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第25話 「奪われたネプチューン」




ウンディーネ 「伝説の武具言うても…何があるんや?」

実の所、かなり適当に出発してもうたな…。
すでに今は船の上やから文句言うのも遅い。
ちなみにウチは、はっきり言ってそういうことは何もわからへん…。
ウチがそない呟くと、シャールが呆れたようにツッコム。

シャール 「…何がって、ネプチューンでしょ? デリトールにはふたつしかないんですから」

烈 「で、何だそりゃ?」

烈もそう言う。
気ぃ合うやんか…ウチもや。

シャール 「…あのな、そんなことも知らないのか!」

ウンディーネ&烈 「知らん」

ウチらが同時に答える。
シャールは肩をがっくりと落として、呆れる。
仕方なく、シャールが説明してくれた。

シャール 「…ネプチューンとは、デリトール大陸の守護神、海神ポセイドンの妹、ネプチューンのことで…」
シャール 「ネプチューンの力を衣に込めたそれは、通称『海衣』(かいい)と呼ばれ、扱うことのできるものは俺と同じように、武具に選ばれた者だけなんですよ」
シャール 「ちなみに、これら伝説の武具は別に王家とかそう言う血筋みたいなのはあまり関係ないようです」
シャール 「要は武具に認められるかどうかなので、関係のない人でも継承権はあるみたいです」

シャールがそこまで説明してくれた所でウチはうんうんと頷く。

ウンディーネ 「成る程なぁ…つまりウチがそれを使えればええんやろ?」

シャール 「…そういうことでしょうね、ユミリアさんが『メイン』と言った以上は」
シャール 「何が根拠かは知りませんけど」

シャールは軽く頭を掻いてそう言う。
実際、何でウチが選ばれたのかは知らへん。
まぁ、どっちにしてもやらなあかんのやったら、やるまでや。

烈 「で、それはどこにあるんだ?」

シャール 「そこまでは俺も聞かされていない…。だからとりあえず、ガストレイスに向かう」
シャール 「親父なら、知っているはずだからな」

ウンディーネ 「ふ〜ん」

そうして、ウチらは一日退屈な船旅を過ごした。
ここまでは特に問題はあらへんかった。



………。
……。
…。



港町サラブにてウチらは砂舟をレンタルする。
シャールが操縦できるので、問題はない、すぐにでもガストレイスに着くで。

ウンディーネ 「ほな、ガストレイスに出発やな!」

烈 「よっしゃ!」

シャール 「……」



………。



ウンディーネ 「…せやけど、ホンマに何も起こらへんな」

烈 「ですね…もっと敵とか来ると思ってたんですけど」

シャール 「来ないに過ぎたことはないでしょう…」

確かに…。
そして、ホンマに問題なく王都にたどり着いた。



………。



ウンディーネ 「着いたで…」

烈 「しっかし、やけに展開が早いな…作者の陰謀か?」

シャール 「ツッコムなツッコムな…」

ウンディーネ 「はよ、行こ…」

ウチらはすぐに城を目指す。
地元だけにシャールが先頭切って最短ルートを通った。
30分ほどで城まで到着や。



………。
……。
…。



ウンディーネ 「そう言えば、城に来るのは久し振りや…」

烈 「俺は初めてですよ…」

シャール 「少し待っていてください…」

そう言うて、シャールが城の門に向かってく。
まさか突き返されたりせぇへんよな。

シャール 「……」

シャールが無言で手招きする。
問題ないな、ウチらはそれを見て城に入っていく。



………。



ウンディーネ 「……」

何か、昔見た所とは全然違う気がする…。
綺麗な所は一緒やけど、昔よりも狭く感じる。
やっぱ、ウチが大きゅうなったからかな。
装飾品とかも変わってるみたいや…。
ウチと烈は互いにキョロキョロしながらシャールに着いて行く。
どうも、謁見の間ではないらしく、左右の階段を昇るようや。
ウチらはとりあえず右の階段を昇った。
壁に沿って綺麗なカーブを描く階段。
その先には左右の階段が繋がる先で、一応2階になる。
その先には確か、部屋があるはずや。
寝室やったかな? 1辺、ゾルフ先生の部屋に入れてもろたことがある。



………。



見張りの兵士 「これはシャール様、お帰りなさいませ!」

部屋の前に突っ立ってる兵士がそう言って敬礼する。
シャールは軽く右手を上げて応じる。

シャール 「親父は…?」

兵士 「はい、ご健在です…どうぞ、お通りください」

そう言って頭を下げ、兵士はドアをゆっくり開ける。
シャールがゆっくりと中に入り、ウチらも一緒に入っていった。
すると、左斜め前方、ベッドに横たわるひとりの男性の姿があった。
あれが王様やな…随分やつれとる。

シャール 「親父…」

王 「…シャールか、約束通り…まだ生きておるぞ」

シャール 「当たり前だ…死んでたら承知しねえぞ」

どうも、重い症状のようやな、それでも笑っているのは嬉しいからやろうと思った。
余命幾ばくもない…そんな感じやけど。
ちょっとウチは笑い飛ばせる状況やあらへん、さすがに真面目にしとこ。
烈も黙って成り行きを見ていた。

王 「ふ…で、実際は何のようだ?」

シャール 「ネプチューンの在処を聞きに来た」
シャール 「俺は聞かされてなかったんでね、親父なら知っているんだろう?」

王 「ああ、知っている。だが…誰が?」

シャール 「……」

シャールはこちらも振り向かずに、無言で後ろにいるウチを親指で指差す。
もし烈やったらどないすんねん…と心の中でツッコミは入れておく。

王 「…そこの女性、こちらへ」

王はウチを見て、ウチを呼ぶ。

ウンディーネ 「……」

ウチは静かに歩み寄った。
王の目がにわかに険しい。
見定められている…そんな感じや。
せやけど、すぐに王は優しい瞳をする。

王 「…大きくなったの」

ウンディーネ 「…へ?」

王 「ゾルフお爺様が連れて来られた頃は、まだこんなにも小さかったからな…」

そう言って王様は手を低い所に差し出す。
昔のウチの身長位やな…そして、ウチの目を見て微笑む。
そうか…昔会ったことあったなぁ。
色々遊んでもろた記憶があるわ。
せやけど、もう10年位前の話や。

ウンディーネ 「ウチのこと…覚えててくれはったん?」

王 「うむ…シェイドといつも一緒だったからの」

ウンディーネ 「……」(照)

確かに、外に出る時はいつもシェイドと一緒やった。
ここに来た時も、シェイドの付き添いが本音や。

王 「なるほど…資質はある」

シャール 「…そうじゃなかったら初めからここにはいないだろ?」

シャールが軽くそう言う。
根拠はわからへん言うてたのに…まぁええか。

王 「そうだな…」

シャール 「で、結局どこなんだ?」

王 「…ネプチューンは海の祠(ほこら)だ」

シャール 「あそこか…わかった」

それだけを聞くと、シャールは振り向く。

烈 「行くのか?」

シャール 「ああ、時間が惜しい。ちょっとばかし遠いからな」

ウンディーネ 「ほな、行こか…」



………。



ウチらは再び砂舟で、ガストレイスから東の海岸まで約2日で到着した。
ここまで全く順調や…絶対なんかあるで。
ウチは自分の中で確信めいた物があった。

ウンディーネ 「これが海の祠…」

小さな祠やった。
せやけど、一応それなりに手入れはされとる。
石造りで、後ろには崖。
崖のしたには海岸がある…崩れたら終わりやな。
何でこんな所に建てたんかは知らへんけど。

シャール 「さぁ行きましょう」

烈 「おい、大丈夫なのか?」

シャール 「心配はないだろう。ここは入ればすぐに祭壇だ、後は何もない」

ウンディーネ 「やっぱ…狭いんやな」

見た目通り言うことや。
入り口はドアもなく、目視で祭壇を見れる。
ちなみに、入って3メートルも歩いたらもう祭壇や。

シャール 「…ん?」

ウンディーネ 「どないしたん?」

シャール 「……ない」

烈 「…何が?」

って、ひとつしかないやろが…ウチはスパン!と烈の頭にツッコミを入れる

ウンディーネ 「この程度のボケじゃ世界取れへんで?」

烈 「…精進します」

冗談やからせんでええ…。
シャールは祠のありとあらゆる場所を探す。

シャール 「一体どこにあるんだ…?」

ウンディーネ 「もしかして、どこに隠したか知らんとか…?」

シャール 「……」

烈 「……」

シャール 「隠してあるとは、思っても見なかったからな…」

烈 「隠さなかったらやばいだろうが!!」

確かに、取られたらやばいから普通は隠すと思うけど。
あからさまに飾ってても問題やと思うし。

シャール 「いや、あれは盗まれた所で、金にはなっても使えはしないぞ?」

ウンディーネ 「……」

烈 「金目の物と言う時点で盗難の対称だろうが!?」

シャール 「はっ!?」

ウチははぁ…とため息をつく。

ウンディーネ 「ないんやったら、しゃああらへん…帰ろ」

シャール 「いや、だが隠してあるのかも…」

シャールはまだ探し足りないようだった。
まぁ、ここで諦めたらアレやしな。
そこでウチは何か人の気配を感じる。

烈 「ん…誰か来たぞ?」

烈も気付く。
ウチらが見ると、どうもガストレイスの兵士と同じ格好をしてた。

兵士 「あっ! 誰だ!?」

ウンディーネ 「誰や!って言われても…別に怪しいもんとちゃうよ」

兵士 「って、信じられるか!!」

兵士はそう叫ぶ。
見た所、中年で結構なベテランさんのようやけど、明らかにウチらを不審者扱いしてた。

烈 「まぁ、確かに…疑われても、なぁ?」

烈はシャールを見てそう言う。

シャール 「どこだーーー! ネプチューン!!」

いや…反論の余地無しやろ。
せやから帰ろ言うたんや。 ← 今更言っても遅い

兵士 「貴様ら! ただでは帰さんぞ!!」

シャール 「おい! お前! ネプチューンはどこに隠した!!」

シャールが兵士の胸倉を掴み、そう言いたくる。
って、よくよく考えたら、シャールは王子やねんから、兵士説得できるやん!
別に慌てる必要はなさそうやな。

兵士 「だ、誰が貴様に…!」

兵士は意外にも反抗する。
何やこいつ…? 反乱兵か?
それともただのボケ?

シャール 「お前…王宮兵士のくせに、俺の顔もわからんのか!?」

兵士 「は…? 知らん」

がくっ!

シャールはおろか、ウチらもまとめてすっ転んだ。
もうええわ…はよ終わらせて。

兵士 「私はかれこれ、10年もこの地だけに留まり、ここを護っている…。ゆえに、貴様のような小僧など知らーん!」

ウンディーネ 「そ、そら無理やで…どうすんねん」

烈 「さぁ…?」

シャール 「お・れ・は! ガストレイス王国の王子、シャール・ガストレイスだーーー!!」

シャールはついに堪忍袋の緒が切れたのか、そう叫んだ…。





………説明中………





説明に無駄な時間費やしたことは言うまでもあらへん…。
まぁ、わかってくれたからええ物を…。

兵士 「いやぁ…面目ありません。まさかあのシャール王子がこんなに大きくなられてたとは」

ウンディーネ 「そら10年も経てばなぁ…」

納得やろ…。
言うても、シャールの親父さんはウチのこと覚えてくれはったけど。
王様がとても偉大な人に見えるわ…。

シャール 「それより、ネプチューンはどこだ!?」

兵士 「そ、それが…実は……」

烈 「大方、盗賊団にでも盗まれたんだろう…」

烈がそう言う。
そう言えば説明中は祠におらんかった。
何か探っとたんやろか?

兵士 「な、何故それを!?」

兵士は慌てる…図星かいな。
烈は冷静に説明してくれる。

烈 「馬の足跡だ…それもひとつじゃない。しかもこんな砂漠地帯で残っていると言うことは、まだ新しいと言うことだ」

ウンディーネ 「せやけど何で盗賊ってわかるん?」

烈 「まぁ、盗賊かは勘ですけど…少なくとも兵士の隙を突いて盗んだんでしょう」
烈 「もっとも、足跡を残して行くなんざ小物みたいですけど…普通は消しますからね」

成る程…ウチにはわからへん。
どうやら烈の方が頭回るらしい。

シャール 「よし、なら追うぞ!」

ウンディーネ 「ほい来た!!」

ウチらは砂舟に乗り込み、足跡を追っていった。
今の所、風はそんなに強くなく、砂舟の上からでも足跡は見ることが出来た。



………。
……。
…。



ウンディーネ 「どないなっとるん…?」

シャール 「わかりません…」

烈 「どうやら…甘く見ていたみたいだな」

烈がそう言うとウチらは注目する。
ここまで半日近く足跡を追って行ったけど、一向に何も見えない。
そして遂に足跡は途切れた。

ウンディーネ 「どゆこと?」

烈 「つまり、足跡は囮で…本隊は砂舟を使ってアジトに戻ったのかも知れないってことですよ」

シャール 「…意外に手錬ってわけか」

烈 「日が沈んできたな。さすがに、これ以上はまずいか…?」

もう夜になる。
これ以上は足跡自体も見つけられへん。
結局は泳がされたわけやな…。

シャール 「足跡の方向だけを見たら、南に向かっていたようだから、この近くには…あれだ」

シャールが指差す方向を見ると、ほのかに町の光が見えた。

シャール 「アベラムの村だ、今日はあそこで泊まりですね」

ウチらは頷き、とりあえずそこまで行くことにした。
燃料の補給もいるし、食料も補給せなあかん…後は水やな。



………。



ウンディーネ 「よかったぁ…宿泊まれて」

烈 「……」

シャール 「……」

ウチらは、まず宿を予約することにした。
とりあえず、空きがひとつだけあって、ウチらは泊まることが出来る。
補給とかは明日に持ち越しやな。
今はすでに部屋の中で全員がおった。
食事は摂って、入浴もした後やから、後は寝るだけや。
ウチらは一部屋に布団を3つ敷いて寝る準備をしてた。

ウンディーネ 「で、どないしたんふたりとも?」

烈 「い、いや…あの、そ、その…」

シャール (くうっ! おいしいシチュエーションだが…こいつが邪魔だ!!)

烈は明らかにうろたえ、シャールは何かガッツポーズを取る。

ウンディーネ 「はえ?」

烈 「い、いや…だってまさか、同じ…部屋で寝るなんて、思いませんでしたから…」

ウンディーネ 「他に部屋がないさかい、しゃああらへんやろ…」

烈 「いや、そう言う問題じゃなくて!!」

烈は何やら顔を真っ赤にしてそう言い放つ。
ウチは心の中で笑う。

ウンディーネ 「何や、ウチと寝るのが恥ずかしいんか? 変なやっちゃなぁ…子供みたいやで?」

烈 「がーんっ!!」

烈はショックを受けて怯む。

ウンディーネ 「せやけど、ウチが魅力的やからて変な事したらあかんで…?」

ウチは口に右手の人差し指を軽く当ててそう言う。
案の定烈は慌てる。

烈 「し、ししし、しませんっ!! 断じてっ!!」

ウンディーネ 「あははっ! おもろいやっちゃなぁ…ホンマ」

ウチはそう言って、布団に包まった。
すぐに眠気は来る。
ウチは明日に備えてすぐに眠りについた。



シャール (くっ…やはり、夜這いは駄目か…!!)

烈 「…お前、ウンディーネさんに手ぇ出したら、王子といえどぶっ飛ばすからな…」

俺はそう言ってシャールを脅す。
こいつが一番危ない気がする。

シャール 「…お前って、わかりやすいな」

烈 「な、何がだよ…?」

シャールはそう言って納得する。

シャール 「まぁ、ここじゃなんだ、表に出ないか?」

烈 「ああ? 別に構わんが…」

俺たちはふたりで外に出る。
寝巻きのままで、正直寒かった。
砂漠の気候はよく知らないが、夜は対照的に死ぬほど寒い…。
俺は寒さに弱い方ではないのでそこまでは気にならなかった。
シャールもさすがにさばく出身なだけに平気のようだ。
そして、宿の外でシャールが言う。

シャール 「お前、ウンディーネさんの事よっぽど好きなんだな…」

烈 「な、何を…!?」

シャール 「見るからにうろたえるな…わかりやすい。一目惚れか?」

烈 「く…」

明らかに俺が不利だった。
こいつがかなり鋭いのか、俺がわかりやすいのか…って両方だろうなどうせ。

シャール 「…まぁ、いいんじゃないの?」

烈 「何がだよ…?」

シャールは笑って自分ひとり納得する。
楽しんでるようだ。

シャール 「さぁな…自分で考えることだ」

烈 「おい!」

シャール 「俺はもう寝る…お前はどうすんだ?」

烈 「待てって! 俺も行く!!」

俺たちはまた宿に戻った。
結局俺ひとりが空回りしているようだった。



………。



ウンディーネ 「……」

ウチは目を瞑ってさっきの言葉を思い出す。

「…お前、ウンディーネさんに手ぇ出したら、王子といえどぶっ飛ばすからな…」

ウンディーネ (ふふ…ホンマおもろいやっちゃ)

ウチは心の中で大笑いした。
真っ直ぐなやっちゃなぁ…まぁ嫌いやあらへんけど。
案外、退屈はしなさそうやな…。
ウチは今度こそ眠りにつく。



………。
……。
…。



烈 「ん…いい匂いだな〜」

烈が食堂に顔を出す、まだ寝ぼけているのか、ちょっと焦点が定まってなかった。

シャール 「今起きたのか?」

烈 「ああ…腹減ったなぁ」

烈は腹を抑えてそう言う。
俺は微笑して。

シャール 「今、ウンディーネさんが厨房借りて作ってくれてる…もう出来る頃だ」



………。



ウンディーネ 「ほいっ、お待たっ!」

ウチはできたばかりの朝食を食卓に並べる。
メニューはシーフードでトッピングした、カレーとスパゲティや。
シンプルやけど、まぁそれなりにはイケてるやろ。
朝食にしてはちょっとばかしボリュームあるけどな。

シャール 「おお…見事」

烈 「美味いっす…ああ、俺は幸せ者だ!」

ウンディーネ 「たかが朝食でそこまで感動せんでも…」

烈は本気なのだろう…かなり感動している。
シャールは特に気にせずに食べ続けていた。

烈 「いや! 味も去ることながら…何よりも『憧れ』のウンディーネさんの手作りと言うのが最高のスパイスですよ!!」

シャール (うわ…臭い台詞。しかも全力投球でストレートな表現)

ウンディーネ 「あ、アホッ…何言うとんねん! こっちまで恥ずかしなるやないかっ」

スパンッ!

ウチは右平手で烈の頭にツッコミを入れる。

烈 「あ、い、いえ…その…!」

気が付いたら、周りからえろう注目されとった…。
当然や…こんな目立つことしとったら。

烈 「す、すいません…」

シャール 「さっさと食って、調査だ」

ウンディーネ 「せやな…ネプチューン探さなあかんし」

ウチらは真面目に(?)食事を摂った。
烈が残さず平らげてくれたんで、作り甲斐はあったわ。
後は昨日の続きで調査を始める。



………。
……。
…。



ウンディーネ 「どやった?」

シャール 「…やっぱり、大陸最も南のジュドム山に潜んでいる集団が怪しいでしょう」

烈 「こっちも同じ情報です」

およそ1時間ほど町で情報収集をした。
そして、共通して怪しい所は、ジュドム山。
ここからかなり遠い位置やが、そこには大陸でも有名な盗賊団のアジトがあるそうや。

ウンディーネ 「まぁ、他には何もないし行こか」

シャール 「了解」
烈 「了解!」

ウンディーネ 「で、ちなみにどの位かかるん?」

ウチが聞いているのは距離の事や、価格やないで?
少なくとも、ここが大陸の真ん中位の位置やから、最北端ともなれば…。

シャール 「何事もなければ、1週間と言った所ですね」

烈 「そ、そんなにかかるのか?」

シャール 「それまでに町はふたつあるから…まぁ何とかなるだろう」

ウンディーネ 「そか…」

1週間か…。
砂舟は使いっぱなしやと、1日で燃料が切れる。
燃料は魔石やから、持ち運びには便利やけど、かなりの金額になってまう。
幸い、シャールが金を負担してくれてるのがせめてもの救いやった。
ちなみに、砂舟を一日動かすだけの魔石は、ひとつで1000Gや。
一度の食事に10Gかからへん位やから、首が回る金額やで…。
そんなことを考えながら、ウチらは町を出て行った。



………。
……。
…。



そして、途中食料がのうなったり、燃料が切れたりとトラブルを乗り越えながらも、ウチらは1週間でジュドム山にたどり着いた。

ウンディーネ 「やっと着いたな…」

烈 「ここに、ネプチューンがあればいいですけど」

そう、結局確信はひとつとしてなかった…。
ここがあかんかったら、本気でどうにもならへん…。

シャール 「しかし、この山自体が奴らのアジト…どうやって侵入しましょうか?」

山自体はそんなに大きくない。
人の足で十分登り切れる位やろ。
全力疾走なら、多分時間にして20分あれば余裕で頂上に着くと思う。

ウンディーネ 「…強行突破が早ない?」

シャール 「しかし…危険でしょう?」

烈 「…この人数と面子じゃ、下手に作戦立てても無駄だと思うがな」

そう言って烈は先頭を駆ける。

ウンディーネ 「決まりやな…腕がなるで!」

ウチは続いて一気に山を駆け上る。

シャール 「あっ! …ったく」

シャールも渋々続いて来た。
そして、1分もせぇへん内に、敵さんが盛大に歓迎してくれた。



………。



盗賊19 「ぐわっ!」
盗賊20 「げふっ!」

ウンディーネ 「大将はどこや!?」

烈 「一番上でしょ…馬鹿と煙は高いところに登りたがるっ、てね!」

シャール 「…にしてもこんなに数が多いとは」

ウチらは軽く盗賊を倒していく。
はっきり言って雑魚ばかりやけど、数が多かった。
さすがにひとつの山を根城にするだけあるで…。

ウンディーネ 「さぁ、早よ行くで!」



………。
……。
…。



ウンディーネ 「やっと…頂上やな…」

さすがに疲れた…。
かれこれ、100人は相手にしたんとちゃうか…?
どこまで多いねん…ええ加減打ち止めやと思うけど。
ひょっとしたらすでに全員ぶった押したのかもしれない。
RPGで言う所の、LV上げに近い感覚やろな…。

シャール 「はぁ…はぁ…」

烈 「…なんか、洞窟があるぜ」

頂上に着くと、まず見えたのはその洞窟。
意外に広いみたいで、3人が横に並んで入っても問題なかった。

ウンディーネ 「ここにあるんかな…?」

烈 「なかったら、骨折り損ですね…」

シャール 「……」

ウチらは警戒しながら中に入ってった。
しかし、それにしても…。

ウンディーネ 「えろう薄暗いな…」

奥に進めば進むほど光が薄れていく。
頂上からどんどん降りて行く感じで、次第に坂が緩やかになって行くようやった。

烈 「なら…」

ボッ!

烈が小さな火の玉を出して明るくしてくれた。
周りの状況が見渡せる。

シャール 「道は意外に広いな…一本道か?」

ここまでに分岐があるようには見えんかった。
もしかしたら、例によって隠し通路があるのかもしれへん。
このまま行ったら罠とかも…。

グルルルル…

ウンディーネ 「…何か聞こえたやんな?」

シャール 「…化け物がいるみたいですね」

烈 「奴らのペットか?」

シャール 「かもな…」

ウンディーネ 「このドアの向こうからや」

突き当りまで進むと、ウチらの前にはドアがあった。
鉄の扉でかなり頑丈や、隙間に光もささへん。
まるで、閉じ込めるための扉やな…。
鍵はないようで、つっかえ棒がしてあった。
ウチはそれを外して、確認を取る。

ウンディーネ 「開けるで?」

ふたりは同時に頷く。
ウチは目の前の重い扉を引き放つ。
そして、中からは光が漏れ、ウチらは中に駆け込む。



………。



ウンディーネ 「……」

獣 「ガルルルル…」

ウンディーネ 「唸っとるで…」

シャール 「…ええ」

烈 「でけぇ…」

見ると、目の前には全長3メートルはあると思える巨大な獣が唸っとった。
見た目は狼のようにも見えるけど、紫色の毛皮で、頭に二本の角が生えとった。
ウチらを見ると、熊のように後ろ足だけで立ち上がった。

シャール 「まさか、ベヒーモス!?」

ウンディーネ 「…友達になりたい、とは思うとらんやろな」

烈 「無理でしょ…」

シャール 「来るぞ!!」

獣 「ガアアアアアッ!!」

獣は咆哮をあげ、前足を振り下ろしてくる。

ズウウウウゥゥンッ!!

ウンディーネ 「こいつ…意外に素早いで」

巨体に似合わずかなりのスピードだ。
獣だけに、筋肉も人間のそれとは比較にならへん。

烈 「こういう獣には、これだ!! フレイム・バースト!!」

ズドオオオオオンッ!!

烈の魔法が獣に直撃する。
獣は反応できずに正面から直撃を受けた。
爆発で周りに火の粉が飛び散る。

獣 「ガアアアアアッ!!」

獣は悲鳴にも似た唸りを上げ、少し怯んだ。

シャール 「効いてる…?」

シャールは何だかおかしな表情をした。
せやけど、ウチらは考える暇はなかった。

獣 「グウウアアアアアッ!!」

獣は更に突っ込んで来る。
ウチは、全力で魔法を放つ。

ウンディーネ 「ブリザード・ブレイズ!!」

ウチが魔法を放つと、その場で獣を中心に、強力な吹雪が起き、獣を一瞬にして凍らせた。
氷系もウチの得意分野や…水と相性がええさかいな。

獣 「ガググググ…?」

獣は氷の中で呻き声をあげる。
シャールはそれを見て、ポセイドンを構える。

シャール 「後は…」

ウンディーネ 「待ちぃ! シャール!!」

シャール 「は?」

シャールを止め、ウチは動けなくなった獣に近寄る。
氷はしばらくは解けへん、このままでも凍死するやろ…。

ウンディーネ 「烈! 炎で暖めたって!」

烈 「へ…?」

ウンディーネ 「はよせい!」

烈 「は、はいっ!」

ウチは大きな声で烈に怒鳴る。
そして、烈は魔法で氷を溶かし、獣を暖めた。



………。



獣 「……」

獣は気持ちよさそうに、体を休ませた。
ウチが回復魔法をかけてあげたら、嬉しそうに懐いてきた。
可愛い子やんか…。
この子は多分子供や。
ベヒーモスは話に聞くと、5メートル位が平均の大きさや。
この子はそれに比べたら大分小さい。
しかも、ベヒーモスは魔法に耐性が高い、炎魔法では普通怯まへん。
ウチは隣で寝そべっているベヒーモスの頭をそっと撫でてあげた。

シャール 「何で、こんなことを…?」

シャールが、ふとそう聞いてくる。
不思議そうやった。
昔やったらウチもそう言ったやろな。

ウンディーネ 「あんた…ゾルフ先生から聞かされへんかった?」

シャール 「はぁ…爺さんに?」

ウンディーネ 「せや…水の精霊はいたわりを象徴する精霊。せやから、むやみに生き物を傷つけたらあかん…って」
ウンディーネ 「ゾルフ先生も水の精霊や、あんたもやろ?」

シャール 「…確かに」

シャールはばつが悪そうに頭を掻く。
ウチは悲しみながら、呟く。

ウンディーネ 「…多分、この子は親と引き剥がされたんや」

烈 「どうしてわかるんです?」

シャール 「…ベヒーモスは通常砂漠には生息していない。むしろ、ロウステンドやゼルネーヴに生息しているんだ」
シャール 「だから、ここに子供だけがいるというのは考えがたい」

烈 「なるほどな…」

ウンディーネ 「きっと、盗賊に閉じ込められとったんやな…可哀想に」

ウチはその子の顔を優しく撫でる。
くすぐったそうに、それでも気持ちよさそうにその子は鳴いた。

獣 「ググゥ…」

シャール 「ベヒーモスの毛皮は高く売れますからね。もっとも、子供でなければ人には捕らえきれない」

ウンディーネ 「許せへん…何の罪もないこの子を」

ウチは自分の中に怒りを覚える。
そして、しばらく休んでから、開け放たれたドアの向こうに獣を出してやることにした。
せやけど、外には人がおった。

ベヒーモス 「…グググ!」

ウンディーネ 「退がっとき…危ないから」

ウチがそう言うと、その子は洞窟の中に退がった。
ウチらは前を向く。
そこには、何十人もの盗賊と共に、ひとりのガタイのいいオッサンが立っとった。

男 「てめぇ…何者かしらねぇが俺たちに刃向かうとはいい度胸じゃねぇか…」

ウンディーネ 「ええ度胸やて…それはこっちの台詞や」

烈 「…!!」(汗)

シャール (ウンディーネさん、本気で怒ってる)

ウチは盗賊の頭と思えるオッサンの前まで歩いて行った。
ここまで怒ったんは初めてや。

頭 「ほう…いい女じゃねぇか、俺の女にならねぇか? いい暮らしをさせてやるぜ…?」

烈 「てめぇ!!」

バキィ!!

瞬間、ウチは頭の鼻先を右拳で殴り飛ばす。

頭 「がはっ!!」

反応すら出来ずに頭は後ろに仰け反る。

ウンディーネ 「あんま、調子に乗るんやないで…ウチは本気でキレとんのや!!」

ウチの声が山中に響く。
聞いた子分どもは恐れて震え上がっていた。

烈 (こ、こわぁ…)

頭 「あたたっ…ちょ、ちょっと!」
ウンディーネ 「いっぺん痛い目みんとわからんか!?」

ウチは頭の胸倉を右手だけで持ち上げてそう言い放つ。
頭は顔を蒼くして。

頭 「め、滅相もございません! も、もう足は洗いやす!!」
頭 「で、ですから命だけはぁ!!」

シャール 「えらくあっさりとまぁ…」

烈 (怒らせるのは絶対に止めよう…)



………。



頭 「本当にすみませんでした! ベヒーモスの子供にはもう手を出しません!!」

ウンディーネ 「もう、二度と悪さするんやないで!?」

盗賊団 「へいっ姉御!!」

こうして、ウチらはベヒーモスの子供を助けてあげた。
ホンマやったら、別の大陸に返してあげた方がええんやろけど…。

ベヒーモス 「ググ…♪」

ウンディーネ 「あははっ、こら…くすぐったいで!」

どうにも懐かれてしもうたようや。
ウチはちょっと考える。

ウンディーネ 「…なぁ、この子ガストレイスで保護できへんかな?」

烈 「やっぱり…そうなりますか」

シャール 「…まぁ、出来なくはないと思いますけど。元々生息地ではないので、色々大変だと思いますよ?」

ウンディーネ 「せやったら、頼むわ! ウチも、この子の事好きやし!」

シャール 「…わかりました、国でかけあってみます」

こうして、一連の事件は終わりを告げた。
無事にベヒーモスも救出できたし!
って…あれ?

ウンディーネ 「何か、忘れてる気が…?」

ウチは頭を捻る。
そして思い出したように。

シャール 「ネプチューン!! そうだお前! ネプチューンはどこにやった!?」

シャールが頭にそう言う。
すると、頭は。

頭 「ああ、確か…ついこの前にチンケな祠からパクッた奴だよな? おう、お前ら持ってこい!!」

子分 「へいっ!」

すると、子分のひとりが走る。



………。



そして数分後。
ついに本命のネプチューンを手に入れることが出来た。

ウンディーネ 「せやけど、これのどこが衣なん?」

ウチはネプチューンを手に取ってから見てみる。
どうも掌と甲を覆うだけの手袋のようで、手の甲に当たる所に、大き目の宝石のような物がふたつあっただけだった。
やっぱどこが衣かわからへん。

シャール 「…とりあえず、身に付けてみてください」

ウチはそれをはめてみる。
特に何もなかった。

ウンディーネ 「で、どうすれば…」

そう言おうとした所でウチは声を聞く。

、 ネプチューン (新たな主はあなたですか?)

突如語りかける声。
と言うよりも、頭に響く声。

ウンディーネ 「な、何や!?」

シャール 「心をネプチューンに!」

ウンディーネ 「えっ? え、えっと…」

ウチはシャールに言われてネプチューンのことを考える。

ネプチューン (……)

ウンディーネ (えっと…)

数秒してから、答えが返る。
ネプチューンは微笑んみながら言うように。

ネプチューン (あなたは、心が清んでいますね…過去には色々あったのでしょう)

ウンディーネ (へ?)

ネプチューン (私の力が必要ならば、お貸ししましょう…あなたの力として)

その時、ネプチューンから光が放たれ、ウチの体を包み込む。
そして、次第にその光はネプチューンに吸い込まれていった。
次の瞬間、ウチは自分の中で力が溢れることを実感する。
体も軽い、絶好調や!

シャール 「おめでとうございます」

ウンディーネ 「これが、ネプチューン…」

なるほど…選ばれる、か。
ウチは心で納得し、それから山を降りることにした。
ベヒーモスの子供も一緒なので、砂舟が使えないことに気付いたのはその後だった。



………。



ウンディーネ 「で、どないしよか?」

シャール 「仕方ありませんね、しばらくはここで保護してもらいましょう」
シャール 「往復するだけの時間はもうないので、王国に報告して迎えにきてもらいます」

ウンディーネ 「ほうか…せやったら、しゃあないな。しばらく、我慢できるか?」

ベヒーモス 「ググゥ…」

ベヒーモスは小さく鳴く。
この子は頭がええから、きっとわかってる。
ウチらは結局、元盗賊団に頼んで保護してもらうことにした。
そして、今度こそウチらは戻る。



………。



そして、ふと終わっていない疑問をウチは思い出した。

ウンディーネ 「忘れとった! これ、結局何で衣なん? これ手袋やろ?」

今更だが、そんなことを言う。
シャールと烈はやや呆れたような顔をする。

シャール 「ああ、それは…」

声 「…やっと見つけた」

突如囁くような声。
すぐに砂舟は止まる。
時間はまだ夕方。
砂漠の真っ只中でウチらは船を降りる。
そして、声のした方を凝視する。
ひとりの女がおった。
ボーイッシュな感じもさせるショートヘアー。
服は水色のローブを着とった。
砂漠だと言うのに裸足なのが印象的だった。
ぱっと見は、魔導師のような感じもしたけど、明らかな違和感を感じる。
精霊の直感と言ってもええ…普通の気やないで。

シャール 「何者だ!?」

シャールがそう言うと、女は感情のこもらない表情と声で答える。

声 「私は邪神軍、新十騎士…純水のデルタ」

瞬間、刺さるような気を感じる。
感情は込めていない、ただ『純粋』な殺気を感じた。
ウチは寒気がする。

烈 「新十騎士だと!? いつの間にそんな物を…!」

デルタ 「あなたは…元十騎士、紅蓮の烈ね」

烈 「てめぇ…刺客か!?」

烈は槍斧を構えて前に出る。
それを見て、何の気後れもなく。

デルタ 「ええ…本当はネプチューンを手に入れる前にやるはずだった…でもどこにいるのかがわからなくて間に合わなかったわ」

素でそう言う…何やこの娘、結構面白い性格やな。

シャール 「なんだ、随分と間抜けな刺客さんだな」

デルタ 「…別に大した問題ではないわ、これより目標を始末します」

シャールの挑発も全く素で流す。
クルスが女性になったらこんな感じかもしれへんな。

シャール 「ふっ、威勢がいいのは結構だが、ポセイドンとネプチューンのふたつを相手に勝てる気か?」

デルタ 「…言ったはずよ、大した問題ではないと」

もう一度言う。
よっぽどの自信や…実際に威力を知らへんかったら言えへん台詞や。

ウンディーネ 「なら、試してみるかっ!?」

ウチはそれでも強気にそう言った。
相手は自信たっぷりやが、ウチも負けてへんで、ネプチューンの威力、確かめさせてもらうわ!

デルタ 「好きにすればいい、でも敗北感を悟るだけかもね…」

ウンディーネ 「行くで!!」



…To be continued




次回予告

ウンディーネ:ネプチューンを手に入れたウチらの前に現れた刺客デルタ。
デルタの能力の前にウチとシャールの攻撃は全て防がれる。
唯一攻撃の通じる烈がひとりで向かうが、烈は重傷を負う。

次回 Eternal Fantasia

第26話 「燃えよ紅蓮の炎」

ウンディーネ 「ウチの攻撃が…効かへん」




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