閃光のALICE




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第9話 『DOLL』






『6月10日 都内某所』


都内の中では比較的安い団地。
マンションでなくアパートの連立する住宅街。
智樹たちのいる一戸建て住宅の地帯からは少し離れた位置、そこについ最近引っ越してきた二人の『女性』がいた。

雪野 「それじゃ、行ってくるわね、ヴィーダ?」

アパート2階の一室からセーラー服に身を包んだひとりの蒼白の女性が出てくる。
女性の名は『白姫雪野』、本当の名は『マリオン』。
DOLLの一種で絶対希少種の白のDOLLだった。

ヴィーダ 「はーい、いってらっしゃーいお姉たま〜♪」

そして、中で見送るのはヴィーダと呼ばれる少女。
100センチそこそこの幼稚園児体系で、かわいい青のワンピースを着ていた。
ヴィーダは黄DOLLでその性か髪の毛も目も黄色をしている。

雪野 「あんまり、お外に出ちゃ駄目よ?」

ヴィーダ 「はーい」

雪野 「うん、いい子ね、帰ったら今日はハヤシカレーよ」

ヴィーダ 「カレ〜♪」

雪野はそう言うとヴィーダの頭を優しく撫でて、その後玄関のドアを閉め、ドアに鍵をかけるのだった。

雪野 (新しい学校への編入か…まぁ、平穏な間は学生としての本分を全うするかしら…)





『同日 某時刻:唐沢宅』


智樹 「ねみぃ…おはよう…」

ティアル 「おはよう、昨日深夜番組なんて見るからよ」

智樹 「いや…あのやる気ゼロの制作費ケチりまくったくだらない番組がどうしてなかなか面白いもので…」

ティアル 「今日も学校の癖して…」

智樹 「うるせーい、ふぅあ…!」

俺は7時30分には起床し、眠い目をこすりながらら1階のリビングに下りた。
一応制服も着込んだし、後はイェスの作ってくれる朝ごはんを食っていこうかと思って降りてきたのだ。

智樹 「あれ? イェスは? いないのか?」

よく周りを見渡すとイェスとアリスの姿が見えない。
そういや、イェスたちのおはようという言葉が帰ってこなかったもんな。
ん? でも今日に限って珍しくティアルの口からおはようが聞けたな。

ティアル 「イェスは本上サーカスの仕事で早朝からテントの方に行ったわよ、アリスは付き添い」

智樹 「そうか…」

相変わらず忙しい人だよな、イェスって…。
でも、あのいつも充実した顔を見ると少しうらやましいかも…。
しかし、アリスは段々影が薄くなってきたな…。
もともと無口な奴だからこれが定めだったのかもしれないが…。

智樹 「仕方ないな…じゃ、もう行くか…」

俺は腹は減っているがイェスがいないのならと学校に行くことにする。
場合によっては途中でコンビニにでも寄ろう。

ティアル 「待ちなさい、朝ごはん位食べて行きなさい」

智樹 「食べろったって何があるよ…まぁ、食パンくらいはあったはずだが…」

昔はレトルトやらインスタントやらが大量にあったのだが台所事情をイェスが完全に掌握したため、今ではほとんどそういったものがない。
久しぶりに簡単なものを調理するのも手だが…。

ティアル 「トースト…焼いていたから…食べなさいよ」

智樹 「はぁ? お前が?」

ティアル 「何よ!? 悪い!? 私がアンタの分まで焼いたらおかしいって言いたいわけ!?」

智樹 「と、逆ギレするなよ、まぁ、あるなら貰うぜ?」

ティアル 「ふん…!」

ティアルは元々あまり機嫌よくはしていないが今日は特に機嫌が悪そうだった。
なんか、今日は様子が変だしな。
第一あいつが自分の分だけならともかく俺の分まで焼いているだと?
あの性悪人形…なにか裏がないだろうな?


…………。


智樹 「…えらく普通だな」

ティアル 「当たり前でしょ…トーストなんだから」

あれから、ティアルが当たり前のように慣れた手つきでトーストの乗った皿を二枚運んでくると俺の前とその向かい側のティアルの席に置いた。
ちなみに俺の座っている位置の隣がアリス。
そのアリスの向かい側がイェスの席となっている。

智樹 (味もいたって普通だな…)

ティアル 「朝ごはんは一日の資本よ、時間がなくても何か口にしておきなさいよ?」

智樹 「ん? ああ…」
智樹 (? やっぱりいつものティアルと何か違う気が…?)

今日に限ってトーストなんて焼いてくれるし。
妙に大人しいし、いきなり俺のこと気遣いやがったし…。
おはようって返してくるのも珍しかったな…。

智樹 (何か悪い物でも食ったのか?)

なんだか、今日のティアルはまるでいつもとキャラが違うぞ?
根本は一緒なのだが、何か雰囲気というか空気というかがまるで違う。
居心地は悪くないが…なにか違うんだよな…。

ティアル 「コーヒー…入れておいたけど…どう?」

智樹 「え? コーヒー?」

そう言うとティアルは俺のマイカップにコーヒーを注いで持ってくる。
ついでに自分の分も注いできたようだ。

ティアル 「はい」

智樹 「あ、ありがと」

なんだろう…妙にティアルが優しいぞ?
お前はどちらかと言うと付き合いやすい喧嘩友達的キャラだったはず。
なんだ、この優しいふんわりとした雰囲気は!?

ティアル 「…にが、配分間違えたかしら…?」

智樹 「ん? いつもの砂糖&ミルクじゃないのか?」

ティアル 「今日は砂糖抜き、ミルク少しなのよ…」

智樹 「そうなのか、ん? それって俺と同じ味…」

俺はよくティアルのカップと俺のカップを見る。
よく見るとほとんどコーヒーの色が同じだ。
もしかして…。

智樹 「…ちょっとにがいな…ミルクが少なすぎるな」

俺もティアルの注いでくれたコーヒーを飲んでみるが少し苦かった。
とはいえ、よく覚えていてくれたものだ。
ちょっと嬉しいぞ…。

智樹 「無理して飲むなよ?」

ティアル 「うん…」

ティアルは少し顔を赤らめて小さくマグカップを口元に置きながら頷いた。

智樹 (…おかしい、ティアルってこんなに可愛かったか?)

元々DOLLがみんな美人だと言うことは経験上よく理解している。
しかし、性格も相まってこのティアルを可愛いと思ったことは一度もない。
こうやって見るとティアルもやっぱり可愛いんだな…。

智樹 「コーヒーを入れなおしてやるからカップを貸せ」

ティアル 「あ…、ええ…」

俺はティアルのカップを受け取ると台所に向かった。
コーヒーはイェスの趣向からそれなりにいい豆を使っているらしく(詳しく知らない)、コーヒーメーカーでわざわざ作っていた。
もう完成しているので俺はティアルのカップのコーヒーを捨てると新たにコーヒーを注いだ。

智樹 (砂糖とミルクは砂糖少し多めと…)

これはティアルの味の配分である。
ティアルもやはりあまり苦いのは好みじゃないので少し甘えにセッティングしているのだ。
なんで今日に限って俺と同じ味にしたのかはわからないが、やっぱり自分の味が一番落ち着くだろう。

智樹 「ほい、これを飲め」

ティアル 「あ、うん…ありがとう」

俺は砂糖とミルクの入ったコーヒーをよくかき混ぜるとティアルの元に運んだ。

ティアル 「あれ? 甘い…これって…?」

智樹 「俺の普段の味付けだ」

ティアル 「え? でも、これって私の…」

智樹 「これが、普段の、俺の、味付け、だ!」

ティアル 「そ、そう…そうね…ありがと」

智樹 「……」

なんで、こんなにティアルに世話焼いているんだろな俺…。
なんか向こうがいつもと違うせいか、こちらもいつもどおりできない。
向こうに優しくされるとこっちも優しくなってしまうものなのか?
空気は重くない…しかしなんかよどんでいるというか、甘い空気というか…。
思えば…ティアルとふたりっきりになったことはないんだよな…。
慣れてないせいか?

智樹 「次から作るときはその味を忘れるなよ?」

ティアル 「うん…でも、これより少し苦めね?」

智樹 「…まぁな」

ティアル 「ふふ」

ティアルは優しく笑った。
一瞬、その顔にドキンとしてしまう。
俺はそれを見ると慌てて席をたつのだった。

智樹 「ごちそうさん」

俺は鞄を持って玄関の方に向かう。
正直、あれ以上あそこにいるのは俺が耐えられん!

ティアル 「あ、待ちなさい、智樹!」

智樹 「ん?なんだ?」

俺は玄関で靴をはいているとなにやらティアルが四角い箱を持ってきた。

智樹 「俺の弁当箱…まさか、ティアルが作ったのか?」

ティアル 「まさか、さすがにまだ弁当を作る程の腕はないわよ、イェスが早起きして朝食を用意できないお詫びって」

智樹 「そうか」

イェスはこの来てから弁当も毎日作ってくれた。
その味はやはりとても美味い、俺なんかにはもったいないくらいの弁当だ。
それを忙しいにも関わらず作ってくれるとは…。

ティアル 「本当は弁当も作ってやりたかったけど…」

智樹 「あん? なんか言ったか?」

ティアル 「な、なんでもないわよ! ほら、さっさと行きなさい! 遅刻するわよ!?」

智樹 「あ、ああ! 行ってきまーす!」

ティアル 「いってらっしゃい…」



…………。



智樹 「はぁ、なんだったんだ今日のティアルは?」

あれははっきりいって別人だったのではないだろうか?
ティアルはまず、絶対に下手には出ない。
俺も譲らないから対等の位置だが、明らかに立場上を狙っている性悪人形だ。
だが、今日のあれはなんだ?
性格反転だけでも食ったのかといわんばかりの違いようだったぞ?

智樹 「DOLLってやっぱりみんな変なのかもな…」

アリスは何考えているかわからないし。
イェスは得にもならないに奉仕してくるし。
蛍は超奥手に超思い込みキャラだし。
そういった意味ではティアルは一番まともに付き合いやすいキャラだったはず。
ところがなんだ、今日のティアルは?
果てしなく付き合いにくいぞ?
同HPの内の某主人公風に言えばかったるいだ。

智樹 「はぁ…まぁいいや、学校だしな…」

ティアルのことは帰ってから考えよう。
まぁ、どうせ帰ったらまた元に戻っていると思うけど。

智樹 「そういやアリ…て!」

雪野 「!?」

ドン!

いつもの魔の曲がり角。
…どうやら、今日も今日とてぶつかってしまったらしい。
S・H・I・T!

雪野 「痛た…ごめんなさい」

智樹 「こ、こっちこそすいません!」

ぶつかってしまった相手はやはり女性…しかも例外なく美女(加えて全員DOLLだったな)だ。
蛍の制服と同じ服を着ている…てことは同じ学校の人のようだな。
その女性は尻餅をついており、頭にかぶるベレー帽のような大き目の帽子を被りなおした。

智樹 「えと、先輩ですよね?」

雪野 「え? あ、ああ…同じ学校の…ですね」

この女性は俺の制服を見て、やや時間を置いて気づく。
もしかして俺、間違えたか?
いや、だったら同じ学校とは言わないわな

雪野 「ごめんなさい…私今日この町に引っ越してきたばかりでよくわからないんです」

智樹 「え? てことは転校生?」

雪野 「ええ」

なんと、転校生さんだったか。
転校生とばったりぶつかるなんてベタだな〜。

雪野 「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね、私は白姫雪野、今日転校してきたばっかりで3年B組です」

智樹 「あ、自分は唐沢智樹、1年C組です」

雪野 「唐沢…?」

智樹 「? どうかしたんですか?」

雪野 「あ、いえ、珍しい名前だなと思いまして…」

智樹 「そうですか?」

雪野 「ええ、初めて聞きましたよ、それよりそろそろ急がないといけませんよ?」

智樹 「え? あ、やば…」

俺は腕時計の針を見ると、そろそろ急がないといけない時間になろうとしていた。
とはいえ、まだ走らなくてもいい。
気づかなかったらやばかったがな…。

智樹 「行きましょうか、先輩、転校早々遅刻は嫌でしょう?」

雪野 「そうですね、嫌ですね」

俺たちはそう言うと、学校へと向かいだす。
名前は日本系だが、どう見ても日本人じゃない先輩。
白い髪の毛に青い瞳…なんだかDOLLのようにも感じるけどそうではないようにも感じる…。
なんだろう…この違和感?






『同日 同時刻:本上サーカス』


団長 「イェスちゃん、これ今月の給料ね」

イェス 「え? あ、ありがとうございます!」

アリス 「……」

私はイェスに付いて行って本上サーカスというところに来るとイェスは団長にステージと呼ばれるところに呼ばれてなにやら狐色の封筒を受け取っていた。
私は周りを見渡す。
ここは大きなテントの中で中では作業員と呼ばれる人たちが忙しそうに動き回っていた。
ロープを持ったり、はしごを持ったり…リハーサルというものを練習する奇妙な格好の人たちもいた。
私は再びイェスの方に目を向けた。

イェス 「まだ、公演前ですけど…」

団長 「いいのいいの! ほら、イェスちゃん普段働き詰めでしょ? 今日はお連れさんもいるみたいだし、もう上がって!」

イェス 「でも…」

団長と呼ばれる人は、小太りした男だった。
朗らかに笑っているが、イェスは困った顔をしている。
ちなみに連れとは私のことだろうか?

団長 「イェスちゃんがいてくれればそりゃお客も着てくれるし、皆も喜ぶよ? でも、日本に帰ってきてろくに休んでないでしょ?」
団長 「この前1日休んでいたけど、普段のイェスちゃんの働きを考えたら…まぁ、今日くらいね?」
団長 「だから、今日はもういいの! お連れさんがいるんだから一緒にいてあげたら?」

イェス 「団長…わかりました、ありがたく休ませていただきます…」

団長 「うん、じゃ、また明日ね?」

イェス 「はい」

イェスと団長の話に区切りが付くと、イェスは私の方に戻ってくる。

イェス 「アリスさん、今日はもうおしまいです、帰りましょうか?」

アリス 「ん」

イェスは狐色の封筒を大事そうに抱えていた。
私は気になって聞いてみる。

アリス 「イェス、それはなんだ?」

イェス 「これですか? これはお給料袋ですよ、中にはお給料が入っているんです」

アリス 「お給料?」

イェス 「お金ですね、このお金で私たちは生活しているんですよ?」
イェス 「アリスさんは今日は何が食べたいですか?」

アリス 「私はラーメンがいい」

イェス 「ふふ、アリスさんらしいですね、でも、そのラーメンを食べるのもこのお給料がいるわけです」

アリス 「……」

そういえば、いつも智樹はティアルに言っているな。
お金を稼ぐには働く…働けば智樹は喜ぶ…喜べばラーメンも食える…。

アリス 「私働く!」

イェス 「え? アリスさん?」

アリス 「私も働く、そしてお金稼ぐ、そして智樹に喜んでもらってラーメン食べる!」

イェス 「いきなりそんな…第一働き口なんてあるんですか?」

アリス 「ん、任せろ…行ってくる!」

イェス 「あ、アリスさん!」

私は思い立つとサーカステントを抜けて、とある店に向かった。
私はあそこで働きたい。



『ラーメン屋 福一』


ガラララ…。

店長 「いらっしゃい! おっ、アリスちゃんか! 一人かい?」

アリス 「ん」

店長 「珍しいねぇ、どうしたんだい?」

アリス 「店長、私を雇ってくれ」

店長 「え!? 雇うって…アリスちゃんをかい?」

アリス 「ん、頼む店長、私、ここで働きたい」

私はそう言って頭を下げる。
頼みごとをする時はこうするとイェスは言っていた。

店長 「ん〜…でも、ウチにゃ人雇う余裕もないし…アリスちゃんこういった仕事経験はあるかい?」

アリス 「…ない」

店長 「そうだよな〜やっぱり…」

アリス 「お願いだ店長! 私はここの味が好きだ、だからここで働きたい」

店長 「…とりあえず厨房入ってみな、それから判断してやるよ」

アリス 「ん!」

私は言われたとおり厨房に入る。

店長 「いいか? ラーメン作りってのは…」



…………。
………。
……。



アリス 「…ん」

店長 「ほう、まぁラーメンは作れるようになったな…」

私はあれから厨房に入るとラーメンの作り方を学んだ。
店長は筋が良いと言ってくれる。

店長 「アリスちゃん…アリスちゃんはなんでこんなオンボロな店で働きたいんだ?」

アリス 「ん? そうか? 私はそうは思わない」
アリス 「この店のラーメンは最高だ、どこのラーメンよりも美味い」
アリス 「それはとても誇れることであり、そして私はその味が大好きだ」
アリス 「自分でもこの味を作ってみたい、そして…お金を稼いでこの店のラーメンを食う」

店長 「…な、なんていうかアリスちゃんは素直と言うか、単純と言うか…」
店長 「ウチのラーメンを食いたいから働きたいのかい」

アリス 「ん、そうだな…智樹も喜んでくれると思う」

店長 「ふ、ははは! アリスちゃんらしいか! いいよ、雇ってやるよ! ただしあんまり給料は期待しないでくれよ?」

アリス 「ん、ありがとう店長」

店長 「いいっていいって! さぁ、じゃあさっさと店に出てもらえるようになってもらわないとな!」
店長 「みっちりやるから覚悟しといてくれよ!?」

アリス 「ん、望むところだ」

それから私は店長の手ほどきでラーメン屋の真髄とやらを学んだ。
私はまだまだのようでしばらくは修行の毎日になりそうだ。
ただ、店長は常に笑っており、とても嬉しそうだった。
この日は5時くらいに私は店を出るのだった。



店長 「アリスちゃん、今日はもう帰りな」

アリス 「ん、わかった」

店長 「帰り道は気をつけるんだぞ?」

アリス 「ん、わかった店長」

店長 「じゃあ、また明日な!」

アリス 「ん」

私は店長にみっちり教えてもらった後帰された。
時刻は5時近くを回っており、すでに日は傾いて夕暮れ時だった。

アリス 「ラーメンは作れた、次は餃子だ」

私は明日のことを考えながら意気揚々と帰り路を歩いた。
思わず、少し飛んでみて屋根の上を上ってみる。
赤い屋根の家の屋根だ、そのままスキップのように屋根の上を飛んでいく。
すると…。

アリス 「ん?」

私はあるアパートの一室に目が行く。

ヴィーダ 「ほえ〜、おねーちゃん屋根の上で何しているの?」

少女だ、黄色い少女が窓から乗り出してこっちを見ている。
頭のどでかい白色のリボンを装着している。
幼稚園児体形と呼ばれるそうだが、子供の姿をしている。
どうやら黄色DOLLのようだな。

アリス 「私は家に帰るところだ」
アリス 「お前はどうした?」

ヴィーダ 「ほえ? ヴィーダ? ヴィーダはね、お姉たまの帰りを待っているの」

アリス 「お姉たま?」

ヴィーダ 「うん、ところでおねーちゃん誰?」

アリス 「私はアリスだ、そういうお前は何者だ?」

ヴィーダ 「ヴィーダはヴィーダだよ」

そうか、ヴィーダか。
自分の名前を連呼していたのか…気づかなかった。

ヴィーダ 「アリスおねーちゃん、DOLL?」

アリス 「そうだ、そういうヴィーダもDOLLじゃないのか?」

ヴィーダ 「うん、DOLLだよ」
ヴィーダ 「アリスおねーちゃん悪い人じゃないみたいだね」

アリス 「ん? そうなのか?」

ヴィーダ 「うん、ヴィーダが言うんだから間違いなし!」

アリス 「そうか、おっと私は家に帰るところだった」
アリス 「申し訳ないが私はもう行く」

ヴィーダ 「もう行っちゃうの〜? しょうがないね、バイバーイ!」

アリス 「ん」

私は屋根から下りると少し早歩きで家路へと戻るのだった。



…………。



アリス 「ただいま」

イェス 「あ、アリスさん! と、智樹さんアリスさんが!」

智樹 「アリス! 無事だったんだな!」

アリス 「ん? 智樹ただいま」

智樹 「アリス〜…お前〜」

俺は玄関に行くとなんとも平然としたアリスが帰ってきた。

智樹 「たく…心配かけさせやがって…」

イェス 「よかった…アリスさんたらいつまでも帰ってこないから何かあったんじゃないかって心配で心配で…」

ティアル 「ほーらね、だからアリスは大丈夫だって」

アリス 「?」

アリスはイマイチよくわからないといった顔で俺たちの顔を見渡した。

智樹 「たく、で、当のアリスさんは一体どこへ行っていたんでしょうか?」

アリス 「福一に行っていた」

イェス 「福一?」

ティアル 「ラーメン屋よね? あのおなじみの」

智樹 「なんでまた…」

アリス 「あそこの店長に雇ってもらった」

智樹 「はぁ!? アリスが!?」

アリス 「ん、明日も行く」

智樹 「…はぁ、なんていうか…いつのまにって感じだな…」

アリス 「?」

智樹 「まぁいい…」

イェス 「一時はどうなるかと…」

ティアル 「だからアリスは殺しても死なないタイプだっての」

アリス 「私は死なないのか?」

智樹 (なんだかな〜)

結局、納得がいかないままアリスは福一に就職しているのだった。
よくまぁあの店に就職したもんだな…。





…………。





『同日 午後11時21分 智樹たちの通う学校の屋上』


ヨハン 「やれやれ…まさかアリス嬢の奪回にこの小生が回されようとは」

まぁ、マリオン姉さまの行方が再びわからなくなってしまいましたしね。
そうなれば、身元の判明しているアリス嬢の方に回されるのは道理ですかね。

ヨハン 「今回はアルド殿も動きませんし、ゆっくり確実に攻め落としますかね…」

アリス嬢の攻略はマリオン姉さまに比べれば楽なはず。
しかし、アリス嬢の潜在能力は未知数…できれば争うことなく迎えたところですが…。

ヨハン (それには人間の方から攻略が必要ですかね…)

人間…唐沢智樹、年齢14歳高校1年生。
アリス、ティアル、イェスの3名と行動を共にし、本人自身の現在確認されているだけで3名のDOLLと『融合』可能。
唐沢智樹自身、入学試験時の成績は入学志望者334名中199位。
友人は霧島蛍及び神宮寺成明。

ヨハン (神宮寺成明…あの神宮寺家の跡取り…敵に回すと厄介な男)

神宮寺成明…年齢14歳高校一年生。
入学時成績は入学希望者334名中1位。
昨年実施された学力検査では12〜18という枠組みの中で14歳ながら1位。
IQ140以上は確実…実際のところ200は超えているとされている。
しかし、本人の突飛な行動、言動は全く予想がつかず、もっとも厄介な存在。
おおよそ今回の件でこの男が関わることはありえないと思いますが、もし関わるとかなり厄介なことになるでしょうね。
人間でありながら何をしでかすかわかりませんからね…。

ヨハン 「もう一人…霧島蛍ですか」

霧島蛍は謎が多い。
身体能力において、時折人を遥かに超える能力を発揮する。
不明瞭な部分が多く、まだ不明ですがDOLLではないかとの判断もある…。

ヨハン (しかし、戸籍として霧島家で14年の歳月を過ごしている…)

14年も前に外部で育ったDOLLがいるとは思えない。
DOLL…か、どうかはともかく、関わると万が一もありえる。

ヨハン 「標的はやはり唐沢智樹…」

私としてはあまり同じ同胞たるDOLLと争いたくはないですからね。

ヨハン 「まぁ…行動は日が昇ってからですかね」

私はそう思うと一旦宿の方に変えるのであった。



…………。



『次の日 昼休みの時間帯 学校』


智樹 「はぁ…心配だ」

何が心配ってアリスである。
あのアリスがラーメン屋で仕事だと?
心配でならん…第一あいつに接客なんてできるのか?
はぁ…心配だ。

雪野 「あら? 唐沢君?」

智樹 「あ、先輩…」

俺は食堂で悩んでいると白姫先輩が現れた。
学食なのかこの人…。

雪野 「どうしたの、不安そうな顔して…」

智樹 「いえ、実はですね…ちょっと知り合いがラーメン屋でバイトを始めましてね…」

雪野 「それが心配と? 一体どんな人なの?」

智樹 「無口で世間知らずで、無鉄砲!」

雪野 「…一体どんな人なのかしら…それ」

…さすがに先輩も苦笑っすか…。
でも、合ってると思うんだけどなぁ〜…あれは。

智樹 「ともかくそんなやつがバイトなんか始めてまともにできるのかどうか心配で心配で…」

雪野 「もしかして、恋人さんかしら?」

智樹 「な、そうでそうなるんですか…違いますよ」

雪野 「あら、そうなの? てっきり恋人さんかと思ったんだけど…」

智樹 「はっ…あいつを恋人にしたらノイローゼになってしまいますよ…」

あんな世話のかかる女はいないだろう…恋人にしたいとは今は思わないな…。

雪野 「もし良かったら今日の放課後にでも会わせてくれないかしら? 興味があるわ」

智樹 「ええ、いいですけど…」

成明 「おい! 智樹よ! いつまで我々を待たせるんだ!?」

智樹 「と、しまった…」

そういえば、今日はまたもや蛍が弁当を忘れて学食に来ていたのだった。
ちなみに俺はイェスの手作り弁当があるわけで…。

成明 「ん? そちらは確か転校生の白姫雪野嬢…」

雪野 「あら、私を知っているの?」

成明 「ふむ、転校二日目にして早くも女子人気投票7位を獲得している…恐らく1週間以内に3位以内に入るだろうとされている美女だ」

智樹 「お前一体どんな情報持っているんだよ…てか、先輩だぞ敬語使えよ」

成明 「ちなみに1位は霧島嬢だぞ?」

智樹 「マヂ…?」

成明 「うむ、お前の大切なフィアンセだ」

智樹 「ちょっとまてぇい! 勝手にフィアンセにするなーっ!!」

成明 「ふはは! 照れるな! もうすでに皆に知れ渡っているぞ!」

智樹 「なぬ…? どういうことだ?」

成明 「ふ、我輩が気づかんと思ったか? お前たちが気がついたら唐沢君、霧島から智樹君、蛍に変わっていることに」

智樹 「ぬ…」

雪野 「ふふ、なんだか楽しそうね」

智樹 「そう思いますか?」

横で先輩は面白そうに上品な笑いをしていた。
こっちは笑えねぇ…。

雪野 「私も一緒にお昼ごはんをとってもいいかしら?」

成明 「おお、くるなら歓迎しよう! さ、こっちですぞ!」

智樹 (こういう状況をかったるいというのだろうか?)

結局、その日は白姫先輩も交えて4人で昼食をとるのだった。



…………。



『同日 午後3時30分 ラーメン屋福一』


ガラララ…。

アリス 「ん、いらっしゃいませ…ん? 智樹?」

智樹 「おう、アリス、真面目に仕事しているな?」

雪野 「その娘なのね?」

俺は放課後、白姫先輩を連れてアリスの働くラーメン屋福一を訪れた。

アリス 「? その人はだれだ?」

雪野 「私は白姫雪野よ」

アリス 「雪野か」

智樹 「こら、アリス、白姫さんと言え!」

雪野 「ふふ、いいのよ」

智樹 「はぁ…えとこの娘は」

アリス 「アリスだ、唐沢アリス」

智樹 「そう唐沢…はぁ!? 唐沢!?」

雪野 「あら? 家族の方だったの?」

アリス 「そうだ、私は智樹の家族だ」

智樹 「(お、おいアリス! ど、どういうことだよ!?)」

俺はひそひそ声でアリスに問いただす。

アリス「(名前を聞かれたらそう答えろとティアルに言われた)」

智樹 (あんの性悪人形…)

店長 「ん? お、智樹いらっしゃい、どうしたんだいその別嬪さんは?」

アリス 「べっぴんさん?」

智樹 「美人ってことだよ、えと、同じ学校の先輩なんです」

店長はいままでどこにいたのか店の裏口から現れると白姫先輩のことを聞いてきた。

雪野 「白姫雪野です」

店長 「白姫ちゃんか! いらっしゃい!」

智樹 「店長、アリスはどうですか? 迷惑かけてないですか?」

店長 「はは、大丈夫だよ、最初雇ってもらいたいときた時は驚いたけどな!」

アリス 「今日は餃子を作れるようになったぞ智樹」

智樹 「そうか…怪我だけはしないようにな?」

アリス 「ん、任せろ智樹」

智樹 (不安だな…)

雪野 「ふふ、見た目よりしっかりしたお嬢さんのようね」

アリス 「ん? そうなのか?」

店長 「ははは! 世間知らずなところが困り物だがな!」

アリス 「ん、学ぶことは多い」

智樹 「頑張って学べ…」

雪野 「ふふ」

アリス 「?」

アリスは白姫先輩を見て頭に?を浮かべている。
まぁ、アリスにはいい経験かもな…。

店長 「丁度いい、智樹が来たんならアリスちゃんももう上がりな!」

アリス 「ん? いいのか?」

店長 「ああ、まだ店に出せるレベルじゃないしな!」

アリス 「残念だ…明日も頑張る」

店長 「おう、また明日な!」

智樹 「てーことで、しっかり預からせてもらいます」

アリス 「ん」

つーわけでアリスはこれで今日の仕事は上がることになった。
アリスはその場でエプロンを脱ぐとそれで着替え完了のようだ。
よくよく考えればアリスって俺の服だから男物なんだよな〜…。

雪野 「唐沢君、アリスちゃんって男装なのね?」

智樹 「それしか持ってないからです…」

アリス 「…問題あるのか?」

雪野 「ないけど…可愛いのに勿体ないなって思っちゃうわ」

そりゃ、可愛いわな…性格があれですけどね。
女物なんて買ってやれるわけもなく…。

雪野 「もしよかったら私の家に来ない?」

智樹 「え? 先輩の家にですか?」


雪野 「ええ、まだ片づけが終わってないんだけど」

アリス 「どうするんだ智樹?」

智樹 「そうだな、じゃあ寄らせてもらいますか」

なんだか急展開だが白姫先輩のお宅に寄らせてもらうことに。
まぁ、いいか。



…………。



『同日 午後4時02分 白姫宅』


雪野 「ただいま」

ヴィーダ 「お帰りお姉たま〜♪」

智樹 「おじゃまします…」

アリス 「…ん?」

ヴィーダ 「あーっ! 昨日のおねーちゃん!」

アリス 「ああ、昨日の…」

雪野 「ヴィーダ…?」

智樹 「知ってるのかアリス?」

アリス 「ん、昨日知り合った」

ヴィーダ 「ようこそおねーちゃん♪」

雪野 「この子はヴィーダ、娘じゃないからね?」

智樹 「はは…俺は唐沢智樹、よろしくヴィーダちゃん」

ヴィーダちゃんとよばれる女の子はどう考えても幼稚園児だった。
身長100センチほど、黄色い髪の毛にに瞳が印象的だまるで黄色DOLLだな。
頭の後ろに大きな白いリボンも特徴だ。
まるで巨大タケコプター(もしくは巨大扇風機)…。

ヴィーダ 「智樹おにーちゃん?」

智樹 「おにいっすか…まぁ、いいけど」

まぁ子供だしね…。
それもいいでしょ。

智樹 「にしても…」

俺は周りを見渡してみる。
典型的アパートだが、中はまだダンボール箱が積まれていた。
引っ越して間もないということがよくわかる。

ヴィーダ 「アリスおねーちゃんと智樹おにーちゃんはどんな関係なの?」

雪野 「ヴィーダ…あなた…」

智樹 「どんな関係って…」

この子とんでもないこと聞いてくるね…。
大胆発言だよ…。

アリス 「智樹と私は家族だぞ」

ヴィーダ 「家族?」

アリス 「そうだ」

ヴィーダ 「だったらヴィーダとお姉たまも家族〜♪」

雪野 「ヴィーダ…ふふ」

智樹 「家族ね…」

そういやアリスは家族というが実際のところどういう風に見ているんだろうか?
少なくとも家族とはいっているがどういう意味だ?

ヴィーダ 「ヴィーダはね、お姉たまとずっと暮らしているんだよ、ヴィーダはお姉たまが大好きー!」

アリス 「アリスも智樹が好きだぞ」

智樹 「それは家族としてか?」

アリス 「ん、イェスは愛だと言っていたぞ」

智樹 「愛って…あのな…」

ぶっとんどるな…イェスさん一体どういうこと教えているの?

アリス 「ところで…あれは?」

智樹 「…あ」

アリスは気になったのかとんでもない物を見つける。
それは窓際に横たわった馬鹿でかい『斧』だった。

雪野 「あっ!」

ヴィーダ 「ああ、あれヴィーダの魂命だよ」

智樹 「魂命って…」

アリス 「イェスはたしか私たちの命だって言っていたな…」

そう、たしか魂命って言っていたわ。
て…おいおい。

雪野 「はぁ…迂闊だったわ、まさかド忘れするなんて…」

白姫先輩は諦めたように頭を振っていた。

智樹 「ヴィーダちゃん、君、DOLLなの?」

ヴィーダ 「うん、そうだよ、お姉たまもなんだよ」

雪野 「まぁ、そちらのお嬢さんもDOLLのようだし…」

アリス 「ん」

智樹 (えと…たしかイェスが言っていたな…俺たち以外に逃れたDOLL…名は)
智樹 「マリオン…もしかして先輩がマリオン?」

雪野 「! まさかその名を知っているなんて…」

智樹 「家にイェスっていう緑DOLLがいるんです、そのイェスが知っているんです」

雪野 「そう…成る程ね、私たち以外に施設を逃れたDOLLがいたなんてね」

ヴィーダ 「お姉たま?」

雪野 「私はマリオン、でも今の名は白姫雪野…A&PのDOLL研究開発施設を逃れた白DOLLよ」

智樹 「白? 白色なんて存在するのか…」

雪野 「あら、初めて? まぁ、白と黒はものすごい希少種らしいからね」

アリス 「そうなのか…」

雪野 「…アリス、私も思い出したわ…そのアリスの名」

智樹 「! アリスのことを知っているんですか?」

雪野 「詳しいことは知らないけど、DOLLの中でも相当古いDOLLらしいわ施設内では眠り姫と呼ばれていたわ」

アリス 「眠り姫?」

雪野 「ずっと眠っていたの…通常のDOLLと違い自分の意思で…」
雪野 「通常のDOLLは施設の意思で強制的に眠らされるのに…そのアリスさんは自分から眠っていたの」

アリス 「……」

智樹 「…アリス?」

俺はアリスを見たアリスは複雑な顔をしながら…。

アリス 「覚えていない…そんなことがあったのか…」

雪野 「あなた…記憶がないの?」

アリス 「ん…」

智樹 「アリスは記憶がないんです…自分がDOLLと認知したのも俺と『融合』を果たしてからだし…」

雪野 「『融合』!? あなた…アリスさんと『融合』できるの!?」

ヴィーダ 「? ?」

アリス 「ん、当たり前だ」

智樹 「当たり前かどうかは別としてまぁ…」

雪野 「すごいわね…『融合』は奇跡的な物だって聞いていたけど…貴方たちがね」

智樹 「そうだったのか…」

アリス 「……」

う〜む、しかし考えてみると俺ってアリスだけじゃなく、ティアル、イェス、蛍とも融合しているんだよな?
なんか奇跡って安い気がするな〜…。

ヴィーダ 「うぅ〜…、ヴィーダつまらな〜い」

智樹 「ん? ああ、まぁ面白い話じゃないしな…」

ヴィーダ 「ねぇ、もっと面白い話しようよ〜」

雪野 「ヴィーダ、今は大事な話をしているからね?」

ヴィーダ 「うう…」

しかし、ヴィーダちゃんは不満そうな顔で唸っていた。
まぁ、気持ちはわかるけど。

智樹 「まぁ、いいんじゃないでしょうか? また別の機会にでも話し合えば」

雪野 「唐沢君、はぁ、わかったわ…そうね」

白姫先輩には悪いけど俺も一気には辛い。
ここはヴィーダちゃんの要望に沿おう。

ヴィーダ 「わーい! 智樹おにーちゃんありがとー!」

智樹 「はは…まぁ、結局重要な話はするんだけどね…」

そればっかりは仕方がない。
俺たちは情報がなさすぎる。
敵を知るにも自分を知るにも手がかりがないのだ。


結局、その日は白姫先輩の家で夕方まではお世話になるのだった…。
まぁ、今回はここで後編に続くんだけどね。




第9話 「DOLL」 完


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