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第5話 「十騎士」




レイナ 「…はぁ…はぁ」

大分疲れが出てきた。
元々体力が少ないだけに、あの戦闘の後ではほとんど力が出てこなかった。
まだ地上の景色が見えてこない…距離は、まだ大分ある。

レイナ 「くっ…このままじゃ……」

私はそこであることに気づく。

レイナ (ゴンズさんがくれた魔石…)

私は悠を片手で抱きかかえながら、もうひとつの手で鞄を漁る。

レイナ 「あった…」

風の魔石。
効き目は少ししかないけど、町までなら十分持つはず。
私は魔石の魔力を吸収して、風の魔法を唱える。

レイナ 「エア・ウイング!」

私が魔法を唱えると、風の力が私を包む。
私はその力を使ってスピードアップする。



………。
……。
…。



そして、私は限界ギリギリで町に辿り着くことができた。
凄く小さな町。
上空から見ているだけに、より小さく見えた。

レイナ 「見えた! あれがメルビスの町!」

そこで、とてつもない違和感を体に覚える。
もう私には力が残っていない。
魔法も完全に切れてしまったようだ…。

レイナ 「くっ…ダメ! 落ちる!!」

私は悠を地上に落とさないために、両手でしっかりと抱きしめ、翼で落下スピードを落とし、地上に落下していった。

レイナ (せめて、悠を上にしないと!)

私は悠を庇うように背中から落下した。

ズシャアァァッ!!

私は派手に町の広場に落下し、地を滑る。
悠は何とか無事のようだ。

レイナ 「うっ…」

何だか、周りが騒いでいる…驚いたのだろう。
でも、落下のショックで私はこのまま気絶していた。





悠 「(ん…?)」

声 「(悠よ…)」

声だ、声が聞こえる。

悠 「(だ、誰だ?)」

真っ暗で何も見えない…。
足場も…何だかおかしい、まるで空中に浮いているような。

声 「(悠、邪神を頼む…)」

悠 「(えっ…?)」

声が響く…それも俺の頭の中に直接。

声 「(時間は残り少ない…封印が解ける)」

悠 「(あなたは…?)」

声 「(悠よ、邪神を倒してくれ。黒い翼の少女と共に…)」

悠 「(待ってくれ! あなたは…!?)」



悠 「はっ!?」

…夢?
でも、やけにリアルな…。
俺はそこでベッドの上にいることに気づき、周りを見渡す。
…殺風景な部屋だった。
周りは白い壁に覆われ、部屋の中はベッドがひとつ入っているだけで、後は何もなかった。
側に窓があったが、蒼いカーテンに覆われ外の様子は見えない。

悠 「ここは…? どこだ?」

俺は痛む体を動かし、カーテンを少し開けて外の様子を見る…暗闇だ。
夜のようだった。
よく見れば、部屋の明りは、光の魔石で白い光球を作り出してあった。
どうりで白いはずだ。

ガチャ

女性 「あら、目が覚めたの?」

そこへ、ひとりの女性が部屋に入ってくる。
白衣に身を包んでいる。
医者…か? 少なくとも看護婦の服じゃない。
腰まで伸びた長い後ろ髪で、首の下あたりをバンドで止めてあるのが印象的だった。

悠 「あなたは…?」

俺はベッドの上に座ったまま、頭を少し抱えて訊ねる。

女性 「私はユミリア・デミール。魔族の医者よ」

女性は無表情にそう答えた。
声にも特別感情は込められていない。
…これだけだと、まるでお尋ね者の扱いだ。

悠 「…誰が、俺をここへ?」

少なくとも仲間の誰かだとは思うが…。

ユミリア 「レイナって、翼人族の女の子」

レイナが俺を…。

ユミリア 「感謝するのね。あの子、死にそうなくらいの重傷を負ってまで、あなたをこの町に届けたんだから」

悠 「!? どういうことですか!」

俺はそれを聞いて慌てて訊き返した。
死にそう…って、まだ死んではいないんだよな?

ユミリア 「人の話によると、あなたたち空から落ちてきたようね」

悠 「空から…?」

レイナがエレル山の山頂から飛んで俺を運んだのか…。
何て無茶を…翼人族の翼はそこまで長距離を飛ぶことは出来ないのに。

ユミリア 「それで途中で力尽きて上空からこの町の広場に落下ってわけよ」

悠 「それで、レイナは!?」

落下したのならただではすまないはず…。

ユミリア 「落ち着きなさい。大丈夫よ」

女性は無感情にそう言う。
俺はそれを聞いて安心した。

悠 「よかった…」

ユミリア 「なるほど…あなたが、ね」

ユミリアさんは真剣な目で俺を見た。
いや…。
どちらかというと睨んでいるようだった。
鋭い目つきだ。
まるで金縛りにでもあっているような感覚だった。
それだけ、この人が怖いと思えた。

悠 「………」

ユミリア 「ふふふ、そんなに怖がらなくてもいいわよ。別にあなたを取って食おうってわけじゃないんだから」

いや、さっきの目はマジだと思うが…。
それだけ、普段から凄みを持ってるって事だろうか?
どちらにしても、ただの医者じゃないと思った。

悠 (高位の魔族なんだろうな…)

正直、俺はここまでびびったことは一度もない。
今まで喧嘩にも負けたことはなかったし、勝てないと思ったこともない。
まぁ、昨日は負けたけど…。
でも、俺が実際に相手を見て絶対に勝てないと思ったのは、初めてだ…。
この人とやりあって勝てる自信はなかった…。

悠 「…ふう」

俺は解放されたようにため息をついた。

ユミリア 「今日はそこで休んでなさい、明日の夜には連れも来るでしょう」

そういってユミリア先生は部屋を出た。
ナルさんたちのことか…。
大丈夫だったんだろうか?
バル…。
俺はふとあいつのことが頭をよぎった。

悠 「俺たちは、親友じゃなかったのかよ……」

俺は声には出さず、小さく涙した。
そして、俺は明日の朝まで眠ることにした。



チュン…チュン


小鳥の鳴き声…?

悠 「う…」

レイナ 「悠、起きたの?」

目を覚ましていきなりレイナ…?
俺はとりあえずレイナの安否を聞く。

悠 「怪我は…?」

落下して死にかけたって聞いたけど…。

レイナ 「私は大丈夫、ユミリア先生に治してもらったから」

悠 「そうか、よかった…」

先生の言った通りだったな。

レイナ 「それよりも、悠の方こそどうなの? 体は動く?」

悠 「ああ、大丈夫だ。少しギクシャクするけど、動ける」

俺はそう言って右肩を回してみせる。

レイナ 「そう、でも今日一日はじっとしておいた方がいいわ」

悠 「ああ、わかったよ。レイナも無理はするなよ?」

レイナ 「うん、わかってる」

レイナはそう言って部屋を出ていった。
途端に部屋が静かになる。
何時の間にか、窓が空いていて外の風景が見えた。
ここは1階のようで、外には庭のような景色が見えた。
多分入り口とは逆の方向だろう。
そこで洗濯物を干している、看護婦の人が目に入った。

悠 「……」

何となく、あの人は精霊族じゃないかと思えた。
本当に勘だが…最近、妙に勘に頼ることが多くなった気がするなぁ。
まぁ、ほとんど外れてないと思うけど。

悠 「…う〜ん」

俺はもう一眠りしようとも思ったが、眠気がなかった。
仕方なく、俺は頭を整理しようとした。

悠 (邪神…か)

あの夢は、一体なんだったんだろう?
あの声は…多分。

悠 (ユシル…オメガ、か)

確信はなかった、だがそう思えた。

悠 (親友だったはずのバルが、敵だった…)

最初に襲ってきた少年も、バルの仲間だったんだな…。

ガチャ…

ゆっくりと、ドアが開いたかと思うと、ユミリア先生が入ってきた。
俺は空いている窓を閉める。
すると、驚くほどに静かになった。

ユミリア 「…悠君」

悠 「はい?」

昨日と同じ、鋭い目つきで俺を睨む。
この人は…何を考えているんだ?
皆目見当がつかない…それがかえって怖かった。

悠 (味方…とは思えないかもな)

あくまで医者だ…敵でも味方でもない。

ユミリア 「…まだ全員が集まってからの方がいいわね」

ユミリア先生は目つきを戻してそう言った。
一応…笑顔のようだった。

悠 「…重要なことなんですか?」

ユミリア 「ええ…世界規模のね」

ユミリア先生は、肩を落としてそう言った。
俯いた際、落ちた前髪の中で、俺は悲しい瞳を見た…。
何て言うか…この人、色んな顔を持っているんだろうな。
そんなことを思ってしまった。

悠 「邪神…ですね」

ユミリア 「ゾルフが言ったのね…」

さすがにその名前が出てくるのは予想外だった。

悠 「知り合いなんですか?」

ユミリア 「その事も集まってから話すわ。今は休みなさい…眠れないのなら薬をあげるけど?」

悠 「いえ…大丈夫です」

俺はそう答える。
というか、ユミリア先生の悲しい瞳が目に焼きついたように消えない…。
まるで、俺はこの人を昔から知っているような感覚で…。

ユミリア 「そう、ごめんなさいね。いきなり入ってきて」

悠 「いえ…」

ユミリアさんはそう言って部屋を出た。

悠 「……」

あの人…どこかで?
だが、会ったことはないはずだ。
それでも、やはりあの瞳が気になる。

悠 (もしかして…前世の記憶?)

馬鹿馬鹿しくも、そんなことを考える。
だが、あながち外れてもいない気がした。
俺の中にユシルと言う人の力があると言うのなら、そう言う記憶が残っていても不思議じゃないはずだ。

悠 「ん…待てよ?」

ということは…あの人も300年前に。

悠 「…う〜ん、魔族って長命なんだな」

バルも実はサバ呼んでたりして…等と思ってみる。

悠 「はぁ…アホらし」

俺は気を落ち着けて眠ることにした。
今は休もう。
余計なことは考えずに。



………。
……。
…。



やがて夜も更け、俺はベッドから立ち上がる。
さすがに、昼には起きて昼食を食べた。
とは言え、それから眠れるわけもなく、ひたすらひとりで空しく時間が過ぎるのを感じていたのだ。

悠 (暇って…酷だよな)

そんなことを思いながら、俺は着替えようとする。
とりあえず、着せられていた寝巻きを脱ぎ捨て、パンツ一枚に。

悠 「えっと…そう言えば俺の服は?」

俺がそうして探していると…。

ガチャ!

悠 「ん?」

ウンディーネ 「悠ーーー!! 無事やってんなぁ!!」

ドアがいきなり開いたかと思うと、ウンディーネさんが俺に飛びついて、そのままベッドに押し倒される。

悠 「どわぁ!!」

当然ながら俺はパンツ一枚、ベッドにはひとりの男と女…。

悠 (って、洒落にならん!!)

俺は慌ててウンディーネさんを引き剥がす。

ウンディーネ 「もう、照れ屋やねんから♪ ウチはいつでも準備O・Kやで☆」

両手で頬を抱えながら、恥ずかしそうに振舞う。
だから規制に引っかかりそうなんで止めましょう。 ← それでも内心それもいいか…等と思っていたり。

悠 「はぁ…はぁ…」

俺は呼吸を整え、今度こそ着替えをすることにした。
どうやら、レイナが置いておいてくれたのか、着替えはベッドの下にあった。
何故に…? 100%見つかるだろうけどさ…。 ← それはHな本。

悠 「ウンディーネさん、着替えますから部屋を出てください」

俺は未だにベッドの上で待ち構えているウンディーネさんにそう言う。

ウンディーネ 「ぅもん♪ 本当は期待してるくせにぃ☆」

ウンディーネさんは笑顔でそう言う。
とりあえず俺はウンディーネさんを担いで部屋の外に出した。

ウンディーネ 「何やったら、ウチが着替えさせてあげよか?」

凄くやりたそうだ…この人どこまで本気なのかわからん!

悠 「いいです! 俺自分でできますから!!」

俺はそう言って、ドアを閉める。
そして、今度こそ俺は着替え終え、部屋の外に出た。
ウンディーネさんはすでに皆の所に戻ったのか、いなかった。

悠 (ウンディーネさん、本当にどこまで本気なのか…)

かなりおちょくられているようにも思えるのだが…所詮俺は子供か。

ウンディーネ 「悠ーーー!!」

俺が部屋を出て、突き当たりのカーブに差し掛かったと同時に、ウンディーネさんが俺に抱きついてきた。

悠 「…ウンディーネさん。もう勘弁してくださいよ〜」

俺はさすがに根を上げる。
体も心も持たん…。

ウンディーネ 「ええやん! ウチ悠のこと大好きやもん♪」

悠 「もしかしておちょくってます?」

ウンディーネ 「ううんっ! ウチ、『悠には』嘘、言わへん」

ということは、他の人には言うのか…。
俺は結局観念して、ウンディーネさんに抱きつかれたまま皆のいる大広間に入った。


ガチャ…


静かな応接間に、ドアの開く音が響く。
中にはすでに他の皆が集結していた。

ユミリア 「あら…」

ナル 「お楽しみだったの?」

悠 「違います!!」

俺は力いっぱい否定した。
冗談にも程がある…。

ノーム 「何で、俺には……」

ウンディーネ 「ほんまに、悠ったら激しいんやから…♪」

だからあんたも悦に入ったような表情で言わないでください! リアルだから!!

ノーム 「畜生ーーー!!」

ノームが机に伏しながらダンダン!と机を叩く。
すぐ側に何故か酒があった…ヤケ酒!?
つか、未成年だろお前!

悠 「だぁーーー! 違うーーー!!」

ったく、誤解だっつーの!

ユミリア 「あらあら、若いっていいわね」

悠 「何でそうなるんですか!!」

ナル 「レイナ可哀相…」

悠 「えっ!?」

俺は咄嗟にレイナの方を見る。

レイナ 「……?」

よくわかってないようだった。
…記憶喪失でよかった。 ← そうか?
誤解はないようだ。

レイナ 「うふふ、本当に仲がいいわよね」

悠 「おいおい…レイナまでからかうのか〜?」

レイナ 「ごめんなさい…そう言うつもりじゃ」

レイナは慌てて繕うようにそう言う。
何か女性不信に陥りそうだ…。

ウンディーネ 「………」

ウンディーネさんは急に離れて、近くの椅子に腰掛けた。

悠 「?」

気がついたら、場が異様なまでの威圧感に支配されていた。
ユミリアさんの威圧…。

ユミリア 「…悪いけど、ここからはおふざけをしている余裕はないわ」

悠 「は、はい…」

俺もレイナの隣にあった椅子に腰掛ける。

ユミリアさんを正面に、長方形の長机が縦に、両サイドには俺たちがバラバラに座っていた。
その場にいる全員が無言だった。
声が出せないといった方が正しいのかもしれない。
普段おちゃらけている、ウンディーネさんでさえ真剣な目つきになっている。
こんな表情もできるんぢゃん…。
そして、しばらくの沈黙の後、ユミリアさんは語り始めた。

ユミリア 「大方のことはゾルフから聞いているようだから、私は別のことを教えるわ。まずは敵の構成について」
ユミリア 「勿論、わかる範囲で、だけど」

ナル 「バルバロイが十騎士と言っていましたが…それは?」

要するに10人いる騎士なんだろ?
俺はそこで気付く…あんなのが10人いんのかよ。
まとめて来たらその場で全滅だな…。

ユミリア 「十騎士は、10人の高位邪獣によって構成された指揮官の総称よ。前大戦でその内の6人は死亡したわ」

ナル 「では、今は4人…?」

ってことはかなり楽に…?
過半数消えてるんだ…。

ユミリア 「4人といってもその内のひとりはこちらの味方よ」

更に1人脱落! って、ほとんど残ってねぇじゃん!!
とりあえずそのひとりというのを聞いてみることに。

悠 「ひとりは…?」

ユミリア 「ええ、水の邪獣キュア・スパイラル。私と同じ前大戦の生き証人よ」

何となく読めた…十騎士って、それぞれ属性持ってやがるな?
まぁ置いておいて今度はバルのことを聞いてみる。

悠 「…バルは、やはり敵なんですか?」

ユミリア 「…そうでしょうね。ユシルの説得も無駄だったわけね」

悠 「ユシル…」

ユミリア 「時の邪獣ユシル・オメガ。あなたに、己の力を授けた少年の名よ」

時の邪獣…って、時を操るのか!?
で、その力が俺に…って。

悠 「俺に、力を…」

レイナ 「時の邪獣…」

ユミリア 「そう、つまりあなたは時の十騎士…」

レイナ 「悠が…」

ユミリア 「勘違いはしないで。悠君が十騎士といっても敵とは限らないわ」

ナル 「根拠は、あるんですか?」

俺はそこで、どくんっと心臓の鼓動が聞こえる。
時折、暴走する俺の俺の意識…あれは、邪神の影響だったのか?

ウンディーネ 「ナル! 悠が裏切るとでも言うんか!?」

ウンディーネさんはそれを聞いてナルさんに突っかかる。

ナル 「そういうわけじゃないわよ。でも、あなたも見たでしょ? レイナのあの姿を…」

ウンディーネ 「……」

ウンディーネさんはそれを聞いて俯く。
それでも歯軋りするように断固信じないと言った顔だった。

ノーム 「悠兄ちゃんも、あんな風になるって事なのか?」

ユミリア 「それは、悠君次第。少なくともユシルは自分を信じて邪神を倒したわ」
ユミリア 「…だから悠君が望むのなら、ね」

悠 「……」

望みたくもない…皆の敵になるなんて。
それでも、前に暴走したことを思い出す。
誰が止めてくれる?
レイナの時のようにうまくいくとは限らない…最悪誰かが死ぬ。
俺は自分で考えながらぞっとする。
そして、別の疑問を考えてみる。

悠 「…バルは、300年前から生きているってことか?」

少なくとも話を聞いている限り、ユシルさんと同じ時代にいたようだし。

ユミリア 「戦争の後、約300年は封印で過ごしてるから、歳は取っていないわ」
ユミリア 「と言っても、邪獣に寿命はないのだけれど…」

ナル 「不老不死…ですか?」

ユミリア 「残念ながら、細かい事は知らないわ…少なくとも殺せば死ぬわよ」

簡単に言ってくれる…そして、それが現実だと言うことに気付く。
殺さなきゃ…殺される。
隣にいるレイナを見ると、震えているのがわかった。
殺し合い…その現実を突きつけられて、レイナは完全に怯えている。
心の中では決意していても、実際にその現実と向き合うのは、酷なことだ。

ユミリア 「そして、レイナ。あなたは前大戦の悲劇である、セイラ・ヴェルダンドの力を受け継いでいるのよ」

レイナ 「セイラ…ヴェルダンド」

ナル 「まさか…ヴェルダンドを滅ぼした王女」

ナルさんが突っ込む、前に聞いたアレだな。

ユミリア 「…確かに、セイラは母国を滅ぼしたわ。でも、それは四天王のゼイラム・ロトン・ブレストがやったこと」

ノーム 「四天王? そんなのまでいるの?」

つ・ま・り10−7+4だから…7人か。
うう…敵の勢力が増えた。

ユミリア 「ええ、その力は十騎士をはるかに凌ぐ強さよ。今のあなたたちじゃ何をやっても勝てないわ」

更にきついお言葉。あれよりはるかにですか…。

ウンディーネ 「そんなに強いんか…」

四天王、十騎士(残り3人)。
こいつらを倒さない限り、邪神にも勝てない…。

ノーム 「でも、ゾルフ先生やユミリア先生なら勝てるんでしょ?」

確かに、前大戦を経験しているなら、戦ったことがあるはずだ。

ユミリア 「ゾルフは、あの年じゃ辛いでしょうね…元々精霊族は長寿の種族じゃないわ」
ユミリア 「それを、時空魔法で無理やり老化を引き伸ばすなんて、私に言わせれば自殺行為よ」
ユミリア 「まぁ…それで長生きしてるんだから実際はたいしたものだけれど」

ナル 「そうだったの…時空魔法を使って生きていたなんて」

ノーム 「俺は、わけがわかんないよ」

悠 「時空魔法は、ガイアの魔法協会で使用が禁止されている魔法だ。その力は恐ろしいが、使えば自分が滅びるほどに…」

ノーム 「げ…」

ウンディーネ 「ほなら、なんでゾルフ先生は生きとるん?」

まぁ当然の疑問だろう。
実際、時の魔法を使って死んだ馬鹿がいるのを、俺は何度か聞いたことがある。

ユミリア 「さぁ…? 不思議としか言いようがないわ。ユシルは死んだのに」

悠 「死んだ?」

ユミリア 「あなたと、レイナに力を送るために時空魔法を使って未来に送ったのよ。それで死んだの」

悠 「………」

俺の中に、ユシルさんの力が…。
時の邪獣って言っても…やっぱり時の魔法は身を滅ぼすのか。

レイナ 「私にもユシルさんの力が?」

ユミリア 「違うわ、セイラの力をユシルが送ったの。あなたたちに希望という二言を込めて…」

その時、またユミリアさんの悲しい瞳が俺の目に映った。
何かあったんだろうか?
300年前に…。

悠 「希望…」

俺と、レイナに…か。
どうにも、深い事情がありそうだ。

ユミリア 「私は、あいにく戦う力はないわ。もう、年だしね…」

本音はそう思えなかった。
ユミリア先生は少なくとも俺達が全員でかかっても倒せないような強さを持った人だと思える。
それでも、本人が戦えないと言ったは…そう言う事情があるのだろう。

ユミリア 「さて、話がずれちゃったわね…上から順に話していくわ」
ユミリア 「まず、邪神の下には側近とも呼べる四天王…マジックマスター、ゼイラム・ロトン・ブレスト」
ユミリア 「通り名の通り、魔法に関してはスペシャリストよ…その気になれば一瞬で国を焼き払えるわ」

悠 「げ…」

それは物騒だな…。
って言うか、本当に勝てるのかどうか怪しい。

ユミリア 「また、狡賢く、冷酷よ…一番したたかでしょうね」

よくあるパターンだな、まぁ敵が情け深くてもおかしいが。

ユミリア 「次はウェポンマスター、ヴェイル」
ユミリア 「…実はよくは知らないの、前対戦でもほとんど姿を見かけなかったわ」
ユミリア 「噂では、ありとあらゆる武器に精通してるそうだけど…強いのは間違いないでしょうね」

謎の敵か…あまり出てこないなら、そんなに気にしなくてもいいかな?

ユミリア 「3人目よ、オーラマスター、マーズ・ディオス」
ユミリア 「ある意味、最強の敵よ…魔力を全く有さない代わりに、ほぼ無尽蔵の闘気を扱うわ」
ユミリア 「格闘戦においては、間違いなく最強…勝負に勝つための執念も本物よ」

悠 「…強そうだな」

ユミリア 「…そうね、本当に強いわ」

ナル 「戦ったことは?」

ユミリア 「一度だけあるわ…」

悠 「結果は? 勝ったんですよね?」

負けたら生きてはいない気もするし…ん? でも相手も生きてるってことは…。

ユミリア 「…引き分け。勝負はつかなかったわ」
ユミリア 「今度、決着をつける…って言ってたけど、結局…私の方がふぬけちゃったから」

悠 「ちょっと質問! 何か、そのマーズっての…普通っぽくないですか?」
悠 「何か…敵っぽくない気が」

ユミリア 「そう? ただの馬鹿だと思うわよ…戦うことでしか生きる意味を考えられないんだから」
ユミリア 「まぁ…あながち敵じゃないって言うのもそうかもしれないわね」
ユミリア 「あいつは、戦うためだけに邪神軍についたんだから」

ただの馬鹿…って言うのが、どうにも誉め言葉にしか聞こえなかった。
何かあったんだろうな…どうにもユミリア先生は隠し事が多いようだ。
思い出したくないんだろうけど…。

ユミリア 「最後よ…ドラゴンマスター、ロード・ドラグーン」

ナル 「ロード・ドラグーン!?」

ナルさんが突然叫び出す。

ナル 「どうして、竜族の王ロード・ドラグーンが?」

ユミリア 「…理由は知らないわ、でも邪神軍に荷担している」

ナル 「そんな…」

ノーム 「竜族の王様なんだろ? なんでそんな人が…」

竜族…全ての種族の中でも最高クラスの戦闘能力。
数は少ないが、ひとりひとりの強さが尋常じゃない。
それが、敵なのか…。

ナル 「じゃあ、竜族は敵として見た方がいいと…」

ユミリア 「でしょうね…まぁ、今の所は無視しても良さそうだけど」

ウンディーネ 「そうなん?」

ユミリア 「ええ…多分、ね」

ノーム 「多分…ね、何か怖いなぁ」

確かに…別の言い方なら、何を考えているかわからないってことだ。

ユミリア 「続けるわよ? 次は十騎士。さっき言ったようにキュアは味方だから、残りの3人」
ユミリア 「まず、稲妻のバルバロイ・ロフシェル」

悠 「稲妻…雷属性だったのか」

そう言えば、あいつの魔法は大抵、雷撃系が多かったな。

ユミリア 「一応、現十騎士のリーダーと考えてもいいでしょうね」
ユミリア 「まぁ、本人がどう思っているかは知らないわ、ただ…」
ユミリア 「実力は十騎士の中でも1〜2位と思っていいわ」

そんなに強いのか…ってことは、学園では隠していたんだな。
最初に出会ってやりあった時も…手加減してたってことか?
だが、俺にはどうにもあの時のバルが敵だとは思えなかった。
それは確信に近い。
絶対…あいつは俺の親友だ。

ユミリア 「バルバロイは、悠君やレイナを味方に引きずりこみたかったのかもね…」

レイナ 「でも、本人は悠を油断させて殺すことが、目的だと…」

悠 「……」

そんなこと言ってたのか…。

ユミリア 「どちらにしても、もう倒した相手のことを考えてもしょうがないわ」

悠 「バルは…死んだのか?」

俺はレイナに聞いてみた。
あれからどうなったのか、そう言えば聞いていない。

レイナ 「…多分、あの山の頂上の崖から落ちたから…」

悠 「そ、そんな…」

じゃあ、バルはもう…。

ユミリア 「悠君、辛いのはわかるけど、割り切りなさい。バルは敵だったの。遅かれ早かれ、こうなる運命だったのよ」

悠 「……はい」

口ではそう言っても、割り切れるわけなどなかった。
多分、ユミリアさんもわかってる。

レイナ 「………」

ユミリア 「次よ…大地のアイズ・ガルド」
ユミリア 「ある意味、一番危険よ」

ナル 「ある意味…ですか?」

ユミリア 「ゼイラムと似てるのよ…やり口が」
ユミリア 「勝つためなら、どんな卑怯なことでもやる男よ」
ユミリア 「無論、肉弾戦、魔法戦、知力戦、全てに精通しているのも危険の要因だけど」

悠 「バランス型…ってわけか?」

ユミリア 「そうね…間違ってはいないわ。じゃあ次…常闇のネイ・エルク」
ユミリア 「あまり動いている所を見たことがないわ…実際にはどうかはわからない」
ユミリア 「ただ、ユシルの話だと相当強いらしいわ…四天王に勝るとも劣らないそうよ」

ウンディーネ 「せやったら…十騎士で一番強いちゅうことか」

ユミリア 「そうね、実力だけなら…ね」

ノーム 「だけなら?」

何か引っかかる言い方だ…何かあるんだろうけど。

ユミリア 「まぁ、強いと言うことだけでも覚えておけば良いわ」
ユミリア 「残りの6人…恐らく、新しく創ったと思うわ」

悠 「なぬ!? じゃあ、やっぱり10人いるのか…」

結局そうなるのね…まぁそこまで甘くはなかったってことだ。

ナル 「…それで、その6人は?」

ユミリア 「残念ながら、詳しくは知らないわ」
ユミリア 「わかることは、それぞれ風、火、氷、光、気、時を操るわ」

レイナ 「クルスは風ってバルバロイが言っていたわ」

悠 「んで、キュアさんが水…」

ナル 「時の邪獣は…どうなんですか?」

ナルさんが、余程気になったのか、そう聞く。

ユミリア 「…正直、わからないわ」

ユミリアさんも難しそうにそう言う。

ユミリア 「ユシルは自分の意志で反乱を起こした」
ユミリア 「キュアも自分の意志で裏切ったわ」
ユミリア 「そう言う意味では、十騎士も人間だということね」
ユミリア 「でも、今回は正直どうだか…もし時の邪獣が新たに創れらているのなら…」

そこで言葉を切る。

ウンディーネ 「…なら?」

ユミリア 「…悠君頼みね」

悠 「…へ?」

全員が俺を注目する。
何で?

ユミリア 「時の邪獣は属性通り、時魔法を使うわ」
ユミリア 「でも、使いすぎれば邪獣といえども、死から逃れられない」
ユミリア 「それはユシルが証明してくれているわ…」
ユミリア 「でも、ある程度ならばほぼ問題なく使える」

悠 「で、俺がどうして?」

そこが聞きたい。

ユミリア 「悠君も、時の恩恵を受けているからよ」

悠 「…?」

ちょっと、わかりづらい。

ナル 「時の属性は、打ち消しあうんですか?」

ナルさんがそう言う。
俺にはさっぱりわからん。

ユミリア 「そうよ、時の力は同じ力で相殺できるの…だから邪神を倒すことができるのも時の力を持っている悠君やユシルだけなの」

ナル 「…ということは、邪神は時の神?」
ナル 「まさか、時空神クロノス!?」

何か聞いたことあるような…。

ユミリア 「違うわ…ドグラティスは時の力を使うだけで、クロノスではないはずよ」

ナル 「そうなんですか…」

悠 「う〜ん、わからん」

レイナ 「私も…」

ウンディーネ 「ウチもや」

ノーム 「俺も…」

ナル 「……」

ユミリア 「まぁ、いいわ…とりあえず、時の邪獣は今のところわからないわ」
ユミリア 「また反乱されても問題だから、創られていないと考える方が妥当かもね」

悠 「う〜ん、すっきりしないなぁ」

結局は、俺頼みか…何か嫌な気分だ。

ユミリア 「そして、十騎士の下には多数の邪獣兵が存在するわ」

ナル 「邪獣兵…」

ユミリア 「十騎士の下にそれぞれ人型で理性、知能がある中位邪獣が多数」
ユミリア 「更にその下、理性も知能もない魔物同然の低位邪獣が不特定多数」

悠 「不特定…ってどれだけいるかわからない?」

ユミリア 「そう、無限と言い換えても良いわ」

悠 「…げ」

いくら倒してもキリがないわけか。

ユミリア 「でも、低位の邪獣は誰か指揮官がいないと現れないわ」
ユミリア 「低位の邪獣は邪神の魔力によって動いているから…その魔力が届かない範囲だと活動を停止して体が崩れるわ」

ナル 「ではその届く範囲は?」

ユミリア 「そうね、せいぜいゼルネーヴ大陸内、と言った所かしら」

ナル 「ゼルネーヴ!? そこが本拠地なんですか?」

ユミリア 「…まぁ、そう言うこと」

ナル 「…では、魔王様は?」

ユミリア 「…もう死んだわ」

悠 「……?」

何だか、間があったな。
気になる言い方だ。
でもわかることは、もうゼルネーヴは邪神の領域ってことか。

ナル 「そう…ですか」

ナルさんも、何だか煮え切らない感じだな。

ユミリア 「で、低位の邪獣だけど、最低でも高位の邪獣がいないと遠距離では活動できないわ」

レイナ 「つまり、邪獣がいるところには十騎士がいる…」

ユミリア 「そういうことよ、よくわかってるようね」

レイナ 「は、はい…」

やるなレイナ…俺は全然わからん。

ユミリア 「ちなみに、それは逆にも考えられるの、指揮官を倒せば低位の邪獣は全て消えるわ」
ユミリア 「中位の邪獣はそれぞれ自由に活動できるけど、邪神が消えれば、自然と消えるわ」

悠 「十騎士は…消えないんですか?」

ユミリア 「…多分ね、少なくとも封印した時は死ななかったわけだし」

ナル 「疑問があります、何故ユシルさんは、倒せる力を持っていながら、封印と言う手段を取ったのですか?」

確かに、完全に倒していれば蘇ることはないはずだ。

ユミリア 「時間が…足りなかったのよ」

ユミリアさんは静かにそう言った。
何故か、悲壮感が漂う。

ユミリア 「ユシルがドグラティスを完全に倒すには時間がなかった」
ユミリア 「武器がなかった…とも言えるわ」
ユミリア 「だから、封印するしかなかった…」
ユミリア 「邪神の体を分断し、それぞれの大陸に封じた」
ユミリア 「結果、ユシルは未来に希望を託したの」

全員 「………」

静寂が走る。
それだけ、ユミリアさんは悲しそうだった。
よっぽど辛いことがあったんだ…何だか、聞くのが辛くなってきた。

ナル 「わかりました…では、先生」
ナル 「私たちにはそう時間は残されていないはずです。一刻も早く邪神軍と戦えるように方法を教えてください!」

気を取り直し、ナルさんがそう言う。

レイナ 「そうですね、今の私たちの力では、十騎士が部隊を引き連れて来たらそれだけで全滅です」

ウンディーネ 「そやな…さすがにようけ来たらかなわへん…」

ノーム 「ひとりふたりでも一杯一杯だからな…」

ユミリア 「…わかったわ。まずは仲間を集めましょう」

悠 「仲間を?」

まぁありきたりだわな…。

ユミリア 「はっきり言って、あなたたちだけで戦争は勝ち抜けないわ」

確かに戦争規模とくれば、俺たちだけじゃ話にならない。
他の国にも邪神の復活を教えてあげないと。

レイナ 「それでどうすれば?」

ユミリア 「この人数じゃそうは分割できないわね」

今いるのが、俺、レイナ、ナルさん、ウンディーネさん、ノーム、それから…あれ?

悠 「そう言えば、神次さんたちは?」

俺は今更気付いたことを聞く。

レイナ 「さぁ…? 私は知らないわ」

俺たちはナルさんを見る。

ナル 「知らないわよ…先に行ったこと位しか」

悠 「ああ…そうですか」

先に行ったって…セイレーンまででしょうか。

ウンディーネ 「…とりあえず、ウチはデリトールに行くわ」

突如、ウンディーネさんがそう言い出す。

ノーム 「えっ?」

ウンディーネ 「仲間集めるんやったら、ウチは孤児院に戻ってみるわ」
ウンディーネ 「シェイドに頼んでみる…あいつがいたら十騎士位は軽く倒しよるやろ」

何か強そうだ…もしかして期待の戦力?

ノーム 「俺も行くよ、いいだろ?」

ウンディーネ 「好きにしいや」

ノーム 「よっしゃ、それじゃ善は急げだ! すぐに行こう!」

全く、猪突猛進だな…休むことを知らんのか?

悠 「おいおい、明日にしたらどうだ?」

ウンディーネ 「いや、すぐに出るわ。急がなあかんのやろ?」

意外にも、ウンディーネさんがそう言う。

ユミリア 「わかったわ。じゃ、残りは…」

レイナ 「私は、ヴェルダンドに向かいます」

ユミリア 「ヴェルダンドに?」

レイナ 「はい、お願いします」

悠 「俺からもお願いします!」

それが、俺たちの最初の目的だからな。
仲間がいるかは置いておいて、何があるのか知りたい。
まっ、レイナが行くなら俺も行くってこと。

ユミリア 「別に止めはしないわ、好きにしなさい」
ユミリア 「ただ…十分気をつけてね」
ユミリア 「あなたは…王女なんだから」

レイナ 「…え?」

悠 「はぁ?」

ナル 「王女…ってヴェルダンドの、ですか?」

全員が止まる。
レイナが王女…ヴェルダンドの?

ユミリア 「そうよ、あれ…? 知らなかったの?」

レイナ 「…私、記憶がないので」

ユミリア 「あ、そう…」

悠 「マジかよ…」

ユミリア 「ま、まぁ…とにかく気をつけて!」
ユミリア 「色々あると思うから!」

レイナ 「は、はい!」

な、何だか投槍だなぁ…ユミリアさんって、意外と抜けてる所があるんだな。
何となく、気が緩んだ…。

ナル 「(レイナが…王女、じゃあシーナ王女は妹?)」

悠 「ナルさん?」

俺はぶつぶつ言ってるナルさんに声をかける。

ナル 「えっ? あ、悠君…何?」

悠 「俺たちはどうします? すぐ出発しますか?」

ナル 「あ…そうね、私たちはもう一泊しましょう。セイレーンまでは結構あるから」

悠 「はい」

レイナ 「わかりました」

ウンディーネ 「せやったら、ウチらはもう行くわ」

ノーム 「よっし!」

ノームが拳を合わせて気合を入れる。

ユミリア 「それじゃキリのいい所で、またここに戻ってきて、いいわね?」

ウンディーネ 「わかった」

ノーム 「う〜っす!」

ウンディーネ 「ほなら、ウチらはここからは別行動や。気ぃつけてな」

ウンディーネさんは珍しく、まともに話し掛けてくる。
大抵は抱きついてきたもんな。
まぁ、まだそんなに長く一緒にいたわけじゃないけど。

悠 「はい。ウンディーネさんも気をつけて」

ウンディーネ 「しばらくのお別れやけど、ウチらの仲は変わらへんで?」

悠 「いや、だから俺は…」

俺は今度こそ否定しようとすると…。

ウンディーネ 「(…知っとるよ)」

悠 「え…?」

ウンディーネさんは俺の耳元でそう呟いた。
遠くからだと、キスに見えなくもないかもしれない。

ウンディーネ 「ほな! さいなら!!」

そして、ウンディーネさんはノームを連れて部屋を出て行った。

悠 「……」

ウンディーネさん…本当にどういうつもりだったんだろう?
俺のレイナへの気持ちが分かっているなら、どうして…?

『ウチ悠のこと大好きやもん♪』

悠 「……」

その言葉が脳裏をよぎった。
本気…だからか。
俺がレイナを好きなら、ウンディーネさんは俺を振り向かせたい、と思ってるんだな。
本気か…まぁ悪い気分じゃないけど。

レイナ 「悠…私、ナルさんと一緒の部屋で眠るから」

ナル 「じゃあね」

悠 「ああ、それじゃあ」

ふたりは部屋を出て行ってしまう。
当然、俺とユミリア先生だけになるわけで…。

ユミリア 「……」

悠 「……」

何だか、妙な雰囲気だ。

ユミリア 「……」

悠 「……」

言葉がない…どうしよう?
もう出ていった方が良いかな?
そう言えば、看護婦さんはどうしてるんだろう?
もう、家に帰ってるか…患者の姿もないようだし。

悠 「…あの」
ユミリア 「…えっと」

悠 「!?」
ユミリア 「!?」

被ってしまう。
何だか、よくある光景だ。

悠 「あ…その」

ユミリア 「…な、何?」

ユミリア先生が聞いてくる。
さすが大人だ…。

悠 「あ、えっと…」

何だか言葉が出てこない。
もう寝ますから、というだけなのに。
この雰囲気は何だ!?
何か…恥ずかしそうに俯いてるユミリア先生が妙〜に可愛く見える。

悠 (っていうか、何で顔を紅くしてるんですか?)

口で言い出しそうになったが、気合で止める。
聞くのが怖かった。

ユミリア 「…悠君は、年上は嫌い?」

何故かそんなことを聞かれる。
まぁ、聞かれている以上、答えないわけには…。

悠 「…さぁ? よくわからないです…」

ユミリア 「そう…じゃあ、私のことは、その…どう思う?

最後の方は消え入りそうだった、かなり恥ずかしそうだ。
ちょっと待て! 最初のイメージはどこに行ったんだ!?
強そうで、怖そうなユミリア先生は!?
それでも、聞かれている以上、答えないわけにはいかなかった。

悠 「あ…えっと〜、何て言えば良いのか…」

言葉が浮かばなかった。
情けねぇ…。

ユミリア 「やっぱり…私みたいなのはタイプじゃない?」

涙目でそう言う…しかも可愛い声で。
もしかしておちょくられているのだろうか?
何となくそんな気がしてきた。

悠 「あ、いや…俺はちょっとその、好きな人が」

ユミリア 「レイナ…か、やっぱり」

その台詞が酷く悲しく聞こえた。
まるで、全てに絶望したような…そんな声。

悠 「あ…その」

ユミリア 「いいのよ…ちょっとからかっただけ」
ユミリア 「…ただの、冗談よ」

そう言って、ユミリア先生は部屋を出て行った。

悠 「…嘘だ」

そう思った。
冗談じゃなかった…多分本気。
理由はわからない…でも。

悠 「泣いてた…先生」

涙は見えなかった。
でも、枯れそうな声…耐えるような表情。
酷く弱そうな背中。
俺…酷いことしたんだろうか?



………。



悠 「……どうして」

俺は前の部屋に戻って、考えていた。
レイナへの気持ちが揺らぎ始めている。
俺がレイナを好きだと言うことが、ユミリア先生を傷つけた…。
その事実が、胸をえぐったように痛い…。
眠れそうになかった。

悠 「どうして…」

どんなに考えても理由はわからなかった。
ただ、ユミリアさんの去り際を見て、俺は酷く胸が痛んだ。
誰かを好きになるのは残酷なのだろうか?

悠 「俺は…誰も傷つけたくはないな」

そうは言っても、すでにひとりの女性を俺は傷つけた。
その事実が俺を苦しめる。
結局…俺は眠ることが出来なかった。



………。
……。
…。



悠 「……」

レイナ 「どうしたの?」

ユミリア先生は朝から姿が見えなかった。
顔を合わせたくなかったのだろう…俺は胸の痛みに耐えながら、病院に背を向ける。

悠 「悪い…もう行こう」

レイナ 「…? え、ええ」

悠 「そういえば、神次さんたちは何で先に?」

気を取り直して、俺はナルさんに聞く。

ナル 「大方、セイレーンで私たちの邪魔しようと思ってるんでしょう…」

悠 「なるほど…そうかもしれませんね」

あの人ならやりそうだ。

レイナ 「…ヴェルダンド、私の母国」



こうして、俺たちは改めてヴェルダンドに向かった。
そこで、王女のレイナは運命を知るのだろうか?
ユミリアさんは多くは語ってくれなかった。
でも、俺たちにユシルさんとセイラさんの力が…。
希望…。
ユシルさんたちは、俺たちにどんな希望を…?
そして、ふと俺は…ユミリアさんとユシルさんの関係を気にし始めた。
そして、ユシルさんと、セイラさんの関係を。



…To be continued




次回予告

悠:傷も癒え、再びヴェルダンドに向かって進み始めた俺たち。
ウンディーネさん、ノームとは別行動になったが、俺たちはついに港町セイレーンに辿り着く。
そして、ヴェルダンドに向かう船の上で、思いも寄らぬ刺客が訪れた…。


次回 Eternal Fantasia

第6話 「憎しみの再会」

悠 「レイナの…妹?」




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