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ポケットモンスター 水の街外伝



序章第4話 『黒き翼と少年』




その時…僕はこの女性に不思議な感じを受けた…。




ミィース 「…どうしたんだい? ぼーっとその『人形』を見て」

僕は薄暗い中、とある黒い翼を持った女性の人形に見入っていた。
僕の名前は『セイル』、ミズゴロウ種で今日この水の国の首都からアクアレイクという港町に移り住む。
ここはミィースというポケモンの家。
ミィースは種族は不明、本人曰くマネネという種族らしい。
ここはこのミィースさんの家で、ミィースさんは人形師という精巧な人形を作る技師だ。
僕はここが好きでよく、ミィースさんの人形を見せてもらっていた。
ミィースさんの人形はどれも今にも動き出しそうなくらい精巧だった。
作る人形はどれも目を瞑っているが、まるで本物のようなんだ。
ただ、魂は感じられない…。

そんな中、僕はあるひとつの女性の人形に目がいった。

その女性の人形は黒い厚手のコートを着て、背中から大きな黒い翼を生やし、長くすらっとした美しい髪を持っている。
全身が黒づくめでまるで悪魔のようにも見えた。
ただ、その女性の顔にどこか悲しいものが見えた。
まるで…泣いているような…。

セイル 「ミィースさん…この人形は…?」

僕は気になってミィースさんに聞いた。
少なくともこの人形、今まで姿そのものも気がつかなかった。

ミィース 「ふふ、セイルは本当に見る目があるな…」

ミィースさんはそう言って軽く微笑む。

ミィース 「それは俺が人形師になるきっかけになった人形さ」

セイル 「…今まで、見ませんでしたけど?」

ミィース 「そうだろうな、いままで奥に仕舞っていたからな」

ミィースさんはそう言って、この女性の人形に触れる。

セイル 「………」

僕はもう一度その人形を見つめる。
どこか不思議な感じがして、どこか人形らしくない気がした。

セイル 「ミィースさん、種族は…?」

ミィース 「…ないよ。『本来、この世には存在しない種族』なんだから…」

セイル 「この世に…存在しない?」

どういうことなんだろうか…?
本来、存在しない?
つまり、存在したことがあったのだろうか?

ミィース 「…この人形は君にあげるよ」

セイル 「え?」

ミィース 「もう、俺には必要ないしな…いつまでもこんな所にいる方が彼女には可哀相だろう」

セイル 「……」

その時、ミィースさんの顔はとても悲しく見えた。
理由はわからないが、この人形には何かあるんだろう…。

ミィース 「そろそろ時間じゃないのか?」

セイル 「あ、しまった」

そういえば僕はこれからアクアレイクに向かうため馬車に乗るんだった。
もう行かないと。

ミィース 「この人形、運んでやるからさっさと馬車に向かえ」

セイル 「うん、ありがとう」

僕はそう言うと、少し早足でこの家を出る。
外には馬車が待っていた。
そして、すぐに人形を担いでミィースさんが現れる。

ミィース 「大切に頼むぜ」

セイル 「…うん」

僕はそう言って、人形を馬車に積み込んでもらう。
そして、僕はその人形の横にちょこんと座った。

ミィース 「荷物は大丈夫だな?」

セイル 「うん、向こうに着いたら宛てがあるから」

ミィース 「そうか、じゃあ気をつけてな」

セイル 「うん、あの、行ってください」

僕がそう言うと、馬車は静かに動き出した。
これから僕はアクアレイクに向かう。
少し寂しい気もするけど、仕方ない。





ミィース 「ふぅ、たく…」

俺はセイルが馬車で街を出るのを見届けるとそのまま家に戻った。

? 「…やれやれ、面倒なことをしてくれたようですね…」

ミィース 「!?」

家に入ると突然、薄暗い中に誰かがいるのがわかった。

ミィース 「誰だ!?」

? 「そんなことどうだっていいでしょう?」

ミィース 「ふざけるな!」

? 「…やれやれ、仕方ないですね」

声の主はそう言うとゆっくり暗闇の中から姿を現す。

? 「私の名前は『荒罪』(あらつみ)。裁きを与えし、神使のひとり…」

ミィース 「神使…?」

荒罪 「さて、あなたが渡したあの人形はどこへ行ったのですか?」

ミィース 「!? まさか、彼女が狙いか!?」

荒罪 「ええ、彼女はわれわれに必要なんですよ」

ミィース 「ふっ、何者かは知らんがみすみす教えることなんて出来ないな!」
ミィース 「彼女の正体を知っているならなおさらだ!」

荒罪 「…そうですか、残念ですね。まぁ、どっち道死んでもらうのですしそれもよろしいですが」

ミィース 「!?」

荒罪 「では、おやすみなさい…」

ミィース 「うおおおっ!?」





………………





…同日:某時刻、ミィース宅。



男A 「うお、なんだこりゃ…」

男B 「焼け焦げてやがる…何があったんだ?」

セイルが街を出て数時間後、ミィース宅には多くの警察が寄せていた。
ミィース宅は壁は黒く焼け、机や人形などは見るに堪えない状況だった。
まるで爆発でも起こったかのようだ。

グラン 「…どうじゃ、様子は…」

男A 「あっ! 国王様!」

そこにこの国の王、キングドラ種の『グラン』が姿を現す。
その隣にはシードラ種の男、王国軍近衛隊長『テール』の姿があった。

テール 「相当酷いようですね、まるで爆発が起こったかのようだ…」

グラン 「のようじゃな、ミィース氏は?」

男B 「現在確認作業がされていますが…この様子では」

テール 「やはり、暗殺…?」

男A 「可能性はあります、しかし、身元調査をしてみましたが、暗殺される要因が…」

警官の一人はそう言うと、国王グランは今までにないくらいの怖い顔で。

グラン 「まさか…」

テール 「グラン様?」

グラン 「『アレ』が狙われたのか…」

テール 「…アレ?」

グラン 「…国内に第一級警戒体制の発動、及び国内外のポケモンの移動を規制するんじゃ!」

突然グランはそんな突拍子もないことを言い出す。
それはまるで、戦争体制のようなことだった。

テール 「グ、グラン様何を…」

グラン 「早くじゃ!」

ジオノ 「その必要はないぞ」

グラン 「ジオノ?」

そこへジーランス種の老人『ジオノ』が現れる。

ジオノ 「彼女の居場所は既にわかっておる、そこまではせんでいい」

グラン 「…さすがジオノじゃな、して今どこに?」

ジオノ 「今は馬車に揺られてアクアレイクを目指しておる」
ジオノ 「ミィースのヤツここにいつまでも置いておくのは危険と思って何も知らぬ少年に渡しおったわい」

グラン 「…しかし、それでは…」

ジオノ 「わかっておる…早急に手立てする必要がある」

テール 「あの、おふた方、一体何の話を…?」

ジオノ 「お主、『ダークポケモン』というものを知っておるか?」

テール 「ダークポケモン…? いえ…」

グラン 「そうか、まぁ知らんわな」

ジオノ 「ふむ、知らん方がいい事もある」

テール 「…?」

グラン 「すまんがテールよ、今から急いでアクアレイクに向かっておくれ」

テール 「りょ、了解しました!」

テールはそう言ってグランに敬礼すると急いで外へ出て行った。

グラン 「時が来たのかも知れんな…」

ジオノ 「また、起こるのか…戦が?」

? 「……」

グラン 「…!」

突然、テールが飛び出た後からひとりの少年が入ってきた。

? 「く…る…く、る…」

グラン 「くる…? 何が来るんじゃ『アウル』!?」

アウル 「紡がれる…平和など訪れない…壊れる…波の流れ…」

ジオノ 「!? 待て、もういい! 眠れ!」

アウル 「う、うう…」

少年はつぶやきながら、糸の切れたように前のめりに倒れた。

ジオノ 「本格的に世界が動き出そうとしとるワイ」

グラン 「…一体どうなるという…」





………………






ガタンガタン、ガタンガタン!

セイル 「……」

僕は今馬車に乗っていた。
馬車は揺れながら街道を走りアクアレイクを目指している。
今はどこ位だろうか?
窓から外を覗くと緩やかな風に靡く背丈の短い草が靡いている。
更に地平線には海が見える。

セイル 「……」

隣を見ると、まるで眠っているように人形が座っている。
黒い髪がおもわず見とれてしまいそうだけど、これって人形なんだよね?

ギギィ…。

セイル 「…え?」

突然、馬車が止まる。
僕は驚いて正面を見ると…。

? 「みーつっけた♪」

セイル 「お、女の子…?」

見ると道の真ん中に140センチくらいの少女が立っていた。
髪型は赤い髪の毛をショートで纏めてあり、後ろに6本の巻き毛のような赤い尻尾が見えた。
ロコン種の少女のようだ。
見た感じ11〜2歳のようだ。
なにかこっちを見てニッと笑っている。

少女 「探すの大変だったよ〜、でもやっと見つけた♪」

セイル 「き、君は…?」

少女 「はえ? 君だれ?」

少女は僕を見ると、?を頭に浮かべてこちらを見た。

少女 「何か知んないけど、邪魔だからそいつのように死んでくんない?」

セイル 「え? う、うわっ!?」

見ると、運転手は首から血を噴出して死んでいた。

少女 「ん〜、決めた! 決ーめたったら決ーめた♪」

少女はそう言うとピョンピョンその場を跳ねる。
どうせ、ロクでもないんだろうな〜。
そういう嫌な予感だけはした。

少女 「いくよ〜、避けないでよ〜?」

少女はそう言うと手を背中に回す。
い、一体何をする気だ?

少女 「えい!」

セイル 「うわっ!?」

ドスドスッ!

少女の手が光ったかと思うと突然僕が座っていた場所の背中の壁に細い針が4本刺さっていた。
よ、避けなかったら死んでいたよ…。

少女 「ぶぅ〜! どうして避けるの! 避けないでって言ったのに!」

セイル 「よ、避けないと死んでたよ…」

少女 「もういい! どうせターゲットは死なないでしょ!? まとめて燃えちゃえ!!」

セイル 「えっ!? ええっ!!?」

少女はそう言うと手に炎を集める。
やばいって! 何する気!?

少女 「ミルンの『炎の渦』は並じゃないよ!? 燃え尽きちゃえー!」

炎の渦!?
そんなの使わないでよ!?

少女 「えーい!」

ゴォォォォォォォッ!

セイル 「う、うわわっ!?」

突然、馬車が炎の渦に包まれてしまう。
巻き込まれた瞬間は大丈夫だったが、あっという間に火は馬車を引火させる。

セイル 「駄目だ!? 僕の水じゃこの火は消せない!?」

はっきり言って絶体絶命だった。
既に炎で息が苦しい。
皮膚が熱く燃えそうだ。

? 「う…」

セイル 「え!?」

突然、隣で座っていた人形が動き出す。
それと同時に、人形が何やら黒い気のようなものを出す。

? 「う、くう?」

セイル 「え!? ええっ!?」

人形(?)は今度は何か黒い気流のようなものを出す。
もう一体何が起こっているの!?

ビュオオオオッ!!

セイル 「うわっ!? か、風!?」

突然、人形の周りに竜巻のような風が起きる。
心なしか黒く見えるよ!?

ゴォウッ!

少女 「!? ミルンの炎の渦を消した!?」

セイル 「た、助かった?」

馬車は大破したけど、炎は完全に消えていた。

? 「うく…こ、ここは…?」

セイル 「うわっ!? やっぱり動いている!?」

今まで人形と思っていた物はもう明らかに動いていた。
てか、生きていたの!?

少女 「め、、目覚めたの…?」

少女は恐れる目でこの人形(じゃないか…)を見る。

? 「な、何だ貴様は…?」

なんだか女性は苦しそうだった。

セイル 「だ、大丈夫ですか!?」

僕はそう言って女性に近づく。

? 「…? お、お前は?」

セイル 「ぼ、僕はセイルです。それより大丈夫ですか!?」

? 「セイル…か、わ、たしは大丈夫だ」

少女 「ふ、ふ〜ん、なんだ苦しそうじゃん、これならミルンでも大丈夫そうだね」

セイル 「う、や、やばい…」

あの少女は危険だ。
また、あんな技を使われたらたまったものじゃないよ…。

セイル 「に、逃げますよ!」

? 「逃、げる…?」

セイル 「そ、そうですよ! あんなの相手していたら命がいくつあっても足りませんよ!」

少女 「ふふーん、逃がすわけないじゃん♪ ミルンは狙った獲物はみーんな仕留めちゃうんだから♪」

最悪だよ…。
そういや、さっきからミルンって連呼しているけど、あれが名前か…。

? 「く…お前だけ、に、げろ…やつのねらい…は、わ…たし…だ…」

セイル 「そ、そんなのできるわけないじゃないですか! てか、めちゃくちゃ苦しそうじゃないですか!?」

少なくともこの人は体を抑えて、とても苦しそうにしていた。

? 「そう、じゃ、ない…これ、は…」

少女 「何が違うっていうの? めちゃ苦しそうじゃん」

? 「き、けん…な、んだ…」

セイル 「!? こ、これって…!?」

少女 「ほえ?」

突然、今までにない位の黒い気がこの人の体から出てくる。
はっきりいって危険というのは見てもわかった。
そして、少女はまたも頭に?を浮かべている。
この状況がわからないのか!?

? 「がああ…ああ…」

セイル 「!?」

変わった!?
突然、感じ方が変わった、この人の赤い瞳が恐ろしく見える。

少女 「ふふん、うめき声なんか出しちゃって、痛いならじっとしといたら〜?」

? 「あああああああああああっ!!!」

セイル 「えっ!?」

少女 「きゃあっ!?」

突然女性は豹変したかのように声をあげ、一気に少女に接近する。
そのスピードは物凄く速く、とても目で追えるものではなかった。
そして、同時に少女の首を取る。

少女 「あああ…く、くるしいよぉ…」

セイル 「まずい! あれじゃ死んじゃう!」

? 「あああああああ!!」

しかし、女性は手を離さない。
このままじゃやばいって!

セイル 「だめだ! て、手を離して!」

僕は女性に後ろから体を引っ張る。

? 「あああ!」

ドカァ!

セイル 「うわ!?」

僕は女性に弾き飛ばされてしまう。
とても女性とは思えない力だ。

少女 「ああ…」

もう、少女は死に掛けている。
このままじゃ…!

セイル 「手を、手を離して! おねがいだーっ!!」

? 「!!?」

少女 「ふえ…?」

セイル 「反応してくれた!?」

女性は僕の声に反応してくれたようで、少女から手を離す。
少女はそのままドサッと倒れてしまう。
よかった、まだ大丈夫だ…。

セイル 「逃げて! 早く!」

少女 「ミルンを…ミルンを助けてくれるの…? どうして…?」

セイル 「なんでもいいよ! ほら! またのあの人に殺されかけたくなかったら!」

僕はそう言っていまだうずくまる女性を指差す。

少女 「嫌だよ…死にたくないよ…」

セイル 「だったら早く!」

少女 「うう…からだが…」

セイル 「!!!!」

もうどうしようもないよ!?
一体どうしたらいいのさ!?

? 「あ、ああ…」

セイル 「! だ、大丈夫なの!?」

? 「セ、イル…?」

セイル 「はい!? なんですか!?」

女性は顔を上げて何か言いたそうだが聞こえない。

? 「う…」

セイル 「あ! ちょっと!?」

女性はそのまま倒れてしまう。
もう女性からあんな黒い気は見えない。

少女 「う、うう…」

セイル 「て、こっちも!?」

今度は少女の方も気絶してしまう。
さっきの首絞めが効いたようだ。

セイル 「ど、どうしよう…」

こんな道端でいきなり立往生なんて…。

? 「どうしたの、こんな道端で?」

セイル 「ふえ!?」

そんな時突然、ひとりの女性が姿を現した。
たすかった! そう思ったがその女性は凄い違和感のある女性だった。

セイル (なんでこんな道端でメイド服なんだ!?)

そう、その女性はメイド服を着ていた。
なぞだ…なぞ過ぎる…。

メイド服の人 「どうしたの?」

セイル 「ご覧の通り、立往生しています〜」(泣)

メイド服の人 「そう、大変ね、あなた名前は?」

セイル 「セ、セイルっていいます」

メイド服の人 「そう、私は小夜、アクアレイクに向かうんだけどもし良かったら馬車に乗っていく?」

セイル 「え!? いいんですか!?」

小夜 「ええ、馬車の荷台になってしまうんだけど…大変でしょ?」

セイル 「た、たすかった〜」

アクアレイクに向かった初日。
いきなりとんでもない目にあってしまった。
これからどうなるんだろうか…。
しかし、大変なのはこれからだ。
そう言う予感は既に感じていた。











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