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第26話 「燃えよ紅蓮の炎」




ウンディーネ (さて…啖呵切ったまではええけど、ネプチューンってどうやって使うんや?)

内心不安ではあった。
相手のあの自信、加えて伝説の武具なんか使ったこともない自分。
そんな心の中に、声が響く。

ネプチューン (大丈夫です…私を信じてください)

ネプチューン様や。
こう言う語りかけをしてくれるなんてさすが神様やな。

ウンディーネ (せやけど…やれるやろか?)

ネプチューン (この衣はあなたの意思で生み出されます。衣を作り出すことを集中してください)

ウチの不安を拭い去るようにネプチューン様が語りかける。
ウチはそれを聞いて衣をイメージする。

ウンディーネ 「……」

烈 「!? 宝石から水が!」

デルタ 「……」

みるみる内に、ウチがイメージした衣が水で出来上がり、ウチを包んだ。
絵本の中の、天女の衣のようにウチの身を水の衣が包んだ。
両手の甲から水が流れるように出て、肘を通り、背中を越えて、肩から腹部を通り、臀部の後ろで途切れる。
見た目には体を道として水が流れてるようにも見える。

ウンディーネ 「ほえ〜、これのことやってんな…」

シャール 「初めて見た…あれがネプチューンの本当の姿なのか?」

全員が見とれるようにウチを見る。
誰もが始めてみる光景だったようや。

デルタ 「けど…さっきも言ったように私には無駄よ」

デルタは全く動じることなく余裕を持っていた。
この自信はどこから来るんや?

烈 「こいつ…なんでこんなに余裕を?」

烈も同じように疑問を抱いているようだった。
せやけど、やってみぃへんことには始まらへん。
ウチは覚悟を決めて突っ込む。

ウンディーネ 「なら、試したるわっ!!」

ウチはデルタに正面から突っ込み、衣での攻撃をイメージする。

シュンッ!

すると、ウチの右腕に流れる水が右手の先端に集まり、鋭い槍のような形になる。
ウチはそれを振りかざしてデルタに向かって突く。

デルタ 「ふふ…」

パァンッ!

ウンディーネ 「!?」

シャール 「なっ!?」

烈 「…水を、弾いた?」

ウンディーネ 「ど、どないなっとるんや?」

わけがわからんかった。
間違いなく棒立ちのデルタ相手にヒットしたはずや。
せやけど、水はまるで弾けるようにかき消えた。
デルタは全く動じた様子もなく、微笑さえ見せていた。

ネプチューン (まさか…エレメント・ガード?)

ウンディーネ (…エレメント・ガード? 何やそれ?)

突然の呟きにウチは聞き返す。
聞いたことのない言葉や。

ネプチューン (エレメント・ガードとは、自分の生まれ持った属性と同じ属性を持つ者の攻撃を完全に遮断する古の呪法…)

ウンディーネ (えっと…ってことは)

考えた所で気付く。

ウンディーネ 「せやったら、ウチじゃどうしようもないってことやん!」

声に出して叫ぶ。
その様を見て、シャールと烈は驚いたようにウチを見て、デルタはクスクスと微笑んでいた。

デルタ 「わかった? 絶対に私に勝てない理由が…」

ネプチューン (あの者の言う通りです…あの呪法がかかっている以上、例え私やポセイドンですら手は出せません)
ネプチューン (あれは…時の神のみが使える完全な領域なのです)

ウンディーネ 「そんな…」

ウチはうろたえる。
攻撃が一切通用しないなんて…いくらなんでも反則やで。

デルタ 「あなたは無理でも私は違うわよ…いくらでもあなたに攻撃ができる」

距離を離すため、デルタは一度大きく、素早く後ろにバックステップをする。
そして、デルタは右手から水の鞭を作り出し、ウチに向かってそれを振るう。

ビュンッ!

ウンディーネ 「くっ!」

ウチは防御をイメージし衣を盾に変化させる。
左手の水がウチの全身を包む大きな盾に変わる。

デルタ 「甘いわ!」

パァンッ!

ウンディーネ 「うあっ!」

シャール 「防御まで!?」

デルタの攻撃はウチの盾をいとも簡単に消し去ってウチの右頬に直撃した。
衝撃でウチは後ろによろける。
かなり顔がヒリヒリする…。

ウンディーネ 「く…守ることもできへんのか」

デルタ 「あなたが生まれもって『水』の属性を持っている限り攻撃はおろか、防御もロクにできないわ」
デルタ 「つまり…あなたが私に勝てる要素はゼロよ」

パチィンッ! チターンッ!!

鞭がウチに容赦なく襲い掛かる。
ウチは体を丸めて耐えるしかできなかった。
右から左から…左右に鞭がしなってウチの体を痛めつけていく。

ウンディーネ (情けない…ネプチューンを手に入れたかって全然意味があらへん)

シャール 「くそっ…無駄とは思っても!」

ウチの情けない姿を見かねてか、シャールがポセイドンを振り上げ、デルタに向かって振り下ろす。

ガキィンッ!

シャール 「ぐ…」

が、槍はデルタの数センチ手前で止まる。
やっぱりあかん…シャールも水の精霊や。

デルタ 「無駄って言わなかった? あなたも同じよ」

シュルル…

シャール 「!?」

今度は鞭をシャールに巻きつけ、デルタはシャールを空中に放り、そのまま落下の勢いを叩きつけた

シャール 「うおおっ!」

ドシャアッ!!

シャールは数メートル程の高さから受身も取れずに頭から落下する。
砂漠の砂とはいえ、あの高さから落とされればダメージはある。

ウンディーネ 「シャール!!」

シャール 「……ぐっ!」

シャールは首を抑えて呻き声を上げる。
どうやら死んではおらんようや。
砂の上でよかったわ。

デルタ 「さすがに死んではいないようね…一応、殺す気で叩きつけたのに」

ウンディーネ 「このおっ!!」

ウチは素手で無防備のデルタに殴りかかる。
不意打ちで、デルタはよけることもなく棒立ちやった。

ガンッ!

せやけど、やっぱりデルタに当たる前に何か気流のような物に遮られる。
まさに鉄壁や…。

デルタ 「例え拳に水の属性を持たせなくても無駄よ…」

パチィィンッ!!

ウンディーネ 「かはっ!!」

ウチはまた顔面に鞭をくらい、その場に倒れる。
砂が舞い上がり、ウチは埋もれるように横たわった。

デルタ 「あなたから先に殺してあげるわ…」

デルタがウチに向かって鞭を振るったその時…。

ゴオオッ!!

デルタ 「!?」

炎がウチの目の前で燃え上がる。
それは柱のようにウチを守り、水の鞭は蒸発する。
砂煙の中、その炎を操る男がウチを庇うようにデルタの前に出る。

烈 「誰か忘れちゃいないか?」

デルタ 「…そうね、迂闊だったわ」

ウンディーネ 「…烈」

烈 「ここは、俺に任せてください…」

ウチは、頷くこともできずに、立ち上がってその場から離れることしかできへんかった…。
烈はハルバードを構え、デルタと向き合う。
この状況下やと、戦えるのは烈だけや。
ウチとシャールは固唾を飲んでその光景を見守ることしかできへんかった。



………。



デルタ 「…あなたひとりで勝てるかしら?」

烈 「さぁな…だが、やってやるぜ!!」

俺は間合いをジリジリと詰め、相手の出方を探る。
デルタもさすがに迂闊には攻撃してこなかった。

デルタ 「……」

烈 「……」

俺たちは互いに動くことなく、数分がたつ。

烈 (このまま、睨めっこしてても意味がねぇな)

俺は意を決し、デルタに向かって突っ込む。
デルタは待ち構えていたように手をかざす。

デルタ 「来たわね!」

ザァッ!

烈 「!?」

突然、俺の足元から水の鞭が現れ、俺の右足を縛る。
当然俺は前に出られず、バランスを崩して前のめりに倒れかける。

デルタ 「ウォーター・ランサー!!」

セオリー通り、デルタはすかさず魔法で俺を攻撃する。
だが、俺はすぐに左手を前にかざし。

ドジュウウゥゥ…

デルタ 「!?」

俺は左手から炎が生み出され、水の槍を蒸発させた。
同様に今度は足元の水もすぐに蒸発させる。
デルタは少々驚いた顔で咄嗟に距離を離す。
だが、俺は逃がさない。

烈 「今度はこっちの番だ!」

俺は素早く間合いを詰め、ハルバードを横に薙いで、デルタの腹を狙う。

デルタ 「くっ!」

ガキィ!

デルタは左手から水の盾を作り出し、それを防ぐ。

烈 「せやっ!!」

俺はすぐに頭上から連撃で振り下ろす。
デルタはそれに反応して水の盾を頭上に構える。

デルタ 「無駄よ!」

烈 「そうかな!?」

俺は武器に炎を纏わせる。

デルタ 「何!?」

ジュウウウゥゥ!! ゴゥッ!!

俺のハルバードは水の盾を蒸発させ、デルタの胸をかすめる。
どうやら服だけのようだ、デルタは胸元に手を当て、すぐに水で炎を消していた。

デルタ 「くっ…!」

烈 「ちぃ、はずしたか…って!?」

デルタ 「このっ!」

デルタはすかさず、俺に右拳を固めてパンチをしかける。
だが、俺はデルタを見れなかった。

バキィ!

烈 「がっ!」

俺はデルタのパンチをもろに顔面に受け、吹っ飛ぶ。
中々いいパンチ撃ちやがる…ちゃんと腰が入ってるじゃねぇか。
だが、シーナの馬鹿力に比べればこんなもん!
と、気合を入れたはいいが、やはり俺はデルタを見れない。
俺は左手を目元に当てて見えないように目隠ししてしまっていた。
純情な自分の性格を今は恨む。

デルタ 「こいつ…何、急に?」

烈 「…て、てめぇ! 色仕掛けとは謀ったかぁ!?」

デルタ 「…?」

俺はしどろもどろになりながらそう言う。
だが、デルタは意味がわかっていないように呆然としていた。
そして、ふとシャールの視線が一点に集中する。

シャール 「おおっ!!」

ガスッ!!

ウンディーネ 「何見とんねん!!」

ウンディーネさんはすかさずシャールの後頭部を殴りとばす。
シャールの顔面が砂にめり込む。

シャール 「ずびばぜん…」

デルタ 「??」

デルタはやはり状況を理解していなかった。
マジでわかってないのか?

烈 「くそっ…まさかこんな作戦で来るとはな」

デルタ 「わけのわからないことを…!」

デルタは気にもせずに鞭で俺を攻撃する。

バチィンッ!

烈 「がぁっ!」

俺は無防備に打たれる。
このままじゃジリ貧だ。

ウンディーネ 「烈、何しとんねん!」

烈 「んなこと言われたって!!」

俺はデルタが見れない…。
正確には、俺の攻撃でデルタの服が破れ、完全に露出しているデルタの胸が、だ。

デルタ 「どういうつもりかはわからないけど、遠慮なく攻撃するわよ!」

デルタは攻撃をどんどん繰り出してくる。
俺は適当に動くが当然かわせるわけもなく、面白いように攻撃を貰うしかなかった。

バチィンッ! チタァーンッ!!

烈 「ち、畜生!!」

俺は目を閉じて、デルタのいた(と思う)方向に魔法を放つ。

ヒュンッ!

デルタ 「こいつ…目を閉じながら。なめているの!!」

バチィィ!!

烈 「くそっ…やっぱ駄目か!」

俺はふっとんで尻餅を着く。
砂が巻き上がって、口の中に入る。
俺はぺっぺっと砂を吐きながら立ち上がる。

デルタ 「…ここまでね」

俺はすでにボロボロになっていた。
このままでは間違いなく負ける。

烈 「…ぐ、くそ」

だが、目だけは未だに閉じていた。
何かいい作戦はないものか…。

デルタ 「…目を閉じているのは作戦かしら?」

烈 「ばっきゃろーーー! ちゃんと胸は隠せ!!」

俺は目を閉じながらそう叫んだ。
いい加減俺は怒ってそう言う。
これで気付かなかったとか言ったらマジで切れるぞ!?

デルタ 「胸…?」
デルタ 「…?」

デルタは自分の胸を見ているのかいないのか、確認することはできなかったが、攻撃は止んでいた。

デルタ 「…これが、一体何だというの?」

どうやら、天然のようだ。
俺は力いっぱい聞く。

烈 「あのなぁ! 恥ずかしくねぇのかよ!?」

デルタ 「何故? 服なら後で着替えればいいことよ…」

ウンディーネ 「こいつ…」

シャール 「…う〜む、もったいない気もしてくる」

ウンディーネ 「あんたなぁ…」

シャール 「い、いえっ! 冗談です!!」

どうにもこいつは、普通の思考を持っていないらしい。
俺は多少不憫に思う。

デルタ 「あなたたちの言っていることはよくわからない…恥ずかしいとか、そういう感情は私たちにはないわ」
デルタ 「生まれたばかりの私たちが教えられたのは戦うことだけだもの…」

烈 「そうか、そりゃそうだよな…あんな奴らが育て親じゃな」

俺は心の中で哀れむ。
これが敵なんだから、何て言うか…。

デルタ 「…哀れみ? そんな物必要ないわよ!!」

殺気を感じる。
デルタは俺にとどめを刺す気のようだった。

烈 (ちっ! 死ぬ時まで馬鹿正直だな俺は!!)

ウンディーネ 「烈ーーー!!」

ウンディーネさんの叫び声が聞こえた瞬間、俺は目を見開いた。

ドスッ!!

ウンディーネ 「ああっ!!」

デルタ 「こ、こいつ…!」

烈 「ウンディーネさん!!」

俺はウンディーネさんの背中を見た。
ウンディーネさんは俺の前に立ち、水の槍で左肩を後ろから貫かれ、俺に覆い被さっていた。

ウンディーネ 「アホか…何やっとんねん!」

烈 「…ウンディーネさん」

ウンディーネさんは俺に喝を入れるように叫ぶ。
そして、デルタの増大する殺気を感じ、俺はハルバードを地面に落として、右拳を握り締める。

デルタ 「今とどめを…!」

烈 「うおおおおおっ!!」

ドオオオオォォンッ!!

直後爆音。

俺の放った爆裂魔法にデルタは後方に吹っ飛び、地面に倒れた。

烈 「ウンディーネさん!」

ウンディーネ 「心配あらへん、これぐらい…っ!」

ウンディーネさんは自分の魔法で自分を癒していた。
俺はデルタを見る。
すでにシャールが倒れているデルタの前に立っていた。

シャール 「……」

烈 「…何考えてんだ?」

シャール 「あっ、いや! そのな…」

俺がシャールの背後に行くと、シャールはうろたえる。
何考えてんだか…。

ウンディーネ 「シャール、烈を頼むで!」

そう言って、ウンディーネさんはデルタに走り寄る。
傷は塞がっているようだった。

シャール 「はいはい…」

シャールが俺の方を向いて水の魔法で治療してくれる。
正直ボロボロにされたからな。
俺はその場にどさっと座り込んだ。



………。



ウンディーネ 「……」

ウチは倒れているデルタに歩み寄った。

ウンディーネ (防御ひとつせんかったんか? 何で…)

デルタは完全に気絶しとった。
仰向けに倒れ、体は砂と灰で包まれてた。
服は上半身部分がほとんど焼け落ちて裸同然。
ウチはそんな姿のデルタを正面から抱きかかえ、砂漠船まで歩いて行く。

シャール 「な、何を!?」

ウンディーネ 「黙っときぃ…服着せたらな」

ウチはまず水魔法でデルタの体を綺麗に洗い流す。
そして、荷物からバスタオルを取り出し、体を拭いてやる。
さらに自分の荷物から上着を取り出し、それを気絶しているデルタに着せてやった。
その後、魔法で治療を済ませるがデルタはすぐに意識を取り戻さなかった。
仕方ないので砂船の後部座席、ウチの隣に寝かせることにした。

ウンディーネ 「さぁ、本来の目的は終わったで! 出発や!!」

ウチは笑顔でそう言った。
ふたりは疲れた顔つきで。

シャール 「仕方ないか、全く…」

烈 「まっ、それがウンディーネさんのいい所だろ?」

シャール 「まぁな…」



こうして、ウチらは目的を果たし、再びアベラムの村に向かった。
ちょうど夕暮れ時になってたので、すぐ宿を予約することにした。



………。
……。
…。



デルタ 「…?」

烈 「おっ、気がついたか?」

デルタ 「あなたたちは! っつ…!」

デルタはウチの隣で上半身を起こし、痛みに耐えるように体を抱えて呻き声を上げた。
まだここから村までは1週間あるからしばらくはこのままやけどな。

ウンディーネ 「無理せん方がええで…魔法で応急処置はしといたけど、火傷がちょっと多いわ」
ウンディーネ 「傷は残らへんと思うけど、痛みは相当あるはずや、動かん方がええ」

デルタ 「…どういうつもり?」

ウンディーネ 「何がや?」

デルタ 「私を助けたことよ!」

デルタは納得できない、といった風に強くそう言った。
まるで殺してくれればよかった…とでも言いたげやな。

ウンディーネ 「…何でやろな? ウチもようわからん」

デルタ 「私は敵なのよっ!?」

大きな声でそう叫ぶ。
ウチはのほほんと流していたが、前の座席から後ろを向いて烈が突っ込む。

烈 「じゃあ、お前は死んだ方がよかったか?」

烈のその台詞を聞いて、デルタは少し悲しそうな顔をする。
頭を俯かせ、体を震わせていた。

デルタ 「わからないわよ…私は、ちょっと前に生み出されて、いきなり戦わされて…」
デルタ 「それが正しいのか間違っているのかもわからないで、ただそれしかできなくて…」

ウンディーネ 「あんたは、何がしたいんや?」

ウチは笑顔でそう訊いた。
デルタはわけがわからないように俯いたままだった。

デルタ 「…そんなこと言われても」

烈 「わからなかったら、見つけりゃいいじゃねぇか」

シャール 「そうそう…人生はまだまだこれから、だろ?」

シャールは運転をしながらそう言う。

デルタ 「……」

デルタは不安そうな顔のまま、何も喋らんかった。
ただ、もう敵意は全く感じへんかった。
この娘は…これからどうするんやろか?
少なくともウチは連れて行くつもりやった。
せやけど、それが正しいかどうかはわからへん。
ウチは隣で不安そうに俯くデルタを見る。

デルタ 「……」

ウンディーネ 「…不安か?」

ウチはあえて聞いた。
デルタは答えへんかった。
不安は持ってるはずや。
せやけど、どうしたらええのかわからへん。
せめて、目的でも見つかればええんやけどな。

烈 「しっかし…これから1週間とは長いよなぁ」

シャール 「魔石は…まだ持つはずだ、村までの分として多めには買ってある」

ウンディーネ 「このまま何もなければ楽何やがな」

この状態でまた同じように襲われたら色々大変や。
正直疲労してる。
ダメージはありありやからな。

デルタ 「…誰も来ないわ」

デルタがそう言う。
俯いたままやったが、全員が聞こえていたようや。

烈 「根拠は…あるのか? って、『敵だった』からわかるのか…」

あえて、烈は『だった』と付け加えてくれる。
烈らしい配慮やな、まぁデルタもまんざらやなさそうや。

シャール 「ちなみに、一応理由だけでも教えてくれるか。何で来ないんだ?」

デルタ 「…手が足りないもの。来れるわけないわ」
デルタ 「例え来れたとしても、大した戦力は投入できないでしょうね」

シャール 「ふむ、なら安心していいということか」

烈 「ちなみに、他の十騎士とかもお前と同じように変な遮断能力を持ってるのか?」

烈が後ろを向いてそう言う。
遮断能力…エレメント・ガードやな。
デルタは顔を少し上げて。

デルタ 「…持っているわ、恐らく全員」
デルタ 「例外もあるけど…時の属性はありとあらゆる属性を無効化できるから、エレメント・ガードを持つ必要がないの」

ウンディーネ 「せやな、時の属性は時の属性で打ち消し合うんやから、封じることはできへんっちゅうわけや」

でなきゃ、ドグラティスを倒せるわけがあらへん。
まぁ、どっちにしても厄介な能力やで、エレメント・ガードは。

烈 「ならさ、弱点とかってあるのか?」

単刀直入やな…。
デルタはさほど考えるまもなく答える。

デルタ 「あえて言うなら、同じ属性じゃないと防げないこと…更に言うなら、エレメント・ガードを身に付けると、他の属性の恩恵が全く受けられないということ」

ウンディーネ 「…どゆこと?」

ちょっとわからへんかった…。
うちがそう言うと、デルタは解説してくれる。

デルタ 「つまり…私は他の属性の魔法は使えない。そして、なおかつ影響も受けない」
デルタ 「『水』と言う属性のみ恩恵を受けるから、回復魔法や補助魔法だと『水』以外では受けられなくなってしまう」

ウンディーネ 「せやったら、ウチと同じ水の属性やないと、回復できへんってことか」

デルタ 「そう。弱点と言えばそれが弱点になるわ」

烈 「う〜ん、でも対策にはならなさそうだな。もっと破る方法とかないのか?」

更に核心を求めて烈が聞く。
デルタは少し考え。

デルタ 「…わからない。破る方法があるにはあるらしいけど、詳しくは聞かされていない」
デルタ (ラムダみたく、頭のいい者なら知っているのだろうけど)

シャール 「まぁ、わからない物は考えても仕方ない」

ウンディーネ 「せやな、今は村にたどり着くことを考えた方がええわ」

シャール 「あと1週間かかりますってば…」

シャールが釘を刺す。
わかっとるがな…それ位。

デルタ 「…ところで、私をこれからどうするつもり?」

烈 「どうするって…仲間になるんじゃないのか?」

烈はあっけらかんと答える。
デルタはキョトンとしていた。

ウンディーネ 「別にどうするつもりあらへんけど、できれば一緒にいてもらうで?」
ウンディーネ 「拘束する気はないけど、逃げようとしたらさすがに捕まえるから」

デルタ 「…逃げても、行く所なんてない」

烈 「だろうな、今更戻っても処分されるのがオチだ」

シャール 「それは酷いな…」

烈 「ゼイラムとかには、そう言った感情がないからな。人を物としか見てねぇ」

烈の言葉を聞いて、デルタはびくっ、と反応する。
死ぬのは怖い、それは誰だって同じ。

ウンディーネ 「心配せんでええで、ウチらはデルタを苦しめたりはせぇへんよ」

シャール 「まぁ、そういうことだ。安心してくれお嬢さん♪」

烈 「お前は、そのナンパ癖どうにかした方がいいぞ?」

シャール 「性分だ、別にいいだろ…」

デルタ 「…?」

ウンディーネ 「気にせんでええよ…無視しとき」

ウチは笑ってデルタにそう教えたる。
すると、前の座席のふたりは。

シャール 「酷い言われ様だ…」

烈 「俺は違うのに…」



………。
……。
…。



そして、時間は暗くなり、夜になる。
段々と寒さが増し、さすがに薄着やときつくなってくる。

デルタ 「……」

横で座ってるデルタが身震いする。
そら寒いやろ、肌着の上に寝巻きを着せただけやからな。
ウチは自分の毛布をデルタに被せてやる。

デルタ 「…?」

ウンディーネ 「気にせんとき、砂漠の夜は寒いで」

ウチはそう言って、少しその場で横になる。
と言っても、座席は狭いのでドアに持たれかかる形になる。

デルタ 「……」

デルタは毛布に包まり、震えていた。
ウチはデルタを引き寄せる。

デルタ 「!?」

ウンディーネ 「ほらほら…こっちに来ぃ、ふたり寄り添った方が暖かいで」

ウチはそう言ってデルタと一緒の毛布に包まる。
デルタは何も言わなかった。
悪い気分ではないのだろう。

ウンディーネ 「このまま眠っとき、まだ先は長いから」

デルタ 「……」

デルタは何も言わずに目を閉じて眠った。
可愛い娘やな…孤児院の子供たちを思い出すわ。
帰り際に寄っていってもええかもな。
そんなことを思いながら、ウチも目を閉じる。
すぐに眠気は襲ってくる。
さすがに…疲れたわ。



………。



烈 「おい、代わろうか?」

しばらくして、烈がそう言ってくる。

シャール 「いや、いいからお前も眠っておけ」
シャール 「お前の方がダメージも大きい分疲れているだろ」

烈 「ん…じゃあ任せるぜ?」

シャール 「ああ」

俺がそう言うと、烈は眠り始める。
朝まではこの調子だろう。
次に烈が起きたら代わってもらおう。
先は、まだまだ長い…。





………………。





ココハドコ…?
ドウシテ、ワタシハココニイルノ…?

サムイヨ…カラダガコゴエル。
ドウシテダレモタスケテクレナイノ?
ワタシハヒトリナノ?

イクトコロガナイノ…。

ヒトリハ…サミシイヨ。





………………。





デルタ 「…?」

目が覚めると、朝日が目の前に感じる。
まだ少し肌寒く、私は毛布を握り締める。
そして、すぐ隣で安らかな呼吸を感じる。
言わずと知れたウンディーネ、さんだ。

ウンディーネ 「……」

安心しきっている。
私が敵だとは少しも思っていない。
実際もう私はどうするつもりもないけど、ここまで信頼されているとは思ってなかった。

デルタ 「……」

どうしてあんな夢を見たんだろう?
裸のまま、ひとりで座り込んで助けを待つ夢。
自分から動くことはなく、ただ待つことしかできない。
あんなにくっきりと記憶に残る夢は初めてだった。
私はにわかに寒気を感じる。
その時、ウンディーネさんが私を引き寄せる。
振り向くが、ウンディーネさんは眠ったままだった。
無意識に私を引き寄せたんだ。
私は少しだけ…安心した。
ウンディーネさんの温もりが、酷く嬉しかった。
私の帰る場所…あるのかな?
例え言葉にしなくても、ウンディーネさんの私を包む手が肯定してくる気がした。
私はこの時思った。

デルタ (自分で待つだけじゃ…何も得られない)



…To be continued




次回予告

シャール:戦いが終わり、アベラムの村に着いた俺たち。
そこで、例によって俺はデルタと一緒に村を見回った。
デルタは戸惑うが、次第にその心が打ち解けていく…気がする。
そして、俺は次第に自分の将来に不安を感じていき、一大決心を決意した!

次回 Eternal Fantasia

第27話 「ありがとう」

シャール 「笑えるってことは、いいもんだ」




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