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第4話 「Wheel of Fortune」

ユシル 「…あれが、メルビスの町」

俺たちはエレル山を無事に降り、森を抜けた所で、次の目的地『メルビス』の町を目視することが出来た。

セイラ 「思ってたよりも、小さい町ですね…」

セイラが町の大まかな形を見てそう言う。

ルミナ 「元々、町というよりも村に近い存在だからね」
ルミナ 「何百年か前に、医者のいないあの村に救世主として現れたのが、ユミリア先生だと伝えられているから」

ルミナが丁寧に解説してくれる。
それを聞いてセイラは頷く。

セイラ 「教科書にも載ってました、最初は知り合いの人や肉親が載ってるのを見て驚いたのなんの」

そりゃそうだ、教科書に載ってるってことは、ほとんど誰でも知ってることでもあるだろうからな。


バルバロイ 「………」

マーズ 「浮かない顔をしているな」

マーズさんがそう語りかけてくる。
実際、俺の顔は浮かないのだろう。
確信に近い物が頭にあったからだ。

バルバロイ 「いえ…着けばわかることでしょう」

俺はそれだけを言って歩き出した。



………。
……。
…。



『メルビスの町』

特に目立った物はないが、旅人がよく拠り所にすることで有名。
名医ユミリア・デミールによって、死の村となる所を救われ、今もなおひっそりと存在し続けている。
町として発展することはほとんどなく、昔のままを保っているという…。



ユシル 「…静かな町だな」

最近世間でよくないニュースが流れているせいか、外を歩いている人間はいなかった。

セイラ 「天気もいいのに…ね」

セイラは空を見上げてそう言う。
本日は快晴だ。

バルバロイ 「…こっちだ」

バルバロイさんが先導していく。
目的地は病院だ。
あの、ユミリアさんがいる。

ミリア 「………」

心なしか、ミリアの表情が暗いように見えた。



………。



『ミラ医院』

それは町の中心部にあり、この町の唯一の病院である。
大きな物ではなく、個人経営の医院だが、優秀な医者がいるということで、世界的にも重要な地点であった。
大きな怪我や病気にかかった者は、わざわざここに来るほどである。



ルミナ 「…ここが、あのミラ医院ですか」

ユシル 「…ユミリアさんが経営してるんじゃないのか?」

それなら『デミール医院』となるはずだからな。

セイラ 「入ればわかると思うけど…」

そう言って、俺たちは入ることに。
まず、バルバロイさんがドアを開けて中に入る。

バルバロイ 「…すまない」

バルバロイさんが中に入ってそう言う、すると奥の左側にあるカウンターにいる受け付けの女性が。

看護婦 「はい、どうかなさいましたか?」

丁寧な物腰で、受け付けてくれる。
見たところ、30台後半位の歳に見えた。
慣れているのだろう、ベテランの看護婦だ。

バルバロイ 「…ユミリア先生は、いるだろうか?」

看護婦 「先生に用でしょうか? 失礼ですが、お名前は…?」

看護婦さんはそう言って、名前を聞いてくる。
さすがに、見知らぬ人間と合うのは問題があるのだろう。

バルバロイ 「…ユウ・プルートの子供が会いに来た…そう伝えてくれ」

ユシル 「?」

バルバロイさんは確かにそう言った。
何故…? 俺、か?
セイラかもしれないが…。
看護婦さんはそれを聞いて、奥に入っていった。



看護婦 「…ユミリア先生」

私は、先生の個室の前で、ドアをノックする。
すると、数秒の後、答えが返ってくる。

ユミリア 「…鍵は空いてるわ、ララ」

私はその声を聞いて。

ララ 「失礼します…」

私はドアを静かに開けて、中を見る。
先生は椅子に座って本を読んでいた。
白衣は壁にかけてあり、黒い普段着のシャツを着ていた。
先生は本を閉じて机に置く。

ユミリア 「…どうしたの? 急患かしら」

先生は椅子から立ち上がり、そう聞く。
私は言われたままを口にする。

ララ 「…ユウ・プルートの子供が、会いに来たそうです」

ユミリア 「!?」

私はこの時、初めてユミリア先生が驚いた顔を見た気がする。
冷静なユミリア先生が、明らかに顔に出していた。

ユミリア 「…わかったわ、すぐに行きます。面会室に案内して」

そう言って、先生は険しい顔をしながら白衣に手をかけた。

ララ 「はい」

私は先生に一礼し部屋を出て受付に戻ることにした。



ユシル 「何故…俺たちなんですか?」

俺は気になっていたことを言った。
すると、バルバロイさんは当たり前のように。

バルバロイ 「…ユミリアさんを動かすことができるのは、お前たちだけだからだ」

ユシル 「動かす…?」

バルバロイさんは壁に寄りかかってそう言う。

バルバロイ 「…これから俺たちの命運を決めるのはお前たちにかかっているといっても過言ではない」

ユシル 「……」

自信はなかった。
しばらくすると、中から看護婦さんが出てくる。

ララ 「…どうぞ中に、お会いになるそうです」

バルバロイ 「…わかった。ユシル、セイラ、ミリア…お前たちで会え。後は任せる」
バルバロイ 「ユシル…ありのままを伝えろ、隠す必要もないし、遠慮する必要もない」

ユシル 「…はい」

俺はそう答えて、とりあえず中に入ることにする。
看護婦さんの案内の下、俺たちは面会室に入った。



………。



中は普通で、周りが白い壁で囲まれている。
大きな長方形のテーブルがひとつ置いてあり、椅子が何個か設置されている。
そして、そのひとつの椅子にひとりの女性が座っていた。
長い髪を背中の辺りでヘアバンドで止めている。
年齢を感じさせず、何百年と生きているというのに若さを保っていた。
白衣に身を包み、どこか憂いのある表情。
それは、もうずっと昔に見たきりの顔だった。

ユシル 「…ユミリア、さん」

俺がそう言うと、ユミリアさんは顔をこちらに向ける。
俺の覚えている顔と変わりがない…年齢的には。

ユミリア 「…座りなさい」

ユミリアさんは小さくそう言った。
俺たちはユミリアさんの向かいの席に座った。



………。



しばしの沈黙。
何を話せばいいかわからなかった。
ユミリアさんは、ただ俺たちの言葉を待っているようだった。

ユミリア 「……どうしたの? 何か用があって来たんでしょう?」

ユミリアさんがそう促す。
だが、俺の口からは言葉が出なかった。
何を言えばいい? 何を言っても無駄な気がした。

セイラ 「…単刀直入に言います、私たちに力を貸してください!」

俺が口篭もっていると、セイラがそう言う。
するとユミリアさんは至って冷静に。

ユミリア 「…断るわ」

ユシル 「………」

予想通りの答え。
この人は…あの人と同じなんだ。
あの日から、変わってしまった。
あの事件から…。

俺が諦めたように黙っていると、セイラは俺の予想外の行動に出る。

セイラ 「どうしてですか!?」

ばんっ!

セイラが強く机を叩いて、聞く。
セイラがここまで強く主張するなんて余程のことだ。
大抵は温厚に済ませる性格のはずなんだがな…。
これが地ってことか?
だが、ユミリアさんは全く取り乱さない。
まるで、予想していた事態のように、流す。

ユミリア 「私はもう戦えないからよ」

ユミリアさんは静かに、そう答えた。
俺は冷静にこう答える。

ユシル 「…レイナさんと同じように、ですか」

俺はあえてそう付け加える。
すると、ユミリアさん表情に曇りが見えた。
俺が『レイナさん』という表現をしたことに、何かしら感じ取ったのだろう。

ユシル 「あなたたちはそうだ、周りで何が起こっても知らぬ振りをする」
ユシル 「自分たちが傷つくのが嫌だからそうやって逃げる」

俺はバルバロイさんに言われた通り、自分の思っていることを隠さず言った。
セイラも予想していたのか、何も言わない。

ユミリア 「違うわ!! あなたに何がわかると言うの!? 知った風な口を聞かないで!!」

これまた予想外にユミリアさんは右手で机をバンッと叩いて食って掛かる。
あの人とはこう言うところが違うようだ…見た目ほど冷静じゃない。
今度はセイラが話す。

セイラ 「…同じですよ、お母さんと…心の中では手伝いたいのに、自分が傷つくのが怖いから、心の中に逃げ込んでいる」
セイラ 「心の傷を盾に、誰よりも辛いと思い込んでいる…だから戦えないなんて『嘘』を言うんです」

知らなかった、セイラがそう言う風に考えていたなんて。
いつも俺があの人に言う時は、怒るくせに…自分もそう考えていたなんて。
いや、だから…か。

ユミリア 「…違う、私は」

ユミリアさんは弱気になって頭を抱え、虚ろな目でそう答える。
この人は…確かに悲しい人のようだ。
俺にはわかりきれないが、きっと誰よりも生きてることを苦痛に感じているんだろう。
そうでなければ、こんなに強い人が、弱くはならない。

ミリア 「…お母さんは、ユミリアさんに生きていて欲しかったんです」

ここで、あのミリアが口を開く。

ミリア 「…私たちのために、お母さんはユミリアさんに託したんです」
ミリア 「…ユミリアさんには、生きてできることがあるから」

静かに、ミリアの声が響き渡る。
ユミリアさんは俯いて表情を見せない。
ただ、肩を落として、何かを考えているようだった。

ユシル 「…俺たちは行きます、戦うために。俺たちには、守る物がありますから」

俺はそう言って、立ち上がる。
これ以上は、何を言っても意味がない気がした。
言えることは言ったつもりだ。

セイラ 「お兄ちゃん…」

セイラも立ち上がる。
俺はその場を離れることにする。

ミリア 「………」

ミリアもこれ以上は何も言わなかった。
立ち上がって、ユミリアさんを一瞥するだけだった。
俺たちは言葉を交わさずに部屋を出ようとする。

ユミリア 「…待ちなさい」

ユミリアさんに呼び止められる。
俺は俯くユミリアさんを見る。

ユミリア 「…私に、まだ何か出来るというなら」

ユミリアさんはそう言って立ち上がり、白衣の上着を脱ぐ。
すると、黒い半袖の肌着が現れ、ユミリアさんの細い腕が見える。
決して大きい方ではない胸のラインがくっきりと見え、思わず綺麗だと見惚れてしまった。

ユミリア 「…もう一度だけ」

そう言って、ユミリアさんは茶色い皮の上着を着込んで、側に置いてあった一振りの剣を身につける。

ユミリア 「…戦うわ」

セイラ 「ユミリア、さん…」

ユミリアさんは俺たちの前に立ち。

ユミリア 「…私だけなら、何とも思わなかったけど…他の人間と同じっていうのは気に入らないわ」
ユミリア 「私が、他の人間と違うと言う所を…証明してあげるわ」

ユミリアさんは、小さくそう言った。
俺はすこし引っかかったが、良しとした。

ユシル 「…期待しています」

俺は笑ってそう言う。
ミリアも嬉しそうに見えた。



………。
……。
…。



セリス 「そうですか…また、行かれるのですね」

この医院の管理者でもあるセリス先生が俺たちを見送ってくれた。
この人は、ユミリアさんの弟子で、医者となり、この病院をもらったそうだ。
ユミリアさんの弟子なのに、ユミリアさんよりもずっと歳を老いているように見える。
それが、何だか奇妙だった。

ユミリア 「…どうせなら、最後まで戦うわ」
ユミリア 「300年前のあの事件から…私の戦いは終わらなかった、それを…今度こそ終わらせるわ」

ユミリアさんの瞳には、ひとつの決意があった。
それは、俺にはわからない…だが。

ユシル (300年前に…何かがあったってことだもんな)

その事件は余程ユミリアさんにとって、辛いことだったのだろう…ガイアでの事件と同じ位に。
そして、ユミリアさんは300年間もの間、苦痛と共に生き長らえてきた。

ユシル (…弱くなっても仕方がなかったのかもしれない)

マーズ 「300年前か…懐かしい物だな。あの時のお前は、まだ若かったが」

マーズさんは昔を懐かしむように、笑ってそう言う。

ユミリア 「あら、あの時のあなたもそうだったはずだけど?」

ユミリアさんも負けじと笑い返す。

バルバロイ 「…俺も似たような物ですがね」

ここでバルバロイさんも参加する。
くそ…何か悔しいぞ。
大人ならではの会話に見えた。

セリス 「…先生。どうか、お元気で」

セリスさんは、何かを祈るような素振りでそう言う。

ユミリア 「…そうね、体には気をつけるわ。あ、そうそう…私が帰ってきたら」

セリス 「極上のお酒を用意しておきます」

セリスさんがそう言うと、ユミリアさんは笑って。

ユミリア 「楽しみにしてるわ」

そう答えた。
この時のユミリアさんの笑顔は、俺が昔見た笑顔のように思えた。

ルミナ 「………」

ティナ 「どうしたの?」

ルミナが何やら考え込んでいる。

ルミナ 「いや…確か、ユシルさんとセイラちゃんは種族がわからないって言ってたから…」

俺はああと、頷く。
今更どうでもいい気はしたが、自分の事だけに気にはなった。

ルミナ 「確か、ユミリアさんならわかるって聞いたんですが」

ティナ 「そういえば、あにぃがそんなこといってたね」

そう言って、俺たちはユミリアさんに注目する。

ユミリア 「…突然ね、知りたいの?」

ユミリアさんは俺を見てそう聞く。

ユシル 「そうですね…さすがに、自分の事を知らないって言うのはちょっと…」

俺は曖昧だがそう答える。

ユミリア 「…そうね、一応あなたが産まれた時は検査をしてあるけど…あの時はセントサイドでの対象だったから、人族と認識されていたわ」

ユミリアさんが、そう解説する。
認識されていた?
妙に引っかかった。
過去形ってことは…。

セイラ 「それって…今は違うってことですか!?」

セイラが驚いたようにそう聞く。

ユミリア 「…再検査してみないことには細かくはわからないわね、セリス…できる?」

ユミリアさんはセリスさんに聞く。

セリス 「…わかりました、ではユシル君、セイラちゃん、こちらへ」

セリスさんが俺たちを検査室に連れて行く。
そこで、簡易的に検査を行った。
血液、遺伝子、細胞…その辺りを主に調べられた。


………。
……。
…。


セリス 「結果が出ました…」

検査が終わって1時間。
俺たちは待合室で待っていた。

ユミリア 「…カルテを見せて」

ユミリアさんがそう言うと、セリスさんはカルテを見せる。
ユミリアさんはそれに数分目を通す。

セイラ 「ど、どうなんですか…?」

セイラが少々不安気味に聞く。
すると、ユミリアさんは少し険しい顔をする。

ユミリア 「…強化族」

ユシル 「…強化族? 聞いたことないな」

マーズ 「……」

ティナ 「…あにぃ、どうしたの?」

マーズさんが神妙な顔をして黙っているので、ティナがそう呼びかける。

バルバロイ 「…プルート帝国直系の証か」

バルバロイさんがそう答える。
ユミリアさんは頷き。

ユミリア 「…細胞の再生速度、血液の循環、そしてDNA…ユウ君のそれと、テラ、ディードの両名とも一致したわ」

ユシル 「…ディード叔母さんやテラ爺さんのDNA」

話には聞いていたが、まさか特別な種族だったなんて。

ユミリア 「ユウ君は強化族の鑑定が出なかった…これはユシルの時の力でしょうね」

ユミリアさんがそう言う。
父さんって、俺のせいで何かあったのか?

バルバロイ 「ユシル・オメガか」

オメガ…? 俺はプルート…ああ、別人のことか。

ユミリア 「時の力の影響で…ユウ君は強化族としての血は持っていても、力はなかった」
ユミリア 「検査の結果でも出ているけど、強化族の血は…最も優性なのよ」

ルミナ 「つまり…どの種族と配合しても」

ユミリア 「常に、強化族が上回る…ゆえに、このふたりも」

強化族…。
俺とセイラはそうなのか…。

ユシル 「それは、どんな種族なんですか? 聞いたこともないですけど」

俺はとりあえずそう聞いてみる。

ユミリア 「…一言で言えば、化け物よ」

ユミリアさんは冷静にそう答える。
化け物って…。

ユミリア 「純正なら、歳を取る事もないでしょうね…」

ユシル 「純正…? 俺は…違うんですか?」

ユミリア 「あなたの母であるネイは人族よ…だから、混血」
ユミリア 「不老不死ではないけど、普通の人間よりかは長生きするわね…細胞の強さがその証明」
ユミリア 「通常の数倍の速度で再生するし、老化も極めて緩やか…」
ユミリア 「…無論、脳に与える影響もそれに比例するわ…その気になれば、飛んでくる銃弾さえ見えるでしょうね」

恐ろしいことをさらりと言う。
そんな能力が、俺たちの中に…。

ユミリア 「ただ、ユウ君が持っていた、時の力は使えない」
ユミリア 「元々あれは、禁断の魔法だし、無い方がいい位だけど」
ユミリア 「それに代わる能力が、恐らくあるわ」

よくわからない…とにかく、とんでもない能力が俺たちにはあるということか。

ユミリア 「…力を解放できるようになれば、恐ろしい物を見ることになるかもしれないわ」

ユミリアさんはそう脅してくる。

セイラ 「私に、飛翼族としての能力はあるんでしょうか?」

セイラがふと尋ねる。

ユミリア 「…そうね、検査の結果を見るかぎりでは、ほとんど無いわ」
ユミリア 「それに関しては検査でわかる物ではないの…レイナを例にあげるのなら、あなたにも母親と同じことができれば、少しでも持っているという事よ」

セイラ 「お母さんと同じこと…」

ユミリア 「光の翼とかね…あれはレイナに翼があったからだろうけど、母親譲りの光の力が覚醒すれば…」

あの人の力ね…光の力か、ユミリアさんが言うんだったら、相当な物だったんだろう。

ユミリア 「以上ね、そろそろ…出発しようかしら?」

ユミリアさんがそう言う、俺たちは全員頷き、旅立ちを…。

? 「す、すいません…」

突然、入り口の扉が開いて、ひとりの女性が現れる。
長い髪を靡かせ、白いヘアバンドを額に巻き、胸の辺りまであるもみあげを首の高さでバンドしていた。
服は、蒼い色のシャツの上に、黒いジャンパーを着て、藍色のジーンズを履いていたりするのを見ると、割と流行者のようだ。
他には腕輪、イヤリングといったオプションもバランスよくつけており、センスの良さが伺える。
第一印象は美人だった、が。
腰にぶら下げている二本の刀が妙にバランス悪く見えた。

ユシル (って言うか、この人どこかで…?)

何故か、そんな気がした…間違いなく初対面のはずだが。

ユミリア 「…今度は誰? その刀を見ると、光鈴の人間というはわかるわ…それも3衛士クラス」

女性 「…あ、えっと、その…実は、私…奇稲田 未来と言います」

その人はそう自己紹介する。
前かがみに頭を下げるあたり、作法がしっかりしているようだった。

ユミリア 「…穏やかじゃないわね、奇稲田なんて」

ユミリアさんはそう言う。
奇稲田…変な名前だな。

セイラ 「…そ、それって…まさか、未来お姉ちゃんですか!?」

セイラがそう叫ぶ。
何だ、知り合いか…?

未来 「…えっと、ごめんなさい…あなたは?」

その女性はわかっていないようだった。
何がどうなってるんだ?

セイラ 「私、ユウ・プルートの娘、セイラ・プルートです!」

それを聞くと、女性は手を合わせ。

未来 「じゃあ、あなたは私の従姉妹の!?」

は…? 従姉妹…?

セイラ 「はい! ああ、やっぱり…未知伯母さんの娘なんですよね?」

未来 「ええ…そうよ」

何だか、途端に朗らかムードになる。
この人、何しにここに?

ユミリア 「…悪いけど、用は早く済ませてもらえない? こっちも、旅立ちの用意があるの」

ユミリアさんがそう言う。
ここまで無視されてたからな。
未来ははっとなってユミリアさんに言う。

未来 「その…私の中にある力が良くわからなくて」

未来は、自分の力に怯えるようにそう言った。

ユミリア 「…奇稲田の力は神の力よ、よくわからなくて当然」
ユミリア 「ただ、それは…」

ユミリアさんが解説しようとすると、未来が言葉を放つ。

未来 「違うんですっ! 私の中に、別の意思が存在するんです…それで、その力は危険なんです!!」

ユミリアさんは、疲れたように。

ユミリア 「詳しく話してくれる?」

そう言って、結局また腰を落ち着けた。
出発は明日になりそうだな…。



………。
……。
…。



未来の話は、衝撃的だった。
自分自身の力で、故郷の街を滅ぼし、肉親を殺したという事実。
自分の中にある、別の意思。
さすがのユミリアさんも、考え込んでいた。

ユミリア 「…八岐之大蛇、多分ね」

ユミリアさんが考えてそう言う。

ルミナ 「確か…遥か昔に光鈴に封じられた魔物ですよね?」

ルミナがそう聞く、こう言う知識はさすがだな。

ユミリア 「そうよ、私が産まれるよりも昔の話ね…私も伝説でしか知らないわ」
ユミリア 「ただ言えることは、奇稲田の対極…いわば天敵とも言えるわ」
ユミリア 「それが、あなたの体の中にいる…これは危険極まりない状況ね、いつ暴走してもおかしくないわ」

未来 「…やっぱり、そうなんですか」

未来は、俯いて、震えている。

ユミリア 「でも、何がきっかけかはわからないけど、あなたは自我を保っている」
ユミリア 「大蛇の覚醒を押さえつけてね」
ユミリア 「…あなた次第とも言えるわ、私には残念だけどわからない」
ユミリア 「でも、あなたが自分でそれを受け入れ、正しい方向に導いたなら、きっと…」

未来 「できるんでしょうか? 本当に…」

ユミリア 「…それはあなたにしかわからないわ」

ユミリアさんはそう言って区切った。
もう時間が遅くなってしまっている、これは明日になりそうだ。

ユミリア 「…時間はもう夜ね、予想以上に時間がかかったわ」

バルバロイ 「俺たちは宿に泊まります」

マーズ 「む」

そう言って、俺は病院を後にする。
後からマーズさん、ルミナ、ティナが着いてきた。

ユミリア 「明日の朝に町の北門でね」

ユミリアさんは最後に一言そう言った。


未来 「あ、あの…」

ユミリア 「…どうしたの?」

未来 「実は…ここまで来るのに、旅費を全部使い切ってしまって、その…」

セイラ 「だったら、一緒に行きましょう! 未来お姉ちゃんと色々、お話したいですし」

セイラは嬉しそうにそう言う。
余程嬉しいんだな。

未来 「で、でもいいの?」

未来は、遠慮がちにそう言う。

ユシル 「まぁ、従兄妹を放ってはおけないからな」

未来 「…あ、ありがとうユシル兄さん」

未来は少しはにかんでそう言った。
畜生…何気に可愛いじゃないか、セイラよりも。
セイラの代わりに妹に欲しいぐらいだ。

セイラ 「…悪かったわね、可愛くなくて」

どうやら口に出ていたようだ…。

ルミナ 「未来さん、歳はユシルさんよりも下なんですか?」

ティナ 「あ、それボクも気になる!」

まぁ…見た目だと、確かに大人に見えるからな未来。

未来 「私は…今年で19歳だから」

ユシル 「俺は20」

セイラ 「そうだったんだ…私、てっきりお兄ちゃんより上だと思ってた」

セイラは知らなかったようだ、俺は聞いたことあるからな…あの人にだが。

ユシル 「残念だな、俺が一番上だよ」

俺は勝ち誇ったようにそう言う。

セイラ 「…別に偉くもなんとも無いけど」

セイラは呆れたようにそう言う。

ミリア 「………」

くいくい…

ユシル 「ああ、わかった、行こう」

俺はミリアに袖を引っ張られて、宿に向かう。


未来 「……」

お姉ちゃんはやけにぼ〜っとお兄ちゃんを眺めてる。
私はこの時ぴ〜んと来る。

セイラ 「…お姉ちゃん、もしかして…?」

未来 「え!? ううん、まさかっ…わ、私は…その……」

私はまだ何も言ってないのに、うろたえる。
やっぱり…未来お姉ちゃん、お兄ちゃんのこと…。

セイラ 「でも、まぁ…お兄ちゃん、あれじゃね」

私はミリアさんと手を繋いで歩くお兄ちゃんの背中を見て、そう言う。

未来 「…だから、私は違うのに」

セイラ 「……」

明らかに、そうは思えなかった。
従兄妹って…禁断よね。
でも、それ以上に、聞きたいことがあった。

セイラ 「…お兄ちゃんの、どこがそんなにいいのかな? ミリアさんもそうだけど、未来お姉ちゃんは初対面なのに」

私があえて、そういう言い回しをすると、案の定未来お姉ちゃんは。

未来 「頼れそう…かな、何だか…守ってくれそうな感じがするから」

結局そう言ってくれる。
もう決定ね!
これは難しい問題ね…ミリアさん内気と思ったら、お兄ちゃんにはやけに積極的だから。

セイラ (私にとっては、どっちも応援したいのよね〜…でも、お兄ちゃん無駄に人がいいから)

少なくとも今の所ミリアさんにぞっこんだからなぁ…。
この問題のせいで、今夜は眠れそうに無かった。
お兄ちゃんのせいね…もう決定。



………。
……。
…。



やがて、夜は明け…。





ユミリア 「…行動は任せるわ、今更私が仕切ることも無いでしょうし」

ユシル 「じゃあ、バルバロイさん…?」

バルバロイ 「いや…ここから先はユシル、お前が仕切れ」

突然、俺に振られる。

ユシル 「って、ええ!? 俺に、ですか…!?」

さすがにプレッシャーがかかる。
若い連中だけならいざ知らず、バルバロイさんたちのような熟練者を指示するなんて…。

バルバロイ 「お前には十分人を引っ張る力はある、お前の父はその力があるにもかかわらず、いつも退いていたがな」

マーズ 「…異論はない、任せるぞ」

ユミリア 「そうね、かつてのユシルが、私たちを率いたように」

ミリア 「…頑張って」

未来 「兄さんなら、きっと出来ますよ」

セイラ 「…まぁ、先行き不安だけど、サポートするわ」

ルミナ 「地理とかは、俺が教えますから、しっかりと先導してくださいね」

ティナ 「ボクもOKだよ」

皆がそう言う、どうやら逃げ場はないようだ。

ユシル 「…しょうがねぇな、わかった、どんなことになっても恨むなよ?」

俺は、先導して歩く。
目的地は帝国。
問題は海からということか…なら港に行かないとな、ここから近いのは。

ルミナ 「セイレーンからが1番近いですよ」

俺はそれを聞いて、歩く。
北か…とにかくそれだな。
俺はこれから起こるであろう、事態を予測することは出来ない。
だが、仲間を信じて突き進むしかなかった、生死不明のもうひとりの従兄妹を救うために…。

…To be continued



次回予告

セイラ:以前、私たちを襲った忍者部隊。
それが再び私たちに牙を剥く。
海上での戦いに不慣れな私たちは、船を沈められ、水中戦を余儀なくされる…。
そんな中、ムゥ四天王のひとり、青龍が現れる。

次回 Eternal Fantasia 4th Destiny

第5話 「危機」


セイラ 「これが、敵の力…」



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