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ポケットモンスター 水の街外伝



第6話 『シルクとメイリ』




カランカラン!

シルク 「はいはーい! いらっしゃいませー!」

若菜 「ルンララルンララ! ああ、忙し!」

その日の夕刻。
店はいつものように満員御礼の大賑わいを見せていた。
今日は幸い若菜さんが手伝ってくれているからいつもより大分まし。
それでも客多すぎ!
絶対、これはバイト雇った方がいいって!

シルク (これのせいで私には厨房任せてもらえないんだろうなぁ〜)

なんたってこの職場にいるウェイトレスは私ひとり。
そんな私が厨房に行ったら誰が客のオーダー受けるっていうのよ!?
若菜さんも普段は手伝ってくれない、本人の仕事があるから仕方がない。
今日はたまたま、あのやかまし三人組が揃って欠席しているから若菜さん手伝ってくれているけど…。
この店私たちいなくなったらやばいんじゃ…?

客A 「ちょっとー! 品物まだー!?」

シルク 「はいはーい! ちょっとまってくださーい!」

当然のようにオーダーが間に合わず、日常茶飯事のクレームがでる。
たった二人でこれだけの客捌けますかっての!
ちなみに全席で32席あるから、40以上は座ってるっての!

若菜 「えと! あの客シーフードだったよね!?」

シルク 「違う違う、B定食!」

若菜さんはやはり素人。
これだけの客の注文覚えきれてない。
つーか、私もよく覚えれるものだわ…慣れていっているのね。
しかし、この状況見るとあと3人は人数欲しいわ!

客B 「ちょっとー!」

シルク 「はーいはいはい!」

もう、忙しいったらありゃしない!
猫の手も借りたいってこのことね!?

カランカラン!

若菜 「あ、いらっしゃいませー!」

また、客が入ってくる。
この状況見たら普通入ってこないでしょうに!
しかも見ると二人組みでここらで見る姿ではなかった。

? 「すまない…ここにガジという料理人がいるはずなんだが…?」

二人組みの内大きい男…ここらじゃ見ないけどたしかカビゴン種の男がヤさん聞いている。
カビゴン種にしてはやけに痩せているわね…。
そして、もうひとりこれまた小柄で同じくノーマル種のたしかラッキー種の女の子がいた。
私と同じくらいの歳に見えるけど親子かしら?

ヤ 「いらっしゃ〜い」

カビゴン 「…あの?」

ラッキー 「マスター…この人…?」

でた、ヤさん独特の転調。
あの性格、普通の人びっくりするから絶対カウンター向きじゃないって!

シルク (かといって…ウェイターや料理人は却下だもんねぇ〜…)

客C 「ねぇー!」

シルク 「あーはいはい!」

こっちはこっちで忙しすぎ!
誰か助けて!

ヤ 「ガジさんはね〜、ここの〜、後ろの〜、厨房〜、だよ〜」

カビゴン 「厨房か…」

ラッキー 「マスター、どうするんですか?」

カビゴン 「席で待たせてもらおうか…、料理の方も気になるしな」

ラッキー 「席…?」

生憎だけど、空いているわけがない。
しばらく立っててよね!

シルク 「て、厨房行かないと!」

私は料理を貰いに行くため急いで厨房に入る。



シルク 「ガジさん、料理!」

ガジ 「持っていけ!」

中に入ると、中は真っ白で清潔感のある厨房だった。
料理人ひとりしかいないのに中は結構広い。
ガジさんはここでせっせかせっせか料理を作っていた。
こっちもあと2人は欲しいわね。

シルク 「あ、そうそう! さっきガジさん尋ねる客がいましたよ!」

ガジ 「あん!? 誰だよ!?」

シルク 「よく知らないけど、カビゴン種の男とラッキー種の女の子だったよ!」

ガジ 「…まさか? !? おい! お前はさっさと料理運べ!」

シルク 「わかってるって!」

私は両手に皿を持つと急いで中に戻る。
それと同時に入れ替わるように若菜さんが厨房に入った。



シルク 「あれ!? あの客達いない!? って、座ってるし!」

どうやら窓側の席で外を見ていた。
空いたのね。

シルク 「はい! シーフードスパゲッティ2人前お待ちどうさま!」

私は注文を頼んだ客の席に持っていくと、今度はすぐに例の客の席に向かう。

シルク 「オーダーを確認します!」

ラッキー 「んと、このA定食」

カビゴン 「……」

女の子の方はさっさと決めてくれる。
しかし、こっちの方は迷っているみたい。

カビゴン 「失礼だが…これは?」

男はそう言うとメニューを見せ、それを指差す。
そこにはこう書かれていた。

『カンブリア物語』

シルク 「……」

でた、レジェント料理…まさか頼む気!?

ちなみに価格7850円…(ポケドルに換算しても同じ)。
内容はカンブリア時代の地球をイメージした壮大な料理!
海老、蟹、魚介類はもちろん、野菜やフルーツ、肉料理も満載!
皿の直径は82センチメートル、楕円形!
高さは21センチ近く!
未だ誰も完食を果たせなかった、大食いチャレンジャーの魔のレジェント!

カビゴン 「あの…」

私はこの男に注目する。
たしか、カビゴン種って物凄く食べるのよね?
てことは、やっぱりチャレンジャー!?

シルク 「カンブリア物語は大食い料理の究極系です!」
シルク 「値段の高さは量だけでなく、品質にも拘り、山海の名品たちのオンパレード! 未だこの城壁を破れた者はいません!」
シルク 「頼みますか?」

カビゴン 「いや、そうだな岩石丼ひとつ」

シルク 「はいっと! A定食と岩石丼でよろしいですね?」

ラッキー 「は、はい」

カビゴン 「あ、飲み物は緑茶を二つ」

シルク 「はい! しばらくお待ちください!」

私はそれを聞くと厨房に向かう。

シルク 「岩石丼とA定食ね!」

ガジ 「おう!」

ここにいる全員(ヤさん除く)全員は休む暇などない。
そして、私たちはピークをこの奮闘ぶりで何とか切り抜けるのだった…。
普段は1人だもんね…これより倍も辛かったのか…。



………
……




シルク 「ふぃ〜、とりあえず楽になったわね…」

若菜 「お客さんも大分少なくなったもんね」

あれから2時間、ようやく客も少なくなった。
もともと常に満員だからそれを見て諦める客もいる。
そう言うところからこれくらいの時間で大分余裕ができるってわけね。

若菜 「それにしてもあの客まだいるね」

若菜さんはそう言うと例の二人組みを指差す。
既に二人とも食事を終え、今は待っている状況だった。

ガジ 「おう、もう客はいねぇな?」

若菜 「あ、ガジさん」

シルク 「ガジさん…」

客もいなくなり若菜さんとしゃべっているとガジさんが厨房から顔をだす。
めずらしいな…普段は仕事終わるまで顔出さないのに。

男 「おお、出てきたか」

カビゴンの方はガジを見て気付く。
う〜む、一体どんな関係があるのかしら?

ガジ 「ゴン、久し振りだな!」

ゴン 「ふ、探すのに苦労したぞ」

どうやらあのカビゴンはゴンというらしい。
成る程、カビゴンだからゴンね、成る程。

ガジ 「その子はもしかして?」

ゴン 「ああ、ほら! 自己紹介だ!」

ゴンさんは強くそう言うとラッキーの少女はややおどおどして。

少女 「あの、メイリって言います」

少女はそう名乗る。
ふ〜ん、メイリね。

ガジ 「やはり、こんなに大きくなって…」

メイリ 「?」

どうやらガジさんは知っているがメイリちゃんは知らないらしい。
そう言えばガジさんのこと何にも知らないな…。

シルク 「ねぇ、ガジさん、この人たちは?」

私は思い切って聞いてみた。
どうにも気になる。
だって、今までガジさんを尋ねてきた人なんていないもん。

ガジ 「ん? ああ、こいつはゴンっていうんだ」
ガジ 「俺のひとつ下でな、小さい頃からの幼馴染だ」

ゴン 「ゴンっていうんだ! よろしくな嬢ちゃん!」

ゴンさんは気前よく笑顔で言ってくれる。
うーむ、結構さっぱりした人だね。

シルク 「シルクっていいます、よろしくお願いしますねゴンさん」

私は丁寧に頭を下げてそう言う。

メイリ 「あの、シルクさんって何歳なんですか?」

シルク 「ん? えーと、14歳だね」

私はそう答える。
すでに8歳の時から働いているが歳聞かれたのは随分久し振りね。

メイリ 「ええ!? 私と同じ!?」

メイリちゃんはそう言って見事に驚いてくれる。
そうか、メイリちゃんも14歳なんだ。

ゴン 「ほう! 立派だな! 何時からここで働いているんだ?」

シルク 「ん〜と、あの日からだから8歳の時から」

メイリ 「えええー!!? は、8歳!?」

更に驚いてくれる。
う〜ん、この子面白いわ。

ゴン 「ほう、そんな歳からウェイトレスやっているのかい! すごいな!」

シルク 「つっても私本当はコック志望なんだけどね」

私は少し残念な気持ちでそう言う。

ゴン 「コック志望? ガジ…任せてないのか?」

ゴンさんはそう言ってガジさんにまわす。

ガジ 「こいつにはまだ早い…」

そしていつものようにガジさんはそう言う。

シルク 「もう! なんでよ! 私が厨房に立ったっていいじゃん!」

ガジ 「だめだ」

ガジさんはきっぱりそう言う。
なんで何だろ?
たしかに、ここでウェイトレスを減らす事は絶望的だけど…。

ゴン 「なら、シルクちゃん、料理作って持ってきてくれよ」

シルク 「え? 私の?」

ゴン 「ああ、頼むよ、品物はなんでもいい」

ガジ 「ゴン…」

ゴン 「いいじゃねぇか、ガジ、俺が見てやるよ」

ゴンさんはそう言う。
うん、これは好機だわ!

シルク 「待っててね! すぐに持ってくるから!」

私は急いで厨房に向かった。
よーし! 頑張るぞー!



……10分後



メイリ 「わぁ、すごーい」

ゴン 「ほう…」

シルク 「お店で出している簡単な料理ですけど…どうぞ」

私は厨房ですぐに焼き飯とシーフードスパゲッティを作ってきた。
一応メイリちゃんの分も含めて二人前。
さっきご飯食べた二人には多いかもしれないけど…。

メイリ 「いただきます」

ゴン 「うむ…いただきます」

二人は箸を持ってまず、焼き飯を食べる。
簡単なものだけど心配ね…エルフィスさんは美味しいって言ってくれたけどあの人は性格があれだし…。

メイリ 「美味しいです〜」

メイリちゃんは美味しいと言ってくれる。
しかし、ゴンさんは…。

ゴン 「……」

メイリ 「マスター?」

ゴンさんは無言だった。
やばい…なんかミスったかしら…?

ゴン 「…いや、こっちも食ってみよう」

何がなんだかよくはわからないけどゴンさんはそのままスパゲッティの方に箸をのばす。
同様にメイリちゃんもだ。

メイリ 「こっちも美味しいです〜、マスターは?」

ゴン 「…いいんじゃないか?」

ガジ 「……」

ゴンさんはいいんじゃないかと言う。
でも、どうも気になる言い方ね…。

シルク 「それで、評価は…?」

ゴン 「さっき言ったとおりだ、いいんじゃないか?」

シルク 「……」

若菜 「シルクちゃん?」

私は心の中でやったと言う。
でも、どうにも口に出ない。
なーんか、含みがあるような…。

ゴン 「シルクちゃん、ちょっとガジと話があるから、メイリとどっかで遊んでいてくれないか?」

シルク 「え? メイリちゃんと?」

ガジ 「ゴン…?」

ゴン 「ほら、行ってこいメイリ」

メイリ 「は、はい!」

ちょっと強引だけど、仕方ないわね…。
メイリちゃんは席を立つと早足で私に近づいてくる。

シルク 「しょうがないね、メイリちゃん、こっちきなよ」

メイリ 「は、はい!」

私はそう言うと二階に連れて行く。
一体どんな話があるのやら。




若菜 「私は抜けた方がいいですか?」

私は一応この場に残っているが、迷惑なら消えてもよかった。
まぁ、どうせこの時間ならもう客も入ってこないだろうし。

ガジ 「いや、別に構わないだろ…」

ゴン 「好きにしたらいい…それよりガジ…」

ガジ 「なんだ…?」

ゴン 「何でだ? あの娘の料理に十分問題は無いと思うんだが…?」

ガジ 「…関係ないだろ」

ゴン 「…まだ、引きずっているのか?」

ガジ 「それはお前も一緒のはずだ…」

若菜 「引きずる…?」

引きずっているとはどういうことだろう。
私はゴンさんは当然としてガジさんのこともよくは知らない。
一体何があるというのかしら?

若菜 「失礼ですけど、過去に何かあったんですか?」

ガジ 「色々な…」

ゴン 「ああ…色々だ」

若菜 (…言いたくないってことか…仕方ないわね)

言えないのなら仕方ない。
人間には言いたくないこと思い出したくないこと色々あるものね。

ガジ 「メイリちゃんはどうなんだ…?」

ゴン 「どうって…?」

ガジ 「もう、縁切りしているんだろ?」

ゴン 「ああ、その事か…。確かに俺の子じゃないからな…」

成る程、最初は親子かと思ったけどそうじゃないのね。
でも、やけに親しそうにしていた。
あれは?

ゴン 「まぁ…、その、なんだ? お前とシルクみたいな…もんだよ」

ガジ 「……」

それでガジさんは止まってしまう。
ゴンさんとメイリちゃん。
ガジさんとシルクちゃん。
この二人の共通点って…?

若菜 (そう言えば、シルクちゃんって8歳の時から働いていたわね)

あの娘、私よりここでの仕事長いのよね。
ガジさんと同期のはずだけど、一体何なんだろ…?

ゴン 「結局…離せないのか」

ガジ 「お前はどうなんだ…?」

ゴンさんが突然そう言うと、ガジさんは反論するように言った。
離す…?
一体、何を離すというの?

ゴン 「子供はいつか、親元離れちまうもんだがな…」

ガジ 「……」

若菜 (親元…?)

ああ、もしかしてそうか。
きっと、この二人は…。

若菜 「ふふふ…」

ガジ 「…?」

ゴン 「い、一体どうしたんだい嬢ちゃん?」

若菜 「いえ、二人とも寂しいんですね…」

何となくだけどわかった。
二人とも実の子供のように思っている彼女たちが自分たちの元から離れるのが怖いんだ。
ガジさんにとってシルクちゃんは子供のような存在で、いつまで経っても同じように写っているんだ。
だからこそ、自分と同じ立場に立つのが離れるようで怖いんだ。

若菜 「ふふふ、二人ともダメですね」

ガジ 「……」
ゴン 「…まいったね」



メイリ 「ええっ!? そ、それじゃあシルクさん、もう一人暮らししているんですか!?」

シルク 「うん、てか、それしか道なかったし」

私は二階一室に入るとベットに座って色々と自分の話を聞かせていた。
メイリちゃんよく驚いてくれるからこれはこれで面白い。

メイリ 「大変じゃないですか…」

シルク 「そりゃあね、でも12歳の時にはもう貯金かなりあったから」
シルク 「それに家事とか料理とか得意だしね」

私は8歳の時から働いているけど、その時は大体月14万くらい稼いでいた。
ガジさんに世話になっていたからほとんどお金を使うこともなく貯金の一方。
一応学校にも行きながらだから収入はまちまちだったがそれでも小学校を卒業することには800万位あったからアパートに住みながら学校に行くこともできた。
とはいえ一人暮らしだと食事の用意、洗濯、掃除、買い物、挙句の果てに学校と仕事とやたらに多忙だった。
しかし、今となっては当たり前、別に辛いとか助けてもらいたいとは思わない。
思うとすれば仕事ね…もうちょっとバイト増やして…儲けすぎよ…。

メイリ 「私にはまねできません…」

シルク 「やっぱりメイリちゃんはゴンさんと一緒に住んでいるの?」

メイリ 「はい、私はマスターと一緒に『母』っていう宿屋で働きながら住んでいるんです…」

シルク 「宿屋? へぇ、うちと一緒じゃん」

なんと、メイリちゃんの所も宿屋らしい。
うちもそうだしなんたる偶然かしらね。

メイリ 「でも…私シルクさんとは正反対…私そんな小さな頃から仕事なんてできなかったし…今でも接客もお料理も苦手だし…」

なんだか、メイリちゃんは愚痴始める。

シルク 「気にすることないって、向き不向きだってあるんだから、でもメイリちゃんは何が担当なの?」

メイリ 「私のところはここより小さいし、宿部屋の方が多いから…宿直を」

シルク 「ふ〜ん、一番楽な所ね、でも人によっては字が独特で読み難い人いない?」

これは私の経験である。
正直セーラさんの字を見た時も読み間違えたもの…。

メイリ 「あ、ありますね! 私も時々間違えたりするんですよ〜」

メイリちゃんは突然嬉しそうに話し出す。
成る程、共感者がいると違うのね。

シルク 「あれね〜大陸が違うと筆記体変わるときあるから旅行者の字は注意しないといけないのよね〜」

メイリ 「あはは、わかります! 最近私の住んでる街にも北方の方から来る人が多いんですよ!」

シルク 「ここなんて、世界中から来るって! この前なんかフライゴン種の傭兵さん来たよ! もうびっくりしたんだから〜!」

メイリ 「あはは! 私のところはバシャーモ種が着たりしましたよ! どこから来たのかな?」

シルク 「あはは! なんか気があうね!」

メイリ 「はい!私もシルクさんと出会えてよかったと思います!」

私たちはもう夜遅くだというのに二人で笑った。
なんだか、10年来の親友と出会えたみたい。
どうやら、私メイリちゃんと相性いいらしい。

シルク 「ねぇ、メイリちゃん、今日私の家に泊まらない?」

私はおもいっきってメイリちゃんを誘ってみた。
別に淫猥な意味で誘っているわけではない。
ただ単に親交を深めたいだけだ。

メイリ 「え…でも、マスターもいるから…」

シルク 「言ってみなよ! ダメもとでさ!」

私はいつでもこれだ。
もっともダメもとの規模が違うから必ず玉砕だけど…。

メイリ 「う、うん! 聞いてみる!」

シルク 「おっしゃ! じゃあ早速行こ!」

私たちは互いに頷きあうと部屋を出て一階に下りるのだった。




ドタドタドタ!


シルク 「ねぇ! ゴンさん!」

ゴン 「おいおい、随分騒がしいな、どうしたんでいシルクちゃん」

下に下りるとまだゴンさんとガジさんがいた。
私たちは早速ゴンさんに近づく。

シルク 「今夜、メイリちゃん貸してくれない!?」

ゴン 「おいおい…いきなりだな…」

メイリ 「あの…お願いします…マスター…」

メイリちゃんはやや気弱くそう言う。
でも、そのメイリちゃんの言葉が一番効果的。

ゴン 「…わかった。好きにしたらいい」

メイリ 「! ありがとうございます!」

ガジ 「ゴン…いいのか?」

ゴン 「メイリが決めたことだ…どうこう言いはしないさ…」
ゴン 「それにお願いなんて…もう二度とないかもしれないしな…」

シルク 「よし! そう言うことで行こ! もうあがっていいですよね!?」

ガジ 「ああ」

若菜 「私ももう行くから途中まで一緒に行こっか」

シルク 「うん!」

見ると若菜さんも帰る準備が出来ていた。
て、私が出来てないし!

シルク 「ごめん! メイリちゃん、準備するからちょっと待ってて!」



…………



若菜 「私、こっちだから」

シルク 「うん! 明日もお願いしますね!」

呑気屋を出て少し下ったところにあるT字路で私たちは別れる。
若菜さんの家はかなり西側にある。
私の家は逆に中央寄りの東側。
アパートの2階にある簡素な家だけどそんなんでも私の家。

シルク 「じゃ、こっちだから」

メイリ 「あ、はい」

私はそのまま先導してメイリちゃんと一緒に家を目指した。
やがて10分ほど歩いた所でアパートに着く。

シルク 「こっちだよ、暗いから気をつけてね」

メイリ 「はい」

私はアパートの階段の手すりを持って二階に上がる。
これから寒くなるなぁ〜。


ガチャ。

シルク 「入って入って」

メイリ 「おじゃまします…」

私は部屋の電気をつけると中に進める。

シルク 「あ! く、靴は脱いでね!?」

メイリ 「え? あ、はい…」

私は言い忘れたことを慌てて言う。
店の方は別にいいけど、ここはちゃんと玄関で脱いでもらわないと困る。
靴の汚れはカーペットをすぐにだめにしちゃうんだからね!?

メイリちゃんは丁寧に靴を脱ぐとそれをそろえて中に入った。
中には黒い机があり、毛布が上から掛けられてある、いわゆるコタツである。
水タイプといえども寒いものは寒い。
とはいえ水タイプなのでちゃんと加湿器もある。
まぁ、まだ早いけどね。

メイリ 「はぁぁ…」

呆れているのか驚いているのか…。
多少生活観のある光景だとは思う。
でも、片付けてある方だと思うんだけどな〜…。

メイリ 「凄いですね…ひとりでここで生活しているんですか?」

シルク 「そうだよ、寒い夜に一人で帰って自炊する…結構寂しいんだよ〜」

メイリ 「それは、大変ですね…」

シルク 「まぁ、時々若菜さんと一緒に鍋料理やって和んだりするけどね」

あれは実にいい。
鍋奉行がいないから自由に食べられる。
どうせ材料は大量買いだしね。
今日、買っておればよかったかも…。

シルク 「あ、ベットはそこね、お風呂はその奥、まだ沸いてないからすぐ沸かすね」

メイリ 「え、あ、え?」

シルク 「あ、もしかしてお風呂入る習慣ない?」

メイリ 「いえ、そんなことないです…でも、なにからなにまで…」

シルク 「別に気にしなくていいよ、慣れてることだし」

メイリちゃんは感嘆の息を吐く。
うーむ、私ったら見事な専業主婦かも…。
…て、まだ早いっての。

シルク 「ちょっと待っててね〜…って!?」

ブツン!

メイリ 「きゃあ!? なんですか!?」

突然、電気が消えて真っ暗になる。
参ったわね…停電だわ。

シルク 「停電ね…でも、ちょっと待ってね…え〜と配線配線…あ、あったあった!」

メイリ 「あ、すごい…触覚が光りだしてる…」

そう、私はチョンチー種だから頭に電気袋の付いた触覚が1対ある。
いざとなったらここから光を出して明かりを作ることが出来るのだ。
最大200メートルくらい先までの光を出せるみたい…ただし、これやると体力使っちゃうのよね…。

シルク 「えい! スパーキィング!!」

バチチッ!!

メイリ 「あ、点灯した…」

私が電気を流すと、元通り電気が付く。
われながら自分の属性のお陰でかなり得している。
なんたって自分で電気作れるんだもんね。

シルク 「んじゃ、改めてちょっと待っててね」

私はそう言って今度こそ風呂場に向かう。
すぐにお風呂沸かさないと♪



………………



シルク 「…」

メイリ 「うぅ…」

シルク 「あ、それ…ロン」

メイリ 「はう…」

ただいま、麻雀やっています。
ただ単に遊んでいるだけではない。
これはベットの取り合いである。
現在南4局、私が親…。
そして、ポイント差はわずか3000…。
勝った方がベットを使う…まさに賭け。

南四局はじめ…。

シルク (えーとマンズが1と9…ピンズとソウズも1と9…そして東西南北、白ハツ中…て)
シルク 「て、なんですとー!?」

メイリ 「きゃあ!? どうしたんですか!?」

シルク 「な、なんでもないわ…」

こ、これはコクシムソウではありませんか…むむ…いくべきか…。

いざ! 一碑目!

シルク 「とりあえずリーチ!」

メイリ 「ええ!?」

いきなり出来ているんだから当然だす。
これでダブルリーチだ。
このままなら…勝てる!

シルク (…マンズ4…まぁ、いきなりはね…)

メイリ 「…え!? あ、えと…り、リーチです!」

シルク 「なぬっ!?」

なんと、メイリもリーチする。
やばい…ちなみ、捨てた配はソウズの7…。
くう…ロンはできないか…。

シルク 「ふぅ…そうはでないわよね…」

こんどはソウズの3…だめね。

メイリ 「あ! ロンです!!」

シルク 「なんですとー!?」

メイリはいきなりロンを宣言する。
は、牌は!?

シルク 「ピ、ピンズだらけ…だ、大車輪ですか…」

おみごと…ダブリ、一発、ドラドラ、役満ですね…。
結果…当然私の負けらしい…。
こんなのあり…?

シルク (それにしても恐るべき吸収力ね…まるで乾いた砂が水を吸収するようだわ…)

実はメイリは麻雀を始めたのは今日が初めてだった。
とりあえず、ルールと簡単に役を教えたら簡単に覚えちゃった。
おまけにこの娘ったら妙に洞察力がいい、こっちの一挙一動を見逃さない。
お陰で、ひやひやしながら打たされた。
もしかしたらこの娘、物凄い才能を持っているのかもしれない…麻雀だけに拘らず。

メイリ 「それにしてもどこで手に入れたんですか…この雀と雀卓」

シルク 「ん? ああ、春雨で買ったの」

ちんみにこのジャン卓、正方形の板で普段はコタツの上にテーブルとして存在する。
ところが麻雀をする時は裏返すと緑色で皮で包んだ面が現れる。
普通の木彫りの板でやったらジャンパイが傷つくから、ちゃんと雀卓使おうね?

メイリ 「春雨って?」

シルク 「『美多的春多雨雑貨店』(びたてきしゅんたうざっかてん)…略して『春雨』(はるさめ)」

メイリ 「は?」

シルク 「ん〜とね、呑気屋の辺りの坂を更にのぼったらね、アズマオウ種の香雲(ホンユン)さんが経営する店があるの」
シルク 「そこは武器から、食料、ペットまで売っている何でも屋でね、そこで買ったの」

美多的春多雨雑貨店…通称春雨はこの街一番の品揃えを誇る店だ。
どこから仕入れているのか知らないが基本的に売っていないものはない。
しかしも結構珍しいものがリーズナブルな値段で売っているものだから、私もよく行っている。 鍋の材料と買うには最適ね♪
ちなみに名前の由来は知らない…なんたって店長自身の名前でさえ読み方が通常と違うからね…。

シルク 「さて、そろそろ寝よっか?」

いい加減私も眠くなった。
明日が早いわけじゃないけど、そろそろ眠りたい。

メイリ 「でも…どこで?」

そう、それが問題。
私はさっきメイリとの一戦で見事に負けた。
つまり、寝床を奪われたのだ。
しかし、客人をさすがにソファーで寝かすわけにもいかないものね…。
ここは我慢するしかないか。

シルク 「私はこのソファーで寝るからメイリはベットで寝なよ」

メイリ 「でも…シルクに悪いよ…」

メイリは律儀に賭けに勝ったにも関わらず譲りそうな勢いだった。
うーム優しい子ね。
ちなみにさっきから互いに呼び捨てに呼んでいるがこれはある協定のためである。
互いを強敵(とも)と認めるということで呼び捨てで呼ぶことにしたのだ。
あなたも…まさしく強敵だったわ。
結果、負けたけど…。

メイリ 「一緒に寝よっか…?」

シルク 「はいぃ!?」

メイリはいきなり突拍子も無いことを言い出す。
そ、添い寝はまずいでしょ!?
も、問題だわ! 少年法に引っかかる!

シルク 「いや、私そういう趣味はないし〜」

メイリ 「でも…寒いし」

そう言ってメイリは詰め寄る。
だめよ! 同性愛はだめ!
そんな非生産的な!

シルク 「メイリ!」

メイリ 「は、はい!?」

シルク 「私はあなたと『友達』でいたいの! だからそれはだめ!」

メイリ 「う、うん…ごめん、ありがとうねシルク…」

よかった、メイリも理解してくれた。
さすがに私もあなたを愛することは出来ないわ。
だって、そういう趣味持っていないし。

メイリ 「それじゃ、おやすみ…」

シルク 「ん、おやすみ」

そう言って私は電気を消す。
そして、毛布を掛けて寝るのだった。
こうみえてもどこでも寝られる特技を持っている。
これ位…おちゃのこさいさいよ。
などと、思いながら私はまどろみへ落ちるのだった…。



………
……




メイリ 「ん、んん…?」

突然、私は目を覚ます。
ここ、どこだろう?
手探りで周りを探すとなにか丸いものを触る。
見てみると見慣れない丸い目覚まし時計だった。

メイリ 「そうか…昨日はシルクの家で眠ったんだ…」

そういえば、シルクは?
私は体を起こし周りを見るとシルクの姿は見えない。
代わりに物凄くいい匂いと何かを焼く音が聞こえた。
ああ、シルクは台所にいるのか…。

メイリ 「シルク…目覚めるの早いんだ…」

私も目覚めるのは比較的早いほうだと思っていた。
でも、シルクの方が早いみたい。

メイリ 「早く布団から出ないとね」

私はそう思うと布団から体を出す。
寒くはない…元々が比較的暖かい地方だからもう9月を過ぎようとしているにも関わらず寒さを感じることはない。
ただ、それでも半袖とかだと辛そうだ。
この地方は12月ごろに冬が来る。
住んでいるわけじゃないからよくわからないが、どうも南から来る寒波で冷えるそう。
雪も降るらしく1月でも結構寒いらしい。

シルク 「あ、メイリ…目覚めたんだ」

布団から出て、コタツのあるリビングへ向かうと奥の台所からシルクが出てくる。
手には焼き飯の乗った皿が二枚あった。
昨日も食べたあの凄く美味しい焼き飯だ。
私には一生あんな料理作れないんだろうな…。

シルク 「あはは、朝から焼き飯で悪いけど、一緒に食べよ♪」

シルクは屈託の無い笑顔で笑いながらそういう。
その顔が私にはいいなぁと思えた。
私もシルクみたいに常に笑顔で明るい娘だったらもっと違ったかもしれないのになぁ…。

シルク 「どうしたの? 食べよ」

メイリ 「う、うん」

私はそう言ってコタツに座る。
焼き飯の匂いは凄くいい。
味も良いんだろう。
やはり海鮮風味だろうか…海老も乗っていた。

メイリ 「いただきます」
シルク 「いただきます」

私たちはお箸を持って一緒にそう言って食べ始める。

メイリ 「やっぱり、美味しい…」

シルク 「あはは、お世辞でもありがとうね」

シルクはそう言うけど私はお世辞で言ったつもりはない。
本当に美味しい。
これを食べ続けたら、自分で作ったご飯が食べられなくなりそう…。

メイリ 「私には作れないんだろうな〜」

シルク 「そんなこと無いよ、野宿でも作れるくらい簡単な料理なんだから!」

なんとシルクはそんなことを言う。
そんなばかな!?
野宿で焼き飯って食べられるの!?

シルク 「そうだ! だったらメイリにこの料理教えてあげるよ!」

メイリ 「え…でも…」

シルク 「気にしないで! 午前中は暇だし」

メイリ 「そうじゃなくて…私、不器用でどんくさいから…」

その性で私は何も出来ず、マスターの足を引っ張っている。
シルクの足まで引っ張りたくない。

シルク 「あのねぇ…やりもしないでそう言うこと言うの結構むかつくよ!」

メイリ 「ご、ごめんなさい!」

シルクはちょっと怒った顔をした。
私、怒らせちゃった?

シルク 「大丈夫! メイリは出来る子よ! 私を信じて! 料理だって出来る!」

シルクは凄いと思う。
何の根拠も無いけどその屈託の無い笑顔で言い切る。
それがどこか私に勇気を与えてくれた。

メイリ (いつか、私もこんな風に勇気を与えて…誰かを救えたらなぁ…)

ふと、そんな夢にもないことを言ってしまう。
でも、本当に誰かの役に立てたら…そう思ってしまう。

シルク 「ほら、早く食べよ! そして、呑気屋に行こ!」

メイリ 「う、うん!」

それから、私は自分のペースとしては少し早く食べる。
そして、洗い物の手伝いをしたら、呑気屋に向かうのだった…。




……呑気屋、厨房。


シルク 「ほら、こうやってね?」

メイリ 「う、うん…」

私はメイリに中華なべの使い方を教えたいた。
これは結構手首に力がいる。
まだ、メイリには辛そう。
でも、大衆食堂とかだと、これを使わないとやってられない。
メイリには頑張ってもらわないと。

メイリ 「こ、こうして…こうっと!」

シルク 「やっぱやるじゃん! ちょっと教えただけでもうコツ掴んだの?」

メイリは見事に鍋回しをやってのけてくれる。
ご飯粒が3粒ほど地面に落ちたのは目を瞑ろう。
そんなものこの娘の腕ならすぐにでも改善できるでしょ!

シルク (でも、この娘どうして出来なかったんだろう…)

どう考えてもこの娘の学習能力の高さは納得がいかない。
こんだけのもの持っているのなら私が教えなくてもこの娘は出来ていたでしょうに。
それともここに来て開花したってこと?
どっちにしろなんかこの才能見せられるとやるせない感じがあるんだけど…。

シルク 「包丁…使えるわよね?」

メイリ 「苦手です…」

シルク (…どこまでがだめなんだか)

この娘の苦手は得意と表裏一体のようなのでどうにも当てにならない。
その性で昨日の麻雀でもぼろ負けしたし…。

シルク (この娘…きっとでかくなるでしょうねぇ〜…)

てか、なってくれないとこっちの立つ瀬がない。

シルク 「んじゃ、これを銀杏切りしてみ」

そう言って私は大根を半分に切ってメイリに渡す。

メイリ 「えと…銀杏切りだから」

メイリは大根をまな板の上に大根を四等分にする。
うむ、確かに形は銀杏切りだ。
ただし、いびつということをのぞけば。

メイリ 「だ、だめですか…」

シルク 「35点…まず、包丁捌きから教えた方が良さそうね…」

どうやら、知識だけが先走っているようだ。
やれやれ、ね。



………



若菜 「どうも〜、おはようございまーす」

午前8時40分頃、今日もキャルベさんたちは休暇で旅行に行っているから私ひとりだ。
明日には帰ってくるはずだけど…。
うう〜、踊りたいよ〜。

若菜 「あれ? ヤさん…みんなは?」

中に入るとなんと誰も見当たらなかった。
シルクちゃんは厨房としてガジさんは?
カウンターにはいつもどおりヤさんがいるけど。

ヤ 「みんな〜、厨房に〜、いるよ〜」

若菜 「厨房?」

ヤ 「う〜ん〜、メイリ〜ちゃん〜も〜一緒〜」

若菜 「メイリちゃん? ああ、そうか」

そういえば、メイリちゃん達がいたね。
それにしても厨房に?

若菜 「どういうことかしら?」

私はとりあえず厨房の方に向かうことにした。


若菜 「あれ? なにやってるのあの二人」

厨房の方に向かうと厨房の狭い入り口の前で中を覗く大男二人がいた。
いわずともガジさんとゴンさんだ。
何やってんのあの二人…。

若菜 「どうしたんです、一体?」

私は近づいて様子を聞いてみた。
明らかにこの二人の行為は怪しかった。

ガジ 「ん? ああ、二人がな…」

若菜 「二人?」

中を覗くと中にはエプロン姿のシルクちゃんとメイリちゃんがいた。
う〜む、シルクちゃんってプロポーションいいよね。
あの白いフリフリ付きのエプロンとちょっときつめのあの紫色の服、服の上からでもラインがわかるもんね。
今はまだ子供っぽい体型しているけど近い将来私を越える美貌を持つかも。
まぁ、私も負けてられないけど。
対してメイリちゃん、上から着ているエプロンは同じフリフリ付きだけど、下は白い冬服だね。
セーターでもないけど、ちょっと厚めに見える。
体型は更に子供っぽいね…どうだろ?
成長次第ではこの娘も脅威だね。

若菜 (って、体型はいいって!)

私は思わず自分に突っ込みを入れる。
そして、今度は真面目に二人を見るのだった。

若菜 (ふ〜ん、どうやらお料理中のようね…心なしかシルクちゃんが大人びて見えるのはメイリちゃんのせい?)

どうやら、シルクちゃんったらメイリちゃんに料理を教えているみたい。
シルクちゃん、真剣な面持ちだわ…メイリちゃんも真面目ね。

メイリ 「シルク…どう?」

シルク 「…合格! メイリって本当にすごいわね…もう、マスターしちゃった」

ほう、どうやらメイリちゃん包丁捌きを習っていたようだ。
シルクちゃんがああいうほどなんだからメイリちゃんやるようね。

メイリ 「そ、それはシルクの教え方が上手だからだよ…」

シルク 「そう? 私はただ方法と形を教えただけよ、捌き方は教えていないわ…」
シルク 「ひとえにメイリの吸収力がいいのよ、教えたこと、覚えたことをすぐに応用できる」

メイリ 「あ、ありがとう…シルク」

あらあら…メイリちゃんったら子供っぽく顔を赤らめてる。
本当可愛いわね…初々しいし。

シルク 「でも、くやしいな…もうこんなに成長しちゃうなんて…」

メイリ 「ご、ごめんね…」

シルク 「謝るとこじゃないわよ…むしろ誇るべき、メイリは凄いよ…私よりも!」

メイリ 「シルク…」

シルク 「うん! これは私も頑張らないと! こんなんじゃシェフにはなれないわ!」

あらあら、シルクちゃんったら燃えちゃって、ふふふ。

ガジ 「シルク…」

ゴン 「メイリの奴…へっ! 泣かせるじゃねぇか!」

あらあら、この人たちは涙目ね…。
よっぽどあの二人の姿が嬉しいのね。

若菜 「ふふふ…」

私は思わず笑んでしまう。
この光景はとてもほほえましい…。
しかし、今私はあまりほほえましい状態ではない…。

若菜 「…はぁ…」

ガサ…。

私は右後ろのポケットから一通の手紙を取り出す。
そして、それを見て私は思う。
はぁ、とため息をつきたい位の鬱陶しさを…。

若菜 「せめて…今くらいはね…」

私はほんの今の一瞬を…とても大切に思う。
シルクちゃん、メイリちゃん、あなたたちには幸せを…。
私はそう思いながら…。

若菜 「はぁ…」

もう一度ため息を付いた。









To be continued















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