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beatmaniaUDX The ANOTHER Story


21th STAGE 『黒き渦』

リュウ 「どうだ、ナイア?」

俺は修理中の雪月花を見るために格納庫に来る。
俺が声をかけると、ナイアがこちらを向き。

ナイア 「一応、問題はないわ…」

浮かない顔でそう言う、何かあったのだろうか?

リュウ 「一応か」

俺がそう言うと、ナイアは右手で頭を抱え俯く。

ナイア 「…例え修理が出来ても、出撃する度に壊れてちゃいつかは…」

悩んでいるようだった。
確かに、雪月花は完成してはいるが、出撃する度に壊れて帰ってきている。
俺の使い方に問題があるのだろうが、仕方ないことでもあった。

ナイア 「…そういえば、セリカはどうしてる?」

ナイアは頭を振ってそう聞いてくる。

リュウ 「いや、見てない…休憩室か、部屋にいるはずだが? 呼んでくるか?」

おれがそう言うと、ナイアは手を振って。

ナイア 「ああ、いいわ別に…もうこっちで処置しておくから」

リュウ 「何をだ? セリカに関係することか?」

俺がそう聞くと、ナイアはいつも通りの顔で。

ナイア 「まぁね、あなたたちが戦ったエリカの機体にビットが搭載されてるってトランが言っていたから」

リュウ 「ビットか…まさか使う気か? あれは通常の人間では…」

俺がそう言うと、ナイアが言葉を紡ぐ。

ナイア 「エリカにできるなら、セリカにもできる…って思いたいわね」
ナイア 「ビット自体はそんなに重いものではないし、Abyssの積載量でも十分乗るわ」
ナイア 「ただ、使用制限は付けたほうがいいと思うけど…」

リュウ 「…もう積んだのか?」

俺はそう言うと、ナイアは一瞬止まり。

ナイア 「…何よ、バレてるの?」

リュウ 「勘だ」

俺はそういい放つ。
すると、ナイアは苦笑しながら。

ナイア 「…敵わないわね、まぁセリカにあったら言っておいて」

リュウ 「ああ」

俺がそう答えると、ナイアは格納庫を出る。
部屋に戻るのか、休憩室で休むのだろう。
中ではまだメカニックたちが機体を修理している。
ダルマとツガルは今はいないようだ。
俺もその場を離れた。



………。



セリカ 「……」

休憩室で私は茶倉を見つけ、思い立った。
どうしても気になることがある。
リュウに直接聞いてもよかったけど、一応。

セリカ 「ねぇ、茶倉…ちょっといい?」

茶倉 「何よ小娘…私に用なんて、気でも違ったの?」

茶倉は少し驚いたようにそう言う。
いい加減この態度にも慣れたわ…。
…腹が立つのは変わらないけど。

セリカ 「私は正常よ…ちょっと聞きたいことがあるの」

茶倉 「…はぁ?」

茶倉が、嫌そうにそう答えるが、私は続ける。

セリカ 「茶倉って、死んだ時に私たちのこと知ったって言ってたけど…」

茶倉 「…そうよ、今更何?」

セリカ 「どうして、彩葉の体に憑依した後Vに捕らわれたの?」
セリカ 「リュウの時は洗脳されてたって、言ってたけど…」

すると、茶倉は思い出すように、天井を見つめて。

茶倉 「ああ、そんなことあっったわね…」

セリカ 「そんなことって…」

茶倉 「彩葉が言わなかった? 私が憑依したことで彩葉は捕らわれたの」
茶倉 「私の戦闘能力が欲しかったんでしょうね…Vとしては」
茶倉 「彩葉にとっては突然でしかなかったけど」

セリカ 「そうだとしたら、どうしてVに協力したの?」
セリカ 「茶倉だったら、ひとりでもVを抜けられたんじゃないの?」

それが1番聞きたい事だった。
茶倉を信用してないわけじゃないけど…どうしても茶倉の口から聞きたかった。

茶倉 「私は、彩葉のオプションなのよ」
茶倉 「本来は、こうやって外に意識を出すだけでも私は苦しいの」
茶倉 「彩葉はお人好しだから、私を立ててくれるけど…」

私は茶倉のその台詞を聞いて、驚く。
何だ、ちゃんと彩葉のこと心配してるんじゃん。
全然素直じゃない茶倉を見ていると笑いがこみ上げてきた。

茶倉 「…ちょっと聞いてるの?」

セリカ 「ほえ?」

茶倉が何かを言っているようだったが、私はすっかり聞いていなかった。

茶倉 「あんたねぇ…まぁいいわっ、私が行動することは彩葉が行動することなの、だからひとりで抜けようにも、チャンスが必要だったのよ」
茶倉 「私が妙な真似をしたら、その場で彩葉が殺されるわ…しょうがなかったのよ、言ったでしょ? 私は生きるために仕方なく殺してたの」
茶倉 「そうしなきゃ、今ごろ彩葉と揃って天国行きだわ」

セリカ (茶倉は地獄行きなんじゃ…?)

そう思いはしたが、声には出さず、私は納得することにした。

茶倉 「あんた、また変なこと考えてたでしょ?」

茶倉が指摘する、私は少し焦りながらも、その場を離れることにした。



セリカ 「…ふぅ、茶倉って意外と考えてるのね」

彩葉 「きゃああああああああ!!」

部屋の中から叫び声が聞こえる。
彩葉に戻ったのね…部屋を出て正解だった。
これにも慣れたわね…。



………。



『メインブリッジ』

リュウ 「どうだトラン? Pandoraへの距離は?」

俺がそう言うと、トランは操縦席に乗ったまま答える。

トラン 「…障害はありません、このままなら10時間程で辿り着けます」

そう言うと、トランは自動に切り替えて席を降りる。

リュウ 「そうか…」

俺はその場で正面の大窓から宇宙を見ていた。

トラン 「……」





………。
……。
…。





? 『DoLLを出撃させたそうだな…?』

士朗 「は…」

俺は惑星『Pandora』の中枢部にいた。
そこは惑星の中心部であり、洞窟のようになっていた。
外壁はまるで機械の塊のようになっており、薄暗く、妙な灯りが照らしていた。
部屋の中央には柱があり、そこにPandoraの意思が宿っている。
俺はその柱の前で肩膝を着き、頭を下げて敬礼している。

? 『まだエリカは完全ではない…DoLLをここで壊されては計画に影響が出るのだがな?」

士朗 「問題はありません…DoLLとエリカの力があれば、何も恐れることはないでしょう…? それとも、セリカがそこまで危険でしょうか?」

俺はあえて皮肉をこめたようにそう言う。

? 「…貴様ら人間にはわからん。我が作り出した『エリカ』を打倒するための兵器…『セリカ』」
? 「その力はエリカと同等以上と見てよいはずだ…我が分身が作り上げたのだからな」
? 「セリカの力が戻っているならば、尚更だ…エリカと共鳴している可能性もある」
? 「エリカを失うわけにはいかんのだ、わかったな?」

士朗 「……」

それを聞いて、俺は立ち上がり、その場を離れる。
部屋を出て、俺はエリカのいる部屋に向かった。

ブゥゥゥン………

妙な機械音が鳴りつづけているこの部屋。
この部屋でエリカは椅子に座り、人形のように表情も変えず、ただ佇んでいた。

士朗 「…エリカ」

エリカ 「………」

話かけても答えはしない。
DoLL…それはエリカの乗る機体であり、エリカ自身。
DoLLが死ぬ時、エリカも死ぬそうだ…。
俺はそっとエリカの頬に手を当てる。

士朗 「!」

バチィッ!

途端に電撃が俺の体を襲う。
全て、承知と言うことか…。

エリカ 「……リュ…ウ………」

それは聞いたことのある名前。
エリカの口からその名が放たれるとは…。
未だに、忘れられんのか…。

士朗 「エリカよ…リュウはお前の何だ?」

俺はエリカにそう聞く。
すると、何にも無反応だったエリカに反応が見られる。

エリカ 「…リュ…ウ………ハ……ワ・タ・シ・ノ………」

士朗 「…何だ?」

俺がそう聞くと、部屋全体が突然放電する。

バチィ、バチバチ!! バチチィ!!!

士朗 「これは…拒絶反応か!?」

俺はその場でただエリカを見て、答えを待った。
エリカは泣いていた。
表情一つ変えずに涙だけを流した…。

士朗 (…エリカ、それが答えか)

俺は決意を固め、その部屋を後にする。
エリカは口を開かずに答えた…それが全てを物語った。
俺は…それが許せなかった。

士朗 「リュウ…貴様は危険なのだ。俺がお前を消す以外にエリカに生は無い…」

俺は格納庫に向かう。

士朗 「…Pandoraの技術によって完成された、殺戮兵器DoLL。そしてその姉妹機でもあるxenon」
士朗 「DoLLはエリカがいなくては発進できん、俺が行くしかあるまい」

俺はxenonに乗り、ハッチを開けて出撃する。

士朗 「…リュウ、お前は俺がこの手で消してやる」





………。



リュウ 「!? 何だ今のは…」

俺は突然妙な感覚に襲われる。
憎悪とも悲哀とも取れる感情。
それが近づいてくる。

トラン 「っ…黒い感情が、近づいてくる!?」

トランが体を抱えてうずくまる。
この感じは、今までに無い。
だが、それが何かはわかっていた。

リュウ 「…士朗、来るか」

俺はトランをそっと抱きしめて、こう言う。

リュウ 「大丈夫だ…俺が止めてくる」

トラン 「! リュウさん…まさか!?」

トランが俺を引きとめようとしたが、俺は進む。
俺は行かなければならない。



………。



リュウ 「雪月花、出るぞ! ハッチを開いてくれ!!」

トラン 『ダメ! リュウさん…行ってはダメ!』

通信でトランの声が聞こえる。
俺を引き止めるが、俺は聞かない。

リュウ 「…出撃する!!」

俺はハッチを開いたのを確認すると、カタパルトに乗る。



ナイア 「どうしたの、トラン!?」

トラン 「リュウさんが…このままじゃ」

トランは操縦席でうずくまって泣いていた。
私は近づいてどうしたのか聞く。

ナイア 「トラン、どうしたの!? リュウ君が出撃したけど…一体?」

トラン 「ダメです! リュウさんが黒い渦に引き込まれる!! 誰かリュウさんを止めてください!!」





リュウ 「………」

ある程度進んだ所で、感じる。
来た、奴が。

ゴォォォォォ…!

黒き機体、前に戦った相手。

リュウ 「…士朗!」



蒼白の機体。
その機体に乗るパイロットはひとり…。

士朗 「リュウ…!」



リュウ 「エリカはいないのか…ならば!」

俺は奴の機体を見定めて、突っ込む。
他に敵機はいない。
俺はライフルで牽制しながら、距離を詰める。


士朗 「リュウ…エリカのために死ね!」


リュウ 「…!?」

士朗の機体から突如妙な霧が噴霧される。
宇宙空間で霧だと…!?
その後、奴の機体が消える。

リュウ 「何!?」

ドォンッ!

直後雪月花の右肩が吹き飛ぶ。
装甲だけで、腕は無事だった。

リュウ 「これは、一体…!?」

奴の機体は全く肉眼で見えない。
レーダーすらも反応しなかった。

リュウ 「…完全に姿を消したまま攻撃できるのか、だがそれならば」

俺は視覚とレーダーに頼らず、流れを読む。
ここは宇宙空間、機体の中だから空気の流れはわからないが…感情は読みやすい。
特に、一対一ならばなおさらだ。

リュウ 「そこか!!」

俺は後ろに上下転身して右拳を振るう。

ドガァッ!!

士朗 「馬鹿なっ!?」

見事俺の右拳の杭が士朗機の左肩に食い込む。
直後、俺は引き金を引く。

ズドォンッ!!

爆発し、士朗機の左腕が砕ける。
士朗機はそのまま、後ろに下がり態勢を立て直す。

リュウ 「機体の装備に頼りすぎたようだな…」

士朗 「やはり、貴様は危険だ…貴様が生きていればエリカは死ぬ!」

リュウ 「何だと?」

俺は士朗の言葉に疑問を覚えるが、士朗は考える間を与えてはくれない。
士朗機の腹部からキャノンが放たれる。
俺は機体を動かし、紙一重で交わす。
今回は余波でダメージを受けることはなかった。

リュウ 「その武装はすでに見た! 弱点もわかっている」

俺は次の溜めが終わる前にワイヤーで士朗の動きを封じる。
今度は自機で士朗機を回り、ワイヤーを何度か絡める。
そして、ヒートの熱で機体を焼き切る!

士朗 「なめるな!!」

突然士朗機のバックパック下部が開いて小型のビットが8機放たれる。
士朗にも使えるのか…だがこれも前に味わった。
俺はバックパックに搭載してある、煙幕弾を機体の周りに打ち出す。

士朗 「何だ!?」

リュウ 「こういうことだ…」

俺はその煙幕弾を全て爆発させる。
すると、半径200m程に煙が蔓延する。
そして、その煙に巻かれたビットが次々に爆発する。

ドンドンッ、ドォンッ!!

士朗 「!?」

これは煙に含まれる特殊な電気でビットを包んだのだ。
自機にも影響が多少出る場合があるが、距離を上手く調節すれば問題はない。

士朗 「…ここまでやるとはな、甘く見すぎていたか」
士朗 「だが、ここまでだっ!」

士朗機の全体から妙な黒い気流が見える。
目の錯覚かとも思ったが、明らかに違う。
これは一体…?

士朗 「さらばだ…リュウ」
リュウ 「!?」

それは突然だった。
体の自由が奪われ、呼吸がままならない。

リュウ (こ、これは!? どういうこと…だ?)

まるで突然水中深くに引きずり込まれたような感覚だ。
しかも段々と苦しみが深くなっていく。
これも武器なのか? まさか精神兵器か?
だが、少なくとも今の俺にはそれを考えるだけの思考がなかった。
次第に俺の思考は深い闇の渦に包まれていくのがわかった。



………。
……。
…。



トラン 「嫌ああああああぁぁぁぁっ!!!!」

ナイア 「!?」
セリカ 「トランッ!?」

突然のトランの叫びに私とナイアさんが驚く。
リュウの突然の出撃からそれを追っていたREINCARNATION。
突然トランが叫びだすなんて、一体何が?
私たちはトランに駆け寄る。

トラン 「………っ…ぅ…ぁぁ……!」

トランは声にならない声で体を抱えて泣いている。
ナイアさんがトランの背中に手を宛てる。

ナイア 「どうしたの、トラン? 一体何が…?」

トランがナイアを見て抱きつく。
声に出さないで泣いている。

セリカ 「!!」

それは突然だった。
嫌な予感が走る。

セリカ (…リュウ?)


同刻、REINCARNATION格納庫。

エレキ 「これで、出撃できる。後は指示を待つだけだ」

彩葉 「うん、リュウさんが勝手に行動するなんて、余程のことだと思うけど…」

私たちは待機命令を受けて、格納庫で機体のチェックをしていた。
これでいつでも出撃できる状態ではあった。

リリス 「……!」

彩葉 「? どうしたの?」

突然リリスがふらっ、と倒れそうになり、壁に寄りかかる。

エレキ 「だ、大丈夫か!?」

エレキさんがリリスを気遣うけど、リリスは大丈夫だとジェスチャーする。

リリス 「………」

震えている…?
リリスが、泣いてるの?
見えないように、ただ壁に向かって震えているようだった。
私は、近づいてリリスの肩を抱いてあげる。

リリス 「……」

彩葉 「(何があったのかわからないけど…ひとりで苦しまないでね? 私も一緒に戦うから)」

エレキ 「……?」


ダルマ 「…何かあったのかな?」

俺はAbyssを整備しながら、リリスさんたちを見ていた。
何か、気になるけど…。

ツガル 「…ダルマ」

ツガルが何か顔を蒼くして俺を呼ぶ。

ダルマ 「ど、どうしたんだ!?」

俺はさすがに心配になってツガルを見る。

ツガル 「何か…怖いよ、良くない事が起きてる…」

ダルマ 「…え?」

だが、俺には何もわからなかった。





………。



リュウ 「………」



ツガル 「リュウさん、応答してください!! リュウさん!!」

何度コールしても、リュウさんは答えない。
まさか…本当に?

ナイア 「機体はどうなの!?」

トラン 「損傷はほとんどありません…全くと言っていい程正常です、システムも起動のままです」

ほぼ全員がメインブリッジで、状況を確認している。
今の所わかっているのは、REINCARNATIONの前方でほぼ無傷の雪月花が漂っていることだけだった。

トラン 「…生命反応はあります、中にリュウさんがいます」

トランがそう確認する。
なら、どうして答えないの?

ナイア 「…トラン、それはいるけど、死んでるっ…」
セリカ 「そんなわけない!!」

私がそう言う前にセリカが叫ぶ。
誰だって認めたくないわよ…!

トラン 「…生きてはいます」

彩葉 「生きては?」

彩葉が顔を蒼くして、そう聞き返す。
瞬間、全員が凍りついたように沈黙する。

ツガル 「? あ…レ、レーダーに反応! 早い!?」

ナイア 「何なの!?」

私がそう聞くと、ツガルが慌てたように。

ツガル 「人型1! 識別は…Pandora…エ、エリカさんです!!」

その場の全員が前方を見る。
すると、高速でこちらに突っ込んでくる白い機体があった。



エリカ 「………」

ふとしたことだった。
よくわからない感情が、自分をさいなんだ。
何もわからないのに…どうして辛いの?
何もわからないのに…どうして悲しいの?

エリカ 「ツライ…カナシイ…?」
エリカ 「ワカラナイ…ワカラナイ……」
エリカ 「ホウカイシテイク…スベテ…ジンルイ……マッサツ…?」

段々と思考がまとまらなくなってきていた。
考えがひとつにならない…。
私は…私じゃ、ない…?

エリカ 「リュ…ウ……?」

私は何故だか体が勝手に動いた…。



トラン 「え…?」

ナイア 「……?」

その場にいた全員がただその光景を見つめていた。

セリカ 「姉さん……」

姉さんの機体は、漂うリュウの機体を掴み、抱きつくように寄り添った。
まるで恋人同士のように…ただ、寄り添いあっていたように見えた。

全員 「………」

皆がそれを見て、何故だか悲しくなった。
どうして、こうなったんだろう?
何が、間違ってたんだろう?
答えは出ているのに、後悔していた。

セリカ 「…リュウ、姉さん」





士朗 「………」

俺は帰還していた。
これで一番の障害は排除した。
後はセリカの問題か…だがDoLLの力を持ってすれば問題はないはずだ。
リュウ程の影響力はセリカにはない。
俺は機体を格納庫に着陸させ、所定の位置に戻す。
機体から降りると、俺はすぐに中枢部に向かう。



………。



? 『士朗か…勝手に出撃したようだな?』

中枢部に着いて、俺がいつものように片膝を着いて敬礼すると、まずそう注意される。
だが、俺は無視してこう言う。

士朗 『エリカにとって最大の障害となるものを排除してきました』

? 「セリカか?」

士朗 「いえ…セリカの存在はエリカにとってさほどの脅威ではないと思えます」

俺がそう言うと、主は怒る。

? 『馬鹿者が…貴様に何がわかる!? 人間風情がセリカの脅威を甘んじるとはな…所詮その程度か!』

随分な言われ様だ…。
貴様こそ何がわかる?
エリカの心に根付いた、愛情を…。
『貴様ら』が考えているほど、エリカは人形にはなりきれん。
リュウへの反応を見てもそれは明らかだ。

士朗 「では、今度はその脅威とされるセリカを屠って来ましょう…」

? 『………』

俺は内に秘める激情を隠しながらも、部屋を出る。

士朗 (気づいているだろうな…それ位)

俺の激情を知りつつ泳がされる…気分のいい感じではない。
だが、構わん…人間に生きる価値などない、どんな方法であれそれが実行されるのだ。
最終的にエリカが生き残り、俺が守りつづける。
俺とエリカが新たな人類の始祖となればいいのだ…。


ドオオオオオオオンッ!!!

エリカの部屋に向かおうとすると、突然爆発が起こり、地面が揺れる。

士朗 「何だ!?」

俺は急いでエリカの部屋に向かう。
だが、その場はすでに煙が上がり、その先は跡形もなくなっていた。

士朗 「! エリカがいない…!?」



? 『士朗…やはり貴様はわかっておらん。エリカはまだ未成熟なのだ…時が必要なのだ』
? 『エリカ…我が娘よ。その心を持ってどこへ行く?』
? 『お前が帰る場所は…ここにしかないのだ』





REINCARNATION治療室。

医師 「……」

医師は首を振る。
瞬間周りに緊張が走る。
だが、瞬間茶倉が医師の襟を掴んでこう言う。

茶倉 「ふざけんじゃないわよ!! リュウが死ぬわけないでしょうが!?」

セリカ 「さ、茶倉落ち着いて!」

セリカがそう茶倉をなだめる。
茶倉も珍しく、体を震わせて耐えていた。
医師はひとつ咳き込んで、襟を正しこう言う。

医師 「少なくとも現代医学では治すことは出来ない…これは我々の力を超えた症状だ」

ベッドで横たわっているリュウ君の体を私たちは見る。
外傷は全くない。
だが、意識が全て失われている。

エリカ 「………」

そして、その動かぬリュウの身体の側に姉さんがずっ、と虚ろな瞳で見つめていた。
姉さんは抵抗しなかった。
機体を回収する時ですら、リュウの機体を離そうとはしなかった。
でもその姉さんは、何も言わない、何も感じない。
ただ、リュウだけにその意思を示していた。

セリカ 「先生…姉さんの症状は?」

私がそう聞くと、先生は唸りながら。

先生 「…詳しくはわからない、ただ体は極めて正常だ」
先生 「心は…わからない、君たちの方が、特効薬になると思うが?」

私はそれを聞いて、少し安心する。
が、楽観視はできない。

セリカ 「姉さん…」

茶倉 「……くっ!」

セリカ 「どこに行くの茶倉!?」

茶倉 「決まってる! リュウをこんな目にあわせた奴らをぶっ潰す!!」

セリカ 「…!」

茶倉はそう言い放って部屋を出る。
私もそれを追った。


リリス 「………」
トラン 「………」

リリスとトランは目を瞑って、諦めたような、とも取れる表情でエリカと同じようにリュウの側にいた。

ツガル 「うっ…うう……」

ダルマ 「………」

泣きじゃくるツガルをダルマが優しく抱きしめる。
ダルマもどうにも出来ないことを悔やんでいるのだろう、左手でツガルを抱きながら、右手は硬く拳が握られていた。

エレキ 「……すいません、俺も行きます」

エレキは誰の仕業かがわかっていたのか、そう言って静かに部屋を出た。

ナイア 「………」

私はただ、考えた。
リュウ君とエリカを救う方法を…。
でも浮かばない。
そもそも医学は私の管轄外だ。
現役の、それもAVGの医師がそう言うのに、私に何ができると?
何ができるか…それを考えた時、私はひとつの結論に辿り着いた。
そして…。

通信士 『艦内のクルー全員に告ぐ、Pandoraの艦隊と思われるものが接近中!!』
通信士 『旗艦3! 敵機数およそ300!!』

ナイア 「何ですって!? …まいったわね」

今REINCARNATIONは待機中だ、一応臨戦態勢はとっていたけど。
どう考えても、絶体絶命だった。
ただでさえリュウ君とエリカがこの状態…。
切り抜ける道は…もうひとつしか残されてなかった。

ナイア 「トラン…ふたりのことをお願い」

トラン 「ナイアさん…?」

私はそうトランに言付ける、そして今度は。

ナイア 「ツガル、泣いている所悪いけど、急遽SOS信号を出して!」

ツガル 「は、はいっ」

ツガルはそう言ってダルマと一緒に部屋を走り去る。

リリス 「…出撃します」

ナイア 「頼むわ…多分先行した3人が、交戦してるはずよ」

リリスはそのまま部屋を出て行く。

ナイア 「…支援部隊も来ないでしょうね」

私がそう呟いて、部屋を出ようとする。

トラン 「ナ、ナイアさん…? まさか」

ナイア 「私が討って出るわ…それしかないもの」

私は鍵を確認して、特殊格納庫に向かう。



………。



REINCARNATION『特殊格納庫』

ナイア 「……」

通常の格納庫とは別の位置に隔離されている、いわば巨大な冷蔵庫のような部屋。
そこには鍵がかけてあり、私にしか開けられない。
まさか『これ』を動かす時が来るなんてね…できれば使いたくはなかったかも。
この中にある機体は、私が1番最初に作った、私にとって呪いの機体でもある。
EARTH LIGHTの時には完全にばらした状態で、積んでいたが、REINCARNATIONが完成した時、もしもの時と思って、完成させてしまった…。

ナイア (許してくれって言っても、通じないか…)

私は心の中で愚痴りながらも、鍵を通し、声紋を照合する。

ゴゴゴゴゴ…!

一つ目の隔壁が開き、次の扉で私は指紋を照合する。

ゴゴゴゴゴ…!

二つ目の隔壁も開く。
そして最後の扉。

ナイア 「……」

私は鍵を穴に差込み、両手を壁のセンサーに当てて、指紋を照合。
そしてそのまま…。

ナイア 「壱か罰か!!」

そう叫ぶ。

ゴゴゴゴゴゴ…!!

最後の隔壁が開き、中に機体がのフォルムが見える。
私は機体を簡易的にチェックすると、中に乗り込む。
一見重装型のこの機体、だがコンセプトは全く別物。
ただ、強力な一撃を持って相手を倒すためだけの機体。
敵艦をただ一撃をもって、両断する刃渡り25メートルの巨大な剣。
相手の火力を弾く装甲、特殊なエネルギーフィールド。
一瞬にして相手に近づくための高出力バーニアエンジン。
後必要なのは私の度胸!
私はシステムを起動すると、すぐに出撃しようとする。

ガションッ!! ガシャアンッ!!

歩くだけで、その場が揺れる。
足元の整備士が、驚いたようにこちらを見る。


整備士A 「な、何だあの機体!?」

整備士B 「で、でかい…30メートルはあるぞ!?」

ナイア 「ハッチ開いて! カタパルト準備!! one or eight出撃するわ!!」

…To be continued

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