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beatmaniaUDX The ANOTHER Story


26th STAGE 『水中戦』

ナイア 「…ほっ、ほっ!」

上半身を左右に振ってみるが、痛みは感じない。

ナイア 「ふぅ…ようやく完治したわ」

私は一気に体の力を抜くと、夏服に着替える。

ナイア 「…はぁ、気が重いわね」

部屋を出て、私はため息をひとつ着く。
ここにはリゾートに来てるんじゃないんだから…。
私はそんなことを考えながら、いつもの溜まり場に向かう。



ウィィン…カシャ!

ドアを開き、私は中に入る。
すると、聞こえるのはいつもの声だった。

ナイア 「……はぁ」


茶倉 「こら、小娘!! リュウから離れなさい!!」

セリカ 「何言ってるのよ! あなたこそ離れなさいよ!!」

リュウ 「………」

茶倉とセリカが相変わらずの調子で、リュウ君を取り合っていた。
そして、当のリュウ君は半ば諦めたような顔をしている。


エリカ 「………」
クロロ 「…ふぁ〜〜」(欠伸)

ちなみに、リュウ君の本命、エリカはクロロを抱いてぼ〜っとしていた。


茶倉 「…ふふん、そっちがその気ならこっちも考えがあるわよ?」

茶倉は不適に笑い、勝ち誇ったようにそう言う。
それを受け、セリカは少々驚く。

セリカ 「な、何よ…?」

茶倉 「ふっふっふ…お前の弱点はもう知ってるのよ!!」

そう言って、茶倉はエリカの膝で眠ってるクロロを引き剥がす。

エリカ 「!?」

クロロ 「にゃあ!」

クロロは首根っこを掴まれ、じたばたするが、当然茶倉は離さない。

セリカ 「…ま、まさか」

茶倉 「ほ〜ら、た〜んとお遊び♪」

茶倉はそう言って、セリカに向けてクロロを投げつける。

クロロ 「にゃ〜…」

ぼふっ

トラン 「あ…」

見事、セリカは顔面ブロックでクロロを受け止める。

セリカ 「………」

ナイア 「……はぁ」

もう展開が見えてるだけに、私は耳を塞ぐ。


セリカ 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

クロロ 「にゃあ!」

セリカが叫び、クロロを引き剥がして、投げ捨てる。
幸い、クロロは空中で受身を取ってちゃんと着地する。
驚いたのか、すぐにクロロはトランの方に走った。

トラン 「よしよし…」

クロロ 「み〜…」

か細い声をあげてトランにしがみつくクロロ。
トランはクロロを抱き上げて、安心させる。


セリカ 「いやあああああああああああああああああ!!! 猫はいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

セリカさんは半狂乱になって部屋の隅に逃げる。
思いっきり壁に顔をぶつけるが、痛がる間もなく部屋の隅で蹲る。

茶倉 「あーっはっはっは!! 惨めなものね〜」

そう言って、茶倉はリュウ君の腕に抱きつく。

セリカ 「がくがくがく…」

セリカは完全に怯えて、隅っこでガタガタと膝を抱えて震えていた。


美夏 「な、何…? 今の悲鳴?」

彩香音 「…セリカの声みたいだったけど?」

優里 「…セリカ?」

悲鳴の後、部屋に入ってきた3人が訝しげに周りを見渡す。
そして、部屋の片隅で振るえるセリカを優里が見つける。

彩香音 「…ああ、成る程」

彩香音はどうやら察したのか、ひとりで納得する。

茶倉 「さぁ、邪魔者は消えたことだし、リュウ〜…ってあれ? あれれ!?」

茶倉がリュウを連れて行こうとする矢先、茶倉の体が中に浮く。

茶倉 「な、何事!?」

エリカ 「………」

ナイア 「エ、エリカ…!?」

何と、エリカが右手一本で茶倉の首根っこを掴んで持ち上げているのだ。

茶倉 「こ、こらっ! 何するのよ!?」

茶倉がじたばたとするが、エリカは少し怒ったような表情で。

エリカ 「………」(怒)

ずしゃあ!

茶倉 「痛っ!!」

エリカはそのまま茶倉を片手で放り投げる。
茶倉は尻から地面に落ち、しばらく痛がっていた。

エリカ 「………」

エリカはそのままトランの所に行って、クロロを優しく撫でた。

クロロ 「にゃあ〜」

クロロは嬉しそうに鳴くと、エリカは満足そうに笑って部屋を出て行った。


ナイア (そういうこと…)

要するにクロロのことで怒ったのね。
しかしいきなり投げ飛ばすなんて…エリカらしいと言えばそうだけど。

ナイア (記憶を無くしてても、本質は変わってない、か…)

私がそう納得すると、周りに音が戻ってくる。

茶倉 「痛ったぁ…全く、あの馬鹿力め」

トラン 「茶倉さんが悪いです」

はっきりトランがそう言う。
さすがの茶倉も、少し懲りたのか、何も言わなかった。

リュウ 「……」

リュウ君もエリカを追うように部屋を出た。
何か思うところがあるんでしょうね…。

トラン 「……!?」

突然、トランが外を見る。
まだ早朝なため、日が出たばかり。
海が見えるだけだ。

ナイア 「…どうしたのトラン?」

私がそう尋ねる。
トランは、海を見ながら。

トラン 「…何かが降りてきます」

ナイア 「何か…? まさか…!!」

私は索敵レーダーを最大にして見る。

ナイア 「…やっぱり、来たのね!!」

どうやら、まずいことに敵が攻めてきたようだ。
狙いはほぼ確実に私たちでしょうね…。

ナイア 「トラン、通信お願い!! 私はドックに行くわ!!」

トラン 「はい」



私はすぐにドックに向かった。
リュウ君はエリカと一緒に先に行ったのか途中で出会わなかった。



トラン 『REINCARNATION全クルーに告げます…敵機を確認しました、直ちに戦闘体制に入ってください。繰り返します……』

トランの通信が入り、艦内に警報が鳴る。



彩香音 「な、何かやばいことになってるよ…?」

セリカ 「あ、あうう…」

セリカさんはまだ足がふらふらしてたが、頑張って部屋を出た。


優里 「…繰るべき時が来たのかもしれないわね」

美夏 「そんな、冷静に判断しないでよ〜!」

トラン 「大丈夫です、私たちが絶対に優里さんたちを助けますから…!」

私はそう言って、敵の数を確認する。
数は人型30!? そこまで降下しているの!?
しかも、この辺りはすべて海。
皆が水中で戦えるのだろうか?
私はすぐに状況を報告する。


美夏 「トランちゃん…凄いよね、こんな時でも迅速に冷静に判断できるんだから」

優里 「そうね…それだけに、悲しいことだわ」

彩香音 「………」



ナイア 「エレキ、B4Uは水中用に換装したわ!! 慣れない水中戦でしょうけど、あなたの機体が頼りよ! 宛てにしているわ!!」

エレキ 『了解! B4U出撃します!!』

エレキが通信で答え、水中換装のB4Uがカタパルトを出る。

リュウ 『ナイア、雪月花の水中適正は大丈夫か!?』

ナイア 「ほぼ大丈夫よ、ただ…追加ブースターは使えないから気をつけて!! エネルギー兵器もほとんど効果が無いわ!!」

リュウ 『…了解だ、雪月花出るぞ!!』

そう言って、雪月花が出る。

茶倉 『私も発進する!! 実弾武装は積んでるんでしょうね?』

ナイア 「OKよ! ただ暴れすぎないようにね!!」

茶倉 『桜、出撃する!!』

桜も続く。
今回はこれだけが頼り…他の機体は水中での適正がない。

セリカ 「あれ〜? Abyssは動かないの?」

ひとり遅れてきたセリカがそう聞いてくる。

ナイア 「あのね…Abyssはエネルギーブレードしか装備してないんだから、行ってもほとんど何もできないわよ?」

セリカ 「それじゃあ、DoLLはいいの? あれもエネルギーしかなかったと思うけど…」

ナイア 「何言ってるのよ…? DoLLはそこにあるじゃない」

セリカ 「あれ〜? だったら姉さんは何に乗ったの? DXYはもう無いのに…」

ナイア 「…え? エリカ、出撃したの?」

私はセリカにそう聞き返す。
少なくとも出撃を確認してない。
そういえば、1番最初に部屋を出たきりよね…。

セリカ 「だと思うけど…外に姉さんの気配を感じるもの」
セリカ 「Pandoraの気配もだけど」

ナイア 「ってことは、Pandora軍か…」

私がそう言って、考えていると。

ダルマ 「あの〜、ナイアさん。エリカさんなら、one or eightに乗って行きましたよ?」
ダルマ 「ナイアさんが来る前にさっさと…」

ナイア 「はぁっ!? 何で、あれが外に出てるのよ!? ちゃんと仕舞っておいたでしょう!?」

私が思いっきりダルマに食って掛かると、ダルマは驚きながらも。

ダルマ 「し、知りませんよ! だって、普通にデッキで修理してそのままだったじゃないですか!!」

私はそこまで聞いて思い出す。
そういえば、私…あれから気絶して忘れてた。

ナイア 「やっば〜!! ちょっと、リュウ君聞こえる!?」

私はとっさに通信を開いてリュウ君を呼び出す。

リュウ 『ナイアか…? 何だ?』

ナイア 「まずいのよ!! エリカがone or eightに乗って飛び出してるの!! あれは普通の体じゃまず持たないわ!! すぐに探して!!」

リュウ 『…成る程、だがすぐには無理だ、今から交戦する!!』

そう言って、通信が途絶える。

セリカ 「……大丈夫かな、姉さん」





リュウ 「ちぃ…やはり水中では動きが鈍い!! それに比べ、奴らの機体は水中用に換装されているのか!?」

さすがの雪月花も水中ではほとんどスピードが殺される。
遠くからバズーカを撃つ位しかできんとはな…。


エレキ 「ていっ!!」

俺は水中用の武装で敵機を撃墜する。
思ったよりも重力と水圧が気になる。
地上や宇宙とはまた違った感じだ。
どうやら、まともに戦えるのはマジで俺だけらしい。
こりゃ責任重大だな…。


茶倉 「このぉっ!!」

私はマシンガンで相手を撃ちまくる。
一体一体はたいしたことが無いが、武装があまりにも水中に相性が悪い。
実弾主体でも相手の装甲を簡単に撃ちぬけない。
おまけに装甲のないこの機体じゃそう持たないようね。



リュウ (しかし…妙だな? トランの通信から聞いた数よりも少ない)

俺はレーダーを見てみるが、どうも敵はまっすぐこちらだけを見ていないようだ。

リュウ (もしかして、他に何かあるのか…?)

俺は敵機を撃墜しながら、REINCARNATIONとの通信を開く。

リュウ 「トラン! 敵は一体どういう陣形を組んでいる!! 最大距離で索敵してくれ!!」

トラン 『了解……これは?』

トランが何か見つけたのか、妙な言い方をする。

トラン 『…リュウさん、どうやら敵は別の部隊と戦っているようです』

リュウ 「何だと…? G2か?」

トラン 『いえ…G2は水中用の機体がないため、直接戦闘には参加していません』
トラン 『恐らく、全く別の…第3軍かと思われます』

リュウ 「…トラン、G2と通信してそっちを調べさせてくれ!! わかり次第俺に連絡を!!」

トラン 「了解しました…」

通信はそこで切れる。



トラン 「…G2応答お願いします。こちらREINCARNATION」

ユーズ 『こちらG2だ! どうかしたか!?』

トラン 「ユーズさん、そちらの方で敵機の動きと、私たち以外に交戦している部隊を調べていただけますか?」

ユーズ 『別働隊だと? …成る程、確かに敵は戦力を分散させているな』

トラン 「お願いします、連絡はリュウさんの雪月花にお願いします」

ユーズ 『了解だ、任せろ!! …オラァ! 聞いた通りだ、さっさと状況を調べろ!!』

ユーズ艦長の叫びが聞こえ、通信は途絶える。
私はそのまま敵部隊の動きを見る。
すでにリュウさんたちの部隊は、敵をほぼ全滅させていた。
B4Uを先頭にどんどん敵機を減らしていく。



リュウ (…やはり、別の部隊か。しかし一体誰が?)

エレキ 『師匠! どうやら、敵部隊は全滅のようですよ?』

リュウ 「そうか、そのまま徐行だ。別の部隊が味方とは限らん」

エレキ 『了解!』

俺は一旦部隊を集め、雪月花を先頭に左翼にB4U、右翼に桜を配置して、別働隊に近づく。
そして、突然通信が開く。

ユーズ 『リュウか!? どうやらやつら同士討ちのようだぜ』

リュウ 「…同士討ちだと? まさか…エリカ!?」

ユーズ 『さぁな、誰かまではわからん…識別はどっちもPandoraだ。エリカの識別はREINCARNATIONだろう?』

リュウ 「…そうだな、確かに」

俺は不安にも思いながら、エリカを探してみる。

ユーズ 『とりあえず、こっちの味方とは限らん。注意しろ!!』

リュウ 「すまない艦長、助かった」

俺はそう言って通信を切る。

エレキ 『師匠…エリカさんはどうしたんでしょうか? レーダーにも反応がないってことは、そんなに遠くまで行ったんでしょうか?」

リュウ 「わからん…今は近くにいる部隊が気になる」

俺は再び通信を開き、トランに繋げる。

リュウ 「トラン…別働隊の機体は何機だ!?」

トラン 「…えっと、あ…これ、エリカさんが交戦してます!! 相手は2機です!!」

俺はそれを聞くと、すぐに前進する。

リュウ 「エレキ、茶倉! エリカを援護するぞ!!」

俺はそう言って一気に前進する。



ドガァ!!

士朗 「ちぃ! 何と言うパワーだ!! xenonがこうまで一方的に押されるとは!」

俺は前に見た奴らのデカブツ相手に苦戦していた。
こちらの攻撃は水中ではほとんど効力を失う、加えて相手の特殊フィールドが完全にこちらの攻撃を遮る。
かと言って、格闘戦で勝てる程甘い相手ではないようで、xenonはほとんど一方的に攻撃された。

士朗 「…く、一体誰が乗っているんだ!? リュウかぁ!?」

俺は相手のパンチをよけながら、通信を開いてそう叫ぶ。

エリカ 「許さないから…」

士朗 「…エリカ!?」

エリカ 「…皆は私が護るから!」

ドガァ!!

士朗 「ぐはっ!」

敵機の右拳がxenonのコクピットを殴りつける。
そのまま吹っ飛んで、後ろの岩壁に激突する。
各部の駆動がおかしい…どうやら今の衝撃でいかれたか。

アクティ 『士朗ちゃん!!』

突然、横から見慣れない機体がxenonをその場から遠ざけた。
どうやら、アクティの機体のようだ。
見たところ、軽量型で武装もあまり積んでいるようには見えない。
どこか、女性型のようにも見えるが、細身のせいだろう。

アクティ 『あの人…敵じゃないよ』

士朗 「…アクティ?」

アクティは突然そんなことを言い出す。

アクティ 『私が…止めて見せるよ!!』

アクティは機体を前面に押し出し、両手を広げてエリカの機体の前に立った。


アクティ 「お願い、止めて!!」

エリカ 「!?」

私がそう叫ぶと、止まってくれる。
やっぱり、この人は敵じゃない。

アクティ 「私たちは、敵じゃない…あなたたちに危害を加えない!!」

エリカ 「………」

相手の動きが止まる。
わかって、くれた…?



リュウ 「エリカ!! 大丈夫か!?」

エリカ 『……?』

見ると、エリカの機体は損傷が見当たらなかった。
まるで無傷とは…恐ろしい装甲だな。
そして、その前には見慣れない機体があった。

リュウ 「…交戦していたようだが、どうなっている?」

状況がいまいち掴めなかった。
だが、後方で煙を上げている機体を見て俺は驚く。

リュウ 「xenon…! 士朗が…!!」

アクティ 『お願い、止めて!!』

直後、見慣れない機体に止められる。
声からすると女の声…? 聞き覚えは無い。

リュウ 「…そちらの所属を教えてもらおう。お前は何者だ?」

俺がそう聞くと、相手は多少どもりながら。

アクティ 「え、えっと…その、所属はわからないけど…その、敵じゃない! です…」

リュウ 「………」

判断がしづらかった。
声だけで相手を判断するわけにはいかないが、敵とは思いがたい。

茶倉 『とりあえず…捕虜として扱ったらどう?』

茶倉がそう提案する。
他にどうしようもなさそうなので、俺はそうすることにした。



………。
……。
…。



そして、昼過ぎの時刻。
俺たちはREINCARNATIONで会議を開いていた。


ナイア 「で、ノコノコ着いてきたと」

ナイアはアクティと士朗を見てそう言う。
呆れていると言うよりも馬鹿馬鹿しく思っているようだ。

アクティ 「あ、あの…その……うう」

リリス 「…とりあえず、落ち着いてください」

アクティ 「は、はいっ」

リリスがそう促すが、アクティは緊張するばかりだ。
と言うよりも、この娘はやけに厚着の格好をしている。
艦内はエアコンが効いているからそうでもないが、外の気温から考えるとどう考えてもおかしい格好だった。
頭はフードを被っており、手袋までしている。
肌ひとつ露出させていなかった。

リュウ 「ひとつ聞く、お前は敵か?」

俺は士朗を見てそう聞く。

士朗 「…さぁな」

士朗は両手両足を縄で縛られている状態なのでほとんど動くことはできない。
士朗は諦めにも似た表情で、冷静に対処しているようだった。

アクティ 「士朗ちゃんは敵じゃないです!!」

アクティが俺に食って掛かる。
どうやら、よっぽど信頼しているようだな。

リュウ 「アクティ、お前は利用されているかもしれな…」
アクティ 「ぜーーーーーったい!! 士朗ちゃんはいい人です!!!」

俺が言い終わらないうちにアクティはそう言う。
子供っぽい言動だが、よく見ると身長は割と高く、大人と言ってもいい体だった。
だが、やはり気になることは。

リュウ 「…アクティ、お前は何故そんな暑苦しい格好をしている?」

アクティ 「…そ、それは……」

アクティは口篭もる。
聞かれたくなかったのだろうか?
俺は追求するわけにもいかず、黙っていると。

トラン 「…改造人間」

アクティ 「はうう! どうして知ってるのぉ!?」

アクティは驚いて、後ろに跳ねる。

彩香音 「うわ…改造人間だって。ヒーローとか、特撮のアレだよね?」

美夏 「それは、違うと思うけど…」

優里 「…少し、黙っていなさい」

彩香音 「は、はい…」
美夏 「は、はい…」

優里に注意され、ふたりが黙る。
そして、トランが。

トラン 「大丈夫です、アクティさんは信じられます…士朗さんは、わからない、と言っておきます…」

トランが珍しく、『わからない』と言う。
それは、とても意味のある言葉に思えた。

アクティ 「………」

アクティは怯えるように、黙ってしまう。
トランのことを少しばかり嫌悪しているようだ。

リュウ 「…どうしたものか」

セリカ 「…でもPandoraと戦ってたんでしょ?」

士朗 「……」

士朗は答えない。
アクティも答えなかった。

ダルマ 「…はぁ、何か話が進まないなぁ」

ナイア 「そうね、いい加減にしてほしいわ」

茶倉 「わかりやすく言ったらどう? 今すぐ死ぬか、死ぬまで働くかってことで」

茶倉があまりにもわかりやすい言い方をする。

アクティ 「どっちも嫌です…」

アクティはさすがに反対意見を述べる。

リリス 「…では、味方か敵かどっちかで」

リリスもまた単純な言い方をする。

アクティ 「当然味方で!」

アクティは簡単にそう言う。
当の士朗は全く気にしてないようだった。

ツガル 「いいんでしょうか…? そんな簡単で」

エレキ 「…悪いが、俺は納得できねぇ」

エレキがここで突っ込む。

エレキ 「アクティちゃんに関しては何も言わねぇよ、だが兄貴に関しては別だ!」
エレキ 「いいか!? 兄貴は理由はどうであれ、俺たちを裏切ったんだ」
エレキ 「それが、何か? いきなり帰ってきて味方ですってのはおかしくないか!?」

アクティ 「で、でも…!」

ユーズ 「いいや、エレキの言う通りだ!!」

そこへ突然ユーズが現れる。
さすがに全員が注目した。

ユーズ 「お邪魔してるぜ、トラン艦長♪」

ユーズは一言そう挨拶して、士朗を睨みつける。
そして、士朗の前まで歩くと。

バキィッ!

士朗 「…くっ」

アクティ 「止めて! 士朗ちゃんを殴らないで!!」

アクティが士朗を庇うように抱きしめる。

ユーズ 「譲ちゃん…悪いがどいてろ。その馬鹿にはまだ言いたいことがある!」

ユーズ艦長がそう睨みつけると、アクティは怯える。
士朗がゆっくりと顔を上げてユーズを見る。
その顔から、恨みや怒りの感情が見えないことが不思議だった。

ユーズ 「士朗…お前が俺たちを裏切ったことまでは大目に見てやる」
ユーズ 「だがな…! そのままどの面下げて戻ってきた、ああん!?」

士朗 「……」

士朗は答えない。
何を言っても言い訳にしかならない。
俺でもわかることだ。

ユーズ 「…俺は生憎、そんな簡単に信用はできん、というわけでトラン艦長」

トラン 「え? あ、はい…?」

トランはいきなり指名されて驚いたのか、タジタジだった。

ユーズ 「しばらく、この馬鹿をそっちの艦で見張ってほしい。なんなら奴隷でも構わん」

トラン 「え…あ、はい……」

トランは良くわかってないのか、そう答えた。

ユーズ 「…さて、邪魔したな」

そう言ってユーズは背を向ける。
そしてふと立ち止まり。

ユーズ 「…そうそう、言い忘れてた」

ユーズは首だけを士朗の方に向け。

ユーズ 「見守る愛もいいが…ちゃんと1番近くにいる愛も忘れるんじゃねぇぞ? じゃないと、後悔するぜ」

そう言ったユーズの背中が、何故か酷く切なかった。
しばらく艦内が静寂に包まれた。

セリカ 「へ〜ユーズ艦長も言う時は言うね」

ツガル 「結構、決まってましたね」

トラン 「………」(汗)

リリス 「………」



ユーズ (いや〜、我ながら決まったなぁ…やはりビデオを留守録しておいて良かった)

孔雀 「艦長、戻ったんすか? 早かったすね」

ジルチ 「何か、嬉しそうですけど…?」

ユーズ 「黙れっ、お前らは甲板でも磨いてろ!!」

孔雀 「ずっと磨いてるっつーに」

ジルチ 「俺ら出番ないもんな…」



………。
……。
…。



ナイア 「と、言うわけで…リュウ君とエレキに任せるわ」

リュウ 「…了解した」

エレキ 「うぃ〜っす」

すでに士朗は縄を解かれ、自由となっている。
アクティは今トランと一緒に別働で艦内を回っている。

士朗 「……これは何だ?」

俺は士朗の両腕にふたつのブレスレットをつける。

リュウ 「…妙なことされてもいいようにな、爆弾だ」

士朗 「成る程…当然の判断だな」

エレキ 「一応捕虜だから、艦内を自由には歩けないようにされる。何かある時は、俺か師匠が駆けつけるから」

士朗 「………」

士朗はそれ以上何も言わなかった。
エレキも多少複雑な表情で、士朗を見ていた。
士朗が部屋に入ると、俺はドアをロックする。
これで、士朗は自力で出て来れない。
中の状況は付属のモニターで確認できる。
とりあえずは、このままだな。



トラン 「艦内登録終了。これでアクティさんは艦の中を自由に動けます」

アクティ 「…うん」

トラン 「大丈夫です、この艦の皆はそんなに心狭くはないですから」

私は安心させるように言う。

アクティ 「……」

アクティさんは部屋に静かに入っていった。
そしてドアを閉めた。
私は何も言わなかった。
葛藤している。
士朗さんを助けたい一心だから。
ただ、一途にそう想っている。
何もできない自分に葛藤している。
それがわかったから私は何も言わなかった。



………。



リュウ 「これで…地球に留まることはできなくなったな」

ナイア 「そうね、これ以上は迷惑どころじゃないわ…地球が戦火に巻き込まれる」

トラン 「了解です、すぐに優里さんたちを送り、その後地球を離れます」

セリカ 「…そういえば姉さん、無事なの?」

エリカ 「……?」

ナイア 「そういえば、あの機体に乗ってよく五体満足ね〜こっちは全身脱臼、及び、骨折したのに」

見ると、エリカの体は無傷だった。
元々体が強い方だったが、あれに耐えるとはな。

リュウ 「ナイア…元々あの機体は?」

ナイア 「…私がずっと、封印してたもの」
ナイア 「作り直そうかとも思ったけど、そんな暇もなかったしね」

リュウ 「……」

俺はそれ以上は聞かなかった。
ナイアの表情が曇る。
嫌な思い出だろう。


そして、俺たちは再び別れの時を迎えた。



………。



美夏 「生きて…また会おうね?」

セリカ 「もっちろん!」

彩香音 「信じてるから、また遊びに来てよ?」

ナイア 「そうね…全てが終わったら、また」

トラン 「…では」

優里 「…トランちゃん、待って」

優里さんが私を引き止める。
皆は先に艦に入っていく。

優里 「トランちゃん…もし、全てが終わったら。どうするの?」

優里さんはそう聞いてくる。
私は考える。
そういえば、後のことは考えてなかった。

優里 「もし…全てが終わって、行く所がなかったら。いつでもいらっしゃいね?」

トラン 「…え?」

優里 「私たちは、いつでもトランちゃんたちを歓迎するわ」

夕日をバックに、優里さんが笑ってそう言う。
私は涙が出そうになる。
優里さんがお母さんのようにも見えた。
私はもう家族がいないと思っていた。
でも違った。
私には…。

トラン 「…はいっ、また来ます!」

私はそう言って艦の中に走る。
そして、私は艦を打ち上げる。



トラン (私にとっては皆が家族。皆…私のかけがえのない家族だから)

だから、この戦いを終わらせよう…。
そして、平和に暮らせるように…。

…To be continued

ANOTHER


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