閃光のALICE




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第10話 『Inocent girl』






『6月11日 午後6時09分 白姫宅』


智樹 「じゃ、俺たち今日は行きますね」

雪野 「ええ、またきてね」

ヴィーダ 「さよーなら〜、おにーちゃん、おねーちゃん♪」

アリス 「…ん」

俺たちは午後6時を回ると家に帰ることにする。
あれから白姫先輩には色々とDOLLのことを教えてもらった。
こちらからの情報も提供したが向こうにはあまり意味のある情報じゃなかったか。
ただ、アリスには先輩も興味を示していた。
理由はアリスがA&Pに執拗に狙われているということだった。
これを聞いた雪野先輩はアリスにはなにか秘密が隠されているのかもしれないと言った。

智樹 (秘密ねぇ…)

アリスって過去のこと何も覚えていないんだよな…。
気がついたら公園で倒れていて、そしてそれより以前の記憶はない。
記憶は俺と一緒に行動をしてからのものだ。

アリス 「A&P…私を生み出した会社…」

智樹 「アリス…」

アリス 「私はどうしてここにいる? どうしてA&Pから抜け出した?」

智樹 「…さぁな、だがアリスはここがいい、だったらここにいろ」
智樹 「俺は少なくともアリスがいても良いと思うぞ?」

アリス 「迷惑じゃないのか?」

智樹 「迷惑だよ、だが、いなくなるともっと迷惑だ」

アリス 「智樹…ん」

智樹 「ほら、さっさと帰るぞ?」

アリス 「…ん、ん…?」

智樹 「どうしたアリス?」

アリスは突然、薄暗くなりはじめた空を見上げた。
いや、学校側の屋上?

智樹 「?」

アリス 「…なんでもない」

俺はアリスの見たほうを見るが、そこには何もないようだった。
アリスもなんでもないといい再び家に歩きだす。

智樹 (アリスがいる限りA&PはDOLLの刺客を送ってくるか…)

ならばこちらから攻め入って二度と来ないようにしてしまうか?
いや、無茶苦茶だな。
相手は世界一の大企業。
うかつなことをしたら法を盾にされてこっちが不利になってしまうしな。
どう考えても敵にするにはやばすぎる。
だが、いつまでも戦っているわけにはいかない。
いつかこっちも疲れるし、向こうの攻撃も激しさを増すだろう。

智樹 (どうすればいいんだろうなぁ…なあ、アリス?)

アリス 「…?」

アリスは俺の視線に気づいてか、俺のほうに顔を向ける。
俺は何も言わず正面を見て家路へと帰った。



『同日:某時刻 A&P社DOLL研究施設』


A&P社のDOLL開発研究を行う施設。
本社東京から離れ、茨城の山奥にそこはある。

ヨハン 「…ただいま帰りました」

研究員 「ああ、ヨハンお帰り」

私は施設に帰ってくると帽子を取り、自分の部屋に向かう。
中には多くの研究員がいる。
DOLLは約半数が冬眠するように眠りについていた。

研究員 「今日は吉倉社長が見えているよ、所長室にいると思うから後で顔を出しといたら?」

ヨハン 「そうですか、わかりました、ありがとうございます」

研究員 「ヨハン、最近笑ってないよね」

ヨハン 「?」

研究員 「たまには女の子になってみたら?」

ヨハン 「小生には似合いませぬ…」

この研究員は私の『うわべだけの笑い』ではなく本当の笑いを言った。
私はこの施設でもっとも年長者のDOLL。
加えて、本社A&Pで社長秘書であり、重要な幹部である。
内外に苦労も多すぎて心から笑える日はない…。

研究員 「ヨハンは好きな子いなのかい?」

ヨハン 「小生はDOLLでございますよ? いるわけないでございましょう」

私がそう言うと研究員の方はくすくすと笑った。

研究員 「まぁ、DOLLはなぜか男の子は生まれないからね」
研究員 「人間ともDNAが違いすぎて子を残すこともできないし」
研究員 「でも、その感情は人間と遜色ないよ、気になる人はいるんじゃない?」

ヨハン 「ございませぬ」

私は少し強めに研究員を睨んで言った。
いない…というより考えたくない。

研究員 「せめて女物の服着てみたら?」

ヨハン 「くどいでございますよ…」

いい加減疲れる。
ただでさえ普段から私は多忙なのにこれ以上負担を増やさないでほしい。

研究員 「コッペリアちゃんはあんなに女の子らしいのに…」

ヨハン 「姉さまと一緒にしないでください…小生はコッペリア姉さまとは違います」

私は疲れた体を動かして一旦自分の部屋に向かった。



ガチャ。

私は自分の部屋に入るとシルクハットを帽子掛けに掛けて白いベットに倒れこんだ。
明日には人間の唐沢氏に接触をしなければならない…次の日は本社で重役会議…疲れる。

ヨハン 「…女物か」

ないわけじゃないけどさすがにスカートとか着るのは抵抗がある。
というか私はいつも燕尾服か…。
いつでも葬儀に出られるわね…。

ヨハン 「昔はともかくか…」

今はとても着られない。

ヨハン 「吉倉様も着ているらしいし、行ってみますか?」

私は立ち上がり、所長室に向かうのだった。



…………。



『次の日 12:45分 学校』


キーンコーンカーンコーン…。

熊谷 「あ〜、今日はここまで、学級委員」

蛍 「起立、礼!」

本日も4時間目終了。
さぁ、昼食だ。

成明 「ふっふっふ〜、マイブラザーよ、今日も白姫嬢と食べるのか?」

智樹 「その予定はないが?」

成明はわざわざ俺の机の前に来ると嫌らしく笑ってそう聞いてきた。
期待しているのか?
だが、生憎そこまで白姫先輩と親しいわけじゃない俺は別に約束しているわけでもない。
いつもどおり教室で今日は食う。

成明 「しかし、あれはその先輩ではないかね?」

智樹 「は?」

成明は小さく教室の外を指す。
俺は教室の外を見ると白姫先輩が手を振っていた。

智樹 「亜熱帯マジスカ爆弾?」

ようするにまじっすか?
白姫先輩、ここで食う気っすか?




智樹 「……」

蛍 「あはは〜…」(苦笑)

成明 「なに苦笑している霧島嬢よ」

蛍 「だって…」

雪野 「もしかして私迷惑だったかしら?」

智樹 「いえ…別にそんなことはないですけどね…」

俺も白姫先輩と一緒に食べるのは大歓迎だ。
ただ、問題は場所だな…。
先輩が下級生の教室にいるだけでも割と珍しいのに加えて美人の先輩だ。
最近転校してきたばっかりだからみんなかえって知っている。

男子生徒A 「くそ、なんで唐沢ばっかり…」
男子生徒B 「霧島さんだけならともかく、白姫先輩まで一緒に昼飯を食べるなんて…いい気になるなよ唐沢め…」
男子生徒C 「殺してやる…唐沢殺してやる…」

智樹 (なんで、俺ばっかり攻められにゃならんのじゃ!? 成明もいつも一緒だろうがっ!?)
智樹 (てか、たかが昼飯で死活問題になるのかよ!?)

などと心の中で叫ぶが死んでも口にはできない。
俺はこの歳で命落としたくないからな…。

成明 「ふ、最高にハイっやつか?」

智樹 「俺むしろローテンション…」

雪野 「大丈夫?」

智樹 「無問題〜(も〜まんた〜い〜)」

成明 「ふ、さっさと昼飯など食ってしまえ」

智樹 「つーか、なんでお前そんなに普通にしていられるんだ?」

普通とはもちろんこの教室の空気である。
明らかに殺気立っている。
気のせいか男子だけじゃなく女子からも殺気が感じる気がするんだが…?

成明 「我輩は関係ないからな」

智樹 「なんで、俺ばっかりいじられてお前には矛先が向かないんだ?」

成明 「ふ、我輩に宣戦布告するような勇気ある輩はこの学校にはお前しかいないからな」

智樹 「…お前が常人とは違うということを忘れていたよ…」

成明 「ふ、それが天才というやつだ」

智樹 (いや、むしろ変人…)

しかし、恐ろしいことに共に学校生活を始めてはや2ヶ月…いつの間にか馴染んでしまって当たり前になっていた。
よくよく考えればこいつは常軌を逸したやつだったな…。
俺はまだ普通だよな…多分。

蛍 「……」

智樹 「? どうしたんだよ、蛍?」

蛍 「別に…なんでもないよ」

成明 「おーおー、早速恋人さんにヤキモチ焼かせるとはやるな智樹よ」

智樹 「まて! 成明そういう誤解を招くような発言はやめろ!」

蛍 「……」

智樹 「蛍…あ〜…」

蛍は膨れっ面で俺の顔を見る。
はぁ…俺って立場弱いな〜…。

雪野 「ふふ、面白いのね」

智樹 「はぁ…」

俺は深いため息をつく。
こんな疲れる昼食は初めてだ。

雪野 (この娘が例の黄DOLL…まるでDOLLというより人間ね)
雪野 (A&Pがそんなに多くのDOLLを逃がしてしまうなんて思えないけど…)
雪野 (いえ、逃げたというより人間生活への適応の試験タイプかしら?)
雪野 (けど、唐沢君の話では普通に中学高校ときて、そして『成長』している…)
雪野 (DOLLは成長しないはず何だけどね…)

智樹 (? どうしたんだろ白姫先輩…蛍をじっと見つめて…)

雪野 「霧島さん、今日の放課後お暇かしら?」

蛍 「え? あ、今日は部活休みですし大丈夫ですけど…?」

雪野 「そう、だったら唐沢君も、ね?」

智樹 「ええ…」

成明 「おお、おお? もしかして我輩だけ除外かな?」

雪野 「ごめんなさいね、神宮寺君」

成明 「いやいや、恋路に踏み入るような無粋な真似は我輩はしませんよ、はっはっは!」

蛍 「こ、恋路って…」

智樹 (絶対違う…おそらくDOLL関係のことだろう)

まぁ、成明が勘違いしてくれるならその方がありがたいが。
藪蛇っていうからな…。

雪野 「ふふ、それじゃそろそろ教室に戻りますね」

成明 「うむ、いつでも来てくだされ、我輩歓迎しますぞ」

智樹 「……」

俺は黙って白姫先輩を見送る。
そして、心うちではまたややこしいことになっているんだろうとげんなりしているのだった。



…………。
………。
……。




『同日:放課後 屋上』


雪野 「まぁ、さすがに誰も来ないでしょう…」

蛍 「それで、一体なんの用なんですか?」

智樹 「……」

雪野 「唐沢君からあなたが黄DOLLだと聞いたわ」

蛍 「DOLL…?」

智樹 「蛍、ほら課外授業」

蛍 「あ…」

俺はDOLLと言われてピンときていない蛍に手っ取り早く埼玉遠征のことを思い出させる。
あれからまだそこまで日が過ぎていないので蛍もいまいちピンときていないようだった。
ただ、あれ以来蛍は自分の鞭をかばんの中にしまっていた。

雪野 「あなたいつから記憶がある?」

蛍 「え? えと…3歳くらいかな? 物心ついたときからお父さんとお母さんと一緒にいたから…」

雪野 「そう…」

智樹 (それじゃ、自分をDOLLと認識する方が難しいよな)

雪野 「あなたは相当変なDOLLね」
雪野 「DOLLは成長しないから常にその姿のままのはず」
雪野 「にもかかわらずあなたは普通の人間同様の成長を伴っている」
雪野 「さらに、そんな昔から人間社会に溶け込んだDOLLがまったくA&Pのマークにかかっていない」

蛍 「おおまかには智樹君やイェスさんたちに聞いていたけど…」

蛍は人間として育っている。
そのまま14年間も過ごしたんだ。
そこへいきなりあなたはDOLLってきてもすぐに納得はできないだろう。

雪野 「ねぇ、ちょっとこの場で『融合』してくれない?」

蛍 「え、ゆ、融合…?」

蛍は融合という言葉を聞くと突然顔を真っ赤にしてもじもじする。
て、何で恥ずかしがるよ?

智樹 「何を恥ずかしがっているんだよ、蛍?」

蛍 「だ、だって…融合って一緒になるんだよ?」
蛍 「それって…ああ、身も心も一緒になるなんて…キャーッ!」

雪野 「…あ、あの…?」

智樹 (まーた、勝手に暴走して…)

蛍はいきなり妄想モード全開で暴走し始める。
そのいきなり変化のしようにはさすがの白姫先輩のあんぐりしていた。

智樹 「蛍、落ち着け、とりあえず落ち着け」

まさに蛍の暴走は○VAの如くだ。
○ルエルさえも捕食しかねない勢いだな。

蛍 「で、でも…そのえ、エッチなこともダイレクトに伝わっちゃうし…はうぅぅぅ…」

智樹 (蛍の妄想はほとんど18禁だな…)

つーか、蛍のやつ普段からそんなこと考えているのか?
なんか、こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。

智樹 (アリスたちって普段融合するときは何考えているんだろうな…?)

おそらく、なにも考えていまい。
つーか、普段融合するときは戦闘中だから余計なこと考えている暇ないつーのな。


智樹 「蛍…」

蛍 「きゃ、と、智樹君…」

俺は少々強引だが蛍の肩を掴む。
蛍はついに耳まで真っ赤にしていた。
お願いだから冷静になって…。

智樹 「融合…」

キィィィン…!

俺はそう呟くと蛍は光り輝き、俺の中に取り込まれる。
いや、もしかすると俺が蛍に取り込まれているのだろうか…?

蛍 『ああ、また智樹君と一緒に…ああ…』

智樹 (甘い声を出すのはやめてくれ、蛍との融合はちょっと大人な世界に踏み込んじまう)

とりあえず蛍との融合は成功した。
ただ、蛍との融合は健全な青少年たる俺には有害な気が…。

蛍 『うぅ…ひどい、年頃の女の子はちょっと位そういうことも考えるよ…』

智樹 (……)

しまった聞こえていたのか。

智樹 「で、これでいいんですか?」

俺はとりあえず蛍を無視して白姫先輩に話しかける。

雪野 「…間違いなくDOLLか、やはり謎ね」
雪野 「あなたは矛盾点が多いのね」

蛍 『……』

キィィィン…!

俺は融合を解除する。
蛍か…DOLLの中でも特別矛盾した存在…か。

雪野 「ごめんなさいね、今日呼んだのはこの確認のためだったの」
雪野 「でも、あなたもDOLLである以上は何かしら危険がくる可能性もあるわ」
雪野 「なるべく、私や唐沢君と一緒にいた方がいいわね」

蛍 「は、はい」

智樹 「……」

勿論危険は俺自身にもある。
すでに倒したDOLLは5人…すでに5人も倒すほど襲われたんだな…。
あのティアルやイェスだって刺客として送られてきたんだ。
これから、より強敵が、そしてより脅威が襲い掛かってくることになるだろう…。

雪野 「さて、今日はありがとうね、もういいわ」

蛍 「白姫先輩はこれからどうするんですか?」

雪野 「私? 私はこれからバイトなの、ごめんなさいね」

智樹 「そうなんですか」

雪野 「それじゃ、ちょっと急がないといけないから」

そう言うと白姫先輩はちょっと小走りに屋内へと戻った。

智樹 「…俺たちもそろそろ帰ろうか?」

蛍 「うん…」



…………。



智樹 「……」

蛍 「……」

なんだか、気まずい。
俺たちは危険と隣り合わせになってしまったんだな…。
俺たちは普通の学生ですよ?
なんでこんな目に…てか…。

蛍 「私、こっちだから」

智樹 「じゃ、また明日」

蛍 「うん…」

俺たちは学校の校門を出ると家の方角が違うためそこで別れる。
蛍は少し怯えたような感じで家路へと戻る。
かくいう俺も…そうか。

智樹 「また…福一に寄るかな?」

アリスがちゃんと仕事しているかも心配だし、寄ってみるか。
もし、なにか問題が起きていても困るからな。

智樹 「よし、ちょっと寄り道だ」

俺はそう思うと福一に寄ることにした。

ヨハン 「ちょっと…よろしいございますかな?」

智樹 「はい…てぇ!?」

突然、真正面から『!?』が浮かぶ男性(?)が現れる。
なぜ『!?』かというとその格好だ。
160そこそこの身長(実際は150位か?)に真っ黒なスーツ、てか燕尾服っていうのか?
さらに黒いシルクハット、手には白い手袋をしており、右手にはステッキが持たれていた。
顔は割と可愛い系で、目は笑い目のまま細めていた。
深緑色の髪の毛が目の上で綺麗に並んでいた。
後ろはショートヘアーなのだがわざわざ紐で結ってあった。
男装だけど…。

智樹 (もしかして女の子?)

なんともこのご時世浮きまくりな格好だな。
あんた明治時代か大正時代に帰りなさいな。

ヨハン 「唐沢智樹様でございますね?」

智樹 「そうだけど…あんた誰?」

俺は少し怪しみながらとりあえず名を伺った。
もしかして…いや、もしかしなくても刺客でしょうか?

ヨハン 「おっと、失礼小生ヨハンと申します」

その紳士のようなのはそう自分の名前を名乗ると手を自分の前で仰いで頭を下げた。
紳士だ…てか、紳士だな…。

智樹 「で、そのヨハンさんが俺に何の用?」

ヨハン 「まぁ、些細なことでございますが、そこの喫茶店ででも話しましょうか」

ヨハンという紳士はそう言うと近くに見える喫茶店を指した。
仕方がないので俺はヨハンに従ってその喫茶店に入った。





智樹 「で、用件は?」

俺は喫茶店に入ってテーブル席に着くと向かい側に座ったヨハンに用件を伺った。
さすがにもし刺客だとしてもここで襲ってくることはないだろう。

ヨハン 「ずばり、あなたの家にいるDOLLについてでございます」

智樹 (やっぱりそうきたか!)

ヨハンは俺の予想通りの言葉を言ってきた。

智樹 「あんた、A&Pの刺客か…?」

ヨハンはそれを聞くと少し意外な顔をした。

ヨハン 「…イェスでございますかね、それを話したのは」

智樹 「……」

ヨハン 「まぁ、いいでしょう、その程度のことは」
ヨハン 「今回はアリス、ティアル、イェスのこの3名のことでございます」

智樹 「……」

ヨハン 「ずばりアリスさんをこちらに返してくれないでしょうか?」

智樹 「アリスは嫌がっている、はいそうですかとはいかないぜ?」
智樹 「こっちはその件で何回も襲われているんだ」

ヨハン 「…勿論、無条件というわけではございませんよ」
ヨハン 「ティアル、イェスの二名はそのままあなたに預けましょう」
ヨハン 「そして金輪際、こちらからあなた方に干渉は一切いたしません」

智樹 「…平たく言えばこちらの身の安全を保障する代わりにアリスを渡せってことか」

ヨハン 「まぁ、そういうことでございますな」

なるほど、強攻策はやめてそうきたのか。
だが、結局A&Pはアリスを狙うということか。
一体、アリスは何者なんだ?
なぜ、A&Pはこれほど執拗にアリスを狙うんだ?

智樹 「ひとつ、聞かせてくれ、なぜアリスだけはそうまで執拗に狙うんだ?」
智樹 「同じDOLLのティアルやイェスは放っておいても構わないというのに」

ヨハン 「申し訳ございませんがそれは言えません、企業秘密にも等しいことですので」

智樹 「……」

なんとも企業員の言いそうな台詞だな。
企業秘密か…つまりそれほどアリスは本来トップシークレットということか。

智樹 「悪いが、アリスはあんたらの所に戻るのを嫌がっている、受けられないな」

もっともアリスも理由なくだが。
アリス自身あくまで本能的にA&Pを敵に回しているからな…。

ヨハン 「その言葉…どういう意味を持っているのかわかっておりますかな?」

智樹 「ああ、もう数えたくない位に死に掛けたからな」

俺だって馬鹿じゃない、真正面からA&Pに喧嘩を売ったような物だ。
だが、これは俺だけじゃなくアリスやティアル、イェスの答えでもあるはず。

ヨハン 「…まぁ、いいでしょう、すんなり通るとは思っておりませんでしたし…」

ヨハンは初めからわかっていたかのようであった。
その姿は全く平常心そのもの。
穏便で好戦的ではないがその分、理知的でかえって厄介なタイプの敵だな。

ヨハン 「なにか、頼みますか? 私はメロンソーダを頼みます」

智樹 「…アイスココアでいい」

俺はオーダーを聞きにきた店員に注文をする。
注文の品は程なくしてくるがそれまで俺たちに会話はなかった。

智樹 「…ずいぶん、珍しい物飲むな」

ヨハン 「そうでございましょうか?」

智樹 「メロンソーダを喫茶店で頼むやつはあんまり見ないな」

ヨハン 「ふふ、唐沢殿も飲みますか?」

智樹 「遠慮しておく」

俺は遠慮しておく。
どうにも一時たりともこのヨハンっていうのには気が許せない。
命をとられるような感覚じゃないが、それでも何か…。

ヨハン 「ふぅ、少し警戒を解いてください」
ヨハン 「小生はあなたとやりあう気はありませんよ」

智樹 「信用できない」

ヨハン 「…止むをえませんか」

ヨハンはそう言うと立ち上がる。

ヨハン 「今回は何もしません、ですが小生にも仕事があります」
ヨハン 「いずれあなたと対峙しそうですな…」
ヨハン 「代金は小生が払いましょう」

そう言ってヨハンはレジへと向かった。
俺もヨハンに付いていって店を出るのだった。

店員 「ありがとうございましたーっ!」

智樹 「……」

ヨハン 「それでは、小生はこれにて」

ヨハンは学校方面へ向かう。
俺はそのまま家路に戻るのだった。



ヨハン 「やれやれ…予想通り簡単には進みませんでしたな…」
ヨハン 「アキ、いますでしょう?」

アキ 「はい、ヨハン様」

ヨハン 「唐沢殿、大変心苦しいですがあなたは危険です、今のあなたは少なくとも私の言葉を信じているでしょう」
ヨハン 「唐沢殿を始末しなさい」

アキ 「わかりました」

ヨハン 「唐沢殿…申し訳ございませんがもう一度顔を合わすことはなさそうですな…ん?」

アキ 「ヨハン様?」

私はとあるアパートの一室に注目する。

ヴィーダ 「♪〜♪|」

ヨハン 「あれはヴィーダ?」

アキ 「ヴィーダ? あのマリオンに奪われたイノセント実装型の試験タイプ?」

ヨハン 「アキ、あなたは早急に唐沢殿を」

アキ 「了解です」

アキはそう言うとその場から飛び去ってしまう。
アキは青DOLL。
青DOLL特有の青色をベースとした髪や目で、髪の毛はセミロングで伸ばしていた。
服装は普通の春服で見た目からそう浮世離れする姿ではない。

ヨハン 「さて…これも運命しょうか…?」

私は偶然にも発見したヴィーダのいるアパートを捕らえる。
まさか、隣町に引っ越していようとは。
灯台下暗し…ということでしょうか。

ヨハン 「思わぬ収穫と思いましょうか…」



……………。



智樹 「なんか、嫌な予感全開…」

あれから5分。
いや6分かな?
どっちでもいい。

智樹 「何で俺公園にいるんだろう…」

ここはお馴染みなぜか人のいない児童公園。
戦う場所としては広いし人もいないから絶好だけど…。

智樹 (正確にはなんかつけられている気配があったから寄り道したらここに着ちゃったんだよね…)

我ながらここに来ることが多くて体がこの道を覚えていたらしいな。

智樹 「どうしよう…俺丸腰の上一人…」

アキ 「まさに絶望ですね」

智樹 「青DOLL? さらに絶望…」

アキ 「残念ですね、あなたも運がない…」

児童公園に入ると現れた青DOLLは身長150上くらい。
右手に凶器ですという感じのナイフが持たれている。
怖えぇ…まじでやばい…。

智樹 「まて! とりあえず話し合おう!」

アキ 「あなたはヨハン様が話し合いを求めて解決に望んだにも関わらず振ったはず」

智樹 「げっ!? まさかヨハンの刺客!?」

まさかとは考えてもいたけどもう送ってくるなんて!
図りやがったな!

アキ 「あの方は用意周到です、あなたが要求を呑まなかった場合を考えて私は用意されました」

智樹 「で、そのヨハン様はどこよ?」

なぜか、ヨハンの姿が見えない。
まさかこれで十分と舐めてるのか?
て、俺なんか舐められて当然だよな…。

アキ 「あの方はもう一人のDOLLを狙っています」

智樹 「…? もう一人…まさか白姫先輩、いやヴィーダちゃん!?」

そういえば、あの喫茶店の割と遠くないところに白姫さんの家があったはず。
白姫さんはバイトだからいない…だったら。

智樹 (やばいだろ!? ヴィーダちゃんは狙われているんだろ!?)

アキ 「さぁ、観念しなさい、私は人間の攻撃が可能なように特殊な仕様が施されています」

智樹 「くっ! どいてくれないよな!」

急がなきゃヴィーダちゃんが危ない。
だが、俺自身も危ないんだよな!

智樹 「くそ! こうなったらやってやろうじゃないか!」

俺はそう言って適当に構える。
つーか、格闘技もやっていない俺がろくなことできるわけないっつーの!

アキ 「妙な構えですね…ですがあなたは素人のはず…」

智樹 (そうさ! 素人さ! だが、窮鼠猫をかむぜ!?)

俺はせめて心の中だけでも強がる。
幸か不幸かこの少女の武器はナイフ、てことは俺とそんなにリーチは変わらない。

アキ 「さようなら!」

智樹 「このぉっ!!」

少女は目にも留まらない速度で突進してくる。
その動きは単調でただ真っ直ぐ向かってくるだけだった。
だが、それが勝負の分け目…だと思う。
俺はとっさに前進していた。
いい加減…アリスやらなんやらで目が慣れたっての!!

アキ 「なっ!?」

少女は俺の行動に止まろうとするがすでに止まらない。
そして、ナイフを大きく振りかざすが、振り下ろす前に俺の体は少女の懐に入った。

智樹 「てぇりゃああっ!!」

ドコォ!!

アキ 「あぐっ!?」

俺の肘が少女の鳩尾を捕らえる。
下から突き上げるように入れたから効いたはずだ。

アキ 「まさか…人間が…攻撃してくる…なんて…」

少女はそう言い残してその場に倒れた。

智樹 「我ながらよくやったよ」

少女は油断しすぎた。
俺が何もできない人間だと確信していたから無用心に小細工もせずやってきたんだ。
だから俺は噛み付くことができた。

智樹 「…ごめんな、こんなことしたくなかったんだ」

俺はとりあえずそう懺悔すると少女をベンチに寝かせて急いでヴィーダちゃんがいると思われる。



『一方ヴィーダのいる白姫宅』


ピンポーン。

ヴィーダ 「はいはーい!」

ヴィーダはそう言って玄関に向かう。
ヴィーダは玄関に行くとちょっと背伸びしてドアを開けるのだった。

ガチャ。

ヴィーダ 「はーい! 白姫ですけど〜?」

ヨハン 「…君がヴィーダちゃんですかな?」

ヴィーダ 「ほえ? そうだけど?」

見たことのないおねーちゃん(?)だった。
ヴィーダを知ってるみたいだけど〜?

ヨハン 「ヴィーダちゃん、迎えにきましたよ」

ヴィーダ 「迎え…?」

ヨハン 「さぁ、施設に帰りましょう」

ヴィーダ 「!?」

ガッ!!

瞬間ヴィーダは扉を閉めようとする。
けど、おねーちゃんは扉を閉めさせない。

ヨハン 「だめですよ、あなたの居場所はここじゃないのですから」

ヴィーダ 「帰って! おねーちゃん嫌い! 帰ってよ!」

ヨハン 「そうはいきません、ヴィーダちゃん多少痛い目を見させても連れて帰りますよ」

ヴィーダ 「う…にゃあっ!?」

おねーちゃんはヴィーダより力が強くてヴィーダは扉から跳ねのけられてしまう。
おねーちゃんはそのまま家の中に進入してきた。

ヴィーダ 「う…」

ヴィーダは自分の魂命の大斧を構える。

ヨハン 「まさか、そのような大きな代物を室内で使用するつもりですか?」

おねーちゃんはそう言うと手に持っていたステッキを構えた。

ヴィーダ 「おねーちゃんこそそんなステッキで戦う気?」

ヨハン 「甘く見ないほうがいいですよ」

そう言うとなんとステッキの中から鞭が出てくる。

ヴィーダ 「まさか泰○流千○鞭!?」

ヨハン 「? 意味がわかりませんが覚悟しておいてくださいよ」

むぅ…このおねーちゃん○斗の拳も知らないなんて…。
どっちにしてもちょっと怖い…。

ヴィーダ 「この部屋から…出て行ってーっ!!」

ブォン!! ズガァン!!

ヴィーダは魂命を振るうと壁に突き刺さってしまう。
おねーちゃんにその刃が届くことはなかった。

ヨハン 「危ないですね…ですが、その大斧はこの室内には向かない…」
ヨハン 「室内ではコンパクトな武器のほうがいい…このようなね!」

ヒュ! ビシィ!!

ヴィーダ 「きゃ!? は、離して!」

ヨハン 「そうはいきません」

ヴィーダの魂命が壁に刺さって抜き取るのに戸惑っているとおねーちゃんの鞭がヴィーダの腕に絡みつく。
ヴィーダは必死に取ろうとするが取れない。

ヨハン 「焦っていては簡単にできることもできませんよ?」

ヴィーダ 「そ、そんなこと言ったって!」

ヨハン 「さぁ、一緒に帰りますよ?」

おねーちゃんはそう言って鞭を引っ張りあげる。
体重の軽いヴィーダは簡単に引っ張られた。

ヴィーダ 「やだー!! 助けて!! お姉たま!!」

ヴィーダは泣き叫んで助けを請う。
たとえ届かない請いだとしても。

ヨハン 「少し静かに…」
智樹 「先輩じゃなくて悪いけどな…」

ヨハン 「!? 唐沢殿!?」

ヴィーダ 「お、おにーちゃん…?」

突然、おねーちゃんの後ろからおにーちゃんが現れる。
たしか…智樹おにーちゃん…?

ヨハン 「そんな…どうしてあなたがここに?」

智樹 「あんなもん送られてここに来れる理由はひとつと思うんだけどな…」

ヨハン 「まさか…アキを退けた!?」

智樹 「…公園のベンチで眠っているよ」
智樹 「悪いけど…この子も今日は見逃してやってくれないか?」

ヨハン 「……」

智樹 「俺…人間だから2連戦はしんどいだよな…できれば戦いたくない」

ヨハン 「…いいでしょう、ここは退きます」
ヨハン 「ひとつ聞きますが、アキは無事なのでしょうか?」

智樹 「外傷はないぜ…」

ヨハン 「どうも…お世話になりました」

智樹 「……」

おねーちゃんはそういうと鞭を解いてそれをステッキに戻して玄関から帰って行った。

智樹 「ふぅ…大丈夫…?」

ヴィーダ 「う…うぇぇぇぇん!!」

智樹 「あ、おいおい…やれやれだな」



……………。



『同日:午後7時30分 白姫宅』


雪野 「ただいま〜…あれ?」

智樹 「やっと帰ってきた…」

ヴィーダ 「びぇぇぇん! お姉たまー!」

午後7時になってもう真っ暗になったころ。
白姫先輩が帰ってきた。
白姫先輩は部屋の大惨事を見て呆然としていた。
そして、ヴィーダちゃんは白姫先輩に泣きながら抱きつく。

雪野 「よしよし、もう大丈夫よヴィーダ、唐沢君一体何があったの?」

智樹 「どうしたもこうしたもヨハンっていうDOLLに襲われたんですよ」
智樹 「で、ヴィーダちゃんが暴れてご覧の通り」

雪野 「ヨハンが…そんなもうこの場所が気づかれたの…?」

智樹 「まぁ、なんとかなりますよ…」

俺は気楽にそういう。
無責任だがな…まぁ、それでウチはなんとかなったし。

雪野 「これ以上…私がヴィーダを預かるのはもう危険ね…ねぇ唐沢君」

智樹 「なんですか?」

雪野 「悪いんだけど、ヴィーダをあなたの家で預かってくれないかしら?」

智樹 「え!? ウチっすか!? ウチもう3人もDOLLいるんすけど!?」

雪野 「だからよ、私たちはふたり、私がいなくなったらヴィーダを守ってくれる人がもういないの」
雪野 「お願い、ヴィーダちゃんの食費や宿泊代はちゃんとだすわ、頼れるのはあなたしかいないの」

智樹 「…そうか、たしかにヴィーダちゃんは…わかりました」
智樹 「ウチで引き取ります」

雪野 「ありがとう、唐沢君」
雪野 「ヴィーダ、聞いて」

ヴィーダ 「なに? お姉たま?」

雪野 「今日からこのおにいちゃんがあなたのお兄ちゃんよ」

白姫先輩はそう言ってヴィーダにわかるように俺を指差す。

ヴィーダ 「おにーちゃんがお兄たま…?」

智樹 (おにーちゃんは他人…お兄たまが家族ってことか?)

雪野 「ええ、今日からはあの人があなたのお兄ちゃん」

ヴィーダ 「う、うん…」

しかし、まだヴィーダちゃんは不安そうである。
まぁ、いきなりだからな。

智樹 「ヴィーダちゃん、よろしくな」

ヴィーダ 「う、うん…お兄たま」

ヴィーダちゃんは少し俯いてそう言う。
俺はそんなヴィーダちゃんの側まで近づいてヴィーダちゃんの頭を撫でた。

ヴィーダ 「あ…」

智樹 「大丈夫…」

ヴィーダ 「お兄たまの手…大きい」

智樹 「唐沢智樹だ、改めてよろしくなヴィーダちゃん」

ヴィーダ 「う、うん…! お兄たま!」



…こうして、またウチの家にDOLLが増えることになったのだった。



『次の日 午前7時45分 唐沢家』


智樹 「おはよ〜さ〜ん…」

イェス 「あ、おはようございます智樹さん」

アリス 「ん…」

智樹 「…? なんか辛い臭いがするんですけど?」

ヴィーダ 「カレ〜♪ カレ〜♪ 俺にカレーを食わせろ〜♪」

ティアル 「朝これは…胸焼けが…」

智樹 「…カレー?」

見るとリビングのテーブルに山盛りにされたカレーライスが置かれていた。
朝からカレーですか?

ヴィーダ 「あ! お兄たまおはよう! 今日はヴィーダ特製激辛カレーだよ♪」

智樹 「…また、問題抱え込んだようだな…」

イェス 「あ、あはは…」

アリス 「ん…」

ティアル 「もう嫌…」





第10話 「Inocent girl」 完


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