Menu

Back Next


第18話 「父」

ザザァ…ザンッ!

波の音が耳にかかる。
そこはかつての場所。
だが俺の中に不安があった。
わかっている。

ユウ (俺は…まだ甘さが抜けてないんだな)

俺の中で、まだおっさんの温もりが残っている。
俺はそれを思い出すと、おっさんに対して否応無く、情がかかる。

ユウ (だが、それじゃあ勝てない…)

確信があった。
おっさんに対して、『力』を使わずに勝たなければ、確実に『父』には勝てない…。
それは確信だった。
ずっと前から感じていた、脅威。
それがまさか自分の父の物とは、予想だにしなかった。

ユウ 「だが、この時が来てしまった」

ガイア 「そうだ…そして、始まるのだ」

俺の目の前にはおっさんがいる。
すでに俺と対峙し、いつでも戦える状態だ。
だが…。

ユウ (俺は…勝てるか?)



………。



ユウ 「…特異体?」

俺はおっさんと初めて戦った後、、保健室でユミリアさんに相談を頼んだ。
あの時、俺は確実に全力でオメガを振った。
しかし、おっさんの体を両断するどころか、止められたのだ。

ユミリア 「ええ、恐らくはね…大地の力のひとつと言えるわ」
ユミリア 「大地の精霊力、魔力、己の気力、体力…」
ユミリア 「それらが、ある状態で適合した場合…神族である彼らの体は、一種の特異体になるの」

ユウ 「…つまり、どうなるんです?」

俺はよくわからないので、さらに言葉を求める。

ユミリア 「要するに、ガイアの体は時の力を止められるということよ。オメガを止めれるのならね」
ユミリア 「オメガは時の力と神の力によって生み出された神具」
ユミリア 「その武具の前にはいかなる生命体も耐えられる物ではないわ」

ユウ 「じゃあ、何でおっさんは…!?」

ユミリア 「…時の力に対抗する物は時の力」

ユウ 「!?」

俺は驚愕する。
確かにそうだが、それは…。

ユミリア 「そう、通常…己の肉体を滅ぼす結果になるわ」

ユウ 「まさか、それが特異体…?」

時の力に耐えられる体。
ユミリアさんはこくりと頷く。

ユミリア 「ただ、完全な物ではないわ。いくら強化しても、ダメージはあるの」
ユミリア 「いくら特異体でも、オメガの攻撃を浴びつづけていれば、いずれ倒れるわ」

ユウ 「いずれ…ですか」

何発耐えれるのか…それ以前に俺がやられるということか。
現状では倒せないと言うことなのか?

ユミリア 「…弱点はあるわ」

ユミリアさんは不安そうな表情で、そう呟く。

ユウ 「…それは?」

ユミリア 「時の力を使わずに倒すのよ」

ユウ 「…いつも使ってませんけど?」

使ったら、寿命が縮むからな…。

ユミリア 「それだけじゃない…オメガを使わないと言うこと」

ユウ 「…オメガを」

ユミリア 「そう、だから…あなたの基本性能だけで、あのガイアを倒せるのかどうかが」

ユウ 「………」

確かに問題だ。
俺はある意味オメガに頼りすぎてた。
これがあれば!って思ってたから、今まで戦ってこれたのも事実。
実際、あれがないと俺のメテオブレイカーは本当の力を発揮しない。
俺のメテオブレイカーは時の力を混ぜることによって、本当の威力になる。
それがなければ、ただの強力な魔法と大差がない…。

ユウ 「やりますよ…そうじゃなければ勝てないなら」

ユミリア 「ガイアの特異体は恐らく、ただ時の力に耐性があるだけ…通常攻撃には意味がないと思うわ」
ユミリア 「…私の推測だけどね」
ユウ 「…そうですか、わかりました」

ただ、それでもオメガの一撃を体で止めたおっさん。
俺の通常攻撃で、通用するかどうか…。

ユミリア 「ガイアは伝説では肉弾戦に特化した守護神だそうよ…」

ユウ 「肉弾戦…」

ユミリア 「通常の剣で、どこまでやれるか…」
ユミリア 「一説によれば、ガイアは魔法を中和できるから、本当に通常攻撃だけで戦うことになるわ」

ユミリアさんは念を押して俺にそう言う。

ユウ 「わかってます…俺は勝ちますよ」

俺はそれだけを言うと、保健室を出た。



ユウ 「………」

ガイア 「……」

あの時は勝てると思った。
だが、こうやって実際に対峙してみるとわかる。
俺は、ほぼ丸腰で、神に喧嘩を売ってるんだって…。

ガイア 「…迷っているようだな、臆したか?」

おっさんが、俺の心境を察してか、そう挑発する。

ユウ 「…そうじゃない、どうやったら苦しまずに倒せるのか悩んでいた」

俺は極めて冷静にそう答えた。
おっさんの声を聞いて、吹っ切れた。
俺の目の前にいるのはおっさんじゃない…別人だ!!
俺はジェイクから貰ったクレイモアを抜き、片手で構える。
無論通常は大人でも両手で扱う大きさだが、俺はあえて片手で持つ。
扱えない重量ではない。

ガイアは俺が吹っ切れたのを見抜いたのか、すぐには攻めて来なかった。
俺の表情を伺いながら、俺の周りを円を描くようにゆっくりと歩を進めた。
足元の砂が、次第に埋もれていくのを感じた。
俺は静かに動いた。

ユウ 「…!!」

俺は上段から剣を振り下ろす。

ビュッ! ズンッ!!

ガイア 「!」

ガイアはさすがに体では受けず、紙一重でかわす。
剣は砂に埋もれ、俺はそのまま剣を振り回すように両手で持ちながら横に薙いだ。

ビュオッ!!

だが、またしても空を切る。
ガイアは後ろに退がり、距離を取る。

ガイア 「…今度はこちらから行くぞ!」

そう言った矢先、ガイアは一瞬で俺の懐まで入る。
タックルの姿勢で、頭を屈めながら低い体勢で俺の懐に飛び込んできた。

ユウ (は、速い!)

俺はその場で右足で膝蹴りを放ち、ガイアの顔面を狙う。

ガッ!

ガイアは俺の膝を左手で止め、すぐに右手で俺の腹を殴りつける。

ドスゥ!!

ユウ 「ぐっ」

かなりの痛みが走ったが、俺は歯を食いしばって堪え、両手で剣を下のガイアに向けて上から突き刺す。

ザシュッ!

ザザザザッ!!

ガイアは咄嗟に左に転がって致命傷を避ける。
だが、右腹から出血し、腹を抑えていた。

俺もすぐには追撃できなかった。
さっきの一撃を堪えたとはいえ、確実に肋骨をやられていた。
俺は右腹の痛みに堪えながら、ガイアを見る。

ユウ (ち、5分5分かよ…)

だが、体力の差から見てガイアの方が若干有利にも見えた。
いくら俺自身が回復できると言っても、俺の魔力じゃ即効性は無い。
回復してる間に攻撃されたら意味が無い。
俺はこのまま戦うしかなかった。

ユウ (せめて、痛みだけでも…)

俺は時の力を自分に対して使い、腹部の出血と痛みを傷口から発生しないように時の流れを遅くする。
遅くする程度なら、さほど負担はかからない、だが短時間の間だけのことだ。
長時間は寿命を縮める。
俺はそれが終わると、すぐにガイアに向かって切り込んだ。

ガイア 「くっ」

さすがのガイアもダメージはある。
このの剣じゃ致命傷は与えにくいが、直撃すれば十分致死量だ。

俺は後の余力など考えなかった。
ただ、力の限り剣を振るった。

ブンッ! ビュオッ!! ハウッ!!

ガイア 「がああっ!!」

そして、ガイアも俺に向かって拳を蹴りを放った。

ドガッ! ガスッ! バキッ!!



………。



ザザァ…ザブンッ!!

波の音が次第に遠く聞こえる。
あれから数十分の時が過ぎた。
俺は全身打撲ですでに体はボロボロに近い。

ユウ (だが…まだ動くな)

対してガイアは…?

ガイア 「…はぁ…はぁ」

全身の切り傷から血が流れ出し、すでに出血多量でもおかしくない。

ガイア 「ふ…これほどとはな。剣だけで俺と渡り合うとは思えなかった」
ガイア 「前にやった時は、時の力に頼っているだけの半人前と思っていたんだがな」

ユウ 「…そいつは、く…光栄だな」

声を出すのでさえ、辛かった。
どうやら、互いに後一撃が限界のようにも思えた。
俺はまだ剣が握れることを確認すると、残りの力を注ぎ込んだ。

ユウ 「だけどな、勝つのは俺だ!!」

ガイア 「ぐっ…があっ!!」

ガイアもまた、残りの力を振り絞って俺に突進してくる。
全力で右拳を握り、俺の顔面に向かって振るう。

ユウ 「おおおおっ!!!」

俺は両手で剣を握り締め、大振りながらも上段から袈裟懸けに振り下ろした。

ガイア 「…ぐっ!」

  ズバアァッ!!!

ガイア 「ぐ…がっ!? げぼっ!!」

ガイアの拳は俺に届くことはなかった。
俺の剣によってガイアの体は引き裂かれ、血が溢れ出している。
確実に、致死量だ…。
俺は剣を右手で握り締めたまま、ガイアの倒れた姿を見る。

ユウ 「……」

目が霞む、内出血と骨折でボロボロの体に気を込めながら、俺はガイアを見た。

ガイア 「………」

ガイアは微動だにしなかった。
目から生気は失われ、体は徐々に風と供に消えていった。

ユウ 「……?」

光を放ちながらガイアの体が消滅していく。
俺は、勝ったのか?
半信半疑なまま、俺は右手から剣を滑らせるのと同時に、その場に尻餅をした。

ユウ 「…おっさん」

最後の立会い…おっさんは一瞬動きが止まった。
だから最後に俺の剣が届いたんだ。
もし、おっさんが止まらなかったら、俺は…。

ユウ 「………」

結局…おっさんに勝たせてもらったのかな?
俺はその場でおっさんのことを考えた。
そして、あの時のおっさんの言葉を思い出す。

『ガイア (いいか…お前も知っている通り、昔の俺はもう存在しない)』

『ガイア (あれが、本当の俺なんだ。いいか、俺は大地の神)』
『ガイア (そして、俺はセントサイドに住む全ての人間を粛清するために来た存在なのだ)』

『ガイア (もう俺は、己の運命に逆らうことはできない…道を進むしかないんだ)』

『ガイア (おまえたちと一緒にいた半年間…本当に楽しかった)』

『ガイア (子供は大人の言うことを聞くものだ…お前はまだ子供なんだよ)』

『ガイア (最後に言っておく、お前はこれからもっと辛いことに出会っていくだろう)』
『ガイア (だが、決してその状況に負けるな! 強い心を持て!!)』
『ガイア (お前なら、未来の運命を変え、新たな土台を生み出すことができる)』

『ガイア (今はいい…大人になればわかる。そして、父さんにガツンとやってやれ!! 今のあいつはちょっと根性が腐ってる)』

頭の中をグルグルとおっさんの言葉が繰り返して流れる。
しばらくして、俺はこう口にだす。

ユウ 「俺にとって、おっさんは父さんだった…」
ユウ 「父を知らない俺にとって…おっさんは本当に父さんだった」

ガイア (ありがとう…ユウ。俺を救ってくれて……)

ユウ 「!? おっさん!」

おっさんの声が確かに聞こえた。
だが、その場に残るものは波の音だけだった…。

ユウ 「・……」

俺は涙を流した。
声には出さずに、静かに涙した。
おっさんは…救われたんだな。
俺の中で、またひとつ何かが吹っ切れた。

ユウ 「これでおっさんに会うことは二度とない…さようなら」

俺は今日…心の父を失った。



………。
……。
…。



ユウ 「………」

あの闘いから、1ヶ月が経った。
夏休みは終わり、また学園生活が始まる。
俺は教室で黄昏ていた。

3rdに上がって、俺はひとり別のクラスだった。
担任もよく知らない先生で、俺の周りは知らない奴らばかりだった。
クラス替え発表の時、ネイは口には出さなかったけど、悲しそうだったな。
でもレイナやルーシィと同じクラスだから楽しくやってるだろう。

ユウ 「………」

放課後になって、俺は夕日が刺す窓際の自分の席でずっと外を眺めていた。
俺はあの日の闘いがまだ頭から離れなかった。
誰もいない砂浜で、おっさんと俺、ふたりの死闘。
俺は、あの光景が目に焼き付いて離れなかった。
あの時も、こんな風に夕日が差していた…。

ネイ 「ユウ…?」

俺のすぐ横で俺を呼ぶ声がする。
聞きなれた声、ネイだ。
俺は振り向かずに、ただ外を見つめた。

ネイ 「………」

ネイも、何も聞かずに俺のすぐ側に立つ。

ネイ 「ユウ…帰ろう?」

ネイは優しく俺にそう言う。
俺は立ち上がり、鞄を持ってネイと一緒に歩く。

ユウ 「………」
ネイ 「………」

帰る時も無言だった。
あの闘いから、しばらくこんな関係が続いていた。
俺は、ネイに頼りすぎていた。
ただ、ネイの優しさに甘えていた。

ユシル 「だぁ…」

ネイ 「ほら、ユシル…立てるようになったんだよ」

ネイが嬉しそうに、ユシルを抱きかかえる。
俺も嬉しかった。
あの闘いから、こうやって俺は救われていた。
少しでも俺は闘えるように。
俺は、まだ闘わなければならないから。
俺はネイの胸元で笑っているユシルの頭をそっと撫でる。

ユシル 「ぐぅ…」

ユシルはそのままネイの胸元で眠ってしまう。
俺たちはユシルをユミリアさんに預け、すでに日が沈んで暗くなった学園を後にした。

ユウ 「………」

ネイ 「ユウ…?」

ユウ 「何だ?」

俺は振り向かずにそのまま答えた。

ネイ 「後、ふたりなんだよね…」

静かにそう言う。
確かにそうだ。

ユウ 「ああ、アース、テラ…このふたりを倒して初めて終わりなんだ」

ネイ 「勝てるよね?」

不安そうに俺を見るネイ。
気づいている。
俺は、ネイがもう長くないことを…。
そして、夢に見た。
ネイは、この学園を卒業することなく死ぬ夢。
俺は強くなければダメだった。
そうでなければ、運命に押しつぶされる。
俺は負けない。
何があっても…。

ネイ 「きゃ」

俺はネイの肩を優しく抱き寄せる。
ネイは安心したように俺の見つめる。
そして、そのまま体を預ける。

ユウ 「…きっと終わらせる」

ネイ 「うん…」

俺はそう誓った。
例えどんな悲しみが待っていても俺は全てを終わらせると…。
ユシルに胸を張れる、父親になると…。

…To be continued



次回予告

ユミリア:秋の学園祭。
しかし、学園の中で奇妙な事件が相次ぐ。
まるで私たちに挑戦をしているような事件。
そんな中、調査に向かったユウとネイが行方不明に…。

次回 Eternal Fantasia 2nd Destiny

第19話 「神と魔王」


ユミリア 「久しぶりの闘いね…」



Back Next

Menu

inserted by FC2 system