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beatmaniaUDX The ANOTHER Story


25th STAGE 『TRUTH』

士朗 「ここが…地球か」

俺はxenonを誰にも見つからないように着陸させる。
追っ手が来る可能性は十分にあるからだ。
俺は今回、ある男に会うためにここに来た。
俺はあるルートから得た情報を元に、その場所へと向かう。



………。



士朗 (…森か?)

どうも人の気配を感じるような場所ではない。
だが、情報によるとこの森の中のようだ。
時間はまだ明るいので迷うことはなさそうだ。
森と言っても道はちゃんとあった。
山とは違うようで、なだらかに道が続いている。
小鳥や虫の声が聞こえるというのは平和な物だ。
俺はそんな忘れかけていた感情を思い出しながら、森の中を歩いていった。

士朗 「……ここか」

やがて、小一時間程歩くと『そこ』は見えた。
割と大き目の小屋のようで、どうやらここに住んでいるというのは本当のようだ。
俺は小屋の前まで歩き、扉を叩いた。

ドンドン…

中に音が二回響き、暫く経つ。
すると、中から男の声が聞こえ、扉が開かれる。

ガチャ…

男は俺とそんなに変わらない位の歳に見えた。
体つきは普通よりもがっしりしている。
ここの気候は暑いせいか、男は布のズボンと半袖の白いシャツを一枚着ているだけだった。

男 「あんたは…一体誰だ?」

男はそう聞いてくる。
当然だ、俺も会ったことはない。

士朗 「俺の名は士朗…あんたが、ケイナか?」

男はそう聞くと、少し真剣な眼差しで俺を見る。
そして、少し考えた後。

ケイナ 「お前…軍の関係者とかその辺りか? 少なくとも…地球人じゃあないようだ」

ケイナは簡単にそう当ててみせる。
俺は単刀直入に聞くことにする。

士朗 「あんたが、エリカ、セリカ、リュウの3名のことを知っていると聞いたんでな」

ケイナはそれを聞くと、驚いたような表情をする。
余程意外だったのか、すでに忘れていたのか、遠い目をして。

ケイナ 「…何が知りたい? 俺はたいしたことは知らない」

そう言って、少し気だるそうに扉の淵にもたれかかり、頭を左手で掻いた。

士朗 「…何があったのだ? あいつらに、そして…あんたに」

俺がそう言うと、ケイナは後ろを向き。

ケイナ 「まぁ、入れ…中で話してやる」

そう言って小屋の中に入っていった。
俺はその後を追うように入っていく。
中では靴を脱ぐようで、俺は違和感を感じながらも靴を脱ぎ、ケイナが用意してくれたスリッパを履く。
中は割と広く、正面には木製のテーブルと椅子がいくつかあった。

ケイナ 「どこでも、好きな椅子に座れ」

ケイナはそう言って水場に向かった。
ポットに水を入れているようだ。
飲み物だろう。

俺が近くの椅子に座ると、数分してケイナが俺の正面の椅子に座る。
右手に持っていたポットを机に置くと、スイッチを押して電源を入れる。
湯を沸かすのだろう。

ケイナ 「で、具体的には何が知りたい?」

ケイナはそう言って、腕を組み、俺を見据える。
俺は右肘を机に着き。

士朗 「A事件のことだ…」

ケイナ 「…随分、昔の話だな…いや、そうでもないか」

ケイナは俯いて目を瞑り、思い返すようにそう言った。

士朗 「その事件にあんたとリュウ、エリカ、セリカの姉妹が一緒に行動していたことは知っている」
士朗 「だが、その事件はVの工作により、詳細はもみ消されている」

ケイナ 「…成る程、で…どっちに気があるんだ?」

ケイナは突然意味のわからないことを言う。

ケイナ 「とぼけるな…エリカとセリカ。どっちに気があるんだ? 聞きたいのはどっちかだろう?」

ケイナは片目を閉じて、小さく笑いかける。
何か見透かされているようで嫌な気分だった。

士朗 「…全部だ」

俺は少し怒ったようにそう言った。
すると、ケイナはクククと笑い。

ケイナ 「まぁいい…どうやら、お前さん…『いい人間』のようだ」

士朗 「…!?」

俺が『いい人間』?
どうにもピンとこなかった。
自分で間違ったことをしているとは思わない。
だが、世間一般的に見て、俺が善人だとも思えなかった。

ケイナ 「あの事件の前日のことだ…」

ケイナは静かに語りだす。

ケイナ 「あれは作戦内容を説明された後だった」



………。





ケイナ 「リュウ…どう思う?」

俺は無言で歩くリュウを呼び止め、そう聞く。
明日の作戦では俺とリュウは共に行動する相棒だからな。
リュウは無言で立ち止まり、壁にもたれかかって。

リュウ 「任務なら…やるだけだ」

そう言った。
だが、表情はそう言っていないようにも思えた。

ケイナ 「おいおい…本心を言え」

俺は頭を掻いてそう言う。
俺たちにとってはこれが初仕事だ。
いわば初の実戦。
ただの補給資材運搬だが、どうもキナ臭い。
惑星『A』と言えば、激戦区で知られる惑星。
そこに俺たちのような新米…しかも女まで含めた部隊で重要な補給を任せると言うのがどうにも府に落ちない。

リュウ 「本心さ…それ以上でもそれ以下でもない」

リュウはそう言って歩き出す。
俺も追って歩き、話し掛ける。

ケイナ 「馬鹿野郎…顔がそう言ってねぇよ。エリカのこと、心配なんだろ?」

俺がそう言うと、リュウは足を止める。
相変わらずわかりやすい奴だ。
表情が普段から変わらない奴だから余計にわかりやすい。
あからさまにうろたえやがって。
最も、俺以外の人間じゃあわからないだろうが。

リュウ 「…人の感情を読むその癖、直した方がいいぞ…いつか恨まれる」

リュウが半身だけ向けてそれだけ言う。
俺はまた頭を掻き。

ケイナ 「肝に銘じておく」

そう言って、後は追わなかった。



………。



士朗 (…そうか、やはりその頃からリュウはエリカを想っていた…だがエリカは?)

ケイナ 「そうか…お前、エリカのことが気になるのか」

ケイナはいとも簡単に俺の深層心理を見抜く。
この男、一体どこまで…?
リュウの言葉が少し身に染みた気がした。





『A事件』当日…作戦は実行された。



ケイナ 「リュウそっちは大丈夫か!?」

俺たちは補給資材を運び終えると、すぐにその場を後にする。

リュウ 「…ああ、急ぐぞ」

リュウは先頭を切って走り出す。
俺もそれを追う。
やはりどうもおかしい。
何故、大気と重力が普通に存在するこの星で、耐放射線スーツのような重装備を着込まなくてはならない?
この星は汚染されてはいず、通常の服装でも歩けるはずだ。
それに、敵軍の連中が着込んでいないというのは、ある意味確信だった。

ケイナ 「リュウ…!」

俺が後ろから走りながらそう言う。
だがリュウは。

リュウ 「…例え、それが『毒ガス』だろうと、任務は任務だ…俺たち新米があがいた所で、他にも10箇所に渡って設置されている」

ケイナ 「…ちっ!」

俺は舌打ちしながら走った。
リュウも同じだろう。
もっと力があれば、こんな馬鹿な作戦は止められたかもしれない。
元々…この作戦はホルス少佐も知らない作戦のようだしな。
少佐ならば、こんな馬鹿げた作戦を止められただろうに…。
前もってハルの奴に頼んでみたが、やっぱりダメだったか。

リュウ 「!?」

突然、リュウが立ち止まる。
俺も立ち止まり、何事かと前を見る。

ケイナ 「!?」

だが、それは見ない方が良かったのかもしれない…。
そこは毒ガスによってすでに汚染され始め、死体の山が転がる地獄だった…。

リュウ 「……」

リュウは握り拳を固めて震えているようだった。
自分の無力さを呪っているのだろう…俺とて、正常でいられる自信はなかった。
だが、そんな光景の中、もっと信じられない光景があった。

ケイナ 「馬鹿な!?」

リュウ 「!!」



セリカ 「姉さん…目覚めたのね」

セリカだった。
だが、俺たちの知っているセリカではなかった。
鋭い眼光の先には、エリカを見据え、右手には銃が握られている。
明らかに異様な光景だった。
いやそれよりも…。

ケイナ (姉…だと? あのふたりは姉妹だったのか!?)

俺がそう考えている間、セリカは無常にも引き金を引いていた。
迂闊だった。
セリカがまさか本当に引くとは思っていなかったのだ。

エリカ 「!?」

ダァンッ!!

乾いた音が響く。
ここは戦場だ…銃声など日常茶飯事に過ぎない。
だが、どうやらもっととんでもない状況になるらしい。

リュウ 「ぐっ…!」

ドサッ!

糸が切れた人形のようにリュウが地面に倒れる。
エリカは足元に倒れるリュウを見て、呆然としていた。
そして、セリカも…。
だが俺はそんなことを気にもせず、リュウの元に走った。

ケイナ (まずい! 今この地帯は毒素が充満している。スーツの穴から毒素を吸ったら一分ともたん!!)

俺はリュウを抱きかかえ、銃弾の後を特殊パテで補修する。
リュウは呼吸を荒くしていた。
少し毒を吸ったか!?
俺はセリカを一瞥する。
そこには、俺の知っているセリカがいた。

セリカ 「…リュウ? どうして…? 何で…私……銃を? 私が…撃ったの? …リュウ……を………」

セリカは無表情に泣いていた。
銃を両手で握り締め、ガタガタと震えていた。
膝が笑い、いつ倒れてもおかしくない足取りで、その場に立ち尽くしている。

ケイナ 「……?」

俺はエリカを見る。
こっちも無表情だが、何も考えていないようだった。
まるで…人形のような。
それが第一印象だった。
どうやら…ふたりとも、計り知れないおかしな宿命を持っているようだな。
だが、俺はリュウのことが気がかりで、それを考えている余裕はなかった。

ケイナ 「セリカ、エリカ!! さっさと帰還するぞ!! リュウを死なせたいのか!?」

俺がそう叫ぶ、だがセリカは…膝を地面に着き、銃を落としてがっくりと項垂れる。
エリカはその場で虚ろな瞳をして虚空を見つめていた。
俺はふたりを救うことはできないと判断した。
俺はリュウを抱え、全力で駆け抜けた。
今は一刻を争う!!

ケイナ (エリカ…セリカ…! 馬鹿どもが!!)





ケイナ 「…俺は、その時ほど自分の無力さを嘆いたことはなかった」

士朗 「…それから、どうなった?」

ケイナ 「…リュウを病院に収容した後、俺はVを辞めた…」
ケイナ 「本来、無理なことだが…ホルス少佐の独断で、Vのリストから消去してもらえた」
ケイナ 「力のない俺にとって…あのまま戦い続けることはできなかった」
ケイナ 「それから俺は銀河を彷徨いながら、この星に着いた」
ケイナ 「戦争のない、この平和な星を見て…俺はここに住もうと思ったのさ」

ケイナは後ろの窓から空を見て、名残惜しそうにそう呟いた。
そして、視線をポットに向け、用意していた白いカップに湯を注ぎながら。

ケイナ 「俺はただの…腰抜けさ。俺が知っているのはそこまでだ」

ケイナは湯を注ぎ終えると、紐のついた紙袋をカップに入れた。

ケイナ 「インスタントで悪いが…まぁ飲め」

士朗 「……」

俺は差し出された、カップを掻き混ぜながら考えていた。

士朗 (やはり…あのふたりは記憶がそこで戻っていた)

少なくともセリカは予定通り、エリカを始末しようとした。
だが、そこにはリュウがいた。
言ってしまえばPandoraにとって最もイレギュラーだったのだろうな。
セリカだけならいざしらず、エリカまでも記憶を閉ざした…。
いや…それとも閉ざされた、か?

士朗 (だとしたら足の引っ張り合いと言うことになるな)

俺はカップを口に持っていく。
どうやら茶のようだな。
何やら不思議な味だった。

ケイナ 「ミルクティーは初めてか? まぁこの星以外では牛乳なんて手に入りにくいからな」

そう言ってケイナも茶を啜る。

士朗 (やはり、Pandoraは俺が思っている以上にロクな存在ではないようだ)

俺が茶を飲み干し、カップをテーブルに置き、立ち上がる。

士朗 「…すまんな、随分貴重な情報だった」

ケイナ 「…何に繋がれているかは知らん。だがな、鎖って物は断ち切るためにあるような物だ」
ケイナ 「その助けになるかどうかはわからんが…お前に預けたい娘がいる」

ケイナは立ち上がり、別の部屋に向かった。
俺は立ち尽くし、その場で待つ。


………。


数分後、ケイナはひとりの少女を連れてきた。
服は普通のようだが、どうにもひっかかった。
頭は帽子を被っていたので良くわからないが、どう見てもこの厚着は普通ではない。
まるで肌を露出させないために厚着をしているようにも見えた。

ケイナ 「…アクティ、今日からお前はこいつに着いていくんだ。きっと…良くしてくれる」

複雑な気分だった。
ケイナは人の心を読みすぎる。
俺が何を考えているのかが完全にわかっているようにも見える。
アクティと呼ばれたその少女は俺を見ると、怯えを解いたように微笑んだ。

タタタッ

小さく小走りに俺の側に近づくと、窓から吹く風に帽子が地に落ちる。

アクティ 「あ…」

そして、その頭が露になった。

士朗 「これは…!?」

その少女には角があった。
動物の角のようで、奇妙な形に曲がっていた。

ケイナ 「…驚いたか? この娘はな、改造人間だ」

ケイナは少々強い視線を俺に向けてそう言った。
突き刺すような、まるで怒りをぶつけるような視線だった。

士朗 「改造…人間だと? 強化人間の類か?」

ケイナ 「…頼む、アクティを連れて行ってやってくれ」

ケイナは大きくため息をひとつ吐くと、そう俺に頼み込んだ。

ケイナ 「この星では、アクティは目立ちすぎる…一緒に生活することはできんのだ」

士朗 「どこで、拾った?」

ケイナ 「…拾ったんじゃない奪ったんだ」

ケイナは簡単にそう言うが、本当のことだろう。

ケイナ 「俺がVを出る際に、一緒に連れ出した。暫くは一緒に行動してたんだが…どうにもこの星の居心地が良すぎてな」
ケイナ 「暫く、一緒にいたが、どうやらそろそろばれそうなんだ…もうこれ以上はアクティに害が及ぶ」
ケイナ 「頼む…連れて行ってやってくれ、ここはアクティにとっては安息の地じゃないんだ」

士朗 「なら、あんたは何故一緒に出なかったんだ?」

ケイナ 「…ここは居心地が良すぎる、腰抜けの俺には…似合いの場所なんだよ」

俺はそれ以上は聞かなかった。
ケイナには情報をもらった借りがある、それぐらいは、な…。
俺は帽子をアクティに被せ、角が隠れるようにする。

士朗 「アクティだったか、あまり目立たないようにしろ…いいな?」

アクティ 「……」こくこく

アクティは小さく頷いて、俺の後を着いてきた。

ケイナ 「士朗…もうひとつ、だ」

俺が外に出ると、扉の所からケイナが呼び止める。

ケイナ 「ここから一番近い海底のどこかにアクティ専用の人型機体が一機ある。持っていくがいい」
ケイナ 「アクティが、お前の鎖を解き放つ鍵か剣になればいいがな…」

ケイナはそう言うと、扉を閉め、外との空気を遮断した。
俺はアクティを連れ、その場を後にした。

アクティ 「…士朗ちゃん?」

森を歩いているとアクティが俺の名を呼ぶ。
か細い声だが、静かなのでしっかりと聞き取れた。
俺は歩みを止めて振り返る。
この際ちゃん付けは気にしなかった。

士朗 「何だ?」

アクティ 「…ううん、やっぱり…やめとく」

アクティは俯き、消え去りそうな声で小さく、そう言った。
ただ、その瞳には悲しみが見えた。
俺は、何となくケイナが俺にアクティを託した理由がわかった。

士朗 (こいつの目は…悲しすぎる、何を経験したのかは知らんが、ケイナにとっては苦痛でしかなかったのかもしれんな)

俺はそんなことを思いつつ、アクティの頭を帽子越しに撫でてやった。
昔、子供の頃エレキにもしてやったように。

アクティ 「……」

アクティは俯いて照れているようだった。
少し、心が落ち着いた気がした。
それが何を意味するのかはわからないが、悪い気分ではなかった…。

…To be continued

ANOTHER


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