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First Destiny 運命の絆

第1章 『新たなる戦士達』


第1話 「運命の少女」




…初めまして。
私はこの世界を創り出した神、『Yuki』です…。
これから私が、この世界を少々案内させていたただきます…。
まぁ、ちょっとしたナレーションといったところです。
それでは、まず世界の舞台を紹介しましょう。


地球…。
そう、様々な歴史を持つ地球…。
地球には様々な世界がある…。

戦う力をなくし、文明を築き、社会という檻で覆った世界。

戦いの歴史を作り、戦争を経て発展していった世界。

宇宙に憧れ、地球を離れ、人が分裂した世界。

裏の人たちによって、救いの手を差し伸べられた世界。

そして…。



チュン…チュン

チチチチ…

カーーーンッ!!

カーーーンッ!!

少年 「…ん、んん…」

カーーーンッ!!

カーーーンッ!!

少年 「……」

そう、この朝を知らせる街の鐘の音で目覚めた、まだ15歳の少年が、この物語の主人公、聖魔 悠(せいま ゆう)なのです。

悠 「うーん…。今日もいい天気だな」

窓を空けて空を見ると、雲ひとつない晴天だった。
俺は窓辺で体をぐーんと伸ばし、目を擦って大きなあくびをした。

悠 「さてと、さっさと着替えて学校に行くか」

俺はテラ・フォースという世界一の魔法学校に通っている。
この学校は俺の住んでいる街、魔法都市ガイアの魔法協会によって、公式に認定されている魔法学校だ。
テラ・フォースは初等部、中等部、高等部、専門部に分けられている。

6(7)歳から〜12(13)歳までの6年間が初等部。
そこから3年間が中等部。
高等部に上がるためにはある試験を受けなければならない。
まぁ、よっぽどの事がない限りは上がれないと言う事はない。
その結果次第で、高等部からはランク分けがなされる。
ランクはE〜Sまでだ。
高等部も3年間。
専門部は本格的に魔法協会の人たちから直接指導を受けるいわばプロの部だ。
そこでは4年間みっちり勉強させられる。
俺はちなみに高等部1年、ランクはS。
1年からSというのは本来異例のことらしい。
ちなみにランク分けはされても、クラスは他のランクと混ざる。
じゃないと、人数がばらばらになってしまうからだ。
なにせ、1年でSランクは俺を含めてふたりしかいない。
ふたりで授業を受けてもなぁ…。



補足:ちなみに、この小説での1年は365日。普段皆が暮らしている日数と同じなのでそのつもりで見てください。
1ヶ月の日数も同じだけど、1週間という概念だけはないから、気をつけてね。(何を…?)
何で同じなの?と言う突っ込みはしない方が楽しめるかもね♪(ヲイ…)
更に言うなら、初等部は小学校、中等部中学校、高等部は高校、専門部は大学、短大、専門、専修学校と覚えればわかりやすいよ☆



というわけで、俺はさっさと壁に掛けてある制服に着替え、同じ部屋のリビング兼キッチンで、あらかじめ用意しておいた朝食のパンを食って部屋を出る。
俺の住んでいる部屋は学生寮だが、時代が少々古いもので4畳半のスペースしかない。
ゆえに、寝る場所も食う場所も必然的に同じだということだ。

ガチャ

俺は部屋の鍵を閉め、寮を出た。

俺は物心着いた時からひとりだった。
一応、昔は孤児院で育てられていたが、その孤児院はもうなくなってしまった…。

ちなみに、2年前までは、今俺が住んでいる街。
つまりこの街は魔法都市ではなく、村だった。
それまで、このレギル大陸で内乱があったからだ。
大陸のことはもう少し後で説明するから、今は置いておく。

レギルの首都、『ディラール』に対して不満を持った連中が反乱軍を結成し、王国軍に戦争をしかけたのである。
ディラール王国の平和な体制を気に入らない、力を信じる連中が起こした反乱である。
その際に、その頃俺が住んでいた村、『ガイア村』も巻き込まれた。
正確にはガイア村だけじゃない、レギル大陸全ての街が巻き込まれ、大陸全土にわたる戦争へと発展した。
だが、最終的にはディラール王の活躍により王国軍の勝利となった。

その戦争が終結し、ガイア村とそのすぐ隣のチェイル村は戦争でひどく崩壊。
もはや生存者も少なく、村としての復活は無理だった。
だが、このふたつの村には『魔導師』がいた。
首都でもほとんど存在しない魔導師がガイアとチェイルには比較的大勢いた。
その魔導師たちを保護するためにも、ディラール王が支援をしてくれた。
他にも、魔導師たちの力を他の人にも伝えるために、ガイア、チェイルの魔導師を中心に、魔法協会が結成。
魔法協会は廃村寸前のガイア村とチェイル村をひとつにし、『魔法都市ガイア』を生み出した。
少なくなった村の人口だったが、首都や他の大陸からも集まり、ほんの1ヶ月程度で都市としてふさわしい人口にまで発展した。
その際に、魔法協会の意志でやむなく俺のいた孤児院は壊され、俺を含めた孤児たちは、孤児院の跡に新しくできた『テラ・フォース』の学生寮に入る事になった。
もっとも、すぐにはできなかったから、しばらくは別の大人たちと混ざった寮に入っていたが。

ちなみに6歳に満たない子供は学生寮とは別の保育園に預けられる。
生活費は、魔法協会が全面的にバックアップしてくれるのでとりあえずは安心だ。
ただし、それは高等部までで、高等部を卒業したら後は自分の力で稼がなければならない。
一応俺はまだ高等部所属なので、生活費は全部ギルド持ちだ。
もっとも、その特別待遇は親のいない孤児だけに与えられる特権だ。

一見やたらと待遇がいいようにも思えるが、難があると言えばある。
その理由は、学生寮は街の外れにあるため、街の中心に位置する学園からは意外と遠く、少し大きな森を抜けなければならない。
ちなみにその森は奇跡の森という名で、由来は大昔に森にある泉に、死んだ人を沈めるとその人が生き返った、などといういかにも怪しい伝説のためらしい。
奇跡の森は結構複雑で、そこまで広くはないのだが、普通の人はまず、迂回する。

迷うのである。妖精などの悪戯によって。
俺も一度、それで迷わされたことがある。
まぁその後、妖精たちをちょっと懲らしめてやったら、その後は平和なもんだ。
だから俺はいつも奇跡の森を通ってショートカットしている。
ちなみに、懲らしめたといってもちょっと脅しただけなので、変な想像はしないように。
現にそいつらとは今では友達だしな…。


というわけで、俺はいつものルートで学校に向かう。

悠 「…もう、そろそろ冷えてくるな」

今は9月20日、もう秋だ。
森の木々も、緑から紅に変わり始めていた。

声 「悠ーーーっ!」

突然俺を呼ぶ声。
俺は頭を抑えてその声の方向を見る。

妖精 「悠ーーーっ!! 大変よーーー!」

悠 「あん? フィーじゃねぇか…」

進行方向の先で、俺をけたたましく呼んでいるのはフィー・テル。
いつも騒がしい奴で、喋るのが大好きな妖精族でフェアリーの女の子だ。

ちなみに、言い忘れていたが、この地球には様々な種族が存在する。
俺は人族。このレギルでは一番多く住んでいる種族だ。
人族は取り柄がほとんどなく、もっとも弱い種族だが、一番数が多い。
フィーは先ほど言ったように妖精族のフェアリー。妖精族自体は、レギルの西にある、グレイヴ大陸に多く住んでいるらしい。
妖精族には更に分類があって、フェアリー、エルフ、ドワーフ、スプライト等がいる。
フェアリーやスプライトは種族体長が平均30cmと小さい。しかし高い魔力を有しており、小さいからといって馬鹿にすると後が怖い。
エルフは人とほぼ同じ外見だが、耳がとがっており、長いのが特徴。
身体能力も人族に比べると高く、森の民とも言われている。
ドワーフは大人でも人の子供ぐらいの大きさだが、体はごつく、パワフルな種族だ。
妖精族は他にも存在するようだが、俺はこれ以上は知らない。

次にレギルの西、グレイヴのすぐ北にあるロウステンドには獣族や、獣人族が多く住む。
獣族は基本的に理性がなく、一般的に動物と言われている。だが、中には理性があったり、言葉を話すことのできる高位の者も存在するらしい。
獣人族は獣族が人のような姿形で2本足で歩くことができ理性も持っている。
分かりやすく言うと、人のそれに獣族特有の皮膚をつけ、顔を獣族に変えただけ、といった風だ。もっとも身体能力は全ての一族の中でもトップクラス。

そして、レギルの北にあるソルジネスには鳥のような翼の生えた翼人族が住んでいる。
翼で飛ぶことは勿論、魔力もトップクラス。
ただ、空を飛ぶことができるため、骨格が軽く、脆い。
力もほとんどないため、争いごとを一番好まない種族でもある。
ちなみに、色々と曰くつきで、噂話が絶えない大陸でもあるらしい。
特に最近は妙な噂が多い…首都ヴェルダンドが世界制服をもくろんでいる!だの…眉唾な物が多いが。

んでもって、レギルの東には、精霊族が多く住むデリトール大陸がある。
精霊族にも分類があり、高位の精霊は見た目が人と変わりない。
中位の者は人とは少し違った外見をしている。
低位の者はほぼ理性がなく、肉眼で見ることすらもできない。大気に漂っており、その数は計り知れない。
精霊族も魔力が飛びぬけており、身体能力も高く、強力な種族と考えられる。

次は、デリトールの北、ソルジネスの東には、希少種と言われている竜族が住んでいる。
竜族にも一応分類があり、高位の者は精霊族と同じく、人とほぼ変わりない。
中位の者は竜の姿をしているが、理性を持っている。
低位の者は理性がなく、獣族とさほど変わらない。ただ、強暴な性格のものがほとんどなので、一般的には近づくのも禁止されている。
身体能力もずば抜けており、獣人族のそれを更に上回る。

最後に、ソルジネスの西、ロウステンドの北には魔族の住むゼルネーヴがある。
最も高い魔力を持ち、高い知性を持った、竜族と並び強力な種族だ。
魔族は誤解されがちだが、そんなに危険なものじゃない。むしろ温和な性格の者が多く、俺にも結構友達がいる。
ここまでにあげたものが一般的に言われる表の世界だそうだ、正式名称は忘れた。
つまり、レギルのちょうど反対側の海には別の裏の大陸が何個かあるらしい。
なんか説明が長かったが、実際には時間はかかってないから、安心してくれ。


悠 「なんだ、フィー? またガセか?」

フィーはガセネタで他人を騙すのが大好きな、困った奴だ。
いつも、ネタをあさって飛びまわっている。
今日も、新しいネタを俺に披露したいんだろう。
さすがに朝からうっとしいので、俺は簡単に流すことにする。

フィー 「バカ違うわよ! 人が倒れてるの!」

悠 「は? 今度はまた大掛かりなネタだな」

とも思ったが、どうにもフィーの奴、本気の表情をしているようにも見える。
普段からふざけている奴だし、本気の顔でふざけたことをするのでイマイチ信用が無い。

フィー 「ああ、もう! 早く来なさいよ!」

フィーはそう言ってすっ飛んでいってしまう。

悠 (…しゃあねぇ、行ってやるか)

俺は結局、走ってフィーを追いかけることにした。
距離はそんなに離れていないようで、すぐにフィーのいる場所に着くことが出来た。

悠 「ここは確か…」

大きな泉があった。
この泉が前に説明した奇跡の泉だ。

フィー 「ほら! ここに!」

フィーはパタパタと羽を羽ばたかせながら、下を指差す。
そこには紛れも無く人が倒れていた。
フィーにしてはマジネタだ。

悠 「うおっ!?」

しかし、俺が驚いたのはそのことではなかった。

悠 「……」

黒い翼…。
それはまさしく、翼人族特有の翼だった。
だが、本来翼人族の翼はほとんどが白い。
例外はあるにしろ、ここまで漆黒の翼を有している翼人族は『普通』見たことも聞いたこともない。
一部を除けば…。

フィー 「ゆ、悠…この子やっぱり…」

いつも、ギャアギャア騒いでいるフィーが、怯えている。
無理もない。
あの時、俺が…。


3年前…。
俺は、孤児院でひとりの翼人族の女の子と友達になった。
俺は幼いながらにも、その子のことが好きになり、その子もまた俺のことを好きになってくれた。
だが、戦争が終結し、孤児院が取り壊され、別の場所に移ろうとする時、突如その子の両親らしい人物が現れ、その子を…

『殺した』

その子も、黒い翼を有していたんだ。
当時、俺はその子の死を悲しみ、絶望した…。
だが、俺は奇跡の泉の伝説を思い出し、こともあろうか、その奇跡の泉に、その子を沈めた…。


悠 (そんな…あの子が、今こうして甦ったというのか?)

見れば見るほど、俺の想像が掻き乱されていく。
背格好は160cm弱で、とてもあの時の子供ではないが、髪型、顔つき、思い当たる節が多かった。
俺は戸惑いながらも、その子を背中に担ぎ、走り出した。

フィー 「あっ、悠!!」

後からフィーの声が聞こたが、無視した。
俺は目立たないように制服の上着をその子に被せて隠し、そのまま全力疾走で寮に戻り、素早く部屋の鍵を開けてその子を運びこんだ。
まるで死体を隠すようにも聞こえるが誤解だ。
俺は、その子を俺のベッドに寝かせ、傷の手当てをすることにした。

少女 「う…ううん」

俺が救急箱を探していると、少女は目覚め、体を起こそうとした。

少女 「ぅ…痛……」

少女は体の痛みに体を丸めた。
俺はすぐに駆け寄って両肩を支えてやる。

悠 「まだ起きない方がいい!」

強めにそう言って、その子をもう一度ベッドに寝かせる。
少女はそんな俺の顔を見て呟く。

少女 「あなたは…?」

悠 「……」

やはりあの時の少女がフラッシュバックする。
仕草さえもコピーのように思えた。
俺は冷静を装って答える。

悠 「…俺は、聖魔 悠」

そう名乗り、俺はまず回復魔法でレイナの傷を治療する。
見たところ、体のあちこちに傷があり、服装もボロボロでちょっと目のやり場に困る状態だった。
しかもこのプロポーション…あの子が成長したらこうなんだろうか?
魔法をかけながら、俺は質問することにした。

悠 「何で、泉で倒れていたんだ?」

いくつか聞いておく必要はあった。
もしあの子と一致するのなら、俺は…。

少女 「…わからない。何も思い出せないの…」

少女は首だけを俺の方に向け、そう言った。
悲しげな瞳が酷く印象に残る。

悠 「名前は…?」

少女 「名前……」

少女は思い出そうとするが、頭を右手で抱え、ふるふると、横に振るだけだった。

悠 「そうか…じゃあ、『レイナ』っていう名前はどうだい?」

俺は救急箱から包帯を取り出して、それをレイナの傷痕に撒いてそう言う。

少女 「レイナ…?」

悠 「ああ、レイナ・ウインド…」

そう、それは俺の好きだった、翼人族の女の子の名前だ…。
俺は確信はないが、この子がレイナの甦った姿だと思いたかった。
だから、この名前をつけたかった。
…勝手な判断だな。
個人の感情で、人を動かそうだなんて。

少女 「レイナ…ウインド……」

少女は天井を見上げながら、そう繰り返した。
そして、何かを考えているのか、ゆっくりと俺の方を向き。

少女 「私には、名前が思い出せないから、それで構わない…」

そう言った。
俺は少し大げさに喜んで。

悠 「よしっ、じゃあ君は今日からレイナだ!」

そう言って彼女の手を取った。
冷たい…まるで死人のように冷たい手をしていた。

レイナ 「ありがとう…」

少女は小さくそう呟いた。
だが顔は笑っていなかった。

悠 「ところで、レイナは翼人族なのか?」

無理だとも思ったが、あえて訊いてみた。
ひょっとしたら、それぐらいは覚えているかもしれないからだ。

レイナ 「よくわからない…でも、悠さん言うんだったら多分そうだと思う」

レイナはあいまいながらもそう答えた。

悠 「そっか…」

俺は、傷の手当てを終えると、救急箱を直して時計を見た。

悠 「げっ! もうこんな時間かよ! おもいっきり遅刻じゃねぇか!」

俺は今更ながらそう驚く。
そう言えば登校中だったな…忘れていたぜ。
制服姿で鞄まで持っていたのに、説得力の無い忘れ方だが。

レイナ 「……?」

レイナはよくわからないといった風に俺を見つめる。

悠 「ごめん! 俺、もう行かなきゃならないから、しばらくこの部屋で休んでいくといいよ!」

俺は早口でそう言って、鞄を担ぎ、走り出そうとする。

レイナ 「あの…悠さん」

そこでレイナが俺を呼びとめる。
俺はさすがに気になってこう言う。

悠 「別に『悠』でいいよ」

レイナ 「あ、悠…その…ありが、とう……」

レイナは戸惑いながらも、もう一度、礼を言った。
その仕草があまりにも可愛くてツボに入った。
俺は当然、笑顔で答える。

悠 「どういたしまして♪」

俺はそう答えて、部屋を出て鍵を閉めた。
そして、俺は全力でダッシュする。
間に合う確率はほぼないが…。

悠 「ちくしょー! 完全に遅刻だー!! 最近ルーシィのやつがうるさいからな…」

ルーシィとは、俺の幼馴染の女の子でフルネームはルーシィ・ティアーズ。
俺が6歳のころからの付き合いだ。
ルーシィは親が有名なピアニストで、ルーシィも6歳のころからピアノをやっていた。
俺も何度か聞いたことがあるが、その時の俺にはよく分からなかった。
ただ、上手だな…としか。

だが、そのルーシィも、戦争が終わった後にピアノの勉強で別の街に一時的に引っ越した。
俺はその頃、すでにレイナの死に悲しみ、しばらく気力がなくなっていたのが今では悔やまれる。
その時、俺はルーシィは『さよなら』を言えなかった。
何も、言えなかった…。

そして、今年になって、ルーシィはテラ・フォースに入学すると共に、この地に帰ってきた。
当然だが俺に『ただいま』はなかった…。
俺も、今更なので何も言わなかった。
それから、帰ってきてからというもの、ルーシィは俺を目の敵にし、何かと俺に突っかかった。
なにしろ、ルーシィは1stながらに生徒会長だ。
実力は皆が認めるほどに高い。
だが、ランクはA。
本来はSにも上がれるらしいが、本人にまだその気がないらしい。
余程俺に恨みがあるんだろう…。
残念ながら俺に弁解の余地は無い。



こうして、俺はなんとか学園に辿り着いた。
完全に遅刻だが…。

悠 「くっそ〜。遅刻したぐらいであんなに説教しやがって…ルーシィのやつ、やっぱ俺を恨んでやがるな…」

俺がそうぼやいていると、ひとりの少年(?)が俺の前に立った。
170cmの長身で、腰の下まで伸びるロングヘアーが印象的な、少年よりもむしろ男性といったほうがしっくりとくる美形の男だ。
ちなみに魔族で俺の親友のバルバロイ・ロフシェルだ。

悠 「なんだ、バルか…」

俺はこいつのことを愛称でバルと呼んでいる。

バル 「何だとは何だ…、ところでお前が遅刻とは珍しいな」

更に、このバルも、1年の中で俺を含めたったふたりのSランクだ。

悠 「ちょっとな…寝坊だ」

できれば、まだレイナの事は秘密にしておきたかった。
俺は悟られないように冷静に答える。

バル 「そうか…ところで聞いたか?」

悠 「何をだ?」

俺は今まで説教されていたので今日のことは何も知らない。
バルもそれはわかっているだろうに…あえて聞くのか。

バル 「やはり知らなかったのか 怪物(モンスター)だよ」

悠 「はぁ? モンスター?」

バルはいきなりそんな突飛なことを言い出す。
このガイアにモンスターとは…。
今の今まで、この街にモンスターが現れたことはほとんどない。
でても、すぐに協会の連中か自警団が街の外で退治していたからだ。

バル 「ああ、何でも奇跡の森の泉付近で、黒い翼の生えた翼人族と交戦していたらしい」

悠 「…!?」

俺はその言葉を聞いて、しばらく止まった。

バル 「どうした?」

俺が止まったのを不審に思ったのか、バルは訊ねた。
俺は極めて冷静に。

悠 「いや、何でもない…」

そう答える。
確実に翼人族はレイナだな…。
まさかモンスターと戦っていたとは…。
それで、傷だらけだったのか。

悠 「ちなみに、どんなモンスターだ?」

バル 「さぁな…そこまでは聞いていない」
バル 「とりあえず、今日の放課後から早速行くぞ」

悠 「は? どこに?」

俺は意味がわからずにそう答える。
バルはそれを聞いて呆れたように。

バル 「バカか…部活だろうが」

ああ…と俺は思う。
俺は一応部活に所属している。
しかも、その名もステキ♪『魔法都市防衛部』
名前からして意味がわからん…。
要するにこの街を守ろうという部活だ。
何でもいいから規則として、部活に入れといわれたので、自分で作ってみたのだ。
一応部としては、本来5人いなければならないので俺は片っ端からメンバーを寄せ集めた。

ひとりはここにいるバル。
そして、同じクラスで猫の姿をした獣人族の女の子、ミル・クレア。ランクはB
人族の少年、ガイ・グラトン。ランクはC。 同じく人族のジェイク・ストローグ。ランクはA
そして、エルフの女の子、エイリィ・セルフォーゼ。ランクはA

今更ながら、よくこの面子が集まったと思う…。
バルは、俺に同意してこのクラブを作ることにしたから当然だし、ミルは動機が『楽しそう』…だったからなぁ。
ガイは俺と同じように行く所がなかったから、引き抜いた。
ジェイクは…無理やり引きこんだ。
エイリィに至っては土下座して頼みこんだ。
頭数だというのがバレたからだ。
そんなこんなで、部活を作ったのはいいが、実際全然活動してない…。
モンスターなんてあまりでないし、事件もほとんどない…。
平和すぎるこのガイアでは活躍できん…。
だから、すでに忘れていた…。

悠 「じゃあ、みんな集めるのか?」

バル 「…できるならやれ」

悠 「了解…俺たちでやるか」

恐らく言っても、こないだろうし。
それに、これはできれば俺がかたづけたかった。


………。


そして、今日の授業が全て終わり、放課後に突入した。

バル 「じゃあ後は各自、自分の判断でモンスターを探してくれ! 見つけたからといって無理はするなよ!?」

なんか、バルがしきってるし…。

悠 「しかし、よく集まったな…」

俺は無駄に集まった部活のメンバーを見て唖然とする。

ミル 「え? だって、久しぶりの部活でしょ? わくわく…」

ミルは何やら遊び半分で討伐に向かった。
こいつがある意味一番危ない…。

ジェイク 「やれやれ…こういうことは協会か自警団に任せるべきだろうに…」

ガイ 「ぼやくなよ…適当にやればいいじゃん」

ガイとジェイクもやれやれといった風に討伐に向かった。
こいつらはまぁ分をわきまえてるから問題ないだろう。

エイリィ 「…この事件、気をつけた方がいいかもしれないわ」

悠 「…あん?」

突然エイリィが呟くように言う。

エイリィ 「…一応、気をつけた方がいいということ」

エイリィは意味ありげにそう言って、討伐に向かった。
まぁエイリィに限っては大丈夫なんだろうが…。

悠 「やれやれ、俺は一度寮に戻って、用意するよ」

バル 「ああ、わかった。じゃあな」

バルはそう言って、討伐に向かった。
俺は皆の背を見つめながら寮に戻ることにした。

一見、あんな面子でモンスターの討伐は危なそうに見えるが、俺とバルはSランクということで並のモンスターぐらい余裕で倒せる。
他の面子にしたって、それなりの力があるから、余程のことがない限り危険という事はないと思うが…。


………。


俺は部屋の鍵を取り出し、部屋の鍵を開けようとした。
が、回らなかった。

悠 「あれ?」

なんと、ノブを回すと開いた。

悠 「!?」

俺はすぐに部屋の中に入り、レイナを探した。

悠 「いない…」

予想通り、レイナはいなかった。
俺はテーブルを見ると、そこに手紙があることに気づき、それを読んだ。



悠へ。
傷の手当てをしてくれて本当にありがとう。
あれから、少しだけ記憶が戻ったの。
私は黒い翼の翼人族。
私の黒い翼は周りの人に不幸を呼び寄せてしまう。
だから、私はここを出ます。
悠に迷惑はかけられないから。
それから、私なんかに名前をつけてくれてありがとう。
悠の事は、忘れません…。



悠 「くっ!!」

俺は机の横に立てかけてあったロングソードを取り、部屋の戸締りもせずに駆け出した。

悠 「レイナ! 待ってろ!」

俺は街中を走りまわった。


………。
……。
…。


悠 「クソッ! どこにいるんだ!?」

数時間ほど走り回ったが、さすがに疲労して、俺は足を止めた。
が、その時。

ドーンッ!

爆発音、直後。

声 「キャーーーッ!」

悲鳴が上がる。

悠 「!?」

俺はすぐにそれを察知し、駆け出した。



悠 「はぁ…はぁ…レイナ!」

俺が街の広場に辿り着いた時、俺の予想通りそこに『レイナ』はいた。
そして、モンスターも。

レイナ 「悠…?」

レイナは倒れていた…モンスターの足下に。
俺はモンスターを見た。

悠 「ガーゴイルだと…?」

ガーゴイル石造のような姿をした魔族で、普段こんな街中に姿を現すことはない。
大抵は高位の魔族に操られて、街や城のガードとしてふんぞり返っているもんなんだが…。
そのガーゴイルが何故レイナを…?
だが、今の俺にはそんな事はどうでもよかった。
レイナが危険だ!
俺は剣を構え、ガーゴイルに向かって突っ込んだ。

悠 「はあああ!!」

俺は剣でガーゴイルに切りかかる。

ブンッ!

だが、剣は空を薙ぐ。
ガーゴイルはすぐに空中に飛び上がったからだ。

悠 「ちぃ…」

空中で大きな翼をはためかせながら、ガーゴイルは嘲笑う。
石で出来ているくせに飛べるのかよ…どうせ魔力かなんかなんだろうが。

ガーゴイル 「ククク…おまえに用はない。俺の用はその小娘にある」

悠 「何?」

ガーゴイルは笑いながら、レイナを指差してレイナに語り始める。

ガーゴイル 「ククク…レイナ。呪われた子…ククク…お前はこちらに来い…」

レイナ 「うう…あ、頭が……」

レイナが頭を抱えて苦しむ。
見た目に変化が見られないが、恐らく催眠系の魔法だろう。

悠 「レイナ!!」

俺は急いでレイナに駆け寄る。

レイナ 「嫌っ! 来ないで!」

悠 「!?」

俺は立ち止まる。
いや、『止められた』
何か強いフィールドで進行を阻まれた感じだ。
俺はガーゴイルの方を見るが、何かをしたようには見えない。
ということは…。

悠 (レイナの力なのか!?)

だが、そのレイナは何かに怯えるように体を抱えて叫ぶ。

レイナ 「怖い…誰か助けて……! 誰かぁぁぁっ!!」

レイナは虚空を見つめ、小動物のように怯えきっていた。
レイナの周りに肉眼で確認できるほどのフィールドが形成されている。
とてつもない魔力の集合だ。
並みの人間では触れることはおろか、近づくことも出来ないだろう。

ガーゴイル 「ククク…カカカカカッ! さぁ、こっちへ来い!! そうすれば楽になれるぞ!」
ガーゴイル 「呪われた子よ! お前は『こっち側』の存在なのだ!! 早く全てを受け入れろ!」

悠 「………」

その一瞬を境目に、俺の意識は切り替わる。

『コロセ』

俺の中の何かがそう呟く。
その瞬間、俺は魔力を右手に集める。

悠 「……!」

俺の右手に雷撃の塊が集まり、それをガーゴイルに向かって投げつける。

ガーゴイル 「!?」

ドガァッ!バチバチィ!

ガーゴイルは魔法を受けて爆発と共に地に落ちる。

ガーゴイル 「キ、貴様ァッー!?」

悠 「………」

俺は次の魔法を放つ。
次の瞬間、ガーゴイルの足下から岩の鎖が絡みつき、動きを止める。

ガーゴイル 「ググ…コ、コノ『力』ハァッ!?」

悠 「消えろ……アステロイド・フレア!!」

俺の両手を中心に、大気が集まり、収束、融合していく。
そして、できた魔法弾をガーゴイルに向かって放つ。

カッ!! チュドーーーーーーンッ!!!

直後、大爆発。

通行人 「うわーーー!」

通行人 「キャーーー!!」

ガーゴイルの中心、半径数10メートルにわたって広場は消し飛んだ。

悠 「……!?」

そこで俺は正気を取り戻す。

悠 「また、俺は…?」

度々あることだった。
何か、俺がキレるたびに俺の意識は別の者に変わり、気づいた頃には辺りが消し飛んでいることがある。
…その度に自警団のお世話になってるなぁ。
今回もそうらしい。
だが、今回は微妙に事情が違う。

悠 「レイナ!」

俺は爆発のことには目もくれず、倒れているレイナの側に向かった。
爆発に巻き込まれてしまったのか、擦り傷や火傷の跡があった。
よろよろと起き上がるが、力が無い。
俺はすぐにレイナに手を伸ばす。
…が。

レイナ 「嫌っ! 来ないで!!」

レイナは強く拒絶する。
レイナはまだ、さっきの催眠だか魔法だかにに怯えているんだ。
今度はフィールドが展開されていなかったので、俺はレイナの側にかけより、レイナの肩を掴んで話しかけることができた。

悠 「レイナ! 俺だ、悠だ!!」

レイナ 「悠…?」

レイナは俺の目を見た、直後。

ドンッ!

レイナは泣きながら俺に抱きついた。
ちなみに少々痛い…。

悠 「レ、レイナ…」

よほど怖かったのか、レイナの体は震えていた。
がくがくと俺の体を掴む手が震えて、今にも崩れそうだった。

レイナ 「…怖かった。黒い…黒い影が私に迫ってくるの…!」

レイナは俺の胸に顔を埋めてそう叫ぶ。
俺は優しくレイナの頭を撫でて元気付ける。

悠 「大丈夫だ! もう、俺がついてる!」

レイナ 「うん…」

レイナは顔を上げ、俺の腕の中で小さく頷いた。

バル 「おい! 悠、自警団が来たぞ!!」

直後、バルがそう報告する。
恐らく、広場の件だろう。

バル 「こっちは俺が何とかするから、お前はその子を連れて逃げろ!」

バルはそう言って、自警団の方に向かった。

悠 「バル…」

俺はレイナの手を握り。

悠 「さぁ、こっちだ!」

そう、誘導した。

レイナ 「…うんっ」

レイナはそう答え、俺の手に引かれるままに走り出した。


………。


俺はレイナを連れて、寮に戻り、またレイナの手当てをした。
俺のせいで傷だらけになってしまったからな…。
俺は自分の情けなさを悔やんだ。
精神修行もしなきゃならないな…。

悠 「大丈夫? 痛くないか?」

俺はとりあえずまた傷を魔法で治し、包帯をまた巻いて、一応そう訊ねた。

レイナ 「うん…大丈夫」

レイナは静かにそう答えた。
今回は、少し落ち着いているように見えた。
表情もやや明るく見える。


………。


しばらくの沈黙、俺はレイナをベッドに座らせて、床に寝転んだ。

レイナ 「…ねぇ、悠?」

その沈黙を破って、レイナが俺に尋ねる。

悠 「なんだい?」

俺は体を起こして、そう聞き返す。

レイナ 「どうして、悠は私を助けてくれるの?」

レイナは不思議そうにそう訊ねた。
いや、実際そうなんだろうけど…。

レイナ 「私を助けても、悠に迷惑がかかるだけなのに…」

悠 「………」

本当のことは言えなかった…。
あのことを話して、レイナが別の人間で、実は全く人違いだった。となるのが怖かった…。
それ以上に、レイナが俺の元を離れるのが怖かった…。

悠 (俺は…ずるいよな)

ただの個人的感情でレイナを捕まえておこうなんて…。
別人かもしれないのに…。

レイナ 「悠…?」

レイナは俺の顔をじっと見つめていた。

悠 「…あっ、ごめん」

俺は頭を掻く振りをして笑ってごまかした。
あまり、余計な詮索は入れられたくなかったからだ。

悠 「ただのお節介だよ…ほっとけないよ。レイナみたいな可愛い女の子は」

それを聞いて、レイナは少し恥ずかしそうに。

レイナ 「そ、そうなの…?」

悠 「ああ、男として当然ってことさ」

嘘だ…。
本当はあの頃に戻りたいだけなんだ…。
俺がレイナを好きだったあの頃に…。
いや、今でも好き…か。

レイナ 「…ありがとう」

レイナはこれで3度目の礼を言った。

悠 「いいんだよ、俺はやりたいからやったんだから」

レイナ 「うん…その代わりっていうのもなんだけど、悠に恩返しさせて」

悠 「…恩返し?」

一瞬変な想像をして紅くなるが、すぐに意識を切りかえる。
そんなおいしい…いやいや、都合のいい展開があるわけがない。

レイナ 「お願い! 私、こんなことしか思いつかなかったけど…恩返しがしたいの!」

おいおい! 待て! その展開は…。

悠 「待てっ! レイナ、それはいかん!!」

俺は顔を真っ赤にしながら止める。

レイナ 「え…?」

悠 「レイナ…もっと、体を大事にしろ」

レイナ 「…何の事?」

レイナはきょとんとしてそう言った。

悠 「へ?」

レイナ 「私…悠の為にご飯を作ろうと思っただけだけど…」

悠 「………」

レイナ 「……?」

悠 「………」

しばらくの沈黙。
俺は妙に気恥ずかしくなる。
そう言えば…レイナって記憶喪失だっけ。

レイナ 「体って何の事?」

悠 「…い、いや…あの、その…」

レイナはやや変な眼差しで俺を見る。
警戒されているようにも見える。
俺は凄まじい羞恥心に包まれ、体が火照る…。

悠 「ご、ご飯ね…そこの冷蔵庫に材料あるから、好きに使って…」

俺は冷蔵庫を指差し、そう答えた。
さすがに冷静ではいられなかった。

レイナ 「…じゃあ、待ってて。すぐに作るから」

悠 「ああ…」

しかし…恩返しに夕飯とは。
それしか思いつかなかったって…。
やっぱり記憶喪失だから?
俺がそんなことを考えていると、レイナは黙々と夕飯を作り始めた。
と言っても、俺は普段自炊なんかしないから、レトルト位しかない気が…。

悠 (そういえば、レイナ、記憶喪失なのに料理できるのかな…?)

かなり不安だった…。


………。
……。
…。


そして、できあがった。

悠 「おお、カレーにサラダか」

テーブルの上には冷蔵庫に無駄に残っていた野菜のサラダと、レトルドカレーに余り物の安肉ビーフを混ぜた、そのままビーフカレーが並んでいた。
ドレッシングも手作りだ…無駄に凝ってる。

レイナ 「味は…多分悪くないと思うけど」

悠 「味見はしたんでしょ?」

一応聞いてみる。

レイナ 「味見って…?」

悠 「いや、何でもない…」

やはり不安だった。
だが、俺は勇気を出して食べることにした。

悠 「……」

レイナ 「……」

レイナは真剣に俺が食うのを見ている…。

パクッ

俺は一口食う。

悠 「!!」

レイナ 「…ど、どう?」

レイナがおどおどしながら訊ねる。

悠 「…うめぇ」

文句なしだった。
記憶喪失のはずなのに何でこんなに美味いんだ?
そういえば、以前のレイナも料理が上手かった。
よく、孤児院で皆(俺含む)に料理を食べさせていた。
その頃のカレーの味によく似ていた。
レトルトなのにな…。
あの時もそう言えば、孤児院は金が無くてレトルトで作ってた記憶を思い出す。
思い出しながら、俺はサラダも食べてみる。

パクッ

やはり美味い、そして懐かしい味だった…。
あの頃の記憶が甦るようだ…。

悠 「う、うまいッス…」

レイナ 「ほ、ほんとっ?」

俺はただ無言で頷いた。
そして、あっという間に食べ終えた。

レイナ 「…よかった」

レイナは安心したのか、ほっと胸を撫で下ろした。
俺は少し疑問にも思ったが、体が覚えていたのだろうということで片づけた。
俺は、やはりこのレイナは、あの頃のレイナと同一人物だと思い始めた。
しかし、記憶がない間レイナはどうする気なんだろう…?
俺は訊いてみることにした。

悠 「レイナ…君はこれからどうするんだい?」

レイナ 「…私は」

レイナが何かを言いかけたその時。

ドンドンドンッ!

ドアを叩く音、俺はすぐに返事をし、少し重くなった体を動かしてドアを開けた。

ガチャ

悠 「誰だ?」

バル 「俺だ…」

悠 「おお、バル。無事だったか」

バル 「何が無事だったか、だ。こっちはお前の後始末で大変だったんだ」

バルは冷静にそう言って、部屋に入った。

悠 「それより、あの後どうなったんだ?」

バル 「ああ、まず職務質問だ…それから身体検査。その後に事情調査だ…」

悠 「悪いな…俺のせいで」

バル 「まぁ、明日は覚悟した方がいいな」

悠 「うぐ…」

きっと、またルーシィがうるさいんだろうな…。
そんなやりとりを特に気にしないのか、レイナはキョトンとしていた。

バル 「さて、本題に移るが…お前、その子をこれからどうする気だ?」

バルは突如真剣な目をし、レイナを指差して俺に尋ねる。
レイナはバルと俺とを会話に合わせて交互に見る。
無駄に可愛い仕草だ…。

悠 「どうって、俺がかくまう気だけど…」

バル 「…その子は住民登録をしているのか?」

レイナ 「…わからない。目覚めたら何も覚えてないし、いきなり襲われた」

レイナは俯いてそう答えた。
襲われたと言うところが激しくエロ臭いが、事情はわかっているはずなので突っ込まないでくれ。

バル 「住民登録をしていない者をかくまったら、重罪だぞ?」

悠 「じゃあ、すればいいじゃん…」

バル 「もう遅い…すでに街に入ってるんだ。今からいっても捕まるか、追い出されるだけだ」

悠 「じゃ、どうすんだよ!」

俺は回らない頭を爆発させて突っかかる。 ← 勉強が足りない奴

バル 「住民登録を無断で書くか、ばれる前にこの街を抜けるかだな」

悠 「…う〜む」

レイナ 「…私は、この街を出るわ」

レイナは唐突にそう言い出す。

悠 「そんなっ!?」

レイナ 「ごめんなさい…でも私、旅に出たいの」

悠 「旅…?」

レイナ 「うん…私、自分の記憶を取り戻したいの。そして…自分の運命を知りたいの…」
レイナ 「悠には悪いけど…ここにいても私は多分前に進めない」

悠 「………」

俺は何も言えなかった。
レイナは俺と違って、大切の物を見据えている…。
それに比べて俺は…自己満足だけで、何も考えていない。
俺は決断した。

悠 「俺もレイナに着いて行く!」

バル 「…正気か?」

悠 「ああ! レイナひとりじゃ心配だし、レイナは俺が守る! 今そう決めた!!」

バル 「学校はどうする?」

悠 「1stの単位はもう取ってるの知ってるだろう? 別に残りサボっても2ndには上がれるし」

バル 「そうか、わかった。一応俺が休学届を出しておいてやる」

悠 「わりぃな、頼むわ」

こう言う細かい親切が、何気に行き渡っているのもこいつのいい所だな。

レイナ 「でも、悠…」

レイナが何かを言おうとするが、俺はレイナの言葉をさえぎって。

悠 「気にするなって! 迷惑だなんてこっちはひとっつも思わないから!」

それを聞いて、レイナは折れる。

レイナ 「…わかった。じゃ、お願い」

悠 「おう!」

俺は返事と共に、ガッツポーズをとった。

レイナ 「じゃあ、今日はもう休んで、明朝5時に出発しましょう」

悠 「ああ、わかった。じゃあ今すぐ準備しないと…」

バル 「…ふたりきりだからと言って、変な事するんじゃないぞ?」

バルは立ち上がっていきなりそう言う。
また俺の中で色々と妄想が掻き立てられるが振り払う。

悠 「何の話だぁ!?」

バル 「彼女が記憶喪失なのをいい事に、恥ずかしいことをさせるなよという意味だ」

悠 「させるかっ!!」

レイナ 「…そういえば、結局私の『体』って、どういう意味だったの?」

あまりにも絶妙なタイミング…。
見ると、バルが不信の眼差しを向けている。

バル 「…レイナ、せいぜい『操』には気をつけろよ」

悠 「あのなぁ…」

笑えないジョークだ。

バル 「そろそろ俺は帰る。明日は見送りにはいかんが、達者でな」

悠 「…ああ、またなバル」

バル 「くれぐれも、襲ったりするなよ?」

悠 「しつこい!!」

俺がそう一喝すると、バルは部屋を出た。
ったく…普段無口なくせに、どうしてこう言うときだけ無駄に突っ込むかな…。
俺はため息を吐きながら、明日の準備を済ませる。

悠 「さてと、服は新しいのを着ていくだけでいいか。んで、俺の愛用の皮手袋と…」

俺は明日着る服と手袋を綺麗に畳んで床に置いた。

悠 「マジックリングも持っていった方がいいな…んで、ロングソードに、傷薬。これでいいだろ」

レイナ 「終わった?」

俺があらかた終えると、レイナが確認してくる。

悠 「ああ、レイナは?」

レイナ 「私は、元々何も持ってないし、あるといえばこの目覚めた時から持ってるこの短剣だけ」

レイナはそう言って、ズボンのポケットから一振りの短剣を取り出す。
と言っても、かなり小さいもので、どっちかというとアクセサリーのようなものだ。

悠 「!?」

だが俺はその短剣に覚えがあった…。
レイナが肌身離さずに持っていた短剣。
俺はあの時、確かにその短剣と共にレイナの遺体を沈めた…。
という事は…やはり、本人なのか?
俺は確かめてみることにした。

悠 「レイナ、ちょっと見せて…」

俺はその剣の刃を見た。

『L・V』

そのマークがあった。
未だに何の意味かがわからない。
だが、今度は確信できた…。
そして、俺は間違ったことはしていない。
そう思うことにした。
俺は剣をレイナに返し。

悠 「OK! じゃあ、もう寝よう。明日の服は俺のをあげるよ」

レイナ 「えっ、うん…」

そういって、俺はレイナの着れる服を出して、それを俺の服の横において、俺は床で眠りに着こうとした。

レイナ 「えっ、悠、このベッドは…?」

悠 「ああ、レイナが使って。俺は別にいいから」

レイナ 「で、でも…」

悠 「…ZZZ……ZZZ」

レイナ 「…ありがとう」

私も眠りにつくことにした、明日は早いから早く寝よう…。
私の記憶…見つかるよね。
だって、悠がいてくれるもの…。
私はそう願い、明かりを消して眠りに着いた。



………。
……。
…。



レイナ 「……?」

気がついたら、暗闇の中にいた。
周りは何も見えなく、ただ黒が広がっていた。

レイナ 「どこ、ここ…?」

その時、かすかに声が聞こえた。

声 「…レイナ」

レイナ 「誰? 誰かいるの!?」

私は呼びかけてみるが返事はない。
そして、声だけが聞こえる。

声 「レイナ…呪われた子……」

私はその声に聞き覚えがあった。
いつも私を追いかけてくる黒い影の声。
私は途端に悪寒を感じ、体を振るわせる。

レイナ 「嫌っ! 来ないで!!」

私は、恐怖にかられ、どこかもわからずに走り出した。
足場さえも曖昧で、前に進んでいるかどうかも分からない。
翼をはためかせても黒しか見えない。
だが、声はどこにいっても聞こえる。
…むしろ近づいてくる。

声 「レイナ…レイナ…呪われた子…」

レイナ (嫌…いやいやいヤイヤッ!! 助けて…たすけてたすけテたすケテたスケテタスケテェッ!!)

声 「呪われた子…呪われた子…のろワレタ…のロワレ…ノロワ…」

レイナ 「イヤアァァァァァァァァァァッッッ!!!」

私はがむしゃらに逃げた、どこに向かっているかもわからない。

レイナ (悠! ゆう、ユウ!! タスケテユウ!!!)

私は悠の名前を呼んだ。
悠なら私を助けてくれる…。
だから、私は悠の名前を心の中で叫んだ。
私は目の前に誰かいることに気がついた。
ただ黒いだけの世界の中、その人の姿だけは見ることが出来た。
そして、その人には見覚えがあった。

レイナ 「悠!」

私は喜びに打ち震えた。
私は悠の元に駆け寄った。

声 「レイナ…呪われた子」

その声はもっともすぐ側で聞こえた。

レイナ 「え…?」

そこで、私の意識はあいまいになった。
自分が何をしているのかよくわからなかった。
ただ、嫌な感触が残る…。
心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。
再び黒い世界が視界に広がる。

レイナ 「…?」

放心していると、徐々に、視界が見えてくる。
最初に見えたのは血まみれの自分の手。
自分の体を見ると、全身血まみれ。
そして、すぐ側で横たわる悠。

レイナ 「ゆ、悠…」

私は悠に駆け寄ろうとした、でも…。

レイナ 「っ!?」

目の前の悠は全身バラバラで、体が穴だらけになり、もはや人間として原型をとどめていなかった。
突然悠の死体がこちらを向いて脳や眼球が垂れ落ちた頭がヘラヘラと笑っているようにも見えた。
直後、嘔吐感を一気に催す。

レイナ 「うっ!」

自分の手で人の体を貫いたような感覚だけが残る…。
まさか…。

レイナ 「ワタシ…ガ…ユウ……ヲ………?」

声 「レイナ…ノロワレタコ……」

レイナ 「ィ…イ、イヤアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!」





悠 「レイナ!!」

レイナ 「はっ!?」

気がつくと、目の前に悠がいた。
夢…?
でも、今でも確かに手に感触が…。

悠 「大丈夫か? いきなり叫んでたけど…」

レイナ 「…大、丈夫……」

全く大丈夫には見えなかったと思う。
私は大きく息を乱していた。
確実に精神を乱している。
でも、これ以上怖がっても仕方がなかった。
これから、その『何か』と戦わなきゃならないから…。
今度こそ、悠がいてくれる…だから大丈夫だよね?
私は信じることしか出来なかった。

レイナ 「うんっ、もう大丈夫!」

私は小さくガッツポーズを取った。
やや無理やりだったが、悠は笑って納得してくれた。

悠 「…じゃあ俺は先に外に出てるから、着替えたら出てきて」

悠はそう言って、部屋を出ていった。

レイナ 「うん。すぐに行くわ」

私は悠の用意してくれた、蒼いズボンと黒いシャツを着て、その上に皮のコートを着る。
妙な指輪が一緒に置いてあったが、忘れ物だろうか? 私はそれを持って玄関に向かう。
靴も悠が余分に持っていた物を貰って、それを履き、外に出た。

レイナ 「悠…この指輪は?」

私がそう言うと、悠は『ああ』と頷き。

悠 「レイナへのプレゼントだよ」
悠 「マジックリングって言って、魔力を高める指輪なんだ」
悠 「魔力を集めて攻撃することもできるし、防御することもできる」
悠 「結構レア物なんだが、レイナにあげるよ」

レイナ 「そうだったの…あ、ありがとう」

私はその指輪をしげしげと見つめ、何気なく左手の薬指にはめた。

悠 「…わざとやっているのか?」

悠が突然そう言う。
私、何か間違ったのかな?

レイナ 「え! 何か違ったの!?」

悠 「いや…間違ってはいないが、まぁレイナがそれでいいなら」

レイナ 「え…うん」

何やら疑問が残ったが、良しとしたようだ。


悠 「じゃあ出発しよう。まずどこに行く?」

レイナ 「よくわからないけど、北の方…そこに何か感じるの」

私は何故か北と思える方向を指差す。
何故はわからない。でも、私を呼んでいるようにも思えた。

悠 「北…ヴェルダンドか」

レイナ 「ヴェルダンド?」

全く覚えがなかった。

悠 「ああ、翼人族の国だよ。そうか…レイナはそこに引き寄せられるんだな…」

レイナ 「翼人族の国、ヴェルダンド…」

そこに行けば、きっと私の運命がわかる。
私はひとつ深呼吸をして、そして。

レイナ 「行きましょう!」

悠 「ああ…これが俺たちの旅の始まりだ!」


こうして、悠とレイナの旅は始まった。
そして、これから悠たちは様々な運命に立ち向かっていく…。



…To be continued




次回予告


悠:数々の偶然のもとに再会した俺とレイナ。
俺たちはレイナの運命を知るために旅に出た。
旅先の森の中、ゴブリンたちは世界の動向を心配していた。
暴れだす仲間に不安を抱くゴブリンの長。
何かが起ころうとしている予兆だろうか?
疑問がひとつひとつ増えていく中、機械都市で出会った女性が、衝撃の歴史を俺に伝える…。


次回 Eternal Fantasia

第2話 「機械都市の美女」


悠 「俺は、レイナを守ってみせる!」




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