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第12話 「新たなる力」




想い思いを胸に、それぞれの道へ旅立った戦士たち…。
これから始まるであろう恐るべき戦いのために、彼らは自らを鍛える旅に出た。





修行のため、再び師匠の元へ向かったナルと新生光輝軍団。
彼女たちはすでに、港町サラブに向かう船に乗っていた。



ナル 「……」

ドリアード 「どうしたんですか、ナルさん?」

動く船の上、私は気を落ち着けるために海を見ていた私に、ドリアードが語りかけてくる。

ナル 「…ちょっと、ね…」

私はため息をこぼしながら、ただ甲板から海を眺めた。
理由は考えたくもない…正直ウザイ。

ウィル 「ドリアード〜! 神次さんが呼んでるよー!」

ドリアード 「あ…はいっ。それじゃ、ナルさん」

ナル 「ええ…」

ウィルに呼ばれて、ドリアードは駆けて行く。
素直な娘ね…本当に、それが災いしなきゃいいけど…。
私はこれからのことに少々鬱陶しさを感じながら、ただ海を見ていた。



………。



ドリアード 「何ですか、神次さん?」

ウィルさんに呼ばれ、一緒に神次さんの船室に入ると、すでにメンバー全員が集まっていたことに気付く。
四角い机を囲むように、それぞれが立っていた。
椅子がないからですね…。

神次 「これからミーティングを始める!!」

降 「ミーティングって…何を話し合うんですか?」

降さんにそう聞かれて、神次さんは少し険しい表情をする。

神次 「実は…我が新生光輝軍団は現在資金難の状態にある!」

ほぼ全員の時が止まる。
正直あっちの世界に逝ってました…。

ウィル 「…それで?」

ウィルさんが、素でボケる。
本気で言ってるのかなぁ…? そうなんだろうな…。

ルナ 「それで、って…お金がなかったら、宿にも泊れないじゃない!」

ルナさんがこれでもかと言わんばかりにツッコム。
誰でもツッコミたくなる場面だと思いますけど。

ウィル 「へ?」

神次 「へ? じゃ、なーーーいっ!! お前はこういう時のための担当だろうが!!」

業を煮やしたのか、神次さんがびしっ!っとウィルさんに指を指して叫ぶ。
ちなみにウィルさんの担当は主にバイト探し。
私は食事、清掃担当でした…。

未知 「このままでは、食事をとることもできません…」

未知さんが実に現実的な問題を挙げてくれる。
かなり切実なんですね…。

ウィル 「冗談じゃないわよっ! どうすんのよ、リーダー!?」

ウィルさんは(どうせ本気なんでしょうけど)全力でボケる。
ウィルさんと神次さんふたりを除いた全員が、もう諦めたような表情で俯いていた。
多分、皆が思っていることは…『同じ』だ。 ← 『』内訳:だからテメェが働けって言ってんだよ!!

神次 「だ・か・ら! お前が稼ぐための仕事を見つけるんだろうがーーー!?」

ウィル 「成る程!」

ウィルさんはぽんと手を打って、納得する。

ドガシャアッ!!

直後、神次さんが椅子などを巻き込んで派手にすっ転ぶ。
正直皆もコケたかっただろうと思う…。
あのいつも笑顔な未知さんですら、複雑な表情をしていた…。

降 「…とりあえず大丈夫ですか?」

降さんは、割と控えめにそう言う。
疲れているんですよね…その気持ちは皆同じです。
神次さんは、よろよろと椅子に捕まりながら起き上がろうとする。

神次 「と、とにかくっ…! サラブに着いたら急いで仕事を探せ! バイトして稼ぐのだぁーーー!!」



………。
……。
…。



ナル 「さてと、さっさとセルヴァの町に向かいましょ…」

私はすぐにこの町を後にした。
神次の近くにだけは死んでもいたくないわ…。
どうせ、あいつじゃ砂漠は越えられないだろうし、しばらくは安心できそうね。



………。



降 「神次さん…」

突然、降が私に質問してくる。
私はとりあえず冷静に返す。

神次 「何だ…?」

降 「神次さん、セルヴァの町がある場所知ってるんですか?」

まぁ、順当な疑問だろう…。
だが、私はあっさりと答える。

神次 「知らん…誰かに聞けばわかるだろう」

実際、今までそれでやってきたのだから問題はない。
降もそはわかっているだろうに。

降 「でも、ここは砂漠地帯ですよ? 迷ったら…」

確かに今までと違うところはそこだ。
『砂漠』は正直危険だろう。
だが、その危険に打ち勝てないようでは、ナルを屈服させることは出来んのだ!!
なので、私は至って強気に答える。

神次 「その時は原住民が助けてくれる!」

降 「……」

降はあまりのことに言葉も出ないようだった。
そうかそうか…そこまで感服されるとさすがに少々照れる!



………。
……。
…。



我々は、町の中央広場で時間を潰していた。
町自体は、そこそこ広く、人もそれなりに賑わっていた。
広大な砂漠に、町は元々少なく、こういった大きな町は重要な地点なのだろう。
ちなみに、我々のいる中央広場は、かなり暑い…。
以前はソルジネスに行ったせいか、余計暑く感じる。
全員がそれぞれ涼しい格好をするしかなかった。
私を除いては…。

神次 「……」

とりあえず、仕事探しをウィルに命じたわけだが…中々帰って来ん。
まぁ、短期のバイトなぞ、そうはないかもしれんがな。
ましてや、人数が倍になった現状で全員がバイトできるほどの仕事があるとは思わなかった。
まぁ、2〜3あれば十分だろう。
そんなことを考えていると、ようやくウィルが帰ってきた。
手には複数の紙を持っていた。

神次 「えらく遅かったな?」

私がそう言うと、ウィルは呆れた顔をして。

ウィル 「しょうがないわよ…6人分の仕事なんてそうそうないわよ」

そう言い放つ。
まぁそうだろうとは思っていた。

神次 「で、いくつ見つかった? 仕事内容は?」

私がそう聞くと、ウィルは手に持っていた紙を見ながら。

ウィル 「えっとね…まず、降はスーパーでレジ係、未知は教会で孤児の世話」
ウィル 「んで、ドリアードは港で船の清掃。ルナは酒場でバニーガール。神次さんは広場で建築の手伝い。以上!」

最後の方は捲くし立てるように言う。
と言うか…。

神次 (6件見つけてきおったのか…!?)

正直意外だった…。
まぁ、いいことなので追求はしないが…。
ウィルは言い終わった後、それぞれに仕事場の場所等が記載された紙を手渡していく。

降 「了解…」

未知 「わかりました」

ドリアード 「うん」

ルナ 「…マジ?」

ルナはウィルから紙を受け取ると、かなり嫌そうな顔をする。
確かバニーガールだったか…。

神次 「……」

私は想像しそうになるが、止めた。
まぁ、同情くらいはしてやろう。

ウィル 「ご免ね…他になかったのよ」

ウィルはわざとらしくそう謝る。
ルナはかなりの不信感を込めて聞く。

ルナ 「ウィルは…?」

ウィル 「あ、あたしは…宿屋で接客っ」

ルナ 「ちょっと! 私と代わってよ!」

ルナはここぞとばかりにウィルに組みかかる。

ウィル 「何言ってるのよ…ルナの方があたしよりもスタイルいいし〜、きっと似合うわよ♪」

ルナ 「う…こういう時だけ、下手に出る…」

ウィルは勝ったと言う表情をして、すぐに背を向ける。
ルナは煽てに弱いのか…と言うわけでもないと思うが。
まぁ、ルナならば、何かが起こる前に自分で何とかできるだろう。
多分…。

ウィル 「じゃ、じゃあね〜」(汗)

神次 「おい、ちょっと待て! 私のは本当に他に何もないのか!?」

私は紙だけ渡して去っていこうとするウィルを呼び止める。
ウィルは不思議そうな表情して頷く。

ウィル 「え? うん…」

神次 「何で、私が建築なんだ!?」

ウィル 「だったら、他の仕事できる…?」

神次 「……く」

考えても見れば私がまともにできそうな仕事はなかった…。
レジ係など愛想を振り撒くような事は『絶対』できん…。
ガキの世話などもっての外だ。
ドリアードに力仕事はさせられん…。
バニーガールは…却下だ。
接客も似たようなものか…。
まさに逃げ場なし…。

ウィル 「大丈夫よ、あたしたちの中じゃ神次さんが一番体大きいから」

確かに身長はな!

神次 「だが、私は力仕事は…」

正直ダメだ…自慢ではないが、私は貧弱で有名だ。
体つきでそれがばれないように、わざわざこんな暑苦しい格好で全身を隠しているのだ!

ウィル 「にゃははっ、そんなんじゃいつまでたってもナル姉さん振り向いてくれないぞぉ?」

ウィルは突然、意味不明なことを言う。
いや、私には意味不明ではないのだがナ…。

神次 「な、何を…っ!?」

私は不覚にもうろたえていることに気付く。
ウィルは小悪魔のような笑みを浮かべ。

ウィル 「じゃあねぇ〜健闘をお祈りしていますリ〜ダ〜!」

そう言って、ウィルはさっさと自分の仕事に向かった。
他の連中もすでに向かっている。
私だけがポツンとその場に残される。

神次 「何であいつがそのことを…?」

誰にも漏らしてはいないはずだが…?
あいつは読心術でも使えるのか?
考えてもわかりそうになかったので、仕方なく私は現場に向かうことにした。
だがその時…。

? 「失礼…君に用があるんだが」

いきなり後から声をかけられる。
振り向くと、ローブに身を隠して誰かが立っていた。
顔は…見えない、目の部分だけが見えたが、どうとも取れない。
声を聞いた限りでは割と低音の男性のようだった。

神次 「何だお前は?」

私は、警戒心を込めてそう言う。
正直、時間の無駄に思える。

男 「…すまない、少し付き合ってもらえないか?」

神次 「何だと?」

突然、ローブの男は、私の手を無理やり引いて、人気のない場所に連れ出す。



………。



神次 「何のつもりだ!?」

私はそう捲くし立てるが、男は至って冷静に。

男 「やはり…こんな所にいたのか」

私は男の言葉が理解できなかった。
ただ、男は私を見た瞬間、何か重要な物を見つけた…とでも思っているような目をした。

神次 「何のことだ?」

私はあえて聞く。
無視してもよかったが、何故か聞きたかった。
理由は…全くわからないが。

男 「単刀直入に言う、私の名はシャイン・ルフト…。もうひとりのお前だ」

私は目を見開く…突然何を言い出すんだ?

神次 「…何を言っている? 酔っ払いの相手はしていられんな」

私はさすがに無視して、現場に向かおうとする。
危ない宗教でもやっているのだろう。

シャイン 「信じられんのは、承知の上だが…これでも信用しないか?」

シャインと名乗った男は頭のローブを取った。
その中からまさに成人男性の頭が飛び出す。

神次 「!?」

そして私は、その男の顔を見て驚愕した。
その男は私と瓜二つだった。
ただ、私はサングラスをしているが…違いはまさにそれだけだった。
顔のどのパーツを見ても、鏡を映しているのかと思った。

シャイン 「やはり思い出せないか。ならば、お前が持っている銃を見るがいい。それには、我が母の名が彫ってあるはずだ…」
シャイン 「母の…形見をな」

神次 「何…?」

私は右腰に下げてあるホルスターから銃を取り出し、文字を見る。
私の銃は、いわゆるリボルバーと言う奴で、弾は5発まで充填できる。
問題は、私の腕力だと反動に耐えられないので、当たったためしがないが。
ちなみにグリップの部分に名前が彫ってあった。

シャイン&神次 「カイ…ルフト」

私たちは同時にそう呟く。
疑う余地はなさそうだ…が、やはり。

シャイン 「どうだ…? まだ信じないか?」

神次 「…信じた所で、私にどうしろと言う?」

どう考えても怪しい。
安易に信用するのもどうかと思うな…。
もうひとりの私だと…? 別れた分身だとでもいうつもりか?

シャイン 「私とひとつになるのだ…元のひとつの体に」

神次 「何だと…?」

またしても突拍子のない台詞が出てくる。
融合…でもしようと言うのか?

シャイン 「今のままでは、私たちは邪神たちとは戦えない。ひとつになるのだ! 神次!!」
シャイン 「確かに…ひとつになった時、お前の人格は完全に消えてしまうだろう…」
シャイン 「だが、死ぬわけではない…お前の記憶と想いは、私が命を賭けて受け継ぐ!」

神次 「……」

簡単に決められる事項ではなかった。
ひとつになる…それは、私の人格を捨てるということ…。
本当の姿に戻る…。
だが…私は……。

シャイン 「頼む…神次。今のままでは…私たちはナルを守りきることすらできないのだ…!」

神次 「!!」

その時、私の中で何かが弾けたような気がした…。
そして、私の中でひとつの使命感が甦った。

『守るべきものを…護らねば』

神次 「…いいだろう、好きにしろ。但し! 必ず…守りぬけよ……」

私はサングラスを外し、無気力にその場で瞳を瞑って事を待った。
これで願いが叶うのならば、それでもいいか…。

シャイン 「ああ…任せておけ」

シャインは強く頷いた。
そして、全ての音が止んだ…。
目の前が強い光に包まれ、私とシャインを包み込む。

『今こそ、本当のあるべきひとつの存在に…』




………。



止まった体の時間が、再び動き出す…。
体は…動く、全く問題はない。
むしろ、力が溢れてくるような感じだ。

シャイン 「…神次、お前の今まで記憶はしっかりと受け継いだぞ…」

そして、私は行動を『再開』する。
私は急ぎ足に仕事場に向かった。



………。
……。
…。



そして、夜が来た。
私たち6人は、町の宿屋の一室で、船の時と同じようにミーティングを開いていた。
全員が、問題なく仕事をこなしたようで、とりあえずは安心した。

降 「……」

シャイン 「どうした? 私の顔に何かついているのか?」

降はなにやら、物珍しそうに私の顔をまじまじと見ていた。

降 「いえ…サングラスを外した神次さんは、初めて見ましたから…」

シャイン 「そうだな…まずはその話からだな」

降 「はぁ…?」

私は、あの時あった事を細かく皆に説明した。
私がシャイン・ルフトであること…神次と私がひとつになったこと…そして、神次はもういないと言うことを。

降 「……」

未知 「そんなことが…」

ドリアード 「……」

ウィル 「マジ…?」

ルナ 「やっだ〜…もんのすごく美形〜☆」

シャイン 「……」

全員がそれぞれ違う顔をした。
降はどうとも取れないような、複雑な表情。
未知はまるで神次の死を悲しむような…そんな表情。
ドリアードは、信じられないと言ったような表情だ。
ウィルは、かなり真剣な表情で私を見ていた。ほんの少しだが…敵意も感じた。
ルナは…説明はいるまい。

ウィル 「ああー! もうめんどくさいな! 結局神次さんはいないんでしょ!? だったら、軍団はどうするのよ!?」

ウィルはかなり怒った感じでそう言う、余程私のことが気に入らないらしい。
いや…正確には逆か。
私は、とりあえず今決定していることを告げた。

シャイン 「それに関してはすでに決めてある。…光輝軍団は、今を持って解散とする!」

ウィル&ルナ 「えーーーっ!?」

ウィルとルナだけが、声を出して驚く。
他の3人は、覚悟はしていたのか、さほど驚かなかった。

シャイン 「これ以上、私の独断でお前たちの行動を決めるつもりはない。私は明朝ナルを追ってセルヴァに向かう…」
シャイン 「他の団員は今を持って自由、好きに行動しろ…以上だ」

私はそれだけ言って部屋を出た。
これ以上何を言っても意味を持たないだろう。



………。



降 「…皆、どうする?」

僕はとりあえず、皆の意見が聞きたかった。

未知 「私は…着いて行きます。どちらにせよ…シャインさんは私たちと共に戦ってくれる味方です」

未知ちゃんはそう言う、シャインさんと神次さんが同一人物だと言うことを認めているとも思える。

ドリアード 「…今更、戻るわけにも行きませんから」

そうは言うが、ドリアードちゃんはやる気満々のようだった。
やるべきことはわかっている…。

ウィル 「私は、結構神次さんの方が気に入ってたんだよね…」

ルナ 「わおっ…ウィルの大胆発言!」

かなり真剣なウィルの発言に対し、ルナは少し無理したようにツッコム。

ウィル 「ばかっ! 違うわよ…そう意味じゃなくて、何となく気が合うような気がして」

ルナ 「う〜ん、それだったら、私もそうだけど…」

ふたりはそう言って、俯く。
このふたりは、神次さんに同調して着いて来たようなものだったからな。

降 「じゃあ、ふたりは残る?」

僕は俯いているふたりそう聞く。

ウィル 「……」

ルナ 「私は行くよ…シャインさんでも神次さんでもとりあえず今は関係ないよ。本音、ここには修行しに来てるんだから」

降 「僕も同じ意見だよ、僕たちは邪神と戦う力をつけるためにここに来ているはずだからね」

僕とルナは頷き、結局予想通り最後まで決めあぐねているウィルを見る。

ウィル 「わかってるわよ…それぐらい」

それでも、迷っているようだった。
そんなに…神次さんのこと気に入ってたのか。

ルナ 「もう! 煮え切らないなぁ! らしくないわよっ!? 行きたいなら、はっきりそう言えばいいじゃない!」

ウィル 「ああもう! わかったわよ! 行くわよっ! あたしも行くっ!」

ようやく決まったようだ。
僕はとりあえず安心して。

降 「じゃあ、そう言うことで。僕はシャインさんの部屋に行くから」

そう言って僕も部屋を出る。
シャインさんに、この事を告げなければ。



………。



シャイン 「……」

私は部屋で椅子に座り、机に向かって少々考え込んでいた。
皆、邪神と戦うことを決意した仲間だ。
今回のことで、私の出現がどう影響するか…心配がないといえば嘘になる。
部屋を照らす小さなランプの明かりが、妙に不安に思えた。

ガチャリ…

ゆっくりと部屋のドアが空き、降が中に入ってきた。
そして、中に入ってドアを閉め、私の前まで歩み寄る。
表情は真剣な物だった。

降 「シャインさん…」

シャイン 「…どうした?」

私は冷静にそう答え、降の言葉を待つ。

降 「皆、シャインさんに着いて行くことになりました。ですから、また…いつものように指示をお願いします」

降はそう言って、ぺこりと頭を下げる。

シャイン 「…いいのか?」

降 「僕たちは、邪神と戦う力をつけるためにここに来ています。ですから、そんな事は聞かないでください」

確かにそうだ、だが、降や未知は神次に引きずられて来たようなものだ。
それでも、同じ道を辿ると言うことは…それも運命なのかもしれない」

シャイン 「すまない…」

降 「謝らないでください…神次さんが、どんな想いでシャインさんとひとつになったのか…僕にはわかりますから」
降 「誰かのために戦うことは、皆同じだと思います…僕だって、そうですよ?」

降は、神次の想いを知っていたのだろう…恐らく未知も。

シャイン 「……」

降 「ただ、これだけは覚えていてください」
降 「僕たちは、シャインさんでも神次さんでも、同じように着いていきます」

シャイン 「わかった…その言葉、忘れん」

降 「はい…それじゃあ、今日は休みます」

シャイン 「ああ」

私も灯りを消し、眠ることにした…。
明日は早い…。
私はひとつになった体を、休めた。



………。
……。
…。



シャイン 「全員、揃っているな?」

降 「大丈夫です」

未知 「はい」

ドリアード 「はい…」

ウィル 「OK!」

ルナ 「ふぁいとぉ!」

シャイン 「よしっ、出発だ!」

全員、私が所持している砂漠船に乗りこみ、一路セルヴァの町に向かった。
これならば、すぐにでもナルに追いつくだろう。



………。



ウィル 「わおっ…凄いなぁ、砂漠船なんてどうやって手に入れたの?」

ウィルは風を楽しむように笑いながらそう聞く。
私は船を操縦しながら答える。

シャイン 「私が自分で作ったんだ」

降 「そんなことが出切るんですか?」

シャイン 「設計図は苦労したがな…できてしまえばあっけないものだ」

私は簡単にそう言う。
まぁ、一番の問題は材料だったがな…。

ドリアード 「私、初めてです…砂漠船って浮いてるんですね」

シャイン 「ああ、風の魔石によってホバー機能を生み出したんだ」

ルナ 「これなら、すぐに着くね…」

未知 「…!? 待ってください! 何かいます!!」

シャイン 「!?」

未知が敵の反応に気付き、私はすぐに船を止め指示を出す。

シャイン 「気をつけろ! 数が多いぞ!」

その瞬間、砂漠から砂煙を上げ、魔物が飛び出してきた。
一瞬だったので姿は確認していない。
私は、それに目掛けて右手で構え、銃を撃つ。

バアァンッ!

魔物 「!!」

魔物は粉々に砕け散る。
私は瞬間気付く。

シャイン 「こ、これは…氷の邪獣だと!?」

降 「邪獣!? これが…!」

体長は大体1メートル程度。
形はゴーレムのようで、氷の塊の集合体だった。
体のあちこちが尖っており、触れるだけでもダメージを負うだろう。
かろうじて、頭、体、腕、足とパーツが分かれており、大体4頭身位のバランスだ。

シャイン 「各自無理だけはするな!!」

邪獣は休む間もなく現れ続ける。
術者の魔力が尽きない限り、邪獣が消えることはない。
無論、使役することにより魔力は際限なく失われていくのだから、いつかは途切れる。
相手が、無尽蔵に魔力を持っていない限りは…。

ウィル 「いくわよっ!」

バキィ!

邪獣は私の蹴りをくらって砕ける。
なぁんだ、脆いじゃん♪
その瞬間…。

ガシッ

ウィル 「えっ…?」

突然、足を掴まれたかと思うと、いきなり投げ捨てられる。

ズシャアッ!

ウィル 「あいたたたた…油断したぁ」

私は砂漠の砂に尻から落ち、痛みをこらえる。
クッションになってたみたいね…助かった〜。



ドリアード 「えいっ!」

私は連続で矢を放つ。普通の矢ではあまりダメージがないので地の魔法で威力を上げておく。

ドスッ! ザクッ!

邪獣 「ギャアァァ!」

頭に2〜3本程当てると、邪獣は消滅した。でも、まだまだ襲ってくる。

邪獣 「ガアアアッ!」

ドリアード 「キャア!」

シャイン 「くっ!」

ダアァンッ!

背後から私に襲ってきた邪獣は、シャインさんの銃で砕ける。
もうどれくらい倒しただろう?
まだまだ数が減る様子は見られなかった。



降 「くぅ…話には聞いていたけど」

正直、戦う術を持たない僕には辛かった。
せいぜい未知ちゃんの盾になることくらいしか出来ない。

未知 「降さん、無理はなさらないでください!」

降 「大丈夫!!」

僕は多少強がる。
未知ちゃんの前で、弱いところは見せたくなかった。



………。
……。
…。



やがて、100匹近くの邪獣を倒しただろうかと言う所で、どうにか打ち止めとなった。
全員が確実に疲労している。
幸いにも、誰ひとり倒れることはなかったが。
時間が大分過ぎてしまった…私は妙な不安を覚える。

シャイン 「…大丈夫か?」

降 「はぁ…はぁ…」

未知 「……どうにか」

ドリアード 「くっ…はぁ…はぁ…」

ウィル 「…さすがにしんど〜」

ルナ 「数が多すぎるよ…」

シャイン 「……」

実質、私とウィル、ルナがほとんどの敵を一掃した。
降は戦う術がなく、未知を安全に守ることぐらいが限界だ。
未知は力のコントロールが出来ないので戦うことが出来ないと言っていい。
ドリアードは、子供ながらも良く頑張ってくれた、降と未知を守ってくれたからな。
とりあえず、これ以上の戦闘は危険だ。
私は敵の気配がない内に出発した。

ウィル 「ところでさ、邪獣って何?」

ウィルがそう疑問を述べてくる。
そう言えば、降と未知以外は聞いていないのだったな。
私は、自分の知っている知識から説明する。

シャイン 「邪獣とは、邪神の細胞から生み出される魔物のことだ」

降 「そうですね、確かユミリアさんもそう言ってました」

シャイン 「邪神の細胞は、本体が生き続けている限り永遠に分裂しつづける。だから、邪獣の数に限りはない」

ウィル 「じゃあ、なんで打ち止めになったの?」

ウィルは素朴な疑問を述べる。
確かに、矛盾するからな。

シャイン 「邪獣といえども、魔力がなければ活動することはできないからだ」
シャイン 「自分の意志で動くことができないため、邪神の力が及ばない範囲では、リーダー的な役割の、いわゆる術者が必要なのだ」
シャイン 「つまり、その術者の魔力が切れてしまえば、邪神細胞は活動を停止し、滅びるというわけだ」

ルナ 「でも、近くにリーダーなんていなかったよ?」

シャイン 「その場にいなかっただけだろう…私たちを足止めしたかっただけか」

私は既に結論を出していた。

降 「じゃあ、本当の狙いは…」

シャイン 「ナルだろう…」

それ以外には考えられない。
何故ナルを?という疑問には答えが出なかった。
本来ならば、俺を狙う方が優先順位は高いはずだが。

未知 「急ぎませんと…」

ウィル 「ねぇねぇ…ずっと疑問に思ってたんだけど、シャインさんって種族はなんなの? 見たところ人族っぽいけど、違うよね? それと歳は?」

ウィルは思ったことをまとめて聞いてくる。
私は、順番に答える。

シャイン 「私は邪獣と人族との間に生まれたハーフだ」

降 「え!?」

全員が驚く。
無理もない…世界中を見渡しても、こんなハーフは恐らく、未だ私だけだろう。

ドリアード 「でも、邪獣ってさっきのみたいに理性がないんじゃ…?」

シャイン 「いや、邪獣の中には邪神自身の力で生み出された高位の邪獣がいる」

降 「…バルバロイ君がそうですよね」

シャイン 「ああ、十騎士だ」
シャイン 「そして、俺もまた十騎士の血を受け継ぐ者なのだ」
シャイン 「だが、私自身でわかったことだが、邪獣の血はかなりの劣勢因子のようだ」

ウィル 「劣勢…受け継がないんだ」

シャイン 「ああ、だから私はハーフであっても、ほぼ人族と変わりがない。
シャイン 「幼年期が存在し、寿命も恐らくは人族と変わらないだろう…」

ルナ 「えっ!? 邪獣って幼年期がないの!?」

ルナがそこに突っ込む。
見ると、降や未知も知らないようだった。

シャイン 「ああ、邪獣に幼年期はない。産み出された時点で、すでに成人と同じ体をしている」
シャイン 「そして寿命が存在せず、自然死することはない。無論、成長もしないが」

ウィル 「へぇ〜、いわゆる不老不死って奴ね」

ウィルは感心したようにそう言う。

シャイン 「実際には殺せば死ぬんだがな…」

降 「ですね、過去にユミリアさんたちが戦って倒しているんですから」

ウィル 「ふ〜ん」

シャイン 「話は変わるが、私の父は、300年前の戦争で私が産まれてからすぐに死んだ」
シャイン 「母は、私を死なせないために、この時代へと転移させた…そして、その際に異常が生じ、私は神次と分離してしまった」

降 「そんなことが…」

未知 「では、シャインさんのお母様は…?」

シャイン 「わからん…だが、時空魔法を使った時点で死は確定していたろう…」

それは例外を除いて逃れられぬ宿命だ。

ウィル 「……」

シャイン 「…それから歳だったな、私は20だ」

降 「じゃあ、ナルさんと同じですね、って当然ですよね…神次さんと同じなんですから」

シャイン 「そう言うことだ」

ルナ 「あっ、あれがセルヴァの町じゃない?」

ドリアード 「そうですね…多分」

ルナが前方を指差す。
すると、確かに大きな山のふもとに小さな町があるのが見えた。
確かに、あれがセルヴァの町だ。

シャイン 「よしっ…急いで町に入り、その後洞窟に向かうぞ!」

全員 「はいっ」



………。



セルヴァの町は小さな町で、あまり人口も存在しない。
ゆえに、大した物も手に入らないが、この町には数多い魔石が販売されていることで有名だ。
私は燃料である風の魔石を数個購入してからすぐにダレスの洞窟へ向かった。

ルナ 「そういえば、どうして、砂漠なのに氷の邪獣が現れたの?」

シャイン 「恐らく…術者が氷の使い手なのだろう。そして、そいつは私の知っている者だ」

降 「十騎士…ですか?」

シャイン 「ああ、名は氷牙! 氷の十騎士、虹村 氷牙だ!」



………。
……。
…。



ナル 「……」

私はダレスの洞窟をひとり歩く…。
山のふもとに入り口があり、そこから山を登るように洞窟を歩いていく。
基本的に人の手が入っているようには見えず、灯りもない。
さすがに何も変わっていないわね…。
私は手製の小型携帯ランプで、周りを照らしながら歩いていく。
そして、しばらく歩いていくと前方にドアが見える。
ドアを空けると、そこはそれなりに広い空間で、れっきとした人が住んでいる家だった。
そして、その部屋の隅、小さな釜の前で、ひとりの男性が壷を焼いていた。

男性 「…ナルか」

男性は背を向けたまま私の存在に気がつく、そして、こちらを振り向く。
風貌は少し怖めで、長髪、身長も私と同じぐらい…。
真紅のローブに身を包み、見た目は20代後半のような顔つきだった。

ナル 「…お久し振りです、師匠」

私はそう言って、頭を下げる。
師匠は、まるで私が来ることを予想していたようで。

イフリート 「待っていたぞ、ナル…必ず来るだろうと思っていた」

ナル 「何故、ですか…?」

私はあえて聞く、だが愚問のようだった。

イフリート 「ふん…私が何も気づかないとでも思っていたのか? 邪神の事ぐらいは知っている。ただ…お前たちが戦うことになるとまでは思わなかったがな」

ナル 「でしたら、何も言いません…お願いいたします」

イフリート 「まだ、使えていないのか…仕方あるまい。こっちに来い」

師匠は釜の火を消し、その更に奥にあるドアを空け、そこに入っていく。
私も、それに続く…。
前にもこうやって修行の場に立った。
そして、また私の修行が始まる…。



…To be continued




次回予告

ナル:修行を開始した私は、精霊の心を感じるために瞑想を続ける。
でも、精霊は答えてくれない。
大きくなっていく不安と焦り。
そんな中、氷の十騎士が私を狙う。

次回 Eternal Fantasia

第13話 「精霊の心」

ナル (私に…力を……)




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