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最終話 「父という名の愚者」

ユウ 「…朝か」

何事も無い朝。
だが、あるべきものがそこには無い。

ユウ 「………」

さすがに昨日の今日じゃショックが大きい。
俺はゆっくりと体を起こし、ベッドから出る。
服を着替えながら、俺はこれからのことを考えた。

ユウ 「後ひとりか…」

俺は実の父、テラ・プルートを考えた。
神族の子であり、俺の父。
つまり、俺は一応神族の両親を持つことになる。
俺は着替えを終えると、部屋を出る。



………。



ユウ 「あれ?」

見ると、寮の入り口付近に、シェイドさんの姿を見かける。
俺は近づいて声をかけた。

ユウ 「シェイドさん…まだこの街にいたんですか?」

俺はできるだけ平静を装って話す。
すると、シェイドさんは少し神妙な顔をして。

シェイド 「少し、お前に話がな…」

シェイドさんは、ここでは何だということなので、俺は場所を変えることにした。



………。
……。
…。



ユミリア 「で、ここって訳ね…」

シェイド 「すみません、ユミリアさん」

シェイドさんが丁寧に頭を下げる。
学校は今休みなので、宿直しているユミリアさんの保健室が一番話しやすい。

ユミリア 「いいわよ…休みの日は結構暇だし、まぁユシルの世話があるけどね♪」

シェイド 「ユシル…?」

ユウ 「俺の子ですよ…」

シェイド 「………」

シェイドさんは一瞬戸惑ったようだが、俺とユミリアさんの説明で納得した。

シェイド 「そうか、では本題に入るが…」

シェイドさんは少し戸惑いを見せたようだったが、すぐに話し始める。

シェイド 「…お前の父、テラに関してのことだ」

ユウ 「………」

俺は真剣な顔でそれを聞く。

シェイド 「テラはカオスサイドの皇帝であり、お前の父だ」
シェイド 「そして、今テラはお前を含めた全てのセントサイド人類を滅亡させようとしている…」

ユウ 「……!!」

予想はしてたが、そんなくだらないことを…。

シェイド 「理由は知らん…ただ、テラはお前を狙っている、それだけは確かだ」

ユウ 「どうして、そのことを?」

シェイド 「カオスサイドに直接行っていたからな、嫌でも耳に入ってきたよ」

それだけ、カオスサイドはすさんでるってことなのだろうか?

シェイド 「そして、最後にこれだけを言っておく。奴を父と思うな」

シェイドさんはそれだけを言って、部屋を出ようとする。
だが、扉の前にひとりの男が立っていた。

シェイド 「なっ!?」

マーズ 「よう、奇遇だな…こんな所で会うとは」

そう、それはあのマーズ・ディオスだった。
元邪神軍、四天王…。
何故、こんな所に?

ユミリア 「…いきなりね、何か用かしら? 物騒なことはお断りよ」

ユミリアさんは笑いながらも、緊張感を高めていた。

マーズ 「まぁ、そう警戒するな…お前らとやりあう気は無い。話題になっているテラのことでな」

マーズさんまで、そんなことを持ちかけてくる。

マーズ 「ユミリアは知っているんじゃないのか? 俺とテラのことを」

マーズさんは壁に持たれかかりながら、そう聞く。

ユミリア 「ええ、知っているわ…あなたがテラに負けたってこともね」

ユミリアさんは机に頬杖を着き、笑って答える。
警戒心は解いたようだ。

マーズ 「そうだ…まぁ古い話だがな。もう300年以上も前の話だ」

ユウ 「でっ!? ってことは俺の父さんはいくつなんだ?」

シェイド 「推定だと300以上ということか」

マーズ 「少なくとも、今俺が321歳だから…奴は今319だな」

マーズさんが思い出すように呟く。
聞いているこっちとしては、めちゃくちゃな話だ。

ユウ 「やっぱ神族だからかな?」

俺は腕を組みそう結論付ける。

マーズ 「まぁ、そのこともだが、奴の種族というものについても話そう」

マーズさんの言葉で、俺たちは注目する。

マーズ 「奴は確かに神族の子ではあるが、あいつ自身はそう思っていない」
マーズ 「もっと言えば、あいつはそれすらも超越したと思っている」

シェイド 「どういうことだ? 神をも越えたといいたいのか?」

マーズ 「ああ、本人曰く強化族と名乗っているがな」

ユウ 「強化族!?」

聞いたこともない種族、というか呼んで字のごとくか…。

マーズ 「そのままな名前だが、内容はそんな単純なものじゃねぇ…」
マーズ 「細胞そのものが通常の者とは比較にならず、魔力、知力、体力、気力…全てにおいて優れた種族だ」
マーズ 「おまけに不老不死とまで来てる…殺さなきゃ死なねぇ」

ユウ 「…殺せば死ぬのか」

つまり、俺は父を殺さない限り勝てない?

シェイド 「…成る程な、で、それはテラだけか…?」

シェイドさんは確認するように、追及する。

マーズ 「詳しいことはわからん、だが量産されているようではある、オリジナルには遠く及ばないようだがな」

ユウ 「まさか、その兵士を率いて…」

ユミリア 「セントサイドに戦争しかける気でしょうね…」

ユミリアさんがコーヒーを啜りながら冷静にそう言う。

ユウ 「………」(汗)

何となくぞっとした…俺ひとりにセントサイドの未来がかかってるんじゃ?

ユミリア 「気楽になれとは言わないわ、でも弱気にはならないで」

ユミリアさんが俺の気持ちを察してか、そう元気付けてくれる。

ユミリア 「決戦はもうすぐ始まるでしょうね、でもあなたが負けるとは思わないわ」

ユミリアさんは根拠があるのか、そう言い放つ。

ユミリア 「あなたは、戦いながら悲しみを刻んだ、そしてその度にそれを乗り越えた…だからきっと勝てるわ」

ユウ 「そんな簡単に…」

シェイド 「…細かい事情は知らん、だが、お前の力なら勝てるだろうさ」

マーズ 「時の力か…それならば勝てるだろう、だが、覚悟のいることだな」

何かどんどんプレッシャーかけられてるようだ。
血の気が引いていくのがわかる。
俺は…こんなに度胸がなかったか?
何だか、自分が信じられなくなってる気がする。
ネイを…救えなかった自分を。

ユミリア 「まぁ、いいわ…その話はここまでにしましょ、マーズはこれからどうするの? しばらくこの街にいるのかしら?」

ユミリアさんは立ち上がって、そう言った。

マーズ 「いや、俺は故郷に帰る…また会うこともあるかもしれんが、な…」

マーズさんはそう言って背を向ける。
だが、一度立ち止まって、背を向けたまま。

マーズ 「そうそう、ユウだったな…お前の親父には俺はカリがあるが、お前に譲ってやる」
マーズ 「だから、絶対勝てよ?」

それだけ言って、部屋を出て行く。
渋いな…思わず見とれてしまった。

シェイド 「では、私も行きます…ウンディーネと烈を待たせていますから」

ユミリア 「そう、寂しくなるわね、何だか…皆いなくなって」

シェイド 「ふふ、また会いに来ますよ…その内にでも」

ユミリア 「いつになることやら…」

ふたりはそうやって笑いあった。
そして、シェイドさんもまた、自分の場所に戻ったのだ。



ユウ 「………」

ユシル 「だぁ…」

ユシルが俺の手をそっと握った。
ユシルの笑顔はただ、自然だった。
俺はその顔を見て、決意を固めた。
俺がやらなきゃ誰がやる?

ユウ 「すみません、ユシル…お願いしますね」

ユミリア 「…わかったわ、行ってらっしゃい…でもこれだけは覚えておいてね?」
ユミリア 「あなたは、まだ死んじゃダメなのよ? ユシルのためにも…」

ユウ 「…はい」

俺は背中でそう答えて、部屋を出た。



………。
……。
…。



それから、数ヶ月がたった。
時は3月、俺たちは…卒業を迎えた。



ユウ 「………」

卒業か…結局ネイは迎えることがなかったんだな。
俺は教室の自分の席に座りながら窓を眺めた。

レイナ 「ユウ…帰らないの?」

式が終わり、俺は教室で佇んでいた。
こうしていると、またネイが迎えに来るんじゃないかとさえ錯覚する。
だが、来てくれたのはレイナだった。

ユウ 「そろそろ帰るさ…今日から、寮も使えないし、ユシルの世話もあるからな」
ユウ 「つってもまず家探さないとな…」

レイナ 「あのね…そのことなんだけど」

ユウ 「どうかしたのか?」

俺は立ち上がって鞄を取り、そう聞く。

レイナ 「もしよかったら、一緒に住まない?」

ユウ 「………はぁ?」

一瞬戸惑う。

ユウ 「ちょっと待て! 一応、何だ…俺は子持ちな訳で」

レイナ 「だから、ユシルのためにも! その…」

レイナの気持ちは嬉しい、だが俺はそれには答えられん。

ユウ 「ダメだ、ネイが死んでろくに時も経ってないのに、そんなことは自分的に許せん」

レイナ 「…じゃあ、家はどうするの?」

ぐさ

ユウ 「…そりゃ、何とか…」

俺は曖昧に答える。

レイナ 「お金はあるの? 少なくとも働いているようには見えなかったけど…」

ぐさぐさ

ユウ 「そりゃ、金借りてでも…」

レイナ 「すぐには仕事も見つからないよね? だったら野宿するの? ユシルも一緒に」

ぐさぐさぐさ

まるで鋭利な刃物で抉られたように刻まれる。
さすがに無計画すぎた。

ユウ 「こ、後悔は後に悔やむから後悔なんだ!!」

まるで、意味がわからん…。

レイナ 「先立つのは、不幸よね…」

ぐさぐさぐさぐさ

レイナの見事なスーパーアーツが俺の心臓を抉る。
俺の完全敗北だった。

レイナ 「私はもう家があるから、すぐにでも住めるよ? お金も国から少し援助してもらってるし」
レイナ 「私は進学も就職もしないし、ユシルの面倒だったら見てあげれるよ?」
レイナ 「もちろん、ユウが働いてくれるなら、なお安心だけど…私だけなら働くし」

ユウ 「あのな…それって、遠まわしにプロポーズしてないか?」

俺は結局そう突っ込む。

レイナ 「うん」

ユウ 「………」

俺は呆気に取られる。
さすがにダメだろ?

レイナ 「ユシルのためだと思うんだけどなぁ?」

ユウ 「それは脅迫ですか?」

レイナ 「ううん、強制」

ユウ 「そんなプロポーズは聞いたことありません!!」

俺は断固として拒否する。

レイナ 「でも、それじゃあユシルは…?」

ユウ 「別に…俺ひとりでも育てられる、しばらくはギルドに厄介になるさ」
ユウ 「バウンティハンターも悪くないだろ…」

俺はそう言って歩き出す。

レイナ 「…そう、じゃあ仕方ないね」

レイナも諦めたように俺の後を着いてくる。


………。


俺は保健室でユミリアさんからユシルを受け取り、学校を出た。
ユミリアさんとアリアさんも、今期で教師を辞めるらしく、ガイアでミリアちゃんと一緒に、静かに暮らすそうだ。

ルーシィは音楽教室を開くらしい。
まだ小さな教室だけど、少しづつ大きくしていくのが夢だそうだ。

エイリィは家業を継いだ。
正式に店長として、親父さんから後を継いだ。

ガイは旅に出るらしい。
いろんな土地を回って、いろんな物を見てきたいと言っていた。

ジェイクは自警団に就職した。
元々正義感のある奴だったから板に着くだろう。

ジョグとポールは、デリトールに渡って働くらしい。
精霊の国だから、苦労はしないだろう。

ミルとピノは一緒に住むことにしたらしい、結婚はまだ考えてないとのことだが、共に働きながら頑張ると言っていた。

レイラは国に戻るそうだ。
兄に代わって、国を再建すると強く希望していた。

バルはギルドでバウンティハンターをやると言っていた。
アルファのこともあるから、家もすでに借金して買ったそうだ。

2年制の専門部を主席で卒業したウィルさんとルナさんは、デリトールに帰ると言っていた。
また、ドタバタしてるんだろうな。(笑)

ノームとドリアードはそのまま進級する。
次は3年生で進学を考えていると言っていた。


ユウ 「…ネイが生きていたら、俺もまた違う生き方をしていたのかもな」

俺は唐突にそう呟く。

レイナ 「…そうかもね」

レイナは寂しそうにそう答える。

ユウ 「……やっぱ、さ」

俺が言い出そうとすると、レイナがこっちを向く。

ユウ 「ユシルだけでもさ、預かってくれないか?」

俺はそう言った。
やっぱり、せめてちゃんとした環境で育てた方がいいと思った。
俺のことを忘れても構わない。
ただ、正しく育って欲しかった。

レイナ 「…ダメだよ、ユウが父親なんだから、ユシルだけは預かれないよ」

ユウ 「そっか…じゃあやっぱ借金するしかないかなぁ。バルもそうしたみたいだし」

レイナ 「……うう〜」

レイナは何か機嫌が悪そうだった。
理由はわかる。
だけどなぁ…。

ユウ 「あのなぁ、よく考えてみろよ? 普通こんな状況で…」

レイナ 「いいわよ…ユウは私のこと嫌いなんでしょ?」

突然そんなことを言い出す。

ユウ 「何言ってんだよ? 関係ないだろそれは…」

レイナ 「あ〜! そう言うこと言うのね…わかったわよ、もういい!!」

レイナは駆け足で走り去る。

ユウ 「あ、おい!!」

レイナ 「ユウはそうやって、ひとりで泣いていればいいのよ!! ネイも可愛そう…」

そう言って、レイナは行ってしまった。

ユウ 「泣いてる…? 俺が…?」

ネイが可愛そう、か…。
俺はひとりで泣いているのかな?
だけど、忘れられないだろう…?
俺は、中途半端な気持ちで人を愛したくないんだよ!!
俺は自分の中でそう結論付けた。

ユウ 「はっ…馬鹿馬鹿しい」

昔は…レイナのことが好きだったんだよな。
レイナも俺のことが好きで、両想いだった。
なのに…上手くいかないもんだな、ネイ。

ユウ 「ユシルは、どっちがいいと思う?」

俺は自分の左腕の中で安らかに眠っているユシルを見てそう言う。
だが、そこには安らかな寝息しか帰って来なかった。

ユウ 「自分で決めろってことか…ダメだな俺、こんなんじゃいい親にはなれそうにない」

? 「その必要はない…すぐお前は死ぬ」

ユウ 「!?」

俺は突然の声に驚く。
まるで気配を感じない。
ただ、声だけが響いた感じだ。
辺りは夕暮れで、今は森の中、少なくとも気配は感じなかった。

ユウ 「まさか…こんな時に!?」

ユシルがいる今はまずい。
俺は緊張感を高めながら、一気に森を駆け抜けようとする。
が、そう上手くは行かなかった。

? 「逃げられると思うのか?」

男が立っていた。
背は俺と同じ位、髪も俺と同じような感がある。
服装はこっちでは珍しく感じる、妙に引き締まった服だった。
マントも着いていて、まさに王様の風格…。
その瞬間俺は全てを察した。

ユウ 「テラ・プルート…!」

テラ 「いい加減、消してやるぞ…できそこないが」

テラは冷たくそう言い放った。

ユウ 「正気かよ…こっちは子持ちなんだぜ?」

テラ 「安心しろ、子に用はない…用があるのは貴様だけだ」

ユウ 「喜んでいいのか…」

俺が距離をおこうとすると、相手は詰めてくる。
このままじゃまずいな…。
俺がそう思っていると、空中から声が聞こえる。

レイナ 「ユウ!!」

俺は瞬間、ユシルを空に放り上げる。

レイナ 「きゃっ」

レイナは上手くキャッチし、ユシルを抱きかかえる。

ユウ 「レイナ、ユシルを連れて遠くへ行ってくれ!!」

レイナ 「う、うん!!」

レイナはそう頷いて、飛び去る。
テラも特に気にしなかった。

ユウ 「よっぽど、俺のことが邪魔なんだな」

テラ 「そうだ…貴様さえ生まれなければ、私はここまで歪まなかったろう」

歪んだって自覚してんのかよ…。

ユウ 「母さんは俺が殺ったよ…確かにな、だがあんたにも責任があるだろう!?」

テラ 「そうだな…俺が悠喜を愛さなければ、そもそもこんなことにはならなかった」

ユウ 「…セントサイドに戦争を仕掛けるなんて、子供並の発想だな」

テラ 「そこまで知っているのか…ならば話は早いな」

テラは腰に差していた剣を抜く。

ユウ (く…!!)

瞬間、とんでもない重圧がかかる。
殺気が凄まじい、これが実の父のプレッシャーか。
俺は今武器を持っていない。
かなり甘かった。

ユウ (素手かよ…やべぇな)

テラ 「セントサイドの人間は生かしておかん、無論貴様でもだ!!」

テラは俺に向かって、頭上から剣を振り降ろしてくる。
俺は紙一重でそれを右にかわす。

ユウ 「何で、そんな復讐に囚われてるんだよ!! そんなことじゃ母さんは喜ばない!!」

俺は後ろに跳び、距離を置く。
だが、すぐにテラは剣を横に凪ぐ。

テラ 「黙れ! これは私自身の決別だ!!」

ザシュッ!

俺は腹を軽く切られる。
出血はたいしたことない。

ユウ 「どういうことだ!」

俺はそのまま構えて、叫ぶ。

テラ 「悠喜は貴様を産んだ後、すぐに自分の同士に故郷を追われた…」
テラ 「その理由は、新たな奇稲田、つまりお前の姉がいたからだ!!」
テラ 「ただ、それだけの理由でお前を含め、我々は追いやられた」

ブンッ

テラは全力で剣を振り回す。
俺は的確にそれをよけ続けた。

ユウ 「だが、母さんは俺のために、自分の意志で出たはずだ!!」

テラ 「そうだ、お前がいなければそんなことにもならなかった!」

ユウ 「理由になってねぇだろうが!!」

ドガッ!

俺は怒り任せに全力で蹴りを顔面に叩き込む、テラの口から血が滲み、怯む。

テラ 「…セントサイドの人間は救いがたい生き物だ、殺戮、略奪、強姦、何でもする」
テラ 「ならば、カオスサイドのように、全て私の力で征服すればいい!!」
テラ 「だからまずは、私がセントサイドを浄化するのだ!!」

ユウ 「まるで子供だな…どっちが親かわかんねぇよ」

俺は握り拳に力を込めて、そう言う。

ユウ 「あんたはただ、人間の弱く、汚い部分を見すぎただけだ…今なら戻れるだろう!? 改心しろよ!!」

俺は無駄とわかりつつも、そう説得する。
この馬鹿親父は、大事なものを忘れている。
そううまくはいかない。

テラ 「貴様に何がわかる、悠喜を失った時の苦しみを、貴様にも十分に教えてやる!!」

テラはこれまでにないスピードで、俺に切りかかる。
俺はよけようとはしなかった。

ガキィ!

テラ 「何!?」

俺はその剣を素手で受け止める。
無論、時の力でだ。

ユウ 「この、馬鹿親父が…最後の最後まで母さんを苦しめる気かよ…!!」
ユウ 「いいか、よく聞け!! 俺も結婚して息子だっている!! でもな、妻が死んだ時は絶望はしなかったぜ!?」
ユウ 「それが何だ、あんたの姿は!? ただ悲しみに押しつぶされて、復讐だと!? そんなあんたの姿は見るにたえねぇ!!」

俺は時の力を纏った拳をテラの顔面にぶつける。
衝撃でテラは派手に吹っ飛ぶ。

ズザザザザザザザ…!!

テラ 「く…これが時の力か!」

テラはすぐに起き上がるが、ダメージはあるようだった。

ユウ 「もう、あんたには説得の余地はない…俺が引導を渡してやる!!」

テラ 「…おのれ、私が負けるというのか!!」

テラは剣を構える。
確かにコイツの強さは本物だろう、だが。

ユウ 「そんな憎しみだけの剣で、俺は切れない!!」

俺は時の力を集めて剣を作り出し、それを『全力』で振るう。

ユウ 「メテオ・ブレイカー!!」

ズバアアアアアァァァァァンッ!!!

直後、閃光と爆音に近い音が鳴り響く。
そして、宙を舞ったひとつの体が地に落ちる。

ドサッ!!

ユウ 「………」

俺はその場で倒れそうになる。
だが、意識をどうにか保った。

ユウ (く…これまでにない位力を使った。生きてる気がしねぇ)

俺は馬鹿親父の側に近づく。

テラ 「…く、それが時の力か」

意識がある、マジかよ…殺す気で放ったのに。

ユウ 「…あんたには同情余地はない、その状態じゃもう長くないだろ? 後はひとりで寂しく死ねよ…」

俺は背を向けて、歩く。

テラ 「…ふ、これもまた運命か」
テラ 「結局、一番弱いのは私だったということだ」

俺は歩を止める。
だが振り向きはしなかった。

テラ 「私は全てを支配するために強化族の秘法を編み出した」

テラは誰に言うでもなく、そう語りだした。
俺は背を向けたまま聞く。

テラ 「私にはその力があると思っていた…」
テラ 「…悠喜には悪いと思っている。だが、私はその答えしか出なかった」
テラ 「貴様の言うように、汚れた部分を見ただけだが、その部分が多いのもまた事実だ」

確かにそうだろう。
特にあの頃はレギルは戦争の最中にあった。
人の汚い部分なんていくらでも見れる。

テラ 「だから私はそんな人間を許せなかった…これが悠喜と同じ世界に住むものなのかと絶望した」
テラ 「ならば、私が全て統一すればいいと思った」
テラ 「私が全て滅ぼせば、カオスサイドと同じように自治が保たれると思った…」

ユウ 「本当に馬鹿親父だよあんたは…何で、気づいてるなら止まらなかったんだ!!」
ユウ 「何で、俺の前にちゃんと父さんとして現れてくれなかった…!!」

俺は涙を流さずに叫んだ。

テラ 「私は、お前を憎むことで、自分の力にしていた、今更そんな奇麗事を言うつもりもない」

ユウ 「…不器用だな」

テラ 「かもしれん…それが大人というものだ」

ユウ 「俺はそんな大人にはならねぇよ」

テラ 「…ふ、最後にひとつだけ言っておく。お前や未知は知らんだろうが、もうひとり…お前たちに妹がいる」

ユウ 「何だって!?」

俺はさすがにその場を振り返る。

テラ 「私と同じ強化族だ、今はプルート帝国の全権を握らせてある」
テラ 「…名はディード。気が向いたなら会ってやれ」

ユウ 「…父さん」

俺が最後にそう呟くと、父さんは優しく笑ったようにも見えた。

テラ 「…さらばだ、私は地獄で悠喜に謝りに行くことにしよう……」

言葉を紡ぎながら、テラの体は風と共に消えた。



………。
……。
…。



ユウ 「終わったんだな…」

レイナ 「ユウ…大丈夫!?」

俺が森を出ると、すぐにレイナが迎えてくれた。
俺は体こそ無傷だが、内臓やら骨やらが砕けそうに痛かった。
力の反動が大きい、俺は瞬間、倒れた。

レイナ 「ユ、ユウ!!」

それから、俺はユミリアさんの元に送られ、1ヶ月程安静にするように言われた。




ユウ 「………」

レイナ 「あら、もう起きてたの?」

ユウ 「ああ」

レイナが俺の様子を確かめに来る。
結局…俺たちは一緒に住むことになった。
自業自得とはいえ、俺が動けない状態なので、ユシルを養えなくなった。
1ヶ月安静だから、ユミリアさんの命令もあって、俺はレイナの家に住んでいる。

レイナ 「ほ〜ら、ユシル…情けないお父さんですよ〜♪」

レイナはそう言ってユシルを俺の顔に近づける。

ユウ 「あのな…誰が情けないんだ?」

レイナ 「だって〜、あれだけ大見得切って、自分の体壊すわ、ユシルはほったらかし、挙句の果てにユミリアさんに世話になって」

ぐさぐさぐさぐさ

レイナめ…躊躇無しに言いやがって、よっぽど根に持ってるな。

レイナ 「で、結局私がいないと何にも出来ないのよね〜?」

レイナは笑いながらユシルに語りかける。

ユシル 「きゃはっ」

レイナ 「ほぉら、ユシルもそうだってさ〜」

ユウ 「言ってねぇだろうが!!」

レイナ 「あはは…でもいいよね、これでも」

レイナはは小さく呟く。

ユウ 「何が?」

俺はあえて聞いた。
理由はわかってる。

レイナ 「ネイも…許してくれるよね」

ユウ 「ああ…っ!?」

俺がベッドに寝たまま頷こうとすると、レイナに唇を重ねられる。
俺は固まったままだった。
唇を離すと、レイナはユシルを抱えたまま。

レイナ 「これからも、一緒に、ね☆」

それが、俺たちの新たなスタートだった。

Eternal Fantasia Second Destiny 「大地の守護神」
END



作者あとがき


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