Menu






ポケットモンスター あなざ〜その2



『絆〜水の街より〜』




久しぶりにあなざ〜第二弾。
ネタがなきゃあなざ〜は書けないんだがネタが思いついたので公開〜。
さて、今回は 絆〜水の街より〜 という題名だがこれはYuki氏のPOCKET MONSTER The Another Storyの世界観をモチーフにした作品である。
てか、ぶっちゃけキャラとか一部使わせてもらっているからYuki氏の世界に俺が勝手に乱入した感じ。
本当に、ぶっちゃけ世界観とか設定とかはそのままYuki氏のを採用しています。
まぁ、Yuki氏のルビーも似たような物なので…。
では、ごゆっくりお楽しみください。





ここは水の中…。
深い…深い海の中…。
その海の中に1つ…ある神殿があった。



………



ラグラージ 「よう…じいさんよ…用事って何だよ?」

海の底の神殿…その中は広いと言えば広いが中は広間しかない一風変わった神殿だった。
外は古代ギリシャの神殿のような姿をしており一見すると水浸しで老朽化は激しそうな姿だが神殿の周りは気泡に包まれており神殿はよく手入れがされていた。
さて、中には彼…ラグラージの『レイジ』とあるキングドラの老人、『グラン』がいた。
老人は玉座に座っていた。

グラン 「ふむ…すまんのう…わざわざ来てもらって」
グラン 「お主に来てもらったのは他でもない…実はある頼み事があったんじゃ…」

レイジ 「頼みごと…?」

俺はそう聞くとじいさんは手を合わせてこの神殿で唯一の個人部屋の方を見てこう言う。

グラン 「おおい、でて来ておくれ」

ガチャ

じいさんがそう言うと部屋の扉が開き、そこから一人の少年が出てくる。

少年 「あの…はじめまして」

少年は部屋から出てくると俺の前に来てぺこりと頭を下げた。
少年の身長は160cmちょっと、俺が173cmだからちょっと俺より身長は低い。
体格はどちらかっと言うと華奢なように見える、が、弱くはなさそうだ。
少年の姿はさっぱりとした青のジャケットに麻のような長ズボンを履いていた。
ジャケットの下は白のTシャツのようだ。
あと、右の中指にクリスタルの指輪をはめていた。
全体的に見ても美少年に見える、年齢は16くらいか…?
種族はわからない、俺と同じ水タイプのように見えたが見たことのない種族だ。

グラン 「スイクンの『アウル』じゃ、実はお主への頼み事はこの子が関係しておる」

レイジ 「スイクン…伝説の三獣士の一人か…」

この世には三獣士と呼ばれる者がいる。
それぞれ水のスイクン、雷のライコウ、炎のエンテイがいる。

アウル 「あの、僕はまだ三獣士って訳じゃないんです」

レイジ 「三獣士じゃない…?」

グラン 「そいつはの、三獣士候補なんじゃ」
グラン 「一概スイクンと言っても多くのスイクンがこの世界にはおる。そのアウルはその一匹に過ぎんのじゃよ」

じいさんは玉座に座りながら淡々とそう俺に説明する。
ほう、スイクンってのは一匹だけじゃないのか。

レイジ 「あん…? でも今、候補って言ったよな…?」

グラン 「中々鋭いの…その通りじゃ」
グラン 「実はお主にはこのアウルをカイオーガこと『ガーヴ』様の元まで届けて欲しいんじゃ」
グラン 「そこで正式な三獣士の儀式を行う、よろしく頼むぞ」

レイジ 「ちょっとまて、じいさん、何で俺がガーヴ様の元までこいつを送らないといけないんだよ」
レイジ 「それくらいあんたでも出来るだろうが」

グラン 「お主、この老いぼれに行かせる気か?」

レイジ 「そういうのは老いぼれらしくしてから言えっての」

アウル 「あの…レイジさん、俺からもよろしく頼みます…」

レイジ 「…ち、わぁったよ、送りゃいいんだろ」

さすがに本人に頼まれたら断ることも出来ない。
俺は仕方ないのでこの場は承諾しておく。

レイジ 「だが、俺はガーヴ様の居る所知らねぇぞ」

少なくともガーヴ様は海を統べる神、いわゆる雲の上の存在だ。
俺ごとき庶民の知るところではない。
そりゃ、じいさんとかなら身分も高いし知ってるかもしれないがな…。
ちなみに俺はじいさんと連呼しているが実際は様付けしてもいい位のお人だ。
竜族の国の王族とも精通しており、自身もドラゴンタイプなのだ。

グラン 「心配するな、ワシも知らん」

レイジ 「は…?」

じいさんはあまりにも期待はずれなことを言う。

レイジ 「ちょっと待て…じゃあ、どうやって送れって言うんだよ…」

俺はさっきも言ったが居場所は知らない。
その上でじいさんも知らないって言われたら俺はお手上げだぞ…?

グラン 「そこらへんは顔の広いお前さんに任せるぞ」

レイジ 「あのな…」

確かに俺は顔が広い。
海上にあがってすぐに見える大陸の半島部分の岬にある港町『アクアレイク』に俺は住んでいるがここで俺は知らない奴はいないほど町に溶け込んでいた。
まぁ…ひょっとしたら知ってる奴はいるかもしれねぇな…。

レイジ 「しゃあねぇ…なるようになれか…」

グラン 「うむ、その通りじゃ、頑張ってくれ」

レイジ 「気楽に言うなっつうの…行くぞアウル」

アウル 「あ、ハイ」

俺はそう言うと神殿の外に歩き出した。





レイジ 「お前、当然水中は大丈夫だよな?」

アウル 「はい、大丈夫です」

俺は一応アウルに聞いておく。
神殿の中は気泡に包まれているがその外は深海だ。
浮上すれば上に船で知り合いに待機してもらっているから大丈夫だが水中がダメだったら終わりだからな。
まぁ、ここに来れた時点で水中は大丈夫に決まっているか…。

レイジ 「んじゃ、海上に上がるぞ」

アウル 「ハイ」

俺はそう言うと神殿の外の海中に出て浮上をはじめる。

レイジ 「お前、水中でも息できるよな」

アウル 「大丈夫です」

一応そのことも聞いておくがアウルは大丈夫なようだ。
ちなみに水中で息をすると言うことは俺たち水タイプでは当たり前のことだ。
出来て当然なのだがいかんせんスイクン種は初めてだからな。
もし、息が出来ないんなら早く浮上しないといけないからな。
ちなみに自慢じゃないが俺は泳ぐのが苦手だ。
俺たちラグラージ種は皆共通でそうだが地面とかを走る方が速く移動できる。
俺たちは地面タイプも入っているからな。

アウル 「! あれは…?」

アウルは浮上してある程度経ち、太陽の光を強く感じ始めたころ水面にある小型の船があることに気付く。

レイジ 「ああ、知り合いの船だよ、あらかじめ待機してもらっていたんだ」

アウル 「知り合いのですか」

レイジ 「ああ」

俺たちは水面まじかでそう言った会話をしながら水面から顔を出した。

男 「おう、やっと帰ってきたか!」

俺が海面から顔を出すとある漁師のようなおっさんが出てくる。
そのおっさんの名は『トール』、ニョロボン種のおっさんだ。
ちなみに年齢は48だ、俺は24ね。

レイジ 「すまねぇな、上がるぜ」

トール 「手助けいらねえな?」

レイジ 「いるわけないだろ」

トール 「ちがう、お前じゃない、その後ろの少年だよ」

アウル 「あ、俺は大丈夫です」

アウルはそう言うと何と驚くべきことに水面に立っていた。
そしてアウルはそのまま何事もなかったかのように船の側まで歩き船に乗り込んだ。
俺はその後に船へ体を乗り出すのだった。

トール 「ルミネちゃんみたいだな…」

ルミネちゃん…アクアレイクに住むアメタマ種の女の子だ。
そのルミネちゃんもアウルみたいに水面に立つことが出来るのだ。
そのためトールはルミネちゃんみたいだと言ったのだろう。

レイジ 「たく、油でも足の裏に塗ってんのか?」

アウル 「え? 俺の足には塗ってませんよ」

そして、アウルはそう素で返してくれる。
たく、冗談だっての。

青年 「父さん、そろそろ街に戻った方がいいんじゃない?」

突然船の後尾から一人の青年が顔を出す。
青年の名は『エラ』、ニョロゾのエラだ。
ちなみに父さんと言ったように彼はトールの息子だ。
ちなみに彼は長男で20歳、その下にニョロモの『ミンウ』という弟もいる。

アウル 「あの、この人たちは?」

レイジ 「トールとエラだ」

トール 「俺がトール、一応漁師をやっているぜ」

エラ 「俺はエラ、父さんの手伝いをやっているんだ」

アウル 「はじめまして、アウルって言います」

アウル達は軽く自己紹介をした後俺たちはそのままアクアレイクの港に寄港するのだった。



…………
………
……




『アクアレイク』


アクアレイク…。
水ポケモンが主流のこの国で重要な貿易拠点として名を馳せる一大貿易都市だ。
人口は110万平方kmに80万人もの人が住み、その街の活気は世界一とも言われる。
また、貿易都市ということもあって世界中の物資、人、文化がここには集まっている。
また、アクアレイクの名のとおり聖水ように清らかで透明な水を持った大きな湖を持ちそこは観光名所としても有名。
まさにここは水の街に相応しい街なのだ。



アウル 「これからどうするんですか?」

アクアレイクの街に入るとまずアウルはそう聞いてきた。
どうすると言ってもやはり聞き込みをしないと話にならんからな。

レイジ 「酒場にでも行くか…あそこなら情報が得られるかもしれないからな」

アウル 「酒場って…この時間帯に行くところですか…?」

そりゃ、ごもっとも…。
ちなみに今の時刻12時丁度、昼飯にはいい時間帯だ。
普通この時間帯に酒場は開いてないし誰もいないものなのだが俺の行くところは別。
恐らく…つーか、間違いなくあの女がいる。

レイジ 「ま、行きゃあいつがいるからな」

アウル 「あいつ?」

レイジ 「会ってみたらわかる」

俺はそれだけ言うとその場からさっさとある酒場へと歩いていった。



………



『人魚亭』


人魚亭…。
ここは街の東部にあるこの町一番の酒場で一部の人のために昼間からでも開店している。
そして、ここの看板とも言うべきママ、ジュゴンの『シエラ』さんは去年のアクアレイクミス美人コンテストで惜しくも準優勝したほどの美人だ。
ちなみにそのママ、シエラさんは既に既婚者で子持ちの26歳のふたつの意味でのママだ。
性格は優しく温厚でどんな悩みでも聞いてくれるこの街の人気者だ。
ちなみに子供はパウワウ種で女の子の『ピア』ちゃん、確か今年で6歳だったはず。
ちなみに夫さんはナマズンの『ビッグス』さんだ。
年齢43歳でさしてかっこいいわけでもなく、どこか抜けていていたって普通のおっさんなのだが、シエラさんは一体あの男のどこが良かったのだろうか?
それはこの街の多くの男にとっての謎だった…。
ちなみにビッグスさん、人魚亭の一応バーテンダーだ。

さて、そんなこんなで人魚亭の前まで来た俺たちはそのまま中に入るのだった。

半分開いている両開きの木の扉を開けるとそこは20席ほどある広い酒場だった。
だが、昼間と言うこともあって中にはほとんど人はいない。
中ではシエラさんもカウンターでコップを磨いていた。

シエラ 「あら、レイジ、いらっしゃい、どうしたのこんな時間に?」

シエラさんは俺に気付くと磨いていたコップをカウンターに置き、そう話し掛けてくる。

レイジ 「『ララ』は来ている?」

シエラ 「ララならそこ、端っこで水割り飲んでるわよ」

シエラさんはそう言って、左手の人差し指で部屋の端を指す。
確かにそこにはララがいた。
俺はそれを確認するとララの方へと歩み寄った。

シエラ 「あら? その子は?」

レイジ 「ん? ああ、アウルっていうんだ」

アウル 「初めまして、アウルです」

アウルはそう言うとぺこりと丁寧に頭を下げる。

シエラ 「別に他人行儀にそんな硬い挨拶はいいわよ、よろしくね、アウルちゃん」

アウル 「ア、アウルちゃん…?」

レイジ 「ふはは…シエラさんからみたらアウルちゃんか!」

俺は思わず笑ってしまう。
ちなみにシエラさんはどんな男の人にも子供に見えたらちゃんづけだ。
ま、そこがいいっていう野郎も多いんだが…。

さて、俺はまだ少々笑いが収まらない状態だったがそのままララの元へと向かった。
ちなみにララとはパルシェン種の女でこの街一番の情報屋だ。
大概の情報ならコイツは知っているんだが1つ問題がある…。
いかんせん本当に貝のように口が堅い。
まぁ、話させる方法はあるんだが…。

レイジ 「よう、ララ、久しぶりだな」

ララ 「……」

レイジ 「おい…ララ?」

ララ 「……」

ララは電気もついてなくかなり日当たりの悪い端っこで壁を見ながらただ水割りをちびちび飲んでいた。
俺の呼びかけに答えてくれないのは酔っているからか…それとも無視されているのか?

レイジ 「ララァ〜、聞こえているならせめてこっち向いてくれ〜」

ララ 「……」

しかしララは依然壁を見つめている。
そこには何もねぇっつうのに…。

レイジ 「しゃあねぇな…シエラさん! いつもの酒、用意してくれ!」

ララ 「用件は何?」

…ララの奴、いつものって聞いた瞬間にこっちを向いて口を開きやがった…。
やっぱ気付いていたんじゃねぇかよ…。

レイジ 「実はひとつ聞きたいことがあってな…」

ララ 「…ただじゃ話さないわよ…」

レイジ 「んなもんわかってら、いつもの一杯でどうだ?」

ララ 「…内容によるわね…」

コイツ、ララは情報屋なのだがちょっとばかし他の情報屋とは違う。
コイツは金じゃ情報は教えてくれねぇ。
コイツから情報を引き出すにはずばり酒だ。
コイツは酒に目がない、大抵はいつもの酒で聞ける。
ただ、それでも聞けないときはある。
でも、そういう時はとりあえずいつもの酒を飲ます。
そうするとあ〜ら不思議何でも喋っちゃう不思議な奴。
ちなみにいつもの酒ってのは一升瓶1瓶で1080円のお買い得品。
これで喋らせられるんだったら安いものかもな。

レイジ 「んじゃ、言うがずばりガーヴ様の居場所なんだが…?」

ララ 「…知らないわ…さすがのあたしでもね…」

ララはそう言って再びそっぽを向く。
それなら仕方がないか…て、そう簡単には騙されないぜ…。

レイジ 「ま、ゆっくり酒でも飲んで話そうや…」

シエラ 「はい、いつものね」

シエラさんは調度よくいつものを持ってきてくれる。
しかもコップふたつ、俺たちのことよくわかっていらっしゃる。

アウル 「あの…」

レイジ 「ああ、ちょっと長くなりそうだ、ちょっと待っててくれ」

俺はそう言うとコップに酒を注ぎ、ララに渡す。

レイジ 「一杯いっとけ」

ララ 「悪いけど今日はそんな気分じゃないわ…」

レイジ 「なぬ?」

なんと、ララはこの手にも乗ってくれない。
馬鹿な…こんな展開初めてだぞ…。

? 「今日はなにやっても話してくれないと思うわよ」

レイジ 「セーラ?」

突然後ろからある女性に声をかけられる。
シャワーズのセーラだ。
シャワーズのセーラは元々はこの街の者じゃない。
生き別れの姉妹たちを探して世界を歩き回る旅人だった。
ところが何年経っても一向に姉妹たちとは出会えず結局はこの街で姉妹たちが来てくれるのを待っているそうだ。
ちなみに彼女の姉妹は4人もいるらしくブースター、サンダース、エーフィ、ブラッキー、の姉妹たちがいるそうだ。
あと、弟が一人イーブイの弟がいるそうだ。
ちなみに彼女の年齢はわからない。
彼女自身が知らないそうだから仕方がないが20はいってそうだ。

セーラ 「妹のミミの姿が昨日から見当たらないそうなのよ」

レイジ 「ミミちゃんが?」

セーラ 「ええ、昨日浜辺でスバル君と遊んで以来姿が見えないそうよ」

レイジ 「もしかしてスバルもか…?」

セーラ 「ええ…」

俺がそう聞くセーラは顔を暗くして俯きそう言う。
なるほどたった一人の身内が心配で自棄酒(やけざけ)になっていたわけか…。
だったら、妹探せっての…。

ちなみにミミちゃんとはララのたった一人の家族でわずか8歳のシェルダーの少女だ。
ララの一家はこの街で生まれこの街で育ったがミミちゃんが生まれると同時に父が死に、母もミミちゃんが2歳のときに死んだそうだ。
それっきりララはひとりでミミを育てていた。
誰よりもその愛情は深い。
そして、もう一人のスバルと言うのはゼニガメ種の少年でこの街の南西部にあるリブルレイクと言う泉の近くに住んでいるカメックスじいさんのとこの少年だ。
スバルはララと同じ8歳の少年で普段から多くの子供たちと遊ぶ活発な少年だ。
このふたりが消えたっていうのはちょっとの出来事じゃないな。
ミミは元が臆病な性格だ、そう姿を消すということはない。
原因はスバルの可能性があるか。

レイジ 「わかった! ミミたちは俺が見つけてやるよ」

ララ 「その言葉…待ってたよ」

レイジ 「その代わり洗いざらい話せよ」

ララ 「さてね…」

ララはそう言って結局俺の出した酒を飲んでいた。
結局飲むのかよ…。

レイジ 「ま、てーことでちょっくら探してくるわ、アウルは適当に街を散策しといてくれ」

アウル 「え…? あ…」

俺はそう言うとさっさと酒場を出て行った。

シエラ 「ちょっと酒の代金は!?」

レイジ 「ツケにしといてくれ!」


………


レイジ 「さて、しかしどうやって探したらいいものか…」

意気揚揚と酒場を飛び出したのはいいがいかんせんどうやって探せばいいかわからなかった。
はっきり言ってまずは何の手がかりもなしにスタートだからな…。
いや、手がかりと言えば浜辺で遊んでいたと言っていたな。
と言うことは浜辺をまず捜索するべきか…。

レイジ 「よっしゃ、じゃ、まずは南の浜辺から探すか!」

南の浜辺はララの家からもっとも近い場所だ。
当然ララもここは探しただろうがもしかしたら見落としているかもしれないし、ひょっとしたらもう家に帰っているかもしれないからな。
俺はそう思うと走って南の浜辺に向かうのだった。


………


アウル 「ああ、行っちゃった」

レイジさんはさっさと酒場を出てしまい残ったのは俺含めて4人になってしまった。
いきなり知らないところに放置されても困るんだけど…。

ララ 「…ぼうや…見たことない顔ね」

アウル 「え…あ…えと、俺はアウルって言います」

ララ 「そうかい、あたしはララ…ま、言わなくてもわかっていると思うけどね…」

ララさんは酒をちびちび飲みながらそう言う。
ちゃん付けの次はぼうや…か。

セーラ 「ぼうやより君のほうが良くない?」

アウル 「………」

もう俺には言葉が無かった…。
もしかしてなめられてる?

ララ 「なんだっていいさ…それよりあたしに言えることはここはぼうやの来る場所じゃないわよ…」

セーラ 「そうねぇ…子供が来る場所じゃないわね…」

それは俺も思うけどそこまで子供じゃないぞ…。

セーラ 「とりあえず、あなた新顔でしょ? 一応町長さんに挨拶くらいしておいた方がいいわよ」

アウル 「町長…?」

シエラ 「町の中央部にでっかい屋敷があるからそこにいつもいるわ、行ってきなさい」

シエラさんカウンターでコップを磨きながらそう言う。
明らかにこっちは見ていない。
ここは俺のいるべきところじゃないな…言われたとおりにした方が良さそうだ。

アウル 「でも、どう行ったらいいんですか?」

ララ 「自分で考えな…」

ララさんは案の定ぶっきらぼうにそう言う。
そうか、この人にとってはそれも情報になるのか…。

セーラ 「そう言うこと言わない! 酒場を出て左へカーブすると『呑気屋』っていう宿屋が見えるからそこを超えて直進したらその内大きな屋敷が見えるわ」
セーラ 「そこが町長の家よ」

セーラさんは丁寧にそう言ってくれる。
良かった…この人いなかったら町長のところに行けなかっただろう…。
俺じゃ情報引き出す自信ないからな…。

アウル 「あ、でも、いきなり行っても大丈夫なんでしょうか…?」

シエラ 「そこらへんは問題ないわ」

セーラ 「何といってもこの街一大らかな人だからね」

セーラさんがそう言うとシエラさんはうんうんと頷く。
ララさんは微動だにしない…。
正直こういう人(↑)苦手だ…。

セーラ 「とにかく行ってらっしゃい」
セーラ 「とにかく驚くことが多いかもしれないけど問題ないわ」

アウル 「は?」

驚くこと…?

ララ 「…会ってみたらわかるわ」

アウル 「それじゃ…行ってきます」

俺はそう言うとそのまま酒場を出てセーラさんの言った通りに道を進むことにした。

シエラ 「またのお越しをお待ちしておりま〜す」



………



アウル 「えーと、たしか呑気屋っていう宿屋を左に曲がるんだったな…」

俺は酒場を出たら言われた通り左に曲がり歩いた。
しばらく20分ほど歩くとT字カーブの正面に呑気屋という宿屋を発見する。
呑気屋という宿屋は木造二階建ての建物だった。
見た目は古臭いが意外と丈夫そうな造りに外側からなら見れる。
また、宿屋としてはかなり大きいようでさっきの酒場の倍くらいの面積の土地を取っていた。
俺はとりあえずそれを左に曲がるとすぐに例の屋敷は見えてきた。

アウル 「あれか…確かにでかいな…」

呑気屋の前からだがその大きい屋敷は眼で確認できその大きさはよくわかった。
三階建てくらいはありそうだ。

俺はそれに向かってさっさと歩き始めた。



………
……





アウル 「…遠い、どういうことだ?」

目視で確認してから30分ほど歩いたがそれはまだもう少し位ありそうだった。
呑気屋からここまで直進、このまま直進でつきそうなのだが予想以上に遠い…。
そして、俺はその屋敷の前に立ったときまず第一の驚きにあうのだった…。

アウル 「何でこんなでかいんだ…?」

俺は屋敷に近づくにつれ明らかに屋敷の大きさが違うことに気付いた。
そして、屋敷の玄関の前に立ったときその縮尺の違いに驚愕するのだった。
普通の家の3〜4倍は大きい。
一体どんな人物が住んでいるんだ!?

俺はとりあえず屋敷の呼鈴を鳴らすのだった。
屋敷の大きさから考えると明らかに低すぎる位置に呼鈴があったがこの際そこは気にしなかった。

? 「はーい、今開けますよー」

そして、扉の奥からは男の声が聞こえた。
やたら図太い声だったが一体…?

そして俺の身の丈の倍以上はありそうな扉は外側(つまり俺側)に開いて俺は第二の驚きに出会う。

男 「おや? 君は見かけない顔だね?」

アウル 「あ、あの…あ、あなたが町長さんですか…?」

男 「ええ、私がこの街の町長です、あなたは?」

アウル 「じ、自分は今日この町に来たアウルって言います」

中から出てきた町長は驚くべきことに身長が6メートルはありそうな超巨体だった。
この家の大きさも納得だ…。

町長 「では、新しい町民と言うことですか…ではこれを」

町長はそう言うとどこから取り出したのか町長にとってとても小さなものを俺に渡す。
といっても俺にとっては賞状くらいの大きさなんだが。
ちなみにそれは本当に賞状のようだった。
ちなみにそれにはこう書かれていた。

『あなたをこの町の町民として認めます 町長、グアリクス』

ちょっと待て…まだ、会ったばかりだぞ…いきなり過ぎないか?

グアリクス 「それによってあなたの身分は証明されます」
グアリクス 「ゆっくりしていってくださいね」

アウル 「あの…まだ住むと決めたわけではないんですけど…」

長期滞在することはあるかもしれないけどガーヴ様に会った後次第だし…。
いきなりこれはまずいんじゃないかと思った。

グアリクス 「いいのですよ、私はこの街に来た人全てにそれを渡していますから」

アウル 「な…」

俺にとって第三の驚きはそれだった。
大らか過ぎるだろ…。

どうやらここは…あまりにも特殊な街のようだった…。





…………





レイジ 「ふう…ものの見事にいないな…」

南の浜辺を探して1時間、まるで姿を見せないやっぱりここじゃないということか?
一応念のため家のほうも探したのだがやはりいなかったし…。

レイジ 「まいったな…これじゃどうしたらいいものか…」

? 「あれ? お兄ちゃんどうしたの?」

レイジ 「! その声は!?」

突然後ろから幼い女の子の声が聞こえる。
俺は咄嗟に振り向くとそこには見知っている女の子がいた。
そう、その子は俺が今探している人物…。

レイジ 「ミミちゃん!?」

ミミ 「お兄ちゃん、こんな所でどうしたの?」

ミミちゃんはなんとも普通の顔で俺を見ている。
何でそんなに普通にしていられるんだよ…。
こっちは心配して探したって言うのに…。

レイジ 「ミミちゃん心配したんだぞ…昨日から行方不明って言うから…」

俺がそう言うとミミちゃんはびっくりした顔をする。

ミミ 「ええ! 私昨日は学校の行事で宿泊旅行に行っただけなのに…」

レイジ 「へ…?」

大変驚いたことにミミちゃんの口からそんな途方もない言葉が出てくる。
宿泊旅行…?

レイジ 「スバルも一緒だったんだろ?」

ミミ 「うん、おんなじクラスだもん」

レイジ 「………」

そういやそうだっけ…。
て、ことは何か?
ララの単なる勘違い…?

ミミ 「うう…さてはお姉ちゃん書置き見てくれなかったのね…」
ミミ 「ちゃんと居間の机に置いといたのに…」

いや、多分あいつは昨日家に帰っていないだろう…。
あんなに妹が大事ならほったらかすなっつーの。

レイジ 「まぁいい…これでミミちゃんの無事は確認できた…」
レイジ 「ミミちゃん、しっかり生きるんだぞ…」

ミミ 「? はい?」

ミミちゃんは8歳児にしてはよく出来た子だ。
親もいなくて姉があれじゃ可哀想ったらありゃしない…。

俺はミミちゃんの頭を軽く撫でてあげると俺はさっさと酒場の方に戻った。
とにかくこれでやっとララから情報を引き出せる。



………
……




ララ 「…遅かったわね」

レイジ 「あのな…こちとらお前のせいで5時間ほど無駄にしたんだぞ…」

俺は酒場に戻るとララはまだ呑気にさけを飲んでいた。
時刻はもう5時くらいになるぞ、いつまで飲んでいる気だ?

レイジ 「ミミは家に帰っている、約束どおりミミは見つけた」
レイジ 「今度はそちらの約束を果たしてもらおうか」

ララ 「そうだね…あたしは知らない」

レイジ 「おいおい…この後に及んでまだ白を切るつもりかよ…」

ララ 「別にそう言うつもりはないわ…だって本当に知らないんだもの…」

レイジ 「…もしかしてマジ?」

ララ 「あたしは嘘はつかない女よ…」

嘘つけ…お前嘘つきまくるやんけ…。

ララ 「呑気屋…」

レイジ 「あん?」

ララ 「鍵はそこにあるわ…」

レイジ 「呑気屋…か?」

ララ 「………」

ララはそう言うとそれっきり口を開いてくれなかった。
呑気屋か…結局鍵は持っているんじゃねぇかよ…。

レイジ 「ありがとよララ!」

俺はそう言うとさっさと酒場を出るのだった。


……


レイジ 「さってと、呑気屋に行ってその鍵を握る人物に会わないといけないわけだが…」
レイジ 「その前にアウルを探さないとな…」

一応ガーヴ様の下に行かないといけないのは俺じゃなくてアウルだからな。
俺だけ行っても意味ないんだアウルはどこにいるのやら。

レイジ 「ま、何かあったらセーラ辺りが伝えてくれるだろうしそのまま呑気屋に行くか」

ちなみに呑気屋ってのはずばり宿屋だ。
宿主のヤドランが経営する店で2階建て木造建築の中々立派な建物だ。
中は一階部分が大衆食堂になっておりいつもせっせとヌオーのガジさんが飯を作っている。
そしてそこでは一年前来て以来ずっと住み込んでいるトドクラーのレイとタマザラシのアンの旅芸人が食堂を賑わせている。
そして二階は23部屋を確保する大変広い宿屋だ。
しかしそれほど大きい宿屋でも部屋はほぼ満杯。
その理由はこの町が交易都市としてあまりに栄えるため宿屋の需要が追いつききれていないことがある。
この街には呑気屋含めて7件の宿屋があるがそれでも追いついていないのだ。
それゆえに路上で寝たり浜辺でテントを敷いたりするものは多い。
貿易などで栄えた反面そう言うところで需要が追いつききれていないのだ。


レイジ 「さってと、ついでに呑気屋でなんか食っとくか」

もうすでに夕日が沈もうかという時間帯、俺は少し早いが晩飯を取ろうかと思っていた。
ガジさんの飯は美味いって有名だからな。

? 「…レイジさん?」

レイジ 「え…?」

突然横から声をかけられる。
女性の声だ、俺は声のしたほうを振り向くと。

レイジ 「ミュルナさん、どうしたんです?」

俺が女性の方を振り向くとミロカロス種のミュルナさんがいた。
ミュルナさんはこの町の教会のシスターをやっている人だ。
年齢は俺より一つ下の23歳。
身長は160cm程度と女性としては比較的大きい。
スタイルは抜群と言えば間違いじゃないだろう、なんといっても去年のミス美人コンテスト優勝者だからな。
性格はおっとりしたところがありちょっとマイペースな所もあり、聖女のような心の清らかな人だ。
恋人もいないということもあってこの街で一番競争率の激しい女性だ。
まぁ、俺にはあんまり関係ないけどな。

レイジ 「で、どうしたんです?」

ミュルナ 「いえ、レイジさんが慌しく街中を走り回っていたと噂を聞きまして何かあったのかと…」

レイジ 「ああ、そのことですか、それならもう終わりましたから大丈夫ですよ」
レイジ 「後はまったりとやるだけですからね」

俺は何が大丈夫なのかわからないがそう言う。
別にミュルナさんに気にして貰う必要はないからな。

ミュルナ 「はぁ…そうですか、でもお体には気をつけてくださいね」

レイジ 「ええ、ありがとうございます」

ミュルナ 「ええ…」

レイジ 「……」

ミュルナ 「……」

レイジ 「あの…」

ミュルナ 「…はい?」

レイジ 「他に用事がないんならもう行っていいでしょうか?」

さっき会話は終わったはずだったがどうもまだ何かありそうな風にその場に留まられてたので俺は何か用事があるのかと聞く。
勘違いだったならそれでいいがまだ何か用事があるんならさっさと済ませたいのが本音だった。

ミュルナ 「えと…その…」

レイジ 「ないんならもう行きますね」

ミュルナ 「え…あ…」

俺はこのままじゃ埒があきそうにないので強制的に終わらせることにする。
しかし、そのとき…。

? 「こぉの! スカターン!」

ドコォ!

レイジ 「ぐぎっ!?」

突然後頭部を何者かに殴打される。
いや、たぶん蹴りだ、それも空中蹴り。

レイジ 「だ…だれだ、よ…」

俺は頭を抑え、かなりぴよりながらも後ろを向く。

? 「あんた、折角ミュルナさんに声かけられてそれはないんじゃないの!?」
? 「もうちょっとミュルナさんの気持ち考えなさいよ! このスカタン!」

俺の後頭部を蹴った張本人は俺の胸倉を掴んでそう言う。

レイジ 「やっぱりテメェか…サレナ!」

そう、その張本人の名は『サレナ』。
サニーゴ種の女でやたらと俺につっかかってくるはた迷惑な奴だ。

サレナ 「あんたのその無神経さにはほとほと呆れんのよ!」

サレナはそのまま腕を掴み投げ技に入ろうとする。
しかし俺はその腕を逆に極めてサレナを動けなくする。
持ち前の力量の差は歴然だ。

レイジ 「甘い!」

サレナ 「痛たたたた!」

サレナはそのまま地面に尻餅を着いて苦しむ。

レイジ 「所詮こんなもんだ」

サレナ 「あんた女の子にはもっと優しくしなさいよね!」

レイジ 「女ならいきなり飛び蹴りかますなっての!」

俺はそう言ってサレナの腕を放す。
サレナは俺から2メートルほど離れて腕を抑えながら立ち上がる。

サレナ 「たく…もう少し相手の気持ち察っせるようになったら?」

レイジ 「余計なお世話じゃい」

ミュルナ 「あの…」

ミュルナさんは一体どうすればいいのかという顔で戸惑っていた。

サレナ 「ミュルナさんももう少し前に出ないと!」

ミュルナ 「でも…」

サレナ 「無神経なレイジも悪いけどミュルナさんももう少し出てみないとダメだよ!」

レイジ 「無神経は余計だっての」

いちいち無神経というサレナに対して俺はそう突っ込む。
さすがにそう連呼されて黙っていられるほどの仏心は持ち合わせていないつもりだ。

サレナ 「あんたもいちいちうるさいわね、大体あんたこれからどこに行くつもりよ?」

レイジ 「俺か…俺は少し早いが呑気屋で晩飯を取るつもりだ」

サレナ 「夕食か…よし! だったらミュルナさんも連れて行きなさい!」

ミュルナ 「ええっ!」

レイジ 「お前いきなりなに言っているんだ…」

サレナはいきなり突飛なことを言い出すからミュルナさんも戸惑っているじゃないか。
正直俺もだが…。

サレナ 「いちいち文句言わない! デートとでも思いなさい!」
サレナ 「じゃ! アディオスアミーゴ!」

レイジ 「あ! おい!」

ミュルナ 「あ…」

サレナは一時期流行ったどこぞの別れ言葉を口にして一目散に逃げ出した。
その姿を見てミュルナさんも唖然としている。

ミュルナ 「えと…その…」

レイジ 「まいったな…」

サレナは戻ってくる気配はない。
さて、どうしたらいいものかな…。

ミュルナ 「あの…レイジさん?」

レイジ 「はい?」

俺がどうしたら良いかと腕を組んで考えていると横からミュルナさんに声をかけられる。

ミュルナ 「もし良かったらお食事…ご一緒させていただけないでしょうか…?」

レイジ 「…はぁ…」






………






カランカラン!


店内へと人が入ったことを知らせるベルが鳴る。
扉はギィと軋みを上げ木の床はギシギシ年季を感じさせてくれる。
そして中には多くの人が一日の終わりの晩飯で賑わせている。
店内の奥にはふたりの旅芸人がおり、ひとりがリュートを弾いて、もう一人は歌を歌っていた。
そして、入り口から一番近い場所に会計や宿泊のチェックをする宿主のヤドラン種の男…『ヤ』さんがいた。
ヤさんは今日もぼーとしていて二人の客が入った事にも気付いていないみたいだった。

レイジ 「ヤさん、席空いてる…?」

ヤ 「レイジさん、いらっしゃ〜い」

ヤさんは俺たちに気付くとゆっくり俺の方を向きややのんびりした口調でそう言う。
このヤさんて言う人はとにかくマイペースで何事もゆっくりのんびりやり、何にも気にしな〜い人だ。
絶対こういう仕事は向いていないと思うんだが既に10年以上はやっているそうだ。

ヤ 「空席なら〜、あそこが〜、空いてるよ〜」

ヤさんは滅茶苦茶のんびりした口調でゆっくりと一番奥の芸人さんたちの近くの席を指した。
本来あそこは一番人気が高いところなのだが空いているってことはたまたま席が空いたのか?
それともピークに入る前に来れたか。
さっきのサレナとの一軒で混む前にここに来るつもりだったのだがすっかり遅くなってもう席はほとんど空いていなかったのだ。

ヤ 「あ〜、そうそう〜、レイジさんに〜、お届け物がきているよ〜」

レイジ 「え? 俺に」

ヤ 「そうだよ〜」

アウル 「レイジさ〜ん…」

突然ヤさんの後ろからアウルが姿を現す。
て、何故に?

ヤ 「彼が〜、お届け物だよ〜」

レイジ 「…なんで?」

ヤ 「実は〜…」
アウル 「実は俺がひとりになった後町長の家に行ったんだけどもうそこが大変で!」

ヤさんが言おうとしたところアウルはそれに重なるようにそう言う。

ヤ 「町長とね〜…」

レイジ 「いや、もうわかったから」

まだ、説明しようとしているヤさんに俺は止めを入れる。
ヤさん放っくと奇妙な光景が完成するからな。

? 「ヤさんは放っておいてさっさと席の方へ行ってくんない? こちとら忙しいんだから」

レイジ 「え、あ…すまない」

突然後ろから食器を持ったウェイトレスの女の子がそう言ってくる。
その女の子の名前は『シルク』、チョンチー種の女の子だ。
ここでバイトしながら学費を稼ぐ学生さんだ。

シルク 「ところでレイジ、そいつは?」

シルクは忙しい割にはそう言ってアウルについて聞いてくる。

レイジ 「まぁ、ちょっとした連れだよ」

シルク 「ふーん」

シルクはそう言うとさっさか厨房の方へと入っていく。
あいつはたしか18でこれから大学受験だったな…。
恋も多しか…。

ミュルナ 「あの、そろそろ席に行きましょう…」

そして、忘れた頃にミュルナさんがそう言う。
この人放っておくと空気みたいになって気付かないんだよな…。

アウル 「その女性は?」

レイジ 「紹介は後! 今は席の方へ行くぞ」



………



レイジ 「…ふはは! そうかそりゃ大変だったな!」

アウル 「笑い事じゃなかったですよ…」

俺たちは4人座れる四角テーブルに着いて、まず自己紹介をした後、会話に花を咲かせていた。
アウルの奴は町長の大らかな性格に逆に気苦労したようだ。

アウル 「この街の人みんなどこか変な気がする…」

レイジ 「確かにな…俺もこの街に来た時はそう思ったもんだ」

アウル 「え? てことはレイジさんこの街の人間じゃなかったんですか?」

レイジ 「まぁな、俺がこの街に来たのは3年前さ」

アウル 「一体どうしてこの町に住み着いたんですか?」

レイジ 「へ、その内話してやるよ」

俺はその話については適当に流しておく。
知られて問題があるわけじゃないが話すと長くなりそうだからな…。

シルク 「ハイ! シーフードスパゲティー三人前お待ちど!」

アウル 「あ、ども」

シルク 「………」

シルクはアウルを見るとまるで品定めをするかのようにアウルを見た。
アウルはその目に少々惑っていた。

シルク 「…君、何歳?」

アウル 「俺? 18歳だけど?」

シルク 「あたしとタメか…ん、ありがとね!」

アウル 「…はぁ」

シルクはスパゲティーの乗った皿をそれぞれの前に出すと足早にまた厨房に戻っていった。
なんつーか魂胆みえみえだな…。

レイジ 「やれやれ若いってのは良いもんだ…」

? 「なーに言ってんのよ24のくせに」

俺が厨房の方を向いてそう呟くと後ろのステージで歌っている小っこい女の子がそう言う。

? 「だめだよ…そんな言い方しちゃ…」

そして、リュートを持った大きい方の女の子はそう言って仲裁する。

レイジ 「聞いていたのかよアンレイ…」

アン 「名前くっつけんなっていつも言ってんでしょうが!」

レイ 「怒っちゃダメだよ…お姉ちゃん…」

アン 「あんたもそんなオドオドしない!」

このふたりはアンとレイという姉妹。
小さい方が姉のアン。
ちなみにタマザラシ種。
身長が140センチしかないという驚くべき小ささだ。
そして大きい方が妹のレイ。
こっちはトドクラー種。
こっちは逆に175センチもあって俺より身長が高い。
アンは小さいくせに態度はでかいししかも妹に先に進化されたなんとも変な奴だ。
そんな奴が俺と同じ年の24だってんだから嫌な話だ。
で、妹の方は姉とは180度性格が違っておとなしい性格だ。

アン 「あんたがそんな言いかたしたらあたしまで老いてるみたいじゃないの!」

レイジ 「るせー! 誰も俺らが老いてるとは言ってねぇだろうが!」

アン 「あんたのその言い方が悪いって言ってるのよ!」

レイ 「お姉ちゃん、落ち着いて…!」

ミュルナ 「落ち着いてください、レイジさん…」

レイジ 「はぁ…馬鹿らし…やめだ、こんな言い合い」

アン 「…そうね、大人気ないわね…」

アウル 「その人たちは?」

レイジ 「1年前来た旅芸人だよ、小さい方が姉のアン、で大きい方が妹のレイ」

アン 「アンよ、以後お見知りおきを」

レイ 「レイです…よろしくお願いします」

アウル 「あ、俺はアウルって言います、よろしくお願いします」

アンは軽く他人行儀にそう言い、レイはしっかりと頭を下げる。
で、こっちのアウルも椅子に座りながらぺこりと頭を下げる。

レイ 「ところで、エルさんは?」

レイジ 「エルフィスさんなら家にいると思うけど?」

エルフィスさんっていうのは俺の居候させてもらっているなんでも屋『クリアブルー』の店長だ。
愛称としてエルさんといわれているが本名はエルフィス、ラプラス種だ。
恐らくこの街でもっとも心の清らかな人と言われている26歳の女性だ。
目が不自由で見えないわけではないが極端に視力が弱い。
元は夫さんと一緒に8年前なんでも屋クリアブルーを開店させたそうだが4年前夫さんが結核で亡くなったそうだ。
夫さんもエルフィスさんと同じラプラス種だが二人の仲は大変よく、とても幸せそうな夫婦だと聞く。
子供は残しておらず夫さんが死んだ後たった一人でクリアブルーを経営していたところを三年前俺がやって来たのだ。
クリアブルーに居候し3年、俺は恩返しのためそこで店員として手伝っているわけだ。
俺の知り合いの多さはその仕事柄にあるわけだな。

レイジ 「そうだ、お前らガーヴ様の居場所知っているか?」

アン 「誰それ? 言い方からすると犯罪人?」

レイ 「違うよお姉ちゃん…ガーヴ様は海を統べる神…水の神だよ…」

アン 「知ってるわよそれ位…で、ガーヴだかデーブだかがどうしたの?」

レイジ 「………」

コイツ本当に知ってたのか?

アウル 「この人って何者なんです…?」

レイジ 「神をも恐れない馬鹿だ…」

それ以外言いようがないだろう…。
ガーヴ様を呼び捨てし、あまつさえ侮辱するような発言までしたのだから…。

レイ 「そんな言い方したらバチが当たるよ〜…」

レイはまるで自分にバチが当たるかのようにして半べそをかいていた。
さすがの神様も一族党郎皆殺しなどと言うことはないだろう。
まぁ、天誅が来たとしても裁かれるのはアンだけだな。
あ、でもアンならレイを巻き添えにしかねないな。

レイ 「ガーヴ様は海の祠にいるって前にいた街で聞いたけど…」

アン 「ああ、あのくそ寒い所ね」

レイジ 「お前…いつも思うけどどうして氷タイプのくせに寒さが苦手なんだ?」

タマザラシ種は水タイプのほかに氷タイプを持っている。
このタイプは極めて冷気に強い…はずなのだが、このアンはその冷気に弱い。
いや、冷気そのものには強いのだがちょっとした寒さでも寒いと感じてしまうらしい。
同じ氷を持つトドクラー種のレイは全くそんな様子は見せないのだが…。

ちなみにここ水の国と氷の国は親戚のような関係で同盟で結んでいる。
類は友を呼ぶというし水が凍ったら氷になるくらいだから縁が深くても不思議じゃないか。

アン 「あたし冷気には強いけど苦手なのよね〜」

アウル 「それ矛盾してません?」

レイジ 「いや、しかし現実にアンは氷タイプの技を使用できないんだ」

ミュルナ 「一体何があったんでしょうか…?」

レイジ 「…と、話がずれる所だったな…で、その『海の祠』ってのはどこにあるんだ」

アン 「あたしは知らないわよ」

レイジ 「お前にははなから期待しとらん」

レイ 「ごめんなさい…場所までは…」

レイは申し訳なさそうに頭を下げて謝る。

レイジ 「いや、なら仕方ないさ、どこにいるか分かっただけでも十分さ」

俺はそう言う。
いちいち答えられなくて謝られても迷惑だし、知らなくても仕方ないからな…。

アン 「何かあたしの時と態度違わない…?」

レイジ 「気のせいだろ」

アンは俺の態度の疑問を持つが俺はそれを適当に否定する。
てか、態度違うことに気付かなかったのか?
いつも違うだろうに…。
とりあえずアンはやっぱただの馬鹿と結論付け話を変えることにする。

レイジ「しかし、海の祠って場所知ってるやつ誰かいるかな〜?」

俺は腕を組んで誰かいないものかと考える。
まぁ、ララなら知っているだろうがまた聞くのは金がかかるからやだしな…。
だってすると…。

ミュルナ 「…『彼』なら知っているんじゃないでしょうか…?」

アウル 「彼?」

レイジ 「ああ…あいつか…確かに、な」

アウル 「? あいつ?」

レイジ 「シース、パールル種の占い師だ」

俺はひとり知らないから頭を悩ませている奴にそう言う。

アン 「かなり生意気な奴だけどあいつの占いは確かに当たるわ…」

シース 「そいつは酷い言い草だな…」

レイ 「きゃ!? い、いつの間に…?」

俺たちがシースの話をしていると突然シースがミュルナさんの後ろから現れる。
全く気配がしなかったから俺たち全員が驚く羽目になった。

アン 「あんたいつの間に来たのよ…」

シース 「ふ…今来たところさ…」

レイジ 「お前…これは必然か…?」

シース 「ふ…確かに人は占いによって未来を知ることは出来るがそれによって必ずそれは起こるとは限らないさ…」
シース 「人はいつだって己の運命を変えることが出来る…けど、最終的結末は変わらない…」

レイジ 「で…俺の言っていることは分かっているよな…?」

シース 「ふ…今日ここで僕の噂話をしているのは占いで確認済み…君の想像どおりさ…」

アウル 「もしそれが本当なら凄い…」

アン 「本当に当たるからおっかないのよね…なんかすべて知られている気がして…」

アンはそう言ってシースの方から目をそらす。
アンは誰にでも強気にいくがシースにだけはおとなしくなる。
よっぽど苦手らしくウマがかみ合わない様子だ。
別に悪い奴じゃないんだがな…。

シース 「ふ…僕に会いたくないと思うならそう強く思えばいい…きっと運命は変わるさ…」

アン 「現われると思ってないんだから願いようないじゃない…」

シース 「ふ…それも占い済み…君の行動はわかりやすい…」

アン 「うう…やっぱりコイツ嫌…」

アウル 「あの…シースさんって占えばなんでも分かるんですか?」

シース 「僕は神じゃないよ…なんでも分かる訳じゃない…そう、身近に分からない奴がいる…」

アウル 「分からない奴…?」

シース 「ふ…君の隣にいる奴さ…憎たらしいったらありゃしない…」

アウル 「隣って…レイジさん?」

レイジ 「……」

その通り。
こいつは俺に会うたびに俺を占おうとするが何一つ分かっていないらしい。
依然サレナが俺のことについて何か占ったようだがダメなようだったしな。

ミュルナ 「あの…やっぱりあの答えは…」

シース 「ダメだね…レイジが深く関わりすぎて答えが出ない…」

レイジ 「俺…?」

ミュルナさん一体何を占ったんだ?

アウル 「そうだ! さっきあなたなら海の祠の場所が分かるんじゃないかって言っていたんですけどどうですか?」

シース 「海の祠? ありきたりだからどれか分からないな…」

そう言ってシースは頭に手をつけて考える。
ありきたりって俺は聞いたこともないぞ?

シース 「ふむ、折角だ…ちょっと調べてみようか?」

シースはそう言うと掌サイズの水晶を取り出し、俺たちの食器の置いてあるテーブルの上に置く。

シース 「………」

シースはそれに一度手を当てて数秒経つとゆっくり手を離し、占いをはじめる。
いや、占いは手を当てた時点で始まっているのか?
やがて、10分ほど過ぎて答えは出たようだ。

シース 「? これは…?」

アウル 「どうしたんですか?」

シース 「一応、君の望む海の祠の場所を調べてみたんだが…」

レイジ 「一体どうしたってんだよ?」

シースは何かわかったようだが困ったようにする。
占えたんじゃないのか?

シース 「まぁいい…一応占いの結果は伝えておこう」
シース 「エルフィス…エルさんだ、分かるな?」

アン 「はい?」

レイジ 「ちょっと待て…なんでエルフィスさんがでてくるんだよ?」

シース 「僕にも分からない…アウル、君の行くべきところを占ったらこう出ただけさ…」

レイジ 「よくわかんねぇけどエルフィスさんが鍵なのか?」

ミュルナ 「シースさんのお話によるとそのようですね…」

アウル 「エルフィスさん…か」

レイジ 「しゃあねぇ、ちょっくらエルフィスさんに伺ってみるか」

俺はそう思うとシルクを呼んで会計を済ませることにする。
割勘と言いたい所だがアウルは銭を持っていなかったし、ミュルナさんにはちょっと払わせにくい…。
結局俺が3人前かよ…。
シーフードスパゲティーひとつ780円だから…。


シルク 「2340円になります!」

レイジ 「はぁ…はい…」

シルク 「はい! ありがとうございました!」

俺は財布から2340円きっかりだし、それで勘定を済ませ店を出る。
俺、今月ピンチなのに…。

シルク 「あ、そうそう、良かったらだけどアウル君ちょっと貸してくんない?」

突然店のすぐ外でシルクに引き止められる。
しかも今なんか変なこと言わなかったか?

レイジ 「はぁ…? なんで?」

シルク 「いいからいいから! もし貸してくれたらアウル君の分の飲食代はあたしが持ってあげるよ?」

レイジ 「…アウル?」

俺は横目でアウルを見る。
一体何をする気か知らないが貸すだけで780円浮くんなら…。

アウル 「…わかりました」

アウルは俺の目を見て少し項垂れてそう言う。
さすがシルクも変なことはしないと思うが…。

シルク 「やった☆ じゃ、あたしも今日の仕事はもう終わりだからちょっとお借りしまーす!」

シルクはそう言うと嬉しそうに店内に戻っていく。
そして、その場には俺とアウルとミュルナさんの三人が残った。

アウル 「じゃ、俺はここに残ってますね」

レイジ 「ああ、俺は家に戻っとく」

俺はそう言うとエルフィスさんの待つ家に帰ることにするが…その前に。

レイジ 「そういや、アウルは泊まるところはどうするんだ?」

アウル 「え…あ…!」

アウルもそれを聞いてふと気付いたように驚く。
さっき金がないと言ってた筈だ。
まぁ、あったとしても恐らく宿屋の部屋は空いていないだろう。

アウル 「…どうしよう」

レイジ 「仕方ねぇな…おい! シース!」

シース 「…呼んだかい?」

アウル 「うわっ!? いつの間に…」

俺が呼ぶと突然アウルの左横からシースが出てくる。
いや、店の壁にもたれかかっているから最初からいたのか?

ミュルナ 「シースさんって、呼んだら必ずすぐに出てきますよね…」

シース 「ふ…いつも出られるわけじゃないよ…」
シース 「例えば同時に呼ばれたら僕は一方のところにしか現れられない…」

レイジ (結局、現れるんじゃないのか…?)

シース 「…それで、何か用があるんじゃないのかい?」

レイジ 「おう、そうだ実はアウルのこれからの運勢をみてもらいたんだ」

シース 「これからの…?」

レイジ 「正確には今日一日のだ」

シース 「ふ…」

シースは少し笑うと今度はどこからともなくカードを一枚取り出す。
本当にどこから取り出しているのか?

シース 「末吉…まぁ、好きにしたらいいさ」

レイジ 「…微妙だな、おい…」

アウル 「ていうか、それはおみくじ?」

シース 「まぁ、寝床には気をつけな…」

そう言うとシースは夜の町の中に消えていった。

アウル 「………」

アウルは白くなっていた。
一体アレはどういう意味か…?

ミュルナ 「あの…もしよろしければ教会の寝床をお貸ししましょうか?」

アウル 「え? いいんですか!?」

ミュルナ 「あ…はい、困っている人を助けるのも私たちの務めですから…」

アウル 「じゃ、是非行かせて貰います!」

ミュルナ 「はい…それでは」

さて、ようやく会話が終わったところで俺たちはアウルを残してその場を去るのだった。



レイジ 「ミュルナさんはこれからどうするんだ?」

ミュルナ 「私は教会に戻ります…」

レイジ 「そうか、じゃ、送るぜ」

俺はもう真っ暗になっていて街灯もない裏町を一緒に歩いた。
こんな夜に女性をひとりで歩かせるのは危険だからな。
ちなみに教会は西部にあるため東部の呑気屋からは1時間近く歩かないといけない。
なお、クリアブルーは中央部、教会からは10分くらいの近場だ。



………………



ミュルナ 「もうすぐ教会に着きますね」

レイジ 「そうだな…会話ないからちょっと長く感じたな…」

ミュルナ 「はう…すいません…」

俺がちょっと意地悪にそう言うとミュルナさんは半泣きで謝る。
と、いってもいつもの腰まで曲げるような謝り方じゃなく首だけでだ。

レイジ 「冗談だよ、ま、今日は結構楽しかったしな」

ミュルナ 「私も…今日のお食事は楽しかったです…」
ミュルナ 「また…お食事したいです…」

ミュルナさんは最後の方は顔を赤くしてそう言う。
まるで恋人と一緒に歩いているみたいだな…。

レイジ 「着いたぜ…」

そして、俺たちはすぐに教会の前に立つのだった。
教会はこじんまりとした小さな教会だったが見た目はよく手入れがされていた。
外の庭や教会の前の道には花壇が敷き詰められていて種々多様な花々が強く美しく命の輝きを見せていた。
これらは全てミュルナさんが手入れした物だ。

ミュルナ 「どうもありがとうございました…」

レイジ 「ああ…じゃあな」

ミュルナさんは教会の正面入り口のドアを開けるとそう言って頭を下げる。
俺は手を振ってそれに答えた。

レイジ 「今度は二人っきりでな…」

ミュルナ 「え…?」

俺は教会から後ろを向きそう言うと足早にクリアブルーに帰った。





『クリアブルー』



レイジ 「スイマセーン、遅くなっちゃって…」

エルフィス 「いいのよ…折角の休暇なんだから」

家に帰ると電気はついておりエルフィスさんが椅子に座って俺の帰りを待っていた。
時間はもう夜の10時になろうとしていたのにエルフィスさんは待っていてくれたのだ。

エルフィス 「晩御飯もう食べたかしら? 一応用意しているけど…?」

エルフィスさんはそう言うとテーブルに布をかけて確かに2人前用意しているようだった。
どうやら俺が帰ってくるまで待っていたらしい。

エルフィス 「もう、冷めちゃってるけど…」

レイジ 「あ、いただきます、本当にすいません折角用意してもらったのに遅くなって…」

俺はそう言うとすぐにエルフィスさんの反対側の席、いつもの俺の席に座る。
そこはかつてエルフィスさんの夫さんが座っていた席だそうだ。
普段からいつもこの席で食べているから気にしたことなかったが今日はいろんなことがあったからふと考えてしまった。
俺は夫さんがお亡くなりになってからわずか一年ほどで来た…いや、正確には半年とちょっとだ。
それほどの短い期間で俺はエルフィスさんの所に居候させてもらってるがなぜ、ここなのだろうか?
それにはもちろんふたりで机を囲むときは片方を反対側に座らせるというのはもっとも自然な形だということはわかっている。
しかし、人間はおおよそ大切な人を失って1年は悲しみに沈み清算がつかないという…。
エルフィスさんはどうなのだろうか?
半年ほどという清算もつかないだろう時期に来た俺をどうしてここに座らせたのだろうか。
まぁ、それには半分俺が勝手にそこに座ったこともある。
しかし、それでもやはり大切な人の座っていたところに他人を座らせるのだろうか?
エルフィスさんはそれ程心の強い人なのか…それとも…。

エルフィス 「どうしたの…? 食べないの?」

レイジ 「え? あ、いただきます!」

俺はしばらく考え事で箸もとっていなかったようだ。
俺は慌てて箸を取りご飯を食べ始める。

エルフィス 「ふふ、何か考え事をしていたようだけど困ったことがあったら私にも言ってね」
エルフィス 「自分の力だけで解決しようとしても解決できないことも多いから…」

エルフィスさんは優しくそう言う。
でも、考えていたことはあなたのことですから言えませんって…。

レイジ (あるいは…あるいは俺を夫さんと重ねているのかも知れないな…)

その後俺はそういう事を考えるのはやめエルフィスさんに今日あった事を話しながら楽しく食事をするのだった。
もう、冷たくなった白ご飯や味噌汁もこの時は美味しく感じた。



………



レイジ 「ねぇ、エルフィスさんって海の祠って知ってる?」

俺はふと、シースの言ったことを思い出しテーブルから食器を片付けるエルフィスさんに聞いた。
シースの占いだとエルフィスさんが知っているはずなのだが。

エルフィス 「…ガーヴ様に会いに行くの?」

レイジ 「ああ、さっき話したアウルを届けないといけないんだ」

エルフィス 「そう…じゃあ、アウル君はスイクンなんだ…」

レイジ 「! なんか知っているんですか…?」

エルフィスさんは今スイクンと言った。
俺は食事中の会話の中にアウルの名前は言っても種族までは言っていなかったはずなのに。

エルフィス 「…待ってて」

エルフィスさんは杖を持つと自分の部屋の方へとゆっくり歩いていった。


………


エルフィス 「あったわ、これを見て」

エルフィスさんは部屋に入って3分ほど経つとある古臭い巻物を持ってくる。
俺はそれを受け取るとゆっくりそれを開いて見る。

レイジ 「これは地図?」

それは古臭い代物だったが確かに地図のようだった。
どうやらアクアレイク周辺の地図のようだ。

エルフィス 「今の私の目じゃ指差せないけど、場所は覚えているわ」
エルフィス 「地図の真ん中の上に突き出ている半島はアクアレイクよ…」
エルフィス 「そして、そこから少し下にいったところにグラン様の神殿…」
エルフィス 「そこから左下に行くとラキシス島があるわ、そこで今日から二日後まで待つの…」

レイジ 「…今日から?」

エルフィス 「ええ、そうよ、そこからはあなたたちが考えて…」
エルフィス 「何故今日あなたがグラン様に呼ばれたかわかったわ…」

レイジ 「エルフィスさん…一体何を知っているんですか?」

俺は単刀直入にそう聞いた。
どういうことなんだ…まるで何もかも知っているようだ…。

エルフィス 「お願い…いつか話すから…聞かないで…」
エルフィス 「思いだしちゃうの…」

レイジ 「…」

俺はその後はただ重苦しい空気に押されてただ押し黙った。
エルフィスさんはそのことはいつか話すといった。
俺は何もエルフィスさんのことを知らなかったのか。
三年間ずっと一緒にいて何でも知っていると思っていたがそれは表面だけってことか…。

エルフィス 「さぁ、食器洗わないと…」

エルフィスさんはそう言うと再び食器を片付け始める。

レイジ 「俺がやるよ!」

エルフィス 「え…でも…」

レイジ 「いいの! 毎日毎日エルフィスさんに迷惑かけっぱなしだからこれくらいは俺がやるさ!」

エルフィス 「迷惑なんて私は…」

レイジ 「いいから座って! 今日は俺がやる!」

俺はそう言って多少強引に椅子に座らせ、食器を手早く集めて台所に持って行った。

エルフィス 「やっぱり私が…」

レイジ 「いいからいいから!」



………



ジャァァァァ…。

レイジ 「さっき、食事の時さ…自分の力だけじゃ解決できないこともあるって言ったよね」
レイジ 「だから私にも言ってってとも言いましたね…」
レイジ 「それ、俺からも言わせてもらいます、ひとりで抱え込まないで俺にも話してくださいね」

俺は食器を洗いながらそう言った。
台所と居間が同じ場所にあるので洗いながら話すことができるのだ。

エルフィス 「ありがとう…でも…」

エルフィスさんはなんとも複雑な顔だった。
やっぱり人には言えないことだってある、無理矢理聞くような形で失礼だったかな?

エルフィス 「あなたがただの男の子だったら、ね…」

レイジ 「え…?」

エルフィス 「ごめんなさい…今日はもう寝させてもらうわ…」

そう言うとエルフィスさんは杖を片手に自分の部屋へと戻った。

レイジ 「どういう意味だったんだアレ?」

残念ながらちっとばかり学がない俺には最後のエルフィスさんの言葉の意味がわからなかった。
ただの男の子って何だ?

しかし、もはや誰もいないこの部屋にはその答えを出してくれるものはいない。
俺はアンよりは学があるつもりなんだがな…?

レイジ 「…とりあえず明日朝一番にラキシス島に向かわないとな…」

ラキシス島はここから遠く、一日ほどかかる。
今日を過ごして後一日、そして、船で向かってギリギリって計算なんだが。

レイジ 「しばらく、ここを離れることになるからお手伝いさんがいるか…」

この家は一応何でも屋。
普段は俺が仕事を受け持ってこなすが、明日からしばらくいられないからな。
この仕事は目の不自由であまつさえ女性のエルフィスさんには荷が重い、誰か雇わないとな。

レイジ 「…でも、うち収入少ないんだよな…誰かきてくれるかな…」

俺は後半はそんなことを考えて食器を洗い終わり自分の部屋のベットで寝た。



………



シルク 「ありがとね♪ アウル君♪」

アウル 「は、はひ…」

レイジさんと別れてからすぐ俺はシルクさんと共にシルクさんの住んでいるアパートに行っていろいろ質問(むしろ尋問?)される羽目になっているのだった。
最初は趣味とかいままで何をやってきたとかだったんだけど途中から変なことを聞かれ始めていた。
結局尋問から解放されたのは深夜1時のこと、俺はさっさと約束の教会へ向かうのだった。

アウル 「ん…教会?」

俺はここである致命的なミスを思いだす。
教会ってどこ…?

アウル 「……」

絶望だ…。
もうこんな時間帯じゃ外を歩いている人物なんていないしけど、教会の場所は分からないし…。

アウル 「…」

さっき、夜遅くなったので自分の家に泊まるかということをシルクさんに持ちかけられたのだがそれも微妙だ。
下手したら貞操の危機だからな…。

アウル 「…でも、そうしたら寝場所が…」

俺はふとこの時ある言葉を思いだす。


( シース 「まぁ、寝床には気をつけな…」 )


アウル 「こういうことか…」(泣)

俺はてっきり野宿することだと思ってた…。
ところがその選択肢もあるがシルクさんの家で寝るという選択肢もある。
シルクさんは間違いなく今行っても受け入れてくれるだろう。(身の保証は無いが…)
だけど…。

アウル 「いや! 運命は変えられる! シースさんも言ってた!」

俺はそう踏み切り、教会を捜すことにする。
でも、この時間帯に空いてるかな…。



………
……




…捜して30分一向にそれらしき建物も見えない。
もしかして全然見当違いのほうを捜しているんじゃないだろうな…?

アウル 「うう…やっぱりダメなのか…運命は変わらないのか…」

と、半分諦めかけていたその時…。

アウル 「あ、あれは!?」

俺は真正面にある名前の看板を見つける。
看板には『クリアブルー』と書いていた。
レイジさんの家だ! 神はまだ俺を見捨ててない!

俺はその家の扉に急いで向かった。
窓からはカーテンが掛けられ電気はついていない。

俺は扉をやや強めに叩いてみる。

シーン…

アウル 「……」

しかし、中は死んだように物音がしない。

アウル 「やっぱりダメなのかぁ…」

俺はもうここで眠ることにした。
大体この時間帯に尋ねるって言うのが無茶なんだよな…。
俺は多少この店の迷惑を覚悟にドアの横で眠った。
明日には海の祠に向かえるかな…?







………………







レイジ 「さって…と!」

俺は太陽が昇りはじめた頃に目を覚まし身の回りの用意をし始める。
必要な物なんてないんだが、一応な。

レイジ 「…さてと、じゃあ行くかな…」

俺はそう言うと、さっさと部屋を出るのだった。
時間はまだ6時にもなっていないしエルフィスさんはさすがに眠っているかな?


エルフィス 「随分早いですね…」

レイジ 「! エルフィスさん!」

俺が部屋から出て居間に出るとエルフィスさんが椅子に座っていた。
俺がこの時間に起きるのがわかっていたのか?

エルフィス 「まだ時間は大丈夫でしょ、朝ご飯を食べていって」

エルフィスさんはそう言って軽くトーストを用意してくれていた。

レイジ 「エルフィスさん、俺が早起きするのわかってたんですか?」

エルフィス 「何となくね…さ、席に着きなさい」

エルフィスさんはそう言って俺を席に着かせる。
そして、俺たちの静かな朝食が始まった。

エルフィス 「時間が無かったからトーストしか出せなかったけどよく食べてね、朝ご飯は一日の資本だから…」

レイジ 「はい、でも温かい朝ご飯が食べられるだけで幸せですよ」

俺はそう言ってトーストをさっさと平らげた。
正直トースト一枚じゃあまり腹にはたまらないが心は腹一杯だ。

エルフィス 「これ、お昼ご飯に食べて」

レイジ 「これは…サンドイッチ?」

エルフィスさんはそう言ってそれなりに大きい取っ手の付いた、サンドイッチ等を入れる箱を用意してくれていた。
中身はやはりサンドイッチのようで色々なサンドイッチがあった。

エルフィス 「また、サンドイッチで朝ご飯がおろそかになっちゃったけど…」

レイジ 「また…?」

エルフィスさんは今またって言った。
どういうことだ…。

エルフィス 「なんでもないわ…、あ、あとこれも持っていきなさい」

レイジ 「これは…?」

エルフィスさんはそう言って最後にある鈴を渡してきた。
それは貝の姿をした鈴のようだった。

エルフィス 「貝殻の鈴…私からプレゼント…」
エルフィス 「さ、行ってらっしゃい…」

レイジ 「あ、はい! ありがとうございます!」

エルフィス 「ええ、アウル君にもよろしくね…」

レイジ 「あ、はい」

俺はそれ等を持つと玄関のドアの方へと歩いていった。
成る程…ちょっと箱が大きいと思ったら2人前か。

エルフィス 「どうか…無事帰ってきてね…レイジ」

レイジ 「え? …今、なんか言いました?」

エルフィス 「なんでもないわ…この店のことは私に任せていってらっしゃい…」

レイジ 「はい! ことが終わったらすぐ帰ってきますから!」

エルフィス 「…待ってるわ」

俺はそう言うと家から出る、が。

レイジ 「…重い?」

なんか、ドアの向こうに何かがもたれかかっている感じだ。
一体どうなってんだ?

レイジ 「ふん!」

俺はちょっと開いたドアを強引に押して外に出る。
そして、そこには。

アウル 「ぐ〜…」(眠)

レイジ 「アウル!?」

なんとドアに持たれかかっていたのはアウルだった。
何で…?

レイジ 「おい、ちょっと起きろ!」

アウル 「むにゃ?」

レイジ 「むにゃじゃない! 起きろっつうの!」

俺は扉の前で野宿しているアウルを起こそうとするがこいつはなかなか起きない。

エルフィス 「…一体どうしたの?」

家の中からエルフィスさんの心配する声が聞こえる。
ドアが開きっぱなしだからなまじ俺の姿が見えるんだよな。

レイジ 「なんでもありません!」

バタン!

俺は慌ててそう言って扉を閉めた。

レイジ 「ほら! 起きた起きた!」

アウル 「はう?」

レイジ 「こぉの!」

いい加減全く起きないアウルに業を煮やした俺はアウルを宙にぶん投げた。
そして俺は空気中に水分を集めてアウルに水の塊を投げつける。

バシャン!

アウルだって水タイプだからこれくらいほとんどダメージは無いはずだ。
しかし、確かに水のダメージはほとんど無いようだが…。

レイジ 「あ…」

ゴツン!

ぶん投げられたアウルはそのまま地面に頭から突っ込んでしまった。
二メートルくらいの高さにぶん投げたからな…。
しかしそのおかげでアウルは起きることになる。

アウル 「痛ったー!!」

アウルは猛烈な痛みで頭を抑えて苦しむ。

レイジ 「わりい…大丈夫か?」

アウル 「レ、レイジさん!? 一体何したんですか!?」

アウルはどうやら一体何が起こったかわかっていないようだ。
頭をぶつけるまで目覚めなかったわけか…。

レイジ 「なんでもない、それより行くぞ、海の祠に出発だ」

アウル 「え!? 場所わかったんですか!?」

レイジ 「ああ、これからトールの所に行って海の祠へGOだ!」

アウル 「はい!」

? 「ほっほ、元気がいいのう若いのは…」

アウル 「え!?」

レイジ 「じいさん!?」

しばらくアウルがのた打ち回ってから立ち上がるとすぐにグランのじいさんが現れる。
なんでかは知らないが今はそんなことはどうでも良かった。

レイジ 「じいさん! あんた本当は海の祠の場所知ってやがったな!」

グラン 「ほっほ、何のことかの〜?」

じいさんはこの期に及んでまだ白を切る。
一体何を企んでやがる。

グラン 「どうして、ワシが嘘をついたと思うんじゃ?」

レイジ 「エルフィスさんだよ、エルフィスさんがあんたの名前を言ったんだよ」

グラン 「…エルフィスが? …もしかして全て話したのか?」

じいさんはエルフィスさんの名を聞くと急に顔色を変え真剣な目に変わる。
普段のとぼけたじいさんじゃねぇ。

レイジ 「え? いや、でもその内話すって…」

俺は思わずたじろいてしまう。
じいさんの急な変わりように驚いたこともあったがじいさんから異様な威圧感を感じたからだ。
しかし、そのじいさんも俺がまだ聞いていないことを知るとすぐまたいつものひょうひょうとしたじいさんに戻る。

グラン 「そうか、ならええわい」

レイジ 「ちょっと待ってくれ、エルフィスさんて何者なんだ? 一体過去に何があったんだ?」

グラン 「その内話すと言ったんじゃろう? 本人に聞くがええ…」

レイジ 「あ! おい、じいさん!」

じいさんはそう言うとひょっこらと足早に去っていく。
一体なんなんだよ…。

アウル 「あの…」

レイジ 「あん? なんだ?」

すっかり忘れていた頃にアウルが俺に話し掛けてくる。
いや、まじで忘れてた。

アウル 「エルフィスさんって一体何者なんです?」

レイジ 「知るか、俺が知りたいっつうの! 今度帰ってきたら会わせてやる! 行くぞ!」

俺はそう言うとさっさと港の方へと歩いていった。
正直なんか腹立たしい…。
エルフィスさんのことをなにもわかっていない自分が、だ。
エルフィスさんは何かに苦しんでいる、俺はそれを救うことは出来ないのか…。



………



トール 「…ラキシス島か…ちょっと遠いな」

レイジ 「そこを何とか頼むぜ」

俺は港に着くとまだ漁に出る前のトールに話し掛けて交渉をしていた。

トール 「いや、お前さんの頼みを断ることは出来んよ、乗んな! 早速出発だ!」

レイジ 「サンキュー! 恩に着るぜ!」

アウル 「ありがとうございます!」

俺たちは交渉に成功するとそのままトールの船に乗り込む。

トール 「よーし! ラキシス島に出発だ! 面舵一杯!」

エラ 「OK! 父さん!」

そして、俺たちを乗せた船は港を離れラキシス島に向かう。

ラキシス島…。
港町アクアレイクより南西に位置する小さな無人島で、周辺に島が無く完全に孤立した島だ。
大きさは小さく歩いても3〜40分で一周できる位の大きさだ。
基本的に森が全てを覆って、しかも周りにさっき言った通り島が無いため捜しにくい。
下手にラキシス島を目指そうとすると永遠に見つからず遭難することもある島だ。





………
……






トール 「予定ではそろそろ着くはずなんだが…」

深夜3時ごろ…俺たちを乗せた漁船は正面に巨大なライトを構えて海を進んでいた。
正直眠いがトールにある程度無理言って送ってもらってるからな、先に寝ることは出来んか。

アウル 「くぅ…」(眠)

アウルは実に気持ちよさそうに眠っていた。
たたき起こしてやろうかと思うがそこは止めておく。
朝早くにまだ眠いだろうにたたき起こしてここでも起こしたら可哀想か。

エラ 「父さん! あれは!?」

エラは突然左を指して叫ぶ。

トール 「おお! あれがラキシス島か!」

左を見るとかなり暗いがそこには確かに島らしき物が見えた。
どうやら方角は大体あっていたようだ。
今は月どころか星も出ていないのでエラがいなかったら気付かず通り過ぎるところだったな。

レイジ 「トール、島に上がるから船をつけてくれ」

トール 「おうよ!」

トールはそう言って船を島の方へ向ける、しかし…。

レイジ 「どうしたんだ? 一向に島に近づかないぞ?」

船は島の方を向いたがそのまま進まなかった。

トール 「いや、全速力で進んでいるはずなんだが…」

レイジ 「はぁ?」

言ってる意味がわからなかった。
全速力を出しているんなら何で進まないんだ?
あの島はそんなにでかくて遠い場所にあるのか?
話では小さい島と聞いているんだが…。

エラ 「!? 父さん下!」

突然海を見てエラはそう叫ぶ。
俺は海を見てみるとそこには。

レイジ 「! 何だこの流れの速さは!?」

なんと、海は俺たちを島に近づくのを拒むように船を押し流していた。
道理で近づかないわけだ。

ガコン!

レイジ 「な、何の音だ!?」

トール 「やばい! 流れが変わった!?」

レイジ 「え!? なっ!?」

そう言った瞬間船は激しく揺れ始める。

トール 「しっかり船に捕まれ!」

レイジ 「にゃろー!」

俺は身を屈め船に必死でしがみつく。
しかしその時…。

アウル 「……」(眠)

レイジ 「げ!? あの馬鹿まだ寝てるのか!?」

アウルは物の見事に眠っていた。
普通この揺れの中眠れるか!?
…などと言っている場合ではなくアウルは物の見事に宙に浮き海に落ちてしまう。

レイジ 「あほー!」

ザッパーン!

トール 「無茶するなレイジ!」

エラ 「レイジさん!?」

俺はアウルの後を追って海へと飛び込む。
あいつだって水タイプだ、溺れはしない…だが!








グラン 「そろそろ第一の試練におうておる頃か…」

ワシはある店の中で時計を見てそう言う。
あとは…あやつ等の絆次第か…。

エルフィス 「レイジ…どうか無事で…」

隣でエルフィスはただ両手を合わせて祈っておった。
かつて、あの恐怖は体験しておる…故に心配じゃろう…。
じゃが、あやつ等ならきっとこなすじゃろう…ワシは信じておる…。

海の神ガーヴ…どうかあやつ等を導いてください…。







レイジ (くそ!? どうなってやがる!? 息が出来やしねぇ!?)

俺は海中に飛び込んだのはいいがなぜか息が出来なかった。
おまけに流れが速すぎて後1メートルも無いアウルの場所まで手が届かない!

アウル (く!? 何で海にいるんだ!? しかも息が出来ない!?)

レイジ 「アウルー!」

俺は気合でそう叫ぶ。
流れが速すぎて空気を含まない海で声を出すのは死活問題だがこちらに気付かないアウルに気付いてもらうためだ。

アウル (レイジさん!?)

レイジ (こちとら息が苦しいんだ! 早く手を伸ばせ!)

アウル 「レイジさん!」

アウルもこっちを向くとそう叫ぶ。
そして…。

ガシィ!

レイジ (捕まえた!)
アウル (捕まえた!)

俺は、いや俺たちは届きそうで届かない相手の手を掴むことに成功する。
そして俺たちはそのまま全速力で水上へ上がる。

レイジ 「ぷはぁ! た、助かった…」

アウル 「水タイプが溺死なんて洒落なんないよ…」

俺たちは気合で水上に上がると手を掴んだまま息を吸った。

レイジ 「でも、よく叫んでくれたな…」

アウル 「お互い様です…俺だけ叫ばないわけにはいかないですよ」

レイジ 「へ…お前、いいパートナーになれそうだな」

アウル 「それはこっちにも言えますよ」
アウル 「レイジさんがパートナーなら安心ですよ」

アウルは笑ってそう言う。
今俺はこいつに初めて確かな絆を感じた。
こいつとなら何とかなりそうだな…。

レイジ 「さて…これからどうしたもんか…」

アウル 「船は…見当たりませんね…」

浮上して改めて周りを見ると周りには船の漁火(いさりび)は見えなかった。
沈んだか…いや、アクアレイク一の船乗りがこんな流れごときに沈んだりはしないか…。
とすると安全圏まで退がったか。

アウル 「あそこに洞窟があります…行きましょう」

レイジ「…そうだな、流れもゆっくりな内に行くか」

俺たちはラキシス島の絶壁にある洞窟があることに気付く。
幸い今は流れもゆっくりでこれなら洞窟まで泳いでいけるだろう。

アウル 「これは試練なんでしょうか?」

俺たちは比較的ゆっくり洞窟に泳いでいると(←俺のせい)、アウルがそんなことを言ってくる。

レイジ 「そうだな…神に会うことはそれ位辛いことなのかもな…」

三獣士というやつになるっていう事はこれくらい辛いってことかもしれない。
俺たちはそんなことを考えながら洞窟を目指した。
恐らく、また更なる試練が待っていることをひしひしと感じながら…。







グラン 「…第一の試練は『絆』…」
グラン 「…あまりに速い流れは空気を水中から取り除き空気を得られなくなる…」
グラン 「こうなっては水ポケモンといえど水中で息をすることは不可能…」
グラン 「加えてあまりに速い流れは体の自由を奪う」

エルフィス 「………」

エルフィスはただずっと祈っていた。
もし、無事に第一に試練を突破したなら恐らく第二の試練に面している頃だろう。

グラン 「第二の試練は…」







レイジ 「ふう…やっと地に足付いたな…」

アウル 「ええ…結構泳ぎましたからね」

俺たちは洞窟に入って30分ほどしてやっと水面より上の地面に足をつく。
地面は不思議なことに海草で埋め尽くされていた。
どれもこれもさっきまで元気に水中で生きてきたやつだ。

レイジ 「どうやら…ここは普段水中のようだな…」

アウル 「ですね…恐らく今日潮が引いてこの洞窟が姿を現すんでしょうね」

レイジ 「二日後まで待てっていうのはこういうことか…」

恐らくこの日に限って潮が引くのだろう。
それをエルフィスさんは知っていたんだ。
やはりエルフィスさんはかつてここに来たことがあるんだ。
だけどそんな話聞いたことが無い…。
何故隠す必要があったんだろうか…。

レイジ 「そういや、アウルはなんで三獣士になろうとするんだ」

アウル 「…なんでだろう?」

レイジ 「はい?」

アウルにそう質問するとアウルは首をかしげてそう言う。
何でだろうって…。

レイジ 「お前、根拠もなしにこんな苦労するのか…」

アウル 「ただ、なる物だと思ってたから…」
アウル 「スイクンである以上目指さないといけないと思ったから…」

レイジ 「…はぁ」

瞬間ため息。
そりゃないだろ…。

アウル 「でも…夢だった…ていえば嘘じゃないかな…」

レイジ 「夢?」

アウル 「うん、俺は8年前までは同じスイクン種のクリアっていう兄ちゃんと一緒にいたんだ」

レイジ 「ほう…」

アウル 「でも、その8年前、兄ちゃんは三獣士になるため街を出たんだ」
アウル 「それから俺はずっと兄ちゃんの帰りを待っていたけど兄ちゃんは帰ってこなかったんだ」

レイジ 「そういや、お前の住んでいた街ってどこなんだ」

アウル 「首都、て言えばわかるだろ?」
アウル 「で、それから5年経った3年前、来たんだグラン様が」

レイジ 「グラン様が?」

アウル 「ああ、その時知ったんだ兄ちゃんが死んだって…」
アウル 「そして言われたんだ、俺が新しい三獣士になれと」
アウル 「でも、当時15歳だぜ、俺」
アウル 「当然、すぐになることなんて出来やしない、でも、なりたかった」
アウル 「俺にとってガーヴ様よりも憧れの兄ちゃん…その人が目指した三獣士ってどんなものだろう…て」

レイジ 「その兄ちゃんって強かったのか?」

アウル 「そりゃもう! 兄ちゃんより強いやつは首都にはいなかったぜ!」
アウル 「ま、俺はてんで弱かったんだけど…」
アウル 「で、俺は三年かけて強くなったんだ…必死に兄ちゃんを目指してな」

アウル 「そして、ま、今に至るってわけ」

アウルは歩きながらそう言うと最後にそうしめる。

レイジ 「強くなったって言う割にはたいしたことない気がするんだがな?」

アウル 「うう、そりゃまだまだひよっこさ…」

俺が意地悪にそう言うとそう言って落ち込む。

レイジ 「やれやれ、男なら胸張れって、自分は強いんだぞ! って」

アウル 「う〜ん…」

レイジ 「はあ…」

どうもアウルには弱気なところがある…。
でも憧れか…。
正直三獣士ってのはどんなものかわからない。
たんなる称号だろうがアウルには意味があるのだろう。
もうすぐその兄に追いつけるのだから。

アウル 「この先が海の祠なんですかね?」

レイジ 「そうだろ? つーかそうじゃなかったら詐欺だぜ?」

アウル 「そうですよね…じゃ、アレはなんでしょう?」

レイジ 「あれ…あ?」

俺たちは洞窟を歩いていると正面に壁が現れた。
もしかして行き止まり?

アウル 「これは一体…?」

レイジ 「どうなってんだよ畜生…行き止まりかよ…」

俺は壁に手をつけるとそう言って項垂れる。

アウル 「そんなはず無いと思うんだけど…」

アウルはそう言うと壁の前に立って壁を軽く叩いた。

コォン…

レイジ 「!? 雲母の層か!」

アウル 「間違いないです! この壁の向こうに空間があります」

アウルが壁を叩いたとき音が響いた。
それはつまり響くだけの空間があるってことだ!

レイジ 「そうと分かればこんな壁叩き壊してやる!」

ガコォン!!

俺は壁を思いっきり右拳で叩く。
しかし…。

レイジ 「痛ったー!」

壁は依然残り、傷ひとつ付かない。
逆に俺の拳が砕けるわい…。

アウル 「砕けるほど薄い層じゃないようですね…」

レイジ 「うーん、じゃあどこかにスイッチがないか調べてみるか」

アウル 「そうですね」

俺たちはそう言うとその壁辺り周辺を調べ始めた。



………
……




レイジ 「あったか?」

アウル 「いいえ…」

あれから10分ほどくまなく捜したがそれらしき物は見つからなかった。

アウル 「やっぱり違うんじゃ?」

レイジ 「だろうな…だったら!」

俺はそれでダメなら今度は体当たりをしてみる。
しかし…。

ドカァ!

アウル 「…だめ」

レイズ 「くそ〜、力技はダメなのか…」

やはり壁は倒せない…こいつは強敵だ。

アウル 「そうだ! もしかしたら!」

アウルは壁の前に立ち壁を横に引っ張り始めた。

アウル 「んんー!!」

レイジ 「なにやっているんだ?」

アウル 「いやもしかしたら引き戸になっているんじゃないかと…」

レイジ 「なるほど…なら、俺も手伝おう!」

アウル 「んんー!」
レイジ 「んんー!」

しかし、壁は動かない…。

レイジ 「う、動かないぞ…」

アウル 「お、おかしいな…あ、もしかして反対なのかも…」

レイジ 「じゃ、反対に引っ張ってみるか?」

アウル「ええ…」

アウル 「んんー!」
レイジ 「んんー!」

しかし、壁は動かない…。

レイジ 「ぜ、全然ダメじゃないか!」

アウル 「うう〜…だったら縦に!」

今度はアウルは下から上へ持ち上げるように引っ張る。
しかし…。

アウル 「はぁ…はぁ…」

やはり動かない…。

アウル 「も、もうダメ…」

レイジ 「少し休憩しよう…」

そう言うと俺たちは壁にもたれかかる。
一体どうやってあけりゃいいんだ?

ガコン!

レイジ「へ?」

突然壁はガコンという音を立てて後ろに行ってしまう。

アウル 「あ…」

レイジ 「…回転式のドアだったのね…」

そう、そのドアは端っこから力を加えると回転する壁だったのだ。
道理で正面から押してもだめなはずだ…。

アウル 「…先はまだ闇か…」

レイジ 「ここまできたらやれるとこまでやるしかないよな…行くぞ…」

アウル 「…はい!」








グラン 「第二の試練は『知恵』」
グラン 「あらゆる攻撃をもはじく強固な壁は知恵を絞りしものに道を開く…」

ある意味これが一番問題だ…。
あいつ等馬鹿そうだからただの壁と思うかも…。
まぁ、多分大丈夫じゃろう…。

グラン 「しかし、第二の試練を抜けても次に待つのは第三の試練…」
グラン 「第三の試練は…『力』!」








? 「良くぞここまで来た、新たに三獣士を目指す者よ…」

俺たちはそのまま一本道を進んでいるとやがて明かりを見つけ、小さな神殿が目の前に見えた。
そしてそこには門番と思わしきトドゼルガの男がいた。

アウル 「あなたは?」

? 「我はこの神殿を守護するトドゼルガのラギアス…」
ラギアス 「よくぞ、ここまで第一、第二の試練を突破した…」
ラギアス 「そして次は第三の試練…力の試練だ!」

レイジ 「力…?」

何となくは予想できるが、ありきたりだな。

アウル 「てことはあなたを倒せばいいんですか?」

ラギアス 「そうだ、我を倒せばお前達はガーヴ様に会える」
ラギアス 「遠慮はいらん…どこからでもかかってくるがよい…」

レイジ 「そのつもりは…」

ラギアス 「!?」

レイジ 「ないぜ!」

どかぁ!

俺は開始一番相手の懐に入り込み顔面に右拳を振るう。
相手はそれを両手でブロックする。

ラギアス 「…面白い」

ヒュッ!

レイジ 「ふん!」

バシッ!

相手は近接戦で膝を繰り出すが俺はそれを少し後ろに飛んで手で受け止める。
そして、返し刀俺は蹴りを繰り出す。

ラギアス 「その程度の攻撃!」

相手はそれを受け止め蹴り返してくる。

レイジ 「へっ…」

ガコン!

ラギアス 「なに!?」

突然ラギアスの辺りが軽く揺れラギアスはバランスを崩す。

レイジ 「そらよ!」

ラギアス 「ちぃ!?」

ドカァ!!

ラギアス 「な…に!?」

俺は左のハイキックを繰り出すが相手は不安定ながらもガードをする。
しかし、そこを俺はフェイントで蹴らず右のハイキックで顔面を捉える。

レイジ 「馬〜鹿、誰が素直に威力の低い左を放つかっつうの右だよ右!」

ラギアス 「み、見事だ…何も言うことはない…」

ラギアスとか言うやつは俺の右を受けて地面に手をつけてそう言った。
ちなみにさっきはわざと距離を離して不安定な蹴りを出させたのだ。
そこへ俺の地震、当然片足の相手はバランスを崩すところに待ってましたといわんばかりに俺の蹴り。
それが見事に直撃したってわけだ。

レイジ 「軽い軽い♪ さ、行くぞ」

アウル 「あ、うん…」
アウル (何もやる前に終わっちゃった…)







グラン 「第三の試練『力』…」
グラン 「強きことは力でもある…強きことにこした事はない…」

はっきり言ってここまでこれたなら問題はないじゃろう…。
あいつ、特にレイジは頭はあまり良くないが腕っ節はある意味化け物じゃ…。
まぁ、こんな所でつまずくことがあっては最後の試練は抜けられんじゃろうがな…。

グラン 「三獣士…」

この世界を護る三体の獣の称号…。
それぞれ、水のスイクン、炎のエンテイ、雷のライコウがそれを務める。
それぞれ、試練は様々だが海の神ガーヴはあらゆる水に耐える者を望む。
そして、大陸の神ティターンは灼熱の炎をも凌駕する者を望む。
そして、天空の神空牙は音速の風をも超える者を望む。

グラン 「もし、第三の試練も超えたのなら…次は最終試練…最後は…」








レイジ 「……」

アウル 「………」

俺たちはただ黙ったまま奥へと進んだ。
神殿の中は広くどこまでも真っ直ぐ白い石柱が続いている。
それは外から見た小さな神殿とは思えないほどに…。

レイジ 「……」

ある程度進んだとき、俺たちの前にひとつの扉が姿を現す。
その扉は一見何でもない扉なのだがその奥から何か異様な感じがした。
恐らく、その先に海の神ガーヴ様はいる。

レイジ 「あけるぞ…」

アウル 「…」(コクリ)

アウルはただ無言で頷いた。
扉の先から感じるプレッシャー、いやおなく緊張する。

ギイイ…。

俺は扉をゆっくりと開ける。
そして、その先の部屋に入ると中には小さい部屋で、特に装飾はなく真っ白な部屋だった。
一番奥に岩の盛り上がっている床があり、そこに座ったある女性がいた。

アウル 「あ、あなたが海の神『ガーヴ』様ですか…?」

ガーヴ 「…来たか。待っていた」

どうやら間違いなくこの人物がガーヴ様らしい。
にしても…第1印象でまず驚いたのは…。

レイジ (…女だったのか)

しかも、相当な美人…クールな感じできつそうな感じもするが、どこか優しげな目にも感じる。
両耳にアクアマリンの付いた、小さなイヤリングをしていて、髪は長髪でさらり腰まで伸びていた。
服装は水着のようにも見える位の薄着…正直グラマーだ。
肩に透明感のある薄いローブを身に纏っているのも見えた。
まぁとにかく、これでようやく終わりだな…。

ガーヴ 「…成る程、そなたが未来の三獣士となるのか」
ガーヴ 「ならば、まずそなたに問おう」

アウル 「は、はい…」

アウルは案の定固まりまくっている。
しかし無理もない…今、俺たちの目の前に立っているのはまさしく化け物だ。
座っているだけなのにその体から放たれるプレッシャーは俺の体を固まらせるに十分だった。
敵に回せないな…。

ガーヴ 「三獣士とは、世界の安定を守護する存在…その意味は大きい」
ガーヴ 「いかにスイクン種といえど、全てがそうなる必要はない」
ガーヴ 「つまり、今の生活を捨ててでも、三獣士になると言うのか?」

アウル 「はい! この世界に本当の危機が訪れるならばこの命に換えて護ります!」

ガーヴ 「…ならば、更に問おう」
ガーヴ 「そなたは、その男を殺すことができるか?」

レイジ 「!?」

なんとガーヴ様は俺を指差しそう言う。
一体どういうつもりだ…?

アウル 「レ、レイジさんを…?」

ガーヴ 「『護る』…と言うことは、時に親、子供、信じる者をも倒さねばならない」
ガーヴ 「三獣士とは、それ程重い役割を持っている…だからもう一度問う」
ガーヴ 「そなたは、その男を殺すことができるか?」

アウル 「………」

レイジ (…どうするんだ…アウル?)

俺はお前がどう答えても気にはしない。
それがお前の選ぶ道なら好きにしたらいい。

アウル 「お、俺は…」

ガーヴ 「……」

アウル 「俺はレイジさんを殺せません…」

レイジ (アウル…そうか)

ガーヴ 「それができないのであれば、辛い宿命を背負うことになる」
ガーヴ 「…全てを失う覚悟がなければ、三獣士の役目は重すぎる」

アウル 「…いいえ、それでも失えません」

ガーヴ 「……」

アウル 「俺は…まだ一杯知らないことがあります」
アウル 「レイジさんやシースさん、ミュルナさん、ララさんにシエラさんにセーラさん」
アウル 「俺はもっと知りたいから…もっといろんな人に出会いたいからです!」

レイジ (…アウルのやつ…へ…)

ガーヴ 「三獣士はそれほど軽い立場ではない」
ガーヴ 「今からでも遅くはない…その想いがあるのであれば、三獣士ではなく普通の生活を過ごすがいい…」

アウル 「いいえ、そのつもりはありません!」

レイジ (…おいおい、欲張りなやつだな…)

ガーヴ 「……」

アウル 「あなたは質問すると言っただけです…これは本当の試練じゃないんでしょう?」

ガーヴ 「……」
ガーヴ 「…ならば、着いてくるがいい」

ガーヴ様は立ち上がると後ろのカーテンをめくり奥の部屋へと行く。
俺たちはその後を追うのだった。

レイジ 「おい…あの答え方はなんだったんだ?」

俺は小言でアウルに聞いた。
正直理解しがたい状況だった。
普通あんだけ言っといて三獣士になろうってのはどうかと…。

アウル 「別に俺は本当のことを言っただけだよ…」
アウル 「嘘はつきたくないしけど三獣士にはなってみたいし」

アウルはそう言ってすたすたガーヴ様の後ろをついていく。
俺はしばらくその場で呆然として。

レイジ 「…はぁ」

ため息ひとつ。
なんか不安になった…。




………………




ガーヴ 「……」

アウル 「…ここは?」

俺たちはガーヴ様の後ろを着いていくと徐々に階段を上がっていってやがて地表へと出る。
そこは木々が半径30メートルほどに無く、開拓された場所のようだ。

ガーヴ 「ここで、私と戦うのだ…」

ガーヴ様は平地の真ん中に立つとそう言ってアウルに対峙する。

レイジ 「あの…化け物に戦えだと…ふたりがかりでも無茶だぞ…」

アウル 「…少しさがって下さい…」

レイジ 「アウル…」

アウルはやる気のようだ。
あれ程のプレッシャーを出す相手に戦いを挑むのか…。
アウルのやつ普通じゃ考えられないほどの…それこそ気を緩めたら押しつぶされそうなプレッシャーに立ち向かうのか…。

レイジ 「…わかった…」

俺はその場から離れ森の中に入った。
はっきり言ってアウルが勝てるとは思わない…。
ただ、もう止めることは出来ないか…。

ガーヴ 「…初めに言っておく、命の保証はしない」
ガーヴ 「そなたの覚悟…どれほどの物か見極めさせてもらう」

ガーヴ様はそう言うと突然空は雨雲が漂いすぐにその場は豪雨に見舞われる。
その場はさながら台風でも来たかのようだった。
雷は鳴り、大雨は降り、強風が木々をなびかせる…。

アウル 「……」

アウルは意外に冷静にガーヴ様を見定めていた。
開き直ったのか…?

ガーヴ 「……」

ガーヴ様は無造作に凄まじい水を正面に集め、一瞬でそれをアウルに飛ばす。

アウル 「くっ!?」

アウルはガーヴ様のハイドロポンプ(多分…水鉄砲でもあれ位の威力が出そうだが)をかろうじてかわす。
かわした先の木々はそれに当たると一瞬でなぎ倒されてしまった。

レイジ 「なんて威力だ!? あんなの受けたら死ぬぞ!?」

それ程の威力のハイドロポンプ(あくまで多分)を今ガーヴ様は一瞬で放った。
まさしく化け物の一言に尽きる…。

アウル 「この!」

アウルはお返しといわんばかりにハイドロポンプを放つが威力が違う。
アウルのハイドロポンプは簡単にガーヴ様に弾かれてしまう。

ガーヴ 「…この程度か?」

アウル 「!? うわ!」

突然アウルの足元の水が跳ねて、それが波動となってアウルに叩き込まれる。
ガーヴ様の水の波動(やっぱり多分…ガーヴ様なら水をどうとでも操れるだろうからな)だ。

アウル 「くっ…」

ガーヴ 「……」

アウルは手をついて苦しそうにするがガーヴ様は容赦なく次の攻撃をする。

アウル 「くそっ!?」

アウルは苦しそうだが必死に回避しようとする。

ガーヴ 「…甘い」

ガーヴ様は雷雲を操り雷をアウルに落とす。

アウル 「うわあ!!?」

アウルはそれを避けられず直撃してしまう。
だめだ! ダメージが大き過ぎる!

レイジ 「やばい!」

ガーヴ様はもう一度雷雲を集め始めた。
雷を使うつもりだ。

レイジ 「くっ!?」

アウル 「レ、レイジさん!?」

ガーヴ 「…?」

俺はアウルを庇うようにガーヴ様の前に立つ。
ガーヴ様はやや驚いた表情で俺を見る。
だが俺は引かずに睨み返した。

ガーヴ 「これはあくまでアウルへの試練。そなたが出る必要はない」

アウル 「そうです! これは俺の!」

レイジ 「アウルが俺を殺せないように俺もお前を殺せない!」

このままもう一度雷を食らえば確実に死ぬ。
これは勇気なんかじゃない…無謀だ…。

ガーヴ 「…覚悟はできているということか」
ガーヴ 「いいだろう、ならばそなたの参戦も認める」

レイジ 「………」

俺は引かない…これは俺の精一杯の勇気だ。
親友を失いたくない俺の勇気!

ガーヴ 「…!」

ガーヴ様は3度雷を操る。

レイジ 「くっ!」

バチィン!

レイジ 「……」

アウル 「レ、レイジさん…?」

レイジ 「大丈夫か…? アウル?」

アウル 「お、俺は大丈夫です…」

俺はそれを聞くと少し安心する。
良かった、ちゃんと俺は雷を受け止めれた。

ガーヴ 「…体で止めたか」

レイジ 「生憎俺は雷は効かなくてね…あんたの雷がどんなに強力でも俺には効かないんだよ…」

ガーヴ 「……」

ガーヴ様は無表情に水を集める。
今度はハイドロポンプ(多分)か!

アウル 「レイジさん!?」

レイジ 「心配するな…俺は死なない…」
レイジ 「お前を三獣士にすることは出来ないだろうが、な…」

ガーヴ 「そなたは確かに電気に強い」
ガーヴ 「だが、それだけに水への耐性が低い…」

ガーヴ様は今までの中でも最も威力の高いハイドロポンプ(くどいようだが多分)を俺にはなつ。

レイジ 「ただじゃ貰わねぇ! 倍返しだー!!」

俺はガーヴ様の攻撃に瞬時に反応して俺の前に鏡のような膜を張る。

ピキッ! ズパァン!!

レイジ 「うわああ!?」

ガーヴ 「…!」

俺はミラーコートを張って倍返しでガーブ様に放ったのだ。
だが、俺にもダメージがでかすぎた…立っているだけでやっとだ。

レイジ 「へ…あんたの強大すぎる力が仇になったな…」

ガーヴ 「……」

だが、ガーヴ様はその場を動くことはなかった。
あれで、耐えるのか…どれだけ強いんだよ。

ガーヴ 「アウル、そなたはその男が大切か?」

アウル 「当然です! レイジさんのためなら三獣士だって諦めます!」

アウルはそう聞かれると涙を流してそう答える。

ガーヴ 「…そうか。ならばレイジ。そなたはアウルのために死ぬ覚悟はあるか?」

今度は俺に聞いてくる。
俺は躊躇(ためら)うことなく。

レイジ 「死ねる…そのために来たんだ」
レイジ 「だが、死ぬ気は無い…生きてこそ意味があるんだ…」
レイジ 「死んで三獣士になっても意味が無い…俺たちは生きるんだ今日を…明日を…」

俺はそう言った。
正直ダメージが大きすぎて喋るのも辛い…。

ガーヴ 「…そなたたちの『勇気』、見せてもらった」

ガーヴ様はそう言うと俺たちの前まで来る。
今までとは一変して、優しい瞳で俺たちを見つめてくれる。

ガーヴ 「立てるか?」

アウル 「…正直自分の力では立てそうに無いです…手伝ってもらえればありがたいですけど…」

ガーヴ 「…素直な子供だ、嫌いではない」

ガーヴ様はそう言うとアウルの両手を引いて立ち上がらせた。
ぱっと感じると親子の様に見えなくもなかった。

ガーヴ 「…合格だ。そなたを三獣士と認めよう」

アウル 「え…それって…」

レイジ 「へ…やったじゃねぇか!」

ついに…ついにアウルは三獣士になったんだ。
アウルは信じられないといった顔で俺たちの顔を見る。

アウル 「本当にいいんですか? 俺、ガーヴ様に勝てなかったしレイジさんに助けてもらったのに…」

ガーヴ 「…アウルとレイジ、ふたりで三獣士と認めたからだ」
ガーヴ 「レイジは、死を恐れずに私の攻撃を正面から受けた」
ガーヴ 「それは…最後の試練である、『勇気』を証明するには十分だった」
ガーヴ 「そして、その者のためにそなたは死ねる…と迷うこともなく、私に言った」
ガーヴ 「これまでの試練は全て、そなたたちふたりに問われた試練。だから、ふたりがそれを証明しなければならなかった」
ガーヴ 「そして見事にその『勇気』を私に証明した…だから、合格だ」

レイジ 「だとさ、良かったな」

俺はそう言ってアウルの肩を叩いた。
アウルはよろけて倒れそうになるが何とか持ちこたえる。

ガーヴ 「レイジよ…よく私の一撃に耐えた」
ガーヴ 「2割程度の力とはいえ、水に耐性のないそなたが耐えるかどうかは、正直不安だった」

レイジ 「正直…死ぬかと思ったんですからね…」

けど、なぜか体には割と余裕があった。
あんな一撃受けたら普通病院送りのはずなんだがな?
まぁ、それでも2割か…やっぱ化け物だ。
こんな美人捕まえて、化け物はちょっと言いすぎな気もするが…。

チャリン…。

レイジ 「!」

その時俺の腰である鈴が鳴る。
貝殻の鈴だ…。
もしかしたらこいつが俺を護ってくれたのかな。

ガーヴ 「…私としても、反撃されるとは思っていなかった」
ガーヴ 「水タイプの人間に、ここまでのダメージを負わせられたのは初めてだ」

レイジ 「やったな! 俺たち世界初だ!」

アウル 「俺は何もやってないよ…」

レイジ 「ははは! いいんだよ! 俺たちはコンビなんだから! 片方がやったら両方のやったことだ!」

俺は笑ってそう言う。
なんだか急に緊張から解き放たれたから可笑しくてしょうがなかった。

アウル 「あ…太陽…!」

レイジ 「お、本当だ!」

気が付くと雨雲は消え去り、昇り始めた太陽があった。
一日の始まりだ。

ガーヴ 「もう行くがよい。三獣士と言っても、自由を縛られることはない」
ガーヴ 「私は…訳あって、眠りにつかなければならない」

アウル 「はい!」

ガーヴ様は、少し悲しげな顔をしてそう言う。
対して、アウルは今までに無いくらいの笑顔でそう言う。

ガーヴ 「…レイジ、アウルを頼む」
ガーヴ 「あの優しき瞳の少年には、三獣士の役目は過酷過ぎる」
ガーヴ 「そなたが…護ってやるのだ」

レイジ 「はい…」

ガーヴ様は俯き加減にそう言うと、ゆっくり神殿の方へと戻っていった。
先ほど言った通り、眠るのだろう…。
訳あって…か。
どんな理由があるのかはわからないが、な…。

アウル 「あ! アレはトールさんの船!」


















…そして1ヵ月後…




エルフィス 「そう…行っちゃうのね…」

アウル 「はい! 今までありがとうございました!」

あれから一ヶ月間、アウルはクリアブルーで働きながら居候していた。
行くところもなくかといってこの街に留まりたいアウルはエルフィスの勧めでクリアブルーにきたのだ。
今ではすっかり街にも馴染んで皆とも打ち解けていた。
しかし、そんなある日アウルはこの街を出て旅立つと言った。

アウル 「俺は俺と同じ三獣士を捜したいんです」
アウル 「決してこの街が嫌になったとか仕事が辛いとかじゃないんです!」

エルフィス 「それはわかっているわ…」

アウル 「すいません…急にこんな話して…」

エルフィス 「いいのよ…あなたのことまるで子供のように思えて…私は嬉しかったわ」

アウル 「子供ですか…じゃあ、レイジは夫ですね」

エルフィス 「ふふ、そうね」

俺はそんなくだらない会話をしながら別れを惜しんでいた。
今は昼でレイジは仕事中。
このクリアブルーには俺とエルさんしかいない。
もし、こんな会話レイジに聞かれたらなんて言われるやら…。

エルフィス 「本当に皆には挨拶しないのね?」

アウル 「はい、言ったら辛くなるんで…」

そう、俺は今日中にこの街を出るつもりだ。
まだ時刻は昼だがだからこそこの時間帯に出る。
朝とか深夜とかだとなんか誰か待ってそうだから…。

アウル 「本当にありがとうございました! それじゃ俺行きます」

エルフィス 「ええ…気をつけてね」

アウル 「はい!」

エルフィス 「また、帰ってきてね…」

アウル 「…もちろんです! 母さん!」

エルフィス 「!」

アウル 「それじゃ!」

俺はそう言って店をさっさと出て行った。
正直最後のは恥ずかしかった。
俺は親を知らない。
同じスイクン種の兄ちゃんが唯一の家族で俺は親を知らないのだ。
だから…エルさんは俺にとってお母さんだった。
決して本当の家族にはなれないけど心は繋がる…俺はそう信じている。

俺は家を出ると走って北部の町の入り口に向かう。
狭い路地を抜け、町長の家を抜け、商店街を抜け…。



レイジ 「よう…そんな急いでどこに行くんだい?」

アウル 「! レイジ!?」

なんと街の正面入り口にはレイジがいた。

レイジ 「俺に何も言わないとはいい度胸しているな」

アウル 「あ、はは…」

俺はただ苦笑するしかなかった。
まさかばれていたとは〜…。

アウル 「もしかして知ってた?」

レイジ 「そりゃ、この街には素晴らしく地獄耳の女と未来を見れる男がいるからな」

アウル 「うう…」

間違いなくララさんとシースさんだ。

レイジ 「それでなくとも最近のお前の態度がおかしかったからな…」

レイジさんは入り口の大きなアーチの柱にもたれ掛かるとゆっくりそう言う。
そうか、俺は隠し事は苦手なのか…。

レイジ 「なんで、この街を出て行くかはいちいち聞かん…」
レイジ 「その代わり俺はお前に着いていくぞ」

アウル 「ええ!?」

レイジ 「あんだよ! そのあからさまに嫌そうな顔は!」

アウル 「いや、嫌じゃないけどお店はどうすんの…」

さすがにレイジまでいなくなったらお店のほうがまずいだろう…。

レイジ 「心配するな、セーラやサレナが手伝ってくれることになった」

アウル 「…それは余計不安な気がするんだけど…」

あの二人に任せたら店つぶれないよね…?
セーラさんはともかくサレナさんの性格はわかっているつもりだ。
任せるには危険な気が…。

レイジ 「それに2年以内に街に戻るという条件付だ」

アウル 「え…?」

条件?
それってどういう?

レイジ 「すでにエルフィスさんには承諾を得ているということだ」

アウル 「………」

何て言うことだ…。
まさか既にそこまでいっているとは…。

レイジ 「それに、お前は頼りないから(←そこまでは言っていない)しっかり面倒を見ろと厄介なことにじいさんやガーヴ様に言われてんだ」

アウル 「…」

頼りないって…。
俺ってそこまでダメそうに見えるわけ?
いや、実際ダメだけど…。

レイジ 「つうわけだ…理解したか?」

アウル 「はぁ…分かりました」

レイジ 「よし! じゃあ行くぞ!」



…こうして、俺のこの街での物語は終わった。
でも、これは俺のまだまだ続く壮大な物語の一ページに過ぎない…。
そう、俺はこれからレイジと共に世界中を歩き俺の思い出のページに刻むのだ…。
この物語はまだ始まったばかり…俺達の話はこれで終わりだけど旅は始まったばかり…。











☆ The End ☆











作者あとがき



Back


inserted by FC2 system