Prologue 『破滅への序曲』
第3幕 「八岐之大蛇」
それは、聖暦1022年。輝きの国光鈴にて起こった悲劇だった…。
降 「本当か!?」
栞 「ええ、間違いないわ」
光鈴の地下室には、ある『モノ』が封印されている。
それは、古の時代…奇稲田によって封印されし魔物。
その名は『八岐之大蛇』(ヤマタノオロチ)
その名通り、八つの首を持ち、巨大な体にて強大な魔力を有する伝説の魔物。
古に、奇稲田と三衛士の力により封じられた魔物である。
そして、それが今も光鈴の地下に封じられているのだ。
美鈴 「まずいです…かなりの力を感じます!」
我々は走りながら、地下の封印の場を目指す。
螺旋状の階段を走っていく、地下数100mと言う深さにそれはあるのだ。
降 「………」
未知が死んだ日…未来と言う名の娘を産み落とした日。
その時からこうなる予感はあった。
未知 「降さん…」
降 「ああ、立派な娘だ…!」
僕は未来を抱き上げて笑う。
だが、未知は悲しそうに。
未知 「ごめんなさい…私はもう」
力弱く、そう呟く。
声にも体にも、もう力が残っていないと言うことはわかっていた。
降 「未知! 弱音を吐くな!! きっと良くなる!!」
俺は叶わぬ夢とわかっていても、そういわずにはいられなかった。
未知 「違うんです…その娘は私と降さんの子供です。だから…」
俺はその時、ぞくりと悪寒を覚える。
降 「!? 血の盟約…!」
そう、過去に聞かされた盟約。
三衛士と奇稲田。
過去にも一度交わったことがあったとのこと。
その時も、子供が生まれると同時に…奇稲田は。
それは、呪われし定め…。
降 「未知!?」
すでに未知は息絶え絶えだった。
未知 「…未来、を」
降 「未来を…!?」
未知 「………」
それっきり、未知は何も言わなくなった。
突然だった。
身篭った時から、すでにこんな予感はしていた。
だが、あまりにも衝撃的だった。
そして、僕は、自分の運命を呪った。
降 「…ここかっ!!」
あまりにも深く降りた地下。
小さな灯篭を灯りに、狭い通路が一本だけ真っ直ぐ伸びる。
その場は岩に囲まれ、そして奥にひとつの祭壇があると聞く。
走ると意外にすぐ着いた。
祭壇は意外に広く、数十人は入れるスペースだ。
降 「あれか…?」
そこで、奇妙な人影に気づく。
そう、人がいるのだ。
降 「何者だ!?」
私は相手の殺気を感じてそう言った。
すると、長髪のこちらと似たようなデザインの黒い和服を来た男がこっちを見る。
まるで、儀式服のようだった。
袖は長く、口が太い。首に数珠をかけ、着物のようにも見えた。
男 「ふ…遅かったな」
男は剣を持っていた。
そして、その剣は見覚えがあった。
降 「まさか…!?」
男 「会えて嬉しいぞ草薙…」
直接会ったことはない。
だが、血が覚えている。
この男との闘いの記憶を…。
降 「雨之 村雲(あめの むらくも)…!」
俺がそう言うと、村雲はにやりと笑う。
村雲 「ククク…この時代では初めまして。そして、さようなら…」
栞&美鈴 「!?」
瞬間、ふたりが後ろの壁まで吹き飛び倒れる。
何も見えなかった…。
何をしたんだ!?
降 「一体…!?」
村雲 「はっはっは!! 大蛇は目覚める、この奇稲田の娘によってな!!」
そして、村雲の側には未来がいた。
降 「未来を!? 村雲、貴様ぁ!!」
私は草薙を抜いて切りかかる。
だが村雲の前に何か闇の壁が現れる。
村雲 「ふ…餌になるがいい」
村雲がそう言うと、突然壁が渦を巻いて私を包み込む。
降 「ぐあああ!!」
村雲 「はっはっは!! いいぞこれで世界も焼き払ってやる!!」
未来 「………」
降 「み、未来ーーー!!!」
それが私の最期の叫びだった。
悔しいが…何も出来なかった……。
村雲 「これで大蛇を脅かすものはない…奇稲田そのものが大蛇の母体となったのだからな」
未来 「……うう」
視界がぶれる。
意識を取り戻しそうだった。
でも、何かが違う。
そう、これは…?
村雲 「う!? うわ…な、何を…ぎゃああああああ!?」
ブシュンッ!!
情けない音をたてて、男が消えうせる。
これで静かになった。
未来 「……ぐ、オ・ロ・チ…?」
自分の中でふたつの意識が交錯している。
自分の意志とは別の意識が…。
栞 「ダメ…だわ、美鈴…動ける?」
私がそう言うと、美鈴は手だけを動かして、未来様に向ける。
美鈴 「………」
栞 「ありがとう…美鈴」
未来 「!? うわあああああぁ!!!」
体の中で何かが暴れる。
まるで全身を引き裂かれるような痛みだった。
そして、また意識が別の世界に向かう。
………。
大蛇 (クシナダ…マダハムカウノカ?)
未来 (………)
大蛇 (シカタアルマイ…ナラバイシキヲハカイシテデモ…?)
大蛇 (コ、コレハ!? マサカ…キサマハクサナギトクシナダノ!?)
………。
……。
…。
未来 「………」
長い時間が過ぎたようだった。
私は外にいた。
瓦礫となった家々、血の痕。
腐臭が空気に立ち込め、空も曇っているせいか、気持ち悪かった。
未来 「……私がやったのね」
そう確信できた。
自分の服や手についた、血の後。
そして両手に持っていた二本の剣。
一本は紛れもなく、父が使っていた草薙…もう一本は見たことがなかった。
私は腰に下がっているふたつの鞘に剣を収め、周りを見る。
美しかった光鈴の街は、完全になくなっていた。
どこを歩いても、人の気配はない、ただ死の気配はあった。
未来 「全滅…」
家だった場所も、すでにない。
まるで空間がねじ切れたように、クレーターが出来ていた。
どこまで下に続いているのかわからない程深い穴もあった。
未来 「………」
私は立ち尽くした。
何もない、この地で、私は気が狂うとさえ思えた。
でも、不思議と落ち着いていた。
その時、自分の存在を理解した…。
未来 「そっか…私……」
未来 「呪われたんだ…」
未来 「呪われた、血…」
未来 「それが、流れてるんだ……」
そんなことで納得できた。
自分がおかしくなっている気がする。
でも、こんな状況でそれを気づかせてくれるものは何もなかった…。
空虚な心に…呪われた血。
それだけが、今あるものだった。
私がその気になれば、世界すら破滅させることもできるのかもしれない。
未来 「……?」
泣き声が聞こえた。
ずっと遠くに…。
生存者がいるの?
私は駆けた。
誰よりも早く。
そして…誰よりも強く。
少女 「え〜んっ! え〜んっ!!」
未来 「…どうしたの?」
少女はビクっと体を震わせて、私を見る。
すると、少女は突然。
少女 「未来様〜!! 怖かったよぉ!! 蛇が…大きな黒い蛇が!!」
黒い蛇…大きな。
それを聞いて私は、感じる。
自分の中にある力を。
オロチノチカラヲ。
少女 「うう…」
未来 「…!!」
私は自分の中の闇を振り払う。
このままじゃ、私はこの娘まで殺してしまうかもしれない。
私は、少女を連れて街を出ることに決めた。
未来 「あなたの名前は?」
私は優しくそう言う。
少女 「鈴(すず)…」
未来 「鈴ちゃんね…じゃあ、私と一緒に行こう、ここはもう何もないから」
私は1度、鈴ちゃんをぎゅっと抱きしめ、そう言う。
鈴 「未来様…うん」
そして…私たちは歩き出した。
未来 「………」
鈴 「未来様…これからどうするの?」
未来 「家はもうないから、近くの国に助けてもらいましょう。ディラール王国なら、きっと受け入れてくれる」
私たちは手を繋ぎ、歩きながらそんな会話をした。
私は鈴ちゃんの手を離さないように歩いた。
少しでも、この子の支えになってあげたかった。
………。
……。
…。
やがて、道なりに3日ほど歩くと、目的の街ディラールの城下町が見えた。
街に入るのに、血だらけはまずいと思ったので、途中で見つけた湖で体と服を洗っておいた。
鈴 「未来様! 着きましたよ!?」
未来 「うん…良かった」
鈴 「大きな街…初めて見た」
鈴ちゃんは物珍しそうに、きょろきょろしていた。
私はとりあえず教会に向かうことにした。
あそこなら、受け入れてもらえるかもしれない。
しばらく歩いて、大きな商店街を抜けると、公園の先にその教会は見えた。
未来 「すみません…誰かいませんか?」
私が教会の入り口でそう言うと、ひとりのお婆さんが出てきた。
多分、シスターという職業の人だ。
シスター 「あら、随分…汚れて、旅の人かしら?」
未来 「あ、はい…あの、相談があるんです」
私がそう言うと、シスターは優しい笑みを浮かべ。
シスター 「何でしょう?」
未来 「この子を…お願いしたいんです」
私はそう言って、鈴ちゃんを前に出す。
シスター 「あらまぁ…随分小さい子ね」
鈴 「……」
鈴ちゃんは少し怯えているようだった。
未来 「大丈夫、この人は鈴ちゃんを助けてくれるわ」
鈴 「う、うん…」
私がそう言うと、鈴ちゃんは安心する。
シスター 「あなたのお子さん?」
未来 「い、いえっ…違います、そのこの子…両親が死んでしまって、それで…」
シスター 「そうなの…可愛そうに、わかりました。暫くこちらで預かります」
シスターは笑顔で、優しくそう言ってくれた。
未来 「そう言っていただけると、嬉しいです」
私はぺこりと頭を下げて、感謝する。
シスター 「…あの、もしかしてですけど…あなたはまさか、光鈴の人じゃないですか?」
未来 「…え、あ、あの…」
鈴 「うんっ、未来様は奇稲田のお姫様なの!」
鈴ちゃんが陽気にそう答える。
シスター 「…すみません、そうとは知らず」
シスターは立場を考えてか、謝りだす。
未来 「あ、いいんです! 気になさらないで!! 私、もう行きますから!!」
私は少し気まずくなって、すぐにその場を走り去った。
シスター 「あら…」
鈴 「未来様〜!! 頑張って〜!!」
鈴ちゃんの声が後ろから聞こえる。
今はその応援が、とても嬉しかった。
未来 (…がんばろう)
………。
……。
…。
未来 「はぁっ、はぁっ!」
さすがに走りすぎて息が切れた。
でも、意外にそこまできつくは無かった。
私って…こんなに体力あったかな?
思えば3日も食事をしていないのに、体力はあり余っている気がした。
お腹は減ってるけど…。
未来 「はぁ…」
私は公園で、噴水を見つけた。
そして、私は周りに人がいないのを確認する。
未来 「いいよね…水使っても」
私は噴水の水で1度顔を洗う。
手の汚れも取っておいた。
未来 「冷たい…」
でも気持ちよかった。
私はその後近くにあったベンチに座る。
私は自分の服を見て、まず思う。
未来 (こんな血の染みがついた服じゃ、目立つよね)
まず服を買う必要がありそうだった。
………。
未来 「…お腹すいたかも」
何も考えないでいると、ふとそう思った。
当然お金もあるはずがなく、途方に暮れる。
そして、いつのまにか身に付けていた二本の剣を見た。
未来 「よく考えたら、何であの時持っていたんだろう?」
未来 「…こっちは、お父さんが使っていた草薙」
間違いなく見覚えのある剣。
でも、どうして私が?
考えると怖くなった。
私がお父さんを殺して奪ったのかもしれない。
未来 「でもこっちは…?」
その瞬間、何かが脳裏をよぎった。
未来 「村…雲?」
何故だかその名前が出た。
何故だか、じゃない…知っていたからだ。
でも、それ以上追求はしなかった。
未来 「まるで、自分が自分でなくなっていくみたい」
私は体を抱えてうずくまった。
未来 「………」
暫くそうしていると、いつのまにか男3人に取り囲まれていた。
今流行りとでもいうのだろうか? 見たこともない髪形をしていた。
何やら、身軽そうな服装と意味のわからない装飾品をつけているのが印象的だった。
未来 「…? 何ですか?」
私は疲れた声でそう言う。
男A 「おおっ、美人だぜぇ…!?」
男B 「ねぇねぇ…これからデートでもどう?」
まさかこれがナンパってやつ?
光鈴ではそう言うのは珍しいので、初めてだった。
未来 「止めた方がいいわ…私は危険だから」
男C 「大丈夫、俺たちも危険だから!」
そう言って、男たちは下品に笑う。
ただの冗談のつもりなのだろう。
でも、私は笑えなかった。
未来 「死にたくなかったら止めた方がいいわ…」
私がそう言うと、男たちは笑いながら。
男A 「怖いねぇ〜、でもそんなこと言っても引き下がらないのよ俺たちは?」
そう言って男のひとりが私の肩に手をかけた瞬間。
ザブンッ!!
瞬時に私は男を噴水に投げ入れる。
いとも簡単に…自分でも不思議なほどだった。
男A 「やろっ、なにしやがっ!?」
私は男が反論する前に右手で草薙を鼻先に突きつけた。
未来 「言っておくけど…模擬刀じゃないわよ?」
私はそう言って左手で村雲を抜き、地面を少し切ってみせる。
男A 「ひっ! し、失礼しやした〜!!」
男たちは一目散に逃げ出した。
未来 「ふぅ…」
ぐぅ〜っ
しまった、運動したせいで余計空腹が…。
未来 「はう…」
せめて、食べ物でもおごってもらえばよかったかな?
何て、悪いことを考えつつも、まずは食べ物を探すことにした。
………。
未来 「と言っても私は文無し、お金も落ちてないし…どうしよう?」
そんな中、通り過ぎようとした広場で、歓声が上がる。
未来 「?」
私は何事かと、広場に向かって見ると…。
未来 「!? 賞金…5000G!って、どれ位の価値なのかな?」
光鈴では通貨が違うのでわからないが、それなりの値段のような気がした。
そして、何やらステージ上で妙に筋肉のある男が叫んだ。
男 「どうだ!? 俺に勝てたら賞金だぜ!?」
どうやら、あの男に勝てたらもらえるらしい。
未来 「って、何をして勝つの?」
私がそう呟くと、周りから声が聞こえる。
人 「ありゃあ、無理だぜ…かなりのパワーだ。腕相撲じゃなぁ」
未来 「腕相撲…?」
私はピンと来る。
そして、おもむろにステージに上がる。
男 「おっ? 姉ちゃん、いい度胸してるねぇ…俺とやるつもりかい?」
未来 「ええ、お手並み拝見と行くわ」
男 「はははっ、その細腕じゃ辛いと思うがな…とりあえず挑戦料貰おうか…500Gだ」
そう言って、その男は手を差し出す。
未来 「え? 挑戦料…? しまった…持ってない」
男 「おいおい…文無しかよ、それじゃあ話にならんぜ?」
そう言って、場が笑いに包まれる。
未来 「な、何よっ、要は勝てばいいんでしょ!? 貸しにしておいて!」
男 「OKOK…今日はそういうことにしよう!」
そう言って、男は用意する。
私も袖をまくって相手の手を握る。
男 「おお、綺麗な腕だねぇ…」
未来 「お世辞はいいわよ…」
そして、審判が頭上で手を交差し。
審判 「Fight!!」
ずばんっ!!
男 「ぐばぁ!!」
瞬間、男の腕を押し切って台が壊れる。
未来 「あ、やりすぎた…!」
ちょっと力を入れすぎたみたい…。
審判 「あ、え? え〜っと…」
観客 「………」
あまりのことに場内が沈黙する。
未来 「ん? 賞金♪」
私は笑顔で手を差し伸べる。
可愛く振舞ったつもりだけど、相手は笑ってなかった…。
………。
……。
…。
未来 「やっぱり…とんでもない力を身につけてる」
不思議に思ってはいた。
試しと思って、腕相撲をやったら結果があれ。
どうやら、私にない力が身についているらしい。
それも、私の意思で『ある程度』引き出せる。
ぐぅぅ…
私は腹を抑えて、食事をとることを優先した。
未来 「…何か視線が痛い」
とりあえず何か食べようと、レストランというところに入ったはいいけど、妙な視線に追われる。
私は目立たないように(無理だと思うけど)、すぐに食事を終え、次に服装店に向かった。
………。
未来 「えっと…」
見るが、和服のようなものは当然置いてなく、何だかよくわからなかった。
店員 「どうかなさいましたか?」
女店員が、私の側に来てそう言ってくれる。
未来 「えっと…そのよくわからなくて、動きやすくて丈夫な服ってあります?」
私はそう聞くと、店員は笑って。
店員 「それではこちらなどどうでしょうか?」
………。
未来 「思いのほか、いい服ね」
私は元のぼろぼろ服を引き取ってもらい、新しい服に着替えた。
それは白のシャツに、蒼い色の服を上に着て、さらにその上に黒いジャンパーというのを着ていた。
下着も布じゃなくて、ブラジャーとかパンティーとか言うものをつけた。
店員にはスカートを勧められたが、さすがにズボンにしてもらった。
後、別にどうでもよかったけど、腕輪を付けてくれた…おまけらしい。
更には、イヤリングとかいうのも勧められた…最初は耳に穴を開けると言われたので断ったけど…。
開けなくても付けれるタイプと言うことで、結局貰ってつけてしまった…(これもおまけらしい)。
未来 (やっぱりスカートは恥ずかしいよね〜)
私は自分のその姿を思い浮かべながら、財布を見る。
未来 「後、3000G…まだあるわね」
一回の食事で大体100G程度、服には1400G程かかった。
これだけあれば、余裕が持てそうだった。
未来 「でも、これからどうしよう…?」
私は途方に暮れた。
行く所はもうない。
でも、探さなきゃならない。
未来 「そういえば…聞いた事があるわね、メルビスの町に住む名医の話」
確か、有名な人がいるって言う話。
私はその手がかりだけで、進むことに決めた。
もしかしたら、私の事がわかるかもしれない…。
今は、それだけが頼りだった…。
…To be continued
次回予告
セイラ:それは突然の出来事でした…。
突如街を襲った野党たち。
その中、奇跡の森が焼かれていく…。
その日、私たちは決意しました。
次回 Eternal Fantasia 4th Destiny
第1話 「ソウル・オブ・アリア」
セイラ 「私たちが…やらなければならないんでしょうか?」