最終話 「今との別れ、そして…明日との出会い」
ドクン…
ドクン…
ドクン…
鼓動が聞こえる。
恐らく、レイナには聞こえていない。
俺だけが聞こえる。
レイナ 「…悠?」
レイナが顔を向けずに俺に話し掛ける。
俺はレイナに抱えられながら答える。
悠 「何だ?」
レイナ 「…この先に、邪神がいるんだよね」
心なしか、怯えているように聞こえた。
悠 「ああ…そして、これで終わりだ」
俺がそう言うと、レイナは少し強めに頷いた。
………。
……。
…。
いつまで続くのだろう?と思う程の底の深さ。
まさに奈落への穴だ。
だが、それも終わりが見えた。
レイナ 「・………」
悠 「………」
俺はゆっくりとレイナに降ろされ、久しぶりに思う地上に足を下ろす。
やがて、レイナも着地し、少しの間羽を休める。
ここまで飛んできたんだからそりゃ疲れるだろう。
悠 「大丈夫かレイナ?」
レイナは少し深呼吸して。
レイナ 「大丈夫、行こう…」
俺たちは頷きあい、走り出す。
時間がない。外で戦っている仲間のことも気がかりだ。
………。
ゼイラム 「もうすぐだ…もうすぐ、世界が変わる」
ドクン…
ドグラティス 「………」
ドクン…
ゼイラム 「そして、生贄も到着する…」
悠 「!?」
レイナ 「あれは…ゼイラム!!」
光の無い、暗闇の一本道をレイナのパルス感知を頼りに進んできた俺たち。
そして、光が見えた先にはマジックマスター、ゼイラムの後ろ姿が見えた。
ゼイラム 「来たか…待っていたぞ」
悠 「何…?」
ゼイラムはゆっくりとこちらを向き、微笑を浮かべる。
レイナ 「ゼイラム…!」
ゼイラム 「レイナ…呪われた子よ、よく帰ってきた」
レイナ 「黙りなさい! そんなまやかしには私はかからない!!」
レイナ 「私は、強くなった! 今は、大事な物がはっきりと見える!!」
レイナは強くそう言い放った。
だが、ゼイラムは気にした風も無く。
ゼイラム 「ユシルの子よ…よくぞここまで来た。例を言うぞ」
悠 「どういうことだ!」
俺はそう言い返す。
ゼイラム 「お前のおかげで、ドグラティス様が目覚める」
ゼイラムは人を小馬鹿にしたような態度でそう言い放つ。
悠 「例え目覚めようが、俺がまた倒してやるよ!」
俺はオメガを構え、戦闘態勢を取る。
ゼイラム 「できるのか? お前に…」
ゼイラムはなおも笑いながらそう言い放つ。
何だ?
何でこんなに余裕を持ってやがる?
何か、嫌な予感はする。
ゼイラム 「お前に…殺せるのか? 自分の母を」
悠&レイナ 「!?」
俺とレイナは絶句する。
悠 「何のことだ!?」
俺は少しながら焦っていた。
ゼイラム 「まだわからんのか? ドグラティス様のことを…ならば説明してやろう」
ゼイラム 「300年前の戦争の結果、ドグラティス様は体を5つに分断され、封印された」
ゼイラム 「レギル以外のそれぞれの大陸にひとつずつな…」
悠 「レギル以外…?」
ゼイラム 「レギルには、ドグラティス様のコアが存在するのだ」
レイナ 「それは…?」
ゼイラム 「それが、貴様の母だ…名は、奇稲田 悠喜と言ったか?」
俺の母さんの名前…。
悠 「貴様ぁ! まさか母さんを!?」
ゼイラム 「ククク…そうだ、今はドグラティス様の体の中だ。救出ももうできん」
ゼイラムは明らかにこちらを挑発するつもりで高らかに笑い出す。
だが、俺はそんな作戦には乗らなかった。
悠 「そうかよ…なら、さっさとてめぇと邪神を倒さないとな…」
俺は怒りを静め、母の悲しみを感じた。
俺にはわかる…俺が望まれた子でなくても。
俺には母さんのことがわかる…。
多分、ユシルさんのおかげで。
俺は力を引き出す。
白い光と共に、3対の翼が俺の背中に姿を現す。
レイナ 「悠…!」
ゼイラム 「…く!」
悠 「行くぞゼイラム!!」
ゼイラム 「死ね、ユシルの子よ!!」
ゼイラムは全力で魔力の塊を放ってくる。
とてつもない力だが、俺の前には無力だ。
その力は俺に届く前に時の壁によって消え去る。
ゼイラム 「!?」
悠 「終わりだ…!」
俺は上段にソードモードのオメガで切り裂く。
ゼイラムは防御することなくその場に切り捨てられた。
ゼイラム 「またしても…何故だ!? 何故…母に逆らう!?」
ゼイラム 「貴様らは…!!」
ドシュウウウウゥゥゥ!!
ゼイラムの体から黒い煙が噴出すと共に、その体は消滅する。
悠 「次は…!!」
俺はドグラティスに向かう。
ドグラティスの姿は凶々しいと言う言葉がよく似合う。
地上からそのまま更に地下に、まさに地球に根を張っているように聳え立っていた。
大きさはおよそ20メートル。
下半身以外は女性の姿で、根を張っている下半身には触手が数え切れないほどあった。
そして、背中に俺と同じように3対の翼があり、その翼は黒い光で輝いていた。
上半身の肌は特殊な皮膚のような物で覆われていた。
黒髪に長髪。肌も人とほぼ同じだった。
ドグラティスはまだ目覚めていないのか目を瞑っている。
顔だけ見たら、美人だけどね…。
レイナ 「悠! 気をつけて!!」
俺はレイナの言葉を胸に、上空に飛び、ドグラティスの頭上から剣を振り下ろす。
悠 「くらえーーー!!」
ドグラティス 「!!」
バチィ!!
突然頭に電撃が走り、俺の体が弾かれる。
俺は空中で体勢を立て直す。
馬鹿な…時の壁が破られた!?
見ると、ドグラティスの目が開き、俺を見据える。
直後、俺の体に触手が絡みつく。
レイナ 「悠!!」
悠 「こ、こいつ…なんて力だ!!」
とてつもない力で締め付けてくる。
さすがに神様だけあるよな…。
俺は、後先のことは考えないことにした。
例え俺の体が砕けようと、こいつは倒さなければならない!
悠 「ふんっ!!」
俺は更に力を解放し、触手を引きちぎる。
そして、全力を持って、ドグラティスの胴体を横に薙ぎ払う。
ザシュウウッ!!
ドグラティス 「!!」
ドグラティスは悲鳴を上げることなく、触手を差し向ける。
悠 「同じ手にかかるか!!」
俺はランスモードで触手を全て叩き落す。
ドグラティス 「!!」
ドグラティスは手をこちらに向け、魔力を放出する。
悠 「くっ!!」
ドオオオオオオオンッ!!!
悠 「ぐあっ!!」
俺は魔力を防ぎきれずに、落ちる。
レイナ 「悠ーーー!!」
気が付くと、レイナが光の翼で魔力を俺に放っていた。
悠 「レイナ…?」
レイナ 「悠、聞いて! ドグラティスの、ううん、悠のお母様の声を!!」
悠 「え…?」
レイナが意識を集中して、俺に魔力を送ると、レイナは力を失って地に落ちる。
そして、俺の意識の中に声が響き渡る。
悠 「!?」
? (悠…あなたなのね?)
暖かい声…。
そして、初めて聞く声じゃない気がした。
? (ああ…悠)
体が暖かい光に包まれる。
何なんだ?
悠 (まさか…母さん?)
俺はそう呼ぶ。
悠喜 (悠…よくここまで大きくなりましたね)
悠 (母さん! 本当に母さんなのか!?)
悠喜 (ええ、でも…)
母さんは悲しそうな声で。
悠喜 (もう、お別れしなくてはなりません…)
悠 (え…?)
悠喜 (私の体はドグラティスの中…そして、私が死ねばドグラティスも活動を止めます)
悠 (……)
それはつまり…。
俺は簡単に予想できた。
逆に、他に道がないこともわかった。
悠喜 (悠…私を救って)
悠 (!!)
俺は泣いた…。
折角会えたのに…。
初めて会えたのに…。
俺は母さんを殺さなきゃならない…!
悠喜 (大丈夫です…死ぬのではありません、私は子に救われるのです)
悠 (うう…)
俺は覚悟は決めていた…。
そうしなければ、もっと大変なことになる。
俺のような悲劇は、起こしてはならない…。
ユシルさんのような悲劇は…。
悠 「レイナ! 先に脱出してくれ!!」
俺は強くそう言い放つ。
レイナ 「悠!?」
悠 「早く! ここはもうすぐ崩れることになる…間に合わなくなるぞ!!」
俺はレイナの方を振り向かずに強く言った。
レイナ 「悠、まさか…?」
そして、俺は振り返り笑顔で。
悠 「俺は帰ってくるよ…必ず」
そう言った。
すると、レイナは涙を拭って。
レイナ 「うんっ、私は、信じてるから…」
笑顔でそう言った。
そして、レイナは翼をはためかせ、闇の中に消える。
悠喜 (さぁ、最後の時です…)
悠 「うんっ!!」
俺はドグラティスの頭上に飛び立ち、ソードモードで全ての力をオメガに伝える。
ドグラティスの表情は心なしか悲しそうだった。
俺は迷わずに最後の一撃を放つ。
悠 「メテオ・ブレイカーーー・Ω!!」
時の光が煌き、ドグラティスの体を切り裂く。
そして、その瞬間、俺は…母さんの声を聞いた。
悠喜 (悠…ありがとう)
悠 (これで、母さんは救われたんだよね…)
悠喜 (ええ…本当に、ありがとう)
俺は時の奔流の中で母さんと抱きあっていた。
初めて知る母さんの温もり。
暖かかった。
悠喜 (最後に…お父さんと、あなたの妹のことをお願いね…)
悠喜 (そして、未知にも…ごめんなさいと伝えておいて)
悠 (…母さん!)
意識が現実に戻る。
ドグラティスの体はすでに灰となり、消滅していた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!
地響きと共に、中が崩れる。
このままでは、助からないな。
悠 「ちっ、だけど約束してるからな…」
………。
レイナ 「上が崩れてくる! 急がなきゃ!!」
私は全力で残りの魔力を放出し、城を出た。
邪獣も全ていなくなってる。
ユミリア 「地震…!!」
アリア 「ドグラティスの最後ね…」
マーズ 「…終わりか」
ロード 「……」
レイナ 「はぁ…はぁ…」
ネイ 「レイナ! 無事だったんだね!!」
私が皆の下まで飛ぶと、ネイが私の体を支えてくれる。
ネイ 「悠は!?」
レイナ 「悠は…多分まだ中に」
ネイ 「嘘…!」
ネイは城を見つめる。
城は次第に崩れ去り、やがて全てが海の底に沈んだ。
地震は止み、静寂に場が包まれた。
………。
ユミリア 「終わったわ…」
アリア 「でも、悠君が…」
私は小さく笑い。
ユミリア 「大丈夫よ…その内ひょっこり顔を出すわ、きっと…」
アリア 「ユミリア…強くなったわね」
ユミリア 「ふふ…あの子のおかげね」
ネイ 「悠…」
レイナ 「大丈夫…悠は約束してくれたから」
レイナ 「必ず、帰ってくるって…」
ネイ 「そうだよね…うん」
ウンディーネ 「終わったんか…?」
ウチがその場で座り込んでると、シェイドが歩み寄ってくる。
シェイド 「ああ…終わった」
ウンディーネ 「あははっ、皆ボロボロやな」
ウチが笑うと、シェイドも小さく微笑む。
ウィル 「終わりよーーー!! 勝ったのよーーー!!」
ルナ 「やったやったーーー!!」
ウィル 「これであたしら一躍有名人よ!! もうファンの子なんかが殺到よ!!」
ウンディーネ 「…何も言わんの?」
シェイド 「今日ぐらいは、夢を見させてやる…」
ウチらは、ただ笑った。
シオン 「終わりましたね…ついに」
私はその場に腰掛けて、剣を鞘に収める。
フィリア 「ったく…てこずったもんだな」
フィリア王女は頭を掻いて、やれやれと言った感じでため息をついた。
シオン 「これで、世界に平和が訪れます」
フィリア 「見ろよ…日が沈むぜ」
私たちはふたりでその沈む日を見つめていた。
ナル 「さ〜てと、これでまた復学できるわね」
シャイン 「大学か…私も行くことにするか」
ナル 「でも、向こうじゃ神次よ?」
シャイン 「そうだったな…」
私たちはそんなくだらないやり取りで笑っていた。
ノーム 「……ホントに勝ったのか?」
あまりにも突然すぎて、実感がわかねぇ。
ドリアード 「うん、多分…」
ディオ 「へっ…さすがに疲れたぜ」
ディオはバルカンを地面に放り、その場で大の字になって寝転ぶ。
ノーム 「はははっ、さすがのディオ陛下もお疲れだ」
ドリアード 「ふふ…」
ディオ 「ちぇ…俺は新婚さんと違ってデリケートなんだよ」
そう言って、ディオが冷やかす。
ノーム 「羨ましいのか?」
俺はドリアードを抱き寄せて見せびらかす。
ドリアード 「ちょ、ちょっと…」(赤面)
ディオ 「…だぁー! うるせぇーーー!! 他でやれーーー!!!」
ドラグーン兵 「ロード様、大丈夫ですか?」
ロード 「ああ、気にするな…」
マーズ 「肩を貸してやる…アリアのところだろう?」
俺は微笑み、マーズの肩を借りて、アリアの元に向かう。
アリア 「ロード…大丈夫?」
ロード 「ああ、それよりも…」
俺はゲイボルグを、アリアに差し出す。
アリア 「?」
ロード 「俺はこの有様だ…ゲイボルグを満足に振るえる体じゃあない」
ロード 「もし、この先レイラが現れるようなら、その槍を渡してくれ」
ロード 「調べた限りでは、恐らくレギルのどこかにいる…」
俺はそう言うと、飛竜の元に向かう。
アリア 「ロード…! 私も…」
マーズ 「連れて行ってやれ…最後かもしれん」
ロード 「……わかった、だが、俺の言葉を忘れるなよ?」
アリア 「はい…」
アリアは俺の後ろに座り、俺はそれを確認すると飛竜を羽ばたかせる。
ロード 「では、さらばだ!」
アリア 「ユミリア…元気で」
ユミリア 「ええ、お幸せにね…♪」
私は小さく手を振り、しばらく空を見上げた。
シャール 「さて…俺たちも国へ帰ろう」
デルタ 「うん…」
ガストレイス兵 「船の支度はできております! 全員、乗れます!」
シャール 「うむ…行くかデルタ」
デルタ 「これで、本当に幸せになれるのよね?」
シャール 「ああ、きっとな…」
俺はデルタを抱き寄せ、船に向かう。
シーナ 「姉さん、船を用意してるみたいだから、帰りましょう」
シーナがそう促すと、私は首を振る。
レイナ 「ううん、私はガイアに戻る…」
サリサ 「レイナ様!?」
レイナ 「悠が…約束してくれたから。私も、信じて待ってる」
それを聞くと、シーナはしばし考え。
シーナ 「わかった…国は引き受けたわ」
サリサ 「シーナ様…」
シーナ 「いいの…姉さんは、姉さんの生き方がある…私は口出ししないわ」
氷牙 「サリサ…もう船が出るそうだ」
サリサ 「あ、ええ…」
シーナ 「それじゃあ、さよなら、姉さん…」
レイナ 「ええ…本当にごめんなさい、押し付けたようで」
シーナは小さく微笑み、船に乗り込んでいった。
ネイ 「バルバロイも、こっちに来るの?」
バル 「ああ、他に行く所もないからな…それに、アルファのことがある」
ネイ 「あ、そっか…」
セリス 「私もこっちね…」
ユミリア 「あら、どうして?」
セリス 「先生だけには任せられませんよ」
ユミリア 「あっそ、じゃああの病院あげるわ」
私が気楽にそう言うと。
セリス 「先生!!」
ユミリア 「土地ごとあげるから、好きになさい…」
私はさっさと船室に進んだ。
イフリート 「さて、我々も帰るぞ」
タイタン 「うむ、もう安心だな」
セラフィム 「全く…世話が焼けたわ」
ハーデス 「だが、これでよかったと言うことが証明された」
我々は、それぞれが守護する地に戻った。
残りの守護者たちはそれぞれの大陸で邪神軍と戦っていたらしい。
未知 「また、国に帰るのですね…」
降 「ええ…」
栞 「…仕方ないのです」
美鈴 「でも、未知様が可愛そうです…」
未知 「いいのです…それが、奇稲田の運命なのですから」
私は、ゆっくりとレギル行きの船に乗り込んだ。
………。
マーズ 「さて…俺も行くか」
俺はロードから借りた飛竜にまたがり、自分の故郷を目指す。
マーズ 「もう、戦うこともなくなるか…」
だが、不思議と悪い気分じゃなかった。
生きるのもいいもんだ…。
マーズ (そうだな…ティナ)