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第17話 「狂乱、再び」

ユウ 「……眠ぅ」

俺は重い瞼を擦りながら、目的の場に向かう。
ちなみに今の時刻は朝の5時。
通常、皆さんは夢の世界に逝っている時間だ…。

ユウ 「まだ、日も昇ってねぇよ」

当然だが、まだ夜中。
月すら出ていないのではっきり言って電灯がなければ暗闇である。
俺はとりあえずひとりで大公園に向かった。


………。
……。
…。


ユウ 「おお…」

公園に着き、皆のいるであろう場所に着くと、俺は感嘆の声をあげる。
夜だと言うのに、俺は見とれてしまった。
小さな明かりに彩られて、桜が見える。
別に仕掛けたわけでも何でもない、ただそれが自然な姿だった。

ユミリア 「来たわね、ユウ君。こっちよ…もう皆来てるわ」

俺が着くと同時にユミリアさんが出迎えてくれる。
どうやら、皆揃っているようだった。


………。


ガイ 「おお! 来たかぁ! よっしゃあ飲め飲め!!」

ガイは茣蓙に座ったまま、一升瓶を片手に俺を手招きする。

ユウ 「もう出来上がってんのか…?」

俺はその場で立ち尽くす。
ふと去年の悪夢が蘇る。

レイナ 「?」

俺はレイナを見て緊張が解ける。
どうやら『まだ』大丈夫なようだ。

ユミリア 「大丈夫よ♪ レイナには『まだ』飲ませてないから」

ユウ 「ま・だ?」

俺がそう問い詰めると、ユミリアさんは小悪魔のような笑みを浮かべ。

ユミリア 「まぁ、お楽しみは後にとっておく物よ〜♪」

ユウ 「ちょ! 何考えてんすか!?」

俺は叫ぶもユミリアさんには届かないご様子。
あちらも出来上がっているようだ。

ミル 「ユウ、何突っ立てるの? 座ればいいのに」

ミルがコップを片手にそう指示する。
どうやら茣蓙は2つあって、レイナたち女性グループ、ガイたち男性グループで分けられているようだ。
ちなみにミルの隣にはピノが顔を赤らめながらコップを両手で持っている。

ユウ 「ガイに絡まれそうだからやめておく」

俺はそう言い放つ。

ガイ 「んだよ〜、付き合い悪ぃな…おう、ジョグ飲んでるか!?」

俺が反応しないので今度はジョグに絡むガイ。
酒癖悪ぃな…。

ジョグ 「おお! 飲みまくりや!! じゃんじゃんこんかい!!」

ジョグは何と一升瓶を両手に2本持って、同時にがぶ飲みしている。
こいつは強すぎだ…。


ジェイク 「………」

ポール 「……」

見ると、このふたりは黙々と、コップの飲み物をちびちびと飲んでいる。
クールな奴らだ…それともこれで酔っているのか?

ユウ 「そうそう、クールと言えばバルは…?」

俺はバルの姿を探す。だが見当たらない。

ユウ 「あれ? 来てないのか?」

レイナ 「バルバロイなら、そこの樹の側に」

レイナが根城の樹を指差すと、その先にはバルがいた。
去年同様、酔っているのかどうかわからない無表情で黙々と飲んでいる。
…酔ってるんだろうな。

ユウ 「ありゃ、そういえば1番賑やかなおふたりは?」

俺はウィルさんとルナさんの事を聞く。

エイリィ 「専門部の研修に行ってるわ…春休み中はこの街にいないわよ」

レイナの隣にいたエイリィがそう答える。

ユウ 「ああ、そうか…そういえば」

うちの専門部は春休みに毎年研修旅行がある。
一応研修だが、内容は結構ただの旅行らしい。
今年はどこなんだろうな?
聞いた話だと去年はディラールだったそうだが。

ユウ (エイリィも冷静に飲んでるな…実は酒じゃなかったり)

俺はエイリィが普通に飲んでいる姿を見てそう考える。
少なくともレイナが飲んでいて大丈夫なのだから…。

レイナ 「これ、本当にお酒なの?」

唐突にレイナがエイリィにそう尋ねる。

エイリィ 「らしいわよ…ユミリアさんの特別配合だそうだけど」

レイナ 「…何だか、よくわからないけど、普通の水と違うのかな?」

エイリィ 「味はほとんどないわね」

どうやら、特別配合のようで。
レイナ用に改造?
どうやら対策はあるようで。

ユウ 「俺はさらに脱力してその場で項垂れる。

ユミリア 「いい加減に座ったら?」

ぽんと後ろから肩を叩かれる。
俺は覚悟を決めて茣蓙に座った。

ガイ 「何でそっちなんじゃー!?」

俺がレイナたちの方の茣蓙に座ると、ガイが不満そうに声をあげる。

ユウ 「俺は絡み酒は趣味じゃない」

そう切って落とす。
俺はレイナたちの方に向き直り、酒(特殊配合)を注いでもらう。

ユウ 「……ん、確かに味ないな」

レイナ 「でしょ? 普通の水だったり」

ユウ 「プラセボってやつか…?」

レイナ 「思い込むとそうなる…」

結局ただの水とどう違うのかはわからなかった。

エイリィ 「…まぁ気にしない方がいいのかもね」

ユウ 「…ふむ」

俺はとりあえず納得して、宴を楽しむことにした。



………。
……。
…。



ユウ 「おっ? 日が昇るぜ…」

見ると、時刻も丁度朝。
公園に太陽の光が差し込んできた。

レイナ 「…わぁ」

皆が感嘆の声をあげる。
なかなかいい演出だ。


ガイ 「イッキ! イッキ! イッキ!」

ジョグ 「んが〜〜〜〜〜〜!!!」

…こいつらは情緒ってもんがないのか。

ユミリア 「こら、イッキ飲みは危ないから止めなさい」

ユミリアさんがそう注意する。
というよりも未成年に酒を勧める時点でダメなんだが…。
よくこれで医者が勤まるな。

ユウ 「ま、今年はマシか…」

レイナ 「何が?」

ユウ 「去年に比べればな…」

レイナ 「さりげなく酷いこと言ってるね…」

ユウ 「ん…待てよ去年?」

俺はそこで引っかかる。
何かを忘れているような…?

ユウ 「あ…ノーム、ドリアードは? 確か去年結界の外で立ち往生してたろ!?」

レイナ 「ああ、今日はふたりは来てないわよ。さすがに断ったらしいわ」

去年のあの結果を目の当たりにすればわかる気がする。

ユウ 「…そういえばレイラは? 今年は初めてだろうに」

まだひとり足りないことに気づいた俺は、そう尋ねる。

レイナ 「レイラはアリアさんと一緒にドラグーンに帰ってるわ。ミリアに一度は見せておきたいって」

ユウ 「がぼっ!!」

レイナ 「きゃ、ど、どうしたの!?」

俺はそれを聞いて思いっきり噴出す。
い・ち・ば・ん・大切な人を忘れていた!!

ユウ 「すまん! ちょっと戻る!!」

レイナ 「え? え?」

突然のことに戸惑うレイナを尻目に俺は駆け出す。
とりあえず寮だ!!



………。



ユウ 「って、俺が女子寮に入れるわけない…」

俺はここまで来て立ち往生する。
しかしよもや自分の妻を忘れるとは…。
俺は自分の馬鹿さ加減に腹を立てるのも通り越して呆れていた。

ユウ 「っていうか、待ち合わせしてたよな? でもいない…」
ユウ 「ネイは公園のことぐらい知ってる。でもいない…」

俺は色々考えてみる。

ユウ 「ユシルは……うぐっ、そういうことか!!」

俺はユシルの存在を思い出す。
確か俺たちが在学中、ユシルはユミリアさんが預かってる!
俺は急いで学校に向かった。
ユミリアさんは住み込みで学校に通ってるから。ユシルもユミリアさんの寝室にいるはず。
俺は全力で駆けた。



………。



ユウ 「すばらしいぞ、ここまでで5分。漫画なら2コマだ…」

俺は学校に入る。
通常、この時間は入れないのだが、ユミリアさんとアリアさん専用の通路がある。
俺とネイは特別にキーを貰っているので、自由に出入りが可能だ。
俺は鍵を開けて中に入る。

ユウ 「それでも一応見つからないように…」

俺は気配を消して、保健室まで向かう。
ユミリアさんは保健室に寝室も兼ねているからわかりやすい。

ユウ 「あ、いた…おーいネイ」

俺はできるだけ小声でネイを呼ぶ。
まだ誰もいないせいか、声がよく響いた。

ネイ 「あ、ユウ! 大変なのよ!」

ネイが慌てて俺の側に寄る。

ユウ 「どうしたんだ?」

ネイ 「ユウが待ち合わせにこないから、どうせ忘れてたんだろうって思って…」

ごめんなさい…作者の策略なんです。

ネイ 「仕方がないから、ユシルを迎えに言ったんだけど…いないのよ!」

ユウ 「…マジデ?」

俺は低い声でそう聞き返す。

ネイ 「エイプリルフールはまだ先よ!」

ネイは顔を青ざめながらそう言い放つ。

ユウ 「と、とにかく…公園に行こう! 皆に協力してもらおう」

ネイ 「う、うん!」

俺たちは全速力で公園に向かった。
よもやこんな自体が起きようとは。
まさか、敵が…?
不意に嫌な予感が的中する。
あの事件から、しばらく戦いなんてなかったからすっかり緊張感がなかった。
おっさんは動かなくても、その仲間は別か…!



………。
……。
…。



ユウ 「よし、着いたぞ!」

ネイ 「…な、何か騒がしくない?」

俺はそこで足が不意に止まる。
嫌な音が聞こえる。


ズドーーーーーンッ!!
ズガァァァアァァァンッ!!!

ネイ 「ば、爆発音…まさか?」

俺たちは発信源の方に静かに向かう。
何故だか、急ぐ気にならなかった。

ズバアアアアァァァァンッ!!!

ミル 「やぁん!」

ピノ 「う、うわぁ!!」

ガイ 「だぁー! 勘弁してくれ!!」

ジョグ 「か、堪忍や!! ワイは無実や!!」

その場にいる全員がひとりの少女を中心に逃げ惑っている。(一部例外を除いて)

ユウ 「………」
ネイ 「………」


俺たちふたりは立ち尽くした。
何故だか、それ以上先には行ってはいけない気がしたから。


レイナ 「くくく…怖いのか? なら逃げ惑え!! その方が狩りがいがある!!」

ガイ 「バル! あぶねぇぞ! 離れろ!!」

バル 「…俺のことは桜の一部だとでも思え」

ジョグ 「あほかーーー!! いつまで酔っとんねん!!」

さすがに皆酔いが吹っ飛んだようだな。

ネイ 「あ…」

ユウ 「ん…?」

俺はふとネイがある場所に視線を向けていることに気づいた。
そこは桜の木の下…バルの膝の上。

ネイ 「ユシル!?」
ユウ 「ユシル!?」

俺たちは駆け出した。
ネイはユシルを。
俺はレイナを止める!


ユウ 「悪く思うなよ…息子のためだ! 覚悟しろレイナ!!」

俺はレイナに向かって一直線に突っ込む。
少しでもネイへの関心を遠ざけるためだ。

レイナ 「くくく…また獲物が来たか」

ユウ 「たっ!!」

俺はレイナの顔面めがけて蹴りを放つ。
だが、それはあっさりと空を切る。

ユウ 「く…早い!?」

それは俺の知っているレイナの速度ではなかった。
酒飲むと強くなるのか!?

ユウ 「ぐぅ!!」

レイナは俺の腹部めがけて、拳を振るう。
その拳は魔力を帯び、通常のそれとは威力は比較にならなかった。
だが俺は咄嗟に防御し、後ろに吹き飛ぶ。

ユウ 「ちぃ…仕方ねぇな。ちと荒業だが、手加減はいらねぇな!!」

俺はネイが無事にユシルを回収したのを確認する。
全員、離れているようだ。
バルは…もう知らん!
俺は魔力と気力を拳に宿し、レイナに向かって無防備に突っ込む。

レイナ 「ふんっ!!」

レイナは俺のがら空きの顔面に拳を叩き込む。
だが、それは俺の注文通り。

レイナ 「!?」

来るのがわかっている拳に倒れはしない。
俺はレイナの腹部めがけて軽く拳を振るう。
軽くてもスピードはある、当てることは可能だ。
無論狙いは、リバー!!

トスッ!

そんな軽い音を上げてレイナの肝臓に俺の拳がめり込む。

レイナ 「がはっ!!」

直後、レイナはその場に倒れる。
効いたようだな。

ユウ 「ふう…」

俺は汗を拭い、レイナを抱える。
レイナは軽く嘔吐して酒を吐き出していた。
直接肝臓狙ったからな、軽くても魔力と気力を込めてるから内部への炸裂度はある。

レイナ 「うう…」

ユウ 「ったく、世話かけさせやがって…」



………。
……。
…。



そして、どうにか片付けも終わり、人段落が着いた頃。

ユミリア 「はぁ…また大目玉かしら?」

エイリィ 「当然ですよ…」

ユミリア 「もう! 何でこうなるのよ〜!!」

頭を抱えながらユミリアさんはしぶしぶと歩き出した。
また自警団に説教かな?
来年はもう無さそうだ。


ガイ 「こう言う時期はまだ可愛いのぉ」

ミル 「本当…でも、あの騒ぎでずっと寝てるなんて、肝っ玉が座ってるわね」

ネイ 「…本当に、何で気づかなかったんだろう?」

いつのまにかユシルを抱いているネイの周りに人が集まっていた。
皆はすでに知っているはずなので、珍しい物でもないと思うが。

ユウ 「…気絶してるんじゃないよな?」

俺がそう言うと、全員がはっとなってユシルを注目する。

ユシル 「すー……」

全員が同時にため息を吐く。

ネイ 「もう…そう言う怖いこと言わないでよ」

ユウ 「はは、悪ぃ…」

俺は苦笑しながら、頭を掻いた。

ユウ 「そういえば、結局何でレイナは暴走したんだ?」

ジェイク 「ジョグが間違って瓶を入れ替えたんだ…」

ジョグ 「…あ、いや、その…まぁ、これもええ経験や!!」

ポール 「自業自得や…自分で何とかせえよ」

ポールはそういうとひとりで帰っていった。

ジェイク 「俺も帰る、またな」

ガイ 「じゃ俺も…バルも帰ろうぜ!」

バル 「む…」

どうやらバルも正気には戻っているようだ。

ジョグ 「え? あの〜…」

エイリィ 「じゃあ、私も店があるから…」

ミル 「私も今日は帰って寝るよ〜。ピノ君、一緒に帰ろう!」

ピノ 「あ、はい!」

次々とその場から人がいなくなる。

ジョグ 「……あの、ワイが悪いんすか?」

ジョグが俺たちに向かってそう聞く。

ユウ 「あいつに聞け…俺は知らん。帰るぞネイ」

ネイ 「うん」

俺たちはジョグを無視してその場を後にした。


そして、そこに残ったのは…。

レイナ 「…ジョグ、あなたのせいよね?」

ジョグ 「あ、いや…その」

レイナ 「………」

私は無言で魔力を溜める。

ジョグ 「ひぇ〜! 堪忍や!! 悪気はなかったんや! 酒の席ですから!!」

逃げ惑うジョグに私は照準を合わせ。

レイナ 「一辺、死んでこーーーーい!!!」

全力で魔力を解き放つ。

ギュバァァァァンッ!!!


ユウ 「お? 決まったか…」

ネイ 「……あ、あはは」

直後閃光。
レイナの十八番だな。

レイナがあれだけ怒るとは…始めてみたな。
まぁ、暴走してあれなんだから、ひょっとしたら根もあぁなのかも知れんな。
俺はひとり納得し、家族と供に帰路に着いた。

ユシル 「すー…」

安らかなユシルの寝顔を見ていると、今日のことがいい思い出に思えた…。



その後、画面が暗転し、右下に小さく丸が現れる。

レイナ 「全・然っ! いい思い出じゃなーーーい!!」

その叫びと供に、画面は暗転する。


ちゃんちゃん♪

…To be continued



次回予告

ユウ:ついに来た夏の日。
あの事件以来、全く動きのなかった敵。
俺はあの場所に来ていた。
初めておっさんと出会った、あの海に…。

次回 Eternal Fantasia 2nd Destiny

第18話 「父」


ユウ 「俺にとって、おっさんは父さんだった…」



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