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Third Destiny 『邪眼姫 〜イビル・アイ プリンセス〜』



後編 「アリアの樹」

アリア 「……」

ユミリア 「どうしたの? いつになく外を眺めて…」

リビングでじっと外を眺めているアリアに対して私はそう聞く。
アリアが外を眺めるのは良くあることだけど、今日はいつもよりも没頭している気がするからだ。

アリア 「…嫌な予感がするの。とても良くないことが起こるような」

アリアは外を見たままそう言う。
私もその先を見る、その先には…。



ミリア 「……」

ユシル 「ミリアちゃん?」

セイラ 「…どうしたの?」



ユミリア 「子供たちが元気で何よりよ…このまま平和が続いて欲しいわ」

私は子供たちの姿をみてそう思った。

アリア 「そうね…それに越したことはないわ」





レイナ 「…ユウ?」

ユウ 「…よう、今帰った」

俺は汚れきった姿で、疲れた声を出す。

レイナ 「お帰りなさい…随分大変だったみたいね」

レイナは俺の姿を見て、すぐに風呂の用意をしてくれる。

レイナ 「どうせ、食事は済ませてないでしょ? 今から作るから、お風呂に入ってて」

レイナはそう言って、エプロンをつけて台所に向かった。
俺はその姿を眺めてから、風呂場に向かった。

ユウ 「ん、もう沸いてる…まぁいいか」

いつものように、魔法ですぐに沸かしてくれる。
だから俺もすぐに風呂に入れるのだ…。
レイナにはいつも苦労をかけるな…。
俺はふとディードのことを思い出す。
心に刻み込んだ悲しみ。
それが、溢れ出しそうだった。

ユウ 「………」

俺は湯に浸かりながら、リラックスした。
深く考えてもしょうがない。
今は、今のことを考えよう。



………。



ユウ 「ふぅ…」

俺は風呂から上がり、着替えるとすでに食事の用意が出来てた。

ユウ 「すまないないつも…」

俺は今更ながらそう言う。

レイナ 「何今更? 私はあなたの妻なんだから、当然でしょ」

レイナは笑顔でそう言ってくれる。
本当にこいつはいい奥さんだ…。
俺はふとネイのことを思い出す。
そして、重なるようにディードの姿が浮かぶ。
俺は…振り切れないんだな。
弱くなっていく気さえする自分がやるせなかった。

レイナ 「何を思いつめいるのかはわからない…でも、忘れないでね」
レイナ 「あなたには私や、ユシル、セイラもいるってことを」

レイナは俺を真っ直ぐ見つめて、そう言った。
レイナもよくわかってる、俺の心のことを。
俺がネイを振り切ってないことを。

元々、俺がレイナと婚約する際にもレイナはこう言った。



レイナ 「ネイのことはずっと覚えてあげて、私と一緒になって、私のことを愛してくれなくてもいい…ただ、ネイのことを忘れるのだけはやめて」



あの台詞は、未だに俺の心に残っている。
逆に言えば、あの言葉があるから俺はレイナと結婚することを決められた。
式すらも挙げずに、ただ互いの口約束だけで成り立った夫婦。
それでも良かった。
俺は…レイナを愛している、それはネイに向けている愛と同じくらい大切なものだから。



………。
……。
…。



ユシル 「父さん…明日は一緒にいるの?」

夜になって、久し振りに家族で食事をして俺はユシル、セイラと一緒にいた。
そして、ユシルが明日の予定を聞いてくる。

ユウ 「そうだな、仕事の予定を聞くだけのつもりだから、急な仕事が入らなければな」

俺はそう答える。

ユシル 「そっか…やっぱり忙しいんだね、正義の味方って」

ユウ 「はは、そんな大層な物じゃないぞ?」

セイラ 「ひ〜ろ〜♪」

セイラが俺の背中に抱きつく。
3歳になってもセイラの背中には翼は出なかった。
体重から見ても飛翼族ではないとの検査結果も出た位だ。
恐らくは俺の中にある強化族の血がセイラにも流れているためだろう。
余程、優生な血らしい…。

ユシル 「父さんは、世界で一番強いんでしょ?」

ユウ 「どうかな…? もっと強いやつはいるだろうな」

そんなことは実際に地球上にいる全ての人間と戦わない限りわかるものじゃないからな。

ユシル 「きっと強いよ! 俺にはわかるもん」

ユシルは屈託のない笑顔でそう言い放つ。
俺は息子にこれだけ信頼されているのか、と痛感する。
そして、もっと側にいてやらないとな、とも思った。



レイナ 「ふたりとも寝たわ」

夜も更け、子供が寝たのを確認すると、俺はレイナとふたりきりで話を始める。
カオスサイドでのこと、ディードのことを…。



………。



レイナ 「そう、そうだったの…それで思いつめていたのね」

ユウ 「……」

俺は答えなかった。
辛くないと言えば嘘になる。
でも、耐えなければならなかった。
俺はいつまで耐えればいい?
そう思う自分がやるせない…。

レイナ 「もう休んで…明日からはまた頑張らなきゃ、ユシルのためにも、セイラのためにも…ね?」

レイナは優しくそう言ってくれる。
そして、俺とレイナも眠りについた。



………。
……。
…。



ミツケタ……

見つけた? 何を……?

ジャガンノコ…セカイヲシハイスルチカラ…ソレヲセイギョスルモノ、トキノチカラ……

邪眼…時の力?

ヤットミツケタ…セカイハコレデ……クク





ユウ 「!?」

俺は突然起き上がる。
体には冷や汗がべっとりと付いていた。

ユウ 「もう昼なのか?」

見ると部屋には俺だけだった。
レイナも家にいないようだ。
買い物に出かけているのか…。

俺は顔を洗って着替えると、ギルドに向かった。



団長 「おお、ユウか…暫く振りだな」

俺を見ると、団長が気さくに話し掛けてくる。

ユウ 「仕事はどうだい?」

団長 「ふん、まぁなかったらすぐに廃業だな」

ユウ 「はは、それもそうか」

団長 「ほれ…今月のリストだ」

ユウ 「どれどれ…」

リストの紙に目を通す。
どれもいつもとたいして変わらないものばかりだった。

団長 「お前がてこずるような首はないぞ、どれをやっても一緒だ」
団長 「いや、待てよ…そう言えば昨日あったな、リストには載せてないが」

ユウ 「うん? そんなにやばいのか?」

団長は棚を漁ると、ひとつの紙を差し出す。

ユウ 「ん? ビル・カサラ…魔道士系か」

先日、ディラール王国の牢を破って10年振りに外に出た極悪犯。
性格は残忍で、ずるがしこく、危険人物ランクA認定。
現在も逃亡中で、ガイアにも潜入の疑いあり…か。

ユウ 「成る程…そりゃやばそうだ」

団長 「こいつは魔道士としても一級線で、かなりやばい魔法を習得しているらしい」
団長 「お前かバルに頼むつもりだったんだ」

ユウ 「バルには見せたのか?」

団長 「ああ、昨日はお前がいなかったからな、今ごろディラールの方に行ってるだろう」

ユウ 「そうか、わかった…とりあえずリストは貰っていくよ、今日はゆっくり休みたい」

俺はリストを仕舞ってそう言った。

団長 「その方がいい、家族持ちにはこの仕事はつれぇもんだ」

団長は笑ってそう言ってくれた。

団長 「さっさとけぇってやんなっ、家族は大事にしろ!」

団長はそう言って、新聞に目を向ける。

ユウ 「ああ、いつもすまないな団長」

俺はそう礼を言って、ギルドを出た。



ユウ (団長も、気を使ってくれてるな)

団長も、ギルドの仕事で、家族を失っている人間だ。
あの仕事の辛さも悲しみも知っている。
俺はそんなことを考えながら歩きつづけた。



………。



バル 「成る程…そうですか」

シオン 「ええ、恐らくはガイアに…」

フィリア 「ロクでもねぇ野郎だ、早いとこ捕まえねぇと…」

フィリア王妃は拳と掌を合わせて、そう言う。

バル 「とにかく、警戒はしておいてください、ガイアは俺とユウで調べます」

シオン 「すみません…頼みます!」



………。
……。
…。



ユウ 「………」

時間は深夜1:00。
俺は昼に子供たちと遊び倒し、夜に仕事に出かけた。
街の見回りをしているが、特に変わった様子はない。
俺はその後1時間ほど続けるが、やはり何もなかった。
ただ…。

ユウ (見られている気がする…。だが気配はない)

四六時中何か視線のようなものを感じた。
俺を見ている。
気配の消し方は完璧に思える。
俺相手に気配を感じさせないとは。

ユウ 「この際、姿を見せたらどうだ? いるんだろう…?」

俺は危険と感じながらも無防備な状態でそう言った。
姿さえ見えれば、反応できると思っていた。
だが、甘かった…。

ザシュッ!!

ユウ 「がっ!?」

突然背中に痛み。
そして、なにやら力を奪われるような感覚。

ユウ 「これは…!? 呪法!!」

明らかに通常の魔法とは違う異質な感覚。
確実に呪法の類だった、味わったことはないが、確実に呪法の際、犠牲になった人間の痛みや苦しみが体に伝わってきた。

クルシイ…タスケテ…イタイヨ…イヤダヨ…

ユウ 「おおおおおおおお!!」

瞬間、俺は呪法を打ち破った。

ユウ 「貴様ぁ!!」

俺は相手を確認せずに剣を振るった。

ザンッ!!

だが、後ろは誰もいなかった。
そして、気配を感じた。
上っ!
俺は上を見る。
すると、見たことのある男の顔があった。

ユウ 「ビル…カサラ…!? 指名手配の男」

その男は今朝に見た手配書の顔と一致した。
法衣に身を包み、見た目は普通の魔道士。
だが、その顔は狂喜に満ち溢れ、人間味すら薄れていた。

ビル 「ククク…禁呪法の味はどうだ? 心地よかったろう…悲鳴が聞こえてな」

ユウ 「…く、おおおおおっ!!」

俺は久し振りに怒りに震えた。
ここまでキレたのは初めてかもしれない。
俺は全力で時の力を解放する。
が…。

ユウ 「…な、何!? 何故…!」

俺の体が反応しない…。
時の力が全く動かない。

ビル 「フハハ! 気づいたか? お前の力はここだ!」

ビルは右手に白く輝く光の球体を掲げていた。
それからは、明らかに時の波動を感じることができた。

ユウ 「ま、まさか…!?」

ビル 「ふん、時の力を奪った貴様にもう用はない…ようやく邪眼の子を見つけたのだ、これで世界は我が手の中に!!」

ビルはそう言うと、一瞬で姿を消す。
そして、再び俺の周りに呪法が飛び交う。

ユウ 「う、うおおおおおおっ!!」

俺はこれ以上体が動かなかった。
膝を着き、俺はそのまま地面に倒れた。



バル 「ふんっ!!」

俺はユウの周りに漂っている妖気を全て、切り払う。
そして、ユウを抱えて、家に送り届けた。



………。
……。
…。



ユウ 「く…」

俺は思い体を動かす。
どうやら、生きてはいるようだ…。
呪法の影響が強いのか、かなり体が重かった。

レイナ 「ユウ! 大丈夫?」

レイナが心配そうな顔で俺の顔を覗きこむ。

ユウ 「…う、ダメだ、寝ている暇は」

バル 「いや、寝ていろ」

ユウ 「バル!? 何故ここに…?」

俺がそう言うと、レイナは俺を無理やり寝かせる。

バル 「…お前は死にかけていたんだ、おとなしく寝ていろ」

俺はレイナの手を振り払って起き上がる。

ユウ 「寝ていられるか、俺の力が悪用されようとしているんだぞ!?」

バル 「何? どういうことだ」

俺はあの時ビルにやられたことを説明した。

バル 「そうか、ならば俺がやろう、今のお前よりはマシだ」

ユウ 「ダメだ、これは俺の仕事だ、お前はギルドで待機していろ」

バル 「ふざけるな、今のお前に何ができる!?」

バルは強めの口調で、そう言った。

ユウ 「俺にしか出来ないんだよ…ミリアを救うには」

レイナ 「ミリアが…狙われている」

俺は支度をする。
そして、家から出ようとすると。

ユシル 「うう…」

セイラ 「えーんっ!!」

突然ユシルとセイラが泣きながら家に入ってきた。

ユウ 「どうしたんだ?」

俺が駆け寄ると、ユシルがこう言う。

ユシル 「ミリアが…変な奴に無理やり攫われた! 俺、頑張ったけど…全然、敵わなくて」

俺はそのユシルの頭を撫で、セイラを優しく抱きしめる。

ユウ 「いいか、これからはお前らが母さんを守るんだぞ?」

レイナ 「ユ、ユウ…何を?」

俺はレイナに背中を向けたままこう言う。

ユウ 「レイナ…俺がもし戻らない場合は、ふたりを頼む」

レイナ 「ユウ、止めて! そんなこと…」

ユウ 「元気でな…」

俺はそれ以上何も言わずに走っていった。
場所はわかる。
俺の力がある場所…それが奴のいる場所だ。
俺は無我夢中で駆けた。



ユミリア 「アリア!」

私は走りながら、アリアに尋ねる。

ユミリア 「ミリアは…!?」

アリア 「……!」

アリアは答えなかった、その姿が私に全てを語っていた。

セリス 「先生…一体何が!? 私を呼んだのはまさか…」

ユミリア 「私じゃないわよ…呼んだのはアリアよ」

私はそれだけ言って後は何も言わなかった。



………。



ユウ 「…見つけたぞ」

俺はオメガを握り締めて、ビルを睨む。

ビル 「ふん、遅かったな。もう完成したわ!」

ビルはそう言って奇跡の泉の上に立っていた。
そして頭上にはミリアがいた。

ユウ 「ミリア!! 今助けるぞ…」

ビル 「はっはっは、助けるだと? 貴様には無理だ」

突然、俺の周りに特殊なフィールドが張られる。

ユウ 「これは時の結界!? 馬鹿な貴様自身の体が持たんぞ!?」

だが、ビルは平然とそれを扱う。
そして次の瞬間。

ドゴォ!!

ユウ 「がはあぁっ!!!」

俺は受身も取れずに後ろに吹っ飛ぶ。
間違いない、こいつ時を止めた。
だが、ビルは一向に衰えない。
まさか…これが邪眼の力と関係が!?

ビル 「不思議なようだな…教えてやろう」
ビル 「時の力は確かに、強力な力だ…ゆえに使った人間もただでは済まん」
ビル 「だがな、邪眼の…特にあの娘程の力があれば、それを自由に扱えるようになるのだ!!」

ユウ 「!?」

俺は驚愕する。
邪眼の力が時の力を制する?

ビル 「あれ程の力を持った娘は恐らくふたり目だ。ゆえに俺は好機と見た」
ビル 「時の力をもった邪獣ユウ・プルート」
ビル 「牢屋の中でも貴様の噂は聞いていた。貴様がディラールに現れた時、俺は貴様の力を忘れなかったよ…」
ビル 「そして、邪眼の娘が生まれた時、俺は喜びに打ち震えた!」
ビル 「世界は俺が支配する! この俺が世界に君臨する!!」

ビルは悪党にありがちな世界征服を口にした。



ユミリア 「あれは、ユウ君!?」

アリア 「ユウ君! アリアー!!」

セリス 「あの力は…!?」

突然、ユミリアさんとアリアさん、そしてセリスさんまでが乱入する。
俺は体を突き動かして立ち上がる。

ユミリア 「ユ、ユウ君…あんなにボロボロになって」

アリア 「ビル・カサラ…!!」

セリス 「あれは指名手配の…!」

ビル 「ほう、先代か…貴様には用はない、俺はこの娘を見つけたからな」

ビルはミリアを見上げ、笑う。

ビル 「ふっふっふ…記念に貴様らを消してやる。こいつの力でな…やれ」

ビルがそう言うと、ミリアの邪眼からとてつもない波動が放たれる。
俺たちは全員がその波動で動きを止められる。
だが、時間と共に波動は抜けていた。

ユミリア 「くぅ…!」

アリア 「…うぅ」

セリス 「凄い闇の力…」



ユウ 「…やっぱり、やるしかないか」

それしか道はなかった。
俺はオメガを持ち、ヴェイルさんに語りかける。

ユウ (すみませんね…こんなことになって)

ヴェイル (気に病むな…私もこのために死ねるのならば文句はない!)

俺はオメガの箍を外す…これによって、オメガに秘められている全ての時の力が解放される。

ビル 「む? これは…!?」

ユウ 「!!」

俺は時の力でビルの目の前にテレポートする。


ユミリア 「あの力は…やめて、ユウ君!!」

私は動きが取れることを確認すると、ユウ君に向かった走ろうとする。

アリア 「ユミリアダメよ、あなたまで巻き込まれるわ!!」

あの時と同じ、アリアが私を止めて…。

ユミリア 「嫌ぁ!! もう失うのは嫌ぁ!!」

セリス 「先生、ダメです!! ユウ君の犠牲を無駄にしないで!!」

ユミリアさんの悲鳴に近い叫び声が俺の耳に届く。
痛いな…本当に。

ビル 「ふん、貴様などにこの俺の力が!!」

ザンッ!

俺はビルの腕を一瞬で落とす。

ビル 「ガッ!? ば、馬鹿な!?」

ビルは時の力で結界を作り出す。
だが、俺はそれをオメガで中和する。

ユウ 「てめぇは、俺と一緒に地獄行きだぁ…!!」
ユウ 「メテオブレイカー・Ω!!」

俺は全ての力を持ってオメガを振るう。



ユミリア 「ユウ君ーーーー!!!」


ビル 「ぐ…えぼああああっ!!」

時の力がオメガの消滅と共に消える。
そして…俺の体も……時の本流と、共…に……。



………。



ユミリア 「イヤアアアアアアァァァッッ!!」

アリア (ユウ君…!)

セリス 「!!」

アリアとセリスが私を止める。
もう終わっていた…。

ユミリア 「どうして…どうして私はいつもこんな所で立っているの!? 私は…一体何のために生きているの!?」

私がそう叫ぶと。


ビル 「ふ、フハハハハハハハハハッ!! 耐えたぞ!! 俺の方が上だ!!!」

何とビルは生きていた。
ユウ君の死が…。

アリア 「セリス…!」

セリス 「アリアさん?」

アリアが何かをセリスに伝えたようだが、私は気にしなかった。

ユミリア 「ビルゥゥッ!! お前だけはぁ!!」

私はアリアとセリスを振り払い、ラグナロクを抜き、全力でビルに向かう。

ビル 「馬鹿が! 時の力で…!?」

ザシュッ!

私の剣がいともたやすくビルの体を切り裂く。
だが浅い、致命傷にならない!

ビル 「くそっ!? 何故だ!! 何故時の力が!?」

アリア 「あなたの力はユウ君あっての物…ユウ君が消えた今、時の力はもうこの世に存在しない…」

アリアが涙を流しながら、ビルを睨みつける。

ビル 「く…フアハハ!! まだ切り札はある。ミリア、あのふたりを殺せ!!」

ビルがミリアにそう命じる。
が、動かない。

ビル 「どうした、何故動かん!?」

ユミリア 「ミリア…?」



ミリア 「………」

『大丈夫、もう大丈夫だ…だから』

ミリア 「…おじさん?」

『ほら…母さんがすぐそこにいるぞ、泣いてる母さんを抱きしめてやれ!』



ミリア 「ウワアアアアアアアァァァァァアァァッ!!!」

突然、ミリアの力がビルを包む。
邪眼の力が暴走している!

ビル 「えひゃ? ひょぼわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

ビルの体はその力で一瞬にして肉隗になる。
だが、ミリアの力が留まらなかった。

ユミリア 「ミリア…!」

こうなったら私が…!
だが、アリアがそれを制した。

ユミリア 「ア、アリア…?」

瞬間、私の体の自由が奪われる。

ユミリア 「な、何をするの!!」

アリア 「ユミリア…アリアは私とセリスで止めるわ」
アリア 「だから、ユミリア…子供たちをお願い」

ユミリア 「嘘…アリア、あなたまでぇ!?」


アリア 「セリスお願い…」

セリス 「…はい」

アリアがミリアを抱きしめ、セリスがマナを掲げて、理を述べる。

セリス 「大地の神、マナよ…汝の力を持ちて、悲しき闇の波動を大地に広く鎮め、浄化したまえ…!」

マナが輝き、アリアとミリアを包む。

セリス 「この者の体を大地とし、呪われし力を大地に!!」

そして、その瞬間…。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

アリアの体は樹となり、ミリアの波動を全て吸収した。
力を吸収する度に樹は大きくなり、ミリアの力は次第に暴走を止めていく。

ユミリア 「ア、アリアァ!!」

ゴゴゴゴ………

そして、その樹はあまりにも巨大で、優しき光に満ちていた…。

ミリア 「………」

ミリアは邪眼の力が止まり、『アリア』の側に倒れる。
そう…『アリアの樹』に。

ユミリア 「あ、ああ…」

セリス 「………」



アリア 『ミリア…目を覚まして』

ミリア (お母さん?)

アリア 『ほら…大丈夫だから、お母さんは大丈夫だから』

ミリア (お母さん…)

アリア 『行きなさい…あなたは生きているのだから』

ユウ 『…ミリアちゃん、これからもユシルとセイラによろしくな』

ミリア (おじさん…うん)

私は目を覚ます。

ミリア 「……」

大きな樹がある。
それは、懐かしくも温かみのある樹だった。

ミリア 「……お母さん、おじさん」

私はその樹に額を置いた。
やっぱり…。

ミリア 「ユミリアお姉ちゃん…帰ろう」

私は泣いているユミリアお姉ちゃんにそう言う。

ユミリア 「ミ、ミリア…ッ!」

お姉ちゃんは私を強く抱きしめる。
ちょっと痛かった。
でも、わかっていた。
皆が悲しいってことが…。





………。





レイナ 「…そう、ユウは逝きましたか」

ユミリア 「意外に冷静なのね」

レイナ 「そう、見えますか?」

私は涙は流さなかった。
ユウは、こうなることを告げていたのだから。
私は止めることが出来なかった。
ううん…あの人の妻になった時点で、こうなることはわかっていたのかもしれない。

ユシル 「……」

セイラ 「ううう…!」

ユシル 「泣くなセイラ! 泣いたら、父さんも悲しくなる!!」

ユミリア 「ユシル…あなたは強いわね」

ユミリアさんはそう言ってユシルを抱きしめた。

ユシル 「父さんは…ミリアのために死んだんだ、世界を救ったんだ…」

セイラ 「うう…」

セイラもその姿を見て、泣かないように必死に我慢していた。



その日、英雄はこの世から去った。
後日に、ガイアにて盛大に葬式を挙げられ、死体のない埋葬が行われた。
やがて、時は経ち、その事件が過去のものとなりかけていた。





ユシル 「ミリア…いないのか?」

今日の日付を見てみる。
1021年3月15日。父さんの命日…そしてミリアの母さんの命日。

ユシル 「セイラ…ミリアを見たか?」

俺は学校から帰ってきたセイラにそう聞く。

セイラ 「ううん、見てないけど…」

俺はそれを聞いて核心に代わった。
奇跡の森…その先には奇跡の泉がある。
そして、そこには『アリアの樹』がある…。



ユシル 「やっぱりここにいたのか…ミリア」

俺はミリアの姿を確認すると、近づく。

ミリア 「………」

ユシル 「…今日は命日だから余計にか」

ミリア 「…母さんは生きてるわ」

ユシル 「俺の父さんは死んだよ…だから、さ」

ミリア 「私のせいで…死んだ」

ミリアは俯きながらそう呟く。
別に責める気はなかったんだが…。

ユシル 「別に気にしちゃいないさ…あれは父さんが自分で望んだことだ」

俺は樹を見る。
これだけの大きな樹があるのは世界中を捜してもこのガイアと言われるほどの樹だ。
アリアの樹…ミリアの母さんが未だに生き続ける場所。

ユシル 「…ミリア」

ミリア 「…行こう、これ以上は」

ミリアがそう言うと、俺はミリアに着いて行く。



ミリア 「………」

何も言うことはなかった。
ただ、私はもう少し母さんに甘えたかった…。
ただ…それだけを、想った。



Eternal Fantasia Third Destiny 「邪眼姫 〜イビル・アイ プリンセス〜」
END



作者あとがき


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