Menu




9つの星の元に


第1話 『星の導き』




『地球―月間 スペースコロニー:BO1104コロニー』

太陽系第三惑星地球とその衛星月を結ぶ、中継コロニーBO1104コロニー。
その宇宙港に、小さな貨物宇宙船が1隻あるのだった。

青年 「……こいつを地球にねぇ」

宇宙貨物船スペースマゼラン号唯一のクルーである『デイズ』という少年は貨物船を眺めながら出発の準備を進めていた。


……人類が宇宙に進出して20世紀以上が過ぎていた。
人類は宇宙から月へ火星へとその生活圏を広げていったのだ。
そんな中、外宇宙とのコンタクトにより太陽系は外宇宙からの訪問者『宇宙人』たちがやってくることとなった。
やがて、外宇宙からやってきた宇宙人たちの太陽系移民が始まり、地球を本星として太陽系連邦が誕生し、太陽系の惑星には多くの民族が住み、そしてその星へと帰化していった。
太陽系連邦は穏やかにその繁栄を広げ、すでに地球人も宇宙人の一種として活動をする時代。
だが、人類が8つの惑星といくつかの衛星に住処を広げた時代。
火星を母星とする火星移民の子孫たち、マーズノイド(火星人)たちが反太陽系連邦を表明し、地球へと宣戦布告を行った。
他星系はこの事態に静観を決め、地球と火星のぶつかり合いの中……膠着状態にはいり2年目……。
宇宙はとりあえず一様に平和ではあった。

そんな中、この貨物船スペースマゼラン号の唯一のクルーにしてキャプテンのデイズは月から送り主不明の荷物を持って地球へと向かおうとしていた。
デイズ……地球型宇宙人、すなわち地球人系の種族。
デイズは何十世紀と経っても基本的に変わらない地球人系宇宙人だ。
まだ大人というには幼く、アジア系の肌、髪、目を持ち、身長は160センチ強。
宇宙という環境ではあるが、重力や気圧があるためその格好はカジュアルであり、未来人や宇宙人をイメージするそれとは異なった。

デイズ 「……っと、そろそろ出発するか」

デイズは腕時計で時刻を確認すると宇宙船へと乗り込み、地球へと航路を向けるのだった。



依頼主も送り主も不明の謎の荷物……。
ただ単に1メートル大の大きな箱を地球まで運ぶだけの簡単なものだった。
中身は知らされていないし、空けることも禁止されている。
まぁ、フリーの運び屋ってたってプロ魂はある、決して見ることはねぇがな。

俺は燃料を確認し、座標位置を確認すると船のロケットに火を付け地球を目指した。



……月から地球へと到達するのにかかる時間は31時間。
旧式船の俺の船じゃ、月から地球でも1日以上かかっちます。
俺はコクピットで安眠マスクを付けると、眠りにつくことにした。


……それから12時間くらいが経過した時だった。


デイズ 「――検問か?」

地球へと向かう中、突然『スペースゲート』を発見する。
スペースゲートとは、宇宙空間に設置される検問で、基本的宇宙空間では航行路というものに沿って移動するため、宇宙空間にでも検問を設置できるのだ。
俺は宇宙船のスピードを落とし、検問に差し掛かったときだった。

ビービービー!

女性の声 『そこの貨物船! 停止せよ! 繰り返す!』

デイズ 「おいおい……冗談だろ?」

突然、検問に引っかかっちまう。
嘘だろ、俺の船には怪しい物なんて無いはずだぜ?

とはいえ、止められちまったものは仕方が無い。
俺は船を停止させ、検問の人を中に入れて潔白を証明することにした。
……だが、こいつが潔白を証明とはいかない事態へと変貌するとは、この時とても思っていなかった。


婦警 「あなたがこのシップのキャプテンですか?」

デイズ 「ああ、そうだよ。俺の船には変なもんなんて積んでないはずだぜ?」

婦警 「それはこちらが判断します! あなたは余計な動きをしないでください!」

俺を足止めし、検問をしたのはあろうことか、地球の婦人警官だった。
茶色いショートヘアーに、黒い毛、そして肌色の肌。
たしかアジア系だっけか?
ボンキュッボンとは全くいかなくむしろ貧相なくらいだが、それなりに可愛かった。
が……別のところで問題があるんじゃないか?

デイズ 「警察さんさぁ、あんた何歳? 大人にゃ見えないんだが?」

婦警 「それはあなたに言われたくはありません! それに私はたしかに17歳ですがすでに連邦警察の一員です!」

こいつぁ恐れ入った、17歳で太陽系連邦の連邦警察か。
婦警さんはとりあえず優秀なのか、手際よく船内を調べていく。
そして、貨物室へと入った時だった……。

婦警 「貨物室ですか……」

デイズ 「地球へと運ばれる荷物だよ」

俺の船はそんなに大きい物じゃない。
貨物室もそんなにスペースはとれないため、広さは4トントラックの荷台より少ないか位だ。
その中にはちらほらとコンテナや箱が置いてある。

婦警 「……コンテナは特に問題ありませんね」

デイズ 「当たり前だ、その中身は食料品だ。そっちが衣料品」

俺はコンテナの中身を婦警さんに教える。
面倒だからさっさと終わらせたい。

婦警 「あの箱は?」

デイズ「! ありゃあ・・・昨日受け取った荷物だ。中身は知らない……」

婦警さんが指した箱は昨日BO1104コロニーで受け取った箱だった。
中身は見ないよう言われていたし、気にしてなかったな……。

デイズ (て……まさか……)

ふと、頭に嫌な予感が過ぎる。
そういえば、あれだけ中身知らないんだよな…。
もしかして麻薬とかねぇだろうな……?

婦警さんは外からX線かなんかの機械で中身を調べると、顔を険しくしていた。
その顔を見て俺の顔は一層険しくなる。
面倒ごとを抱え込んだ物ってぇことか?
鬱陶しいなぁ……ただでさえフリーの運び屋はこの時代厳しいってのに。

『みつけた』

デイズ&婦警 「?」

突然『みつけた』と声が聞こえた。
俺と婦警さんは顔を見合わせる。

婦警「何か言いましたか?」

デイズ「そっちこそみつけたとか……」

デイズ&婦警 「???」

両者首を傾げる。
一体今の声はなんだったんだ……?
婦警さんも不思議そうな顔をしていたが、とりあえず職務に戻り、箱をあけようとする。
ゆっくりと蓋が取られ、その中に入っていたのは……。

婦警 「……え?」

デイズ 「!? これは?」

箱の中に入っていたのは麻薬でも銃器でもなかった。
中に入っていたのは……ひとりの女性だ。
160センチくらいの大人の女性が体育座りのような姿勢で箱に横に詰められていた。
眠っているのか死んでいるのか目を瞑っており、微動だにしない。
緑色の髪をしており、その時点で地球人系宇宙人……人族とは違うと予想できるが。

デイズ 「……生きているのか?」

婦警 「生きてます……生命反応がありますから――って、なんで私に聞くんですか!?」
婦警 「それよりこれはどう言うことなんですか!? 説明願いますっ!!」

デイズ 「説明っつてもなぁ……俺ぁ荷物のことは知らされてないし」

はっきり言って説明のしようもない。
とはいえ、連邦警察にそんな御託が通用するわけもねぇしなぁ……。

婦警 「詳しい話は署で聞きます! ご同行願いますよ?」

デイズ 「俺は運んだだけで無関係だぜ?」

と言っても聞く耳なんて持ってはもらえないだろう。
とりあえず連邦警察の宇宙ステーションに連行されるんだろうな。
まぁ、それはいいが……たく、面倒な物押し付けられたもんだぜ。

(にしてもこの女性……一体何者なんだ?)

見たこともない女性……何故眠ったまま俺に地球まで運ばせたのだろうか。
……どうだっていいか、そう言った事件的なことは連邦警察に任せればいいだろう。

『ここにいた』

デイズ&婦警 「!?」

デイズ 「また……」

婦警 「一体なんだ……?」

今、たしかに聞こえた。
ここにいた……?
一体何がだ……一体誰なんだ?

デイズ 「一体なん――っ!?」

声が聞こえた瞬間だった。
突然の閃光、そして……。

ズガァァァァン!!!

婦警 「!? キャアッ!?」

あまりに突然だった。
周囲に待機してあった地球連邦の船が一隻爆発したのだ。
閃光と衝撃が俺の船にまで襲い掛かる。

婦警 「ど、どうなっているの!? SF04、状況を報告せよ!」

男の声 『遠距離からの砲撃! 火星軍です!』

胸元に付けられたトランシーバーで近くの連邦警察の船からの情報が流れた時、俺の顔は青ざめたこと間違いないだろう。

デイズ 「か……火星軍だと!? 嘘だろっ!? ここら辺は地球軍のエリアだろ!? なんで火星軍が現れるんだよ!?」

婦警 「落ち着きなさい! 今は戦争中なのよ……真に安全な場所なんて存在しないわ」

デイズ 「だ……だからって!」

焦る俺に対して、冷静な態度を保つ婦警さん。
冗談じゃない……俺の船なんて軍艦の砲撃喰らったらイチコロだぞ?
いや、こいつらだって軍隊じゃない連邦警察の兵力なんてたかが知れてる。

デイズ (クソ……ついてねぇ! こんな所で藻屑になるなんて!)

俺は既に最悪の事態が頭を過ぎっていた。
スペースゲートを取り囲むように展開する火星軍。
その艦数7隻。
こちらは軍艦ですらないというのに3隻。
どう考えても勝ち目は無い。
逃げようにもここは宇宙……脱出ポッドがあるにはあるが……。

デイズ (落とされない保証は無い……)

婦警 「急いで地球軍に緊急要請、それと同時にこの場を離脱! あなたは私と来なさい! こんな貨物船じゃイチコロだわ!」

デイズ 「くそっ……それしかねぇかよ!」

俺は口惜しいがこの船を放棄することにした。
だが、事態は更に最悪の展開を見せることとなる。

ズガァァン!! ズガァァン!!

デイズ 「!? なに……爆発!?」

突然、火星軍の戦艦が次々と爆発していく。
こちらからの攻撃ではない……地球軍の援軍が来るには速すぎる。
一体なにが……?
婦警さんもことの事態には目を丸くしていた。

婦警 「え…SF04一体何が起こったの!?」

男の声 『わかりません……自爆したとしか――っ!? な、なんだこいつら!?』

婦警 「? どうしたのSF04」

男の声 『しょ、正体不明の……!?』

ズガァァァン!!

『ザザザザザザザァ!!』

目の前で連邦警察の船が爆発。
直後、婦警さんの胸元に付けられたトランシーバーからは嫌なノイズ音のみが流れた。

婦警 「お、応答せよSF04! SF04!」

デイズ 「嘘だろ……ど、どうなってんだよ!?」

全く理解が出来ない。
突然火星軍も連邦警察も次々と船を爆砕させてしまった。
いきなりの火星軍の攻撃の次は、いきなりの沈黙。
場はあっという間に俺のスペースマゼラン号を残すのみとなってしまった。
だが、次の瞬間にはこの船も危険なのだと俺は痛感する。

デイズ 「――!? な、なんだこいつら!?」

? 「…………

突然、船の中に黒い人型の何かがいた。
真っ黒な身体で、サルのように長い腕、足は無くスライムのよう。
一言で言えば……化け物だった。

化け物 「…!」

婦警 「っ!? きゃあっ!」

ズガァァン!!

突然黒い何かは腕を振り回して、辺りを攻撃し始めた。
船が縦に揺れたとき、爆発が鳴り響く。
一発でわかったことは、爆発した場所が機関部だということだった。
次の瞬間、俺の行動は決まっていた。

デイズ 「くそったれ! 婦警さんこっちだ!!」

俺はとりあえず箱に詰められた謎の女性を背負うと俺は婦警さんを連れて船の最後尾を目指した。
本能が叫ぶ。
逃げた方がいい、と。

デイズ 「脱出ポッドだ! 本来は一人乗りだが我慢してくれよ!」

婦警 「に、逃げ切れるのっ!?」

デイズ 「わからねぇが他の船はやられた! やりあうよりマシだ!!」

俺たちはひとり乗りの脱出ポッドに無理やり3人入り込んで船を脱出した。
次の瞬間外を見ればそれは爆砕する俺の船だった……。

ズガァァァン!!

爆発の衝撃で脱出ポッドが吹き飛ばされる。
強い衝撃がぎゅうぎゅう詰めの脱出ポッドを襲うが、なんとか無事だ。

婦警 「え、SOS信号は出せるんでしょうね……?」

デイズ 「当たり前だ……と、そ……このボタンを……と!」

婦警 「きゃあっ!? 変なところ触らないでよ!」

デイズ 「だぁ! 狭いんだよ仕方ないだろうがっ!!」

なんせひとり乗りの脱出ポッドだ。
無理やり3人乗っている状態だから、何かしら触ってしまうのも仕方が無い。
……もっとも何処を触っているのかはさっぱりわからんが。

デイズ 「……後は救助されるのを祈るのみだな」

婦警 「…………」

どうしようもなかった。
ある日突然、訳の分からない箱を地球まで運ぶよう言われたら、検問に引っかかって強制連行だ。
そうしたらいきなり火星軍に襲われそれどころじゃなくなり、これも謎の何かに襲われて次々と爆砕。
挙句の果てに俺の唯一の移動手段である宇宙船スペースマゼラン号も爆発しちまった。
そして今……ぎゅうぎゅう詰めの脱出ポッドに押し込まれた状態か。

デイズ (思えば……あの声はなんだったんだ?)

『みつけた』『ここにいた』。
この二つの言葉が頭に残る。
誰の声だったのか、一体なんだったのか。
ただ、この言葉たちの次に待っていたのは予想外の出来事だった。





………………。




……何かが見える。
これは…宇宙?
体が無い…視線が動かせない。
何も感じない……これは夢?

真っ黒な宇宙に光る点が広がる。
銀河だ……この宇宙に広がる広大な銀河。

これは一体何なんだ?
広がる銀河・・・穏やかで平穏な無の空間。
一体……どうしてこんな夢を?

『宇宙が危機に瀕している……』



デイズ 「――っ!?」

意識が覚醒する。
目を開け真っ先に見えたものは船…だった。

デイズ 「船…? 救助船か?」

婦警 「気づかなかったわけ? 救助船よ……たしかに…ね」

婦警さんの顔がわからないが言葉が浮かない。
なん……一体……どういうことだ?

謎の夢を見て目を覚ました。
船は俺たちを手際よく回収した時、婦警さんの浮かない顔が理解できたのだった。




軍人 「――名前は?」

デイズ 「……デイズ」

軍人 「フルネームで答えてもらいたい!」

憂鬱だった。
どうせならどちらかっつうと地球軍に助け出されたいものだ。

軍人 「聞こえているのか!?」

デイズ 「・・・デイズはデイズだ。これでフルネームだよ」

助け出されたというのに、いきなりボディチェックをされ、しかも尋問される。
俺たちを助けたのは、火星軍だった。
軍服を着た軍人……助けられたというより捕まったという方がしっくりくるよな。



軍人 「暫くここに入っていてもらおう!」

ガシャァン!!

デイズ 「……たく、ついてねぇよなぁ」

尋問が終わった後、俺はとある火星軍の宇宙船の一室へと案内された。
だがその部屋は、部屋というよりはむしろ牢獄といった感じの部屋であった。

婦警 「……まったくね。よりにもよって火星軍に助けられるなんて・・・」

デイズ 「! あんた婦警さん・・・同じ部屋か」

部屋の片隅に俺を捕まえた婦警さんが体育座りでひっそりと居た。
なんだか、この婦警さんとは因縁を感じるな。

デイズ 「俺よりあんたの方がまずいだろ、軍に属さないとはいえ地球人だろ?」

婦警 「そういえば、あなたは何者だったの? 見た所地球型宇宙人のようだけど…ルナノイドかしら?」

デイズ 「まぁ…そんな所だ」

俺は適当にはぐらかす。
とりあえず命は助かったがこのままだと火星まで連れて行かれるな。
それそのものはいいんだが、俺の一番の問題は宇宙の足である宇宙船を失ったことだ。
俺の『正体』がばれると星に居つけないからな・・・どうしたものか。

婦警 「そういえば、まだあなたの名前聞いてなかったわね」

デイズ 「そういう時はそっちから名乗るのが礼儀じゃないか?」

婦警 「そうね…私は『テラノ・アスカ』。見ての通り人族で母星は地球」
テラノ 「太陽系連邦、連邦警察所属特別捜査課よ」

テラノ・アスカね…地球人としても珍しい名前だな。
ちなみに人族とは通称で、正式名称は地球人型宇宙人。
学名はホモサピエンス…だっけか?

デイズ 「俺はデイズ…これでフルネームだ」

アスカ 「デイズでフルネーム? それってどこで切っているの? デイ・ズ?」

デイズ 「…そんなところだ」

どうやら婦警さん…もといテラノさんとやらは変な勘違いをしてくれたらしい。
それならそれで通すだけだ。
しかし…。

デイズ 「火星まで送られたら厄介だな…」

アスカ 「? あなたは問題ないはずじゃ…?」

デイズ 「問題あるんだよ…」

アスカ 「どうして? ルナノイドなら問題なんてないはずじゃ…」

デイズ 「……」

俺は何も言わない。
確かに火星軍にとっては地球人以外は問題ない友好的な存在だ。
だが、火星軍にとっても地球人以外にもうひとつ問題がある存在がある……。
それが俺だ……。

火星人だけじゃない……地球人にも……この宇宙で母星を持つ者たちにとっての問題……。

アスカ 「…そう言えばあの声はなんだったのかしら?」

デイズ 「あの声…?」

婦警さんの言うあの声というのに疑問を抱いたところですぐにある言葉が頭に浮上する。
ああ……『アレ』か。

アスカ 「『みつけた』……そして『ここにいた』」

デイズ 「一体なんのことだ? あの声が聞こえた瞬間面倒なことが起きやがったぜ?」
デイズ 「――と、そういやあの箱女はどうなったんだ?」

箱女……まぁ俺が運んだ女だな。
一体誰が何の目的で俺にあの箱女を地球へと運ばせたんだ。
というか、あの女一体なんだったんだ?

アスカ 「……火星軍が丁重に保護しているんじゃないかしら?」

デイズ 「つまり事情は知らない、と」

俺は壁に背をつけて、『ドカッ』と腰を下ろした。

訳わからねぇ上、これからどうしたらいいものか……。
とりあえずなんとか脱出して月にでも向かいたいが、奴さんは仮にも軍人だしなぁ・・・一般ピープルがかなうわけねぇし。
はぁ……どうしたもんか。

『きて』

デイズ&アスカ 「!?」

ズガァァァァァン!!!

デイズ 「今声――てか、爆発っ!?」

アスカ 「!? ここはまだ宇宙船よっ!? 爆発って……!?」

瞬間俺たちの血の気が退く。
ここは大気の無い宇宙空間、もし船が沈もうものなら逃げ場なし。
さっきの『きて』と言う言葉も気になるが、こりゃ命の方が危なそうだ。

アスカ 「ああもうっ! 一体何なのよ! あの声聞こえるたびにコレ!?」

デイズ 「パニくる前に助かる方法考えようぜ!? どうするよっ!?」

アスカ 「そ、そうね……とりあえず〜……」

ドタドタドタッ!

男A 「爆発だ! メインエンジンがやられたっ!?」
男B 「消火隊急げっ! 火が回る前に消火しろっ!!」
男C 「ステーションまで持つか!?」

アスカ 「…なんだか、やばそうね」

俺たちは外の状況を探る。
どうやら沈まない程度にダメージがあるようだ。
爆発の原因は不明だな。
原因が不明…というのが非常に厄介だ。
もう一度起きないとは限らないだろうな・・・。

デイズ 「爆発と声の関連性はあると思うか?」

アスカ 「さぁね…あるんならもう一度聞こえたらやばいわね」

あの声は鼓膜を震わすような声じゃない。
なんていうか……頭に響くような声。
テレパシーってでも言えばいいのかね?

アスカ 「――? 爆発で扉が壊れてない?」

デイズ 「あん? ありゃ……マジかよ……出ろってか?」

よく見ると爆発の衝撃で扉が壊れていた。
ちょっと強く押せば開きそうだ。

デイズ 「どうする?」

俺は婦警さんに聞いた。

アスカ 「武器なしで逃げるって言うのは難しいわね…」

という判断が帰ってきた。
とりあえず同意見か。
見つかってその場で銃殺刑は嫌だからなぁ……。

アスカ 「……でも、あの声が私たちに対する物だとすると出ないと今度は落ちない?」

デイズ 「……藻屑か?」

アスカ 「……藻屑ね」

その瞬間俺たちの意見は決まった。
『逃げよう』と。

デイズ&アスカ 「せぇのっ!!」

ガッタァァァァン!!!

俺たちは息の合った動きで扉をぶち開けて外に出た。

看守 「――っな!? だ、脱獄かっ!?」

デイズ 「あ、やべ、看守だ!」

『ひだり』

ズガァァァン!!

看守 「ぐわぁっ!?」

看守に早速見つかった瞬間『声』が聞こえた。
次の瞬間爆発に看守が飲まれる。
生きているか死んでいるかは知らない……というか興味ない。

デイズ 「左とか言ってたな! 行くっきゃねぇ!」

アスカ 「爆発に巻き込まれて死にたくないしねっ!」

俺たちは迷わず左に走る。
とにかく死にたくはない。

デイズ 「訳がわからんが逃げるのみ!!」




ズガァァン!! ズガァァァン!!

男A 「どうなっているんだ!? 壁が突然爆発をっ!?」
男B 「まさか、爆発物が設置されていたと言うのか!?」
男C 「脱走だ!! 地球人他1名が脱走したぞっ!!」

? 「――随分とまぁ、派手に騒いでるな・・・」

将校 「何をのんびり言っているマーズ上等兵! 先の偵察隊も謎の爆発事故で全滅したのだ! 貴様は地球人たちを捕まえろ!」

マーズ 「了解であります、中尉殿」



…………。



デイズ 「――やっぱり声=爆発は正しいっぽいな!」

アスカ 「どういうつもり!? こっちを誘導しているしているみたいだけど!?」

『正面』

ズガァァァン!!

真正面で爆発が起こる。
声は確実に俺たちをどこかへと導いていたみたいだった。
一体この声は誰の声だっていうんだ。

? 「…ようやく見つけました」

デイズ&アスカ 「!?」

声に従いドンドン船の中を突き進んでいた時だった。
それまで頭の中で響いていた声が突然耳を通して聞こえてきた。
そしてその声の主は……。

デイズ 「あ・・・・箱女」

アスカ (箱女?)

なんと俺たちを呼んでいたのはあの箱の中に詰め込まれていた緑髪の女だった。

アスカ 「えと……あなた……は?」

箱女 「私は星を見守る者です…と言ってもいきなりはよくわからないでしょうけど」

本当にわからなかった。
この箱女、目覚めたかと思うといきなり星を見守る者だなんて頭壊れているのか?
ちなみに箱女、身長は160センチ強、緑色の髪が腰まで伸びている。
やんわりとした顔に、何処の物かもわからない不思議な洋服に身を包んでいる。
名前がわからないので、とりあえず以後も箱女と呼称することにする。

デイズ 「俺たちをここに導いたのはあんたか? 箱女?」

アスカ (なんで箱女?)

となりで婦警さんが不思議な顔をしているが俺は無視する。

箱女 「その通りです。あなた方の名前は?」

アスカ 「あ…私はテラノ・アスカ……です」
デイズ 「デイズ」

箱女 「アスカさんとデイズさんですか」

アスカ 「どうして呼んだんですか、私たちを?」

箱女 「それは――っ!?」

言葉の途中で箱女は驚いたような顔をする。
一瞬、それの理由がわからなかったがすぐに俺たちも理解した。

化け物 「・・・・・」

アスカ 「こ、こいつら…!?」

なんと、俺の船にも現れた黒い手長モンスターがこの船にも突然出現する。

デイズ 「あの時の化け物……!?」

箱女 「気をつけてください、この世の存在ではありません」

デイズ 「それってどう――うわっ!?」

ズガァァン!!

突然黒手長化け物は両手をぶん回して襲ってきた。

アスカ 「くぅっ!? 一体なんなのよっ!?」

箱女 「私を追ってきたのでしょう」

アスカ 「はぁ!? それって――!?」
デイズ 「んなのは後にしようぜ! 今は逃げろっ!!」

俺は婦警さんの言葉を遮って、二人を連れてまた逃げ出した。



アスカ 「はぁ…はぁ……! 逃げるったってどこに逃げ場所があるのよっ!?」

デイズ 「どこかに脱出ポッドでもあるだろっ!? それをパクる!」

俺たちはパニックになる火星軍の船の中を走り回っていた。
黒い化け物が往来し、船の中で暴れまわり危機感が増す。

箱女 「次、左行って下さい」

突然、箱女が左に行けと言う。
なんだかわからんが、曲がるしかないので曲がると扉があった。

ウィィィィン!

アスカ 「――!? なにこの部屋は?」

箱女 「あの異形のモノと対抗する武器があります」

箱女の案内で入った部屋は、机が一つ置いてあるだけの簡素な部屋だった。
だが、机の上の物を見て、婦警さんが声を上げた。

アスカ 「ああ! 奪われた私のっ!」

机の上には棒が二本とわけのわからん武器(?)が一つあった。
婦警さんはそれを急いで回収する。

デイズ 「……で、あの黒手長に対抗する武器って?」

箱女 「それは――」

俺が例の化け物に対抗できるという武器がなんなのか聞こうとしたところだった。

ウィィィン!

マーズ 「…ここに来ると思ったぞ、地球人」

アスカ 「――ッ!? 火星軍!?」

突然部屋に入ってきたのは火星軍の軍服に身を包んだまだ若い青年将校だった。
体格よく、180センチ以上の体は俺たちにプレッシャーを与えるに十分だった。

アスカ 「冷静ね……船はパニックになっているでしょうに、私たちを追うなんて」

マーズ 「軍務に逆らうな、俺は火星軍の血の鉄則に従っているだけだ」

聞いたことがある……火星人はとても厳格で、規律や軍務を重んじると。
そして、火星人のもう一つの名前・・・。

デイズ 「気をつけろ!! 強化族は全種族で最も優れていると聞くぞっ!?」

火星人は別名強化族と言われている。
その所以は、地球人からの進化によるものだ。
地球人型宇宙人は別名人族と言われるように、火星人型宇宙人は別名強化族と言うのだ。
宇宙へと進出し、新たなる母星を得た、地球人は火星人へと進化した。
だが、その進化は科学のテクノロジーが生んだ特殊なもので、その起源は宇宙移民時代初頭まで遡る。

かつて、まだ宇宙への移民が行われておらず、他星系人……すなわち宇宙人との接触も無かった時代。
人類は地球の周りに、スペースコロニーを浮かべ、そのコロニーの中で地球とは少し違う生活を行うだけだった。
だが、移民の始まりに選ばれた二つの星、すなわち月と火星へと移民においてある特別な処理が人間に行われた。
一般的にはジーンセラピー(遺伝子治療)と呼ばれるものだったが、その実質は人間の遺伝子レベルの改造であった。
宇宙空間及び違う重力の星への永久移住、そして種族繁栄を求めて創られた人類は当然その基よりも優れる。

特に火星へと移住をすることとなった民族は驚異的な能力がそのDNAに書き込まれることとなった。

驚異的な身体能力、知力、更に五感も常人より遥かに優れ、更に若い時期が長くほぼ全てにおいて地球人のそれを上回った。
だが、火星人にも問題はあった。

それは『劣性遺伝』と『短命』だ。
強化族は他族と交わると、その種族的特長が失われやすいのだ。
そしてもうひとつの短命。
読んで字のごとくではあるが、火星人の平均寿命は30歳。
その多くが若くして死に逝く種族なのだ。

アスカ 「いくら優れていても人間に違いはないでしょっ!?」

婦警さんはそう言うと、いきなり一番わけのわからない武器を右手に持った。

マーズ 「十手? そんなアンティークがなんになる?」

そう言って軍人さんが取り出したのは、ライフルだった。
十手と呼ばれる武器は、持ち手の先で枝分かれした鉄(?)の棒で、下と上で長さが違った。
どうも不思議な形をした武器だが……?

アスカ 「アンティークかどうか試してみる!?」

婦警さんはそう言うと同時に軍人さんに走り出す。
軍人さんもすぐにライフルを構え、放つが婦警さんはそれを寸でで回避して、距離をゼロにし、同時に十手でライフルを絡め始めた。

アスカ 「十手はね……相手を殺傷せず捕まえるために開発された古来の武器よ」
アスカ 「こうやって凶器を絡め……使えなくする!」

右手で十手を操り、ライフルの銃口を下に向けさせた次の瞬間、左手で棒を取り出したと思うと、レーザーが飛び出てライフルを切り裂く。
瞬間、立場は逆転し婦警さんのレーザーブレードが軍人さんの首下にあった。

マーズ 「……く」
アスカ 「チェックメイト……ね」


マーズ 「……正直、接近を許すことになるとは思わなかった」
マーズ 「地球人ごときが、接近戦を挑むとは思わなかった・・・よっ!!」

アスカ 「ッ!? きゃあっ!?」

突然軍人さんは水平蹴りを放ち、油断した婦警さんは体勢を崩す。
次の瞬間軍人さんは懐から武器を取り出し、婦警さんの頭に突きつけた。

マーズ 「逆転だな」

アスカ 「……リボルバー式拳銃……いい趣味しているじゃない」

軍人さんが取り出したのは、リボルバー式と呼ばれる拳銃だった。
この時代、実弾武器そのものが珍しいというのに、その中でもリボルバー式は宇宙時代に入る頃には絶版となった武器だ。
現代ではほとんどアンティークとして扱われ、骨董商などに高値で取り扱われたりする。

マーズ 「アメリカンフロンティア……西部開拓時代の遺品さ。しかし人を殺すには十分だ」

西部開拓時代、宇宙移民時代よりもさらに遥か昔・・・2700年ほど前まで遡る。
まだ地球に住む人類が宇宙を見果てぬ地とし、地球全てさえ知りえなかったような時代だ。
その時代に流行したのがリボルバー式とは聞くか……。

マーズ 「まだ続けるか、それとも……?」

アスカ 「……その、どちらでもないわよ! 又さん!」

マーズ 「!?」

突然だった。
何時からいて、何処にいたのかさっぱり不明だが、白い毛の猫が天井から降ってきて、軍人さんの顔を引っかく。

マーズ 「くっ!? なんだっ!?」

又 「明日香に手を出すやつぁ、この猫又の又さんが許さねぇぜっ!?」

デイズ 「ね、猫が喋った!?」

又 「猫じゃねぇ! 猫又だ! 尻尾が分かれてるだろうが!!」

突然天井から降ってきた猫はこれまで俺の知っている全てをぶち壊すような猫だった。

まず、猫は喋らない。
猫は二本足で立たない。
猫の尻尾は1本!

その全てが裏切られているぞ!?

マーズ 「くそ……どこに猫がいたと言うんだ!?」

アスカ 「初めからここにいたわよ」

又 「正確には俺ぁ、この十手に封印されている妖怪だからな、十手の側を離れられねぇ」
又 「そして、明日香が十手を持たなきゃ俺ぁ実体化できねぇんでな」

マーズ 「ち……ふざけた猫め」

又 「だから猫じゃねぇ! 俺は猫又だって言ってんだろうか!」

アスカ 「又さんを甘く見ない方がいいわよ、見た目は猫だけど怪力だから。ダンプカーだって投げ飛ばすわよ?」

互い、2メートルほど離れ互い牽制しあう状態。
再びこの状況を考えると、2体1の婦警さんの方が有利に思えるが相手は強化族だ、普通に勝てるとも思えない。
だが、この戦いの決着は結局着くことはないようだった。
なぜなら――。

ドガァァァン!!

突然、俺たちが入ってきた扉と、軍人さんが入ってきた扉が吹っ飛んで、外から黒い手長化け物が入ってきた。

マーズ 「!? ち……ここまで進入を許したのか」

アスカ 「しつこいわね……くっ!」


こいつらが現れると、やれ地球人、やれ火星人と暴れることはできない。
俺たちは一斉に部屋の中央に集まり、黒い化け物と対峙した。

デイズ 「……そうだ。あんたこの部屋にこいつらに対抗できる武器がどうとか言っていたよな!?」

俺はそう言って箱女に聞いた。

箱女 「はい。あれは星を喰らう異形のモノ……あれを滅ぼしうるのは星の力の宿った武器」

アスカ 「星の……」
マーズ 「……力?」

まるで息が合ったかのごとく婦警さんと軍人さんが言った。
箱女はコクリと頷き言う。

箱女 「すなわち、その十手とその拳銃」
箱女 「それぞれ、地球の力、そして火星の力を宿します」

アスカ 「私の十手が?」
マーズ 「俺の拳銃が?」

二人はそう言って自分の武器を見つめる。
見てくれで言えば別に特別な何かは感じないが、箱女の言うには星の力を宿した武器らしい。

マーズ 「わからんが……くらえ!」

タァン!

リボルバー式が出す、独特の乾いた音。
次の瞬間。


ボシュウッ!!

弾丸に頭を撃ちぬかれた黒い化け物の一匹は突然、浄化されたかのように煙となって消滅した。

マーズ 「……! 弱いのか、それとも本当なのか」

使った本人はその効果に驚いていた。

アスカ 「こっちも試してみればわかるでしょっ!!」

そう言って婦警さんは黒い怪物に突っ込み、十手を振るう。

バシュウッ!!

すると、やはり黒い怪物は黒い煙を出して消滅してしまう。

アスカ 「いける! よぉしどんどんこい!」

十手一振りで消滅する黒い怪物に、婦警さんは余裕の表情を浮かべる。

アスカ 「そこのあなた! あなたも手伝ってよ!」

そう言うと婦警さんは突然俺にレーザーブレードを渡してくる。

デイズ 「……ち! 俺は民間人だぜ!?」

と言いつつも、レーザーブレードを展開して応戦にでる俺。

デイズ 「くらえっ!!」

俺は両手でレーザーブレードを持って、黒い怪物を一刀両断にする。
怪物は意外と脆いらしく、簡単に真っ二つにできた。

デイズ 「なんだ、よわ……うわ!?」

真っ二つになった怪物は死ぬのかと思いきや、そのまま真っ二つになっても俺に襲い掛かってきた。
ど、どうなってんだよ!?

箱女 「星の力を宿していない武器では浄化できません! 気をつけてください!」

デイズ 「さ、先言ってくれ!」

俺は黒い怪物から離れた。
どうやら、星の力を宿していない限り怪物は倒せないらしいな。

デイズ 「そういや、あんた星を見守る者とか言っていたよな……こいつらに対抗するには星の力を宿した武器以外ないのか!?」

箱女 「……無くはないですが、星の力ほどの効力は得られません」

デイズ 「!? それってなんなんだ!?」

箱女の話だと、対抗する術が無いわけではないようだった。

箱女 「星の力よ……彼に星の力を」

デイズ 「!? なんだ!?」

突然、俺の体が淡い光に包まれる。

箱女 「これで一時的にですが、奴等を浄化できるようになりました」
箱女 「しかし、星の力を宿した武器のように触れただけで浄化できるほどの力はありません」

デイズ 「十分だ!」

俺はそう言って、再び怪物に切りかかる。
怪物の身体は例によって真っ二つになるが、傷口から煙が噴出す程度で即死には至らない。
だが、ダメージがあるのかすぐに動くことも無かった。
俺はためらわず二撃目を放つと、怪物は完全に煙となって浄化された。

デイズ (2撃か……数相手すると厄介になりそうだが)

倒せないよりマシ、そう割り切ることにする。

ズガァァァァン!! ガガァァァン!!

アスカ 「!? 地震……なわけはないわよね」

マーズ 「ち……落ちるか、我が火星軍の誇る軍艦が」

爆発音、そして強い振動。
どうやら、これ以上は船が持たないらしい。
だらだらと戦っている暇は無いか。

デイズ 「おい、軍人さん! 死にたくなかったら脱出ポッドのある場所まで走れ! こいつらに襲われたら最後! どんな宇宙要塞だってもたねぇよ!!」

俺はそう言うと軍人さんは少し考えて。

マーズ 「……貴様の言うとおりだな、ついてこい! 星屑になりたくなければな!」

俺たちは化け物が蠢く船内を走り抜けた、丁度あの部屋は船の後ろの方にあったらしく、船の尻のドッグにたどり着くと俺たちは底にあった脱出ポッドに乗り込むのだった。
脱出ポッドは俺たちが乗るとすぐに脱出し、その直後火星軍の戦艦は爆発し、俺たちの脱出ポッドは爆発の爆風で吹き飛ばされるのだった。





? 「……そう、逃げられちゃったの。さすがに星を見守る者……ただでは捕まってくれないか」



…To be continued




Menu




inserted by FC2 system