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第23話 「奇稲田」




悠 「…光鈴か」

伝説の光の神、奇稲田を崇める国。
俺たちは馬車に乗り、到着を待つ。
シオンさんが馬を操り、道路を疾走して行く。
特に今の所は襲撃もない。
実に順調なものだった。

降 「今夜はどうしましょう?」

降さんが疑問を述べる。
明日にならないと着かないだろうから、当然馬車の中で野宿と言うことになるだろう。

シオン 「どれだけ急いでも、到着は明日の朝になりますからね」

未知 「では、今日はこの中で野宿ですね…」

ネイ 「お腹すいたよ…」

バル 「今日は我慢するんだな…」

バルがネイにそう言う。
一応食料はディラールから多めに貰ってきているが、正直心もとない。

ネイ 「う〜…」

シャイン 「しかし、予想以上に食料の減りが早い、光鈴に着いたらまた確保しなければならんな」

悠 「なんせ大飯ぐらいがいるからな…」

俺はネイの方を見てそう言い放つ。
こいつが原因だよこいつが。

ネイ 「何〜? 何で私を見るの…?」

悠 「お前が原因だからだろうが!!」

ネイ 「そんなことないよ! 悠だって食べるじゃない!!」

悠 「馬鹿野郎! 朝起きて、パン一斤も食べる女がどこにいる!!」

そう、ネイの大食いはかなりの物で、朝でさえその位軽く食ってしまう。
昼や夜は…考えない方がいい。
こいつがいなかったら正直食料を心配する必要なぞない!

ネイ 「そんなこと言ったって…」

未知 「喧嘩はいけませんよ…」

悠 「いや…」
ネイ 「え〜ん…悠がいじめるよ〜」

ネイは未知さんに泣き付く。
どうせ嘘泣きだ、俺は無視する。

悠 「…あのな」

バル 「少しは黙れ…。無駄に体力を使うな」

悠 「…けっ」

俺はむかついて、横になり眠ることにした。
どうにも集団行動は苦手だ…やっぱ俺はゲリラの方が向いてそうだ。
俺は人に合わせるのが大嫌いだからな。
俺自身がこういうのに向いてないんだろうな…まぁ、事が事だけにギリギリまでは我慢するが。
どうせ、こうやって一緒にいるのも戦争が終わるまでだ。

シャイン 「皆も寝ておけ、いつ戦闘になるかもわからんからな…」

シオン 「起きた頃には着いているはずですよ」

バル 「王子、運転は俺が変わろう…」

シオン 「いえ、私は大丈夫ですよ?」

シオンさんはそう強がる。
だが、眠らないのはそれで問題だ。

バル 「いや、適度に休まれた方がいい…もし戦闘に入って、動きが鈍かったりしたら困るからな」
バル 「正直、エクスカリバーの使い手が現状で最も大きな戦力だ」

シオン 「…わかりました。では頼みます」

そう言ってシオンさんは、一旦馬を止め、手綱をバルに渡した。
このパーティの中では馬車を扱えるのは、シオンさん、バル、シャインさんの3人。
休む時間も考えて、3人でローテーションを組んでいるのだ。
シオンさんは運転を変わると、荷台の中に入り、横になった。
やがて、俺も眠気に負けてそのまま眠りについた。



………。
……。
…。



ゆさゆさ…

悠 「……」

ゆさゆさ…

悠 「ん…?」

誰かに体を揺すられる。
しかもやたらゆっくりと…返って気持ちいい。

声 「悠〜…着いたよ〜?」

しかし、この眠気を増すような声は誰だ…?

悠 「う…ん……」

俺は瞼を開け、体を起こす。
すると、予想通りの顔があった。

悠 「…ネイ、そんな眠たくなる声で起こすな」

ネイ 「何よ〜、せっかく起こしてあげてるのに…」

悠 「ああ、ありがとよ…」

俺は適当に言う。
そして、持ち物を確認して荷台から降りる。

ネイ 「なんか、適当〜…」

悠 「ほら、さっさと行くぞ」

ネイ 「あっ、待ってよ〜」

ネイも荷台を降り、皆のいる場所に向かった。

バル 「遅いぞ、悠」

悠 「わりぃわりぃ…」

どうにも眠れた気がしない…後5時間は眠れそうだ。

シャイン 「ここが光鈴か…」

俺たちの目の前には、大きな街が広がっていた。
建物の形は特徴的で、見たこともない形だった…。
屋根にはなにやら、レンガとは違った形のものが張られていた。
何か妙な形をした石(?)の板を重ねていくように屋根を作っていた。(要するに瓦です)
窓も特徴的で、ガラスではなく、紙を張っている。
(障子ですね)
そして、町を行き交う人々。

悠 「……」

服装が皆、着物やら何やらだった。
(はい、全員和服です。明治〜大正時代位の服装を想像してください)

未知 「…ここでは着物が主流なのですね」

降 「向こうでは珍しいからね…」

よく考えたら、未知さんはここにいても何の違和感も感じなかった。
というよりも、ここ出身なのでは? とも思ってしまう。

シオン 「さぁ、とりあえず長老の下に向かいましょう」

バル 「長老…国王ではないのか?」

シオン 「ええ、この国では王位体制はないのです」

俺たちはシオン王子の後ろに着いていく。
つくづく他の国とは違うようだ。



………。



数10分ほど歩くと長老の屋敷とやらに着くことができた。
造りは他の家と大差はなく、違うのは面積位だった。
門の大きさもかなりの物で、高さ2メートル程度ある、板張りの壁がぐるりと家を囲んでいた。
要するに囲いって奴か…。

悠 「…門番とかはいないな?」

シオン 「さぁ、入りましょう」

悠 「って、勝手に入っていいんですか?」

シオン 「入らなければ、長老には会えませんよ?」

そう言って、シオン王子は門を開けた。

ギィィ…!

そう音をたてて門は前に開く。
そして中の敷地が見える。

悠 「これって…庭だよな?」

かぽーん!

そんな音が聞こえてくる。
見ると、竹が岩にぶつかる音のようだ…水が竹の器に溜まると、その重みで下の岩にぶつかる…と言うわけだ。
風流…って奴か?
にしても馬鹿広い庭だ。

未知 「家を思い出します…」

降 「確かに…」

このふたりにとってはそんなに驚くことではないようだ。

シオン 「こちらですよ…」

バル 「さっさと行くぞ悠」

悠 「あ、ああ…」

どうにも自分が田舎物に思えてくる。
だが今は特に考えずに進むことにした。
ある程度庭を進むと、屋敷が見える。
立派な物だ…しかし見たこともないドアだな…。
どうやって開くのかが想像できない形だった。

シオン 「さぁ、入りましょう」

ガララッ!

何と、ドアは横にスライドした。
ドアノブがないのでどうやって開けるのかと思っていたら、そう言うオチかよ…。
俺たちは全員屋敷に入る。
玄関も全く感じが違う。
石畳の足元には、端っこの方に靴らしき物が並べられ、屋敷内は靴を脱ぐようだ。

シオン 「申し訳ございません! 誰かおられますか!?」

シオンさんがそう言うと、ひとりの女性が玄関に現れる。
その人は未知さんの服装に似た、白い着物を着ており、額に白いヘアバンドのような物を巻いていた。
(巫女姿とでも思ってください。実際にはちょっとデザインが違うのですが)
眼は少しつり眼がち、髪は長髪でさらっとストレート。
どことなく気の強そうな人に見える。
美人と言えば誰もが納得だろう…。

女性 「何か、御用でしょうか…?」

低音で、響く声。
どことなく、緊張感を感じる声だった。
主だろうか?

シオン 「長老様にお会いしたいのですが…」

女性 「…その前にあなた方の素性を明かされよ」
女性 「素性の知れぬ者を会わせる訳にはいかぬ」

性格もきついようだ…まぁ、当然の対処だとは思うが。

シオン 「これは失礼いたしました。私は、ディラール王国の王子、シオン・ディラールと申します」

女性 「…あなたが、シオン王子?」

女性は疑いの眼差しでそう言う。
まぁそうだろう…いきなり王子とか言って簡単に信じる奴もそれはおかしい。

シオン 「信じられませんか?」

女性 「…信じろと言う方が無理だと思うが?」

ごもっともで…。
シオンさんは困った表情をしていると、女性の後ろからもうひとり女の子が現れる。

声 「大丈夫ですよ…栞(しおり)お姉さま」

女性 「…美鈴(みすず)?」

栞さんと同じ服で、髪形はややショート。
あまりにも細目で一瞬閉じているのかとも思ったが、ちゃんと開いてた。
そして、栞さんとは対照的に、かなり人懐っこそうな感じの表情だった。

美鈴 「その人たちは信じられます」

栞 「…根拠は?」

美鈴 「ありません」

美鈴さんはきっぱりとそう言う。

悠 (せ、説得力ねぇ…)

信じろと言う方が無理だ。
しかし、美鈴さんの笑顔はまるでそれが当然とも思わせる。

栞 「……」

栞さんはため息をつく。
慣れてるんだろうな…この展開に。

シオン 「…では、これを」

栞 「うん? その剣は…」

シオンさんはついに身分証明の切り札、エクスカリバーを栞さんに見せる。
知らなかったどうするんだとも思ったが、杞憂に終わった。

栞 「…聖剣。なるほど」

美鈴 「それでは、長老はこちらです〜」

美鈴さんは笑顔で俺たちを案内する。
本当に疑いないなこの人…いいんだろうか? とも思ったが、別にやましいことがあるわけではないので良しとした。

栞 「…私を無視して、案内するな」

美鈴 「だって、信じたじゃないですか〜」

栞 「……」

栞さんは呆れ顔で美鈴さんの横を歩く。
何だかデコボコだなぁ…こういうのって案外相性いいコンビなんだよなぁ。
そして、俺たちは長老のいる部屋に着いた。
部屋の前で、栞さんが一度止める。
そして、部屋の前で栞さんと美鈴さんが正座し、扉(?)の前で進言する。(ふすま扉です)

栞 「長老…ディラール王国の王子が、参られました」

長老 「…入られよ」

低く、高齢を感じさせる声。
美鈴さんが扉をスライドさせ、栞さんを戦闘に部屋に入っていった。
さすがのネイも大人しくしている。

悠 「……」

部屋の奥に、座布団を敷いて正座している女性がいた。
この人が長老のようで、やはりかなり年をとっている様だった。

長老 「何用かな? 王子」

長老が静かに尋ねる。
シオンさんがその場で正座し、答える。

シオン 「…長老、邪神が間もなく復活します。どうか、奇稲田の御力をお貸しください…」

長老 「邪神か…薄々感じてはおった。じゃが、我々には戦う力はない。お引取り願おうか…」

意外にもそんな答えが返ってくる。
まぁ、全ての人間が好意的だとは思っていないが…。

栞 「長老…?」

美鈴 「……」

栞さんは少し疑問に思っているようだった。
何か隠してるな?
こういう時の俺の勘は大抵当たる。
どうやら、あんまり知られたくないことを隠してるようだな。
だが、事を荒立てるわけにはいかないので、俺はしばらく動向を見守ることにした。

シオン 「…何故です?」

長老 「ここには、奇稲田の力を継ぐ者はおらん…」

そんな答えが返ってくる。
継ぐ者がいない…つまり、子孫がいないって事か。
成る程、それじゃあ無理だわな。

シオン 「それは…奇稲田の血が絶えるとおっしゃるのですか!?」

シオンさんがかなり驚いたように声をあげる。
長老は小さく頷く。

長老 「…私が最後であろう、その私ももう長くはない…」

ネイ 「そんな…」

切実な問題だ…俺たちにはどうしようもないじゃないか。
時代が時代か。いつの時代も、子供に恵まれるとは限らないからな。

未知 「ご子息を…お産みになられなかったのですか?」

長老 「いや…それは……」

長老が答えようとした矢先、未知さんを見て言葉を止める。
そして急に立ち上がり、何やら驚いた表情で未知さんに近づく。
いきなりのことで、未知さんも驚いた様子だった。

長老 「まさか…未知?」

降 「え…?」

未知 「ど、どうして私の名前を…?」

長老は、体を震わせて未知の手を取る。
弱々しくも、すがるような感じだった。

長老 「ああ…やはり未知なのか!?」

未知 「……?」

未知さんは全くわからないといった表情で、長老を見つめる。
どうやら…予想した隠し事と繋がるか?



………。



長老 「そうか…覚えていないのか、仕方ないじゃろう…お前は産まれてすぐにここから連れ出されたのじゃからな」

未知 「ど、どういうことなんですか…?」

長老 「お前は私の孫…つまり私の娘、奇稲田 悠喜(くしなだ ゆき)の娘なのじゃ…」

降 「なっ!?」

シャイン 「未知が…?」

ネイ 「ほえ?」

悠 「…!」

いきなりだな…未知さんが奇稲田の子孫?

バル 「だが、あながち嘘とも思えん…現に神力は奇稲田の一族のみが使える力だと聞く」

そう言えばそうだ。
神力は神族のみが使える力のはずだ…つまり奇稲田の力を引く者が使う、ということを考えれば。

長老 「力を使えるのか…?」

未知 「は、はい…まだ少しですが」

長老はうんうんと頷き、次の質問を投げかける。

長老 「…して、草薙(くさなぎ)は?」

未知 「草薙…?」

今度は聞いたことない名前だ。
未知さんの知り合いかとも思うが、知らないようだし…。

長老 「お前と共に落ち延びた子供じゃ…確か、名は降…」

降 「え!?」

未知 「降さんが…?」

シャイン 「…確かに、未知と降は小さい頃から一緒だったらしいしな」

降 「は、はい…物心着いた時から一緒でした」

長老 「…そうか、草薙も一緒だったか」

悠 「…なんか、話ができすぎてる気がするな…」

まるで仕組まれたかのような出来だ。
これも運命の一言で片付けるのか?
どうにも怪しく思えた。
悪いことじゃないんだがな…。

ネイ 「悠は気にしすぎなんだよ♪」

長老 「悠…?」

悠 「こ、今度は俺かっ!?」

今度は長老が俺に向かってくる。
まだ何かあるのか?

長老 「お主、名は…?」

悠 「ゆ、悠…。聖魔 悠です…」

長老 「…お主、悠喜という名に覚えはないか?」

悠 「はぁ…? さぁ」

俺は首を振る。
初めて聞く名前だからな。

長老 「お主、両親は?」

悠 「さぁ…物心着いた時はもう孤児院にいたから」

長老 「そうか…ガイア村じゃな?」

悠 「そうそう…って、何で!?」

人の心を読めるのかこの人は!?

長老 「確かにお主の言う通り、話が出来過ぎておる…」

悠 「……」

長老 「お主の本当の性は奇稲田じゃよ…」

悠 「はぁ!?」

長老 「…お主の母の名は悠喜。奇稲田 悠喜じゃ」



………。



場が一瞬静かになる。
俺が奇稲田?
意味不明だぞそれ!!

長老 「じゃが、お主に奇稲田の力は使えぬ」

悠 「…?」

全く意味がわからない。
一体、俺は何者なんだ!?
長老は元の場所に座り、静かに語り出す。

長老 「本来…奇稲田の力を持つのは女のみじゃ。そして、奇稲田の女から男が生まれることはないはずじゃった」

バル (…ユシルの力か)

悠 「…?」

バルは何か思い当たることがあるのか、反応したように見えた。

長老 「お前は我々にとってあまりにも異質な者じゃった…。ゆえに、お前をこの国から追放させようとした」

悠 「!!」

穏やかじゃないな…。
まぁ、呪われたと思われても仕方ないわけか。

長老 「じゃが…悠喜はそれを受け入れられず、赤ん坊のお前を連れ、ガイア村に身を寄せたのじゃ」

悠 「……」

そうだったのか…って本当かよ!?
イマイチ信憑性が薄い気がすんだが。

長老 「悠喜は、いなくなったのか…それとも、もはや生きてはおらぬか…」

悠 「俺の、父は…?」

長老 「…父か、名はテラ・プルート。異国の皇帝じゃと言っておった」

シャイン 「プルート…? まさか、裏の世界の…?」

シャインさんが反応する。
裏の世界…?

バル 「裏の世界だと?」

シャイン 「ああ、恐らくな…私でさえもよくはわからん」

悠 「…カオスサイド」

全員 「!?」

全員が俺に注目する。
当たりか…。

シャイン 「知っていたのか?」

シャインさんがすこぶる驚いたようにそう言う。
俺は首を横に振って。

悠 「前に…ユミリアさんが呟いたことがあって、それを覚えてただけですよ」

バル 「カオスサイド…か」

バルは考え込んだが、何も思い当たるものがないのだろう、考えるの諦めた。

長老 「…カオスサイド、聞いた事はある。ここ『セントサイド』の裏側にある巨大な大陸のことじゃ」

シオン 「…裏側…ですか」

長老 「…詳しくはわからぬ。ただ言える事は、セントサイドとカオスサイドの人間は互いに干渉することはなかったと言うことじゃ」

どうやら、かなりヤバ目の話らしい。
全員が唸ったが、考えても出る答えではなかった。

ネイ 「え、何…? じゃあ悠ってすっごく偉いの?」

降 「血筋だけなら、そうなるね…」

シオン 「奇稲田の子で、異国の王子ということですからね…」

確かに、神族と王族の血を引いているんだ…それは偉いことだぜ。

未知 「でも、それは…つまり…」

長老 「うむ、悠と未知は実の姉弟じゃ」

悠 「……」

確かに、そう言うことになる。
俺はそんなに驚かなかったが、未知さんは思いの他、驚きが多いようだった。

長老 「…お前の父は、悠喜がお前を身ごもってすぐにここを離れた。今はどうしておるのか」

悠 「……」

少なからず、ショックはあった…。
自分の出生…。
望まれなかった子
レイナと…同じってことか
レイナも、こんな気持ちだったのかな?

シオン 「…話を戻しましょう。長老、これで役者は揃っているわけです。御力をお貸しいただきたい」

長老 「…うむ、ただし条件がある」

シオン 「条件?」

ここに来て条件か。
まぁ、タダってのも虫が良すぎるが…。

長老 「未知と降はここに置いて行ってもらう」

シャイン 「ここに…?」

長老 「うむ、未知の力を完全にするため。そして、降には神刀草薙を手にするため」
長老 「それに、奇稲田の継承者と、3人の守護士にはここに留まる決まりがある」

決まりって奴か…まぁ、それには逆らえないわな。
俺なら絶対逆らうけど…。

シャイン 「3人の守護士とは?」

長老 「それぞれ、草薙、八咫(やた)、八尺瓊(やさかに)の名を持つ者。降とそこにいるふたり、栞と美鈴じゃ」

長老はふたりを指差す。
すると、ふたりが改めて自己紹介する。

栞 「私は八咫の鏡を継ぐ者…八咫 栞」

美鈴 「私は八尺瓊の勾玉(まがたま)、八尺瓊 美鈴です〜♪」

栞さんはわかるが、美鈴さんはどうにも緊張感がない。
本当に大丈夫かと思う。

降 「そして僕が…草薙の」

新たに発覚って奴か。
ん、待てよ…?
もしかして、こうなることをわかっててユミリアさんは未知さん降さんふたりをメインに…?
だろうな…そうとしか思えん。

バル 「仕方あるまい…力を貸してもらえることはわかったんだ」

未知 「皆さんとは、ここでお別れですか…」

長老 「辛いかもしれんが、許しておくれ…それが奇稲田の女の宿命じゃ」

未知 「……はい」

俯く未知さん…いや、もとい…姉さんに向かって俺は近づく。
畜生…いきなり肉親発覚ってのもなぁ…。

悠 「えっと…これからは、姉さん…なんだよね。ははっ…くすぐったいな、何か…」

未知 「ゆ、悠…」

姉さんは赤くなってそう答える。
俺と同じなんだろう…どうしたらいいのか分からない。

悠 「…何しゃべったらいいのか。折角、初めての…家族なのに、なぁ…」

何故か、俺の眼から、自然に涙が零れてきた。
嬉しさなのか、それとも悲しさなのか…。
どちらも入り混じったような感覚だった…。
そして、そんな俺を見て、姉さんはそっと俺を抱き寄せた。

未知 「ごめんなさい…私の方がしっかりしなきゃならないのに」

悠 「…姉さん」

未知 「悠たちが大変な時は必ず駆けつけるからね?」

悠 「うん…」

初めて家族に抱きしめられた。
嬉しくも悲しい…。
初めて知ったその感覚は、何とも言えない心地だった。



………。
……。
…。



悠 「……」

バル 「悠、行くぞ?」

悠 「ああ…」

俺は姉さんにさよならを言わなかった。
言ってしまったら、二度と会えなくなる様な気がしたから。
俺たちは馬車に乗り、再びディラール王国に向かった。



………。



悠 「もう暗くなるな…」

ガタンッ!

バル 「…っと!」

突然馬車が止まる。

シオン 「シャイン殿! どうしました?」

シャイン 「…敵だ!!」

悠 「!?」

ったく、人が鬱な時に仕掛けてくるなよな!

ネイ 「こんな時に…」

シオン 「早く外に!」

俺たちは全員一気に荷台から飛び出す。

悠 「あいつか!」

前には一般的な秋服を身につけた、無表情な少年が立っていた。
年は俺と同じ位だろうか? 背も同じ位だった。
と言うよりも…ほとんどが俺に似ている。

少年 「……」

バル 「ユシル…?」

悠 「何?」

バル 「いや…違う、ユシルじゃない…だが」

少年 「俺は…新十騎士、時空の…」

その次の瞬間、少年は俺の目の前に現れる。

悠 「なっ!?」

バル 「悠! 避けろ!!」
少年 「…オメガ」

ザンッ!

悠 「!?」

俺はバルの声に反応し、間一髪急所を避ける。
だが、脇腹をかすめ、出血する。
俺は自分で回復魔法をかけながら、後ろに退がる。
だが、俺の魔法では付け焼刃、相手の追撃に間に合わない。

悠 「いつの間に…」

バル 「気をつけろ! こいつは、時を操るぞ!!」

ネイ 「嘘っ!?」

シャイン 「くっ…!」

シオン 「まさか、そんなことが…!?」

オメガ 「……」

そして、その場にいたかと思われたオメガの姿が突然消える。

悠 「!!」

俺は瞬間、後ろに向かって剣を振るう。

ガキィィン!

オメガ 「!?」

悠 「……」

やはり…俺にはわかるんだな。
最初に見た時、すでに気付いた。
こいつは俺と同じだ…同一人物と言ってもいい。
だからこそ…。

バル 「悠…?」

悠 「俺に任せろ! こいつは…俺にしか倒せない!」

俺は剣を一度引き、オメガに向かって振り下ろす。

オメガ 「……」

ブンッ!

剣は空を切る。
俺はすぐに上に向かって剣を振り上げる。

ギィィンッ!!

オメガ 「…何?」

オメガは空中で剣を止められ、驚いたように着地して後退する。

悠 「うおおお!!」

俺は更に剣を振るう。
大振りだが、正確に相手を狙う。

ブンッ

オメガ 「く…」

オメガはなおも後ろに退がり、俺の剣をかわす。
いい動きだ、だが俺と大差はない。

バル 「悠…まさか」

シャイン 「見えるのか?」

ネイ 「どうしてわかるの…?」

シオン 「……」

悠 (見える…時の流れが。俺にしか見えない…)

見えていた…。
奴が時を止めて動いているのも最初はわからなかったが、今は完璧に見える。
俺も同じ力を使える。
だから、俺も静かに力を解き放つ…。
俺の背中から6枚の翼が現れ、時の力が解放される。

オメガ 「!?」

バル 「あれは、時の翼!」

ネイ 「かっこいい〜♪」

シャイン 「何と言う力だ…」

シオン 「凄い…」

悠 「……」

俺は翼をはためかせ、正面から全力で突っ込み、剣を振るう。

ガキイィィィッ!!

オメガは剣を受け止めるも、衝撃に耐えれず吹っ飛ぶ。

オメガ 「…!!」

オメガはすぐに体勢を立て直し、俺に向かってくる。

悠 「…つあっ!」

俺はオメガを迎え撃つ。

ガキン! ギィンッ!!

オメガ 「く…」

オメガは俺の力に耐え切れず、押され気味になる。
戦闘能力は俺の方が数段上だ、これならば勝てる。
問題は、俺の体か…。

ザンッ!

俺はバランスを崩したオメガの胸を切る。
だが、皮だけのようだ…浅い。

オメガ 「ぐ…」

オメガは突然膝をつき、動かなくなる。
同時に、空間の歪みがなくなる。
時の力を止めた…いや、『止まった』か。

悠 「……」

オメガ 「ここまでか…」

そう言った瞬間、オメガは消える。
逃げた…のか。

悠 「…ち」

俺は力を戻す。
そして、その場に倒れた。
やはり、互いに限界があるみたいだな。
俺の方が先に力を出していたら負けていたかもしれない…。

ドサッ!

バル 「悠!」

シャイン 「まずい!」

ネイ 「何々? どうしたの?」

シオン 「悠さん!」

悠 「はぁ…はぁ…」

バル 「やはり…体がついていかんのか」

悠 「…ユミリアさんには無茶するなと言われたんだが、そうも言ってられなかったからな。

中和程度ならもっと楽だったんだがな…。
それだけじゃ勝てない気がした…。
少なくとも、仲間を守れない。

シャイン 「時の力を、あれほど解放するのだ…いかに時の翼を使っても肉体が持つはずがない」

ネイ 「???」

シオン 「つまり、さっきの力は悠さんの体に負担がかかりすぎるということです」

ネイ 「そうなの?」

悠 「ああ…さすがに、こたえたな…だけど、あいつも同じみたいだ」

バル 「のようだな、ユシルも同じだった…当然だろう」

バルは知っているようだった。
そりゃそうか、ユシルさんとリアルタイムで知り合いだったんだからな。
俺はバルに肩を借りながら話す。

悠 「あいつも…体が時の力に耐えれてない、生身のまま使ってるから、俺よりも消耗が激しいはずだ」
悠 「と、思ってはいたが、俺の方もコントロールがまだまだだ…予想以上にパワーセーブが難しかった」

シャイン 「悠、ゆっくり休め。恐らく、もう追っ手はないだろう…」

ネイ 「どうして?」

シャイン 「…奴等にとって、敵は私たちだけではない」

ネイ 「あっ…そっか」

シオン 「別の部隊を狙っているから、こちらだけに戦力を裂いてはいないと言うわけですね」

バル 「確かに、十騎士の内4人がこちらに来たのだ、他の部隊も襲うのであれば戦力が足りなくなるからな」

バルの肩に掴まったまま、俺は馬車の荷台の布団で横になる。

悠 「ふう…」

バル 「ゆっくり休んで、回復させろ…お前の疲労は時間以外には治らん」

悠 「そうさせて…もらうわ」

俺は眠りに着く。
あっという間に睡魔が襲う。
ピクリとも体は動かなかった。



バル (…実際には、もっと危険だろう。確実に悠の寿命は縮んでいる)
バル (可能ならば俺たちで戦わねばならないのだが、それもやはり出来ないのか)
バル (正直、それこそがゼイラムの考えだろう…可能な限り悠を消耗させて、ドグラティスの勝利を確実にしようと考えている)
バル (だが、時の邪獣を生み出すにはそれだけドグラティスの力が必要になる、そうおいそれとは出来ないはずだ)
バル (ということは…ドグラティスの復活はそれだけ余裕があるということなのか…? それとも、他にも策が…?)

俺は考えられるだけ試行錯誤したが、大した考えは浮かばなかった。
当面の問題を打開する方法がない以上、このままではまずいとしか言えない。

ネイ 「…悠、本当に大丈夫なの?」

バル 「…ああ」

俺はそう答えた。
ネイはそれでも心配そうに悠の寝顔を見つめた。

ネイ 「…このまま目覚めなかったり、しないよね?」

バル 「…そんなに心配か?」

俺は尋ねてみる。
ネイは記憶を無くしてからというもの、悠を気にしているようだった。

ネイ 「うん、心配…」
ネイ 「だって、悠は私の命の恩人だもん…」
ネイ 「悠が私を助けてくれなかったら、私はとっくに死んでたから…」
ネイ 「だけど、私には何も出来ない…助けることが出来ない」
ネイ 「…悔しいよね、レイナや未知さんだったら、助けることも出来るのに」

ネイは悲しそうに悠の隣に三角座りで座り、自分の膝の中に顔を埋める。

バル 「…気にするな、お前にはお前にしか出来ないことがある」

ネイ 「え、何々!?」

ネイがそう食いついてくる。
よっぽど気になるのか…。
しょうがないので、俺は『真面目』に答えてやることにする。

バル 「悠の分の飯を残しておけ…光鈴で確保し忘れたからな」

ネイ 「うぐ…どうしてそんなことしか浮かばないの〜?」

バル 「お前をほっといたら、全員が餓死するからな…」

昔から食う奴ではあったが、今も変わらんな。
ネイはふてくされたようにすねる。

ネイ 「うう〜、いいもんいいもん…悠のためなら我慢するもんっ」



………。



悠 「……」

夢の中、最初に浮かんだのは、レイナの顔だった。
俺の出生の秘密。
望まれなかった子。
レイナと同じ。
今まで知らなかった姉さんのこと。
行方不明の母さんと父さん…。
そして、何故か最後にネイの顔が浮かんだ…理由はわからない。
ただ、そんなことを夢に見ていた…。



…To be continued




次回予告

シャイン:光鈴で未知、降と別れた私たちは再びディラール王国に戻る。
そして、私たちは新たな武具を求めて光の塔へと赴く。
そこで私たちを待っていたものは、試練だった…。

次回 Eternal Fantasia

第24話 「魔導銃ヘパイストス」

シャイン 「何があっても、退くわけには行かない…」




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