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beatmaniaUDX The ANOTHER Story substream


1st STAGE 『逃れられぬ運命』




チュイィィィィンッ!! ガガガガガガ!!!

工房内に独特の機械音が鳴り響く。
今は仕事中なので当然だけど。
私はある程度の進行を確認すると、仕事仲間に休憩の声を入れることにする。

ナイア 「ふたりとも! そろそろお昼にしましょ!!」

私の声が響くと、機械の音は止み、やがてふたりの大柄な男が作業具を置いて私に近づく。
私はそれを見て、後ろのテーブルに乗っているポットからあらかじめ用意しておいたコップにコーヒーを注いだ。
そして、私が椅子に座って飲み始めると、男たちも同じように座った。

孔雀 「ふぅ…最近平和だねぇ」

男のひとり、私から見て右側の男がそう呟く。
彼の名前はクイスリング・ジャック。
愛称で私たちは『孔雀』と呼んでいる。
前のとある『戦争』で一緒に戦った仲間だ。
元々体に似合わず手先が器用で、機械をいじらせてもそれなりに好評だった。
動機はあれだけど、別に悪い奴じゃないし、仕事もきっちりこなしてくれるので文句は特にない。

ジルチ 「…結果的にあの戦いが終結したんだ。平和じゃなきゃ報われねぇよ」

今度は左側の男が呟く。
彼の名はジルチ。
孔雀と同じ部隊で戦っていた男だ。
彼は孔雀と違い、元からの整備士。
だから機械的な仕事はほぼ問題なくこなしてくれる。
実際、私がいない時でも、ジルチが工房を運営してくれている。
…動機はアレだけど、感謝はしている。

ナイア 「……」

私はそんなふたりを見て、ふとテレビをつけることにした。
特に意味はないけど、何となく最近の出来事に疎い気がしたから…。
とりあえずニュースで情報を仕入れておこうとテーブルの上に乗っていたリモコンを手に取る。

ナイア 「チャンネルは…ニュースなら何でもいいか」

そう言って電源をつける。
駆動音を上げてテレビのモニターが写る。
私はリモコンをテーブルに置き、コーヒーを啜りながらだるそうにソファーにもたれた。

TV 「…え〜、今情報が届いたようです」

テレビアナウンサーがスタッフから渡された資料を受け取り、何やら読み始める。
緊急ニュースだろうか? どうも後から入った情報のようだ。

ナイア 「? 何か事件でもあったのかしら…」

私は少し真剣にテレビを見ることにした。

TV 「つい3時間前に起こった事件のようですが、どうもここ第6銀河と第5銀河の狭間で爆発が起きたようです」

ナイア 「爆発…?」

いきなり物騒なことを言われる。
孔雀とジルチも目を丸くして見入っていた。

TV 「とりあえず、監視カメラが偶然捕らえた、その時の映像をどうぞ」

アナウンサーがそう言うと、すぐに映像が切り替わる。
そしてかなり不鮮明な映像が写された。
監視カメラと言っていたので、多分無人機の映像だろう…。
だが、次の瞬間私は凍りついたような衝撃を受ける。

ナイア 「この輸送せ…!」

ドオオオオオオオオオンンッ!!!!

私が輸送船に目をつけた瞬間、それは爆発した。
あまりにも不鮮明だったが、それは明らかに狙撃だった。
多分スナイパーライフルの類…それもかなりの長射程から。

TV 「かなり不鮮明で申し訳ございません…どうやら、外部からのジャミングの可能性があるようです」

ジルチ 「ジャミングだと…? 一体何が起こってるんだよ」

ジルチが腕を組んでやや強面にTVを睨み付ける。
理由は単純、狙撃を誤魔化すため…だと思う。

TV 「爆発は比較的小さいもので、輸送船の規格も個人の物のようです」
TV 「中に乗っている人間はふたりで…ああ、今手元に資料が届きました」

ナイア 「……」

私は唾を飲んで次の言葉を待つ。
嫌な予感が離れない。
何せあの輸送船はこの世にひとつしかないはずだから…。

TV 「…輸送船から発信されていた信号から、クルーのデータが残っていたようです」
TV 「被害者はふたりで、ひとりは男性のリュウさん、もうひとりは女性のエリカさん。この二名が被害者のようです」

全員 「!?」

全員が同時に絶句する。
予想はしてしまったが、信じられない。
でも何故?

ナイア 「嘘でしょ…? どうしてあのふたりが…」

私はTVを見ながら、自分でもわかるほどにうろたえた。
アナウンサーは言葉を続ける。

TV 「…爆発後、すぐに映像が途切れ、場に急行した警察が調べました所」
TV 「ふたりの遺体は発見されず、爆発後の残骸から判断し。たった今、『死亡』…と見なされました」
TV 「おふたりの家族構成は不明で、葬儀の予定なども全く無い模様です」
TV 「では、次のニュー…」

私は即座にTVを切った。
そして、その場で俯き、頭を抱える。

孔雀 「お、おい…」

ジルチ 「…ナイア」

ふたりが心配して私を見る。
私はすぐに握り拳を固め。

ナイア 「…確かめましょう、この事件」

孔雀 「おお! そう言うと思ったぜ!!」

ジルチ 「まぁ、そうなるだろうな、当然付き合うぜ!」

私たちは頷き合い、すぐに新造戦艦の建造に取り掛かった。
時間がどれだけかかるかわからない。
でも、ジルチと孔雀が以前の仲間に頼んでくれている。
何としてでも犯人を突き止める…。
それに。

ナイア (あのふたりが死ぬわけが無い…!)

私はそう信じて疑わなかった。










………………………。










『輸送船爆発現場』



少年 『少佐、駄目です! もの凄いスピードで逃げられちゃいました…』

クールから通信が入り、俺は辺りをモニターする。
現場にはすでに残骸以外何も残ってはいなかった。
エネルギー反応も消えている、たった今まで一機の機体がこの宙域にいたはずなんだがな。

ガルマン 「ちぃ…一体何だというんだ?」

クール 『少佐…このままだと残党とも遭遇しそうですよ?」

俺はそれを聞いて、すぐに帰還することにした。
今の状態で交戦状態に入るのは望ましくない。

ガルマン 「了解だ、すぐに戻る、念のために索敵妨害も撒いておけ」

クール 『は〜いっ、わっかりました〜♪』

やや気の抜けるような声でクールが応答する。
俺は、敵の反応をいち早く察知し、すぐに帰還する。

ガルマン (妙だな…ここの所、残党が活発すぎる。加えてさっきの黒い機体)
ガルマン (…調べてみる必要はありそうだな)










………………………。










『惑星:5.8.8. とある医務室にて』



リュウ 「…く」

? 「目が覚めたか?」

? 「よかった…」

俺は全身の痛みに耐え、ようやく目を見開く。
最初に目に映ったのは…白い天井だった。
そして、何故だか、その白い天井や壁が…酷く無邪気に見えた。

リュウ 「…おまえたちは」

俺は首だけを動かし、ふたりの人を見る。
ひとりは男、もうひとりは…女。
ふたりとも見覚えのあるふたりだった。

士朗 「…生きているようだな」

士朗…。
何故、ここに…?
以前の戦争で、時には敵で、時には味方だった男が…。

アクティ 「うん、本当に安心したよ…」

アクティ。
最終決戦の後、士朗と共に旅に出たはずだが…。

士朗 「今は何も考えるな、まずは体を直せ」

士朗が白い壁にもたれかかり、腕を組んでそう言った。
確かに俺の体はまともに動かなかった。
だが、記憶はある…そんなことが何故か嬉しかった。





………それから1ヶ月の月日が流れた………





リュウ 「……」

あれから1ヶ月か。
俺は士朗、アクティと共に5.8.8.に留まっていた。
動こうにも船は無いし、買う金も作る技術も無い。
ただわかることは、全宇宙が今混乱しかけているということだ。
点けていたTVから音声が流れる。

TV 「最近、全宇宙に渡って出没している人型の機体がまた現れました」
TV 「全て全く同じ機体の犯行のようで、その機体が現れた先々の宙域は見るも無残な姿になっております…」

俺はTVを切り、外に向かう。

士朗 「行くのか…?」

アクティ 「でも、船が無いんじゃ…」

士朗とアクティが俺の背中を見つめてそう言う。
俺は振り向き。

リュウ 「迎えが来たようだ…誰かはわからんがな」

士朗 「…?」

アクティ 「誰だろ? 確かに気配を感じるけど…ふたり、かな」



………。



俺たちは外に出て森を抜ける。
俺たちが留まっていた場所は森の中心で、どちらかと言うと潜伏していたと言う方が適切かもしれない。
森の外は平野になっており、見晴らしがいい。
その平野の南側、中心付近に小さな輸送船が停泊していた。
そして、俺が前に出ると、その中からひとりの男が降りてきた。
見たことのある顔だ、以前とは顔つきが違う様にも感じるが。

リュウ 「お前は…」

ガルマン 「お久し振りです、リュウさん」

前に見た時とは、大きく面構えが変わっていたように見える。
だが、ガルマン本人に間違いはない、俺は冷静に言葉を続ける。

リュウ 「よくここがわかったな…」

ガルマン 「ええ、1ヶ月ほど時間がかかってしまいました」
ガルマン 「そこのふたりの機体を前回の戦いのデータと参照しながら、検索していましたから」

士朗 「……」

アクティ 「へぇ〜、そうやってばれちゃうもんなんだ?」

アクティは感心したように士朗にそう聞く。
士朗は無言だった。
複雑な心境だろうな。

リュウ 「まぁ、前置きはいい。それよりも…」

ガルマン 「例の無差別強襲機ですね…?」

ガルマンは俺の言葉を聞き終わる前にそう言う。
わかっていたのか…不思議なものだ。
どうやら、互いに同じ敵を追っているらしい。

リュウ 「何かデータがあるのか?」

俺は歩き始め、ガルマンの船に乗り込んでいく。
ガルマンも俺に続いて歩き、話し始める。

ガルマン 「残念ながら、映像以外は…ただ、少なくとも今までのどの機体とも比較にならないスペックを持っていますね」

士朗 「…俺たちは機体を乗せるぞ」

アクティ 「あ、うん」

士朗とアクティはxenonとACTを格納庫に積むため、一旦戻った。
どうやら、人型なら4機位まで入るようだ。
武装はないようだな。



………。



やがて、士朗とアクティが中に入り、操縦室に集まることになった。
船の構造自体は単純で、後部の昇降口から道が一直線にあるだけだった。

クール 「あ、少佐少佐ー! 見つけましたよ、例の人型」

全員が室内に入ると、いきなりそんな女声が前から聞こえてくる。
どうやら操舵士のようだ、若そうな声だが…。
操縦席から席を180度回転させ、こっちを見ていた。

ガルマン 「そうか、よくやったクール。だが、今は…」

ガルマンが言い終わる前に、クールと呼ばれた少年(?)は、目一杯の笑顔で。

クール 「わぁ、あなたがリュウさんですね!? お話は少佐から聞いてます!!」
クール 「会えて光栄だなぁ…あの伝説のホルス少佐に勝った人なんですよね〜」

アクティ 「…ということはリュウさんも伝説なの?」

アクティが士朗に聞く。
士朗は特に興味を示さず。

士朗 「知らん…」

それだけ答えた。

ガルマン 「…クール、少しは落ち着け」

ガルマンがそう諭す。
どうにもこの少年は落ち着きがないようだ。

クール 「はぁい…えっと、申し遅れました! 僕はガルマン少佐の部下で、クールと言います! 階級は伍長です」

リュウ 「…リュウだ、今は軍属ではないが、元軍曹だ」

俺がそう言うと、士朗に振る。
すると、士朗は無表情に。

士朗 「士朗だ…階級は元少尉」

アクティ 「私はアクティ、階級はないけど、改造人間です」

ガルマン 「……」

何故か、アクティを見てガルマンは悲しそうな顔をする。
そう言えば、アクティはVに改造されたのだったな。
もしかして、ガルマンは何かを知っているのだろうか?
だが、今は聞く必要がないとも思えた。

クール 「それじゃあ、自己紹介も終わりましたし、本題に入りますね」

クールがそう言うと、座席を正面に向け、パネルをいじる。
すると、船の正面上部の大モニターに映像が映し出される。
どうやら、レーダーのようだ。

ガルマン 「…1機のみか」

クール 「ええ、単機でしか今まで確認されてませんから」

レーダーを見ると、中心がこの船、そして相当遠くに一機の反応があった。

リュウ 「距離はどうなんだ? かなり離れているようだが…」

クール 「最大射程で計ってますから…大体距離2000と言ういうところです」

士朗 「2000か…相当な距離だな」

アクティ 「そんなに遠いの?」

士朗 「当然だ…ACTの機動性でも丸一日はかかる距離だ」

アクティ 「わ…そんなに。地球の単位だと、どの位かなぁ?」

アクティはそういえば、地球でしばらく住んでいたんだったな、距離の単位が違うのか…。

リュウ 「確か、こっちの1000が、地球では10000qだ」

アクティ 「わ…凄い。ということは…」

士朗 「…明らかに惑星の外と言うことだ」

士朗がそう言うと、ガルマンが俺を見る。

ガルマン 「どうします? すぐにでも急行してみますか?」

俺はすぐに答える。

リュウ 「ああ、確認するだけでもした方がいい」

クール 「でも、撃墜されないですかね? いくらなんでも…」

ガルマン 「わからん…距離をとってモニターするだけならば問題あるまい」

クール 「了解しました、じゃあすぐに進路を目標に向けます!」

そして、俺たちを連れた輸送船は空を飛んだ。
大気圏を離脱するため、俺たちはシートに座ってシートベルトを巻く。
船の能力だけでの突入なだけに、衝撃が少々大きかった。



………。
……。
…。



ガルマン 「…リュウさん」

リュウ 「む…?」

離脱後、格納庫に向かおうとする俺に向かって、突然ガルマンが俺に話し掛けてくる。
俺は足を止め、ガルマンと向き合う。

ガルマン 「実は、リュウさんに見せたい機体があります」

リュウ 「俺に…?」

俺はその後、無言で前を歩くガルマンの後を着いて行った。
そして、格納庫に着くと、俺は絶句する。

リュウ 「雪…月花!?」

それはまさしく雪月花だった。
俺が以前の戦いで乗っていた機体。
最終戦で確実にバラバラになったはずだが…完全に元の姿を維持している。

ガルマン 「驚きましたか? こんなこともあろうかと、あの時の戦闘データを元に復元したものです」
ガルマン 「もっとも、材質や武装の全てまで再現できたかは残念ながらわかりません」

リュウ 「…いや、見事だ。見た目はほとんど変わりない」

俺は雪月花の足元に来て、少々懐かしむ。
そして同時に、足りないものを考えてしまう。

リュウ 「……」

また、こいつの世話になるか…。
あの時、一緒に死ぬはずだった友に触れ、俺は新たな決意をする。
そして、取り戻すべきものを俺は見つめ直す。

リュウ (エリカ…必ず見つけてみせる)



………。



士朗 「……」

アクティ 「…エリカさんのこと考えてる」

ぴたりと当てられる。
相変わらず、勘のいい奴だ。

アクティ 「勘じゃなくて、洞察力だよ…士朗ちゃんはエリカさんのことを考えると、必ず利き腕の人差し指だけ力を抜くの」

士朗 「…そうだったのか、やはりアクティには嘘はつけんな」

知らなかった…『なくてななくせ』とはよく言ったものだ。
俺はそう思い、少しは反省して格納庫に向かった。

アクティ (な〜んて、嘘だけどね…本当はただの勘だもん。誘導尋問にかかりやすい性格かもね士朗ちゃんって)





………。





? 「システム良好…目標の移動確認しました」

レーダに目標の位置が映し出される。
相手もこちらを補足している、確実に接触するだろう。
私は、戦闘態勢を取る。

? 「了解…これから迎え撃つ!」





クール 「!? そ、そんな!!」

ガルマン 「どうした!?」

クールが突然叫び声を上げる。
そして、信じられないことを告げる。

クール 「敵機確認! 目標との距離約0.3です!」

ガルマン 「馬鹿な!? 一体どうやって!!」

少なくともまだ敵機との距離は500以上あったはず、それが何故だ?
だが、この距離では考える間すらないと言うことを教えてくれた。

リュウ 「すぐに打って出る! カタパルトの準備をさせておいてくれ」

クール 「了解! 敵機確認!! 戦闘態勢を!! 整備士はすぐに人型の出撃準備を!!」

船内に警報が鳴り響く。
それと同時に、船内が慌しくなる。
この輸送船のクルーは10人程度だが、全員元Vの関係者らしく、ガルマンを慕って集まった者たちのようだ。
俺はすぐに雪月花に乗り込む。

リュウ 「久し振りだな…」

1年振りの相棒は全く変わっていなかった。
コクピットの内部までほぼ同じだった、これは偶然のはずだが、妙に嬉しかった。
だが、俺は嫌な予感を外に感じながら、出撃する。
どうも今回の事件は深い気がする。

リュウ 「リュウ、雪月花。出撃する!!」

カタパルトで一気に宇宙に出る。
久しぶりの操縦だが、全く違和感はなかった。



士朗 「xenon、出撃する…!」
アクティ 「ACT、行きまーす!」

俺たちは同時に出撃する。
どうも、妙な感じだ…一体何がいると言うんだ。
少なくともアクティは感じ取っているのだろう。



ガルマン 「Gravity出るぞ!」

俺は最後に出撃する。
相手の詳細がわからないが、どうやってこれだけの時間で接近を…。



………。



? 「敵機確認…4機です」

? 「それだけ? 他に何か反応はある、イェロゥ?」

私は後部座席に座っている、相棒にそう聞く。
すると、イェロゥは首を横に振り。

イェロゥ 「反応は他にありません。距離1000の間にエネルギー反応も感じられません」
イェロゥ 「それに、たとえ敵が増えても問題はありません。『エリカ』さんと、この『GENOCIDE』なら」



………。



リュウ 「……!!」

俺は正面に敵機を確認する。
大きさは雪月花に比べるとやや小さい。
だが、見た目からして普通の機体でないことはわかった。
灰色のカラーリングに、赤のラインが所々に入っている。
細い形状だが、バックパックがかなりの大きさになっている、間違いなく重装型の装備だ。
バックパックから上部及び下部の、斜め両側に突き出している計4本の突起が妙に特徴的だ。
見方によってはウイングの様にも見える。
そして何よりも驚いたのは機動性だった。

リュウ (明らかに動きが違う。雪月花のスピードを遥かに凌駕しているとは…)

俺はそれでも実弾ライフルを構えて、敵機を狙う。
明らかに敵意を感じる、間違いなくこちらをロックしているだろう。
高速で移動する敵機をロックし、俺は引き金を引く。

ダァンッ! ダァンッ!

一発は威嚇で、二発目を本命に狙うが、いともたやすくかわされる。
スピードの次元が違う、ロックしてからでは間に合わない。

リュウ 「…く!」

俺は左のワイヤーを相手の進行方向に向かって射出する。
が、それもあっさりとかわされ、いつのまにか相手との間合いが詰まる。
俺はチャンスと思い、すかさず右手の引き金に指をかける。



イェロゥ 「敵機体、攻撃態勢に入ります」

エリカ 「フィールド展開…」

イェロゥ 「了解…」

私がそう指示すると、イェロゥがフィールドを展開させる。
これにより、私たちの機体の全方位にフィールドが発生する。



リュウ 「おおおっ!!」

俺はパイルバンカーを構え、振りぬく。

ガキィィィィンッ!!

リュウ 「!?」

突然強力なフィールドが展開される。
雪月花のパイルバンカーが止められた。
とてつもないフィールドだ…DoLLの物と同質か、それ以上かもしれん。



イェロゥ 「フィールド安定、GENOCIDE損傷ありません」

エリカ 「まず1機…」

ズバン!

私は動きの止まっている相手の機体をロックする。
だが、突然上方から攻撃された。
当然フィールドで止めているのでこちらは無傷だけど。



士朗 「馬鹿な!? 直撃のはず…!」

アクティ 「士朗ちゃん気をつけて! その機体、普通じゃない!!」

アクティが大きな声でそう言う。
アクティが怯えているのか…?
どうやら相当な機体らしいな。DoLLを思い出すが、それ以上と考えてもいいのかもしれん。



リュウ 「く…!」

一瞬だが相手の動きが止まる。
俺はそれを見て、雪月花を体ごとぶつける。
だが、フィールドに阻まれて、触れることさえできなかった。
次の瞬間、敵機がブレードでこちらを狙う。
俺は回避行動を取ろうとするが、遅れる。

ズガァッ!

背中のバックパックが切られた。
俺は体勢を崩す。
そして、奇妙な感覚に捕らわれる。

エリカ 「!?」
リュウ 「!? この感覚は…!」



士朗 「…どうしたリュウ!?」

敵機と雪月花の動きが止まる。
俺はリュウに通信を送るが、反応が返ってこない。
そして、後ろにいたアクティが怯える声で。

アクティ 「嘘…エリカ、さん!?」

士朗 「何だと…? どういうことだアクティ!!」

俺が強くそう言うが、アクティは震えた声で。

アクティ 「わ、わからないよ! ただあの機体に乗っているのが…エリカさんってこと、だけが…」



リュウ 「エリカーーー!!」

俺は叫んだ。
確信だった。
あの機体にはエリカが乗っている。
理由はわからない。
だが、俺たちがわからないはずがない。
俺は期待を込めてそう叫んだのだ。

エリカ 「!? 何だ、お前は?」

反応が返る。
しかし、それは期待していた反応ではなかった。
まるで他人のようにエリカがそう言ったのだ。

リュウ 「エリカ、俺だ! リュウだ!! わからないのか!?」

俺は必死に呼びかける、だが。

エリカ 「何を言ってるの! 私はあなたなんか知らないわ!!」

リュウ 「ど、どういうことだ…まさか記憶を?」

嫌な予感だけが脳裏をよぎる。
エリカはわざとそう振舞っているのではない…間違いなく俺のことを忘れているのだ。
以前にエリカは記憶喪失になっていた、まさか今回も?



イェロゥ 「エリカさん…?」

エリカ 「何なの…何でこいつ、私のことを知っているの?」
エリカ 「私は…Giudeccaで産まれて、最近まで…そこから出たこともなかったのに」

エリカさんの精神が乱れ始めている。
敵機のパイロットからとてつもない波動を感じる。
それは悪意ではない、でもエリカさんの心を乱している。
明らかにエリカさんの記憶とは食い違う。
過程はどうであれ、私は危険を察知してGENOCIDEの力を解放する。

イェロゥ 「GENOCIDE MODEを発動します…後100秒以内に、敵部隊を殲滅してください」

エリカ 「!!」



リュウ 「な、何だ!?」

士朗 「敵機が…?」

突然敵機が光り始める。
赤い炎のような輝きが印象的だった。
そして、同時にとてつもない殺気を感じる。

アクティ 「ふたりとも、逃げて!!」

突然アクティが叫ぶ。
だが、遅かった。

エリカ 「…これで終わりにするわ!」

イェロゥ 「了解、最終攻撃態勢に入ります」

瞬間、敵機から無数の小型機が射出される。
その数は数十は確認された、それもかなりの広範囲で散らばる。

リュウ 「!? ビット…!」

俺は即座にそれを打ち落とそうとする、だが。

バァンッ!

リュウ 「フィールド! こいつもか…!」

いともたやすく遮られた。
このままでは…逃げ場も!



士朗 「リュウ!」

アクティ 「士朗ちゃんダメェ!!」

私は敵機に向かっていく士朗ちゃんを追う。
その間に小型機が敵機を中心に全方向に散らばった。
敵機を中心に、小型機を全て線で繋げば、綺麗な球体が出来上がるだろう…そんな感じだった。



………。



クール 「敵機中心から高エネルギー反応!! 逃げてください!!」

ガルマン 「何だと!」

俺は前方の宙域をモニター越しに凝視する。
何やら、小型機が輝きだしていた。



リュウ 「! 来るな士朗!!」

ドガァッ!!

士朗 「ぐぅっ!」

俺は危険を察知して即座に近づいてきたxenonを蹴る。
後方にいたACTがxenonを受け止め、そのまま離脱する。
これで最低でもふたりは無事のはずだ…。



士朗 「!? リュウ!」

アクティ 「ダメ! 士朗ちゃん!!」

私はこの距離でも間に合わないことに気づき、すぐにACTを通じてxenonのフィールドを展開する。
リュウさんには悪いけど、せめて士朗ちゃんだけでも…!



エリカ 「ここまでよ!!」

リュウ 「…エリカ!」

敵機が光った…。
もはや回避することさえ考えてはいなかった…無駄だとわかっていたから。



………。



カァッ!! ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!

本体と小型機全てから無数のエネルギーが全方位に向けて放射される。
本体を中心に小型機がかなりの距離で球体を作るように配置されていだけに、その球体の中にいれば間違いなく回避は不可能だろう。
しかも、それらはかなりの距離に渡って広がっており、攻撃が一斉に行われた。
当然ながら、射程に入った機体は全て残骸と化すだろう…。
それだけの威力も予想できた…。





クール 「あ、ああ…!」

ガルマン 「たった1機に、これだけの攻撃力が…!!」

予想を遥かに上回っていた。
間違いなく歴史上最強の機体だろう。
あの攻撃力があれば、間違いなく単機で星ひとつを壊滅させられる…。



………。



リュウ 「!!」

士朗 「アクティ!?」

アクティ 「きゃあああ!!」

ACTがxenonの正面に出る。
当然庇うようにだ…アクティの悲鳴があまりにも心に響いた。





エリカ 「………」
エリカ 「……」
エリカ 「…」

イェロゥ 「攻撃終了。GENOCIDEは行動不能のため、強制帰還します」

私はすぐに帰還システムを動かす。
GENOCIDEに搭載されている機能のひとつで、瞬時に母星へと帰還することの出来るワープ機能だ。



………。



エリカ 「…どうして、私は泣いているの?」

イェロゥ 「え…?」

見ると、エリカさんは泣いていた。
と言うよりは、涙を流しているだけのようだった。
宇宙空間なため、涙は頬を伝うことなく、コクピット内に漂った。

エリカ 「…何も感じなかった。あいつを撃墜しても」
エリカ 「私は何とも思わない…心も痛まない」
エリカ 「だって、他人だもの…敵だもの」
エリカ 「なのに、何故涙が出るの?」

イェロゥ 「目に、ゴミでも入ったのでしょう…今は、休みましょう」

エリカ 「……」

そう…この時、私は本当にそう思っていた。
でも…私は後から答えを知ることになる。
それは、私にとっては、命よりも大切なことだった。





………………。





リュウ 「…?」

士朗 「気が付いたか?」

アクティ 「良かった…もう二度と目を覚まさないのかと」

俺が目を覚ますと、1ヶ月前の光景がフィードバックする。
全く同じ部屋のようにも見えた。
そして、どうやら俺は生きているようだと実感した。

リュウ 「…どうなった?」

俺は天井を見上げたまま、そう聞く。
すると、士朗は俯き。

士朗 「…俺たちの敗北だ、完全にな」

アクティ 「フィールドを張っていた私たちでも、機体がボロボロになってしまって…」
アクティ 「雪月花は完全に大破…残骸を回収して、今ガルマンさんが修理してくれているけど、終わるのはいつになるか…」

士朗 「あれで、よく生きていたものだ…運がいいにも程がある」

俺は痛む体を動かす…が動かない。
以前よりも重症のようだ…どうやら、また病院送りになったようだな。

リュウ 「エリカ…」

俺はベッドに横たわったまま、そう呟いた。
あれは間違いなくエリカだった。
ならば何故敵に…?

士朗 「操られていたのだろうか?」

士朗が俺の心境を悟ってかそう言う。
だが、アクティが否定する。

アクティ 「ううん…それは違うよ士朗ちゃん。あれはエリカさんの意思だった…でも」

リュウ 「俺たちを覚えていなかった…」

全員 「………」

場が沈黙する。
あれだけの性能を持った敵機。
一体どう対抗すればいい?
少なくとも桁が違う…あれは人の倒せるものなのか?
不安ばかりがよぎる。
そして、その不安が拭われないまま…俺は、エリカのことを想う事しかできなかった…。
同時に、これから始まるであろう『地獄』の扉が開かれることが恐ろしく思えた。



…To be continued




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