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第20話 「時の翼」




悠 「力の秘密?」

ユミリア 「そう…ユシルが持っていた時の力。あなたは、それを使いこなさなければならないのよ」

いきなりな話である。
自分にとっては謎でしかなかった力がついに解き明かされるのだ。
と言っても、ユシルさんの力と言うことはわかっているので、大体の想像は出来るつもりだ。

悠 「時の力…ですよね?」

ユミリア 「そうよ。ユシルはドグラティスによって生み出された最初の邪獣。そして時の邪獣だった…それは覚えてる?」

悠 「…はい」

ユミリア 「そして、邪神ドグラティスを倒すことができるのは、時の力を扱えるあなただけ」

悠 「……はい」

正直、いい気分ではない。
期待されてはいるが、結果は俺にとっては無残な物だろう。
時の力…邪神を倒すほどの物ならば、俺の命は…。
少なくとも、ユシルさんは時の力で死んでいる。
肉体が邪獣でない俺ならば、もっと耐えられないと思った方がいいだろうな。

ユミリア 「…不安はわからないでもないけど、倒すだけならそこまでの力は必要ないわ」
ユミリア 「中和程度なら、寿命が少し縮む程度ですむでしょ…」

悠 「縮む程度…」

ユミリア 「…まぁ、死なないだけでも良しとしなさい」

悠 「……」

納得するしかないが。
まぁ、今更自分の不幸を呪っても始まらない。

ユミリア 「あなたはそういう道を選んでしまったのよ」

悠 「…はい」

まぁ、俺の寿命で世界が救われるなら良しってわけか…。
…なんか、子供が考えるような事じゃないよな。
できれば普通に生きたかったもんだ。
などと心にもないことを考えた。

ユミリア 「ただ、時の力は本当に危険な物なのよ。もしコントロールを誤れば、確実に自滅するわ」

悠 「は、はいっ」

ユミリア 「私が覚えている限りでは、ユシルが本当の力を発動させた時、翼が生えてたわ…」

悠 「翼って…翼人族のような?」

俺は想像してみるが、やはりそう言った形の物が浮かぶ。
だが、ユミリアさんは首を横に振る。

ユミリア 「ううん、恐らくは魔力かその類の放出によって形作られたと思う…」

悠 「まぁつまり…それが発動した時の目印だと」

ユミリア 「そう言うことね…まぁ、私も一度しか見た事ないし、あなたも同じとは限らないから」

悠 「…結局これから何をすればいいんでしょうか?」

そろそろ、修行の本題を聞かせてほしい。
このままだと説明だけで一日終わりそうだ。

ユミリア 「…まず、あなたの精神を鍛えるわ」

悠 「精神を?」

ユミリア 「あなた前に、何か自分の意識が飛ぶような事があるって言ってたわよね?」

悠 「あ、はい…何か、むかついた時とか、要するに限界まで怒ると、何かそうなるんです。…で、気がついたら周りが吹き飛んでたり」

レイナと再会した時も一度あったな…。
ゼイラムの時もそうだった…。

ユミリア 「正直、わからないわ」

悠 「へ?」

ユミリア 「何故、ユシルの力がそう及ぼしたのかが…よ」
ユミリア 「あなたの中には、どうも不確定要素があるみたいなの」

悠 「そ、そうなんですか?」

かなり不安なことを言ってくれる。
でも、俺は思いだす。
あの時の夢の言葉を。

悠 (知らなかった…か)

ユミリア 「もしかしたら、ただの暴走なのかもしれない」
ユミリア 「でも、ユシルはそんなこと一度も無かった」
ユミリア 「悠君…あなたは、両親のこととか覚えてる?」

悠 「え…いや、全然知らないんです」
悠 「俺、物心着いた時から、孤児院で暮らしてたんで」

ユミリア 「そう…」

ユミリアさんは考える。
そして、一瞬鋭い目をした。
何かわかったんだろうか?

ユミリア 「…まさか、カオスサイドの?」

悠 「は?」

聞きなれない言葉が出てくる。

ユミリア 「あ、ごめんなさい…もしかしてと思ったのよ」

悠 「はぁ」

意味がわからなかった。
何かの地方名だろうか?
カオスサイド…ねぇ。
覚えがなかった。

ユミリア (まさか、トランサー? でも…記録としても残ってなんかいないはずのそれが何故…)
ユミリア (第一…カオスサイドの皇帝がこちら側に来たなんて言う情報すら、ないというのに)

悠 「あの…ユミリアさん?」

俺はひとりで考え込んでいるユミリアさんに声をかける。

ユミリア 「あ、ご、ごめんなさい…」
ユミリア 「で、何?」

悠 「いや、何って…だから修行ですよ」

俺がそう言うと、何か慌てた様子でユミリアさんがはっとなる。
考え過ぎだっての。

ユミリア 「と、とりあえずあなたの精神を鍛える必要があるのよ」

悠 「……はぁ」

まぁ、よくある話だな。
で、何故?

悠 「あの、端折りすぎでわかりません」

ユミリア 「あれ? おかしいわね…えっと」
ユミリア 「多分、あなたの精神を鍛えれば、力をコントロールできるようになるから…」

悠 「なるから…?」

ユミリア 「だから、修行!」

もう何でもいい…とりあえず、任せよう。
俺は少々ため息をついて、気合を入れなおす。



………。



ユミリア 「…多少荒業を使うわ、気を抜けば死ぬわよ?」

悠 「し、死ぬって…」

いきなりだなオイ!

ユミリア 「私が今から、あなたに『ある』物を憑かせるわ」

悠 「ある物…?」

ロクな物じゃないことだけは確かだ。

ユミリア 「覚悟はいいわね?」

悠 「まだだ、って言ってもやるんでしょ?」

ユミリア 「わかってるなら話は早いわ…はぁっ!」

悠 「!?」

いきなりすぎだ!
だが、突然目の前が真っ暗になっただけで、一瞬で元に戻る。

悠 「……終わり?」

ユミリア 「これで下準備はOK…さぁ、剣を取りなさい!」

ユミリアさんはすでに剣を抜いている。
俺は慌てて剣を取る。

悠 「って、今度はいきなり組手ですか?」

ユミリア 「ぐだぐだ言わないで始めるわよ?」

本気の目…。
俺は何も言わず構えた。

ユミリア 「いくわよ!」

ユミリアさんは掛け声とともに俺に切りかかる。
手加減はしてくれるようで、割と遅めの動きだった。

悠 (とりあえず、右に避け…!)

ガキィ!!

悠 「うわっ!!」

俺は回避に失敗し、吹っ飛ばされる。
わざわざ剣の上から吹っ飛ばしてくれた。

悠 「な、何で…?」

ユミリア 「……」

ユミリアさんは俺が考える暇も与えず、攻撃を繰り出す。
同じような攻撃だ、舐めているとも言える。

悠 (くそっ! 今度こそ…!?)

ドガァッ!!

俺はまたもや吹っ飛ぶ。
同じパターンだ。
何で?

悠 「……?」

ユミリア 「まだ、ルールが飲みこめないの?」

悠 「一体、何を…?」

全く意味がわからない。
ユミリアさんは殺気のこもった目で俺を見る。
正直怖いな…マジで。

ユミリア 「私があなたに憑かせた物…邪霊なのよ」

悠 「じゃ、邪霊!?」

ユミリア 「その邪霊はあなたの心に巣食い、邪念をを食料にしているわ」

悠 「なっ…!」

人の精神を貪るのかよ!
って言うか、どうすんだそれ!?

ユミリア 「あなたが心を静めれば邪霊は勝手に餓死するわ。でもできなければ…」

悠 「……」

ユミリア 「…邪霊に心を食いつぶされ、廃人になるわ」

とりあえず予想通りの答え…。
いくらなんでも荒業過ぎだ…。
だが、今更後悔しても遅い…むしろ、下手な事を考えれば、それで食われる。

ユミリア 「死にたくなければ、心を沈める事ね…簡単に言えば、無心になるのよ」

悠 「無心…」

ユミリア 「頭よりも先に体が動いていればいいのよ…」

そう言って、ユミリアさんが切りかかってくる。
俺は反射的に体を動かすが。

悠 「!?」

ドガッ!

またまた吹っ飛ぶ。
確実に体が動いていない。
俺は戦いになると気が昂ぶりすぎる。
ましてや、ユミリアさんがあれだけの殺気を込めてくるんだ…否応なしに体と心が反応しちまう。

悠 「う…」

突然意識が朦朧としてくる…。
もうかなり食われているのか…?

ユミリア 「どうしたの? もうギブアップ?」

悠 「くそ…!」

俺は気をさらに昂ぶらせてしまう。
それがいけなかった。

悠 「ぐ…かはっ!!」

直後喀血。
そして、意識が離れていく…。
早すぎだろオイ…俺ってダメだなぁ。



………。
……。
…。



ユミリア 「……この程度とはね。ユシルも、とんだ見こみ違いだったってわけね」

悠 「……」

意識が無くなる…景色が真っ白だ。
俺は死ぬのか…?
そうか死ぬのか。
あっけねぇ…まぁいいや、苦しまずに死んだだけマシさ。

レイナ (悠…)

レイナ…?
何でレイナがいるんだよ。
真っ白な空間に浮いているようにレイナがいた。

レイナ (悠…どうしたの?)

さぁ…? よくわからない。
って言うか、死ぬ時ぐらいさっと死なせてくれ…。

レイナ (悠…ずっと、一緒なんだよね?)

…今更何を。
俺は死ぬんだって!

レイナ (悠なら、きっと大丈夫だよねっ)

聞いちゃいねぇ…死人だぞ俺は。
今からあの世に行くんだから、そこどけって…。

レイナ (ほら…起きて、悠。悠には…まだやることがあるでしょ?)

ったく…しゃあねぇな。
何で、俺がこんなこと…。



………。



悠 「……」

目が覚める。
白い景色が次第に元の色に戻っていく。
俺は仰向けになっていた体をゆっくりと立ち上がらせる。
やれやれ、随分と『食われた』ものだ…反応が鈍くなっているな。

ユミリア 「!? この感覚!!」

悠 「……」

女が驚いたように俺を見ている。
俺は軽く相手を一瞥するが、相手は一瞬何か考え込み。

ユミリア 「…試させてもらうわよ!」

悠 「……」

女がそう言った瞬間、大きな敵意が来る。
だがその全ての動きが『俺』には見える。

ブンッ

ユミリア 「かわされた!?」
ユミリア 「くっ!」

ヒュヒュヒュッ!!

かなりの速度で相手は切り込んでくる。
縦、横、斜め…。
正直いい攻撃だ。
だが、この程度なら十分捌ける。

ユミリア (心の乱れはない、でも…意識もない)
ユミリア (一体…何が起こったの!? それとも…これがトランサーの)

悠 「……」

ユミリア 「……」

互いに動きを止める。
俺は自分と話す。
どうにも体の反応が著しくない。
まだリジェクションがあるようだな…シンクロしきれていないか。

もうひとりの自分 (どうして動かない?)

悠 (動けないんだよ)

もうひとりの自分 (動こうと思わないからだ…動けば勝てるんだぞ?)

冷たい口調でもうひとりの自分が俺にそう言う。

悠 (勝ってどうするんだよ…誰かが傷つくだけだ)

もうひとり自分 (知ったことか…自分の命を狙う敵をどうして倒せない?)

これがもうひとりの自分だ…自分さえよければ何でもいい。
自分の命を守るため…それならば誰が傷つこうが、死のうが関係ない。
こいつは…こうやって俺を守ってきてくれた。

悠 (傷つけたくないからさ…)

もうひとりの自分 (違うな…お前は臆病なんだ)
もうひとりの自分 (戦って死ぬのが怖いんだろう?)

俺の心を見透かしたようにそう言う。
実際わかっているのだろう…自分なのだから。

悠 (そりゃそうだろう…誰だって死ぬのは怖い)

もうひとりの自分 (だが、動かなくても死ぬぞ? 死ぬのが怖いなら抵抗したらどうなんだ?)

悠 (抵抗しても無駄さ…俺はそんなに強くない)

もうひとりの自分 (なら、また俺に全てを任せるのか? そして全てを破壊する)
もうひとりの自分 (俺は構わないがな…その方が楽でいい)
もうひとりの自分 (だが、主導権は俺が貰うぞ? これからお前が日の光を浴びる必要はない)

悠 (…そんな勝手なことするなよ。俺が最初にここにいたんだぜ?)

もうひとりの自分 (だが、お前は生きる力すらも持っていない)
もうひとりの自分 (お前に何ができる? 俺は自分のために生きる…お前が死ぬというなら俺は全力で止める)
もうひとりの自分 (俺とお前は同じなんだからな)

悠 (違う…同じじゃない)

もうひとりの自分(同じさ…心も体も…産まれも……そして、宿命、運命さえも、な…)

悠 (……)

俺はどうすればいい?
考えても結論なんて出なかった。
そう言えば、何で俺はこんな所にいるんだろう?
もう何もかもが薄れてきた。
俺の心が折れれば、主導権はあいつに回る。
俺は二度と外に出ることはない。
それも…いいかな?
楽でいいし…な。

レイナ(本当にそれでいいの?)

悠 (いいんだよ…もう何も恐れなくてすむんだから)

ナル (諦めるのね? 今まで生きてきたことも全部捨てて…)

悠 (それが一番いいんだ…もうほっといてくださいよ)

ウンディーネ (そんなもんがどないしてん…もうちょっと男見せてみぃや)

悠 (無理ですよ…俺は弱者なんだから)

もうひとりの自分 (そうだ…お前は弱者だ)
もうひとりの自分 (自分では何も出来ない弱者だ)
もうひとりの自分 (好きな人も守ることは出来ない…大切な物を守ることも出来ない)
もうひとりの自分 (何も手に入れることは出来ない)
もうひとりの自分 (お前にはどこにも居場所はない! さっさとこの体から消え失せろ!!)
もうひとりの自分 (そうら…邪霊が来たぞ? お前の魂を美味しそうに見定めてる)

悠 (……)

邪霊…禍々しい姿が渦巻くように空間を捻じ曲げている。
そうか、アレにやられればすぐに死ねるな…。

もうひとりの自分 (どうした…怖くて自分から食われることも出来ないか?)

悠 (……)

俺は考える。
これでいいのか?
俺は…何かを忘れてないか?
俺は深く考える…そうだ、やることがあるじゃないか。

? (そう…君にはやるべきことがある)

どうして忘れていたんだろう?
俺の仲で何かがゆっくりと開いていく。

? (頑張って…私たちに出来なかった想いを、あなたは生きて)

俺の中で目覚める物がある。
だが、それにはまだ足りない物がある。

もうひとりの自分 (…思い出したのか?)

悠 (ああ…思い出した)

もうひとりの自分 (なら、何をすればいいかわかるな?)

悠 (ああ…わかる)

もうひとりの自分 (やってみろよ? 証明してみろ)

悠 (…俺にお前の命をくれ)

もうひとりの自分 (…いいだろう、ただし)

悠 (俺は絶対に負けない…勝ってみせる)
悠 (そして、受け継いだ想いを絶対に捨てはしない…!)

もうひとりの自分 (上出来だ…後は好きにしろ)
もうひとりの自分 (せいぜい大事にしろよ? この体はひとつしかないんだからな…クク)

薄ら笑いを浮かべ、奴は消えていく。
そして同時に俺の意識も切り替わっていく。
ようやく…ひとつになれる。
これからは、俺が戦うんだ。



………。



急速に意識が戻る。
俺は自分の体を見る。
感覚がある…自分で動く。
俺はようやく実感が湧いた。
自分の心がようやくひとつになったと。
今まで俺はあいつに頼りすぎてた。
自分の弱さをあいつになすりつけて、周りも傷つけた。
だけど、もうそんなことはない。
俺は自分の中で覚醒しつつある力を感じる。

悠 「……」

ユミリア 「……」

目の前ではユミリアさんが身構えていた。
俺は剣を握る手の力を緩める。
すると、ガシャンと音を立て、剣は地面に落ちる。

悠 「…ユミリアさん、今日はもう終わりにしませんか?」

ユミリア 「…悠君?」

ユミリアさんが不思議そうに俺を見る。
何が起こったのかがわからない…そんな表情だ。

悠 「…大丈夫です、もう」
悠 「時の力はともかく…やっと意識が戻った、そんな感じなんです」

ユミリア (邪霊は…消えている)
ユミリア (理由はわからないわ。一体悠君の身に何があったのか)

悠 「今日は…休ませてください。すみません、」

ユミリア 「わかったわ…今日はここまでにしましょう」
ユミリア 「一日、ゆっくりと体を休めなさい」

悠 「はい…」

こうして、俺は今日の修行を終えた。
短い時間だったが、内容としては濃すぎるくらいだった。



………。
……。
…。



アリア 「レイナ、あなたは自分の力がわかってる?」

レイナ 「いえ…でも、大きな力を感じた事はあります」

まず最初にアリアさんがそう質問をしてきた。
私はありのままの答えを答える。

アリア 「そう、あるのね…」

レイナ 「あの、やっぱりそれは…」

アリア 「察しの通りよ…」

レイナ 「やっぱり…セイラさんの」

アリアさんは頷き、そして呟く。

アリア 「光の翼…」

レイナ 「えっ?」

確かに聞こえた、光の翼と…。
聞いたことはない。
だが、私に関係のあることなのだろう。

アリア 「ヴェルダンド王家、正当血統の証」

レイナ 「正当血統…それは?」

私が聞くと、アリアさんは静かに説明する。

アリア 「セイラは、当時唯一の王女だったわ。でも、戦争の最中で死亡した」

レイナ 「じゃ、じゃあ、王家は…?」

アリア 「当時の国王の親類の子が跡を継いだわ」

つまり正当王家はすでに滅亡して…。

アリア 「だけど、あなたはセイラの力を受け継いだ」
アリア 「体はそうでなくても…心と力がそうなのよ」
アリア 「だから、あなたには正当血統と同じ力を有している」

レイナ 「…じゃあ、正当血統は私だけ」

アリア 「そうよ、だからあなたには修行の後に、やらなければならないことがあるわ」

レイナ 「それは…?」

アリア 「ヴェルダンドに向かい、天剣バルムンクを手に入れるのよ」

レイナ 「バルムンクを、私が…!?」

聞いたことがある。
誰も使うことの出来ない、伝説の剣。
風と光の力を有し、その斬撃は空気を切り裂く。
そして持つものに偉大なる力を与え、世界に平和をもたらすであろうと伝えられる一振り。
それを、私が…。

アリア 「あなたにしか使う事はできないわ」

レイナ 「…セイラさんはバルムンクを使っていたんですか?」

アリア 「…もし、そうだったら、セイラは死なずにすんだわ」

アリアさんは悲しそうにそう言う。
まるで後悔するように…。

レイナ 「え…?」

アリア 「ゼイラムの策謀によって、セイラはバルムンクを持つことなく死を迎えたわ」
アリア 「ゼイラムが恐れたこともあった…でもセイラは産まれたその時にすでにここまでの運命を定められたと言ってもよかった」

レイナ 「……」

私は俯きながら、セイラさんの無念を感じる。
そして、私はその意思を受け継いだと言うことを実感する。

アリア 「さぁ、あなたの修行を始めましょう…まずはそこからよ」

レイナ 「はいっ」

アリア 「基本的にはあなたの基本能力を高めるだけ、あなたの力はバルムンクを手に取った時覚醒するはずよ」
アリア 「…頑張って。私にはそれしか言えないわ」

レイナ 「…はいっ」



………。
……。
…。



リヴァ 「これを、持て」

突然リヴァイアサン様が槍を俺に差し出す。
当然ながら、俺が持ってきた槍だ。
どんな物かもよくわかっている。

リヴァ 「修行の2ヵ月で使えるようになっておけ」

そう言って、リヴァイアサン様は部屋を出ていく。
俺はひとりにされる。

シャール 「マジかよ…ポセイドン、か」

実は今までにも何回か触った事がある。
だけど、ポセイドンは何も反応がなく俺には扱えなかった。

シャール 「……」
シャール 「…やっぱり、無理だよな」

俺には何も感じない。
どうすれば、使えるんだよ…。
俺はもしかしたら王家じゃないのかもな。



………。
……。
…。



ガチャ…

何時間か経った所で、ドアが開く音。
誰かが部屋に入ってきた。
と言っても、予想はできてる。

リヴァ 「何かつかめたか?」

シャール 「リヴァイアサン様…俺には無理ですよ」

リヴァ 「早くも泣き言か?」

言いたくもなる。
よりによって俺に伝説の槍を使えと言うんだ…できるわけがない。

シャール 「今まででも試したんですよ!! でもできなかった!!」
シャール 「…俺はやっぱりできそこないなんですよ」

リヴァ 「だが、どっちにしてもお前以外で使える物はいない」

シャール 「どうして!? 親父がいるじゃないですか…親父なら年齢的にもまだまだ戦えるはずです!」

リヴァ 「…お前は知らないのか?」

シャール 「えっ…?」

リヴァイアサン様は、やや口篭もってこう言う。

リヴァ 「お前の父は、もう長くはない…」

シャール 「なっ…?」

リヴァ 「恐らく、後2ヶ月程度の命だろう…」

シャール 「……」

そんな…。
親父が…死ぬ。
初耳だぞそんな…。
だが、理由は自分にある。
しばらく城に戻った覚えはない。
戻っても親父と顔を合わせることはほとんどなかった。
だけど、そんな病に冒されていたなんて…どうして誰も教えてくれなかったんだ!?

リヴァ 「わかったか、お前がやらねばならんのだ…」

シャール 「…リヴァイアサン様、一度城に戻っていいですか?」

リヴァ 「…1日だけなら時間をやろう」

シャール 「…ありがとうございます」

俺はそう言って、走って神殿を出た。
時間はまだ昼間だ。
昼飯も無視して俺は走る。



………。
……。
…。



全速力でガストレイスに戻ると、俺はすぐに城に駆け込む。
門番に詰め寄って俺は息を荒くする。

兵士 「お、王子! どうなされたのですか?」

シャール 「親父はどこだ!?」

兵士 「し、寝室におられると思いますが」

シャール 「わかった!」

俺は走って親父の寝室に向かう。
途中何回かつまずきそうになったりしたが、俺は気にせずに突っ走った。
今は、一秒でも惜しい!

シャール 「はぁ…はぁ…」

ガチャ

俺は親父の部屋のドアを開け、中に入る。
まだ息が整っていなかったが、そんなことを気にしてられなかった。
中にはベッドの上に親父が寝ていた。
俺が入ったことに気付くと、ゆっくりと上半身だけを持ち上げる。
白い寝巻きの下に痩せ細った体が見える。
顔からもやつれているのがよくわかる。
親父は俺を見ると、驚いたような表情をした。

国王 「シャール、何故ここに…」

シャール 「親父…なんで黙ってた!」

俺が言葉を荒げて言うと、親父は少し俯き。

国王 「病の事か…今はまだ、と思っていたのだがな」

シャール 「息子に黙っている事はないだろう…」

だが、親父は冷たく突き放す。

国王 「こんなところで油を売っている暇があるのか? さっさと修行に戻れ」

シャール 「親父…」

国王 「シャール…ワシが死んだ後は、お前が国を継がねばならぬ」

シャール 「……」

親父は俺のことを第一に思う。
いつもそうだった。
俺がどんなにわがままをやっても何も言わなかった。
自由に育つことを何も咎めなかった。

国王 「シャール、ポセイドンはお前の心を見抜く…」

シャール 「?」

国王 「お前が、真に主と認められたのならば、ポセイドンは必ずやお前の力となろう…」

シャール 「認められる…?」

国王 「ポセイドンは意志を持っている…神の意志をな」

シャール 「……」

神の意志…それが俺に?
親父が動けない以上、俺が使うしかない。
だが、本当にできるのか?
やらなければいけない。
もう自分勝手に生きていられない…俺は戦うんだ!

国王 「さぁ、行け! 世界を守るために…」

シャール 「ああ…言われなくてもやってやる! それからな…俺の修行が終るまでは絶対に死ぬなよ?」

国王 「…安心しろ、後一度お前の顔を見るまでは死なぬつもりだ」

シャール 「それを聞いて安心した…じゃあな親父!!」

俺はそう言って部屋を後にする。
また全力疾走だ。
俺は急いで神殿に戻る。



………。
……。
…。



リヴァ 「…帰ったか」

シャール 「はい…すみませんでした」

リヴァ 「…いい目だ」

シャール 「は?」

リヴァイアサン様は俺を見てまずそう言う。
よくわからなかったが、今までの俺がダメ過ぎたと言うことだろう。

リヴァ 「さぁ、時間はない…」

シャール 「わかってます!」

俺はポセイドンを手に取り、ポセイドンに意志を傾けた。
すると、あまりにもあっさりと答えは返ってきた。

ポセイドン (…そなたの心、確かに受け取った)
ポセイドン (迷いのない澄んだ心を我は望む…)
ポセイドン (新たな主よ…我が力を持って世界との脅威に立ち向かうがいい)

シャール 「!?」

リヴァ 「ポセイドンが…!」

突如、ポセイドンは輝き、力が俺の体に流れこんできた。

シャール 「これが…海神の力」

力が溢れてくるのがわかる。
まるで重いだけだった槍が嘘みたいに軽い。
俺の体の一部のようだ。

リヴァ 「後は、力の使い方だ…ポセイドンはお前と心をひとつにしている。心を乱すな…ポセイドンと常にひとつになるのだ」
リヴァ 「それを使いこなせるようになれば、お前に勝てるものなどそうはいないだろう」

シャール 「はい」

だが過信は出来ない。
それ以上にならなければ!
こうして、俺とポセイドンの修行が始まった。





………………。





そして、それから1ヶ月の月日が経った…。
それまでの時間はあまりに短く感じ、内容の濃い1ヶ月だったと思える。
それぞれが別人のように成長し、まるで今までとは違うと言うことが互いに理解できた。



悠 「……ふぅ」

ユミリア 「今日はここまでにしましょうか」

悠 「はいっ」

ユミリア 「いい感じね、さすがだわ…精神も安定している」
ユミリア 「剣の腕も、魔力もかなり上がっているわ」
ユミリア 「これなら、四天王を相手にしてもボロ負けとは行かないと思うわ」

悠 「ユミリアさんの教え方がいいんですよ!」

ユミリア 「あら本当? 嬉しいこと言ってくれるわね…」

そう言ってユミリアさんが屈託なく笑う。
本当にこの人って女の子らしいところ持ってるよなぁ…ちょっと少女観念入り過ぎてる気がするけど。
まぁ童顔だし、騙される男はコロリと行くだろう。

悠 「でも、四天王を倒せる位にならないと…」

ユミリア 「正直、それは難しいわね…四天王クラスの敵を倒すには間違いなく時の力が必要よ」

悠 「…時の力ですか」

ユミリア 「本音としては、四天王は悠君以外で倒したいわ」
ユミリア 「そして、ドグラティスとの戦いだけにあなたの力を使って欲しいの」
ユミリア 「そのための仲間も集まってきている」

悠 「…はい」

他人頼みってわけか、でも大将を倒せるのは俺だけ…切羽詰ってるよなぁ。
負けた時のことは考えないようにしよう。
信じることが一番の近道だ。

ユミリア (大分鍛えあがってきている。これなら、もうそろそろコントロールができるかもしれない)
ユミリア (不安は当然あるけど、やらなければ前には進まない)



………。
……。
…。



やがて晩飯となり、俺たちは食堂で鉢合わせる。

レイナ 「悠、お疲れ様…」

悠 「レイナ…お疲れ」

お互い今日の修行が終わった所で、挨拶を交わす。
互いに疲れているのだろう、言葉は少なかった。

レイナ 「…悠、大分変わったよね」

悠 「そうか?」

レイナがふとそう言う。
そう言うレイナもかなり変わったと言える。
髪が少し長くなった…とかもあるけど、見た目以上に中身が変わってきている。
元々、芯は強いと思っていたが、レイナは成長力が断然違う。
今では前線式とかもできるかもしれない…とか思ってみたり。
まぁ、俺がリーダーに向いていないと言うのもあるだろう。
レイナの方が向いてそうだ。

レイナ 「…何だか、頼もしくなった気がする」

悠 「それって、今までは頼もしくなかったって事?」

レイナ 「そ、そうじゃないけど…その」

レイナはうろたえる。
もちろん冗談だ。
でもこの反応がまた面白い。
俺って虐めっ子なのかなぁ…?

シャール 「おいおい…あまり虐めるなよ?」

その時シャールさんが割りこむ。
こっちも相当イメージが変わった。
軽かっただけのイメージを一新し、長髪を切って今はショートヘアーになっている。
男前が上がったが、やはり女好きは相変わらずのよう。
それでも、明らかにやる時はやる表情で頼もしい仲間だと思えた。
今ではポセイドンの力を大分引き出せるようになっており、俺やレイナでは到底叶わない力を持っている。

悠 「別に虐めてませんよ…」

レイナ 「……」(赤面)

シャール 「やれやれ…羨ましい事だ」

悠 「?」

俺は意味がわからず、?を浮かべる。
何が言いたいのかはわかるのだが、勘違いだと思う。
そして俺たちはそれぞれ食事を摂り始めた。



………。



食事が終わると、俺たちは寝室で横になる。
だが、今日はどうもおかしい感じがした。
何かを感じる。

悠 「……」

シャール 「…妙だな」

悠 「どうかしたんですか?」

シャールさんも何かを感じ取ったのか、外を眺める。
俺も釣られて見る。

シャール 「…暗すぎる。砂漠地帯のここで月の光が隠れるような物はないはずなのに」

悠 「そういえば…」

いくら夜中とはいえ、今まで月の光が隠れることはなかった。
それだけに、今のこの状況がおかしく感じる。

シャール 「…少し見てくるか」

そう言ってシャールさんが立ち上がる。

悠 「俺も行きます」

俺もシャールさんを追う。
一応武器も持っておく。
戦闘の可能性も十分考えられるからだ。



………。



外に出ると、真っ暗の闇…。
神殿の明かりしか頼りがなかった。
空を見ると、うっすらと霧がかっているように見えた。
明らかに普通じゃない。

シャール 「何だ、何かいるのか?」

悠 「シャールさん?」

シャール 「いや…ポセイドンが反応を示した」

悠 「……」

シャール 「!? 気をつけろ悠!!」

悠 「!!」

ズドォンッ!!

俺は何かの接近を感知すると、身をひねってよけた。
目には見えないが、恐らくは魔力の放出だろう。
俺はすぐに体勢を立て直す。

シャール 「魔法か!」

悠 「…サン・ライト!」

俺は魔法の放たれた方向に向かって光魔法を放った。

パアァァァッ!!

直後、眩い光が広がる。

シャール 「あれは?」

悠 「誰だ!」

目の前には少女がいた。
黒髪の長髪。
首の下をお下げにしてあり、風に靡いてゆらゆらと揺れる。
もみ上げが長く、肩の下位まであった。
レイナよりも少し短いくらいだ。
黒く袖のない服に身を包み、肌にはタイツのような黒い服を上下に着込んでいた。
首から下は全身タイツと言った方がわかりやすいだろう。
下は前掛けとというか後ろ掛けと言うか、どう表現したらいいのかがわからない。
腰に紐のような物で止めてあり、前と後ろに掛け軸のように垂れ下がっている奴だ。
ぱっと見た感じ美少女だが、冷たく感じる視線からは、ぞっとする物を感じる。
確実に恐ろしい気を放っていた。

少女 「……」

悠 「…刺客か」

シャール 「ひとりか…?」

悠 「恐らく」

少女 「…勘がいいわね、楽に殺してあげようと思ったのに」

悠 「……」

冷たく言い放つ。
声は高めだが、鋭く重い口調。
感情がこもっているが、まさに怖いと言うイメージがある。

少女 「…その目、やっぱり似てるわね」

悠 「……?」

少女は俺を見ると、顔をしかめる。
似てる…誰に?

ユミリア 「あなたが来たの…ネイ」

ネイ 「ユミリア!?」

アリア 「…ひとりで来たのは作戦?」

レイナ 「あなたが、常闇のネイ…」

いつのまにかこの場に5人が集まり、ネイと呼ばれた少女の前に立っていた。
ネイ…こいつか、あの四天王に匹敵するほど強いって言う。
なるほど、納得だ…こうやって対峙しているだけでも突き刺さるような殺気を感じる。
それだけで言えば、ゼイラムよりも怖い。

ネイ 「……」

ユミリア 「…私とアリアは手を出さないから、残りのあなたたちでなんとかしてみなさい」

そう言って、ふたりは数メートルほど退がってこちらを見た。

悠 「…やるしかねぇか」

少なくともこいつに勝てないようじゃ四天王には勝てない。
俺たちは全員戦闘態勢を取る。
それを見て、ネイは不満そうな表情をする。

ネイ 「なめられたものね…この程度の戦力で私を止めるつもり?」

アリア 「…この3人はあなたが思っているほど弱くはないわ。それとも、相手の力がわからないほど衰えたの?」

ネイ 「面白い事を言うじゃない…なら試してあげるわ!」

ネイは魔法剣を右手に生み出すと、俺に向かって襲い掛かってくる。
かなりのスピードだが、受けきれる。

悠 「俺に任せろ!」

シャール 「む…」

レイナ 「気をつけて!」

ふたりは俺の後方に待機する。
俺は気を込めて剣を振るう。

ネイ 「せいっ!!」

ガキィ! キィィンッ!!

悠 「はぁっ!!」

ガァアンッ!

ネイ 「くっ!?」

何度か剣がぶつかる。
ネイは俺の力押しの剣で後ろに吹っ飛んだ。
パワーなら俺の方が上か。

ネイ 「ちぃ…!」

ヒュヒュヒュッ!!

ネイは魔法の槍を創りだし、投げつける。

悠 「ふんっ!」

バキィン!

ネイ 「!?」

俺は剣を魔法で覆い、一振りで三本の槍を全て横に薙ぎ払った。
大した速さだが、俺も負けちゃいない。
自分でも驚く。

悠 「その程度かっ」

ネイ 「…調子に乗るんじゃないわよ!!」

ネイはいきり立って突っ込んでくる。
かなりプライドが高いんだろうな、怒りがあらわだぜ。
俺たちは更に切り合う。
パワーでは俺の方が上だが、スピードでは断然向こうの方が上。
俺が強力な一撃で押せば、高速の連撃で切り返される。
魔法では向こうが上なのか、俺が押されてきた。

ネイ 「これでどう?」

悠 「?」

突然、ネイが分身する。
その数は10人程になった。

悠 「幻影(イリュージョン)か!」

闇の属性を持つ奴がたまに使う嫌な魔法だ。
実体が目で読めないだけに、消耗させられる。

悠 「く…」

ブンッ! ヒュッ!

俺の剣は空を切る。
やはり普通にヤマ勘で狙っても当たらない。

ザシュッ!

悠 「がっ!」

ネイの剣が俺の腹部を浅く切る。

ネイ 「ふふふ…このままゆっくり殺してあげるわ」

悠 「……」

俺は目を瞑った。
目に頼るな…空気を読む。
影に実体はない、本体以外空気を遮る物はない。

ネイ 「観念したの!?」

悠 「……」
悠 「はっ!!」

ドゴッ!

ネイ 「かっ…は…! 馬鹿な…!?」

俺の右掌打がネイの腹部を捕らえる。
そして、すかさず俺は魔法を繰り出す。

悠 「アステロイド・フレア!!」

カッ! ズッ…ドオオオォォォンッ!!

…ドシャ

ネイは吹っ飛び、地上に落ちる。
服も多少焼け落ち、焦げや灰がネイの体を覆っていた。
俺の使える魔法ではあれが最高の魔法だ、やったか…?

悠 「……」

シャール 「死んだのか…?」

レイナ 「…何? この感覚…」

悠 「…?」

すると、ネイはゆっくりと立ち上がった。
だが、まるで生気を感じない目をしていた。
殺気すらも感じなかった。

ネイ 「……」

背中がぞくっ…とした。
悪寒…。
直後、俺は力が抜けるような感覚を覚えた。

悠 「な、何だ…!?」

これは、レイナの時と同じ感覚!
だが、あの時よりもパワーは張るかに上だ。
まさか、レイナと同じ…?

ユミリア 「く…この邪気は」

アリア 「…暴走したのね、厄介なことになったわよ」

シャール 「な、なんてパワーだ…」

レイナ 「悠!!」

悠 「来るなっ! 巻き込まれるぞ!!」

俺は強くそう言って制する。
この力は普通じゃない…正直危険だ。
今の俺たちではこの力を抑えきれないかもしれない。

レイナ 「悠…」

ユミリア 「悠君の言う通りよ…近づいても何もできないわ」

レイナ 「でも、このままじゃ悠が!」

ユミリア 「……」

悠 「ぐ…」

俺は立っているのが精一杯だった。
そして、ネイが俺の方に顔を向けたとほぼ同時、俺は吹っ飛んだ。

カッ!! ザシャアッ!

悠 「ぐは…っ」

衝撃波のような物が俺を襲う。
俺はどうにか立ちあがると、ネイの方を見る。

ネイ 「……」

何だか悲しい目をしていた…。
こんな時にこんな事を思うのはおかしいのかもしれない…。
でも何故だか、ネイが可哀相だ…と思った。

悠 (…こいつ)

ネイ 「……」

まるで今にも泣き出しそうな顔にも見えた。
俺は何だか、自分まで悲しくなってきた。
何で、こんな戦いをしなくちゃならないんだろう…。
ネイと戦う事が意味のないことだと思い始めた。
でも、ネイは俺を攻撃する。
俺はその度に倒れ、そして起き上がった。

ズシャアアアアッ!!

悠 「ぐ…」

レイナ 「悠! どうしたの!!」

シャール 「悠…?」

ユミリア 「悠君…」

アリア 「ダメよユミリア! あなたが行ったら意味がないわ!!」

ユミリア 「く…!!」

何度か攻撃を受ける内に、俺は気付いた。
ネイに殺気がないことに。
ネイは攻撃をしているわけじゃない…。

悠 (…そうか、お前は自分の意志で戦ってたわけじゃないんだな…だから、そんなに悲しそうにしてるのか)

俺は終わらせようと思った。
これ以上苦しませる方が酷だ。
俺は自分の中に感じ始めていた力を解放する。
助けることはできないかもしれない…だが、止めてやろう。
せめて俺がその苦しみを!!

悠 「…おおおおおおおおっ!!!」

パアァァッ!!



レイナ 「何? 悠…?」

見ると、悠の体が白銀に輝き、悠の背中から3対の翼が生えた。
でも、その翼は白く輝いていて、魔力か何かの放出にも見えた。
その翼から落ちる銀の粉がとても神々しく思える。

ユミリア 「ユシル…と同じ」

悠 「…ネイ、今楽にしてやる」

俺は力のまま空に飛び立つ。
力を軽く放出するだけでそれが可能になっていた。
まるで初めから知っていたようだ…自分の力を使うことに違和感を感じない。
俺は上空からネイを見定める。
そして、ネイに向かって剣を上段に構え急降下する。

悠 「見せてやる…俺の最高の技を!!」

俺は闘気と魔力、そして自分の中に眠っている力、それらをすべて解放し、ひとつにして剣に伝える。
俺の剣は白銀のオーラに包まれ、光を放つ。
そして俺はその剣をネイに向かって全力で振るった。

悠 「メテオ・ブレイカー!!」

ズバアアアァァァンッッッ!!

直後、激しい光と共に爆音にも似た音が響く。
そして、ネイは再び宙に飛び、地上に倒れた。

ズシャアアアアアアアァァァッ!!

砂漠の砂が舞い上がり、砂煙を上げる。
見ると、月明かりがその場を照らした。

悠 「……」

俺は解き放った力を再び自分の中に封じこめた。
そして、俺はその場で膝をつく。
かなり体力を消耗している。
これが、副作用だろうな…あんまり使う力じゃない。

レイナ 「悠!!」

レイナたちが近づいてくる。
俺は動けなかった。
全身が軋みやがる…。

レイナ 「悠、今回復魔法を…」

パアァァァッ…

レイナの回復魔法が俺を癒す。
しかし、元には戻らなかった。
体の痛みも消えない。

レイナ 「どうして…?」

アリア 「時の翼の発現。それには自分の命すら弱めるほどの副作用があるわ」

レイナ 「そ、そんな…」

悠 「大丈夫だ…休めば治る」

俺はレイナにそう言って、ネイの方に向かう。
体が痛いなんて思ってられない。
見ると、ネイは安らかな寝顔で倒れていた。
見た感じ、呼吸はしていない…。

シャール 「死んでいるん…でしょうか?」

ユミリア 「…わずかに生きているわ。でも、もう長くはないわ」

悠 「まだ、生きているんですね?」

俺はそう聞く。
ユミリアさんは軽く頷く。

ユミリア 「わずかにね…」

レイナ 「……」

シャール 「こうなると、敵とは言え惨めだな」

レイナ 「どうするの悠?」

悠 「…助けよう」

俺はそう言う。
生きているならもういい…戦う理由はないはずだ。
俺は全力で剣を振るった。
正直、止まったと思いたい。
俺の力でネイを救えたかどうかはわからない。
だが、ネイの体からわずかに発せられる気が、俺を安心させた。
多分、レイナもわかっているはずだ。

シャール 「正気か?」

悠 「もういいだろ…俺はこいつの悲しい目を忘れられない」
悠 「今にも泣き出しそうな、そんな顔」

レイナ 「うん…」

アリア 「…わかったわ、それがあなたたちの選択なら止めはしないわ」

ユミリア 「治療は任せなさい」

悠 「はい…」

俺はそこでそのまま意識を失った。
何か…疲れが、どっと……。



………。
……。
…。



悠 「う…」

気がついたら朝だった。
まだ、体が悲鳴をあげていた。
だけどいつまでも寝ているわけにはいかないので、いい加減起きる。



………。



まずは大聖堂に顔を出す、レイナがいた。
ちょうど俺を起こしに来てくれたようだ。

悠 「おはよう…」

レイナ 「悠、大丈夫?」

悠 「ああ、まだ体がおかしいけど動けなくはない」

そう言うが、実際には結構辛い。
まだまともに動くには時間がかかりそうだ。
それがわかっているのか、レイナは優しく。

レイナ 「そう…無理はしないで、今日はゆっくり休んでね」

そう言ってくれる。
嬉しい配慮だ。

悠 「ああ、そうさせてもらうよ」
悠 「ところでネイは?」

むしろそれが一番気がかりだった。
ユミリアさんに限って治療ミスはないと思うが。

レイナ 「今から私も行く所だから一緒に行きましょう」

こうして、俺はレイナの後に着いて行く。
そして、俺たちはユミリアさんたちの部屋に入った。

ガチャ…

ドアを開けると、少々消毒臭い感じがした。
独特の匂いだ…。
中に入ってもユミリアさんは気付かず、椅子に座ってネイを看ているようだった。
ネイはどうやら起きているようで、ぼ〜っとしていた。

ユミリア 「……」

悠 「どうですか?」

ユミリア 「あら、悠君…それにレイナ。まぁ、体の方は問題ないみたい」

そう言うと、ユミリアさんは眠たそうに瞼を擦った。

レイナ 「どうかしたんですか?」

ユミリア 「直接話せばわかるわ」

そう言って、ユミリアさんは椅子から立ち上がり、左にどいてネイへの道を開けた。
すると、ネイは首だけをこちらに向け…。

ネイ 「誰…?」

レイナ 「……」

ネイ 「あなたたち…誰?」

悠 「……」

昨日戦った相手のことも覚えていないのか。
レイナも絶句しているな…それとも知っているのか?

ユミリア 「……」

ユミリアさんは何も言わなかった。
でも察する事はできた。

レイナ 「記憶が…無くなったのね」

ネイ 「記憶…?」

レイナ 「ううん、ごめんなさい…何でもないの。私は…レイナ。レイナ・ヴェルダンドよ」

そう言ってレイナは優しくネイの前の椅子に座る。
ネイは不思議そうにレイナを見た。

ネイ 「レイナ…?」

レイナ 「うん、傷の方はどう? 痛くない?」

ネイ 「うんっ。ユミリアさんが治してくれたんだよ」

そう言って、ネイは楽しそうに笑う。
昨日イメージとは全く違う。
子供そのものの反応だ。
見た目よりも年齢が低く感じる。

ユミリア 「…それじゃ、私は少し休むわ」

悠 「あ、ユミリアさん…」

ユミリアさんが部屋を出て行ってしまう。
どうしたんだろう、何か様子がおかしいな。
俺は気になってユミリアさんの後を追った。

悠 「ユミリアさん…」

ユミリア 「悠君…何か用?」

少々鬱陶しそうに言われる。
よっぽど眠いんだな。
手短に聞こう。

悠 「いえ、何か様子がおかしかったから…」

ユミリア 「そう。ごめんなさい、心配かけて…ちょっとした事なのよ」

どうやら、そのちょっとしたことは俺の知らないことらしいな。

悠 「そうですか…あの、ところでネイの記憶はどうして…?」

これが当面の疑問だ。
ユミリアさんは知っているはずだろう。

ユミリア 「ある魔法の副作用よ…」

悠 「魔法…」

よくある話だが、魔法の副作用などとは穏やかではない。

ユミリア 「ネイはある魔法で強化されていたの。魔法名はエビル・プリズナー」

悠 「どこかで聞いたような…」

俺が考える前にユミリアさんが説明してくれる。

ユミリア 「禁断魔法よ…効果は主に肉体の強化、そして支配」
ユミリア 「通常はアンデッド等の操作に使うんだけれど、ゼイラムの使うそれは、邪神の力を強制的に植え付け、暴走まで引き起こせるほどよ…」
ユミリア 「そして、副作用もまた恐ろしいの…。ネイは記憶ですんだからよかったけど、下手をすれば廃人になってたわ」

悠 「そんな魔法を…」
恐ろしい魔法だ。
禁断魔法すら操るとは…さすがに悪どい。



………。



ネイ 「そうなんだ…レイナはその敵と戦うために修行してるんだ…」

レイナ 「うん…」

私はネイに自分たちのことを含めて色々話してあげた。
ネイは興味深く話を聞いてくれた。
そして、何かを決心したように。

ネイ 「…だったら、私も戦うよ」

レイナ 「えっ…?」

ネイ 「レイナ…すっごく優しいもん。きっといい人だよ。だったら、私も手伝うよ…ダメかなぁ?」

ネイはおねだりをする子供のようにそう言う。
まるで昨日の面影はない。
子供の純真さが前に出すぎているくらい。

レイナ 「でも…」

ネイ 「私、頑張るよっ。レイナたちを助けたいのっ」

悠 「いいんじゃないか…レイナ」

レイナ 「悠…」

突然悠が後ろにいた。
ユミリアさんを追ったと思ってたけど、帰ってきたんだ。

ネイ 「本当? えっと…」

悠 「悠。聖魔 悠だ」

悠は軽く自己紹介する。
体が本調子じゃないのもあるのだろう…ちょっと辛そうだ。

ネイ 「悠、いいの?」

悠 「ネイがそうしたいって言うんなら俺は構わないよ」

ネイ 「やったー! ありがとう、悠!」

悠 「でぇ!?」

ネイはベッドから飛び上がり、悠に飛んで抱きつく。
この光景…どこかで見たような?

レイナ 「…で、でも無理はしちゃダメよ?」

ネイ 「うん、わかってる!」

悠 「って言うか、早く降りろ!」

ネイ 「あ、うん」

そう言ってネイは悠から手を離す。
とんっ、と軽快に着地し、ネイは笑う。
悠はぐったりしていた。

ネイ 「どうしたの? 何だか疲れてるみたいだけど…」

悠 「もういい…俺は部屋で寝る」

シャール 「お〜い、そろそろ修行始めるらしいぞ」

シャールさんがそう言いに来る。
私たちはそれぞれ部屋から出る。

悠 「…しゃあねぇ、行くか」

レイナ 「悠は無理しないで…」

悠 「いや、でもな…まぁ、見学だけでも」

ネイ 「私も行くね♪」

こうして、全員が揃って修行上に向かう。
今日は全員一緒のようだった。



………。



ユミリア 「…じゃ頑張ってね〜」

アリア 「もっとしゃきっとしなさい」

ユミリア 「眠いのよ…」

ユミリアさんは眠そうにそう言う。
あまり修行にならなさそうだな。
とりあえず、今日の修行はネイが増えたことにより、多対一の模擬戦を行っていた。
シャールさんが、レイナとネイを相手にする。
見ている分にはかなり面白かった。

シャール 「ふんっ!」

レイナ 「はぁっ!」

ネイ 「えいっ!!」

レイナが魔法でネイをバックアップし、シャールさんがポセイドンで全てを打ち消す。
見ごたえのある戦いだ、ふたりとも成長しているよな…それに比べて。

ネイ 「やぁっ!」

ネイも動きがいい。
記憶はなくなっても十分戦っている。
体が覚えていると言うことなのか…それとも。

悠 (多分、潜在的な能力が違いすぎるんだろうな)

そう思えた。
そして、数時間した所で構成を変え、また同じ事の繰り返し。
今日はこれだけだった。



………。
……。
…。



悠 「お疲れ皆」

俺は今日は見学のみでずっと見ているだけだった。

ネイ 「えへへ〜…アリア先生に褒められたよ♪」

ネイは本当によく動いた。
近、中、遠…どれもそつなくこなす辺りが特に褒められたのだろう。
魔法、格闘、剣術…全てにおいてハイレベルだった。

レイナ 「よかったわね」

ネイ 「うんっ」

シャール 「(…しかし、これが先日の刺客とはな)」

ネイは笑って答える。
本当に子供のようだ。
歳は俺たちと同じくらいだと思うんだが…。
シャールさんも不思議そうに見ていた。

ユミリア 「さぁ、食事にしましょう」

ネイ 「わーい、ご飯ご飯!!」

ネイは飛び上がって喜ぶ。
そんなに嬉しいのか…。
こうして、俺たちは食堂に向かった。
そして、俺たちは不思議な光景を見ることになった。



シャール 「……」

レイナ 「……」(汗)

悠 「だぁー! それは俺のだ!!」

ネイ 「早い者勝ちだよっ!!」

俺とネイの大食い勝負になっていた。
まずはスタミナつけねぇとな!
だが、思いの他ネイが強敵。

ユミリア 「元気ね…」

悠 「もらったーーー!!」

ネイ 「あーーーんっ、それ狙ってたのにー!!」

悠 「早い者勝ちだろうが!!」

俺は豚肉をかっさらう。
ネイが悔しそうにしていると思った矢先、箸をすかさず切り替える。

ネイ 「じゃあ、これもらった!!」

悠 「うおっ、やられたー!!」

最後に取っておこうと思っていた肉団子がー!

シャール 「飯ぐらい…ゆっくり食わせてくれ」

レイナ 「……」(汗)」

こうして、俺とネイの仁義なき戦いが繰り広げられた。



………。



悠 「ま、負けた…」

ネイ 「まだまだいけるよ〜♪」

シャール 「いつまで食うんだ…」

レイナ 「悠、大丈夫?」

悠 「もう食えん…」

ネイ 「♪〜♪」

ネイは未だに楽しそうに食っていた。
あの体のどこに入るんだよ…。
ブラックホールだろアレは…。
俺はすでに動けないほどだった…かつてない位の屈辱だ。
やがて、ネイが全ての食事を終えるまで俺たちはその場で休んでいた。

ユミリア 「さぁ、皆汗流してきなさい、今日も疲れたでしょ」

レイナ 「はい…」

ネイ 「何々? 何の事?」

レイナ 「お風呂に入りなさいってことよ」

ネイ 「お風呂…? 何それ?」

そこまで忘れているのか…。
常識すらもなくなってそうだな…これからが心配だ。

レイナ 「お湯で体を洗う所よ…一緒に行く?」

ネイ 「うんっ、行くっ♪」

そう言って、ふたりは浴場へ向かった。
例によってシャールさんがその背中を眺めていた。

シャール 「……」

悠 「…俺は止めませんよ」

シャール 「…くぅ、行くべきか…それとも…」

ユミリア 「あなた、まだ懲りてないの?」

シャール 「……」

シャールさんは結局悩んでいた。
俺は興味を示さずに。

悠 「俺も後で風呂入って寝ます…」

そう言って一旦部屋に戻った。



………。



ネイ 「わぁ〜、これがお風呂なんだ…」

レイナ 「ネイ、背中流してあげるわね」

ネイ 「うんっ、ありがと☆」

ごしごし…

ネイ 「♪〜♪〜」

ネイは気持ちよさそうにゆったりとしていた。
見た目よりも大きな背中は大人を感じさせる。
私は優しくタオルで洗ってあげた。

ネイ 「じゃ、今度は私が洗ってあげるね♪」

レイナ 「うん、ありがとう」

そして、今度はネイが私の背中を洗ってくれる。
翼の部分がかなりてこずっているようだったけど、念入りに洗ってくれた。

ネイ 「そういえば、レイナだけどうして羽があるの?」

レイナ 「それは、私が翼人族だからよ…」

ネイ 「翼人族…?」

レイナ 「それはね…(説明)」

私が説明をすると、ネイが翼を洗いながら聞いていてくれる。



………。



ネイ 「へぇ〜…種族ってたくさんあるんだ…じゃあ、他の翼人族もレイナみたいに黒い翼なの?」

レイナ 「…ううん、これは私だけ…。普通の人は白い翼なの」

私はちょっと暗くそう言う。
特別だから…私は。

ネイ 「そうなの?」

レイナ 「うん…気味が悪いでしょ? 他の人は白くて綺麗なのに、私だけ…」

ネイ 「ううん…私はレイナの翼も綺麗だと思うよ♪」

レイナ 「ネイ…ありがとう」

私は少し涙が出た。
嬉しかった。
そう言ってくれる人がひとりでもいるのなら、私は自分の翼を好きになれる気がした。





………………。





やがて、更に1ヶ月が経ち、俺たちはついに帰還する事になった。
恐らく、今頃は皆修行を終え、メルビスの町に向かっているのだろう。
サラブの街から再び船に乗り、俺たちは一路レギルを目指す。

悠 「おえ〜…っ」

レイナ 「悠、薬…」

悠 「ありがとう…うっ」

俺は飲み忘れた薬をレイナから貰う。
すぐに水と一緒に飲み込んだ。
それでもすぐには効かないのでしばらく安静にしておく。

ネイ 「どうしたの悠?」

レイナ 「悠は船に乗ると、気分が悪くなっちゃう体質なのよ…」

ネイ 「そうなの? 私は全然大丈夫なのに」

ネイはそう言ってはしゃぐ。
馬鹿め…船の怖さを知らないとは。
後で泣くぞ…絶対泣くぞ、すぐ泣くぞ、ほ〜ら泣くぞ!

シャール 「暴れてるとお前も酔うぞ?」

ネイ 「大丈夫だよ〜♪ ほらほら♪」

ネイはそう言ってバタバタと走る。
憎しみで人が殺せたら!



………ってなわけで10分後………



ネイ 「……」ぐったり…

シャール 「だから言ったろうが!!」

ネイ 「そんなこと言ったって…はぅっ」

ユミリア 「全く…はい、薬よ、飲みなさい」

ネイ 「はうう…っ」

ネイは涙を浮かべながら、薬を飲んでまたぐったりとする。
思い知ったか! 船酔いの怖さを!!

ナル 「あれ? 聞いた声だと思ったら、やっぱり!」

レイナ 「ナルさん! お久し振りです…一緒だったんですね」

何とナルさんが一緒だった。
これは意外…大分感じが変わったようにも感じる。

ナル 「元気そうね相変わらず…」

シャール 「いい天気ですね…どうです? 俺と一緒に食事でも…」

シャールさんがすかさずアプローチ…本当に手が早い。
しかし、すぐに別の男がナルさんの元にやってくる。
どうやら仲間のようだが、見覚えがない。
どこかで見たことはある気がしなくもないんだが。

シャイン 「どうしたナル?」

ナル 「あらシャイン」

レイナ 「シャイン…?」

シャイン 「神次と言えばわかるか?」

レイナ 「ええっ!?」
悠 「はぁっ!?」
ネイ 「ほえ…?」

俺たち三人(?)が驚愕する。
これがあの神次さん?

シャール 「う……」

シャイン 「ん…?」

シャール 「……」

シャールさんは神次さんを見た後、がっくりとうなだれた。
まるで敗北を悟った負け犬のようだった。

シャール 「ま、負けた…顔には自信あったのに」

こうして、俺たちはナルさんたちとそれぞれの結果を伝えあった。
お互いに衝撃的なことがあり、驚きを隠せなかった。



………。
……。
…。



ナル 「そう、そんな事があったの」

シャイン 「これが…ネイか」

ネイ 「…はうっ」

シャインさんが不思議そうにネイを見る。
知っているんだろうか? 今はどう見ても、ただの船酔いしている子供だが。



ドリアード 「あの、ユミリア先生…」

ユミリア 「何?」

突然、ドリアードが私の部屋に来る。
少し深刻そうだ。

ドリアード 「あの…酔い止めの薬わけてもらえませんか?」

ユミリア 「ええ、いいわよ…はい」

ドリアード 「あ、ありがとうございます!」

それを受け取ると、すぐに駆けて行った。
船酔い多いわね…薬もすぐになくなりそうだわ。



………。



ドリアード 「ウィルさん、大丈夫ですか?」

ウィル 「だいじょうぶぢゃない…うぅ」

私が薬を渡すと、ウィルさんは苦しそうに流し込む。
薬を飲んだ後はぐったりしていた。

ルナ 「もう…昨日お酒なんか飲むから」

ウィル 「気持ち悪い…」

未知 「無理をなさらないでください…」

降 「部屋で休んでた方がいいよ」

ウィル 「うん…そうする」



そんなこんなで、俺たちはレギルに到着し、メルビスの町を目指したのだったとさ…。



…To be continued




次回予告

悠:それぞれの修行を終え、再び再会した仲間たち。
俺たちはしばしの平和に身を置く。
だが、それも束の間…俺たちに新たな指令が下された。

次回 Eternal Fantasia

第1章 『新たなる戦士達』 完結

第21話 「新たなる指令」

悠 「まだ、俺たちだけでは戦えない…」




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