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第30話 「涙を越えて…」




ディオ王子と別れてから、3日程…。
南へひたすら歩き続け、深い森を越えていった。
途中、モンスターに襲われながらも、私たちはついに火の祠の前に立つことができた。
火の祠…『火甲ヴァルキリー』が眠る神聖な場所。
入り口は、ボロボロの崩れかけた祠で、どうやら下に降っていく祠のようだ。

ナル 「ここが火の祠」

ジン 「暑くねぇか? なんか、やたらと熱気を感じる」

サラマ 「…祠からかなりの熱量を感じるな」

ふたりの言葉はもっともだった。
今、入り口の前に居るが凄まじい熱量が私たちを熱していた。
体感温度で、45度前後はあるだろう。
炎の加護を受けている私や兄さんはともかく、ジンにはかなり苦しそうだった。

ナル 「行きましょう…時間が惜しいわ」

ジン 「だな…じっとしているよりかマシだろうぜ」

サラマ 「よし、十分に気をつけるんだぞ!」

私たちは頷き合うと、祠の中に入っていく。



………。



ゴオオッ!!

ジン 「あちちっ!」

祠の中に入り、私たちはどんどん下へ降っていった。
そして、光が差さなくなってきた位の頃で、前に足を踏み出した瞬間、私たちの目の前に炎が巻き起こった。

サラマ 「…すさまじい炎だ」

ジン 「おい…やばかねぇか?」

ジンは右手をぶんぶん振って熱さを飛ばそうとする。
ちょっと触ったくらいだったのだろうけど、凄い炎だわ…。
このまま何も考えずに進むのは、辛そうね。

ナル 「私、炎の精霊と話をしてみるわ…」

サラマ 「……」
ジン 「……」
ふたりは何も言わずに頷く。
私はそれを確認すると、立ったまま目を瞑り、瞑想状態に入って精霊の声を聞く。



………。
……。
…。



精霊 (…あなたは、ここへ何しに来たの?)

1分ほど経った頃、声がようやく聞こえた。
小さな少女のような声…恐らくこの祠に済む『精霊』だろう。

ナル (『火甲ヴァルキリー』の力を借りに…)

精霊 (あなたは、何故その力を欲するの?)

私が正直に答え、精霊が再び問う。
私は、包み隠すことなく、正直な心をさらけ出す。
精霊に隠し事はタブーだからね…

ナル (世界が、危機にさらされています。それを打ち破るため、ヴァルキリー様の力添えが必要なのです!)

精霊 (…この先には3つの試練があります)
精霊 (あなたは3人の力を合わせ、その試練を越えてみなさい)
精霊 (そうすれば…おのずと答えは出るでしょう)

そう言うと、精霊の声は遠ざかった。

サラマ 「どうだ?」

ナル 「3つの試練があるそうだわ」

サラマ 「試練か…」

ナル 「兄さん…ジン。力を貸して」

私は改めて、ふたりにそう訊く。

サラマ 「可愛い妹の頼みなら断れんな」

ナル 「お世辞をありがとう…」

ジン 「へっ、今更水臭いぜっ」

ナル 「もしかしたら死ぬかもしれないわよ?」

ジン 「こんな所でびびってたら、ディオに笑われちまわぁ」

私たちは3人の気持ちを確認し、先に進む決意を固めた。



サラマ 「…この炎の中を突き進まねばならんのか」

ナル 「…行きましょう」

ジン 「ああ、ぐずぐずしてられねぇ」

私たちはシールドを張りながら、炎の中を突き進む。

ナル 「く…」

サラマ 「それでも熱気は感じるな」

ジン 「俺が風で涼しくしてやるよ…」

ヒュウウウウッ…

ジンは魔法で私たちの周りだけに、小さな風を起こした。

ナル 「少しはマシになったわね」

サラマ 「さぁ、急ごう」

私たちはどんどん下に続いている炎の道を、数分間に渡って走り抜けた。


ジン 「あれが第1関門か?」

サラマ 「だろうな…」

ナル 「…走ったから、体力を消耗したわ…それに、酸素も…」

私たちは炎に酸素を奪われてしまい、酸欠状態になっていた。
ただでさえ、酸素が少ない地下で、いきなりピンチだった。

ジン 「…風を起こして、少しはマシつっても…きついわな」

サラマ 「…休む暇もないというわけだ」

ナル 「この先は…?」

広い部屋に出たかと思うと、なんと、溶岩の溜まり場だった。
目の前に道は無く、下に数10メートルの穴。
100メートル程前を見ると、次の通路が見えていた。
まさに、空でも飛ばなければ進めない。
ジン 「俺の出番だな…つかまれよ」

ジンは両手を差し出して、そう言った。

サラマ 「いけるか…3人で?」

ジン 「ちっときついが…なんとかならぁな」

そう言って、私たちが手を差し伸べた時。

声 「そこまでよ!」

ナル 「!?」

聞き覚えのある声。
そう、これは…あの時の。

ナル 「何者なのっ!?」

私がそう叫ぶと、私たちの来た方向から足音が聞こえる。

ジン 「女…?」

サラマ 「刺客かっ」

見ると、こげ茶色の長髪で、左眼が隠れており、腰の下までストレートに髪が伸びていた。
服装は茶色のシャツに朱色のジーンズを着ていた。

女 「私は新十騎士の炎のガンマ…」

ナル 「新…十騎士!?」

ガンマ 「…そう、ドグラティス様により新たに生み出された完全な邪獣」

サラマ 「…ここでやる気か?」

ガンマ 「お前たちにヴァルキリーを渡すわけにはいかんのでな」

ガンマは低い声でそう言って、周りに精霊を集める。

サラマ 「ジンっ、ナルを連れて先にいけ!!」

ジン 「そう言うと思ったぜ! 任しとけっ」

普通こういう場面では、『何でだよっ!?』とか言うのが普通なのだが。
それだけ、互いが信用できる証なのだろう。
ジンは私の腕を掴んで一目散に向こう岸まで飛び去った。

ガンマ 「ちぃ! 足止めをする気か!!」

サラマ 「ここから先は死んでもいかせん!!」

ガンマ 「ええい!」



私は後ろを振り向かず、前だけを見た。
振り返れば、ジンに引っぱたかれそうな気がしたから。
私は兄さんを信じた。

ジン 「そうだ…ナルさん。サラマを信じてやればいいんだ」
ジン 「あいつは、ナルさんに信じてもらえることが何より嬉しいんだから」

ナル 「うん…」

私はふたりで駆け抜ける。
後ひとつ試練があるはず。

そして、細い道を抜けると、また広い部屋に出た。
先の通路は見つからない。
ここがゴールなのだろうか?

ジン 「…風が吹き抜けている?」

ナル 「ジン?」

ジン 「…ここか?」

ジンが壁の岩に触れると、何とそこから風の音が聞こえる。

ナル 「この先に部屋があるのかしら…?」

私はその岩を軽く叩く…。

コンコン…

ナル 「あれ?」

トントン…
コンコン…

叩く場所で音が違う。
私はもしやと思うと、その岩を全力で叩いた。

ゴゴゴゴゴ…

すると、その岩は簡単に崩れた。

ジン 「どうなってんだ?」

ナル 「雲母の層よ…」

ジン 「なんだそりゃ?」

ナル 「見た目は大きな岩の層に見えるけど、叩けば簡単に壊れる層だとでも思えばいいわ」
ナル 「見分け方は、叩いた時の音よ」

ジン 「なるほど、わかりやすい…」

そして、先を見ると目的の物が飾られていた。

ナル 「これが…ヴァルキリー」

私が近寄ろうとすると…。

ガンマ 「そうはさせないわ!!」

ジン 「なっ!? もう追いついたのか?」

ナル 「兄さんは…?」

私は最悪の事態を想像してしまう。

ガンマ 「ふっ…私が生かしておく思うのか?」

その言葉を聞いた途端、ジンが私を部屋に突き飛ばす。

ナル 「ジンっ!?」

ジン 「早く、ヴァルキリーを取れ!! 俺が抑える!!」
ジン 「迷うな!! 絶対に!!」

ジンは後ろを見ずにそう叫んだ。

ガンマ 「愚かな! 貴様も死にたいのかっ!?」

ジン 「部屋には近づけさせないぜ!!」

ガンマ 「くっ、何を考えている!!」

ナル 「ジンっ! 兄さんっ!」

私はヴァルキリーを手にとり、それを利き腕に装備する。

ナル (ヴァルキリー様…力を貸して!!)

私がそう思うと、女性の声が響く。

ヴァルキリー (汝…我が力を、何に使う?)

ナル (世界を…ううんっ! 仲間を助けたいのですっ!!)

ヴァルキリー (…では、その命をかけることが出来ますか?)

ナル (えっ!?)

突然の質問に私はうろたえる。

ヴァルキリー (どうなのです?)

ナル (………)
ナル (かけられません)

私は正直にそう言った。
私は死にたくはない…。
今を生き延びることが出来ても、その後すぐに死が待っているのなら、意味がない。
私は…未来を生きたいから。

ヴァルキリー (汝の心、しかと受け取った…! さぁ、自分の信じる道に我を振るうがよい!!)

ナル 「ヴァルキリー様…」

ヴァルキリーから光が放たれると、私の中に光は吸い込まれていった。
そして、感じた。
溢れる力を。
私は後ろを振り向く。


ガンマ 「ちぃ…間に合わなかったか」

ナル 「ジンっ!!」

私はジンの元に駆けつける。

ジン 「………」

ナル 「待たせたわね! もう大丈夫よ!!」

ジン (ああ…よくやったな)

ナル 「……?」

ジン (どうしたんだ? 俺の顔に何かついてるのか?)

ナル 「嘘、立ったまま…」

ジン (何だ? 何のことだ?)

ガンマ 「ふ…愚かな奴だ」

ナル 「…う、うう……」

ジン (ナルさん…泣くなよ。ただ死んだわけじゃねぇんだ…)

ナル 「ジンーーーっ!!」

私の絶叫が祠に鳴り響いた。

ガンマ 「お前も…後を追わせてやる!!」

ナル 「うわああああああっっっ!!」

私は右腕に全てを込めて打ち抜いた。

ゴオアアアアアッッッ!!

ガンマ 「な、何ぃ!? 何だこの力は!! これが…ヴァルキリーの力なのか!?」

炎は龍の姿となり、ガンマの体を覆い尽くす。

ガンマ 「バカなっ!! 何故…? エレメント・ガードは完璧のはず…!?」

ヴァルキリー (ナルの想いが、あなたの心を封じたのだ)

ガンマ (な、何ぃ…?)

ヴァルキリー (エレメント・ガードは心の壁。だが、強き想いはそれを打ち破る…)

ガンマ 「そ、そんな…っ、ああああああっっっ!!!」

グワアァッ!!
炎は消え、そこには消し炭が残る…。

ナル 「……うう」

私がうなだれていると、頭の中に声が響き渡る。

サラマ (…どうしたナル! こんな所で何をしている?)

ナル 「うう…兄さん……!」

ジン (ほら、泣くなって言ったじゃねぇか…)

ナル 「ジン……」

サラマ (俺たちの死を悲しむな…俺たちはいつでもお前を見ている)

ジン (だから、絶対勝てよ!? 途中で諦めたりしたら、祟ってやるからな?)


………。


ナル 「………」

そうして、声は届かなくなった。
精霊は死ぬ間際、こうして意志を残す。

兄さんと、ジンは…。

ヴァルキリー (決断はできたか?)

ナル 「はい…泣いてばかりいても、進めませんから」

ヴァルキリー (では、行こう…私が置かれていた部屋に隠し通路がある。そこから外に出るのだ)

ナル 「はいっ!!」

私は…歩いた。
ふたりの死を感じながら…。
泣いている自分を叩きながら…。

そして、外の光を見た途端…私は声に出さずに、空を見て…涙した。

………。
……。
…。



ディオ 「嘘だろ…? ジンが死んだのかよ!?」

ナル 「はい…」

ディオ 「そんな…約束だったじゃねぇか!!」

私はそれからまた1週間かけてバルザイル王国に戻った。
国は王子が戻ってきたことにより、国王の死を民に告げ、王子は民に向かい演説をしたそうだ。
民は国王の死を悲しみながらも、王子を称えたのだそうだ…。

ナル 「…王子、私はもうここを離れなければなりません」

ディオ 「何言ってんだよ! 俺も戦うってジンと約束したろ!?」

ナル 「え…?」

ディオ 「俺も着いて行く! そして、邪神の野郎をぶっ飛ばす!!」

兵士 「王子…これを」

突然、兵士が大体3人がかりでひとつの巨大な斧を持ってきた。

とてつもない大きさで、長さは3メートル程、刃の大きさは直径1メートルはある巨大な斧だった。
だけど、王子はそれを片手で持ち、肩に担いだ。

ナル 「その斧は…?」

ディオ 「ああ、これはこの国に代々伝わる炎の斧。炎斧バルカンだ!!」
ディオ 「親父の物を…俺が継いだんだ」

ナル 「そうだったのですか…」

兵士 「どうかお気をつけて…王子がいない間は我々がここを守ります!!」

ディオ 「ああ、頼んだぜ! 俺が邪神の野郎をぶっ飛ばしてくるからよ!!」

ナル 「では、行きましょうか王子」

ディオ 「あっと、それからな…王子って呼ぶのも堅苦しいから止めにしてくれよ。ディオでいいからさ」

ナル 「わかったわ、それじゃディオ! 行きましょう!!」

ディオ 「おう!!」


こうして、私はディオの協力の下、再びメルビスの町に向かった。
いなくなったふたりの影を心に感じつつ…。



…To be continued



次回予告

セリス:妖精族の住む王国ステア王国。
私はウィル、ルナという、問題児を連れてそこにいた。
聖杖マナを得るために、私たちは病気の王妃に謁見する。


次回 Eternal Fantasia
第31話 「おてんば王女」


セリス 「おてんばなほど可愛いものよ♪」



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