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ポケットモンスター 水の街外伝



序章第15話 『特異点』





『3月1日 アクアレイク南東区:リブルレイク』


アクアレイク最大の名所リブルレイク。
南東区はその南東区自体が巨大な自然公園であり、リブルレイクはその自然公園の中央に位置する大きな湖である。
行事の際にはこのリブルレイクは必要不可欠ですぐ近くの小屋にはカメックスの老人、ケネラドが住んでいる。
普段から静かな公園で、休日などはカップルや家族連れなどでにぎわう、アクアレイクの憩いの場なのだ。

フェルフェ 「……」

そして、その場にややそぐわぬキュウコン種の女性。
この街珍しい紺色の和服に身を包み、九本の美しい大きな尻尾を風になびかせていた。
身長は160強、すらっと長いブロンドヘヤーで見るものを誘惑し、美しいルビーような瞳をしていた。
その女性の名はフェルフェ。
あの、セレビィ、ラグラージと共にいながらこの世界で生きることを選んだ女性だ。



フェルフェ 「…やはり、波動はこの森に間違いないですね…」

私はリブルレイクという自然公園に来ていた。
このリブルレイクは湖の名前でもあるらしいけど、今日の用事は湖ではない。
私はある、ひとつの木を探していた。


『数時間前…呑気屋にて』


若菜 「本当にもう大丈夫なの? シルクちゃん?」

シルク 「大丈夫! もともと別に怪我とかしていたわけじゃないんだし!」

若菜 「そうだけど…」

カランカラン…。

シルク 「と、いらっしゃいませー! あ、フェルフェさん」

フェルフェ 「…こんにちわ、シルクちゃん」

私は数時間前呑気屋へと入った。
呑気屋にはしばらく休んでいたシルクちゃんがいて、どうやらもう大丈夫のようで仕事に出ていた。

フェルフェ 「もう大丈夫なの? シルクちゃん?」

シルク 「フェルフェさんも同じこと聞くんですね…大丈夫ですって!」

若菜 「だといいけど…」

若菜ちゃんはそう言って心配そうにシルクちゃんを見た。

フェルフェ 「ねぇ、ところでふたりに聞きたいことがあるんだけど」

シルク 「え?」
若菜 「なんでしょうか?」

フェルフェ 「リブルレイクに巨大な木はない?」

若菜 「木? あそこ木だらけだし、これといって目立つ木はなかったと思うけど…」

若菜ちゃんは顎に手を当て、考えるようにそう言った。
そう、やっぱり『見える人にしか見えない』木なのね…。

シルク 「…桜の木」

若菜 「え?」

フェルフェ 「シルクちゃん?」

突然、シルクちゃんがぼそっと呟いた。
桜の木?

シルク 「私、小さいころリブルレイクの森の奥で見たんです、大っきな桜の木を」

フェルフェ 「……」

桜の木…この街にあるなんて初めて聞いたわね。
いえ、もとより潮風の香るこの街で桜の木が育つとも思いがたい。
もしかしたら私の求めている存在なのかも…。

フェルフェ 「ありがとう、ふたりとも、有益な情報だったわ」

シルク 「あ、フェルフェさん! その…!」

フェルフェ 「なに?」

突然、シルクちゃんが慌てて私を呼び止める。

シルク 「あの木は変なんです…誰も知らないし…それに、変な少女が見えるんです…」

フェルフェ 「ありがと、シルクちゃん」

カランカラン…。

私はそう礼を言って、リブルレイクに向かうのだった。



…………。



フェルフェ 「リブルレイクの湖…もしかしたらあの『伝説のポケモン』がいるのかもしれないわね…」

そして、シルクちゃんはそれを見てしまったのかもしれない。
でも、あの子達は普通の者では見れないはず。
もしかして、シルクちゃんは何か選ばれてしまったのかしら?

私はそんなことを考えながら森の奥地へと進んだ。
誰も知らず、誰も見たことも聞いたこともない謎の桜の木。

私はそれを知る必要がある…。
袂別れたいくつもの未来の可能性を紡ぐために…。

フェルフェ 「……」

そして、私は一本あまりに大きな桜の木の下に立つ。
この街は徳異点。
因果律からはずれ、運命の中心点に位置している。
そして、その力の作用のひとつがこの桜の木。
5賢者と呼ばれる者たちでも知らないその存在、運命の力を世界中からほんの少しずつ分け与えてもらい。
その力でラストルインとなる、この街を永久保存するためのプロテクトプログラム。
その存在を守るため、この木自身はアルセウスクラスより選ばれし者以外、見ることも、聞くことも、知ることも、認識することさえ出来ない。
私は、別の世界から来たイレギュラーだからこそこれに到達できた。

ザワ、ザワ!

桜の木は私を警戒しているのか、葉っぱを大きく揺らして、常に満開の桜の花びらを地面に落としていた。
おびえているのね…ひどく怖がりな存在。
あらゆる現象、黙示録からさえもこの街を守り続けたこの世界と共にある木。
この木は私の存在を恐れている。
自分の認知する世界の存在でないゆえ。

少女 「……」

フェルフェ 「…!」

桜の木の後ろから私を覗き見る透明の少女がいたような気がした。
あれが…シルクちゃんの言っていた少女かしら?
恐らくあの『伝説のポケモン』の意識体でしょうね。

私は今日はひとまずこの場を退散することにした。
これ以上は桜の木に負担をかけすぎるわ。









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