閃光のALICE




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第11話 『唐沢トモキの憂鬱』







『6月18日 午前11時10分 唐沢家』


ヴィーダが唐沢家に来て、早一週間。
ヴィーダは既に唐沢家にはものすごく馴染んでいた。
ただ…これはこれでトラブルメーカーなのかもしれない。
そして…この日はまさしく唐沢トモキの憂鬱…というところだったのか…?



ヴィーダ 「お兄たま〜♪」

智樹 「ん? と…おわっ!?」

ヴィーダ 「智ちゃん登り〜♪」

休日の昼ごろ、リビングでくつろいでいるといつもの様にヴィーダの声が聞こえる。
俺は声の方を振り向くといきなり目の前が真っ暗になる。
ヴィーダだ、ヴィーダが俺の顔面に飛びついてきたのだ。
そのままヴィーダは俺の肩に乗りかかり肩車状態になる。

智樹 「ヴィーダ…お前はどっかの薔薇乙女第6ドールか…」

ヴィーダ 「お兄たま〜遊ぼ遊ぼ〜♪」

智樹 「わかったわかった…だから降りてくれ!」

ヴィーダ 「ぶ〜! ヴィーダ重くないのに〜」

智樹 「重くなくてもそこは邪魔だっての!」

イェス 「ふふ、もうすっかり仲良しですね智樹さん」

智樹 「まぁ、人懐っこい子ですからね…」

イェスは笑いながら俺たちの光景を見ている。

アリス 「…ん」

アリスは縁側で日向ぼっこをしながら首だけこっち向ける。
その顔は無表情だ…て、いつものことか。

ティアル 「……」

智樹 (ティアル…?)

何故かティアルだけ目を瞑って不機嫌そうにしていた。
どうしたんだ…?
まぁ、ある程度不機嫌なのはいつものことだが。

イェス 「智樹さん、これからお買い物に行ってきますけど皆さんをお願いしますね」

智樹 「わかりましたよ、すぐに帰ってくるでしょう?」

イェス 「ええ、12時までには帰ります」

アリス 「行ってらっしゃい、イェス」

イェス 「ええ、行ってきますアリス」

イェスは買い物籠を持つとそのまま家を出てしまう。
今日の昼はなんだろうな?

智樹 「行ってらっしゃーい」

ヴィーダ 「行ってらっしゃいなの〜♪」

智樹 「さってと、じゃあ何して遊ぶ?」

ヴィーダ 「んーとねんーとね、鬼ごっこ〜♪」

智樹 「そりゃ、室内では無理だろ…せめてかくれんぼとかならな」

ヴィーダ 「え〜! ヴィーダは鬼ごっこがいい!」

智樹 「参ったな…と、ちょっとトイレ行ってくるから続きは後でな」

俺は急に尿意に襲われるとそのままリビングを離れるのだった。



ヴィーダ 「ぶ〜、ヴィーダは鬼ごっこがいいのに〜」
ヴィーダ 「わーい♪ 鬼だぞ〜悪い子はいねぇーかー!」

ティアル 「……」

ヴィーダ 「わーいわーい!」

ティアル 「…!」

ゲシ!

ヴィーダ 「にゃ!?」

ズテーン!

アリス 「…?」

突然、後ろでこける音がした。
何かと思ってリビングの方を振り返ったらティアルの腰掛けている椅子のすぐ側でヴィーダが前のめりに倒れていた。

ティアル 「あ〜ら? 大丈夫かしら?」

ヴィーダ 「ひっくひっく…うぇぇぇぇん!」

アリス 「……」

ヴィーダは突然泣き叫ぶ。
正直何が何だかわからない。
ただ…。

ティアル 「あら〜? 一体どうしたのかしら〜?」

ティアルはうすら笑っていた。
別にどうでもいいけど…。

アリス (お腹空いた…)

とりあえず、今はそれしか思いつかなかった。
ラーメン食べたい…。





ジャアアアア!

智樹 「いやぁ…よく出たよく出た!」

俺はトイレで小便を出すと水を流してトイレを出る。

智樹 「? なんだ?」

なんだか、リビングのほうから泣き声が聞こえる。
ヴィーダのようだが…一体何があったんだ?

智樹 「どうしたどうした!? 一体何があったんだよ!?」

俺はリビングに入るとヴィーダが大泣きしていた。

ヴィーダ 「ふぇぇん! お兄たまー!」

智樹 「一体どうしたんだヴィーダ?」

ティアル 「室内を走り回ったら派手にすっ転んだのよ」

智樹 「そうなのか? こら、ヴィーダ室内では走り回ったら危険だぞ!」

ヴィーダ 「えぐっえぐっ! 違うの〜!」

ティアル 「言い訳する気!? 全く子供ね! 素直に謝りなさいよ」

智樹 「そうだぞ、室内では暴れないこと! いいね?」

ヴィーダ 「違うの〜! ヴィーダ、確かに走ったけど倒れたの違うの〜!」

智樹 「倒れたの違う? どういう意味だ?」

ヴィーダ 「えぐっえぐっ! ティ、ティアルが〜!」

智樹 「ティアル?」

ティアル 「もしかして私に罪をなすりつけようっていうの?」
ティアル 「とんだお子様ね! 恥を知りなさい!」

智樹 「まさか人の性にまで?」

いくらなんでもそれじゃ子供過ぎるだろう…。
て、まぁ幼稚園児くらいの子供だけどな…。

智樹 「だめだぞ、悪いことは悪いんだぞ?」

ヴィーダ 「ひっぐひっぐ! うぇぇぇん! お兄たまの馬鹿ー!!」

智樹 「あ! おい!」

ヴィーダは泣きながらリビングを出てしまう。
そのまま2階に上がったようだ。

智樹 「参ったな…少し強く言い過ぎたか?」

ティアル 「いいのよ! あの子にはあれくらいの方がいいわよ」
ティアル 「甘やかしたら為にならないわ」

智樹 「まぁ、確かにそうなんだけどさ…」

ティアル (大体あの子、智樹になれなれしすぎるのよ!)

智樹 「ん? ティアルなんか言ったか?」

ティアル 「な、なんでもないわよ!」

アリス 「……」

ティアルは何故かうろたえる。
アリスはいつの間にこっちをじっと見ていた。
何を考えているかはさっぱりわからないが…。
まるで某アニメのグ○ッグルだな…。

智樹 「一応、行ってくるわ、イェスが帰ってきたとき面倒ごとになっても問題だし」

俺はそう言うとヴィーダがいると思われる2階に向かった。



智樹 「たく、どこへ行ったんだ?」

2階には3部屋ある。
これまでは俺の部屋、アリスとティアルの部屋、そしてイェスの部屋としていた。
だが、ヴィーダが来ることによってアリスとヴィーダ、イェスとティアルになった。
普通ならアリスとヴィーダの部屋だよな?
そう思うととりあえず二人の部屋に向かった。

智樹 「いない…」

俺は部屋に入ると誰もいなかった。
中は割と小奇麗だった。
というかまだ何もない?
ベットと布団があるくらいか。

智樹 「ん? 布団?」

俺は布団を見る。
正確にはアリスが眠るベットの方の布団だが。

智樹 (盛り上がってる盛り上がってる)

見ると足も少し外にはみ出していた。
子供だな…本当に。

智樹 「おい」

がばぁ!

俺は布団を剥がしてヴィーダを見る。
すると…。

ヴィーダ 「ぶー!」

智樹 「うわ…膨れてるな…」

ヴィーダ 「ヴィーダ悪くないもん! 悪いのティアルだもん!」

智樹 「ティアル?」

ヴィーダ 「お兄たまはヴィーダとティアルのどっちの味方なのー!?」

智樹 「味方って…意味わかんないんだけど?」

ヴィーダ 「ぶー! お兄たまも敵なのー!」

ポカポカポカポカ!

智樹 「うわ! こら! 駄々っ子パンチはやめぇい!」

ヴィーダは突然駄々っ子パンチで攻撃してくる。
痛くはないがうざい。
そしてそのままヴィーダはベットの下に隠れた。

智樹 「はぁ…訳わからないんだけど?」

ヴィーダ 「ティアルはヴィーダをわざと転ばしたの! お兄たまは信じるの!? 信じないの!?」

智樹 「ん〜?そんなこと言っても現場を見たわけじゃないからな…ん?」

はて?
この展開…なにかで見たことがあるような気が?
気のせいかな?

智樹 「でもまぁ、最近あいつ特別機嫌が悪いし…あいつならやりかねないな…」

なにせティアルだ。
性悪人形だしな。

ヴィーダ 「お兄たまはここに入ってもいいの〜」

智樹 「ベットの下…? そう…」



…………。



ティアル 「遅いわね…一体何しているのかしら?」

アリス 「……」

ティアルはさすがに智樹が戻ってくるのが遅いので気になってリビングを出た。

ティアル 「まったく、なんであんな小娘が…」

アリス 「…ヴィーダが嫌いなのか?」

ティアル 「別に嫌いじゃないけど…」
ティアル 「なんか…むかつくのよね…」

アリス (そう言えばヴィーダが智樹にじゃれているとティアルは特に不機嫌だったな…)
アリス 「ヴィーダと智樹が一緒にいるのは嫌なのか?」

ティアル 「な、な、なんで…なんでそうなるわけ!?」

アリス (うろたえてるうろたえてる…)
アリス 「ティアルは智樹が好きなんだろ?」

ティアル 「な…な…なな…な…な…!」

アリス (赤い赤い…顔が真っ赤だ…)
アリス 「好きなんだろう?」

ティアル 「す…き…き…ら…す…」

アリス 「? ???」

ティアルは顔を真っ赤にしながら意味不明だった。

ティアル 「す…好きでも嫌いでもないわよ…」

アリス 「…そうか、まぁいい少なくとも私は智樹が好きだ」

ティアル 「て、変なことやってないで様子見に行くわよ…て、なんじゃこりゃー!?」

アリス 「…バリケード?」

見ると階段にはダンボールでバリケードが作られていた。
これはいわゆるストライキというやつか?



…少し前、智樹たちは?



ヴィーダ 「ストライキなのー!」
ヴィーダ 「ティアルにギャフンと言わせるのー!」

ヴィーダはそう言うとどこからか段ボール箱を持ち出して階段に積み上げる。
て、これじゃ降りれないじゃないか!?

智樹 「おい、ヴィーダ、いくらなんでもここまでしなくてもいいんじゃないのか?」

ヴィーダ 「駄目なの! ティアル謝るまでヴィーダ許さないの!」

智樹 (はぁ…子供だな…まぁ実際子供だけど)

しかし、この展開…やっぱりどこかで見たことがあるような気がするんだよな〜?

智樹 「はて…な?」

ティアル 「なんじゃこりゃー!?」

智樹 「ん? ティアル?」

ヴィーダ 「あ! ティアルなのー!」

ティアルは階段の下で派手に驚いていた。
まぁ、いきなりバリケードが出来ていたら驚くわな。

ヴィーダ 「ここから上はヴィーダとお兄たまの陣地なの!」
ヴィーダ 「ティアルが謝るまで許さないのー!」

智樹 「なんで俺まで…」

ティアル 「おのれ智樹! 寝返ったわね!?」

アリス 「……」

智樹 「人聞きの悪いこと言うな」
智樹 「大体悪いのはお前だろ!?ティアル!」

ティアル 「何ですって!?」

ヴィーダ 「謝れなのー!」

ティアル 「誰が謝るかですぅ!」

智樹 「ですぅ? まてよ…これって…?」

俺は瞬間顔が青ざめる。
まさか…この後の展開まで…?

ヴィーダ 「謝らないならこうなのー!」

ティアル 「ああっ! そ、それは私の銃(2丁)じゃないのよ!?」

ヴィーダ 「描き描き描きーなの!」

ティアル 「何するのよー!?」

智樹 (まずい!? こ、この展開あのアニメとまったく同じじゃないか!?)

それは俺が普段使う某薔薇乙女のアニメの話だ。
その話では今回と同じ様にストライキが起きた。
やがて状況は泥沼化し、戦争は膠着状態。
最終的には両者全滅のような形なのだが…。
とある人物の大激怒により事なきを得た。

智樹 (やばい…このままでは間違いなくイェスの逆鱗に触れるだろう! それだけは避けなければ!)
智樹 (ま、まぁ…ここでティアルを追い返さなければ大丈夫のはず…)

ヴィーダ 「チェックメイトだ! なのー!」

ティアル 「きゃあ! や、やめなさい!!」

智樹 「て、なにやってるんだヴィーダ!?」

ヴィーダ 「ヴィーダのクレヨンでティアルは近づけないの!」
ヴィーダ 「謝れなのー!」

なんと、予想外ヴィーダがティアルを撃退してしまった。
まずい…まずすぎる…状況は確実に最悪の結末に向かっている。
このままでは黙示録突入!?

ティアル 「くぅ…このお子ちゃまめ…」

ヴィーダ 「駄目押しにもう一本! なのー!」

ティアル 「ぎゃあっ!」

ティアルは額にもう一本クレヨンをぶつけられる。

智樹 「お前はDI○か!? 投げるな!」

ティアル 「くぅ…もう許さないわよ」

智樹 (やばい…ティアルも起こっている…次アニメで起きていた展開って確か…)

俺はアニメの進み方を必死に思い出す。
まだ時間はある!
必ずどこかで最悪の結末は阻止しなければ!

智樹 (たしか次は台所を占拠!)

まてよ…?

智樹 「たしか、某チョコレートのマキビシが飛んできたはず」

アニメの通りならヴィーダはお菓子に釣られて簡単にひっかかる。
だったらそれを止めずに素直に俺たちが下ればいいんじゃないか。

アリス (面倒なことになったのか…?)



…………。



ティアル 「あなたたち! これを見なさい!」

智樹 (来た!)

ヴィーダ 「!?」

俺はダンボールの向こうを見る。
すると予想通り、家の台所にあったお菓子や食材が散らばっていた。

ティアル 「この家の台所は完全に占拠したわ! 大人しく投降しなさい!」

ヴィーダ 「はっ! ヴィーダ食べ物には釣られないの! 甘くみるななのー!」

智樹 「そうそう! 食い物には釣られない…て、はいぃ!?」

釣られない!?
そんな馬鹿な!?

ヴィーダ 「大体ヴィーダお腹空いてないもん!」

智樹 (oh my gut! 運命の分岐路はいくつにも分かれるが終わりはひとつとはよく言ったものだよ!)

ティアル 「ふっふっふ…そう言っていられるのも今のうちよ!」
ティアル 「時間は現在11時20分…そろそろお昼ごはんよ…ふっふっふ!」

智樹 「ヴィーダ…そろそろ降りないか? ティアルを許してやらないか?」

ヴィーダ 「駄目なの! 大体悪いのはティアルなの! ティアルが謝るまで許さないの!」

ティアル 「はっ! こっちは謝っても許さないわよ!」
ティアル 「これは戦争よ! 戦いは非情さ!」

智樹 「は…はは…ははは…はぁ」

もうおしまいだ…どうすればこの状況を覆せる?
無理だ…俺には不可能だ。

智樹 「アリス〜、ティアルを説得してくれないか?」

アリス 「…ん? 無理だと思うぞ?」

智樹 「俺もそう思うけどさ…まずいんだよ…この展開」

アリス 「…わかった、やるだけやってみる」

智樹 「頼む〜…」

俺はこうなったら最終兵器彼女に全てを託す。
アリスなら…アリスなら…アリス…なら…。

智樹 (…あいつに説得技術なんてあるのか?)

俺は致命的なことを思い出してしまう。
あいつは…恐ろしいほどに不器用なやつだ。
むしろ…ティアルに油を注ぎかねない。

アリス 「ティアル…」

ティアル 「ん? どうしたのアリス?」

アリス 「謝れ」

ティアル 「はぁ!? いきなり何よ!?」

智樹 「やっぱりー! アリス! もういい!」

案の定アリスはティアルの火に油を注ぐような発言をする。
謝れって…もうちょっと穏便に説得を…。

アリス 「だが、ティアルが謝らなければヴィーダは許さない、ならティアルが謝ればそれで済む話だ」

智樹 「いや、机上の理論ならそうなんだけどさ…」

だが、俺たち理屈だけで生きているわけじゃないんだぜ?
謝れったって普通素直にティアルが謝るわけないっての…。

ティアル 「冗談じゃないわよ! なんで私が謝らないといけないのよ!」

智樹 「ほらー!」

ヴィーダ 「お兄たま! やつとの戯言は止せ! なの!」

ティアル 「ヴィーダ! 覚悟!」

アリス 「…大佐?」

智樹 「ああーっ!! なんでこうなるの!!」

最悪の展開である。
もうどうすることも出来ねー!!



…………。



智樹 (時刻11時35分…やばい…やばすぎる…)

いい加減そろそろイェスも帰ってくる頃。
玄関前の階段の辺りは大惨事だ。
悪いのはティアルだが階段の上にもバリケードがある。
これは明らかに監督の不届きが問題…。
へたすりゃ切腹!?

ヴィーダ 「疲れたの…ティアル…謝れ〜…なの〜」

智樹 「ヴィーダも疲れている…」

だが、ここでヴィーダを説得しようがティアルを説得しようが事態は進まない。
他に何か手はないか?

智樹 (そうだ! 蛍! 蛍の存在を忘れていた!)

蛍ならこの展開をきっと打破できる!
俺はそう思うと早速携帯電話を取り出す。

『圏外』

智樹 「駄目だー!?」

なんと圏外と表示される。
なんでじゃ!? ここは東京ですぜ!?

智樹 「くそ! だったら窓際なら!」

俺は自分の部屋に戻る。
俺の部屋では電波は通っていた!



智樹 「よし! 電波が立った!」

俺は急いで蛍に電話をかける。

ツーツーツーツー。

智樹 「で、出ない!? ちょ、じょ、冗談じゃないぞ!?」



…その頃蛍は?



ガタンガタン! ガタンガタン!

蛍 「♪〜♪〜」

私は地下鉄の電車に乗っていた。
とりあえずウォークマンを聞きながら目的地を目指す。

蛍 「♪〜♪〜」

雪野 「あら? 霧島さん?」

蛍 「え? あ! 白姫先輩!」

そこへ白姫先輩が現る。
先輩も地下鉄乗るんだ。

雪野 「おでかけ?」

蛍 「はい、先輩はどうなんですか?」

雪野 「私はちょっとね…」

蛍 「?」

結局…蛍は智樹の役に立てそうにはなかったのだった。



…再び智樹の家。



智樹 「駄目だ…全然でない」

これは蛍が圏外の場所にいるということだろう。
蛍か…全く当てにならんようだな。
白姫先輩の電話番号は知らないし…。

智樹 「こうなったら成明…いや、却下だ」

あいつは絶対駄目だ。
絶対にこの家に呼ぶわけにはいかない。

ヴィーダ 「あああああああああああっ!!!?」

ガタン! ガタンガタンガタン!!

智樹 「!? まさか!?」

突然、外から激しい音がする。
俺は慌てて外に出た。

智樹 「あ…あ…あはは…」

ヴィーダ 「うう…痛いの…」

ティアル 「あ…甘く見たわ」

アリス 「…痛い」

階段に出るとバリケードは見事に壊されていた。
正確には雪崩式にバリケードが階段を落ちたのだ。
ティアルとアリスはバリケードの下敷きに。
そして、ヴィーダはバリケードの上で倒れていた。
最悪…最悪の展開だ。

イェス 「ただいまー…え?」

智樹 「はぁ、もう…おしまいだ」

そして、タイミングを計ったようにイェスが帰ってくる。
本当にタイミングを計ってないだろうな?

ティアル 「あ、お、お帰り…イェス…」

智樹 「はぁ…」

俺は深くため息。
もう展開はわかっている。
家の中はひどい大惨事だ。
廊下には食べ物が散乱し、階段と階段の下にはバリケードに使った大量のダンボールと錘として入れていた中身が散乱。
イェスの顔は真っ青だ。

イェス 「こ…こらー!!!」



…結局、某アニメの通り進むのだった。
イェスの大激怒は免れない…。
なんで…こーなるのよ…はぁ。



…………。
………。
……。



智樹 「はぁ…もしかしてこれからもこんなアクシデントが発生するのか?」

ヴィーダ 「イェス怖かったの…」

ティアル 「真のボスザルはイェスってことね…」

アリス 「…ん」

俺たちはイェスに命令されて急いで片づけをする。
はぁ…憂鬱だ。

イェス 「みなさーん! ご飯の用意が出来ましたよ!」





…さて、今回はちょいっとおまけ。
これは今回とはまた別の一件です。



智樹 「はぁ…」

アリス 「…溜息か?」

俺は片付けが終わった後、縁側で黄昏ていた。
隣にはアリスが座っている。

智樹 「ヴィーダとティアルって相性悪いのかな?」

アリス 「…ティアルは別にヴィーダが嫌いなわけじゃない」

智樹 「でも、些細なことで今回のような喧嘩になったしさ…」

アリス 「原因は智樹だ」

智樹 「俺? なんで?」

アリス 「…どうやらティアルはヴィーダと智樹が遊んでいるのが気に入らないらしい」

智樹 「俺とヴィーダが? んなこといわれてもな…」

ヴィーダは子供なんだし仕方ないだろう。
でも…それってまるでヤキモチ焼いているみたいだな。

智樹 (て…子供相手に普通ヤキモチ焼くか?)

ヴィーダだぞ?
さすがにあれは恋愛対象外だろう。
シ○プじゃないんだぞ?

アリス 「…萌えか?」

智樹 「アリス…お前どこでそんな言葉覚えたよ?」

アリス 「ん…忘れた」

智樹 「……」

忘れたって…一体アリスに何があったんだ?
誰が…アリスに毒したんだ。

アリス 「…そういえばティアルはいつもどこへ行っているんだろう?」

智樹 「どこへ行っているって?」

アリス 「朝から昼にかけてティアルはどこかへ出かける」
アリス 「聞いても教えてくれない」

智樹 「いつもなのか?」

アリス 「土日以外は」

智樹 「バイトでもしてたりな」

アリス 「…どんなバイトだ?」

智樹 「さぁ?」

あいつだったら一体どんな仕事しているんだろうな?

アリス 「そういえば、今日は珍しく午後から出かけたな…帰りは遅くなると言っていた」

智樹 「出かけたのか…一体どこへ行ったのか」

アリス 「……」



『某日 某時刻:新宿』


ティアル 「いらっしゃいませー!」

男A 「ティアルちゃんまた来たよー」

男B 「相変わらず可愛いね〜萌えだよ〜」

ティアル 「ああ! 鬱陶しい! さっさと席に行け! そしてさっさと注文しろ!」

私は新宿のとある喫茶店で働いていた。
この喫茶店…少し…というかかなり普通じゃない。
世間一般的にはメイド喫茶というらしい。
実際ここの制服はなぜかメイド服だ。

ティアル (給料はいいけど…ちょっとねぇ…)

ここの客は9割男…稀に女の子もくるけど。
とにかく男の目がいやらしい。

店長 「んんーっ! ティアルサイコー! もういいわー! あなた一番人気よー!」

ティアル 「て、店長…」

店長はデブである。
しかもオカマである。
そう、男なのだがメイド服を着るわ女口調であるわ…とにかく気持ち悪い。
なんでこんな店長の下にいるかというと訳がある。
私が仕事探しにちょっと遠出して新宿に来た時、変な軟派な男共に絡まれてしまったのだ。
いわゆるナンパというやつだったけど私は当然のように追い払った。
それをたまたま見た店長が…。

店長 「君いいよ! サイコー! あなたの美貌といいその男勝りなところといい私が探していた人材だわ!」
店長 「是非ウチで働かない!?」

ティアル 「はぁ…?」

てな感じで勧誘。
そのままこのメイド喫茶で働いているわけ。

ティアル (智樹に働いているところ見られたくないから新宿なんて絶対智樹の来ないような場所を仕事場にしたけど)

まぁ…店長は変人だけど悪い人じゃないし、給料もいい。
ちょっと客がむかつくけど悪い仕事ではない。
ただ…。

ティアル 「コーヒー1杯500円はどうかと思いますが?」

店長 「いいのよ! ここら辺の相場はそんなものだから!」

と、店長はおおらかに笑って言う。
まぁ、この高さにもかかわらずこの店は連日満席。
毎日行列まで生まれる始末だ。
なんでも、ここは都内でも一番レベルの高いメイド喫茶らしい。
なんのレベルか聞いたけど教えてくれなかった。

ティアル (こんな恥ずかしい姿…絶対智樹には見せられないわね!)

私は絶対にこの仕事は隠すべくして仕事に戻るのだった。
今回はこれだけよ。
え? なんだかいつもより短くないかって?
ごめんなさいね…今回はたしかにちょっと短いの。




第11話 「唐沢トモキの憂鬱」 完


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