き叫ぶ。
絶望かと思った時、トランがセリカに近づく。

トラン 「…セリカさん、大丈夫ですリュウさんは今を生きています」

エリカ 「トラン、何を言い出すの!?」

トラン 「…あのリュウさんが、本物とは考えられませんか?」

エリカ 「え…?」

トラン 「セリカさん、エリカさんはセリカさんが心配なんです。わかってあげてください」
トラン 「今のセリカさんは普通じゃありません」

セリカ 「………」

トラン 「そんな、盲目の愛は本当の愛情じゃないです」
トラン 「現実を受け止めて、未来を見てください。その事件、きっと辛かったと思います」
トラン 「でも、辛いからこそ、乗り越えた時の喜びも大きいと思います」

まるで、聖母のように思えた。
トランはまるで当たり前のことを言っているだけなのに。
気づかなかった、私もセリカも。
ずっと、進んでいなかった、あの事件から。
私は忘れようとして忘れなかった。
セリカは無意識の内に心の中に押し込めた。

セリカ 「…ごめんなさい。どうして、私…こんな風になっちゃったんだろう?」
セリカ 「辛いことから逃げちゃダメなのに…ずっと私は逃げていた」
セリカ 「リュウを頼りすぎてた…惹かれすぎてた」

エリカ 「セリカ…」

セリカ 「ごめんなさい…エリカ、私」

エリカ 「いいの、私は気にしてない」

トラン 「ふたりとも休んでください、後10時間程で次の惑星に着きます」

エリカ 「そ、そう…わかったわ」

セリカ 「ありがとう、トラン…」

トラン 「………」



ナイア 「な〜る程、予想通りね」

私はトランにつけた超小型高性能集音マイクから先ほどの状況を掴んでいた。

リリス 「…ナイアさん、趣味が悪いですよ」

ナイア 「いいじゃないの、私を騙そうとした罰よ、後でからかいまくってやるんだから」


リリス 「………」

私は部屋に戻って眠ることにした。
私にとっては初めての冒険。
期待と不安で、胸がはじけそうだった。
この物語の結末は、星だけが知っているのかもしれない…。

…To be continued

ANOTHER


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